弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 被告a、同b、同c、同d、同e、同f、同g、同hは別紙物件目録記載の土地
上にある天幕小屋並びに立札、旗等(別紙図面参照)を収去して右土地を明渡せ。
 第一項記載の被告らを除くその余の被告らは別紙物件目録記載の(一)の土地上
にある天幕小屋(別紙図面参照)並びにこれに密着して設置された木カンバン、布
立札(別紙図面中E及びF)を収去してその敷地一七・五〇平方米を明渡せ。
 原告の第二項記載の被告らに対するその余の請求を棄却する。
 訴訟費用中、原告と第一項記載の被告らとの間に生じた部分は同被告らの負担と
し、原告とその余の被告らとの間に生じた部分はこれを三分しその一を同被告らの
負担、その余は原告の負担とする。
       事   実
第一、原告の求める裁判
一、被告らは原告に対し、別紙物件目録記載の土地上の天幕小屋、立札及び旗を撤
去して、同土地を明渡せ。(別紙図面参照)
二、訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。
との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言。
第二、被告らの求める裁判
一、本案前の裁判
原告の訴を却下するとの裁判。
二、本案についての裁判
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第三、請求の原因
一、別紙物件目録記載の(一)および(二)の土地は、原告会社の所有であり、同
(三)の土地は原告会社が、訴外日本国有鉄道より賃借しているものであつて、い
ずれも原告会社において、従業員の通路、製品資材の運搬、駐車等に使用して占有
している。
二、被告らは、原告に対抗し得べき権原がないのに、昭和四一年九月一六日頃、右
土地上に天幕小屋を設け、立札および旗等を立て(別紙図面参照)かつ共同して右
天幕小屋にたむろしあるいは寝泊りして、右土地を不法に占拠している。
三、よつて原告は、被告らに対し、別紙物件目録記載の(一)(二)の土地につい
ては所有権および占有権に基づき、同(三)の土地については賃借権および占有権
に基づき右物件の撤去と、各土地の明渡しを求める。
第四、被告らの本案前の抗弁
 本件の天幕小屋を設置し、立札、旗などをたてたのは被告らの所属する労働組合
である全国金属労働組合福岡地方本部幸袋工作支部であり右工作支部は労働基本権
の行使としてかかる行動をなしているものであるところ、右労働組合は被告ら各自
とは別個の当事者能力をもつ団体であるから、本件については被告ら各自には当事
者適格がないというべきである。
第五、請求原因事実に対する被告らの認否
 請求原因第一項の事実は不知、同第二項の事実中被告らが原告に対抗し得べき権
原に基づかないで本件土地を不法に占拠しているとの事実を否認しその余の事実は
これを認める、同第三項の事実は争う。
第六、被告ら主張の抗弁
 仮に本件土地が原告の所有に属しないしは賃借するものであるとしても、被告ら
の本件天幕小屋等の設置は、原告の被告らに対する違法な指名解雇に対し被告らが
労働基本権に基づいてなしているものであるから、原告の本件請求は権利の濫用に
該当し許されるべきではない。
即ち、
一、被告らが本件天幕小屋を設置し、立札、旗を立てるに至つた背景には被告らの
所属する全国金属労働組合福岡地方本部幸袋工作支部の組織破壊を意図した原告会
社の数々の違法な行為がある。
(一) 原告会社の前代表者訴外iは、昭和三八年一〇月に原告の資本系列が伊藤
系から日鉄系に切り換えられた直後に代表者に就任し、それ以来労働組合の組織に
対する労務管理体制は組合員との日本的人間関係をつくり上げることを目的とする
誕生会、むつみ会(役付工員の集団)、野球部などの発会、組合幹部との飲み会の
試みなどいわゆる飴の政策をとり、他方では申請人被告j外一名、被申請人原告会
社間の当庁昭和四〇年(ヨ)第三二号地位保全等仮処分申請事件にみられる如く、
仕事にも熱心でかつ組合活動家である青年被告j、同kの二名を懲戒解雇処分にし
た。
(二) その間、組合役員の選挙に際しては原告のいいなりになるような役員を選
出させるために、就業時間の内外を問わず従業員の自宅まで職制ならびに前記むつ
み会の会員を差しむけて組合組織を支配しようとし、特に昭和四〇年八月と昭和四
