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平成16年(ワ)第4号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 平成16年7月23日
          判         決
  原         告     A
  原         告     株式会社ハイパックシステム
  原告ら訴訟代理人弁護士     赤木明夫
  被         告     オギワラ精機株式会社
  訴訟代理人弁護士        竹内喜宜
  訴訟代理人弁理士        堀米和春
  補佐人弁理士          綿貫隆夫
          主         文
   原告らの請求をいずれも棄却する。
   訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
 1 被告は、原告Aに対し、1000万円及びこれに対する平成16年2月26
日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は、原告株式会社ハイパックシステムに対し、1000万円及びこれに
対する平成16年2月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は、ストレッチフィルムによるトレー包装体に関する登録実用新案の実
用新案権者であった原告A(以下「原告A」という。)及び同人から独占的通常実
施権の許諾を受けていたと主張する原告株式会社ハイパックシステム(以下「原告
会社」という。)が、被告が製造販売していた包装機が、原告Aの登録実用新案に
係る物品の製造にのみ用いるものであり、被告によるその製造販売は実用新案権の
間接侵害にあたると主張して、原告会社は損害賠償を、原告Aは損害賠償又は不当
利得返還を、それぞれ請求した事案である。
 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)
  (1) 原告Aは、下記の実用新案権を有していた(以下、この実用新案権を「本
件実用新案権」といい、その実用新案登録請求の範囲に記載の考案を「本件考案」
という。)。
     考案の名称    ストレッチフィルムによるトレー包装体
     出願日      昭和54年4月4日
     出願番号     実願昭59-161589号
     出願公告日    昭和63年9月8日
     出願公告番号   実公昭63-33829号
     登録日      平成2年11月14日
     登録番号     第1839235号
     補正の掲載日   平成3年1月29日
     実用新案登録請求の範囲は、別紙実用新案公報及び「実用新案法第13
条で準用する特許法第64条の規定による補正の掲載」の該当欄記載のとおり
    上記実用新案登録請求の範囲の構成要件は、以下のとおり分説される。
     A① 平坦な底板と、
      ② 底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、
      ③ 周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面とを有し、
      ④ 未包装状態で多数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下
方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され、その状態で
接着剤を一括して塗布された
       トレーと、
     B 上記トレー内に置かれた被包装物と、
     C① 上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し、かつ、ト
レーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフィルム
とからなり、
      ② 上記ストレッチフィルムは、その周縁を、トレーの接着剤塗布面
に接着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してある
     D ことを特徴とするストレッチフィルムによるトレー包装体
    原告Aは、昭和63年9月8日、原告会社に対し、本件実用新案権の独占
的通常実施権を許諾した(弁論の全趣旨)。
  (2) 被告は、商品名を「ネオパッカーHS」ないし「ネオパッカーNHS」と
いう包装機(これらを以下「被告製品」という。)を製造販売していた。
    被告製品は、原告会社がデンカポリマー株式会社及び長野ノバフォーム株
式会社を通じて販売した、実用新案登録第1712320号考案「包装用トレー」
(実用新案権者は原告Aである。)の技術的範囲に属するトレー(上記考案の技術
的範囲に属するトレーを以下「第1712320号考案トレー」といい、このうち
原告会社がデンカポリマー株式会社及び長野ノバフォーム株式会社を通じて販売し
たものを以下「原告会社トレー」という。)を用いて包装を行うことができ、原告
会社トレーを用いて製造された包装体は、本件考案の技術的範囲に属するものとな
る(本件考案の技術的範囲に属する包装体を以下「本件包装体」という。)。
  (3) 本件実用新案権について、全国農業協同組合連合会が、平成12年7月1
1日、実用新案登録無効審判を請求したところ(無効2000-35376号)、
特許庁は、平成13年8月1日、無効審判請求は成り立たないとの審決をした(乙
1の1・2)。
    上記審決について、全国農業協同組合連合会が、東京高等裁判所に審決取
消訴訟を提起したところ(平成13年(行ケ)第412号)、同裁判所は、平成1
5年4月22日、上記審決を取り消すとの判決をした(乙1の1・2)。
    その後、全国農業協同組合連合会が上記無効審判請求を取り下げたため、
上記無効審判請求事件は終了した。
  (4) 原告Aは、平成16年2月9日、本件実用新案権について、実用新案登録
請求の範囲を以下のとおり訂正することを求める訂正審判請求を行った(甲9)。
     「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された
周壁と、周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面とを有し、未包装状態で
多数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下方向に連続して露呈して略垂直
な面として柱状を呈する如く形成され、その状態で接着剤を一括して塗布されたト
レーと、上記トレー内に置かれた被包装物と、上記トレーの上面開口部をオーバー
ラップして被覆し、かつ、トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁
を有する軟質塩化ビニール製ストレッチフィルムとからなり、上記軟質塩化ビニー
ル製ストレッチフィルムは、その周縁を、トレーの接着剤塗布面に接着した位置に
接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあることを特徴とする軟質塩化
ビニール製ストレッチフィルムによるトレー包装体。」
 2 争点
  (1) 被告製品の製造販売は本件実用新案権の間接侵害にあたるか。
   〔原告らの主張〕
    被告製品は本件包装体の製造のみに用いられるものである。すなわち、被
告製品は、受け皿が原告会社トレーの底の形状に合うように作られており、原告会
社トレー及びこれと同一形状のトレー以外は使用することができない。そして、実
際にも、被告製品には、原告会社トレー及びこれと同一形状の第1712320号
考案トレー以外は使用されなかった。
    なお、被告製品に用いられていたのは、原告会社トレーだけではなく、こ
れと同一形状の第1712320号考案トレー(原告会社トレー以外は実用新案登
録第1712320号実用新案権の侵害品である。)も用いられていたのである
し、仮に、被告製品に用いられていたのが、すべて原告会社トレーだったとして
