弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、原判決を取消す、名古屋簡易裁判所が同庁昭和三七年(へ)第一
一一号公示催告申立事件について昭和三八年八月一五日言渡した原判決添付目録記
載の株券に対する除権判決を取消す、被控訴人のなした右公示催告の申立を却下す
る。(または本件を原審に差戻す、)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担と
する、との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
 控訴代理人は、請求原因として、
 (一) 被控訴人は、昭和三七年一二月三日、名古屋簡易裁判所に対し、原判決
添付目録記載の株券について公示催告の申立をなし、その結果、権利の届出がなか
つたとして、昭和三八年八月一五日右株券につき除権判決の言渡を受けたが、控訴
人らは、同年九月六日初めて、右事実を知つた。
 (二) そして、被控訴人が右公示催告申立の理由として述べたところによれ
ば、被控訴人は前記株券のうち、同人名義の株券は同人が株主で所持人であり、そ
の余の株券は、原判決添付目録記載の各名義人から白地裏書によりこれを譲り受け
て所持人となつたものであるが、同人はこれらの株券をAに対して入質し、同人に
交付しであつたところ、同人がこれを紛失したので、公示催告の申立をするという
のであつた。
 (三) しかしながら右公示催告の申立はつぎのとおり不適法であつて却下せら
るべきものである。すなわち、
 (1) 被控訴人は、記名株券の所持人ではなく、質権設定者であつたことが、
その主張自体から明白である。
 そして質権設定者は公示催告申立権を有しないから、被控訴人のなした公示催告
の申立は、申立権を有しない者の申立に係る不適法なものであるから却下せらるべ
きである。
 (2) 仮りに被控訴人が本件株券の質権設定者であつたとしでも、Aは右株券
を紛失したものではない。詳述すると、被控訴人とAとの間においては、昭和三五
年三月九日名古屋簡易裁判所において同庁昭和三四年(ノ)第二〇八号民事一般調
停事件の調停が成立し、Aはカスミタクシー株式会社の連帯保証人であつた被控訴
人から、被担保債権金六、五〇〇万円の質物として本件株券の交付を受けていた
が、被控訴人が右債務を弁済しなかつたため、調停条項に従い、本件公示催告申立
以前において質権を実行し本件株券を処分し、かくて控訴人らは本件株券を取得し
た上、名義の書換をなし、これを所有するものである。そして、被控訴人が株券紛
失の疏明として提出した「株券引渡仮処分決定の執行不能調書」に記載せられてい
るとおり、これによつて疏明せられることは、(イ)Aが本件株券を所持していな
いと陳述した事実と(ロ)A方の応接間に在つた金庫内には株券が存在していなか
つたという事実だけであつて、これによつて株券が紛失した事実までも疏明せられ
るものではない。それ故に本件公示催告手続は、株券の紛失の疏明がないのに手続
を進めた違法があるから、これに基いでなされた除権判決は違法であつて、取消を
免れない。
 と述べ、立証として、甲第一号証、第二号証を提出し、当審証人AことBの証言
を援用し、乙各号証の成立を認めた。
 被控訴人は、請求原因に対する答弁として、
 控訴人ら主張の(一)および(二)の事実中、控訴人らが昭和三八年九月六日初
めて本件除権判決の言渡があつたことを知つたという点を否認する外、すべてこれ
を認める、同(三)の主張は否認する。
 と述べ、立証として、乙第一号証ないし第五号証を提出し、甲第一号証、第二号
証の成立を認めた。
         理    由
 控訴人らの主張の根拠は、畢竟民事訴訟法第七七四条第二項第一号により、本件
除権判決は、「法律ニ於テ公示催告手続ヲ許ス場合ニ非サルトキ」に該当するの
に、これに違背した不適法なものであるという点に在るものと思料せられる
 ところで
 <要旨>(一) 控訴人ら所論のように記名ないし白地裏書ある株券の質権設定者
たる株主が公示催告の申立権を有しないか否かについては解釈上争の存する
ところであるが、当裁判所は、むしろかかる株券の株主たる質権設定者は民事訴訟
法第七七八条第二項の「証書に因り権利を主張し得べき者」として公示催告の申立
権を有するものと解する見解に左袒する。けだしまず質権設定者たる株主は質権者
がその株券を所持していたならば、なおその権利を行使することができたはずの者
であることはいうまでもないし、また除権判決の効果の点から考えても除権判決を
うけた者は株券の再交付をもとめうるのであるから、自己名義の株券の交付をもと
めうる質権設定者たる株主は右の公示催告の申立権者と解すべきだからである。控
訴人らの主張はすでにその前提を欠き採用できない。
 (二) 民事訴訟法第七七四条第二項第一号の定めは、現にとられた公示催告手
続について抽象的一般的にこれを認める法律上の根拠を全然欠く場合を意味するの
であつて、いやしくも抽象的一般的に公示催告手続を許す旨の規定がある限り、具
体的個別的の公示催告手続内でなされた事実認定が不当である場合の如きは、これ
に包含せられないものと解すべきである。本件において控訴人らの主張するところ
は、被控訴人が除権判決の申立をした当時、本件株券の所持人ではなく、Aが右株
券を紛失したものでもなく、かつ、控訴人らが本件除権判決申立当時においては現
にこれを占有中であつたというに過ぎないのであるから、法律上右株券については
一般的に除権判決をなすことを得ないというものではない。結局控訴人らの右主張
は、具体的な公示催告手続内でなされた事実認定が不当であつたというに止まり、
適法な除権判決取消の理由とはならない。
 以上のような次第であるから、控訴人らの主張するところによつでは、本件除権
判決が民事訴訟法第七七四条第二項第一号に違背してなされたものであるというこ
とはできない。(昭和二八年(オ)第三八号、昭和三二年二月二二日最高裁判所第
二小法廷判決参照)
 よつて、その余の点を判断するまでもなく、控訴人らの請求は失当であつて、こ
れと同趣旨に出た原判決は結局において相当であるからこれを維持し、本件各控訴
を棄却し、控訴費用につき、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条に従い主文
のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 成田薫 裁判官 神谷敏夫 裁判官 辻下文雄)

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