弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官の上告趣意中判例違反の主張について。
 所論高等裁判所の各判例の示している法律判断については、未だ当裁判所の判例
がない(昭和二八年七月三一日第二小法廷判決、刑集七巻七号一六六六頁、および
昭和二九年三月四日第一小法廷決定、刑集八巻三号二二八頁は、有毒物又は爆発物
を使用して水産動植物を採捕することを禁止した昭和二六年法律第三一三号による
改正前の漁業法七〇条、六八条、六九条に関するもので、所論高等裁判所の各判例
とは事案を異にするものである。)ので、所論判例についてみると、水産資源保護
法二五条、茨城県内水面漁業調整規則二七条にいう「採捕」の意義に関し、所論昭
和四四年一二月二五日東京高等裁判所第六刑事部判決および同年一〇月二〇日同裁
判所第七刑事部判決の各判例は、いずれも、採捕行為を指称する旨判示し、所論判
例中その余の各判例は、同法二五条にいう「採捕」につき、採捕行為を推称する旨
判示しているものであり、原判決は、論旨のように、これら所論各判例と相反する
判断をしているものであるから、所論判例違反の主張は、刑訴法四〇五条三号の上
告適法の理由にあたるものである。
 水産資源保護法は、元来、「水産資源の保護培養を図り、且つ、その効果を将来
にわたつて維持することにより、漁業の発展に寄与すること」を目的とするもので
あり、同法四条は、水産資源の保護培養のため必要があると認められる場合につき、
都道府県知事に対し、当該都道府県規則により、漁具に関する制限又は禁止などを
定める権能を授権し、その規則には、六箇月以下の懲役、一万円以下の罰金、拘留
若しくは科料又はこれらを併科する罰則を付しうる旨を定めている。そして、同法
および漁業法六五条の委任にもとづき制定された茨城県内水面漁業調整規則二七条
四号は、かさねさし網を禁止漁具と定め、これによる水産動植物の採捕を禁止して
いる。
 ところで、本件にいうかさねさし網とは、同規則二七条四号が明示しているとお
り、二枚以上の網地をかさね合せて、水産動植物を網目に刺させ、またはからませ
てする漁具をいうのであり、この漁具の使用が水産資源の保護培養を著しく阻害す
る有害な手段であることはいうをまたないところであるから、同規則二七条にいう
「禁止漁具を用いて採捕してはならない」という場合の採捕は、当該漁具の使用に
よる採捕行為を意味するものと解すべきであり、現実に水産動植物を「とらえるこ
と乃至は未だ現実にとらえていなくとも、容易にとらえ得るような、換言すれば、
自己の実力支配内に入れたと認められるような状態に置くこと」にならない限り、
同規則三七条一項の罪が成立しないとの法解釈は、水産資源保護法四条、同規則二
七条の立法目的を無にするものといわざるをえない。
 水産資源保護法は、その第二章第三節にさく河魚類の保護培養の項を設け、同法
二〇条は、さく河魚類のうち、さけおよびますの増殖を図るため、人工ふ化放流に
つき定め、同法二二条ないし二四条には、さく河魚類の通路を保護する規定を置き、
さけおよびますをして内水面を無事さく上させ、自然の産卵繁殖をはかるほか、人
工ふ化放流によるさけおよびますの増殖を国の事業としており、同法二五条は、再
生産を確保することなくさけを捕えることによる水産資源の枯渇を防止するため、
同条但書の免許又は許可に基づいて採捕する場合を除き、内水面におけるさく河漁
類のうち、さけの採捕を禁止している。
 さけがさく河するのは、産卵を目的とし、産卵に適するまでに成長したさけが、
その生れた河川に回帰するものであるが、さく河にあたり、さけは群をなして、や
や密度の高い状態で上流に向つて移動するのであり、川に入つた直後では充分卵巣
が成熟しておらず、河川をさく上するに従い成熟度が増すものである。本件被告人
らの所為のように、河川下流において、かさねさし網を河中に流した場合には、網
の目にかゝつたさけは、その卵巣の成熟度を問わず、一度に大量に捕獲され、さけ
の再生産が現実に阻害されることは当然であるが、かさねさし網を河中に流す行為
をしただけでも、さけを脅し、傷つけ、あるいは、そのさく上を妨害する等の弊害
の生ずる可能性があることは容易に推認しうるところであり、さけの捕獲に至らな
い場合でも、かさねさし網を河中に流す所為により、さけの再生産が阻害される弊
害を伴わないとはいえないのであるから、同法二五条にいう「採捕」というのは、
現実の捕獲のみに限らず、さけを捕獲する目的で河川下流においてかさねさし網を
使用する採捕行為をも含むと解釈することが、同条の立法趣旨に合致するものとい
わなければならない。
 しかるに、原判決は、同法二五条および同規則二七条にいう採捕の意義を「とら
えること乃至は未だ現実にとらえていなくとも、容易にとらえ得るような、換言す
れば、自己の実力支配内に入れたと認められるような状態に置くことを意味するも
の」と判示し、本件被告人らの所為を、同法二五条および同規則二七条の採捕にあ
たらないとし、同法三七条四号および同規則三七条一項の罪の成立を否定して、被
告人らを無罪とした本件第一審判決を是認している。
 してみれば、原判決は、同法二五条、三七条四号、同規則二七条、三七条一項の
解釈適用を誤り、所論各判例と相反する判断をしたものであり、本件原判決を維持
するのは相当ではないから、所論判例違反の論旨は、いずれも理由がある。
 ところで、前示の同法二五条、同規則二七条の解釈に従えば、同法三七条四号の
罪と同規則三七条一項の罪とは、本件事実関係のもとでは、刑法五四条一項前段の
観念的競合の関係に立つものであり、水産資源保護法三七条四号の罪の法定刑の方
が同規則三七条一項の罪の法定刑より重いから、同法三七条四号の罪の刑で処断さ
れることになるのであり、たとえ、同規則二七条、三七条一項が弁護人所論のよう
に違憲無効であるとしても、当審の判決の結論に影響を及ぼすものではない。した
がつて、被告人両名を無罪とした原判決は、検察官の上告趣意その余の点に判断を
加えるまでもなく、刑訴法四一〇条一項本文により、破棄を免れない。
 被告人両名の弁護人岡部勇二の上告趣意について。
 所論は、、原判決は法令の解釈により被告人両名に無罪を言い渡しているが、被
告人両名につき起訴の根拠となつた茨城県内水面漁業調整規則二七条および三七条
一項は、憲法三一条、一四条、一三条に違反するものであるから、無効な法令であ
る旨の判決を求めるという趣旨のものである。しかし、無罪を言い渡した判決に対
しては、理由の如何を問わず、被告人が上訴権を有しないことは当審の判例(昭和
三七年(あ)第一七五一号同年九月一八日第三小法廷決定、判例時報三一八号三四
頁)とするところであるから、被告人両名の本件上告は不適法としてこれを棄却す
べきものであるが、検察官の上告に理由があり、原判決を破棄する本件においては、
主文には、被告人両名の上告を棄却する旨の表示はしない(昭和四二年一一月二八
日第三小法廷決定、刑集二一巻九号一二九九頁、昭和三二年一二月二五日大法廷判
決、刑集一一巻一四号三三七七頁参照)。
 よつて刑訴法四一三条本文により更に審理をさせるため本件を原裁判所に差し戻
すこととし、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。
 検察官臼井滋夫 公判出席
  昭和四六年一一月一六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    関   根   小   郷

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