弁護士法人ITJ法律事務所

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平成29年7月31日判決言渡
平成28年第4021号損害賠償請求事件
判決
主文
1被告は,原告Aに対し,118万5098円及びこれに対する平成2
9年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,29万9369円及びこれに対する平成2
9年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用の負担は,次のとおりとする。
原告Aに生じた費用と被告に生じた費用の2分の1は,これを4分
し,その3を原告Aの負担とし,その余を被告の負担とする。
原告Bに生じた費用と被告に生じた費用の2分の1は,これを5分
し,その4を原告Bの負担とし,その余を被告の負担とする。
5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告Aに対し,550万円及びこれに対する平成28年1月14日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,200万円及びこれに対する平成28年4月27日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,アイドルとして活動する女性と私的に会ったことなどに因縁をつけ
られ,同女性の所属するアイドルグループのプロモーション事業を行っている
被告から金銭を喝取されたと主張する原告らが,被告に対し,不法行為に基づ
き損害賠償請求を行う事案である。原告Aは,被告に対し,550万円(喝取
金300万円,慰謝料200万円,弁護士費用50万円の合計)及びこれに対
する不法行為日の後である平成28年1月14日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告Bは,被告に対し,200
万円(喝取金80万円,慰謝料100万円,弁護士費用20万円の合計)及び
これに対する最終の不法行為日の後である同年4月27日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
2前提事実(争いのない事実のほかは,後掲各証拠(枝番があるもので,その
全てを摘示すべき場合には,その記載を省略する。以下同じ。)及び弁論の全
趣旨により明らかに認められる。)
当事者
ア被告は,Cの名称でアイドルグループのプロモーション事業を行ってい
る者である。Cには,3名の女性からなるDというアイドルグループがあ
り,E及びFは,そのメンバーであった。
イ原告Aはa年b月c日生まれの男性であり,C所属のアイドルグループ
のファンである。原告Aは,Eを特に応援していた。(甲5)
ウ原告Bは,d年e月f日生まれの男性であり,C所属のアイドルグルー
プのファンである。原告Bは,Fと交際していた。(甲11の2)
原告Aに対する金銭喝取
被告は,平成28年1月8日,原告AとEが私的に連絡を取り合っていた
ことに関し,原告Aに対し,けじめとして300万円を払うよう要求し,金
を支払わなければ原告A及びその家族に危害を加える旨を述べて脅迫した。
畏怖した原告Aは,同月12日,被告の指示に基づき消費者金融から300
万円を借り入れ,これを被告に交付した。
原告Bに対する金銭喝取
ア被告は,平成27年12月26日,原告BとFが交際していることに関
し,原告Bを呼び出して脅迫し(その脅迫の具体的な態様については争い
がある。),10万円を支払うよう要求した。畏怖した原告Bは,同年1
2月頃から平成28年3月頃の間に,被告に対して,3回に分けて,合計
10万円を支払った(その支払時期については争いがある。)。
イまた,被告は,平成28年4月28日,かねてより被告から脅迫を受け,
同人を畏怖していた原告Bに対し,消費者金融で70万円を借り入れてく
るよう要求し,原告Bが被告の指示に基づき借り入れてきた70万円の交
付を受けた。
本件訴訟に至る経緯等
原告らは,平成28年7月26日,原告ら訴訟代理人を通じて,被告に対
して損害賠償を請求したが,被告が何の応答もしなかったため,同年9月5
日,本件訴訟を提起した。また,原告らは,同年6月20日付けで被告を刑
事告訴した。
被告は,本件訴訟において,当初,原告らが被告に交付した金員は借入金
の返済であると主張していたが,本件被害弁償金として,平成29年1月1
1日に300万円を原告Aに,同年2月9日に100万円を原告Bに,それ
ぞれ支払うとともに,同月17日の第2回弁論準備手続期日において,原告