も、同実用新案権と本件実用新案権は別の権利なのであるから、原告Aが、原告会
社トレーの購入者に対して、本件考案についても実施を許諾したものということは
できない。
    被告は、被告製品は、未包装状態で多数個を積み重ねた状態で接着剤を一
括して塗布されたトレーだけではなく、未包装状態で多数個を積み重ねていない状
態で接着剤を塗布されたトレーも用いることができると主張する。しかし、コスト
上の理由から、そのようなトレーが用いられたことは全くないのであるから、被告
の主張は理由がない。
    したがって、被告製品は本件包装体の製造のみに用いられるものであり、
その製造販売は本件実用新案権の間接侵害にあたる。
   〔被告の主張〕
   ア 実用新案法28条にいう、「登録実用新案に係る物品の製造」とは、実
用新案権の侵害として禁止されるべき違法な製造に限られると解するべきである。
     原告会社トレーは、本件包装体のために使用されるために販売されるの
であるから、原告Aは、原告会社トレーの購入者に対して、本件考案についても実
施を許諾したものと解される。したがって、原告会社トレーを用いて被告製品によ
り本件包装体を製造する行為は、本件実用新案権の侵害にはあたらない。
     そして、被告製品には、原告会社トレーが用いられていたのであるか
ら、被告製品は、「登録実用新案に係る物品の製造のみに用いる物」にはあたら
ず、被告製品の製造販売は本件実用新案権の間接侵害にはあたらない。
   イ 被告製品は、未包装状態で多数個を積み重ねた状態で接着剤を一括して
塗布されたトレーだけではなく、未包装状態で多数個を積み重ねていない状態で接
着剤を塗布されたトレーも用いることができる。
     このようなトレーを用いて製造された包装体は、本件考案の構成要件A
④を充足しない。
     したがって、被告製品は、「登録実用新案に係る物品の製造のみに用い
る物」にはあたらず、被告製品の製造販売は本件実用新案権の間接侵害にはあたら
ない。
   ウ 実用新案法28条にいう、「登録実用新案に係る物品の製造のみに用い
る物」とは、当該実用新案に係る物品の一部をなす物、すなわち部品に限られると
解するべきである。
     被告製品は、本件包装体を作り出す装置であり、本件包装体の部品では
ない。したがって、被告製品は、「登録実用新案に係る物品の製造のみに用いる
物」にはあたらず、被告製品の製造販売は本件実用新案権の間接侵害にはあたらな
い。
  (2) 本件実用新案登録に登録無効理由があることが明らかか。
   〔被告の主張〕
   ア 本件考案は、以下のとおり進歩性を欠くものであるから、本件実用新案
登録に登録無効理由があることが明らかである。このような本件実用新案権に基づ
く本件請求は、権利の濫用として許されない。
     すなわち、本件考案の実用新案登録請求の範囲は、中間体の製造方法に
ついての記載を含むから、当該製造方法の要件を削除して考案の要旨を認定すべき
であり、このようにして認定した本件考案は、本件実用新案の登録出願前に頒布さ
れた実開昭52-104756号公開実用新案公報のマイクロフィルム(乙2。以
下「引用例1」といい、これに記載された考案を以下「引用考案1」という。)及
び特公昭50-17915号特許公報(乙3。以下「引用例2」といい、これに記
載された考案を以下「引用考案2」という。)に記載された考案に基づいて、ある
いは上記各公報に加えて、実開昭53-45102号公開実用新案公報(昭和51
年9月21日出願の実用新案登録願)のマイクロフィルム(乙6。以下「引用例
3」という。)、財団法人日本規格協会編『JIS工業用語大辞典(第4版)』
(乙4)及び石井頼三他編『商品大辞典』(乙5)の記載に基づいて、当業者であ
れば極めて容易に考案をすることができたものであるから、進歩性を欠くものであ
り、実用新案登録無効理由を有するものである。
   イ これを詳細に主張するに、まず、本件考案の構成要件中、A④の、「そ
の状態で接着剤を一括して塗布された」とは、未包装状態で多数個を積み重ねて、
上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成された接着剤
塗布面に一括して接着剤を塗布するというものであって、トレー包装体用の中間体
である糊付けトレー積層体の製造方法である方法的要素であり、しかも最終的な物
品の形状、構造を特定するために必要なものとはいえないのであるから、実用新案
権による保護の対象とはならず、したがって、本件考案の要旨から除外されるべき
ものである。
     よって、本件考案の要旨は、「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡
開傾斜して一体に延長された周壁と、周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗
布面とを有し、未包装状態で多数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下方
向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されたトレーと、上
記トレー内に置かれた被包装物と、上記トレーの上面開口部をオーバーラップして
被覆し、かつ、トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するス
トレッチフィルムとからなり、上記ストレッチフィルムは、その周縁を、トレーの
接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断して
あることを特徴とするストレッチフィルムによるトレー包装体」と認定されるべき
ものである。
     一方、引用例1には、「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜
して一体に延長された周壁とを有するトレーと、上記トレー内に置かれた被包装物
と、上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し、かつ、トレーの周壁の
上部外側面全周に密着させた周縁を有する熱可塑性合成樹脂フィルムとからなり、
上記熱可塑性合成樹脂フィルムは、その周縁を、トレーの周壁の外側面の上端部か
ら下側の位置で抵抗線により全周に亘って切断してある、熱可塑性合成樹脂フィル
ムによるトレー包装体」の考案(引用考案1)が記載されている。
   ウ 以上を前提に、本件考案と引用考案1を比較すると、両者は、いずれも
「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有
するトレーと、上記トレー内に置かれた被包装物と、上記トレーの上面開口部をオ
ーバーラップして被覆するフィルムとからなり、上記フィルムは、その周縁を、抵
抗線により全周に亘って切断してある、フィルムによるトレー包装体」である点で
一致し、(ア)本件考案では、トレーが、周壁の上部外側面全周に形成された接着
剤塗布面を有し、未包装状態で多数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下
方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されたものである
のに対し、引用考案1では、トレーが接着剤塗布面を有さず、したがって、接着剤
塗布面の形状についての言及もない点、(イ)トレーの上面開口部をオーバーラッ
プして被覆するフィルムが、本件考案ではストレッチフィルムであるのに対し、引
用考案1では熱可塑性合成樹脂フィルムである点、(ウ)トレーの上面開口部をオ
ーバーラップして被覆するフィルムが、本件考案ではトレーの接着剤塗布面に接着
剤を介して接着させた周縁を有するのに対し、引用考案1ではトレーの周壁の上部
外側面全周に密着させた周縁を有する点、(エ)トレーの上面開口部をオーバーラ
ップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が、本件考案では
トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われるのに対し、引用考
案1ではトレーの周壁の外側面の上端部から下側の位置で行われる点、の4点で相
