弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成11年(行ケ)第442号 審決取消請求事件
平成12年6月27日口頭弁論終結
         判      決
    原      告    株式会社中村醸造元
    代表者代表取締役    【A】
    訴訟代理人弁理士    【B】
    同復代理人弁護士    鈴 木 秀 彦
    被      告    特許庁長官 【C】
    指定代理人       【D】
    同           【E】
      主      文
     原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成6年審判第1725号事件について平成11年11月11日に
した審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実 
1 特許庁における手続の経緯
  【F】は、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改
正前のもの)第31類の「しょうゆ」として、「昆布しょうゆ」の文字を別紙1の
とおり書してなる商標(以下「本願商標」という。)について、平成3年9月10
日に商標登録出願(平成3年商標登録願第94391号)をしたところ、平成5年
11月19日に拒絶査定を受けたので、平成6年1月17日に拒絶査定不服の審判
を請求した。審判請求後、【F】は、本願商標について商標登録を受ける権利を原
告に譲渡し、この譲渡は、平成10年3月5日に特許庁長官に届け出られた。
 特許庁は、上記審判請求を平成6年審判第1725号事件として審理した結
果、平成11年11月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を
し、同月29日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
  別紙2の審決書の理由の写しのとおり、本願商標は、①単に商品の品質、原
材料を表示したものであって、商標法3条1項3号に該当し、②同条2項に該当す
る要件を具備するに至ったものと認定することもできないから、登録することはで
きないと認定判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決の理由1(本願商標)及び2(原査定の拒絶の理由)は認める。同3
(当審の判断)は、2頁14行~3頁1行(「ところである。」まで)、3頁2行
~3行の「濃口醤油、淡口醤油、溜醤油」がJAS規格に基づく分類名であるこ
と、及び3頁22行~24行(「提出しているが」まで)を認め、その余を争う。
  審決は、本願商標について、商標法3条1項3号該当性に関する認定判断を
誤り(取消事由1)、同条2項該当性に関する認定判断を誤った(取消事由2)も
のであって、これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、
違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性に関する認定判断の誤り)
(1) 「昆布しょうゆ」の表示について
ア 「昆布」は食材としての用途が主であり、だしの材料としての用途は、
あくまでも用途の一つにすぎないから、「昆布」なる表記が、「昆布だし」のみを
想起させることはない。したがって、「昆布しょうゆ」の表示が、必ず「昆布のだ
し成分を含有するしょうゆ」として認識される必然性はない。
 「昆布しょうゆ」という表示からは、大豆や小麦の代わりに昆布を原料
とした、醤油類似の調味料、あるいは昆布そのものを醤油に混入した商品が認識さ
れる可能性もあるのである。 
イ 昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開発することは、決して容易なこ
とではない。濃口(こいくち)醤油に、単純に昆布だしを加えたのでは、両方のう
ま味が減殺されてしまって意味がなく、また、昆布だしは腐敗しやすいために、商
品としては成り立たないからである。このように、昆布だし成分を含有する醤油の
開発などは、当業者間では予想されなかったことである。
ウ 「品質」なる概念は、商品の性状やグレードを指す概念である。「昆
布」は海草の名称であって、醤油の性状やグレードを指す文言ではない。
 また、「しょうゆ」の原材料として、大豆や小麦ではなく、これとは別
の材料を用いている場合に、その原材料の名を「しょうゆ」の前に表記するという
のが、「しょうゆ」の原材料を表示するために「普通に用いられる方法」である。
ところが、本願商標の指定商品は、「しょうゆ」であって、大豆や小麦の代わりに
昆布を主原材料として用いたものではないから、「昆布しょうゆ」は、「しょう
ゆ」の原材料を「普通に用いられる方法」で表記したものではない。
 したがって、本願商標を、商品の品質、原材料を普通に用いられる方法
で表示したものとすることはできない。
(2) 商標法3条1項3号該当性の判断の基準時について
ア商標法3条1項3号該当性を判断するに当たっては、出願の時点で判断
すれば当然に生じたであろう登録期待性が、その後の他人の行為によって奪われる
のは社会的公平を損なうことになるから、同法4条3項の規定の趣旨に準じて、出
願日を基準とすべきである。
イ被告は、商標法3条1項3号の趣旨は、「①これに該当するものは、商
品を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示であるから何人(なんぴと)も