らに対する責任原因は争わない旨述べ,認否を訂正した。
被告は,原告Aに対する恐喝罪等により懲役2年6月,執行猶予4年の有
罪判決を受けた。(甲13,14,18,弁論の全趣旨,当裁判所に顕著)
弁済
ア被告は,原告Aに対し,本件の損害賠償金として,
次のとおり合計325万円を弁済した。
平成29年1月11日300万円
同年2月20日5万円
同年3月31日5万円
同年5月1日5万円
同月30日5万円
同年6月2日5万円
イ被告は,原告Bに対し,本件の損害賠償金として,平
成29年2月9日に100万円を弁済した。
3争点
被告の金銭喝取による原告らの損害(特に慰謝料額)
4争点に関する当事者の主張
原告A関係
(原告Aの主張)
ア経済的損害
原告Aは,被告から300万円を脅し取られたことにより,同額の経済
的損害を被った。
イ精神的損害
被告は,原告Aに対して額面300万円の借用書を作成させて,客観的
に消費貸借契約が存在するかのような偽装をした上で,原告Aがアイドル
であるEと私的に会っていたことに因縁をつけ,原告A及びその家族に危
害を加える旨の脅迫をした上で,財産のない原告Aに複数の消費者金融等
から借入れをさせて300万円を喝取したものである。その態様は計画的
であり,原告Aの被害を一顧だにしない極めて悪質なものである。
原告Aは,消費者金融等から借金をしてまで被告に300万円を支払わ
なければならない法的根拠は全くなかったにもかかわらず,被告の身勝手
な行為により,消費者金融への返済で原告A自身の生活がひっ迫する事態
に陥れられ,消費者金融に対して合計45万8214円の利息負担が生じ
ることになった。
被告の不法行為によって原告Aが被った精神的損害を慰謝するに足りる
金額は200万円を下ることはない。
ウ弁護士費用
原告Aは本件訴訟提起に当たり弁護士に依頼せざるを得ず,被告の不法
行為と相当因果関係のある弁護士費用は50万円が相当である。
(被告の主張)
原告Aの損害額は争う。
被告による被害弁償によって,原告Aによる消費者金融に対する借入れは
一括弁済が可能となっており,その利息分はそれほど多くはならないと考え
られる。また,原告Aは,被告に対し,アイドルという特殊な職業について
いるEと交際をしないことを約束したにもかかわらずこれを破ったものであ
って,このことも考慮すると,本件の慰謝料額は相当額減額されるべきであ
る。
原告B関係
(原告Bの主張)
ア経済的損害
原告Bは,被告から80万円を脅し取られたことにより,同額の経済的
損害を被った。
イ精神的損害
原告Bは,被告による脅迫によって80万円を喝取されたところ,被告
に指示されるままに消費者金融から合計70万円の借入れを余儀なくされ
た。原告Bは,消費者金融等から借金をしてまで被告に80万円もの金額
を支払わなければならない法的根拠は全くなかったにもかかわらず,被告
の身勝手な行為によって消費者金融への返済に追われる事態に陥れられた
ものであり,消費者金融に対して合計5万0047円の利息負担が生じる
ことになった。
被告の不法行為によって原告Bが被った精神的損害を慰謝するに足りる
金額は100万円を下ることはない。
ウ弁護士費用
原告Bは本件訴訟提起に当たり弁護士に依頼せざるを得ず,被告の不法
行為と相当因果関係のある弁護士費用は20万円が相当である。
(被告の主張)
原告Bの損害額は争う。
被告による被害弁償によって,原告Bによる消費者金融に対する借入れは
一括弁済が可能となっており,その利息分はそれほど多くはならないと考え
られる。また,原告Bは,被告に対し,アイドルという特殊な職業について
いるFとの交際を第三者に悟られないようにすることを約束したにもかかわ
らずこれを破ったものであって,このことも考慮すると,本件の慰謝料額は
相当額減額されるべきである。
第3当裁判所の判断
1原告A関係
認定事実
前記前提事実に加え,後掲各証拠と弁論の全趣旨を総合すると,次の事実
が認められる。
ア原告Aは,Eのファンであったところ,平成27年12月11日,原告
Bとともに,E及びFと会い,アミューズメント施設等で時間を過ごした。
また,同日,原告Aは,Eと携帯電話の連絡先を交換し,それ以降,Eと
私的に連絡を取り合うようになった。
そうしたところ,原告Aは,同月18日,被告から呼出しを受け,Cに
対して,業務妨害及び所属タレントに連絡先を聞くなどの迷惑行為をしな
い旨の誓約書を作成させられた。また,その後,原告Aは,被告から原告
Aの住所,連絡先及び勤務先を伝えるよう指示され,やむなくこれを伝え
た。しかしながら,原告Aは,上記誓約書作成後も,複数回,直接Eと会
うなどして,Eと私的な連絡を取り合っていた。(甲2,3,18,乙4,
