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平成22年12月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第25303号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成22年10月4日
判決
埼玉県川越市<以下略>
原告A
同訴訟代理人弁護士西田研志
同訴訟復代理人弁護士倉橋芳英
同川村拓矢
同神保宏充
同訴訟代理人弁護士大隅愛友
同川瀬裕之
東京都渋谷区<以下略>
被告東日本旅客鉄道株式会社
同訴訟代理人弁護士久保利英明
同上山浩
同小長谷真理
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙イ号物件目録記載のシステムを使用してはならない。
2被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成21年8月6日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,座席管理システムに関する特許権を有する原告が,被告に対し,被
告が使用している車内改札システムが原告の当該特許権を侵害しているとして,
特許法100条1項に基づく当該車内改札システムの使用の差止め並びに民法
709条及び特許法102条3項に基づく損害賠償2000万円及びこれに対
する訴状送達の日の翌日である平成21年8月6日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1)原告の有する特許権
ア原告は,次の特許権を有している(以下,当該特許権を「本件特許権」
と,本件特許権に係る特許を「本件特許」と,本件特許に係る明細書を
「本件明細書」と,請求項1に係る特許発明を「本件特許発明1」と,請
求項2に係る特許発明を「本件特許発明2」といい,本件特許発明1及び
2を併せて「本件各特許発明」と総称し,本件特許に係る特許公報(後記
ウの訂正がされる前のものである。)を末尾に添付する。)。
特許番号特許第3995133号
発明の名称座席管理システム
出願日平成12年5月8日
登録日平成19年8月10日
特許請求の範囲
【請求項1】
「カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券
された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホ
ストコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指
定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機とから成る,指定
座席を管理する座席管理システムであって,
前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する
入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報
とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウト
に基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,該作成手段に
よって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段
によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,
前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された前記座席表示情報を
入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前記座席表示情報
を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって記憶された前記座席表示情
報を表示する表示手段と,
を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。」
【請求項2】
「カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券
された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホ
ストコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,複
数の座席管理地に備えられる端末機とから成る,指定座席を管理する座
席管理システムであって,
前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する
入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報
とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理地識別
情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって
集計された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理
地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報
を作成する作成手段と,該作成手段によって作成された前記座席表示情
報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって記憶された前記座席表示
情報を伝送する伝送手段と,
前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された当該座席管理地識別
情報又は端末機識別情報の前記座席表示情報を入力する入力手段と,該
入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,
該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表示手段と,
を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。」
イ本件各特許発明の構成要件の分説
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下
「構成要件1−A」等という。)。
1−A①カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機
等で発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備
えられるホストコンピュータと,
1−A②該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設
置管理する座席管理地に備えられる端末機と
1−A③から成る,指定座席を管理する座席管理システムであって,
1−B前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入
力する入力手段と,
1−C該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに
基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに
基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,
1−D該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記
憶手段と,
1−E該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝
送手段と,
1−F前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された前記座席表示
情報を入力する入力手段と,
1−G該入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記
憶手段と,
1−H該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表
示手段と,
1−Iを備えて成ることを特徴とする座席管理システム。
(イ)本件特許発明2について
本件特許発明2の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下
「構成要件2−A」等という。)。
2−A①カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機
等で発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備
えられるホストコンピュータと,
2−A②該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,複数の座席管
理地に備えられる端末機と
2−A③から成る,指定座席を管理する座席管理システムであって,
2−B①前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを
入力する入力手段と,
2−B②該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報と
を,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理地識別
情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,
2−C該集計手段によって集計された前記券情報と前記発券情報とに
基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに
基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,
2−D該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記
憶手段と,
2−E該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝
送手段と,
2−F前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された当該座席管理
地識別情報又は端末機識別情報の前記座席表示情報を入力する入力手
段と,
2−G該入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記
憶手段と,
2−H該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表
示手段と,
2−Iを備えて成ることを特徴とする座席管理システム。
ウ本件明細書の訂正
原告は,平成21年12月4日付けで,本件明細書につき,誤記の訂正
であることを理由として,次のように訂正することを内容とする訂正審判
を請求し(訂正2009−390150。甲10の1及び2),特許庁は,
平成22年3月24日付けでこれを認める審決をし,同審決は,確定した
(甲11。訂正箇所は,二重鉤括弧部分。以下,この訂正を「本件訂正」
という。)。
(ア)訂正前の本件明細書の記載
「【0010】CPU6は,券情報入力3から入力された前記券情報及び
発券情報入力4から入力された前記発券情報それに制御情報入力5から
入力された前記発券情報等を記憶するとともに,これ等の情報に基づき,
かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて,
『例えば前記券情報及び前記発券情報の両情報又は前記発券情報が存在
するときは「1」(使用席)とし,前記券情報のみが存在するとき又は
両情報が存在しないときは「0」(空席)として,』各指定座席の利用
状況を表示する座席表示情報を作成して,これを記憶するとともに,該
座席表示情報を,制御情報入力5から前記伝送指令情報が入力されたと
き表示情報出力8へ出力する。」
(イ)訂正後の本件明細書の記載
「【0010】CPU6は,券情報入力3から入力された前記券情報及び
発券情報入力4から入力された前記発券情報それに制御情報入力5から
入力された前記発券情報等を記憶するとともに,これ等の情報に基づき,
かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて,
『例えば前記券情報及び前記発券情報の両情報又は前記券情報若しくは
前記発券情報が存在するときは「1」(使用席)とし,両情報が存在し
ないときは「0」(空席)として,』各指定座席の利用状況を表示する
座席表示情報を作成して,これを記憶するとともに,該座席表示情報を,
制御情報入力5から前記伝送指令情報が入力されたとき表示情報出力8
へ出力する。」
(2)被告の行為
ア被告は,業として別紙イ号物件目録記載の車内改札システム(以下「被
告システム」という。)を使用している。
イ被告システムの構成(構成要件の充足を含めて争いがない部分)
(ア)被告システムは,自動改札機で読み取られた座席指定券の通過情報
(以下「通過情報」という。)と券売機等で発券された座席指定券の発
売情報(以下「発売情報」という。)とを管理するセンターサーバーを
管理センターに備えている。
このうち,「自動改札機で読み取られた座席指定券の通過情報」は本
件各特許発明の「カードリーダで読取られた座席指定券の券情報」に,
「券売機等で発券された座席指定券の発売情報」は本件各特許発明の
「券売機等で発券された座席指定券の発券情報」に,「センターサーバ
ー」は本件各特許発明の「ホストコンピュータ」に,それぞれ該当する。
したがって,被告システムは,構成要件1−A①及び2−A①を充足
する。
(イ)被告システムは,センターサーバーと通信回線で結ばれて,指定座
席を設置管理する複数の特急列車内に備えられる車掌用携帯情報端末機
を備えている。
このうち,「指定座席を設置管理する(複数の)特急列車内」は本件
特許発明1の「指定座席を設置管理する座席管理地」及び本件特許発明
2の「複数の座席管理地」に,「車掌用携帯情報端末機」は本件各特許
発明の「該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,・・・端末機」
に,それぞれ該当する。
したがって,被告システムは,構成要件1−A②及び2−A②を充足
する。
(ウ)被告システムは,前記(ア)及び(イ)の構成から成る車内改札システ
ムであり,「指定座席を管理する座席管理システム」である。
したがって,被告システムは,構成要件1−A③及び2−A③を充足
する。
(エ)被告システムは,前記(ア)のセンターサーバーが,前記通過情報と
前記発売情報とを入力する入力手段を有しており,「ホストコンピュー
タが,券情報と発券情報とを入力する入力手段」を有している。
したがって,被告システムは,構成要件1−B及び2−B①を充足す
る。
2争点
(1)被告システムが本件各特許発明の技術的範囲に含まれるか否か。
(2)本件各特許が特許無効審判により無効にされるべきものか否か。
ア特開平7−244753号公報(以下「乙1文献」という。)及び特開
平10−340360号公報(以下「乙2文献」という。)等に基づく本
件各特許発明の進歩性の欠如の有無
イ本件訂正の訂正要件違反の有無
(3)原告の損害
第3争点についての当事者の主張
1争点(1)(被告システムが本件各特許発明の技術的範囲に含まれるか否か)に
ついて
(原告の主張)
(1)本件各特許発明にいう「座席表示情報」の意義について(構成要件1−C
ないし1−H関連)
一般に,「表示情報」とは,表示そのものの情報であるディスプレイ等に
表示されるイメージ情報のみならず,イメージ情報を表示するために必要と
なる情報(イメージ情報を構成する個々の情報)等をも含む概念であるから,
「座席表示情報」とは,座席の利用状況を座席のレイアウト上に表示する表
示上のイメージ情報(以下「表示イメージ情報」という。)に加えて,当該
表示イメージ情報を構成する,例えば,個々の座席番号や乗車駅等の情報
(以下「表示構成情報」という。)を意味する場合も含む。
そして,本件明細書中の実施例(段落【0013】)においては,表示イ
メージ情報をセンターサーバーで作成するのではなく,センターサーバーで
作成された表示構成情報(座席表示情報)を車掌用携帯情報端末に伝送し,
この表示構成情報(座席表示情報)と座席管理地(列車)の座席レイアウト
に基づいて,最終的に車掌用携帯情報端末上で表示イメージ情報を作成して
おり,このことからすれば,本件各特許発明にいう「座席表示情報」は,少
なくとも表示構成情報を意味するということができる。
(2)被告装置の構成について
ア被告システムにおいては,自動改札機で読み取られた通過情報は,自動
改札機から各駅に設置される中継機に伝送され,当該中継機によって列車
番号別にデータベース化され,当該データベース化された通過情報を中継
機からセンターサーバーに伝送している。
当該センターサーバーは,伝送された列車番号別にデータベース化され
た通過情報を,まとめて車掌用携帯情報端末に伝送するため,更に各特急
列車の識別情報(各特急列車を識別する情報をいい,例えば,列車番号が
これに該当する。)別に集計する処理を行っている。また,発売情報も,
同様に,センターサーバーにおいて,各特急列車の識別情報別に集計され
る。
そして,システム構築のコスト面や通信回線の負担軽減の観点から,セ
ンターサーバーから車掌用携帯情報端末への伝送の際,集計された通過情
報及び発売情報を一つの情報に集約すると考えるのが自然であること等か
らすれば,各特急列車の識別情報別に集計された通過情報と発売情報は,
特急列車内に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示するために,
一つの情報に集約され(以下,この集約された一つの情報を「被告座席表
示情報」という。),被告座席表示情報が車掌用携帯情報端末に伝送され
るものと思料される。
また,センターサーバーから車掌用携帯情報端末に伝送された被告座席
表示情報は,車掌用携帯情報端末に表示される。
イ以上のことからすれば,被告システムは,次の構成を有しているという
ことができる(以下,これらの各構成を,それぞれ「構成c」等とい
う。)。
構成b−2入力手段によって入力された通過情報と発売情報とを,指定
座席を設置管理する複数の特急列車の識別情報別に集計する集計手段と,
構成c集計手段によって集計された通過情報と発売情報とを特急列車内
