弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人森岡庸光の上告趣意について。
 所論第一点は、憲法違反とはいつているが、その実質は、原事実審の裁量に任か
されている証拠の取捨判断を非難するに過ぎないものと解されるから、刑訴四〇五
条の適法な上告理由となし難い。
 ことに本件記録によれば、被告人は、第一審(昭和二三年六月一八日)及び原控
訴審(昭和二五年四月一〇日)の公判廷において原判示事実を自認して毫もこれを
争わなかつたばかりでなく、被告人並びに弁護人(第一審の弁護人獅山知孝、第二
審の弁護人和島岩吉)において第一審以来終始被告人及び証人その他関係人が所論
第一点主張のような強制、拷問若しくは脅迫を受けた事実のあることを少しも主張
せず突如として本上告審で初めてこれを主張するのであり且つその点について昭和
二六年六月二九日附拷問顛末書なる被告人作成名義の書面があるだけで、所謂逮捕
手続書の記載によつては勿論その他これを認むべき資料も全く存在しないのである。
されば原判決がその点について何等の判断をも示さなかつたのは当然であり、従つ
て原判決には所論第二点のような憲法の解釈に誤りのある違法も全然発見できない。
 また、原判決が「昭和二三年五月二〇日附巡査A外二名の逮捕手続書中同月一九
日午後一二時頃犬上郡a村字bの地先中仙道に於て玄小麦約三斗を輸送中であつた
Bを逮捕した証拠物件は被疑者の所持せる玄小麦約三斗なる旨の記載」を証拠とし
たことは所論のとおりである。しかし、原判決が証拠とした右記載の部分によつて
は勿論その他右手続書(記録四丁、五丁)並びに所論押収調書(記録六丁、七丁)
によつては、所論第三点で主張するように逮捕後引続き深夜より翌払暁に至るまで
三人の警察官が前後四時間に亘り被疑者の尋問及び証拠物の押収をした事実はこれ
を認めることができない。されば、原判決には採証につき経験則に反する点は認め
られないし、また、その点につき所論も是認するように弁護人乃至被告人から証拠
調の請求をしなかつたのであるから、原審がこれにつき特段の審理をしなかつたか
らといつて、審理不尽の違法があるともいえない。されば、論旨第三点は、刑訴四
〇五条の上告理由に当らないのは勿論同四一一条の職権発動事由としても採用の余
地がない。
 よつて刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文
のとおり判決する。
  昭和二七年一月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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