原告A本人,被告本人)
イ原告Aは,平成28年1月8日,被告から再度呼出しを受け,車でビル
の4階に連れて行かれた上,被告から,携帯電話の画面上に表示された文
面を紙に書き写すように指示された。その内容は,原告Aが被告から30
0万円を借りたという同日付けの借用書であった。
その後,原告Aは,被告からEと私的に会っていないか追及され,当初
は否定していたものの,被告が,携帯電話で「どうだ,吐いたか。」など
と話して別の場所で誰かにEの尋問をさせているかのような素振りをした
り,原告Aを尾行した証拠写真があるなどと述べたりしたことから,原告
Aは,認めなければ何をされるか分からないと怖くなり,Eと会っていた
ことを白状した。すると,被告は,原告Aに対し,「ケジメとしてこの借
用書の内容通り払ってもらうからな。」「金を作る方法は教える。」「2
50万でもいいから払え。」「払わなくてお前が逃げても家族や会社に迷
惑がかかるかもしれんからな。」「家にいられなくしてやる。」「金を払
うのが嫌なら船もあるし,死亡保険で俺のところに金が入るしな。」など
と申し向け,反社会的勢力とのつながりをにおわせながら,原告A及びそ
の家族に危害を加える旨を告げて金銭を要求した。
その夜,原告Aは被告から再度呼び出され,同年3月1日付けの借用書
(被告から同日300万円を借り入れた旨の記載があるもの)を作成させ
られた。また,原告Aは,被告の指示により,被告に対して自身の運転免
許証のコピーを渡した。(甲2,4,5,18,乙4,原告A本人,被告本
人)
ウ原告Aは,平成28年1月9日にも,被告から呼出しを受け,被告と会
った。すると,被告は,原告Aに対し,消費者金融に対してカードローン
の申込みに行くように指示し,原告Aは,被告から脅迫を受けて畏怖して
いたことからこれに逆らえず,被告が指示するとおり,複数の消費者金融
カードローンの基本契約に申し込み,合計250万円の借入可能枠を設定
した。
被告は,同月12日,再度原告Aを呼び出し,さらに別のカードローン
に申し込ませて50万円の借入可能枠を設定させ,前記250万円の借入
可能枠も用いて,300万円を借り入れるように指示した。
原告Aは,被告の指示に従わないと何をされるか分からないと考え,同
日,消費者金融から合計300万円を借り入れ,これを被告に交付した。
(甲2,6,7,16,18,乙4,原告A本人,被告本人)
エ原告Aは,本件当時実家に居住し,アルバイトとして稼働しており,手
取り給与は多くて月額14万円程度であったが,上記借入れに係る返済を
毎月8万1000円宛することになった。平成29年1月11日に,被告
から本件損害賠償金の一部として300万円が支払われたことによって,
消費者金融に対する一括返済が可能となり,同年2月13日から同月16
日の間に各消費者金融に対する借入金を返済したが,上記各借入れにより,
原告Aには45万8214円の利息負担が生じた。(甲16,18,20,
原告A本人)
損害額
前記の認定事実によれば,原告Aは,被告による脅迫によって被告に対
して300万円を交付したものと認められるところ,このような被告による
恐喝行為が原告Aに対する不法行為に当たることは明らかである。そして,
上記不法行為(原告Aに対する恐喝)により原告Aに生じた損害は,次のと
おり420万円であると認められる。
ア財産的損害300万円
の認定事実ウによれば,原告Aは,被告による恐喝行為によって
被告に対して300万円を交付したと認められる。したがって,上記喝取
金は上記不法行為による損害と認められる。
イ精神的損害100万円
原告Aから喝取された金額300万円は,月額給与が多くて14万円程
度の原告Aにとっては極めて高額であるところ,原告Aは,当初,被告に
よる弁済がされなかったこともあり,約1年もの間,被告の指示に基づき
行った消費者金融からの借入れの返済のために,毎月収入額の半分以上の
支出を余儀なくされ,その利息として45万円余の負担を余儀なくされた
ものであって,被告による恐喝が原告Aの生活に与えた経済的影響は大き
い。
また,原告Aに対する脅迫の態様についてみても,複数回にわたり原告
Aを呼び出した上で,借用書の作成を強要し,反社会的勢力とのかかわり
をうかがわせる言動を行い,既に勤務先及び連絡先を聞き出していた原告
A及びその家族の生命・身体に害を加える文言を用いた脅迫を行ったもの
であって,その脅迫態様も悪質である。
これに対し,被告は,原告Aが被告との約束を破って私的にEと会って
いたことに照らせば,慰謝料額は減額されるべきであると主張する。しか
しながら,このことは原告Aに対する恐喝に至った動機として特段酌むべ
きものとはいえない上,原告Aが被害に遭うことについて落ち度があった