使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものだから、一私人に独占を
認めるのは妥当でなく、また、②多くの場合には、既に一般的に使用されあるいは
将来必ず一般的に使用されるものであるから、これらのものに自他商品の識別力を
認めることはできない。」という理由によるものであると主張する。
 しかし、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を流通過程におく場合
に、「昆布しょうゆ」という表記を用いなければならないという必然性はなく、例
えば「昆布だししょうゆ」等、他の表記を用いる余地が十分にあるから、本願商標
は、商品を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示ではない。
 また、同号該当性を判断するに当たって、当該商標が一般的に使用され
ているか否かという基準の適用に当たっては、同法4条3項の規定の趣旨に準じ
て、出願日を基準とすべきである。少なくとも、事情変化の理由を検討し、出願人
に事情変化の責めを負わせ難い場合には、出願時を基準とするか、あるいは、上記
②の判断基準の適用は排除して、①の判断基準のみによって判断されるべきであ
る。
ウ出願人の発売に係る商品「昆布しょうゆ」は、従来販売されていなかっ
た新たな魅力的商品であり、売れ行きが爆発的に伸張し、そのため、本願商標の出
願から審決までの約8年間に、それに乗じようとする追随品が出現した。このよう
に審決が遅れたのは、専ら特許庁の事情によるものであって、出願人に責任がある
わけではない。その間に、原告の懸命の抑止努力にもかかわらず、本願商標に類似
する商標を付した若干の商品が販売されたからといって、そのことのゆえに、本願
商標の自他商品識別性が否定されるべきではない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り)
  原告商品「昆布しょうゆ」の平成11年までの総販売量は1622万リット
ル(約1622万本)で、その取り扱い店舗の数は北海道だけでも1000店を超
えるに至っている。また、原告商品は、テレビ、新聞、雑誌等のマスコミの紹介記
事で取り上げられた機会も多く、その他、試食販売会の開催、イベント(催事)ヘ
の参加等、財力の乏しい地方の小企業としては精一杯の広告宣伝活動を行ってき
た。追随品や模造品が時折出現するにしても、その販売量や広告量は微々たるもの
であり、原告商品の販売量や広告量に比べれば、まさにけた違いである。
  このように、原告は、原告商品の発売以来一貫して、本願商標を継続的かつ
広範囲に使用しており、これに伴って原告商品の表示として知られるに至っている
のである。
  被告は、「昆布しょうゆ」の使用例として、乙第1ないし第13号証を提出
するけれども、これらは、本願商標とは構成が異なるから、上記主張の妨げとなる
ものではない。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性に関する認定判断の誤り)について
(1)「昆布しょうゆ」の表示について
ア 昆布は、食材として用いられるばかりでなく、従来より、「だし」の材
料としても用いられ、「かつお」「しいたけ」等と並び、調味料の材料として我が
国の食文化に多大な影響を及ぼしてきた。昆布というものがこのようなものである
とすれば、「昆布」「しょうゆ」の二語より構成された本願商標に接する取引者・
需要者は、ごく自然に、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を認識することに
なるのである。
イ 原告は、「昆布しょうゆ」という表記からは、大豆や小麦の代わりに昆
布を主たる原材料とした、醤油類似の調味料、あるいは昆布そのものを醤油に混入
した商品が認識される可能性もあると主張する。しかし、「醤油」が、我が国にお
いて調味料として長年用いられ、広く知られていることからすれば、「昆布しょう
ゆ」という表記の付された商品に接したからといって、その主たる原材料が「昆
布」であると認識する者は、皆無というべきである。
 また、仮に、原告主張のとおりだとしても、そのときには、それはそれ
で、結局、本願商標には自他商品の識別機能がないということにほかならない。
 そうすると、いずれにせよ、本願商標は、これに接する取引者・需要者
をして、少なくとも本願指定商品が「昆布」と関わりのある「しょうゆ」であるこ
と、すなわち、原材料の一部に昆布を用いた「しょうゆ」であることを、認識させ
るものである。
ウ 原告は、昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開発することは、決して
容易なことではないと主張する。 しかし、調理の場においては、一般に両者を合
わせ用いることが行われており、商品「しょうゆ」の需要者が本願商標に接したと
きに、原告主張のような製法技術にまで思いを及ぼすことはないものとみるのが自
然である。
(2) 商標法3条1項3号該当性の判断の基準時について
ア 商標法3条1項3号の趣旨は、「これに該当するものは、商品を流通過
程又は取引過程に置く場合に必要な表示であるから何人も使用する必要があり、か
つ、何人もその使用を欲するものだから、一私人に独占を認めるのは妥当でなく、
また、多くの場合には、既に一般的に使用されあるいは将来必ず一般的に使用され
るものであるから、これらのものに自他商品の識別力を認めることはできない。」