に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示するために通過情報
と発売情報とを被告座席表示情報に集約する集約手段と,
構成d当該集約手段によって集約された前記被告座席表示情報を記憶す
る記憶手段と,
構成e当該記憶手段によって記憶された前記被告座席表示情報を伝送す
る伝送手段と,
構成f車掌用携帯情報端末が,前記伝送手段によって伝送された前記被
告座席表示情報を入力する入力手段と,
構成g当該入力手段によって入力された前記被告座席表示情報を記憶す
る記憶手段と,
構成h当該記憶手段によって記憶された前記被告座席表示情報を表示す
る表示手段と,
構成iを備えて成ることを特徴とする車内改札システム。
(3)被告システムの本件特許発明1の構成要件充足性
ア構成cは,構成要件1−Cと同様の手段ということができるから,構成
要件1−Cを充足する。
また,構成dないしiは,それぞれ構成要件1−Dないし1−Iに相当
する。
したがって,被告システムは,構成要件1−Aないし1−Iのいずれも
充足するから,本件特許発明1の技術的範囲に属する。
イ被告の主張について
(ア)被告システムが「座席表示情報」を作成・伝送していること。
a被告が主張する「座席・乗車券情報」は,座席の利用状況の表示
(表示イメージ情報)を構成する情報であって,表示構成情報に該当
する。そして,被告システムでは,表示構成情報である「座席・乗車
券情報」をセンターサーバーから車掌用携帯情報端末に送信し,「座
席・乗車券情報」と座席レイアウトに基づいて,表示イメージ情報
(被告が主張する座席表示情報)を最終的に車掌用携帯情報端末上で
作成しているから,被告システムは,前記(1)の本件明細書中の実施例
の構成と同様の構成を有している。
bまた,被告の主張によっても,被告システムは,一定の場合には,
通過情報から成る「乗車券情報」に含まれない「発売情報」を当該
「乗車券情報」に追加し,この「発売情報」が追加された情報を「座
席・乗車券情報」として車掌用携帯情報端末に伝送しているところ,
この「座席・乗車券情報」は,通過情報でも,発売情報でもない,新
たな別の情報である。
そして,被告システムは,「座席・乗車券情報」を車掌用携帯情報
端末に伝送する際にパケット通信技術を採用しているところ,通信技
術の常識に照らせば,新たな別の情報である「座席・乗車券情報」を
車掌用携帯情報端末に伝送する際のパケット量は,通過情報と発売情
報の2つの情報を伝送する際のパケット量よりも少ないことになる。
そうすると,被告システムは,車掌用携帯情報端末に伝送する情報
量を半減しているか否かは明らかでないものの,少なくとも,この情
報量を減らすことによって,「通信回線の負担と端末機の記憶容量と
処理速度」の軽減を図っているものと考えられる。
したがって,その限りにおいて,被告システムは,本件各特許発明
の作用効果とほぼ同様の作用効果を奏しているから,被告システムに
おける「座席・乗車券情報」は,本件各特許発明の「座席表示情報」
に相当するものということができる。
c仮に,被告システムが本件各特許発明の作用効果を奏しないとして
も,次のことからすれば,被告システムは,本件各特許発明の技術的
範囲に属するということができる。
すなわち,特許発明の技術的範囲は,明細書の特許請求の範囲の記
載に基づいて定められることを要し,その記載のみでは技術的意義を
明確に理解することができない等の特段の事情があるときに限り,明
細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌することができるものであっ
て(東京高裁平成3年9月17日判決参照),特許請求の範囲から,
その発明の技術的範囲が明らかとなるような場合にまで,明細書の実
施例等の記載に依拠して,その技術的範囲を限定して解釈することは
許されない。
そして,本件各特許の特許請求の範囲の記載からすると,「座席表
示情報」が,座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づい
て表示するために「券情報」と「発券情報」とに基づいて作成される
情報であることは容易に理解することができるから,「座席表示情
報」の技術的意義を理解するために,本件明細書の発明の詳細な説明
及び図面を参酌する特段の事情は存在しない。
そうすると,被告システムが「通信回線の負担と端末機の記憶容量
と処理速度」の軽減という作用効果を奏するか否かに関係なく,被告
システムの「座席・乗車券情報」は,本件各特許発明の「座席表示情
報」に該当するということができるから,被告システムは,本件各特
許発明の技術的範囲に属する。
(イ)また,被告は,被告システムにおける情報が可変長のデータである
ことを指摘する。
しかしながら,そもそも,本件特許発明1は,使用する情報を固定長
のものに限定しておらず,被告の解釈は,本件特許発明1の技術的範囲
を実施例に限定して解釈するものであって,特許法70条1項に反する。
また,被告システムは,通過情報と発売情報の両情報を使用する場合が
あることから,被告の前記主張は,理由がない。
(ウ)したがって,被告システムは,本件特許発明1の構成を採用してい
る。
(4)被告システムの本件特許発明2の構成要件充足性
ア構成b−2は,構成要件2−B②の「前記券情報と前記発券情報とを,
複数の前記座席管理地…を識別する座席管理地識別情報…別に集計する集
計手段」と同様の手段ということができるから,構成要件2−B②を充足
する。
構成cないしiが,構成要件2−Cないし2−Iを充足することは,構
成要件1−Cないし1−Iと同様である。
イしたがって,被告システムは,構成要件2−Aないし2−Iのいずれも
充足するから,本件特許発明2の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
(1)本件特許発明1にいう「座席表示情報」の意義について(構成要件1−C
ないし1−H関連)
ア本件特許発明1は,従来,ホストコンピュータから端末機に券情報と発
券情報の別々の情報を送って,通信回線の負担が2倍になっていたことを
課題とし(本件明細書の段落【0004】,【0005】),ホストコン
ピュータにおいて,券情報と発券情報から座席レイアウトに基づいて1つ
の座席表示情報を作成し(構成要件1−C),これを1回だけ端末機に伝
送する(構成要件1−E)という構成を採用することで(同段落【000
6】),通信回線の負担を軽減するとともに端末機の記憶容量と処理速度
を従来よりも半減させ,前記の課題を解決している(同段落【0007】,
【0020】)。
また,本件特許発明1において,ホストコンピュータで作成される座席
表示情報は,対象列車の全座席について,各座席ごとに「1」又は「0」
のデータを設定した固定長の情報が前提となっている(同段落【001
0】)。すなわち,「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記
券情報と前記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる前記座席
表示情報で実現できるようになり,これによって前記ホストコンピュータ
から前記端末機へ伝送する情報が半減され」る(同段落【0020】)と
いうことは,座席表示情報のデータサイズが券情報と発券情報のデータサ
イズの合計の1/2であることを意味し,「座席表示情報」は「1座席当
たりのデータ長×座席数」からなる固定長データであることが明らかであ
る。
イ以上のことからすれば,本件特許発明1は,①座席レイアウトに基づく
座席表示情報をホストコンピュータで作成し,②座席表示情報が固定長で
あり,かつ,③ホストコンピュータと端末機との間の伝送が1回のみであ
ることを前提とするものであって,券情報と発券情報から新たに座席表示
情報という1つの情報が作成される点に技術的特徴を有するものである。
原告は,「座席表示情報」は座席イメージ情報と表示構成情報の2つの
情報を含むと主張するが,以上のとおり,「座席表示情報」がホストコン
ピュータで作成される1つの情報であることからすれば,原告の解釈は不
自然である。
(2)被告システムの構成及び構成要件充足性について
ア被告システムが,自動改札機で読み取った通過情報を各駅に設置される
中継機に伝送し,これが中継機からセンターサーバーに伝送されているこ
とは認めるが,当該中継機においては,通過情報をデータベース化する処
理は行っていない。なお,原告が主張する「特急列車の識別情報」とは何
をいうのか不明である。
イ被告システムにおける「被告座席表示情報」の作成について(構成要件
1−C及び2−Cの充足性)
(ア)被告システムにおいては,本件特許発明1にいう「座席表示情報」
は作成しておらず,これを車掌用携帯情報端末に伝送していないから,
被告システムは,構成cないしhを有していない。
(イ)すなわち,被告システムでは,車掌が車内改札開始時に車掌用携帯
情報端末からセンターサーバーに指示を出し,センターサーバーから
「編成パターン情報」(車両及び座席の編成に関する情報であって,各
座席の通過情報や発売情報等は含まれない。)が当該端末に送信される。
その後,車掌は,適宜のタイミングで車掌用携帯情報端末を操作し,
センターサーバーから「座席・乗車券情報」(号車数,号車内座席数,
各座席番号に対応する乗車券数,当該乗車券に記載された乗車駅等のデ
ータ)の送信を受ける。この送信のタイミングが,①乗客が新幹線自動
改札機を通過した後であり,かつ,当該新幹線自動改札機を通過した駅