ことを基礎づけるものでもないから(被告は,自身も所属アイドルと交際
していたことを認めている(被告本人)。),慰謝料を減額すべき事情に
当たるとはいえない。
以上の事情,とりわけ,原告Aにおいて被告の指示に基づく消費者金融
からの借入れにより,45万円余の利息負担を余儀なくされたこと等の本
件に顕れた一切の事情を考慮すると,原告Aが被った精神的苦痛を慰謝す
るに足りる金額は,100万円と認めることが相当である。
ウ弁護士費用20万円
原告Aは,弁護士に依頼して本件訴訟を提起しているところ,本件の認
容額のほか,本件訴訟提起後も,当初は原告Aに対する恐喝自体を否認し
て責任を争う姿勢を示して被害弁償を拒んでいたことなどの本件に顕れた
一切の事情を考慮すると,原告Aに対する不法行為と相当因果関係のある
損害として認められる弁護士費用としては,20万円をもって相当と認め
る。
弁済による充当
前提事実アのとおり,原告Aに対する損害賠償金については一部弁済さ
れているところ,これらの弁済金はまず既に発生した遅延損害金に充当され,
その余が元本に充当されることになる(民法491条1項)。原告Aに対す
る弁済について上記のとおり充当を行うと,別紙計算書1(添付省略)のと
おり,残元金は118万5098円,遅延損害金は残元金に対する平成29
年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員が未払となる。
小括
したがって,原告Aの請求は118万5098円及びこれに対する平成
29年6月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
2原告B関係
認定事実
前記前提事実に加え,後掲各証拠と弁論の全趣旨を総合すると,次の事実
が認められる。
ア原告Bは,Fのファンであったところ,平成27年12月初旬以降,当
時16歳であったFと,個人的に連絡を取り合うようになった。また,同
月11日には,原告Aとともに,E及びFとアミューズメント施設等で時
間を過ごし,この頃から原告BはFと交際するようになった。
そうしたところ,原告Bは,同月14日夕方,被告から呼出しを受けた。
被告は,原告Bに対し,「ビジネスの邪魔をして,何してくれるんだ。」
などと凄んだ上,「今すぐ連絡先を消せば許してやる。」などと申し向け,
原告Bはやむなく携帯電話内のFの連絡先を削除した。(甲9,19,乙
4,原告B本人,被告本人)
イしかし,原告Bは,その数日後から再びFと連絡を取るようになったと
ころ,平成27年12月26日には,Fがライブ前ミーティングを欠席し
たことから,被告は,Fが原告Bとカラオケにでも行っているのではない
かと考えた。そこで,被告は,同日夕方,ライブ会場に来ていた原告Bを
連れ出し,「Fがいくつだと思っているんだ。」「こっちの仕事の邪魔に
なるようなことをするな。」「このことを会社にも連絡させてもらうぞ。」
などと申し向け,18歳に満たない青少年と交際していることを原告Bの
勤務先に密告して退職を余儀なくさせる旨の脅迫をした。
また,被告は,原告BとFの交際を黙認する代わりに交際方法について
ルールを定めるとともに,原告Bに対してFがアイドルを続けることがで
きなかったときには50万円を支払うよう申し向け,原告Bに対して,携
帯電話の画面上に表示された文面を書き写させて,原告Bが同年11月2
8日に被告から50万円を借りた旨記載した借用書を作成させた。
さらに,被告は,Fが原告Bと連絡を取り合っていることにより10万
円の損害又は費用が発生したと因縁をつけて,これを支払うように求めた。
原告Bは,被告による上記脅迫等により畏怖していたため,遅くとも平成
28年3月末までに,被告に対して3回にわけて合計10万円を支払った。
そして,被告は,原告Bに対して勤務先とその電話番号を送信するよう要
求し,原告Bはやむなく自身の勤務先とその電話番号を送信した。(甲9,
10,19,乙4,原告B本人,被告本人。なお,平成27年12月26
日に被告が原告Bに対して申し向けた脅迫文言については争いがあるが,
原告Bの主張を認めるに足りる客観的証拠がないことから,被告が自認し
ている範囲で認定する。ただし,被告が自認している範囲でも脅迫行為は
認められる。)
ウ平成28年4月7日,被告は,原告BとFの距離が近いとの指摘が他の
アイドルからあったことから,原告Bに対して,「次ウチの子からまた突
っ込まれたら責任取らすぞ。わかったか」「あんま調子にのってんなよ」
「次はないぞ」「本気で次は許さんぞ」などと強い調子でメッセージを送
信した。(甲9,乙4,被告本人)
エ平成28年4月16日,Fは,アイドル活動を無断で休業し,最終的に