違する。
   エ 上記相違点(ア)について
    (ア) 相違点アに係る本件考案の構成は、トレー周壁の上部外側面の一部
に、外側面を一周する形で接着剤塗布面が形成されているという構成(以下「本件
接着剤塗布面構成」という。)、及び、未包装状態で多数個を積み重ねたとき、上
部外側面の一部が、上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如
く形成されているとの構成(以下「本件形状構成」という。)という二つの構成と
からなっている。そして、上記本件形状構成における「上部外側面の一部」が、本
件接着剤塗布面構成における「接着剤塗布面」をなし、これに接着剤が塗布されて
いるのが、本件考案である。
      本件において、本件接着剤塗布面構成の容易想到性が本件形状構成の
容易想到性を前提とするものであったり、逆に、本件形状構成の容易想到性が本件
接着剤塗布面構成の容易想到性を前提とするなど、これらを切り離して把握するこ
とが許されないとする特段の事情はない。
    (イ) 本件接着剤塗布面構成の容易想到性について
    引用考案1は、肉、魚、加工品及び雑貨等のトレー包装体であって、
フィルムは延伸性を有し、そのためトレー及び被包装物の形態に合わせた形状に延
伸され、フィルムとトレーの上部側面とが密着した包装体である。そして、この包
装体を形成するに当たって、フィルムとトレーに要求される条件は、フィルムには
延伸性があり、フィルムとトレー側面の密着性が良いことであり、これ以外に必要
とされる条件は見当たらないところ、前者の条件を満たすため、引用考案1におい
ては、フイルムとして熱可塑性合成樹脂フイルムを用い、これを加熱することを採
用している。
      引用考案2は、ボローニヤソーセージ等の包装体であって、引用例2
には、同包装体につき、周縁にリムを有する底部材の中心部に被包装材料(製品)
を載置し、過冷ポリ塩化ビニリデンフィルムの即時変形可能性又は可伸性を利用し
て、同フィルムを底部材及び製品の表面に倣った形状に変形させ、同時に同フィル
ムと底部材の密着性を利用して包装体を形成すること、及び、同フィルムと底部材
の密着性のみでは、剥取り強度が不十分であるため、底部材のリム終端部であるフ
ランジ部に「可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密封剤」を塗布しておくことによ
り、剥取り強度の点でも問題のない強力な密封を得ることが記載されている。そし
て、引用考案2では、感熱材料(熱を加えることが品質に悪影響を及ぼす材料)の
包装のために、常温で延伸性のある過冷ポリ塩化ビニリデンフィルムを採用すると
同時に、同フィルムを採用した場合には底部材との密封性に問題が残ることから、
フィルム密着すべき底部材のフランジ部に「可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密
封剤」の塗膜を形成している。
      引用考案1においても、トレーに収納される被包装材料は、「肉、
魚、加工品及び雑貨等」とされており、ここに例示された材料中「肉」及び「魚」
が、引用例2にいう「感熱材料」に相当し得る。そして、このような「感熱材料」
に、フィルムの延伸性を確保するために加熱を用いる引用考案1を適用すること
は、不適当であること、あるいは、少なくとも、他に方法があれば避けるべきであ
るから、加熱せずに、延伸性及びトレー側面との密着性を確保できるのであれば、
引用考案1を出発点としつつ、これの中の加熱を要する要素の代わりに加熱を要し
ない要素を有する包装手段を採用することは、当業者であれば当然試みることであ
る。
      加熱を用いない包装手段が引用例2に記載されており、それは、フラ
ンジの外側表面に感圧接着剤等の薄い塗膜を設ける、というのものであるから、引
用考案1において、感熱材料を包装する場合に、フイルムとして引用例2記載の過
冷ポリ塩化ビニリデンフイルムを採用することとし、これに伴い、密封性、すなわ
ち、フイルムとトレーの密着性を改良するため、接着剤を用い、これをトレー外側
側面の一部に塗布する構成を採用することは、当業者が極めて容易に想到できるこ
とである。
      なお、引用例2にいう「即時変形可能性」又は「可伸性」は、引用例
1にいう「延伸性」と同義である。引用考案2の「底部材」は、引用考案1の「ト
レー」と同一形状であるとまではいえないものの、引用考案2の底部フランジ部
は、引用考案1のトレー側面に相当する。
      そして、フィルムと底部材フランジ部の密着性が良いこと、フイルム
には延伸性があることが条件とされている点において、引用考案2と引用考案1と
の間に格別差異はない。したがって、引用考案1と引用考案2とは、それらの包装
に必要とされる条件が一致し、かつ包装形態が類似するものである。
      なお、引用例2に例示されたものが仮に接着剤に当たらないとして
も、引用例2には「感圧接着剤の如き・・・顕微鏡的塗膜18」との明確な記載が
あり、塗膜材料を、例示されたものに限定解釈する必要はない。
      また、引用考案1のフイルムをそのまま用いるとすれば、接着剤を使
用する必要性はないかもしれないが、それでは、「感熱材料」の包装上不都合であ
ることは前示のとおりである。そして、「感熱材料」を包装するため、使用するフ
イルムを引用例2記載のものに変更した場合には、接着剤を使用することに技術的
意義がある。
    (ウ) 本件形状構成の容易想到性について
      引用例3に係る実用新案の登録出願当時(昭和51年9月21日)、
引用例3の6図のような形態のトレーを積み重ねた際、それ同士が密着して分離し
にくくなるという技術課題があり、これが周知であった。
      この技術課題を解決するためには、積み重ねたとき、トレー同士が密
着しないようにすればよいことは自明であり、そのための方法として、トレーの周
辺に耳部を設け、積み重ねた状態で、上のトレーの耳部の下部が、直下のトレーの
耳部の上部に接触して積み重なるようにすることは、当業者にとって極めて容易に
想到できることである。
      そして、この耳部を、トレーを積み重ねた際離間せずに連続するよう
にすること、耳部の一面を底面に対して垂直な面とし、かつ平面にすること、すな
わち、連続した耳部が、略垂直な面となり柱状となるようにすることは、トレーに
設けられる耳部の形態の最も基本的なものの一つであるから、結局、トレーの形状
として、耳部を設け、トレーを積み重ねた際、耳部の外面が上下方向に連続して露
呈して略垂直な面として柱状を呈する形状を採用することも、当業者であれば当然
することである。
      さらに、引用例3に係る実用新案の登録出願の時期(昭和51年9月
21日)と本件実用新案の登録出願の時期(昭和54年4月4日)との間隔を併せ
て考慮すると、遅くとも、本件実用新案の登録出願当時には、トレーの形状とし
て、耳部を設け、トレーを積み重ねた際、耳部の外面が上下方向に連続して露呈し
て略垂直な面として柱状を呈する形状、すなわち、本件形状構成の形状を採用する
ことは、周知慣用の技術となっていたものである。
      引用例1に図示されるトレーについても、製造過程ないし搬送の過程
で積み重ねられる場合が当然想定され、その際、このトレーが、スタッキングを生
じるおそれのある形状であることは明らかである。そこで、当業者が、引用例3に
も記載されている上記周知の技術課題から、引用考案1のトレーの形状についても
スタッキングのおそれがあることを認識することは極めて容易であり、かつ、これ
を防止するために、周知の形状である本件形状構成の形状、すなわち、耳部を設
け、その形状を、耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状
を呈するようなものにすることも、極めて容易に想到し得ることである。
    (エ) 以上のとおり、引用考案1は、本件接着剤塗布面構成及び本件形状
構成の、いずれも採用し得るものであり、かつ、これらは、互いに排斥し合うもの
でも、一つを前提にのみ他方を採用し得るというものでもないから、引用例3から
認定できる周知の技術事項を同時に勘案しつつ、引用考案1及び2に接するとき、