一年八月の組合役員選挙に対する干渉は、原告の指名する委員長、副委員長、書記
長への名指しの応援となつた。
(三) 前記の当庁昭和四〇年(ヨ)第三二号事件の口頭弁論の進行に伴つて、原
告の不当労働行為事実が組合員の間に衆知され始めるや、原告は組合を挑発し組織
の破壊を狙つて昭和四一年八月二二日に希望退職を提案してきた上、翌九月一二日
付で、前記昭和四〇年(ヨ)第三二号事件の証人として出廷した元執行委員長、元
副委員長、元書記長、元執行委員を含む被告ら(被告k、同jを除く)組合活動家
計四九名を指名解雇した。
(四) 組合はこれに対処すべく支部臨時大会を開き、「長期路線で闘いいわゆる
局地戦から地方本部を舞台に統一闘争に拡げる」との方針を決定した。他方原告
は、飯塚市内の某所に職制をあつめ、組長を中心にして条件闘争に切り換えること
の署名運動をおこさせることを決議し、申請人原告会社、被申請人被告l外四八名
(被申請人中には本件被告のうち、被告j、kを除くその余の被告全員を含む)間
の当庁昭和四一年(ヨ)第四一号立入禁止等仮処分申請事件につき同年九月二七日
発せられた会社構内への立入禁止仮処分決定を錦の御旗として「従業員の皆さん」
と題するビラを組合員に配布すると同時に、前記むつみ会を使つての条件闘争に切
換えのための願書提出や職制を使つての懇談会開催申入れが組合に対して行われ
た。
(五) 原告の意図を見抜き、これと対決の姿勢を固めた組合は、昭和四一年一〇
月一一、一二日の両日全国金属労働組合員としての再登録を実施したが、原告は右
再登録に応じないように働きかけていた組合の前執行委員長と秘密協定を結んだう
え被告らを除く大多数の従業員をして第二組合を結成させて右組合を支配するに至
り、前記昭和四〇年(ヨ)第三二号事件をも原告に有利にするため、右事件の本案
事件として確認の利益の点で疑問のある解雇有効確認の訴を提起し、これに伴う証
拠保全の申立と並んで本件を提起するに至つたのである。
二、(一) 被告らは以上詳細に述べたとおり原告会社より違法に解雇されたもの
であるから労働者として憲法第二七条第一項の労働権、憲法第二八条の団結権、団
体交渉権、争議権等の労働基本権を具体的に原告会社に対し行使しうる地位にある
といわなければならない。
 また日本国憲法は第二八条において労働者に勤労者の団結する権利および団体交
渉権その他の団体行動をなす権利を保障する一方、これに対応する使用者の財産権
については、第二九条二項において財産権の内容は公共の福祉に適合するようにこ
れを法律で定めると規定しているところ、広義の団結権も公共の福祉の名によつて
制限されるか否かについて、学説は区々であるが、学説、判例を含めて広義の団結
権の侵害が使用者の権利の濫用に当る場合には、その団結権行使は公共の福祉の範
囲内であるとするのが現に導き出された結論である。
(二) ところで、被告らの所属する全国金属労働組合は一応機械工業関係に働く
労働者が加入して組織した産業別の組合であるが、その実態は欧米にみられるよう
に個々の労働者が組合費を直接に全国組織に納入しその一部が当該労働者の所属す
る職場を単位とする組織すなわち支部に還元されるといういわゆる単一組織とは異
つている。すなわち組合費の徴収およびその使途についてみても日本的労働組合の
組織といわれる企業別組合、さらに同種の企業別組合が各組織を単位として連合体
を形成する場合と何等異らないものになつており、したがつて各組合は各企業の事
業所毎に独自に広義の団結権を行使しなければならない。さらに欧米に見られるよ
うにスト破りは労使双方ともに破廉恥行為であるという労働者のモラルないしは社
会的な常識が定着していないこともあいまつて、組合は各支部毎にこれに対応する
事業所に対し強力な争議活動をなさざるを得ない。
 被告らは、原告会社の組合組織破壊を意図した数々の不当労働行為の中で(1)
企業内の労働者に対する継続的な訴え、(2)一般世論に対する地元での訴え、
(3)被告らの連帯の再確認、(4)他の労働者との連帯表示などを目的として、
従来からの労働運動の中で形成されてきた形態および社会通念を考慮して、本件に
見られるような天幕小屋を設置し、旗などを立てているものである。
 全国各地の組合の紛争時においては、一般市民の目につきやすいところに多数の
赤旗が立てられるのが通例であり、さらに半永久的なピケ小屋が無数に設置された