Cを辞めることとなった。そこで,被告は,前記恐喝により被告に畏怖の
念を抱いていた原告Bに対して,上記イの50万円に,Fが無断欠勤した
ことによる損害賠償20万円を加えた合計70万円を支払うよう要求し
た。
そして,被告は,同月26日,原告Bを呼び出し,消費者金融から70
万円を借りてくるように指示をした。原告Bは,被告に対して畏怖の念を
抱いていたため,被告の指示どおり,消費者金融2社から合計70万円を
借り入れた上,70万円用意することができた旨を連絡して被告のもとを
赴き,被告に70万円を交付した。その際,被告は,原告Bに対して,た
だし書として「借用文返済金として」と記載した50万円の領収書を交付
した。(甲9,11,12,17,19,乙4,原告B本人,被告本人)
オ原告Bは,本件当時実家に居住しながら工務店で勤務しており,手取り
給与は月額概ね20万円前後であったが,上記借入金を毎月2万円ないし
2万5000円返済することになった。平成29年2月9日に,被告から
本件損害賠償金の一部として100万円が支払われたことによって,原告
Bは,消費者金融に対する一括返済が可能となり,各消費者金融に対する
借入金を返済したが,上記各借入れにより,5万0047円の利息負担が
生じた。(甲17,19,原告B本人)
損害額
前記の認定事実によれば,原告Bは,被告による脅迫によって被告に対
して80万円を交付したものと認められるところ,このような被告による恐
喝行為が原告Bに対する不法行為に当たることは明らかである。そして,上
記不法行為(原告Bに対する恐喝)により原告Bに生じた損害は,次のとお
り125万円であると認められる。
ア財産的損害80万円
前記の認定事実イないしエによれば,原告Bは,被告による恐喝行為
によって被告に対して合計80万円を交付したと認められる。したがって,
上記喝取金は上記不法行為による損害と認められる。
イ精神的損害40万円
原告Bから喝取された金額80万円は,原告Aが喝取された300万円
よりは低額であるものの,月額給与が20万円前後の原告Bにとっては高
額である上,原告Bは,被告による一部弁済を受けるまでの約10か月間,
消費者金融に対する返済を余儀なくされ,その利息として5万円余の負担
を強いられたものであるから,被告による恐喝が原告Bの生活に与えた影
響は小さくはない。
また,原告Bに対する脅迫の態様についてみても,原告Bから勤務先等
を聞き出した上で,18歳未満の青少年と交際していることを勤務先に伝
える等と,原告Bの仕事に影響を生じさせかねない行動を行う旨の脅迫な
どを行い,借用書の作成を強要して借入金の返済という外観を作出した上
で,複数回にわたり因縁をつけて金銭を喝取したものであって,その脅迫
態様の悪質さも軽視できない。なお,原告Bが被告との約束を破ったこと
を慰謝料減額事由とすべきであるという被告の主張を採用することができ
ないことは,既に説示したとおりである。
以上の事情のほか,原告Bが被告の指示に基づく消費者金融からの借入
れにより5万円余の利息負担を余儀なくされたこと等の本件に顕れた一切
の事情を考慮すると,原告Bが被った精神的苦痛を慰謝するに足りる金額
は,40万円と認めることが相当である。
ウ弁護士費用5万円
原告Bは,弁護士に依頼して本件訴訟を提起しているところ,本件の認
容額のほか,本件訴訟提起後も,当初は原告Bに対する恐喝自体を否認し
て責任を争う姿勢を示して被害弁償を拒んでいたことなどの本件に顕れた
一切の事情を考慮すると,原告Bに対する不法行為と相当因果関係のある
損害として認められる弁護士費用としては,5万円をもって相当と認める。
弁済による充当
前提事実イのとおり,原告Bに対する損害賠償金については一部弁済さ
れているところ,その弁済金100万円は,まず既に発生した遅延損害金に
充当され,その余が元本に充当されることになる(民法491条1項)。上
記のとおり充当を行うと,別紙計算書2(添付省略)のとおり,残元金は2
9万9369円,遅延損害金は同金員に対する平成29年2月10日から支
払済みまで年5分の割合による金員が未払となる。
小括
したがって,原告Bの請求は29万9369円及びこれに対する平成2
9年2月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
第4結論
よって,主文のとおり判決する(なお,仮執行免脱宣言は,相当でないか
らこれを付さない。)。
名古屋地方裁判所民事第10部
裁判長裁判官福田千恵子
裁判官小林健留
裁判官川内裕登

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