弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金五三九万二、九〇
〇円およびこれに対する昭和三八年一月二〇日以降完済にいたるまで年五分の割合
による金員を支払え。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理
人は主文と同旨の判決をもとめた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および書証の認否は左記のほか原
判決事実摘示と同一(ただし原判決二枚目裏七行目「損害金計」とあるを「損害金
の内」と訂正)であるから、ここにこれを引用する。
 一 控訴代理人は本件瑕疵担保責任による損害賠償の範囲について別紙のとおり
述べた。
 二 新立証として、控訴代理人は、甲第六号証、甲第七号証の一ないし三を提出
し、当審証人A、同Bの証言ならびに当審鑑定人Cの鑑定の結果を援用し、被控訴
人は当審証人Dの証言を援用し、甲第六号証の成立を認め、甲第七号証の一ないし
三は不知と述べた。
         理    由
 昭和三七年六月頃、控訴人と被控訴人の間で、前者を買主、後者を売主として、
原判決添付目録(以下目録と略称する)(一)(二)(三)記載の山林につき代金
一、一二〇万円(坪当り一、四〇〇円)で売買契約が締結され、控訴人において右
代金を支払い、その頃右目的物の引渡がなされたことは当事者間に争いがない。
 そして、右目録(一)記載の山林につき売買契約当時保安林指定の予定通知がな
されていたにもかかわらず、被控訴人はこれを控訴人に告知することなく、本件売
買契約を締結した事実もまた当事者間に争いがない。
 しかして、右認定のごとく売買の目的山林が保安林予定森林であるときは、一般
の山林にくらべ交換価値ないし使用価値が劣ることは経験則上明らかなところであ
り、山林が保安林予定森林であるかどうかは一般に表見しておらず通常人の注意を
用いても発見し得ないところと考えられるから、右目録(一)記載の山林も民法第
五七〇条にいわゆる売買の目的物に隠れた瑕疵のあるときに当るものといわねばな
らない。
 被控訴人は右のごとき隠れた瑕疵のある事実を買主である控訴人も知つていた旨
抗争しているが、右抗弁は採用できない。その理由については原判決三枚目の裏八
行目から四枚目表の四行目「証拠はない」とある部分までの原判決「理由」記載を
引用する。
 してみると、被控訴人は本件売買の目的物たる目録(一)記載の山林に右評定の
ごとき隠れた瑕疵のあつたこと
による担保責任を負担しなければならないこと明らかである。
 そこで進んで控訴人の主張する損害賠償請求の当否について判断する。
 <要旨>そもそも特定物の売主の瑕疵担保責任は、売買の目的物に原始的な瑕疵が
存存するため、売買契約が、その給付不能の範囲において無効である(従つ
て法律上不履行の問題の生ずる余地がない)ことを前提とする法定・無過失責任で
あるから、契約の有効であることを前提とする債務不履行による損害賠償責任の場
合とは異なり、その損害賠償の範囲は、契約が完全に履行された場合に相手方が得
たであろう利益(いわゆる履行利益)には及ばず、相手方が瑕疵のないものについ
て売買契約が完全に成立したと信頼したために蒙つた損害(いわゆる信頼利益)に
かぎると解するのが相当であるが、この場合その信頼による特別事情から生じた損
害については民法第四一六条第二項を準用して然るべきものと考える。すなわち右
信頼利益のうち通常生ずべき損害として考えられるものは、買主が負担した代金額
から売買契約当時における瑕疵ある目的物の客観的取引価格を控除した残額であ
り、通常はこれを賠償することをもつて足ることになろう。しかし右以外の損害で
も、買主が瑕疵を知らなかつたことに因る損害は、信頼利益に属するから、相当因
果関係の認められるかぎり、特別事情による損害として売主においてこれを予見し
または予見しえた場合には、買主においてその賠償を請求できるものというべきで
ある。
 以上の見解に基いて、控訴人が請求する損害賠償の内容について検討することに
する。
 先ず、原判決「事実」欄三の1の後段、別紙第二の二の(4)、同第三の二の
(1)、の各損害額に関する主張はいずれもいわゆる履行利益に属するものの賠償
を求めるものであるから失当であること明らかである。
 次に、原判決事実摘示欄三の1の前段の主張ならびに別紙第二の二の(3)の主
張につき考察するに、右はいずれも信頼利益に属する通常生ずべき損害額の主張と
解せられるが、当審鑑定人Cおよび原審鑑定人Eの各鑑定の結果によれば、本件売
買契約締結当時における目録(一)の山林の保安林予定森林としての客観的取引価
格(適正取引価格)が一坪当り金一、四〇〇円であることが認められ(右認定に反
する原審鑑定人Fの鑑定結果は、前記各鑑定人の鑑定結果と対比するときにわかに
措信できない)、一方、買主である控訴人の負担した売買代金額が一坪当り金一、
四〇〇円であることは当事者間に争いがない。
 してみると、控訴人が前記瑕疵のある目録(一)の山林の客観的取引価格を超え
て支払つた金額は皆無であり、この点においては、本件売買により控訴人はなんら
の損害も蒙つていなかつたことが計数上明らかであるから、控訴人の右各主張はい
ずれも理由がない。(控訴人の別紙第二の二の(3)の主張における計算関係は全
く不可解である)。
 しかして、右に判断した以外の控訴人の損害額に関する主張はいずれも前段説明
の信頼利益に属する特別事情による損害の賠償を求めるものと解すべきであるが、
控訴人の本件山林買受の目的が宅地造成を行うことにあるという特別事情を被控訴
人が予見しまたは予見しまたことについてはその主張立証がないから(この点に関
する原審における控訴人本人の供述ははなはだ暖昧であつて採用に値しない。)控
訴人の右主張は理由がない。
 よつて控訴人の本件損害賠償の請求は全部失当として棄却すべきである。
 以上の次第で、叙上と趣旨を同じくする原判決は結局相当で本件控訴は失当であ
るからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八
九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 成田薫 裁判官 神谷敏夫 裁判官 辻下文雄)

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