例もあり、原告会社においても昭和三五年度の紛争時に、組合によつて天幕小屋の
設置赤旗の林立がなされたことがあるのに会社からその撤去を求める通告さえなさ
れなかつたのであることからみても被告らの本件天幕小屋等の設置は顕著な違法が
あるものということができない。
(三) 被告らの所属する組合は一で述べたような原告の組合破壊を目的とする労
働組合法第七条第一項、第三項の不当労働行為により壊滅的ともいうべき程度の損
害を蒙つており、会社構内で就労している組合員の数は、昭和四一年九月一五日当
時では約二八〇名であつたものが昭和四一年一〇月二〇日以降においては僅かに数
名に過ぎず、被告らは当庁昭和四一年(ヨ)第四一号事件の立入禁止仮処分決定に
より、会社構内に立ち入り就労することを禁止されている。従つて被告らにとつて
は広義の団結権が残された唯一の方法となつているのである。
 右のような事情のもとにおいては、万一本件天幕小屋、立札、旗などを撤去させ
られたならば、被告らは団結のシンボル、他の労働団体への訴のシンボルないし地
域住民への訴のシンボルを失うこととなりはかり知れない損失をうけることとなる
が、一方、原告の蒙る損害は絶無ないし軽徴なものでありその程度は殆んどいうに
足りないものである。
三、以上のとおり、被告らによる天幕小屋の設置、赤旗の林立などは、明らかに違
法である場合を除き、憲法第二八条にいう労働基本権の内容として容認されている
ものであり、且つ本件天幕小屋等の設置はもともと原告が組合組織を不法に破壊し
ようとした結果、自ら招いた事態であるからクリーンハンドの原則、信義誠実の原
則からみても、被告らの行動が明らかに違法とはいえない以上、原告において受忍
すべき義務があるといわなければならない。
第七、抗弁に対する原告の認否及び主張
一、本件各土地は、原告会社が従来業務上使用していたものであるが、被告らの設
置した天幕小屋等のために使用不可能となり、原告会社は多大の損害、迷惑を蒙つ
ている。
(一) 被告らが、天幕小屋等を設置している原告会社正門前の本件各土地は、会
社の鋳物工場等で使用する砂、石炭その他の生産資材等を運搬する貨車が専用引込
線を通つて進入して来た際、積荷をおろし、これらの生産資材を貨物自動車等で、
工場に搬入する迄の置場所として使用し、また製品搬出、資材搬入のために会社に
出入りする大型トラツク等が、方向変換をしたり駐車する場所でもあつて、原告会
社の業務上必要欠くべからざる重要な場所である。しかるに、被告らの天幕小屋設
置による不法占拠により原告会社は約二〇〇メートル離れた幸袋駅の構内で右の生
産資材をおろすことを余儀なくされ、そのため生産資材等の余分の運搬費は毎月二
万円以上にのぼり多大な経済的損失を蒙つているのみならず、時間的損失も多大で
ある。さらに大型トラツクが製品を搬出するため、会社正門より出ようとする際被
告らの天幕小屋があるため、ハンドルを何回も切り替えなければならず、近時の製
品の長大化および車両の大型化とともに製品搬出が非常に困難となつている。
(二) 右のような事実上の支障の外、営業活動においても著しい迷惑を受け支障
を来たしている。即ち、被告らは原告会社の顔ともいうべき正門に天幕小屋、便所
を設置し、更に立札、旗を立てており、会社の体面、体裁を著しく傷つけていると
同時に、会社に出入りする得意先、商社その他の人々に強い悪印象と不安感を与え
ている。原告会社は一般産業機械、車輛部品、バルブ等を製造販売しているが、得
意先より特に製品の納期を厳守するよう要求されているのに、会社正門の姿は納期
に対する強い不安感を抱かせる結果となり、いちいち弁明に努めている状態で、原
告会社のような中小機械メーカーが激しい競争場裡にあるとき被告らの前記各行為
のため営業活動の面が多大な支障を来たしていることは、多言を要しないところで
ある。
二、これに反し被告らによる本件天幕小屋等の設置は、専ら会社に対するいやがら
せと業務妨害を目的とするものに外ならず、何等正当な必要性に基づくものではな
い。このことは、次の事実から見ても極めて明白である。
(一) 原告会社は組合に対して、従来から会社裏門前にある会社所有建物を事務
所として無償で使用することを認めており、被告らはこれを現在も占拠して組合活
動に使用しているところ、右事務所は電話も設置され、二階建の建物であつて延坪
数は約六〇坪あり、組合活動の常識からいつてその拠点として事欠くことはないは
ずである。