という理由によるものである。したがって、本件において、商標法3条1項3号に
該当するか否かの判断は、審決日を基準とすべきである。
イ 本願商標にあっては、出願時において自他商品の識別力があったが、そ
の後の時間の経過によって、これが失われたという事実は全く認められないから、
自他商品の識別力の有無を基準とするとしても、同号に該当するか否かの判断が、
判断時期によって影響を受けるものではない。
2取消事由2(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り)について
  審決において提示した「昆布しょうゆ」の語の使用例(キッコーマン株式会
社のホームページ(乙第1号証)と羅臼漁業協同組合直営店海鮮工房のホームペー
ジ(乙第2号証)の二つ)は一部であって、乙第3ないし第13号証のとおり、そ
の他の使用例も存在する。
  また、原告とは異なる者が、「昆布しょうゆ」の文字を構成の一部に有する
商標を、「昆布だしを含有するしょうゆ」を指定商品として登録している(乙第1
4号証)。
  さらに、原告が使用しているとする商標は、原告が商標権を有する登録第2
724364号商標(乙第15号証)及び登録第2724362号商標(乙第16
号証)であって、本願商標ではない。
  したがって、本願商標は、商品「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」に使
用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるものとな
っていたものとは、認めることができない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の誤認)について
(1) 「昆布しょうゆ」の表示について
ア 我が国において、昆布は、鰹節等と並び、そのエキスないしうまみ成分
の入っただし汁を利用する「だし」の基本的な材料として用いられてきているこ
と、及び、調理の場において、醤油は、「昆布だし」「鰹節だし」等の他の調味料
と合わせて用いられていることは、当裁判所に顕著である。
 そうである以上、単に「昆布しょうゆ」の文字をごくありふれた書体と
態様で書いただけの商標である本願商標に接した一般の取引者・需要者は、本願商
標から、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を認識するものと認められるか
ら、本願商標は、商標法3条1項3号にいう「商品の品質、原材料を普通に用いら
れる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというべきである。
イ 原告は、「昆布しょうゆ」の表記が、必ず「昆布のだし成分を含有する
しょうゆ」として認識される必然性はなく、大豆や小麦の代わりに昆布を原料とし
た、醤油類似の調味料、あるいは昆布そのものを醤油に混入した商品が認識される
可能性もあると主張する。
 しかし、同号の「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示す
る標章」とは、一般の取引者・需要者の認識を基準として判断されるべきものであ
って、すべての取引者・需要者が必ず「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」とい
う認識をもたなければならないものではない。そして、一般の取引者・需要者は、
本願商標から、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を認識すると認められるこ
とは前示のとおりである。
 この点に関して、甲第30号証には、「昆布しょうゆ」の文字から想起
する商品を調査したところ、「昆布で作ったしょうゆ」をあげた者は、複数回答が
許された場合には43%、第1位をあげる場合には14%であったとの記載がある
(もっとも、上記「昆布で作ったしょうゆ」は、「大豆や小麦を使わず、昆布をそ
の代わりの原材料として作ったしょうゆ」とも、「しょうゆは大豆や小麦で作られ
るものであるから、しょうゆである以上大豆や小麦は使うが、そのほかに昆布も原
材料として作ったしょうゆ」とも解することができ、回答者がどちらの意味にも解
したのかは定かではない。)。しかし、上記調査は、標本を100例とするもので
あって、直ちにこれを根拠として、一般の取引者・需要者の認識を認定することが
許されるか疑問があるものであることを別としても、同号証によれば、上記調査で
は、「昆布しょうゆ」の文字から想起する商品として、「昆布のだしが入ったしょ
うゆ」、「昆布のうまみが入ったしょうゆ」、「昆布のエキスが入ったしょうゆ」
をあげた者は、複数回答が許された場合には、それぞれ73%、86%、67%で
あり、第1位をあげる場合には、それぞれ26%、38%、8%であることが認め
られる。そして、「昆布のだしが入ったしょうゆ」は、「昆布のうまみが入ったし
ょうゆ」とも「昆布のエキスが入ったしょうゆ」ともいうことができる(ちなみ
に、甲第1号証によれば、本願商標の拒絶査定は、「本願商標は『昆布のエキス入
りしょうゆ』を認識する『昆布しょうゆ』の文字を書してなるので・・・」として
いる。)から、結局、上記調査の回答者のうちの多数の者も、「昆布しょうゆ」の
文字から「昆布のだしが入ったしょうゆ」を想起していると認められるところであ
る。
ウ 原告は、昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開発することは、決して