が座席指定席券に記載された乗車駅と同じであれば,通過情報のみが
「座席・乗車券情報」として車掌用携帯情報端末に伝送され,②乗客が
新幹線自動改札機を未通過であれば,発売情報のみが「座席・乗車券情
報」として車掌用携帯情報端末に伝送され,③乗客が新幹線自動改札機
を通過済みであるが,当該自動改札機を通過した駅が座席指定席券に記
載された乗車駅と異なる場合は,通過情報及び発売情報の両方が「座席
・乗車券情報」として車掌用携帯情報端末に伝送される。また,④座席
指定席券が発売されていない座席については,通過情報と発売情報のい
ずれも車掌用携帯情報端末に伝送されない。
このように,被告システムでは,座席レイアウト情報は,通過情報や
発売情報とは別個のタイミングでセンターサーバーから車掌用携帯情報
端末に送信され,車掌用携帯情報端末上で,通過情報,発売情報及び座
席レイアウト情報の3つの情報を用いて,座席表示情報が作成される。
そして,「座席・乗車券情報」は,通過情報と発売情報の両方の情報が
送られる場合,いずれか一方のみが送られる場合,いずれも送られない
場合がある。また,座席レイアウト情報は全座席分のデータであるが,
通過情報及び発売情報は,それぞれ対応するデータが存在する座席の分
だけ(可変長のデータ)が送信される。
したがって,被告システムは,本件特許発明1の,通信回線の負担を
軽減するとともに端末機の記憶容量と処理速度を従来よりも半減すると
いう効果を必ずしも奏するわけではない。
(ウ)以上のとおりであるから,構成要件1−C及び2−Cと被告システ
ムとは,①構成要件1−C及び2−Cが,ホストコンピュータにおいて,
券情報及び発券情報から座席レイアウトに基づいて座席表示情報を作成
するのに対し,被告システムでは,まず座席レイアウト情報が,その後
に,車掌の要求するタイミングで通過情報と発売情報が,それぞれ車掌
用携帯情報端末に送信され,車掌用携帯情報端末において,通過情報,
発売情報及び座席レイアウト情報の3つの情報を用いて座席表示情報を
作成する点,及び,②構成要件1−C及び2−Cの券情報及び発券情報
は,自動改札機の通過の有無や券の発売の有無にかかわらず,全座席分
のデータを含むものであるのに対し,被告システムの通過情報及び発売
情報は,自動改札機を通過したデータと発売済みのデータのみを含むも
のである点で,その構成を異にしており,また,そのために本件各特許
発明の作用効果を奏しない。
よって,被告システムは,構成要件1−C及び2−Cを充足しない。
(エ)このように,被告システムにおいては,センターサーバーで,本件
各特許発明にいう「座席表示情報」を作成しておらず,したがって,セ
ンターサーバーから車掌用携帯情報端末に「座席表示情報」を送信して
いないから,構成要件1−Dないし1−Hを充足せず,構成要件1−I
も充足しない。また,同様に,構成要件2−Dないし2−Hを充足せず,
構成要件2−Iも充足しない。
ウ「特急列車の識別情報」について
被告システムは,構成要件2−B②と同様の手段を有するものではない。
2争点(2)ア(乙1文献及び乙2文献等に基づく本件各特許発明の進歩性の欠如
の有無)について
(被告の主張)
本件各特許発明は,その出願前の公知文献である乙1文献及び乙2文献に記
載された事項並びに周知技術から当業者が容易に発明できたものである。
(1)本件特許発明1と乙1文献に開示された発明(以下「乙1発明」とい
う。)との対比
ア本件明細書の記載によれば,本件特許発明1は,ホストコンピュータか
ら端末機に別々に送られていた券情報と発券情報をホストコンピュータで
1つにまとめて1回で伝送できる構成を備えることで,従来の通信回線の
負担を軽減し,端末機の記憶容量と処理速度を従来よりも半減させる効果
を奏するものである。そして,乙1文献においては,指定乗車券読取情報
(本件特許発明1の「券情報」に該当する。)と指定乗車券発行情報(本
件特許発明1の「発券情報」に該当する。)をCPU6(本件特許発明1
の「ホストコンピュータ」に該当する。なお,当該処理をCPU6で行う
かホストコンピュータで行うかは,設計事項にすぎない。)で情報処理し
た上,伝送するという,前記本件特許発明1の構成に相当する構成が開示
されており,乙1文献の開示内容を本件特許発明1の各構成要件ごとに対
比すれば,以下のとおりである。
(ア)構成要件1−A①に相当する事項の開示
「【0021】CPU6は(略)カードリーダー1からの前記指定乗車券
読取情報とホストコンピューター7からの前記指定乗車券発行情報と」
(イ)構成要件1−A②に相当する事項の開示
「【0021】ディスプレイ9とプリンター10とへ伝送する。」
(ウ)構成要件1−A③及び1−Iに相当する事項の開示
「【0001】本発明は,(略)座席指定券が実際に使われているか否か
その利用状況を管理する管理装置に関するものである。」
(エ)構成要件1−Bないし1−Eに相当する事項の開示
「【0021】CPU6は,各種の情報を入力出力(略)する等のプログ
ラムが記憶されていて,該プログラムにしたがって,(略)指定乗車券
読取情報と(略)指定乗車券発行情報とを記憶して,これらの情報に基
いて情報処理して,(略)比較照合して,発行された座席指定乗車券の
実際の利用状況を調べて,これによって得られる情報を(略)伝送す
る。」
「【0025】(略)本発明の座席指定券利用状況管理装置5は,(略)
カードリーダー1で読み取られる前記指定乗車券読取情報とホストコン
ピューター7からの発車後の当該列車に係る前記指定乗車券発行情報と
を(略)これらの情報に基いて情報処理して(略)これによって得られ
る指定乗車券利用情報を(略)送って(略)」
(オ)構成要件1−Hに相当する事項の開示
「【0025】(略)指定乗車券利用情報をディスプレイ9とプリンター
10と送ってこれを表示或はプリントして(略)」
イ本件特許発明1と乙1発明との相違点
(ア)前記アからすれば,本件特許発明1と乙1発明とは,次の点で相違
する。
(相違点)本件特許発明1では,ホストコンピュータで作成される座席
表示情報が,券情報及び発券情報から座席レイアウトに基づいて作成
されるのに対し(構成要件1−C),乙1文献の指定乗車券利用情報
(本件特許発明1の「座席表示情報」に相当する。)は,指定乗車券
読取情報(本件特許発明1の「券情報」に相当する。)及び指定乗車
券発行情報(本件特許発明1の「発券情報」に相当する。)の2つの
情報に基づいて作成され,レイアウト情報を含んでいない点
(イ)なお,本件特許発明1では,ホストコンピュータと通信回線で結ば
れた端末機が座席表示情報の入力手段及び記憶手段を備えているのに対
し,乙1発明のディスプレイ9及びプリンター10(本件特許発明1の
「端末機」に相当する。)については,これらの手段が明記されていな
い。
しかしながら,ホストコンピュータから情報を受信し,それを表示し,
又は印刷する装置が情報の入力手段と記憶手段を備えていることは,自
明のことである。
したがって,乙1文献には,入力手段と記憶手段についての直接的記
載がないものの,これらの構成は開示されているに等しい事項というこ
とができるから,この点は相違点ではない。
(ウ)原告は,本件特許発明1の「ホストコンピュータ」に相当するのは,
乙1発明のCPU6ではなく,ホストコンピューター7であると主張す
る。
aしかしながら,乙1発明のホストコンピューター7は,指定乗車券
発行情報を記憶して管理するコンピュータであり(乙1文献の段落
【0020】),本件特許発明1の構成要素には対応しないものであ
るのに対し,乙1発明のCPU6は,中央演算処理装置だけでなく主
記憶装置等も備えたコンピュータであるということができる(同【0
019】ないし【0021】,【0026】)。
そして,乙1発明の「駅」(同【0026】)におけるCPU6の
設置場所が,本件特許発明1の「管理センター」に相当するから,乙
1発明のCPU6は,本件特許発明1の「管理センターに備えられる
ホストコンピュータ」に相当する。
bまた,本件明細書は,管理センターと座席管理地の位置的関係につ
いて,それぞれの地に備えられたホストコンピュータと端末機が通信
回線で結ばれる関係にあることを規定するのみであり,2つの機器が
通信回線で結ばれる場合には,同一の敷地内であっても,当該敷地内
のそれぞれの機器が設置される場所が「管理センター」と「座席管理
地」に相当すると解されるから,駅におけるディスプレイ9とプリン
ター10の設置場所が本件特許発明1の座席管理地となり,当該ディ
スプレイ9及びプリンター10が本件特許発明1の「座席管理地に備
えられる端末機」に相当する。
なお,仮に,乙1発明の「駅」が本件特許発明1の「管理センタ
ー」や「座席管理地」に相当しないとしても,コンピュータや端末機
を通信回線で結んで設置場所を変更することは,当業者にとって適宜
選択することができる設計事項にすぎないから,乙1発明のCPU6,
ディスプレイ9及びプリンター10を本件特許発明1の「管理センタ
ー」や「座席管理地」に相当する場所に設置することは,当業者が容
易に推考し得ることである。
cしたがって,乙1発明のCPU6は本件特許発明1の「ホストコン
ピュータ」に相当しないとの原告の主張は,失当である。
(2)本件特許発明2と乙1発明との対比
ア本件特許発明2は,本件特許発明1に構成要件2−B②の構成を付加し
たものであり,それに伴い,構成要件2−A②,2−C及び2−Fの各構
成が本件特許発明1の各構成から変更され,「識別情報別に集計する」,