(二) 一方被告らが運動の拠点であると主張する天幕小屋は、最近の一年間殆ん
ど利用されず、活動拠点にふさわしい利用状況をみることができない。したがつ
て、天幕は現在組合運動、とりわけ合理化整理の反対闘争の拠点としては、既にそ
の意味を失つているもので、現に被告らから忘れ去られた存在となつて取り残され
たままとなつているのである。
三、被告らは、会社正門前に天幕を張り、立札、旗を立てるのは、団結権の行使と
して当然許されるべきものであると主張する、しかしながら
(一) 憲法は、労働者に対し、団結権、団体交渉権、その他の団体行動権を保障
しているが、これと同時に市民法的、個人法的自由権、財産権等の基本的権利を保
障し、この両者を対等のものとしているのであるから、労働者の権利のみが無制限
に認められているものでないことは明白であつて、その許される程度は、会社側の
財産権との調和のとれた範囲内に止まるべきことは、すでに最高裁判所の判例にお
いて示されているところである。争議の際におけるピケ小屋の排除を命じた仮処分
の例にもみられるとおり、半永続的、物理的示威手段は排除されなければならない
のである。本件の場合天幕小屋の設置から既に三年間経過しており、会社としても
これ以上被告らのいやがらせ、妨害的示威を看過することはできない。被告らの主
張は、要するに、ただ本件とは別に天幕小屋、組合旗を設置した事例があるという
に尽きるものであつて、天幕小屋の設置および旗、立札を立てることの合法性につ
いては、具体的に何等首肯するに足るべきものがないのであるから、その主張自体
失当という外はない。
(二) なお被告らは、会社に不当労働行為ありとして数々の事実を主張するけれ
ども、これらの主張はいずれも当庁昭和四〇年(ヨ)第三二号事件の口頭弁論にお
いてすでに組合より主張されたところとほぼ同じ事項であり、その主張事実の存否
は、すでに該事件の判決書に否定的に判断されているところである。これらの主張
事実は原告会社としては、右仮処分申請事件の際、初めて耳にしたことであり、ま
た組合が主張する日時頃、組合からこれらの事項につき抗議を受けたこともなく、
地労委に提訴されたこともない上、原告会社においてもこれらの事実の有無につき
調査したが該当事実はなかつたのである。
第八、証拠関係(省略)
       理   由
一、先ず被告ら主張の本案前の抗弁について判断するに、当事者適格とは、訴訟物
たる特定の権利または法律関係について、当事者として訴訟を追行し、裁判による
解決を求めることができる資格であると解すべきところ、本件の場合の如きいわゆ
る給付訴訟においては、当該権利または法律関係について、特に法律で被告となり
得る者を限定していない限り、給付請求権を主張する原告より義務者であるとして
主張されている者が当然被告となるものとされるのであるから、この点についての
被告らの主張は、理由がないといわなければならない。
二、次に本件土地の所有、占有関係について判断する。
 いずれも成立に争いのない甲第一号証、第四号証の一、二、第六号証、証人m
(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる甲第三、第一〇、第一一
号証、ならびに証人m(第一、二回)の証言を綜合すれば別紙物件目録記載の
(一)および(二)の土地は原告の所有であり、同目録記載の(三)の土地は原告
が、数十年来k鉄道管理局長の承認を得て使用料を支払つて日本国有鉄道から借り
受けているものであること、および原告会社は、本件各土地を国鉄幸袋線より引か
れた会社専用引込線からの原材料の荷下しないしその一時の保管場所として利用
し、或は会社構内に差支えある場合の予備の駐車場、会社の従業員が会社構内に出
入する通路などに使用して占有している事実が認められ、右認定を左右するに足る
証拠はない。
三、ところで被告らが、昭和四一年九月一六日頃、本件土地上に、天幕を張り、立
札、赤旗などを立て、爾来該土地を占有している事実は、当事者間に争いがない。
 しかしながら被告らは、審理の最終段階たる昭和四四年九月五日午前一〇時の第
一七回本件口頭弁論期日において本案前の抗弁として、天幕、立札、旗などを設置
したのは全国金属労働組合福岡地方本部幸袋工作支部である旨主張し、右主張が本
案前の抗弁としては理由がないことについてはすでに判断したとおりであるが、被
告らはこれより先き昭和四一年一一月二八日午后一時の本件第二回口頭弁論期日に