容易なことではないと主張する。
 しかし、調理の場においては、一般に昆布だしと醤油を合わせ用いるこ
とが行われていることは、前述のとおりである。そして、昆布だしと醤油を合わせ
用いた商品を開発することが容易なことではないという事情が、仮にあるとして
も、取引者・需要者がそのような製造者側の事情を認識していることを認めるに足
りる証拠はない。そうである以上、本願商標に接した取引者・需要者が、そのよう
な製造者側の事情によって、本願商標から「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」
を認識することを妨げられるものとは認められない。
 のみならず、乙第1ないし第8、第10、第11、第13、第14号証
によれば、平成11年10月1日には、キッコーマン株式会社、羅臼漁業協同組合
直営店海鮮工房、津軽味噌醤油株式会社、網走海鮮市場、ハコショウ食品工業株式
会社、浜中町、オホーツク市場、有限会社まるわ、雄武漁業協同組合、生活協同組
合、八雲町が、昆布だし、昆布エキスないし昆布のうまみ成分と醤油を合わせ用い
た商品を販売していることが認められる。昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開
発することが容易なことではないというような事情が、仮にあるとしても、そのこ
とによって、本願商標が、商標法3条1項3号に該当しなくなるものではないこと
は、このことによっても裏付けられるところである。
エ 原告は、「品質」なる概念は、商品の性状やグレードを指す概念であ
り、「昆布」は海草の名称であって、醤油の性状やグレードを指す文言ではないと
主張する。
 しかし、「品質」とは、良・不良と結び付けて用いられることが多いも
のの、本来、「品物の性質」というより広い意味で用いられる語であり、商標法3
条1項3号にいう「品質」もこの意味で用いられていることは、同号の設けられた
目的に照らして明らかというべきである。そして、昆布だしが入っていることは醤
油という品物の性質であることは明らかであり、また、「昆布しょうゆ」の文字は
「昆布のだしが入ったしょうゆ」を認識させる以上、単に、「昆布しょうゆ」の文
字をごくありふれた書体と態様で書いただけの商標である本願商標は、商標法3条
1項3号にいう「商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる
商標」である。原告は、「昆布のだしが入ったしょうゆ」の「品質を普通に用いら
れる方法で表示する」には、「昆布のだしが入ったしょうゆ」などと表示した場合
に限られ、簡略な記述で表記することは普通の方法ではないと主張するものと解さ
れるが、「商品の品質を普通に用いられる方法で表示する」ものか否かは、一般の
取引者・需要者を基準として判断されるべきことであって、原告主張のように限定
しなければならない理由はない。
 また、原告は、「しょうゆ」の前に原料名を表記するのは、大豆や小麦
の代わりとして、これとは別の材料を用いている場合であるというのが、「普通に
用いられる方法」であると主張する。しかし、「昆布しょうゆ」の文字が「昆布の
だしが入ったしょうゆ」を認識させる以上、単に、「昆布しょうゆ」の文字をごく
ありふれた書体と態様で書いただけの商標である本願商標は、商標法3条1項3号
にいう「商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」
ともいうべきであるから、原告の主張は、採用することができない。ちなみに、
「ぽん酢しょうゆ」も「砂糖しょうゆ」も「からしじょうゆ」も、大豆や小麦の代
わりにぽん酢、砂糖、からしを用いたものではないから、「しょうゆ」の前に原料
名を表記するのは、大豆や小麦の代わりとして、これとは別の材料を用いている場
合に限られないことは明らかであって、原告の主張は、前提を欠くものでもあると
いうべきである。
(2) 商標法3条1項3号該当性の判断の基準時について
ア 原告は、商標法3条1項3号該当性を判断するに当たって、出願日を基
準とすべきであると主張する。しかし、拒絶査定不服の審判においては、同号該当
性は、審決時を基準として判断されるべきである。
 すなわち、同号は、商標の登録に関する積極的要件ないし一般的登録要
件に関する規定であって、その要件がないものについては、商標登録を拒絶すべき
旨を定めたものであるから、このような要件の存否の判断は、行政処分一般の本来
的性格にかんがみ、一般の行政処分の場合と同じく、特別の規定のない限り、行政
処分時、すなわち、拒絶査定不服の審判においては、審決時を基準として判断され
るべきであるからである。同法4条3項は、同法4条1項の登録阻却要件につい
て、例外規定を定めたものであって、同法3条に適用されるものではない。また、
同条1項3号についてこのような例外規定のないことは、同号該当性の判断に当た
って、出願時を基準とすべきではないことの裏付けということができる。
 この点に関して、原告は、出願の時点で判断すれば当然に生じたであろ
う登録期待性が、その後の他人の行為によって奪われるのは社会的公平を損なうこ
とになると主張する。しかし、同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされて
いるのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する商
標であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものである
から、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとと
もに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品識別力を欠き、商
標としての機能を果たし得ないものであることによるものである。
 そうである以上、審決時において、そのような公益上適当ではなく、ま
た、商標としての機能を果たし得ない商標について、登録を認める行政処分をしな
ければならないものと解することはできない。仮に、特許庁が、審決を不当に遅ら
せたために出願人が不当に不利益を被った場合には、出願人は別の方法でその救済
を受けるべきものであって、そのような場合があるとしても、そのことゆえに、同
号該当性の判断基準時が変更されるべき筋合いはない。
イ のみならず、本願商標は、出願時においても、同号に該当することが明
らかである。
 すなわち、原告は、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を流通過程
におく場合に、「昆布しょうゆ」という表記を用いなければならないという必然性
はなく、例えば「昆布だししょうゆ」等、他の表記を用いる余地が十分にあること
を根拠として、本願商標は、商品を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示
ではなく、商標法3条1項3号にいう「商品の品質、原材料を普通に用いられる方
法で表示する標章」ではないと主張するようである。しかし、特定の商品につい
て、商標法3条1項3号にいう「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表
示する標章」が一種類に限定されると解すべき理由はないから、他の表記を用いる
余地があるとしても、そのことによって、本願商標が、商標法3条1項3号にいう
「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章」に該当しなくなる
ものではない。すなわち、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」についていえ
ば、「昆布しょうゆ」であれ、「昆布だししょうゆ」であれ、それを流通過程又は
取引過程に置く場合には、何人もその使用を欲するものであるから、本願商標の出
願時においても、一私人に独占を認めるのは妥当ではなかったのであって、原告の
みが「昆布しょうゆ」の商標を独占し、他の者には、それ以外の表示を強制するな
どという不利益を甘受させなければならない理由は、どこにもなかったのである。
 また、日本語の用法が、本願商標の出願時と審決時で大きく変化したな
どという事実は認められないから、本願商標に接する取引者・需要者が、「昆布の
だし成分を含有するしょうゆ」を認識するということは、本願商標の出願時にも同
様であったことは容易に推認できる。そうである以上、本願商標は、出願時におい
ても、自他商品の識別力がなかったものと認められるのである。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り)について
  乙第1ないし第8、第10、第11、第13号証によれば、平成11年10
月1日には、キッコーマン株式会社が「丸大豆昆布しょうゆ」、羅臼漁業協同組合
直営店海鮮工房が「昆布しょうゆ」、津軽味噌醤油株式会社が「昆布しょうゆご愛
用キャンペーン実施中」、網走海鮮市場が「昆布しょうゆ」、ハコショウ食品工業
株式会社が「昆布しょうゆ・・・霧多布産の昆布使用 昆布エキスが入ったコクの
ある味」、浜中町が「きりたっぷ昆布しょうゆ・・・おいしいばかりか健康にも役
立つ昆布しょうゆ」、「オホーツク市場」が「たまり昆布しょうゆ」、有限会社ま
るわが「昆布しょうゆを発売しました。」、雄武漁業協同組合が「昆布しょう
ゆ・・・雄武産利尻昆布のうまみを大切に生かした、昆布しょうゆです。」、生協
が「丸大豆昆布しょうゆ」、八雲町が「一番だし昆布しょうゆ・・・塩分を12%
におさえた芳醇な味わいの昆布正油です。」と、特別な特徴のない書体で普通に表
示して、それぞれ自分の販売している醤油を、インターネットのホームページに掲
載して宣伝していることが認められる。
 以上の事実を前提にした場合、原告提出の証拠によっても、需要者が、本願
商標について、原告の業務に係る商品であることを認識できるものと認めることは
できないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 原告は、上記乙第1ないし第8、第10、第11、第13号証について、本
願商標とは構成が異なると主張する。
 しかし、本願商標は、「昆布しょうゆ」の文字をごくありふれた書体と態様
で書いただけのものであり、「こんぶしょうゆ」の称呼を生ずるものであって、需
要者が、これと上記インターネットのホームページに掲載されている「昆布しょう
ゆ」とを区別しているものとは認められないところである。原告の主張は、採用す
ることができない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、
その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官 山  下  和  明
        
          裁判官  山  田  知  司
 
          裁判官 宍  戸 充
別紙1 

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