本件接着剤塗布面構成及び本件形状構成を同時に採用することは、当業者であれば
極めて容易に想到することである。
      そして、本件接着剤塗布面構成と本件形状構成を同時に採用すると
き、接着面として、トレー外側面のうち、底面と垂直をなす平坦面を選択すること
は、作業の容易性や接着強度の確保等を考慮するときは、むしろ、当然のこととい
い得る範囲の事項である。すなわち、前記周知技術事項を前提に、引用考案1及び
2に接した当業者が、そこから本件接着剤塗布面構成及び本件形状構成を読み取
り、これらを組み合せて、上記相違点(ア)に係る本件考案の構成を想到すること
は、極めて容易である。
   オ 上記相違点(イ)について
     一般に、包装体の形成に使用するオーバーラップ用フィルムとしては、
乙第4、5号証に記載されているストレッチフィルムも周知慣用のものであり、場
合によってはストレッチフィルムは熱可塑性合成樹脂フィルムの一種であるから、
引用考案1の包装体の形成に使用するオーバーラップ用フィルムとして、熱可塑性
合成樹脂フィルムに代えてストレッチフィルムを選択することは、当業者が容易に
想到し得ることであり、本件考案が、包装体の形成に使用するオーバーラップ用フ
ィルムとして特にストレッチフィルムを採用した点に格別の意義はない。
   カ 上記相違点(ウ)及び(エ)について
     上記エのとおり、本件実用新案登録出願当時既に周知であった事項を前
提に、引用考案1に引用考案2を適用することにより、「トレーが、周壁の上部外
側面全周に形成された接着剤塗布面を有し」との構成に至ることは、当業者にとっ
て極めて容易であり、このような構成を有するトレーをフィルム包装した場合に、
「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが、トレーの接着剤
塗布面に接着剤を介して接着させた周縁を有する」との構成に至ることは必然であ
る。
     また、引用考案1においては、フィルムとトレーの密着部に接近した下
側で、フィルム周縁が抵抗線により全周にわたって切断されている。そうであれ
ば、引用考案1に引用考案2を適用すれば、フィルムとトレーの密着部が「トレー
の接着剤塗布面」となり、接着位置に接近した下側で、フィルムの周縁の抵抗線に
よる全周にわたる切断が行われざるを得ないのであるから、「トレーの上面開口部
をオーバーラップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が、
トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われる」との構成に至る
ことも必然である。
   キ 以上のとおりであるから、本件考案は、引用考案1及び2並びに引用例
3及び上記乙第4、第5号証の記載に基づいて、当業者であれば極めて容易に考案
をすることができたものであるから、進歩性を欠くものである。
   〔原告らの主張〕
    被告が権利濫用の主張をするのであれば、まず無効審判請求を提起しなけ
ればならない。
    また、被告が援用する引用例1及び3に記載されている考案の実施品は、
全く製作不可能なものであり、引用例として用いることが許されないものである。
    したがって、被告の主張は理由がない。
  (3) 原告らの損害賠償請求権は時効により消滅したか。
   〔被告の主張〕
    原告Aは、昭和63年9月27日、被告を相手として、被告製品である
「ネオパッカーHS」の製造販売が原告Aの有する特許権を侵害するとして、特許
権侵害差止等請求事件を提起したところ(大阪地方裁判所昭和63年(ワ)第88
51号)、その訴訟手続中に、原告Aは、訴状添付の被告製品目録において、「ネ
オパッカーHS」の構造及びその包装方法を特定し、被告も、平成元年5月8日の
第1審第3回口頭弁論期日において、「ネオパッカーHS」の構造及びその包装方
法について詳細に主張し、さらに、原告Aは、平成3年11月26日の控訴審第5
回口頭弁論期日において、本件実用新案及び実用新案登録第1712320号の各
実用新案公報を書証として提出したのであるから、原告らは、遅くとも、平成元年
5月8日には、被告製品である「ネオパッカーHS」の構造及びその包装方法を知
っており、また、遅くとも、平成3年11月26日には、これにより製造される包
装体が本件包装体となることを知っていた。
    一方、本件実用新案権は、昭和63年9月8日に出願公告がされ、平成2
年6月20日に査定を受けて同年11月14日に登録されたものであるから、成立
した権利の行使に法律上障害となるものはなかった。
    そして、本件実用新案権は、平成6年4月4日、存続期間満了により消滅
したものであるが、仮に、不法行為が成立しているとしても、原告らの損害賠償請
求権は、本件訴えの提起日である平成16年1月5日までに3年が経過しており、
時効により消滅した。被告はこの消滅時効を援用する。
   〔原告らの主張〕
    株式会社コバヤシに対する損害賠償請求事件の認容判決が平成13年1月
5日に確定するまでは、原告らは、株式会社コバヤシが販売するトレーが実用新案
登録第1712320号考案の技術的範囲に属することを確かに了見できなかっ
た。
    また、全国農業協同組合連合会に対する損害賠償請求訴訟が平成15年5
月22日に終了するまでは、本件実用新案権の有効性は確定していなかった。
    したがって、原告らが、被告製品により製造される包装体が本件考案の技
術的範囲に属することを知ったのは、平成13年1月5日であり、本件実用新案権
の有効性を知ったのは、平成15年5月22日である。
    よって、被告による被告製品の製造販売が不法行為であることを原告らが
知ることができたのは、平成15年5月22日であり、消滅時効は完成していな
い。
    被告が主張する大阪地方裁判所昭和63年(ワ)第8851号特許権侵害
差止等請求事件は、本件実用新案権とは関係のない事件である。
    また、堀米弁理士が、被告及び長野県経済連の代理人として、本件実用新
案登録は無効となる蓋然性が極めて高いと主張して、訴えの提起を思いとどまらせ
ようとしていたのであるから、訴えの相手を長野県経済連に絞り、間接侵害を請求
原因とする被告に対する本件訴えをその確定後にしたのは妥当性のあるものであ
る。
  (4) 原告Aの不当利得返還請求権の一部は時効により消滅したか。
   〔被告の主張〕
    仮に、不当利得が生じているとしても、平成6年1月4日までに成立した
不当利得返還請求権は、本件訴えの提起日である平成16年1月5日までに10年
が経過しており、時効により消滅した。被告はこの消滅時効を援用する。
   〔原告Aの主張〕
    争う。
  (5) 原告会社が被った損害額
   〔原告会社の主張〕
    被告は、昭和63年9月8日から平成6年4月4日までの間、被告製品
を、1台当たり150万円程度の価格で、一千数百台販売した。
    被告製品の販売により被告が受けた利益は、1台当たり50万円を下回ら
ない。また、被告が被告製品を販売しなければ、原告会社は同数の包装機を販売す
ることができ、これにより原告会社が受けることができた利益は、1台当たり50
万円を下回らない。したがって、被告製品の製造販売により、原告会社が被った損
害額は、1000万円を下回るものではない(実用新案法29条1項、2項)。
   〔被告の主張〕
    否認ないし争う。
  (6) 原告Aが被った損害額ないし原告Aの損失において被告が不当に利得した

   〔原告Aの主張〕
    被告による被告製品の販売は、原告Aの許諾を受けないで行われたもので
あるところ、これにより、原告Aは損害を被り、また、被告は、原告Aの損失にお
いて、同人に支払うべき実施料相当額の利得を不当に利得した。実施料としては、
被告製品1台当たり7万5000円が相当であり、総額で1000万円を下回るも
のではない。原告Aは、上記金額の損害賠償(実用新案法29条3項)又は上記金
額の不当利得返還を請求する。
   〔被告の主張〕
    否認ないし争う。
    なお、被告製品の製造販売が本件実用新案権の間接侵害にあたるとして
も、被告製品は原告会社トレーを使用するのであるから、被告製品の販売によって
原告らは原告会社トレーの販売利益を得るのであって、原告Aに損失はない。した