おいて陳述した答弁書により、被告らが本件の天幕小屋等を設置し、本件土地を占
有している事実を認めると述べているので、右本案前の抗弁の内容とされている主
張と本案における右答弁との関係如何について検討する必要がある。
 右主張が、被告らは全く天幕小屋等を設置したことがないという趣旨であるなら
ば、先に答弁書でなした被告らが天幕小屋等を設置し本件土地を占有している事実
を認める旨の自白を撤回することに外ならない。しかして原告が右の自白の撤回に
異議のあることは、本案前の抗弁について争つていることおよび弁論の全趣旨によ
つて明らかであるから被告らは先になした自白が事実に反し、且つ錯誤によりなさ
れたものであることを立証しなければならない。また右主張が事実行為をなしたの
は被告らであるが、それは組合の機関もしくはその補助者としてなしたものに過ぎ
ず、先の自白はこの事実行為をなしたことを認める趣旨であるとすれば、右主張は
抗弁としての性質を有するものであると解すべきである。従つていずれにしても被
告らにおいて本件天幕小屋等の設置が組合としてなしたものである旨立証する責任
があるといわなければならない。
四、そこで進んで右主張事実の存否につき判断する。
 成立に争いのない甲第一二号証の一ないし四、乙第二号証、証人m(第一回)の
証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし三、同証人(第
二回)の証言により真正に成立したものと認められる同第一一号証、証人m(第
一、二回)nの各証言、被告oの本人尋問の結果を綜合すれば、原告会社は昭和四
一年八月二二日当時被告らを含む同会社の従業員らの内の多数が所属していた全国
金属労働組合福岡地方本部幸袋工作支部(以下単に組合支部という)に対しいわゆ
る企業再建のために人員削減が必要であるとして希望退職者を募ることを提案した
が、組合支部がこれに応じなかつたため同年九月一二日付で被告らのうち被告j、
同kを除く被告lら三二名を含む計四九名を指名解雇にし、以後これらの者らが就
労するのを拒絶した。このような原告会社の措置に対抗して組合支部は同月一二日
より一五日までストライキを行つたが、それ以後は指名解雇された者を除いて就労
することとなつた。一方被告らは原告会社に無断で同月一六日頃に原告会社正門外
側横の地上に縦三・五メートル、横五・〇メートルの範囲にわたつて天幕を張り、
本件土地上に立札八本、赤旗約三〇本を立て(その位置関係は別紙図面参照、なお
右図面中Eの木カンバン、Fの布立札各一個は天幕小屋の西側にこれと密着して設
置されている)た上右天幕小屋に寝泊りし、或はこれを集合場所として利用し、さ
らには同所を拠点として会社の構内にデモ又はビラの配布などをしていたが、申請
人原告会社、被申請人被告らを含めて四九名間の当庁昭和四一年(ヨ)第四一号事
件の立入禁止仮処分申請事件につき同年九月二六日発せられた仮処分決定により、
原告会社構内に立入りを禁止されるにいたつた。ところで組合支部は同月一九日支
部臨時大会を開き、「長期路線で闘いいわゆる局地戦から地方本部を舞台に統一闘
争に拡げる」との方針を定め人員整理に対してはあくまでも反対する方針をとつて
いたが、そのうちに職長などを中心とした組合員の中から条件闘争へ方針を切り換
えようとする動きも生じて来たので、同年一〇月一一日から一二日にかけて、全国
金属労働組合福岡地方本部の指示にもとづき組合員全員を対象に再登録を実施した
ところ、再登録に応じた組合員は被告らを含めて三十数名に過ぎず、その他の者は
再登録に応じなかつたことから自動的に組合を脱退したことになり、脱退した組合
員らは幸袋工作所従業員組合(以下従業員労組という)を結成した。その後は従業
員労組の組合員および被告らを除いた支部組合員らは、会社に就労しているが、被
告らは、会社から就労を拒絶されている上、当庁昭和四一年(ヨ)第四一号事件の
仮処分決定により構内に立入りができないため会社に就労できないままであり、そ
の内には組合を脱退した者もあることが認められ、右認定を左右するに足る証拠は
ない。而して被告らの内の大部分(その氏名は後段において明かとなる)が、原告
会社の解雇の効力を争い、地位保全の仮処分を申請し、当庁昭和四二年(ヨ)第二
一号地位保全仮処分申請事件として現に当庁に係属し弁論が開かれて審理中である
ことは当裁判所に顕著な事実である。