「識別情報」等の構成が加えられたものである。
したがって,本件特許発明2と乙1発明との対比のうち,構成要件2−
A①,2−A③,2−B①,2−H及び2−Iに対応する開示は,前記
(1)の構成要件1−A①,1−A③,1−B,1−H及び1−Iと同様であ
る。
他の構成要件については,以下のとおりである。
(ア)構成要件2−A②に相当する事項の開示
乙1発明において座席管理地として複数の地が前提とされていること
は,乙1文献の「発行された座席指定乗車券の利用状況を発車直後にお
ける当該列車単位でもって表示或はプリントする。」との記載(段落
【0025】)から明らかである。
その他の点については,本件特許発明1の構成要件1−A②の対比と
同一である。
(イ)構成要件2−B②に相当する事項の開示
「【0025】(略)本発明の座席指定券利用状況管理装置5は,発車前
の当該列車に係るカードリーダー1で読み取られる前記指定乗車券読取
情報とホストコンピューター7からの発車後の当該列車に係る前記指定
乗車券発行情報とを記憶して,これらの情報に基いて情報処理して,該
指定乗車券読取情報と指定乗車券発行情報とを比較照合して,発行され
た座席指定乗車券の実際の利用状況を調べて,これによって得られる指
定乗車券利用情報をディスプレイ9とプリンター10と送ってこれを表
示或はプリントして,発行された座席指定乗車券の利用状況を発車直後
における当該列車単位でもって表示或はプリントする。」
なお,本件特許発明2で加えられた「識別情報別に集計する」,「識
別情報」との構成の意義は,本件明細書の記載からは明らかではないが,
原告の主張からすれば,これらの用語を「列車番号ごとに情報を集約す
る」という意味で用いているものと推測される。
したがって,前記段落【0025】の「当該列車単位でもって表示或
はプリントする」処理は,本件特許発明2の「識別情報別に集計する」
に該当する。
(ウ)構成要件2−Cないし2−Gに相当する事項の開示
「識別情報」及び「集計」については,構成要件2−B②のとおりで
あり,その他の構成については,本件特許発明1の構成要件1−Cない
し1−Gと同一である。
イ本件特許発明2と乙1発明との相違点
以上のとおりであるから,本件特許発明2と乙1発明との相違点は,前
記(1)イの本件特許発明1と乙1発明との相違点と同一である。
(3)相違点の容易想到性
ア乙2文献には,座席表示情報がレイアウトに基づき作成される構成が開
示されており(段落【0040】,【0053】,図6),前記(1)イ及び
(2)イの本件各特許発明と乙1発明との相違点に係る構成が開示されている。
また,座席表示情報のレイアウト図を作成して車掌の携帯情報端末に表
示することは,周知慣用技術である(乙3ないし5)。
イ乙1発明は,特急乗車券又は急行乗車券等における自動改札機及び発行
された座席指定券が実際に使われているか否かその利用状況を管理する管
理装置に関する発明である(乙1文献の段落【0001】)。また,乙2
文献に記載された発明は,鉄道等の自動改札機と改札装置と乗降管理検札
システムに関する発明である(乙2文献の段落【0001】)。したがっ
て,乙1発明と乙2文献に記載された発明とは,鉄道の自動改札機を使用
した座席管理システムに関する発明であって,技術分野を共通にし,密接
に関連するから,乙1発明において乙2文献に開示された構成を適用する
ことは,当業者であれば容易に想到することができる。
なお,前記アの周知慣用技術は,いずれも列車における車内検札システ
ムに関するものであって,いずれも乙1発明と技術分野を共通にしている。
(4)小括
以上のとおりであるから,本件各特許発明は,乙1文献及び乙2文献の記
載事項その他周知慣用技術(乙3ないし5)から当業者が容易に発明するこ
とができたものであるから,進歩性を欠き,特許無効審判により無効にされ
るべきものである。
(原告の主張)
(1)本件特許発明1と乙1発明との対比について
ア乙1文献に開示された発明
乙1発明は,指定乗車券読取情報と指定乗車券発行情報をCPU6で情
報処理した上で,伝送するものであるが,乙1発明におけるCPU6は,
ディスプレイ9やプリンター10とともに,各駅,列車又は座席指定乗車
券発売機に配置された座席指定券利用状況管理装置5を構成するものであ
って,その構成要素の一部にすぎない(なお,乙1発明におけるホストコ
ンピューター7は,指定乗車券発行情報を記憶して管理するとともに,当
該情報をCPU6へ伝送するものである。)(乙1文献の段落【001
9】,【0020】,【0029】,図2)。そして,これらのものがコ
ンピュータである座席指定券利用状況管理装置5の構成要素であるという
ことは,一般に,コンピュータは,CPU,ディスプレイ及びキーボード
のいずれか1つでも欠ければ,コンピュータとしての機能を発揮しないと
いう技術常識にも合致する。他方で,被告の主張によれば,座席指定券利
用状況管理装置5のCPU6とディスプレイ9とを分離し,CPU6が設
置される管理センターにはディスプレイが存在しないことになり,当該技
術常識に反することとなる。
そうすると,乙1発明のCPU6は,本件特許発明1の「管理センター
に備えられるホストコンピュータ」に該当するものではなく,また,乙1
発明のディスプレイ9及びプリンター10は,本件特許発明1の「座席管
理地に備えられる端末機」に該当するものではない。
したがって,本件特許発明1と乙1文献の記載とを対比すれば,次のよ
うになる。
(ア)構成要件1−A①に対応する開示
「【0020】ホストコンピューター7は,発行された特急列車或は急行
列車等の座席指定乗車券に係る情報(略)を記憶して管理するとともに,
該情報を取り出して利用するデーターベースサービスの基幹となるも
の」
(イ)構成要件1−A②に対応する開示
「【0026】本装置を構成するCPU6及キーボード8それにディスプ
レイ9とプリンター10とは駅単位でもって配設して,」
「【0029】列車においても上記指定乗車券利用情報を即座に得ること
ができる。」
「【0031】本装置を構成するCPU6(略)は,現用の座席指定乗車
券発売機へ組み入れて,(略)座席指定乗車券の利用状況を知ることが
出来るようにするとよい。」
(ウ)構成要件1−A③及び1−Iに対応する開示
「【0001】本発明は,(略)座席指定券が実際に使われているか否か
その利用状況を管理する管理装置に関するものである。」
(エ)構成要件1−Hに対応する開示
「【0025】(略)指定乗車券利用情報をディスプレイ9とプリンター
10と送ってこれを表示或はプリントして(略)」
(オ)構成要件1−Bないし1−Gに対応する開示
これらの構成要件に対応する記載はない。
イ本件特許発明1と乙1発明との相違点
(ア)前記アからすれば,本件特許発明1と乙1発明との相違点は,被告
が主張するもののほか,次のとおりである。
a本件特許発明1のホストコンピュータは,券情報と発券情報とを入
力する入力手段を有するのに対し(構成要件1−B),乙1発明のホ
ストコンピューター7は券情報の情報処理を行わないため当該入力手
段を有しない点
b本件特許発明1のホストコンピュータは,座席表示情報を作成する
作成手段を有するのに対し(構成要件1−C),乙1発明のホストコ
ンピューター7は当該作成手段を有しない点
c本件特許発明1のホストコンピュータは,座席表示情報を記憶する
記憶手段を有するのに対し(構成要件1−D),乙1発明のホストコ
ンピューター7は,指定乗車券発行情報を記憶する(段落【002
0】)だけであり,座席表示情報を記憶する記憶手段を有しない点
d本件特許発明1のホストコンピュータは,座席表示情報を端末機へ
伝送する伝送手段を有するのに対し(構成要件1−E),乙1発明の
ホストコンピューター7は,指定乗車券発行情報をCPU6へ送信す
る手段を有する(段落【0020】)だけであり,座席表示情報を伝
送する伝送手段を有しない点
e本件特許発明1の端末機は,伝送手段によって伝送された座席表示
情報を入力する入力手段を有するのに対し(構成要件1−F),乙1
発明の座席指定券利用状況管理装置5は,乗車券の情報を読み取るカ
ードリーダー1(段落【0019】)と,ホストコンピューター7か
ら伝送される指定乗車券発行情報を受信するCPU6(段落【002
0】)を有するだけであり,座席表示情報を入力する入力手段を有し
ない点
f本件特許発明1の端末機は,入力手段によって入力された座席表示
情報を記憶する記憶手段を有するのに対し(構成要件1−G),乙1
発明の座席指定券利用状況管理装置5は,カードリーダー1で読み取
られる指定乗車券読取情報とホストコンピューター7から伝送される
指定乗車券発行情報とを記憶して,CPU6がこれら指定乗車券読取
情報と指定乗車券発行情報とを比較照合して,指定乗車券利用情報を
得るものであって(段落【0020】),入力手段によって入力され
た座席表示情報を記憶する記憶手段を有しない点
g本件特許発明1の端末機は,記憶手段によって記憶された座席表示
情報を表示する表示手段を有するのに対し(構成要件1−H),乙1
発明の座席指定券利用状況管理装置5は,指定乗車券利用情報を表示
し,又はプリントするディスプレイ9とプリンター10を有するが
(段落【0025】),座席表示情報を表示する表示手段を有しない

(イ)そして,乙1発明の目的(課題)が,駅,列車又は座席指定乗車券
発売機等に座席指定券利用状況管理装置を設置して,そこで指定座席の
利用状況を知ることができるようにして,実際に使われなかった当該列
車の座席指定乗車券の再発行を容易にする(段落【0034】)もので
