弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人進藤誉造、同進藤寿郎、同日野勲の上告理由第一点について。
 所論は、被上告人は原審において請求の趣旨を減縮したのであるから、原審とし
ては、判決主文において、「原判決は請求の減縮により左の如く変更せられた」或
は「原判決を左の如く変更す」と記載しなければならないのに、漫然被上告人全部
勝訴の一審判決をそのまま維持して控訴棄却の主文を掲げたのは、当事者の申し立
てない事項について判決をなし、ひいては理由そごの違法を犯したものであるとい
う。
 しかし、原告が訴を提起した請求の一部につき控訴審で請求の減縮をしたときは、
その部分については初めより訴訟が係属しなかつたものと看做され、この部分に対
する第一審の判決はおのずからその効力を失つて、控訴は残余の部分に対するもの
となるのであり、従つてこれにつき第一審判決を変更する理由がないときは控訴棄
却の判決をなすべきものであることは、当裁判所の判例(昭和二四年(オ)第一四
一号同年一一月八日第三小法廷判決・民集三巻四九五頁、昭和二七年(オ)第六〇
三号昭和二九年七月一三日第三小法廷判決・裁判集民事一五号一三七頁各参照)と
するところであり、本件についてこれをみるに、第一審判決は、原告(被控訴人・
被上告人)の請求を認容して、被告(控訴人・上告人)両名に対する関係において、
各自金六七七万二六七二円および内金三七七万二六七二円に対する昭和三三年六月
二九日以降、内金三〇〇万円に対する同年八月一日以降各支払ずみに至るまで年六
分の割合による金員の支払を命じたのであるが、原告は控訴審の口頭弁論において、
その請求を被告両名に対し各自金五七九万二六七二円および内金二七九万二六七二
円に対する昭和三三年六月二九日以降、内金三〇〇万円に対する同年八月一日以降
各支払ずみに至るまで年六分の割合による金員の支払を求める範囲に減縮したこと
が、記録上明らかである。従つて、第一審判決が右範囲を越えて金員の支払を命じ
た部分はおのずからその効力を失つたものであるから、原審は控訴を棄却したこと
により前記範囲内の金員の支払を命じた部分を維持したことが明らかである。従つ
て、原判決には所論のように当事者の申し立てない事項について判決をなした違法
もなく、理由そごの違法もないから、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 所論は、上告人らの本件約束手形振出は要素に錯誤があるから無効であり、然ら
ずとするも、被上告人らの詐欺強迫による意思表示であるから、これを取り消す旨
の抗弁につき、これを時機に後れた防禦方法であるとして却下した原判決は、民訴
一三九条の解釈適用を誤つた結果審理不尽の違法を犯したものであるという。しか
し、所論抗弁は、その主張の内容に照すと、第一審係属中には勿論のこと、おそく
とも原審第一回口頭弁論期日には提出することができた筈であることが明白である
のに、上告人らはその提出を怠つて第一審以来の争点につき証拠調を尽した昭和三
六年二月二七日原審第四回口頭弁論期日に至つて始めて提出したというのであるか
ら、上告人らの少くとも重大な過失により時機に後れた防禦方法であるものという
に難くなく、また、右抗弁事実についてさらに立証することを要せずまたは直ちに
立証を終えうるものとも窺い得ない以上、その立証のため訴訟の完結を遅延させる
ものというべきであるから、右抗弁につき民訴一三九条を適用してこれを却下した
原判決は相当であつて、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 所論は上告会社が被上告人から約定コークスの全量の送付を受けたとの自白を撤
回したことにつき、右自白が真実に反し錯誤に基づいたことの証明がないとして右
撤回を許さなかつた原審の措置を違法と非難する趣旨に解しうる。しかし、原審は、
その挙示の証拠により、上告会社が被上告人から約定コークス全量の送付を受けた
ことを認定しているのであつて、右認定は首肯するに足りるから、所論陳述につい
て自白の撤回を許容できないとした原審の判断の如何は、なんら結論に影響を及ぼ
すものではない。従つて、論旨は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官山田作之助の少
数意見がある外裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官山田作之助の上告理由第一点についての少数意見は次のとおりである。
 民事事件の第一審において勝訴した原告が控訴審において請求の一部を減縮した
ときは、第一審判決の主文は減縮された請求の趣旨と合致していないことになるの
であるから、右減縮された請求を認容する控訴審としては、判決の主文においてこ
れを明らかにしなければならない。すなわち、主文は判決の最も重要な部分である
から、第一審判決としては正しかつたからといつて、控訴審において右判決の主文
と控訴審の認容する請求とが明らかに不一致を来した場合までも右第一審判決の主
文をそのまま放置しておいてよい理由はない。このような場合には、いかなる請求
が認容されたかを判決主文自体で明確にしておくことが、関係人に不測の損害を生
じさせないための控訴審の責務であると考える。従つて、本件につき控訴棄却の判
決をなした原審の措置を正当とする多数意見には同調することができない(昭和二
七年(オ)第六〇三号昭和二九年七月一三日第三小法廷判決理由中の小林裁判官の
少数意見、昭和三一年(オ)第六一号昭和三七年三月七日大法廷判決理由中の藤田
裁判官およびわたくしの各反対意見参照)。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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