 右事実によれば、本件天幕小屋等が原告会社の解雇処分を争う組合ないし被告ら
の拠点となつていることが窺われるけれども、これをもつて直ちに本件天幕等を設
置したのが、組合であることを推認することはできず、本件において天幕小屋、立
札、旗などを設置したのは組合とは別に被告らが独自の立場でなしたものと認める
のが相当である。したがつてこの点についての被告らの主張は理由がない。
五、次に原告の本件天幕小屋等の収去、土地の明渡請求が権利の濫用であると見る
べきか否かについて判断する、
(一) まず被告らの地位につき考えるに、被告らの全員が全国金属労働組合福岡
地方本部幸袋工作支部の組合員であることを認めるに足る証拠はないのみならず、
右工作支部が組合としての意思決定に基づいて本件において見られる天幕等の設置
の行動に出たものと認めることのできないことは前段認定の通りである。然しなが
ら被告らの内、被告k、同jの両名を除くその余の被告らは何れも昭和四一年九月
中に原告会社から企業整備のため指名解雇されたものであることは前段認定の通り
であり、成立に争のない甲第一五号証の記載によれば、右k、jの両名はこれより
先き昭和四〇年六月二三日原告会社から懲戒解雇されたものであることが認められ
るところ、被告らのうち被告a、同b、同c、同dの四名は前記昭和四二年(ヨ)
第二一号地位保全仮処分申請事件の申請人中に加わつていないこと、被告e、同
f、同g、同h以上の四名は当初右事件の申請人中に加わつていたがその後右申請
を取下げたことは当裁判所に顕著な事実であり、以上の被告らが解雇の効力を争つ
てその余の被告らとともに団結して原告会社に対し何らかの行動に出ている事実を
認めるに足る証拠はない。次に前顕甲第一五号証の記載によれば、被告j、同kの
両名は原告会社によつてなされた前記懲戒解雇処分の効力を争つて、当庁に地位保
全の仮処分を申請し、当庁昭和四〇年(ヨ)第三二号事件として係属したところ審
理の結果昭和四二年二月一三日申請却下の判決が言渡されたが、右両名が控訴の申
立てをなし、現に上訴審において争われていることは弁論の全趣旨によりこれを窺
い知ることができる。かくて被告らのうち地位保全仮処分の申請をしなかつた被告
a、同b、同c、同d並びに仮処分申請をしたがその後これを取下げた被告e、同
f、同g、同h以上八名(以下被告aらと略称する)を除く被告lら二六名(以下
被告lらと略称する)は以上の各解雇処分の違法不当であることを主張し、右主張
を貫徹するため現に一時的に団結しいわゆる争議団として行動しているものである
ことは前段認定の諸事実並びに弁論の全趣旨からこれを認めることができる。而し
てかかる被解雇者の集団ないし争議団もまた団体交渉権をもち、これに伴つて争議
権をもつものというべきであり、かくて原告会社と、被解雇者の集団としての被告
lらとは、現に広い意味において争議状態にあるものと解するのが相当である。も
つともすでに認定したところから明かな通り、被告lらは、右解雇に伴つて会社構
内への立入を禁止され、原告会社事業場から排除されていわば使用者からロツクア
ウトされたのと等しい状態におかれているのであるから、その限りにおいてこれに
許容される争議手段もまた一定の制限のもとにおいてのみ認めらるべきではある
が、かかる限度を超えない限り正当な争議行為として許されることはいうまでもな
い。
(二) 以上のような地位にある被解雇者の集団としての被告lらの天幕小屋等設
置の所為が労働権の行使として許されるべきか否かについて以下検討しなければな
らない。
 憲法第二八条は勤労者の団結権、団体交渉権、団体行動権などのいわゆる労働基
本権を保障しているが、他方憲法第二九条においては財産権をもこれと対等に保障
しているのであるから、勤労者の労働基本権といえども無制限に行使することを許
されるべきではなく、その行使は使用者の財産権との調和のとれた範囲内に止まる
ことが要請されるべきであり、その限界は個々の事案により具体的状況に応じてこ
れを決定する外はないが、本件についていえば、原告会社と被告lらが所属してい
た組合との労使関係、被告lらがこのような手段をとるに至つた経緯、目的ないし
必要性、従来の慣行、相互の主張を認めた場合双方が被る損害の種類、程度等の諸
事情を綜合考慮して判断しなければならないものというべきである。
(三) 被告lらが本件天幕小屋などを設置するにいたつた経緯についてはすでに