あるのに対して,本件特許発明1の目的(課題)は,車内検札を自動化
する(本件明細書の段落【0004】)ものであって,両発明の目的
(課題)は異なる。
(2)本件特許発明2と乙1発明との対比について
ア本件特許発明2と乙1発明との対比のうち,構成要件2−A①ないし③,
2−H及び2−Iに対応する乙1文献の記載については,前記(1)の構成要
件1−A①ないし③,1−H及び1−Iと同様であり,構成要件2−Bな
いし2−Gについては,これらの構成要件に対応する乙1文献の記載はな
い。
イ本件特許発明2と乙1発明との相違点
(ア)前記アからすれば,本件特許発明2と乙1発明との相違点は,本件
特許発明1と乙1発明との相違点と同じである。
なお,被告は,乙1文献の段落【0025】の「当該列車単位でもっ
て表示或はプリントする」処理が,本件特許発明2の「識別情報別に集
計する」に該当すると主張するが,当該処理は,座席指定券利用状況管
理装置5(本件特許発明2の「端末機2」に相当する。)で行われるの
に対して,本件特許発明2の「識別情報別に集計する」のはホストコン
ピュータ1(本件明細書の段落【0017】)であるから,被告の当該
主張は,失当である。
(イ)本件特許発明2についても,乙1発明とは目的(課題)及び構成が
全く相違することは,本件特許発明1と同様である。
(3)乙2文献の開示内容について
構成要件1−C及び構成要件2−Cは,券情報と発券情報と指定座席のレ
イアウトに基づいて座席表示情報を作成するという構成であり,当該構成は
乙2文献のみならず,被告が主張するいずれの刊行物(乙3ないし5)にも
開示されていない。
したがって,前記(1)イ及び(2)イの相違点に係る構成がこれらの刊行物に
おいて開示されているということはできない。
(4)小結
以上のとおりであるから,本件各特許発明は,当業者が公知の発明に基づ
き容易に発明することができたものとはいえないから,特許無効審判により
無効にされるべきものではない。
3争点(2)イ(本件訂正の訂正要件違反の有無)について
(被告の主張)
(1)本件訂正前の本件明細書の記載によれば,券情報が存在し,かつ,発券情
報が存在しない場合には,座席表示情報を「0(空席)」として処理するた
め,車掌は,当該座席の乗車券を販売することが可能となり,また,仮に,
当該座席を使用している乗客がいたときは,車掌用携帯情報端末を確認する
ことにより,使用されているはずのない座席が使用されていることに気付く
ことが可能となるから,本件訂正前の本件明細書の記載は,誤記ではない。
これに対し,本件訂正後の本件明細書の記載によれば,券情報が存在し,
かつ,発券情報が存在しない場合には,座席表示情報を「1(使用席)」と
して処理するため,車掌は,当該座席の乗車券を販売することができず,ま
た,仮に,当該座席を使用している乗客がいたとしても,使用されているは
ずのない座席が使用されていることに気付くことができないことになる。
(2)このように,本件訂正前の本件明細書と本件訂正後の本件明細書とでは,
券情報が存在し,かつ,発券情報が存在しない場合における座席表示情報が
「0(空席)」から「1(使用席)」に変更されることによって,発明の技
術的内容に具体的な変更が生じる。
したがって,本件訂正は,明細書の実施例の内容を実質的に変更し,明細
書に記載した事項の範囲外のものであるから,このような訂正は,単なる誤
記の訂正を目的とするものではない。
よって,本件訂正は,「誤記の訂正」に当たらず,「願書に添付した明細
書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてなされたも
のではないことから,特許法126条1項ただし書2号又は4項に違反して
おり,本件各特許発明は,特許無効審判により無効にされるべきものである
(特許法123条1項8号)。
(原告の主張)
本件各特許の特許請求の範囲の記載(構成要件1−C及び2−C)からすれ
ば,本件各特許発明の座席表示情報が,券情報と発券情報の両情報に応じて変
更されるものであることは,当業者に明らかである。
そうすると,本件訂正前の本件明細書の記載は,座席表示情報が発券情報の
みに依存して変更されるものであり,特許請求の範囲の記載とは明らかに矛盾
する。そして,このような明らかに矛盾する記載をみた当業者にとって,本件
訂正後のように,本件明細書の記載を,券情報が存在する場合に「1(使用
席)」とすべきものであることは,明らかである。
したがって,このような明らかに矛盾する記載を,当業者に明らかな本来の
記載に訂正することは,本件訂正前の明細書に記載した事項の範囲内のもので
あり,特許法が認める「誤記の訂正」である。
4争点(3)(原告の損害)について
(原告の主張)
(1)被告による本件特許権の侵害期間
被告は,平成14年9月から被告システムの試使用を,平成14年12月
から被告システムの本使用をそれぞれ開始し,現時点においても,これを使
用している。
したがって,被告による本件特許権の侵害期間は,本件特許権に係る特許
公報の発行日である平成19年10月24日から本件訴え提起日である平成
21年7月22日までの1年8か月となる。
(2)本件特許権の実施料
本件各特許発明は,座席を管理することを目的とするシステムであること
から,列車の指定座席の管理のみならず,例えば,コンサート会場やスポー
ツ競技場等において座席管理を必要とする場合にも使用することができ,幅
広い分野において需要があるものといえる。また,本件各特許発明は,端末
機を用いることで座席管理を行うため,多くの人員で指定券を直接確認する
ことなく,少人数で座席管理が可能であるから,合理性を有する。
以上のことからすれば,本件各特許発明は,座席を管理するシステムとし
て,極めて高い価値を有するものであって,本件各特許発明を実施するため
の許諾料は,少なくとも月額100万円を要する。
(3)小括
以上のとおりであるから,前記(1)の期間に相当する本件特許権の実施料相
当額は,2000万円(=1年8か月×100万円)であり,同額が原告の
損害である(特許法102条3項)。
(被告の主張)
否認する。
第4争点に対する判断
1争点(1)(被告システムが本件各特許発明の技術的範囲に含まれるか否か)に
ついて
(1)本件各特許発明における「座席表示情報」の意義
ア本件明細書の記載
本件各特許の特許請求の範囲の記載は,前記第2の1の争いのない事実
等の(1)のとおりであるところ,本件訂正後の本件明細書の発明の詳細な説
明欄における「座席表示情報」に関する記載は,次のとおりである(甲2,
11)。
(ア)従来の技術及び発明が解決しようとする課題
「【0002】
【従来の技術】従来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,
カードリーダで読取られた座席指定券の券情報及び券売機等で発券され
た座席指定券の発券(座席予約)情報等を,例えば列車車内において,
端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,指定座席の利用状況
を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定席利用状
況監視装置(特公H5−47880号公報)が発明されている。
「【0003】図2は,前記座席指定席利用状況監視装置に備えられる端
末機の概略図を示すもので,券情報入力15で受けたカードリーダで読
取られた座席指定券の券情報と,発券情報入力16で受けた券売機等で
発券された座席指定券の発券情報等の情報をCPU17に記憶して情報
処理して,各指定座席の使用及び空席等の利用状況をディスプレイ18
に表示して,該表示を車掌が目視できるようにして,車内検札を自動化
した座席管理装置である。」
「【0004】このように,前記座席指定席利用状況監視装置は,共に指
定座席の使用及び空席等の利用状況を表示する座席表示情報となり,か
つ,車内検札を自動化するのに絶対不可欠な前記券情報或いは前記発券
情報を用いて,列車車内において各指定座席の利用状況を表示するよう
にした(中略)例えばこれ等の両情報を地上の管理センターから受ける
場合,伝送される情報は2種になるために通信回線の負担を1種の場合
に比べて2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度とをともに2
倍にするなどの問題がある。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は,上
記発明の座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに
基づいて各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上
の管理センターから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,
該情報を伝送する通信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容
量と処理速度とをともに2倍にするなどの点にある。」
(イ)課題を解決するための手段及び作用
「【0006】
【課題を解決するための手段】上記問題を解決するために,本発明は,
上記管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダで
読取られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発
券情報とを入力して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表示情報
を作成して,作成された前記座席表示情報を,前記ホストコンピュータ
と通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられ
る端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示情報を入力して表示し
てするように構成したことを主要な特徴とする。」
「【0007】
【作用】本発明は,これ等の構成によって,上記ホストコンピュータか
ら上記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表
示情報から1つの表示情報となる上記座席表示情報にすることで半減さ
れ,これによって通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半
減する。」
(ウ)実施例
「【0009】ホストコンピュータ1において,券情報入力3は前記券情
報を受けてこれをCPU6へ入力して,さらに発券情報入力4は前記発
券情報を受けてこれをCPU6へ入力して,制御情報入力5は端末機2
から情報の伝送を指令する伝送指令情報或いは前記座席管理地において
発券された座席指定席の発券情報等を受けてこれ等の情報をCPU6へ
入力する。」
「【0010】CPU6は,券情報入力3から入力された前記券情報及び
発券情報入力4から入力された前記発券情報それに制御情報入力5から
入力された前記発券情報等を記憶するとともに,これ等の情報に基づき,
かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて,
例えば前記券情報及び前記発券情報の両情報又は前記券情報若しくは前
記発券情報が存在するときは「1」(使用席)とし,両情報が存在しな
いときは「0」(空席)として,各指定座席の利用状況を表示する座席
表示情報を作成して,これを記憶するとともに,該座席表示情報を,制
御情報入力5から前記伝送指令情報が入力されたとき表示情報出力8へ
出力する。」
「【0011】ディスプレイ7はCPU6に記憶された前記座席表示情報
を受けて表示し,さらに表示情報出力8は,制御情報入力5が前記伝送
指令情報を受けてCPU6に入力したときCPU6から出力された前記
座席表示情報を通信回線に乗せて端末機2へ伝送する。また操作部9は,
CPU6のプログラムのシーケンスを制御して,前記した各種情報の入
力の受付や,前記座席表示情報を受けて表示されるディスプレイ7の画
像をスクロールする等の操作をする。」
「【0012】次に,端末機2において,表示情報入力10は,ホストコ
ンピュータ1と通信回線で結ばれて,伝送された前記座席表示情報を受
けてこれをCPU11へ入力する。」
「【0013】CPU11は表示情報入力10から入力された前記座席表
示情報を受けてこれを記憶するとともに,ホストコンピュータ1へ情報
の伝送を指令する伝送指令情報を記憶する。さらにディスプレイ12は
CPU11に記憶された前記座席表示情報を受けて,当該座席管理地に
設置される指定座席のレイアウトに基づいて各指定座席の利用状況を表
示する。」
「【0016】これ等のことから,本発明の座席管理システムは,カード
リーダ(改札機等)で読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で
発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられ
るホストコンピュータ1が,前記券情報と前記発券情報,それに,ホス
トコンピュータ1と通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席
管理地に備えられる端末機2からの,当該座席管理地で発券された座席
指定券の発券情報等を受けて,これ等の情報に基づいて,かつ,前記座
席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて座席表示情報を
作成して,これを表示するとともに,作成された座席表示情報を,端末
機2からの前記座席表示情報の伝送を指令する伝送指令情報を受けて伝
送して,さらに,端末機2が,ホストコンピュータ1から伝送された前
記座席表示情報を受けてこれを表示するとともに,(略)座席管理者が
各指定座席の利用状況を目視できるようにしている。」
「【0018】さらに,端末機2でする前記座席表示情報の表示は,当該
座席管理地に設置される指定座席の各座席ごとの着席されているか否か
に係る着席情報を入力して,該着席情報と前記座席表示情報とに基づい
て新たな座席表示情報を作成して表示して,各指定座席の利用状況の表
示をより正確にする(略)とよい。」
(エ)発明の効果
「【0020】
【発明の効果】以上説明したように本発明の座席管理システムは,上記
管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダ(改札
機等)で読取られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指
定券の発券情報とを入力して,これ等の両情報に基づいて表示する座席
表示情報を作成して,作成された前記座席表示情報を,前記ホストコン
ピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に
備えられる端末機へ伝送して,該端末機が前記座席表示情報を入力して
表示してするようにしたことで,該端末機がする各指定座席の利用状況
の表示を前記券情報と前記発券情報との両表示情報から1つの表示情報
となる前記座席表示情報で実現できるようになり,これによって前記ホ
ストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回
線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機
のコストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。」
イ検討
(ア)特許請求の範囲の記載及び前記アの本件明細書の記載からすれば,
本件各特許発明における「座席表示情報」は,券情報及び発券情報に基
づき,かつ,座席管理地の座席レイアウトに基づいて表示するものとし
て,管理センターに備えられるホストコンピュータにおいて作成され,
ホストコンピュータから座席管理地に備えられる端末機に伝送され,当
該端末機が,これを入力して,その表示手段(ディスプレイ等)におい
て表示するものと解される。
そして,端末機の表示手段における座席表示情報の表示は,座席管理
地の座席レイアウトに基づいて座席の利用状況を表示するものであって,
座席管理者が,各指定座席の利用状況を目視することができるものであ
ると認められる。他方で,本件明細書には,端末機において,座席表示
情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウト
に基づいて座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を目視す
ることができるものとすることに関する記載はない。
以上のことからすれば,本件各特許発明における「座席表示情報」は,
当該情報を端末機に表示すれば,座席管理地の座席レイアウトに基づい
て座席の利用状況が表示されるものであって,各指定座席の利用状況を
目視することができるものをいうと解される。
(イ)原告の主張について
原告は,「表示情報」という用語の一般的な概念に照らして,「座席
表示情報」とは,表示イメージ情報に加えて,表示構成情報を意味する
場合を含んでおり,本件明細書(段落【0013】)にも,センターサ
ーバーで表示構成情報を作成して端末機に伝送し,端末機において,表
示構成情報と座席レイアウトに基づき,表示イメージ情報を作成するこ
とが記載されていると主張する。
aしかしながら,「表示情報」という用語が,一般的に「表示構成情
報」を意味すると認めるに足る証拠はない。そして,特許請求の範囲
に記載された用語の意義は,願書に添付した明細書の記載及び図面を
考慮して解釈されるところ(特許法70条2項),本件明細書の記載
に照らして,本件各特許発明においては,「座席表示情報」とは,当
該情報を端末機に表示すれば,座席管理地の座席レイアウトに基づい
て座席の利用状況が表示されるものであって,各指定座席の利用状況
を,座席管理地の座席レイアウトに基づいて目視することができるも
のをいうと解されることは,前記(ア)のとおりである。
これに対して,原告が主張する表示構成情報とは,表示イメージ情
報を作成するためのものであって,それだけでは,座席管理地の座席
レイアウトに基づいて座席の利用状況が表示され,各指定座席の利用
状況を目視することができるものではないから,このような情報が,
本件各特許発明にいう「座席表示情報」に該当すると認めることはで
きない。
bまた,原告がその主張の根拠として挙げる本件明細書の記載(段落
【0013】。前記ア(ウ)参照。)も,端末機のディスプレイは,端
末機の「CPU11に記憶された前記座席表示情報を受けて,当該座
席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて各指定座席の