がって、不当利得は成立しない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(2)(本件実用新案登録に登録無効理由が存することが明らかか)につい

  (1) 原告は、被告が権利濫用の主張をするのであれば、まず無効審判請求をし
なければならないと主張する。
    しかしながら、実用新案権侵害訴訟を審理する裁判所は、実用新案登録に
無効理由が存在することが明らかであるか否かについて審理判断し、その結果、当
該実用新案登録に無効理由が存在する事が明らかであるときは、その実用新案権に
基づく損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用にあたり許されな
いと解すべきであって、このことは、被告において当該実用新案登録について無効
審判請求をしているか否かによって変わるものではないと解するのが相当である。
    したがって、本件実用新案登録について被告が無効審判請求をしていなく
とも、被告が本件実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであり、本件実
用新案権の行使は権利濫用にあたると主張している以上、裁判所としては、その主
張の理由の有無について審理判断すべきものであり、以上述べたところと異なる原
告の主張は採用することができない。
    そこで、以下、本件実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであ
るか否かについて検討する。
  (2) 甲第2号証の1・2によれば、本件考案に係る明細書の考案の詳細な説明
の項には、次のような記載があることが認められる。
   ア 産業上の利用分野、従来の技術、考案が解決しようとする課題の項
     この考案はストレッチフィルムによるトレー包装体に関するものであ
る。
     現在、スーパーマーケット等において、肉、魚等のトレー包装体とし
て、ストレッチフィルムを、トレー上にオーバーラップしたものが広く普及してい
る。この為の包装用器具として、手動のハンドラッパーと呼ばれるものから完全自
動機に至るまで種々のものが提供されている。これらの包装器具に共通した基本的
な包装方法は、トレー全体をフィルムで包み込み、特に、トレーの裏側においてフ
ィルムを二重・三重に重ね合せてフィルムの自己粘着性を利用しながら、この重ね
合せ部分でフィルムをシールするという方法である。この最終の包装形態はいずれ
の機械も同一であり、そこに至るまでの操作と装置が相違しているにすぎない。
     上記形態は下記の如き欠点がある。
    (a) フィルムをトレーの裏側で重ね合せる事は無駄であり、省資源の時
代に適さない。本来、フィルムをトレーの上面開口部のみをカバーしておれば、そ
の目的を達成しているのであり、従来の包装形態では本来の必要量の3~4倍のフ
ィルムを必要としている。
    (b) フィルムを重ね合せてトレー裏側でシールした場合、どうしても不
規則な皺が発生し、水分の多い被包装物ではトレー裏側まで水がまわり、その皺の
部分から汁が滲出してきて、ひどい場合、そのシールがバラける。
    (c) フィルムをトレー裏側で重ね合わせてシールする為、せっかく透明
のトレーを使用しても裏側から被包装物を透視しにくい。
    (d) この形態ではトレーの下側でフィルムを絞るため、フィルムをトレ
ー開口部に皺なく展張することが、なかなかむずかしく、包装室の気(室)温の変
化や、使用するトレーの種類等により、条件が微妙に変化して常にトラブルの原因
になり易い。
     本考案は、トレーの上面開口部を被覆したストレッチフィルムの周縁
を、トレー周壁の上部外側面に接着剤によって接着し、上記ストレッチフィルム
を、接着部の下側で切断してストレッチフィルムの使用量を大幅に減少させる事を
目的としている。
   イ 課題を解決するための手段の項
     上記目的を達成するため、本考案のストレッチフィルムによるトレー包
装体は、平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁
と、周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面とを有し、未包装状態で多数
個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下方向に連続して露呈して略垂直な面
として柱状を呈する如く形成したトレーと、上記トレー内に置かれた被包装物と、
上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し、かつ、トレーの接着剤塗布
面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフィルムとからなり、上記
ストレッチフィルムは、その周縁を、トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近
した下側で全周に亘って切断したものである。
   ウ 作用、考案の効果の項
     未包装状態のトレーを多数個積み重ね、各トレーの接着剤塗布面を上下
方向に連続して露呈させ、全トレーの接着剤塗布面にローラ等で接着剤を一括塗布
し、接着剤塗布後のトレーを個々に分離して被包装物を詰めたのち、トレーの上面
開口部にストレッチフィルムを被覆させ、その周縁を上記トレーの接着剤塗布面に
接着させ、該接着部の下側でストレッチフィルムを切断する。
     この考案は、平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に
延長された周壁と、周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面とを有し、未
包装状態で多数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下方向に連続して露呈
して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され、その状態で接着剤を一括して塗
布されたトレーと、上記トレー内に置かれた被包装物と、上記トレーの上面開口部
をオーバーラップして被覆し、かつ、トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着
された周縁を有するストレッチフィルムとからなり、上記ストレッチフィルムは、
その周縁を、トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で抵抗線により
全周に亘って切断してあるから、フィルムの使用量を減少させ、かつ、皺のない美
しい状態でトレーの周囲にフィルムの周縁を粘着させることができ、接着剤の存在
で完全なシールが確保され、汁等が滲出することがなく、また、抵抗線の通電によ
る熔断であるから、刃物等のように刃先の鈍化等がなく、常に安定した確実美麗な
切断ができ、しかも、手軽に包装が行え、透明なトレーを使用した場合、裏側から
も商品が明瞭に見えるものであり、また、特に、実施例の如き包装方法によったと
きは、フィルムを加熱する方式であるため、温暖地、寒冷地等の包装室の室温等に
全く関係なく、常に良好な包装が行われ、更に、フィルム周囲を枠で挟持させてい
るため、収縮がなく、良好に包装することができる。また、未包装状態のトレーを
多数個積み重ね、各トレーの接着剤塗布面を上下方向に連続して露呈させ、全トレ
ーの接着剤の塗布面に接着剤を一括塗布するものであるから、トレーへの接着剤の
塗布作業が能率的に実施でき、包装コストの低減が図れ、実用上、顕著な効果を発
揮し得るものである。尚、接着剤の一括塗布は、ローラの他、スプレー等によって
実施できる利点がある。
    上記の記載に照らせば、本件考案は、食品等を被包装体とするストレッチ
フィルムによるトレー包装体において、フィルムの使用量を減少させ、しわの発生
を防止し、透視性を確保するために、フィルムをトレーの側面に接着させる方法を
採用し、シール性を向上させるためにトレーの側面に接着剤を塗布することとし、
その接着剤の塗布を容易にするために、未包装状態のトレーを多数個積み重ねたと