四項において認定したとおりであるが、なお同被告らは、その背後に原告会社が被
告らの所属する組合の組織破壊を目的として、昭和四〇年中に組合活動家被告k、
同jの二名を解雇したのに始まり、同年の組合役員選挙に干渉したり、昭和四一年
中には同被告らを含む四九名を指名解雇にするなどの数々の不当労働行為をなした
旨主張する。しかしながら被告oの本人尋問の結果のうち、昭和四〇年中になされ
た被告k、同jの解雇および組合役員選挙が組合を破壊する不当労働行為であると
の部分は前顕甲第一五号証の記載と対比して信用できないばかりでなく、同被告ら
挙示のその他のすべての証拠によつても被告らの主張を肯認できない。然しこの点
については現に地位保全仮処分申請事件として現に上訴審において審理中であるこ
とは前段において認定した通りでありその結果如何は今ここで断定の限りでない。
また昭和四一年中の解雇については本件に顕れたすべての証拠によつても、いまだ
もつて同被告らの主張を肯認し難いところであり、なお右解雇の効力如何について
は、現在当庁昭和四二年(ヨ)第二一号地位保全等仮処分申請事件において現に公
判審理が進められているのであつて、その帰趨は今にわかに予断を許し難い状況に
あるのである。而して以上の如き状況のもとにおいて、同被告らによる天幕等の設
置の行為が労働基本権の行使として許されるべきか否かということが、まさに本件
に於て問われている問題点であるといわなければならない。
(四) 次に同被告らが本件土地上に天幕小屋等を設置している状況はすでに認定
した通りであつて、その設置場所は原告会社の事業場正門横の構外であるがその利
用状況等について見るに、成立に争いのない甲第一三号証の一ないし四、証人mの
証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし三、第一一号
証、第一四号証ならびに証人mの証言を綜合すれば、同被告らは右天幕小屋設置当
初は同所で集会を開いたり寝泊りなどをしていたが、最近は前記仮処分申請事件お
よび本件について公判が開かれるに際して地方本部役員の受け入れ場所として使用
し、その他、月に二、三回短期間新聞を置くか或は掃除をするために出入する程度
にしか利用されていないことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。し
かして右の天幕小屋等の設置の目的については、証人pの証言によれば本件天幕小
屋等は外部に対しては前記事件の内容を明らかにしてアツピールすること、就労中
の組合員に対しては同被告らが一致団結して原告会社の処分に対抗していることを
示して激励することおよび会社に対する示威にあることが認められる。この点につ
いて原告は単にいやがらせの目的に過ぎない旨主張するが、これに副う証人mの証
言は、前掲証拠と対比して信用し難く、他に原告主張の事実を認めるに足る証拠は
ない。
(五) 次に、証人m(第一、二回)の証言及びこれにより真正に成立したものと
認められる甲第七号証によれば、原告会社は被告らの天幕小屋設置によりその土地
部分を使用することができなくなつたのみでなく、天幕小屋が設置されたことによ
り、従来会社正門前の本件土地においてなしていた荷おろしができなくなつたため
一旦国鉄幸袋駅構内で荷下ろしをなした上でこれを構内に運搬することを余儀なく
されその結果毎月二万円程度の支出増となつたこと、予備の駐車場として使用する
ことができなくなつたことおよび会社に出入りする車、特に大型車の円滑な出入り
が阻害されるなど会社所有の土地を自由に使用できなくなつた事実が認められ、被
告oの本人尋問の結果によつても右認定をくつがえすに足らず他に右認定を左右す
るに足る証拠はない。被告lらは(イ)わが国の労働組合の紛争時においてかつて
他の組合によつて半永久的なピケ小屋が設けられた例もあり、(ロ)さらに昭和三
五年中に本件組合支部がストライキを行なつた際にも、天幕、赤旗等を設置したこ
とがある旨主張し、証人nの証言中には右(イ)の主張にそう部分があるけれども
他にかかる事例があるということは判断の一つの資料にはなるけれども具体的事情
を異にする本件の場合において右事実は必ずしもその正当性を根拠づける理由とは
なし難い。また成立に争いのない乙第一号証の一ないし六、被告oの本人尋問の結
果によれば、右(ロ)の主張事実を認めることができるけれども、そのような方法
が会社に対する争議手段として慣例化しているとはいえず、前掲各証拠によれば当