利用状況を表示する」という表示の態様が記載されているにすぎず,
端末機において,座席表示情報(原告が主張する表示構成情報)と座
席レイアウトに基づいて,別個の情報(原告が主張する表示イメージ
情報)を作成することによって当該表示が行われることについては,
何ら記載・示唆するものではない。そして,他に,本件明細書には,
端末機において,「座席表示情報」とそれ以外の他の情報とを処理す
ることにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示し
て,各指定座席の利用状況を目視することができるものとすることに
関する記載はないことは,前記(ア)のとおりである。
cなお,前記ア(イ)のとおり,本件各特許発明の作用は,「ホストコ
ンピュータから上記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発
券情報との両表示情報から1つの表示情報となる上記座席表示情報に
することで半減され,これによって通信回線の負担と端末機の記憶容
量と処理速度とを半減する。」(本件明細書の段落【0007】)と
されており(本件明細書の発明の効果欄(段落【0020】)にも同
趣旨の記載がある。),原告の主張は,これらの記載も根拠として,
座席表示情報とは,券情報と発券情報(原告が主張する表示構成情
報)のみから成ると主張するものとも解される。
しかしながら,そのように解するとすると,表示構成情報に加えて,
「指定座席のレイアウト」を表示するための情報が必要であると解さ
れるところ,当該情報がいかなる手段で端末機に送信されるのかが不
明となってしまう。
むしろ,特許請求の範囲の記載においては,明確に,管理センター
に備えられるホストコンピュータは,「座席管理地に設置される指定
座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手
段」を備え,これにより作成された「座席表示情報」を記憶して端末
機に伝送するものとされているのであるから,本件各特許発明は,ホ
ストコンピュータが座席レイアウトを表示するための情報を含んだ座
席表示情報を作成する手段を備えるものとして構成された発明である
と解すべきである。
そして,そのような構成によっても,券情報と発券情報が1つの情
報とされることによって,情報を半減するという発明の作用効果を奏
することができるのであるから,本件明細書中の作用や効果の記載と
も矛盾はないものというべきである。
dしたがって,本件各特許発明にいう「座席表示情報」とは,表示構
成情報を意味するという原告の前記主張は,理由がない。
(2)被告システムにおける「座席表示情報」の作成について(被告システムの
構成及び構成要件充足性)
ア証拠(甲3,4,6の1ないし3,7,乙6ないし8)及び弁論の全趣
旨によれば,被告システムにおいては,「編成パターン情報」(車両及び
座席の編成に関する情報)と「座席・乗車券情報」(号車数,号車内座席
数,各座席番号に対応する乗車券数,当該乗車券に記載された乗車駅等の
データであって,それ自体としては,座席のレイアウトに基づき各指定席
の利用状況を表示するものではない。)とが別々の情報として,センター
サーバーから車掌用携帯情報端末に送信されており,座席管理地の座席レ
イアウトに基づいて座席の利用状況が表示されるものであって,各指定席
の利用状況を目視することができる情報は,車掌用携帯情報端末において
作成されていると認められる。
このような被告システムの構成からすれば,被告システムにおいては,
本件各特許発明における「座席表示情報」は,車掌用携帯情報端末におい
て作成されており,センターサーバーで作成された「座席表示情報」を車
掌用携帯情報端末に伝送するものではないから,ホストコンピュータにお
いて「座席表示情報」を作成・記憶・伝送するもの(構成要件1−Cない
し1−E,2−Cないし2−E)とは認められず,また,車掌用携帯情報
端末が伝送された「座席表示情報」を入力・記憶・表示するもの(構成要
件1−Fないし1−H,2−Fないし2−H)とも認められない。
したがって,被告システムは,本件特許発明1につき構成要件1−Cな
いし1−Hを,本件特許発明2につき構成要件2−Cないし2−Hを,そ
れぞれ充足するとは認められない。
イ原告の主張について
(ア)原告は,表示構成情報が本件各特許発明にいう「座席表示情報」に
該当することを前提に,被告システムにおける「座席・乗車券情報」が
表示構成情報に該当するとして,被告システムは,本件各特許発明の構
成要件を充足すると主張する。
しかしながら,表示構成情報が本件各特許発明にいう「座席表示情
報」に該当しないことは,前記(1)イ(イ)のとおりであり,原告の前記主
張は,その前提において理由がないから,これを採用することはできな
い。
(イ)また,原告は,被告システムにおいても,一定の場合には,「通過
情報」でも「発売情報」でもない,新たな別の情報である「座席・乗車
券情報」を伝送しており,「座席・乗車券情報」を車掌用携帯情報端末
に伝送する際のパケット量は,「通過情報」と「発売情報」の2つの情
報を伝送する際のパケット量よりも少なく,その限りにおいて,被告シ
ステムは,本件各特許発明の作用効果とほぼ同様の作用効果を奏してい
るとして,被告システムにおける「座席・乗車券情報」は,本件各特許
発明の「座席表示情報」に相当すると主張する。
しかしながら,前記(1)イのとおり,本件各特許発明における「座席表
示情報」は,当該情報を端末機に表示すれば,座席管理地の座席レイア
ウトに基づいて座席の利用状況が表示されるものであって,各指定座席
の利用状況を目視することができるものをいうと解されるのに対し,前
記アのとおり,被告システムにおける「座席・乗車券情報」は,座席の
レイアウトに基づき各指定席の利用状況を表示するものではないことか
らすれば,当該「座席・乗車券情報」が,本件各特許発明における「座
席表示情報」に該当するとは認められない。
そして,仮に,被告システムにおいて,「座席・乗車券情報」を伝送
する際のパケット量が,「通過情報」と「発売情報」の2つの情報を伝
送する際のパケット量より少なくなることにより,「通信回線の負担と
端末機の記憶容量と処理速度」が軽減されるという,本件各特許発明と
同様の作用又は効果を奏しているとしても,当該「座席・乗車券情報」
と本件各特許発明における「座席表示情報」とが,その情報の構成・内
容を異にする以上,別の手段・構成によって本件各特許発明と同様の作
用又は効果を奏しているにすぎないのであるから,同様の作用又は効果
を奏することをもって,「座席・乗車券情報」が本件各特許発明の「座
席表示情報」に該当することになるものではない。
したがって,原告の前記主張は,理由がない。
(ウ)さらに,原告は,特許発明の技術的範囲は,明細書の特許請求の範
囲の記載に基づいて定められることを要し,その記載のみでは技術的意
義を明確に理解することができない等の特段の事情があるときに限り,
明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌することができるとの解釈を
前提に,本件各特許発明は,その特許請求の範囲の記載から,「座席表
示情報」が,座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて
表示するために「券情報」と「発券情報」とに基づき作成される情報で
あることは容易に理解することができるとして,「座席・乗車券情報」
が本件各特許発明の「座席表示情報」に該当すると主張する。
しかしながら,原告の当該主張中,特許発明の技術的範囲についての
解釈は,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定め
られるが,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載及
び図面を考慮して解釈すると規定されていること(特許法70条1項及
び2項)に照らして,採用することができない。そして,本件明細書の
特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載に照らして解釈すれ
ば,本件各特許発明における「座席表示情報」は,当該情報を端末機に
表示すれば,座席管理地の座席レイアウトに基づいて座席の利用状況が
表示されるものであって,各指定座席の利用状況を,座席管理地の座席
レイアウトに基づいて目視することができるものをいい,被告システム
の「座席・乗車券情報」がこれに該当しないことは前記(1)イ及び(イ)の
とおりであるから,原告の前記主張は,理由がない。
(3)小括
以上のとおりであるから,被告システムは,本件各特許発明の技術的範囲
に属するものと認めることはできない。
2よって,原告の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし
て,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官坂本三郎
裁判官岩崎慎
(別紙)
イ号物件目録
被告の運行する下記特急列車において,被告が使用する車内改札システム

「新幹線」(指定席)
やまびこなすのときたにがわつばさはやてあさまこまち
MaxやまびこMaxなすのMaxときMaxたにがわ
以上

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