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平成23年1月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10204号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年12月22日
判決
原告日本電産サンキョー株式会社
同訴訟代理人弁護士新保克芳
高崎仁
洞敬
井上彰
被告株式会社安川電機
同訴訟代理人弁護士松尾和子
相良由里子
佐竹勝一
小林正和
同弁理士大塚文昭
倉澤伊知郎
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2008−800220号事件について平成21年6月26日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の有する下記(2)の本件
発明に係る特許に対する被告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件特許
を無効とした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)
には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許(甲26)
発明の名称:ダブルアーム型ロボット
請求項の数:11
出願日:平成12年3月23日
登録日:平成19年6月22日
特許番号:第3973006号
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成20年10月27日(無効2008−800220号)
審決日:平成21年6月26日
審決の結論:特許第3973006号の請求項1に係る発明についての特許を無
効とする。
審決謄本送達日:平成21年7月8日(原告に対する送達日)
2本件発明の要旨
本件審決が判断の対象とした本件発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載され
た発明(以下「本件発明」という。)であって,その要旨は,次のとおりである。
ハンド部と,前腕と,上腕と,前記ハンド部と前記前腕を連結するハンド関節部
と,前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と,前記上腕の前記肘関節部とは反対
側に設けたアームの基端の関節部と,前記各関節部を連結駆動して回動させる回転
駆動源とを有するとともに,前記ハンド部が一方向を向いて,前記上腕と前記前腕
とを伸ばしきった伸長位置と前記上腕と前記前腕とを折り畳み前記ハンドを引き込
んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおい
て,前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる第1及び第2の支持部材と,前記
第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能に保持するコラムとを含む移動機構
を備え,前記アームは前記アームの基端の関節部が互いに上下に異なる高さで配置
された前記第1及び第2の支持部材にそれぞれ取り付けられると共に,前記アーム
の基端の関節部はともに前記第1及び第2の支持部材の間に配置され,前記アーム
を前記縮み位置に移動させたときに,当該アームに取り付けられたそれぞれのハン
ド部が前記アームの基端の関節部の間に位置し,かつ,二組の前記肘関節部を二組
ともに前記ハンド部の移動方向に関して同方向でかつ水平方向側方に突出させ,前
記ハンド部の移動方向に関して前記肘関節部が突出する方向と反対側に前記移動機
構を配置し,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を
移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のア
ームの前記基端の関節部の間に位置させるものであるダブルアーム型ロボット
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記アの引用例に記載された
発明(以下「引用発明」という。)及び下記イないしサの周知例1ないし10に記
載された周知技術(以下,順に「周知技術1」ないし「周知技術10」という。)
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に
係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条
1項2号の規定により無効にすべきものである,というものである。
ア引用例:特開平4−87785号公報(甲1)
イ周知例1:特開平11−208818号公報(甲2)
ウ周知例2:特開平6−126663号公報(甲4)
エ周知例3:特開昭55−90290号公報(甲5)
オ周知例4:特開平6−320464号公報(甲6)
カ周知例5:特開平11−333768号公報(甲8)
キ周知例6:特開平9−162257号公報(甲9)
ク周知例7:特開平10−279050号公報(甲10)
ケ周知例8:特開平10−12699号公報(甲11)
コ周知例9:特開平9−314485号公報(甲12)
サ周知例10:特開平10−92917号公報(甲13)
(2)なお,本件審決が認定した引用発明並びに本件発明と引用発明との一致点
及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明:ハンドと,第2アームと,第1アームと,前記ハンドと前記第2
アームを連結する軸部,軸受と,前記第2アームと前記第1アームを連結する軸,
ボス部と,前記第1アームの前記軸とは反対側に設けた第1アームの基端のボス部,
第1駆動軸と,前記第1駆動軸,ボス部,軸部を連結駆動して回動させる第1モー
タ,第2モータとを有するとともに,前記ハンドが一方向を向いて,前記第1アー
ムと前記第2アームとを伸ばしきった伸長位置と前記第1アームと前記第2アーム
とを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備え
た搬送装置において,前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる搬送チャンバの
上板部材,下板部材と,前記二組のアームの昇降手段を備え,前記アームは前記第
1アームの基端のボス部,第1駆動軸が互いに上下に異なる高さで搬送チャンバの
上板部材,下板部材にそれぞれ取り付けられると共に,前記第1アームの基端のボ
ス部,第1駆動軸はともに前記搬送チャンバの上板部材,下板部材の間に配置され,
前記アームを前記縮み位置に移動させたときに,当該アームに取り付けられたそれ
ぞれのハンドが前記第1アームの基端のボス部,第1駆動軸の間に位置し,かつ,
二組の前記軸,ボス部を水平方向側方に突出させ,前記ハンドは基板を載置して前