時においては、組合員全員がストライキを行つていた状況においてなされたものと
認められるから、大部分の従業員が就業している本件の場合においても当然同じ争
議手段が許されるものということはできない。
(六) してみると被告らの天幕小屋設置の行為は目的においては正当であるが、
その手段はかなり永続的な物理的設備を用いて当該部分について排他的占有をなし
ているのみならず、本件土地の全般にわたつて自由な使用に障害を来し原告に現実
的な損害を与えているのでありその手段および相手方に与える損害と、現在の被告
lらの利用状況および諸般の事情に照してみるとき、争議行為としては許される限
界を超えているものといわざるを得ない。しかしながら立札、赤旗等については、
その設置場所はすでに認定した通り原告会社事業場正門外側一帯であるが以上の事
実をもつて直ちに原告会社の本件土地の利用に障害を及ぼすものであるとは認めら
れない。原告会社は被告lらが立札、旗等を立てていることにより、会社の体面体
裁が著しく傷つけられると同時に、会社に出入りする得意先、商社その他の人々に
強い悪印象と不安感を与え、営業活動の面に多大な支障を来たしていると主張し、
右趣旨に副う証人mの証言があるけれども、会社の体面体裁というものはそれ自体
極めて主観的な事項に属する上、被告lらと原告会社とはすでに認定した通りの争
議状態にあるのであるから、前認定の程度の立札、赤旗(天幕小屋に密着して設置
されている前記E及びFを除く)などは、被告lらの争議行為の手段として即ち原
告会社並びにその従業員ないし地域住民に対するアツピールないし説得の手段とし
ては最少限その必要性があるというべきのみならず、原告会社が右立札、赤旗など
によつてその土地の使用を実質的には殆んど妨げられていないことを考え併せる
と、被告らが赤旗等をたてる行為はなお正当な争議行為の範囲内にあるものと見る
べきであつて仮に原告会社がこれによつて営業活動上の損失を被つたとしてもかか
る結果は正当な争議手段から生じたものとして原告においてこれを受忍する義務が
あるといわなければならない。
 然らば原告が被告lらに対し立札、旗等(前記E及びFを除く)の収去とこれら
の物件の設置された土地の明渡を請求することは権利の濫用であつて許されるべき
ではないというべきである。
(七) 被告らの権利濫用の主張は、被告aらに関する限りは、その理由のないも
のであることは、すでに認定したところから明らかであるところ、被告aらは本件
土地を占有するにつき他に原告に対抗し得べき権原を有することを主張立証しない
ところである。
(八) よつて被告aらは原告に対し別紙物件目録記載の土地上にある天幕小屋、
立札、旗等を収去して右土地を明渡すべく、被告lらは原告に対し右天幕小屋及び
これに密着して設置されている木カンバン、立札(別紙図面中のE及びF)を収去
してその敷地一七・五平方メートルを明渡すべき義務がある。
六、以上の次第であるから、原告の本訴請求中被告aらに対するすべての請求並び
に被告lらに対する請求中天幕小屋及びこれに密着して設置されている立札等を収
去してその敷地の明渡を求める部分は何れも理由のあるものとしてこれを認容すべ
きであるが、被告lらに対するその余の請求は理由がないからこれを棄却すべく、
訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条本文第九三条第一項本文を適用
し、なお仮執行の宣言を付するのは相当でないからこれを付しないこととして、主
文のとおり判決する。
(裁判官 川淵幸雄 工藤雅史 前川豪志)
(別紙)
 物件目録
(一) 飯塚市<以下略>
一、宅地 三四三八・〇一平方米
右土地の内別紙図面に表示した(イ)(ロ)(d)(c)(ホ)(b)(a)
(イ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分
(二) 同市<以下略>
一、宅地 九五・八六平方米
右土地の内別紙図面に表示した(a)(b)(ヘ)(ト)(a)の各点を順次結ん
だ直線で囲まれた部分
(三) 同市<以下略>
一、鉄道用地
右土地の内別紙図面に表示した(d)(ハ)(ニ)(c)(d)の各点を順次結ん
だ直線で囲まれた部分
<17628-001>

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