きにトレーの各接着剤塗布面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状
を呈するようなトレーの形状を採用したものということができる。
    なお、被告は、本件考案の構成要件中、A④の、「その状態で接着剤を一
括して塗布された」とは、トレー包装体用の中間体である糊付けトレー積層体の製
造方法である方法的要素であり、最終的な物品の形状、構造を特定するために必要
なものとはいえないのであるから、本件考案の要旨から除外されるべきものと主張
するが、上記記載は、未包装状態のトレーを多数個積み重ねたときに、トレーの各
接着剤塗布面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈し、これに
よって接着剤が一括塗布されて形成され得るというトレーの形態を有することを記
載したものであると解することができるから、被告の上記主張は採用することがで
きない。
  (3) これに対し、引用例1(乙2)に記載された考案は、実用新案登録請求の
範囲が、「トレー嵌置受皿の外側面部に、上フィルムを熔断する抵抗線と、上フィ
ルムを抵抗線に接触保持させるフィルム密着手段とを周方向に沿って設けてなるフ
ィルム包装切断用テーブル」というものであり、その明細書の考案の詳細な説明の
項には、次のような記載があることが認められる。
   ア 本考案は被包装物を入れたトレー上に上フィルムを密着状に被覆包装
し、上フィルムをトレーの周囲部で切断するフィルム包装切断用テーブルに関す
る。
   イ 現在、肉、魚、加工品及び雑貨等の包装においては、トレーと熱可塑性
合成樹脂フィルムとを用いて・・・包装が行なわれている。
   ウ 本考案は上記フィルム包装とフィルム切断とが簡単確実に行なわれるフ
ィルム包装切断用テーブルを提供するものであって、その構成を図面にもとづいて
説明すると次の通りである。
     第1図乃至第3図に示すように、長方形の金属板製の基板14上にトレ
ー嵌置受皿15を多数格子状配列に形成する。この各受皿15は、トレー外周の傾
斜と合致する内側面16aを有する電気絶縁性の枠体16の下部フランジ部16b
を基板14上に定着して形成する。枠体16の基板14と直角状の外側面16cに
フィルム熔断用抵抗線17を周方に張り巡らせる。この抵抗線17は枠体外側面1
6cに周方向に適当間隔で突設した止め輪18に挿通して若干突出させ、この両端
部は枠体の1コーナー部に形成した端子取付部16dの各端子19、20に接続す
る。
   エ 第4図に示すように、各枠体16の外側面16c及びフランジ部16b
の上面に上フィルム25の密着手段26を設ける。すなわち合成樹脂製の接着剤又
は加熱上フィルムが密着する塗料或いはフィルムシート等の密着手段26を塗布又
は粘着して設ける。
   オ このテーブルは前述の第8図に示す真空包装機の下ボックス内に収容
し、この各受皿15に第4図に示すように被包装物29を入れたトレー30を上周
縁が少し突出した状態に夫々嵌置して前述の包装作業を行なう。この場合、大気圧
の導入時、各トレー30及び被包装物29上の加熱軟化した上フィルム25はそれ
らに凹凸形状通りに押付けられ延伸して密着被覆される。各トレーの周囲上の上フ
ィルム25もコ字形の凹部又はL形の段部の塗料は(「塗料或いは」の誤記と認め
る。)フィルムシート26面に押付けら(「押付けられ」の誤記と認める。)延伸
してそれに密着し、上フィルム25は抵抗線上に全周に亘り確実に接触する。
   カ 従って包装後に抵抗線17に通電させて発熱させると、この熱により凹
状又はL形に成形されている上フィルム25が熱収縮を生じて抵抗線17との接触
部から離れんとするがこれが密着保持手段26によって防止され、全周に亘り確実
に熔断される。この後、各トレーを取り出すと共に、スクラップフィルムを適当に
剥離除去し、再び包装作業を行なう。
    また、引用考案1の明細書添付の図面中、第4図には、トレー30の一部
分が描かれているところ、これによれば、トレー30は、平坦な底板と、底板の周
囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有するものであることが認め
られ、被覆した状態にあるトレー包装体における上フィルム25が、それがオーバ
ーラップして被覆しているトレー30の周壁の外側面の上端部から下側の位置で、
抵抗線17により全周にわたって熔断されることも認められる。
    したがって、引用例1には、トレー包装体に関する引用考案1として、
「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有
するトレーと、上記トレー内に置かれた被包装物と、上記トレーの上面開口部をオ
ーバーラップして被覆し、かつ、トレーの周壁の上部外側面全周に密着させた周縁
を有する熱可塑性合成樹脂フィルムとからなり、上記熱可塑性合成樹脂フィルム
は、その周縁を、トレーの周壁の外側面の上端部から下側の位置で抵抗線により全
周に亘って切断してある、熱可塑性合成樹脂フィルムによるトレー包装体」が記載
されているものと認められる。
  (4) 本件考案と引用考案1とを対比すれば、両者は、(ア)本件考案では、ト
レーが、周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面を有し、未包装状態で多
数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下方向に連続して露呈して略垂直な
面として柱状を呈する如く形成されたものであるのに対し、引用考案1では、トレ
ーが接着剤塗布面を有さず、したがって、接着剤塗布面の形状についての言及もな
い点、(イ)トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが、本件
考案ではストレッチフィルムであるのに対し、引用考案1では熱可塑性合成樹脂フ
ィルムである点、(ウ)トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィル
ムが、本件考案ではトレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着させた周縁を有す
るのに対し、引用考案1ではトレーの周壁の上部外側面全周に密着させた周縁を有
する点、(エ)トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムの周縁
の抵抗線による全周に亘る切断が、本件考案ではトレーの接着剤塗布面に接着した
位置に接近した下側で行われるのに対し、引用考案1ではトレーの周壁の外側面の
上端部から下側の位置で行われる点、の4点で相違し、その余の点で一致する。
  (5) そこで、上記各相違点について検討する。
   ア 引用例2(乙3)に記載された考案は、包装の発明に関するものである
が、その明細書には、以下のような記載があることが認められる。
    (ア) ポリ塩化ビニリデンフィルムの過冷無定形状態に於ける独特の性質
を使用する事に起因して製品包装の改良にはかなりの進歩が為されて来ている。斯
かるフィルムは押出し成形されるとまだ無定形状態にある間に基本的には該フィル
ムの温度を略室温又はそれたりも稍高い温度迄下げる事になる即時過冷の結果とし
て得られる如き状態に懸濁され得る。過冷状態にある此のフィルムは本来非結晶性
で即時変形可能性を呈し、可伸性及びそれ自体に対してのみならず適当な状態の下
にある別種の材料に対しても独特の密封性を有している。
    (イ) 第1及び2図は本発明の一部たる底部材11、ボローニヤソーセー
ジ又は類似のものの如き薄切肉の重なり12である製品、及び該製品を囲んで底部
材と密封された可撓透明フィルム13から成る円板型包装10を示している。第2
及び3図に明瞭に示される如く、底部材11には上に製品12の受けられる平らな
中心部14がある。周縁方向に連続しかつ上向きに突出しているリム15が中心部
14と一体に形成されて、中心部14及び製品12のすぐ外方において該製品を囲
んで延びている。
    (ウ) リム15の終端は外方かつ下方に傾斜して中心部14よりも下方に
延びて、円周方向に連続した截頭円錐形のフランジ部16を形成している。
    (エ) 此のフィルムは例えばそれを包装の製品及び底部材に吸引して密着
させる真空が包装内に作られる任意の適当な既知の包装形成抽気技法を使用する事
に依るなどして製品12の露出表面を覆うて該表面の形にぴっちりと倣うように完
全に密着して潰されて即ち吸引されている。
    (オ) 過冷ポリ塩化ビニリデンフィルム13はポリ塩化ビニル底部材11
と十分に密着し得る性質を有し熱封に頼る事なしに気密密封を作るものである。此
の点に関しては包装10は熱を加えられずに常温で成形され得従って該包装は感熱
材料を包装するのに又感熱包装形成材料の使用を可能にするのに適当なものであ
る。然しフィルム13と底部材11との間に作られる密封を改良する為にフランジ
部分16の外側表面は好ましくはその上に可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密封
剤の薄い基本的には顕微鏡的塗膜18を有するべきである。
    (カ) フィルムと底部材との界面塗膜18に依って形成される特殊密封は
強力密封を作るものである。
    (キ) リム15に沿うて塗膜18の内側に生ずる如き過冷ポリ塩化ビニリ
デンフィルムとポリ塩化ビニル底部材との直接密着のみに依って作られる密封の強
さを決定せんと試みられた時には剥取り強度の読みは全然得られなかったのであ
る。然し、塗膜18の内側に作られる密封はそれにも拘らず気密密封であって包装
10の品質を維持するのに大変役立つものである。
    (ク) ポリ塩化ビニル及びポリスチレンフィルムは本発明の包装を作るの
に使用され得る別な型式のフィルムの例である。
     上記のような記載によれば、引用例2には、薄切肉の重なりである製品
の包装体において、周縁方向に連続し上向きに突出しているリムを有する底部材の
中心部に被包装体を置き、過冷ポリ塩化ビニリデンフィルムを用いて、底部材及び
被包装体の表面の形に倣うように密着させ、底部材との密着性を利用して包装体を
形成し、この際、十分な剥取り強度を確保するために、底部材のリムの終端部に形
成されたフランジ部分に可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密封剤を塗布し、塗膜
を形成させて強力な密封を得る構成が記載されていることが認められる。
   イ 引用例3(乙6)には、以下のような記載があることが認められる。
    (ア) 本考案は、・・・これら欠陥を改善する為に、容器の材質や肉厚を
特に変更することなくして、上記フィルム包着の際に生じる包着圧乃至張力に抗す
る容器自体の強度が大となり、その結果として上記調整が正確に行われなくてもフ
ィルム、容器共に損傷を起すことがないような効果を奏するようにし、かつ併せ
て、フィルム包着が機械による自動作業で行われるので、積合わされている容器を
一枚々々剥していく機械作業能力を大きく向上させて、フィルム包装作業全体を効
率化する為のスタッキング防止を果すようにすることを目的としてなしたものであ
り、この為に所定構成の容器の上周縁耳部を外下方に巻込んで成型した容器を提供
せんとするものである。
    (イ) 一方、上記耳部10は第5図に示す如く、容器複数枚を積合せた
際、丸い耳部同志が重なり合う為容器間に空気Sを生じさせる役目を果し、積合せ
た容器を一枚々々剥しやすくする上で非常に効果的となり、スタッキング防止を完
遂する。
      尚、第6図は従来公知の容器側を示したもので、このように折返し線
が形成してあるのみでは、この縁同志が嵌り合ってしまって積合せた容器が密着し
てしまって剥し難くなってしまい、スタッキングを生じ包装作業能率を著しく悪く
するのである。
     上記のような記載によれば、引用例3の考案について実用新案登録出願
がされた昭和51年9月21日において、トレーを積み重ねた際、その形状によっ
てはトレー同士が密着してしまって分離しづらくなる、「スタッキング」が生じる
という技術課題があることが周知であったことが認められる。
     そして、上記の技術課題は、トレーを積み重ねた際に、トレー同士が密
着しないようにすれば解決されることは当然であるが、そのためには、トレーの縁
に耳部を設け、トレーを積み重ねた際に、トレー同士が密着せず、耳部同士が接触
するようにすればよいことは、当業者にとって極めて容易に想到することができ
る。ところで、この耳部の一面を平面にし、かつ底面に対して垂直とし、さらに、
トレーを積み重ねた際に耳部同士の間に隙間を設けずに連続するようにすること
は、トレーにおける耳部の基本的な形状であったと認められるところ、このような
耳部を形成したトレーを積み重ねた際には、各耳部が、上下方向に連続して露呈し
て略垂直な面として柱状を呈するものとなる。
   ウ 昭和51年6月15日ころに刊行されたと認められる石井頼三他編『商
品大辞典』(乙5)には、「ストレッチ・フィルム包装」の項に、以下のとおりの
記載がある。
    ・ 軟質の塩化ビニルフィルムを用いて引っ張りながら商品を包み、フィ
ルムの端をその裏面に圧着すると、商品にぴったりくっついて、透明で光沢のある
包装が手軽にできる。これをストレッチ・フィルム包装という。塩化ビニルでは接
着剤を用いなくとも自己粘着性があってフィルムが相互にくっつき、自然にははが
れないが、開封のときはフィルムの端を引っ張れば容易にはがれるという便利性を
もっている。最近は、ストレッチ・フィルム用の自動包装機も開発され、おもに精
肉(カット肉)や加工食品の包装に使われている。
     上記の記載によれば、本件考案の実用新案登録出願日である昭和54年
4月4日当時、ストレッチフィルム包装におけるストレッチフィルムとしては、軟
質塩化ビニルフィルムが用いられていたことが認められる。
   エ 相違点(ア)について
     上記アのとおり、引用例2には、食品である薄切肉製品の包装体におい
て、過冷ポリ塩化ビニリデンフィルムを用いて包装体を形成する際、底部材のリム
の終端部に形成されたフランジ部分に塗布した密封剤によって塗膜を形成させて強
力な密封を得る構成が記載されているところ、上記「底部材のリムの終端部に形成
されたフランジ部分」は本件考案における「周壁の側面」に相当し、上記「密封
剤」は上記アのとおり感圧接着剤を含むものであるから、上記引用例2に記載され
た構成を引用考案1に適用すれば、トレーとフィルムとを密着させ、強力な密封を
得るために、トレーが周壁の側面に接着剤塗布面を有するように構成することは当
業者にとって極めて容易であるというべきである。
     なお、引用考案2において包装用フィルムとして用いられているのは過
冷ポリ塩化ビニリデンフィルムであり、引用考案1において用いられている熱可塑
性合成樹脂フィルムとは異なるが、いずれも肉などの食品をトレーに置いた状態で
包装することに関する考案であることや、引用例2に用いられる別な型式のフィル
ムとしてポリ塩化ビニルやポリスチレンフィルムがあげられていることに照らせ
ば、トレーに接着剤塗布面を形成してフィルムによる強力な密封を得るという引用
考案2の構成を引用考案1に適用するについて阻害要因があるとは認められない。
また、原告は、引用例2に記載された考案は実現不能であると主張するが、その根
拠として提出する甲第7号証(大阪府立産業技術総合研究所長作成の「相談内容に
ついて(回答)」と題する書面)には、原告からの、「(1)過冷無定形状態のポ
リ塩化ビニリデンフィルムとはどのように製作するのか、どのようなものなのか、
当業者なら誰でも出来るのか。(2)塩化ビニリデン原料は市販されていないがど
のようにして製造するのか、当業者は誰でも出来るのか。」という相談に対する回
答として、「(1)過冷無定型状態を作り出す装置とポリ塩化ビニリデンの加熱に
よる腐食防止機能を備えたフィルムを制作する装置が必要であり、研究所にはその
ような装置はない。また具体的にどのような装置かわからない。(2)塩化ビニリ
デン原料は、大手化学メーカーによって製造されているものであり、研究所には製
造の経験がない。」と記載されているにすぎない。しかし、前記ア(ア)の引用例2
の記載からすれば、引用例2において過冷ポリ塩化ビニリデンフィルムと呼ぶもの
は、原料樹脂組成物を押出し成形し、これを直ちに室温付近まで急冷して結晶化を
防止して製造されたポリ塩化ビニリデンフィルムを指すものであることが認められ
る。そして、一般に、これに類するポリ塩化ビニリデンフィルムが、例えばサラン
ラップやクレラップ等の商品名で大手化学メーカーによって製造販売されているこ
とは裁判所に顕著な事実であるから、甲第7号証の記載では、引用例2に記載され
た考案が実現不可能であることの証明には到底ならないものであり、他にこれを認
めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用の限りでない。
     また、上記イのとおり、引用例3によれば、本件実用新案登録出願以前
において、トレーを積み重ねた際にスタッキングが生じるという技術課題があるこ
とが周知であったことが認められ、その解消のためには、トレーの縁に耳部を設
け、トレーを積み重ねた際に、トレー同士が密着せず、耳部同士が接触するように
すればよいことは、当業者にとって極めて容易に想到することができること、この
耳部の一面を平面にし、かつ底面に対して垂直とし、さらに、トレーを積み重ねた
際に耳部同士の間に隙間を設けずに連続するような耳部の形状は、基本的なもので
あったこともまた、認められる。ところで、引用考案1において用いられるトレー
についても、これを積み重ねた際にスタッキングが生じては作業効率が低下するこ
とは自ずから明らかであるから、当業者であれば、スタッキング防止のため、引用
考案1のトレーについて、トレーの周壁に耳部を形成することは極めて容易に想到
することができ、その際、耳部の形状として、一面を平面にし、かつ底面に対して
垂直とし、トレーを積み重ねた際に耳部同士の間に隙間を設けずに連続するように
形成することも、極めて容易に想到し得るものである。このように耳部を形成する
と、トレーを未包装状態で多数個を積み重ねたとき、各耳部が、上下方向に連続し
て露呈して略垂直な面として柱状を呈することは前述のとおりである。
     なお、原告は、引用例3に記載された考案は実現不能であると主張する
が、上述のとおり、引用例3に記載された考案そのものを引用考案1に適用して本
件考案と引用考案1の相違点が解消されるか否かを判断しているものではなく、引
用例3の記載からその実用新案登録出願当時、ひいては本件実用新案登録出願当時
にどのような技術が周知慣用であったかを判断しているものであり、仮に、引用例
3に記載された考案そのものが実現不可能であったとしても、上記判断を左右する
ものではない。しかも、原告がその主張の根拠として提出する甲第7号証(大阪府
立産業技術総合研究所長作成の「相談内容について(回答)」と題する書面)に
は、原告からの、「右の図(引用例3の第4図)の如き容器は製作可能なのか、可
能だとすればいかなる方法を使えばよいのか。」という相談に対する回答として、
「トレー容器の端部は、研究所が有する装置では製作できない。」と記載されてい
るにすぎず、引用例3に記載された考案が実現不可能であることの証明には到底な
らないものであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。原告は、引用例3に記
載された容器が大量安価に生産できなければ、実現不可能であるかのように主張す
るけれども、実現可能性と量産の可否は別の事柄である。したがって、いずれにし
ても、原告の上記主張は採用の限りでない。
     以上述べたとおり、引用考案1に引用例3によって認められる周知の技
術を適用し、さらに引用例2に記載された構成を適用すれば、トレーを、周壁の上
部外側面全周に形成された耳部を有し、未包装状態で多数個を積み重ねたとき、各
耳部が、上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成さ
れ、しかも、トレーの周壁の側面には接着剤塗布面が設けられるように構成するこ
とは、当業者にとって極めて容易であるというべきである。このとき、トレーの周
壁の側面のうち、上部外側の側面であり、トレーの底面に対して垂直となっている
耳部を接着剤塗布面として選択することは、作業効率を考えるとき当業者としては
むしろ当然というべきである。したがって、相違点(ア)は解消されることとな
る。
   オ 相違点(イ)について
     上記ウのとおり、本件考案の実用新案登録出願当時、ストレッチフィル
ム包装におけるストレッチフィルムとしては、軟質塩化ビニルフィルムが用いられ
ていたことが認められるところ、軟質塩化ビニルは熱可塑性合成樹脂の一種として
普通用いられていた物であるから、引用考案1の熱可塑性合成樹脂フィルムとして
軟質塩化ビニルフィルムを用い、ストレッチフィルムとすることは、当業者がきわ
めて容易になし得たことである。
   カ 相違点(ウ)及び(エ)について
     上記エのとおり、引用考案1に引用例3によって認められる周知の技術
を適用し、さらに引用例2に記載された構成を適用し、相違点(ア)が解消される
ようにトレーを形成したとき、トレーを被覆するフィルムは、トレーの接着剤塗布
面に接着剤を介して接着させた周縁を有するのは当然であり、フィルムの周縁の抵
抗線による全周に亘る切断も、トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下
側で行われなければ、トレーに接着剤を塗布してフィルムを密着させる意味がない
のであるから、当業者であればこのような構成に至るのもまた当然である。
     したがって、相違点(ア)が解消されるようにトレーを形成したなら
ば、相違点(ウ)及び(エ)もまた自ずから解消されるものである。
  (6)ア 以上のとおり、本件考案は、その実用新案登録出願前に刊行された引用
例1及び2に記載された技術と、引用例3によって認められる当時周知であった技
術を組み合わせることによって、当業者であればきわめて容易に想到することがで
きたものであるというべきである。
     したがって、本件実用新案登録には、平成5年法律第26号による改正
前の実用新案法37条1項1号、3条2項の登録無効理由が存在することが明らか
である。
     そして、このような登録無効理由を有することが明らかである実用新案
権に基づく損害賠償請求は、特段の事情が存在しない限り権利の濫用として許され
ないというべきである。
   イ ところで、前記「前提となる事実」のとおり、原告Aは、本件実用新案
権について、実用新案登録請求の範囲を訂正することを求める訂正審判請求を行っ
ているところ、これが上記「特段の事情」に該当するか検討する。
     原告Aが請求している訂正の内容は、前記「前提となる事実」のとお
り、実用新案登録請求の範囲の記載中、「ストレッチフィルム」を「軟質塩化ビニ
ール製ストレッチフィルム」に訂正するというものである。
     ここで、前記(3)のとおり、引用考案1において用いられるフィルムは熱
可塑性合成樹脂フィルムであるが、前記(5)ウ及びオのとおり、引用考案1の熱可塑
性合成樹脂フィルムとして軟質塩化ビニルフィルムを用い、ストレッチフィルムと
することは、当業者がきわめて容易になし得たものであるから、仮に、本件考案の
実用新案登録請求の範囲の記載中「ストレッチフィルム」が「軟質塩化ビニール製
ストレッチフィルム」に訂正されても、本件考案が当業者によってきわめて容易に
想到可能であったものであることには何の変わりもないというべきである。
     したがって、原告Aによる上記訂正審判請求の事実は、上記「特段の事
情」に該当するということはできない。
   ウ よって、本件実用新案権に基づく原告らの本件請求は、権利の濫用とい
うべきであり、許されないという被告の主張は、理由がある。
 2 結論
   以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告ら
の請求は、いずれも理由がないことが明らかである。
   よって、主文のとおり判決する。
      大阪地方裁判所第26民事部
           裁判長裁判官      山  田  知  司
              裁判官      中  平     健
              裁判官      守  山  修  生

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