記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものである搬送装置
イ一致点:ハンド部と,前腕と,上腕と,前記ハンド部と前記前腕を連結する
ハンド関節部と,前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と,前記上腕の前記肘関
節部とは反対側に設けたアームの基端の関節部と,前記各関節部を連結駆動して回
動させる回転駆動源とを有するとともに,前記ハンド部が一方向を向いて,前記上
腕と前記前腕とを伸ばしきった伸長位置と前記上腕と前記前腕とを折り畳み前記ハ
ンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えたダブルアーム型ロ
ボットにおいて,前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる第1及び第2の被取
付部材と,前記二組のアームの上下移動機構を備え,前記アームは前記アームの基
端の関節部が互いに上下に異なる高さで配置された前記第1及び第2の被取付部材
にそれぞれ取り付けられると共に,前記アームの基端の関節部はともに前記第1及
び第2の被取付部材の間に配置され,前記アームを前記縮み位置に移動させたとき
に,当該アームに取り付けられたそれぞれのハンド部が前記アームの基端の関節部
の間に位置し,かつ,二組の前記肘関節部を水平方向側方に突出させ,前記ハンド
部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであるダブ
ルアーム型ロボット
ウ相違点1:本件発明は,二組のアームは「第1及び第2の支持部材」に取り
付けられ,「二組の前記肘関節部を二組ともに前記ハンド部の移動方向に関して同
方向に突出させ」るものであり,「第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能
に保持するコラムとを含む移動機構」が,「ハンド部の移動方向に関して前記肘関
節部が突出する方向と反対側に」設けられているが,引用発明は,二組のアームは
「搬送チャンバの上板部材,下板部材」に取り付けられ,二組の肘関節部が同方向
に突出させるか不明であり,上下移動機構の詳細は明らかでない点
エ相違点2:本件発明は,「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組
のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」が,引用発明は,明らかでない点
4取消事由
進歩性に係る判断の誤り
(1)一致点の認定の誤り
(2)相違点1についての判断の誤り
(3)相違点2についての判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1一致点の認定の誤りについて
(1)「コラム」について
ア本件審決は,引用発明の「二組のアーム昇降手段」は,「二組のアーム移動
機構」である限りにおいて,本件発明の「第1及び第2の支持部材を上下方向に移
動可能に保持するコラムとを含む移動機構」と一致するとする。
しかしながら,引用例には,「アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有する
構成としても良い」との抽象的な記載はあるものの,その支持部材(チャンバの天
井・床である上板部材や下板部材)の上下移動に関する技術的事項やチャンバの設
置位置,上下移動方法等について,具体的に開示していない。
しかも,引用例には,「駆動部の一側面に沿うハンドの動作については全く干渉
あるいは死角などが発生せず」との記載があるが,これは,アーム部の旋回あるい
は直線移動に関して周囲に干渉物がないこと,すなわちコラムが存在しないことを
意味するものである。
したがって,引用例からは,当該移動機構について,当業者であっても容易に想
到できるものではない。
イこの点について,被告は,一対のロボットを搬送チャンバ内に配置する構成
は,引用例における一つの推奨される実施形態にすぎないなどと主張する。
しかしながら,引用例は,エッチング等の処理が行われるチャンバを前提とした
発明であって,被告の主張は引用例に関する誤解に基づくものである。
これに対して,本件発明は,「第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能に
保持するコラム」と,支持部材をコラムによって上下に移動させる構成を有するこ
とを明確に定めている。
確かに,引用例には,昇降機能を示唆する記載がみられるが,当該記載の直後に,
ハンドの動作には干渉や死角が生じない旨の記載があることからすると,引用発明
は,アーム部の旋回あるいは直線運動に関し,周囲にコラムのような干渉物がない
ことを前提としているものということができる。
したがって,引用発明が,「二組のアームの上下移動機構」を有する場合という
条件においても,引用発明における「二組のアーム昇降手段」が本件発明の「コラ
ムを含む移動機構」と一致することはあり得ない。
以上からすると,かかる点についても一致点とした本件審決の認定は誤りである。
(2)「ハンド部」について
本件発明の「ハンド部」は,ワークを載置する部分(基板を保持する部分)であ
り,アーム及び基端の関節部の間に位置するものであって,引用発明においては,
基板載置部がこれに該当する。引用発明におけるハンドは,基板載置部とそれ以外
から構成されているところ,基板を保持する部分は基板載置部のみであり,ハンド
のそれ以外の部分は,基板載置部とつながり,全体として基板を移動させる機能・
役割を有しているものである。
この基板載置部は,第2アームの先端からハンド関節の延長部(前腕)を介し
て設けられており,アームの縮み位置において,基端の関節部と重なる位置にワー
クが必ずあるものではない。
したがって,引用発明の「ハンド」が,本件発明の「ハンド部」に相当するとい
う本件審決の判断は誤りである。
本件発明のハンド部が,引用発明のハンドに相当するという被告の主張は,ハン
ド部が有する機能・役割を無視しており,相当ではない。
また,本件発明は,特許請求の範囲において,「縮み位置に移動したときに前記
ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」と明記している
のであるから,本件発明は,上記構成を有しないとする被告の主張は誤りである。
2相違点1についての判断の誤りについて
(1)本件発明と引用発明の課題と解決手段について
ア本件発明は,クリーンルーム内での作業を必須とする液晶パネル用ガラス基
板等の搬送用ロボットに関し,その省スペース化を解決課題とするものである。
そして,ダブルアーム型ロボットの主流であったテレスコピック型の昇降機構は,
昇降機構が位置する下側部分のストッカに対する収納作業ができないという欠点を
有しており,また,コラム型の昇降機構は,二つのアームを設ける場合,基板とコ
ラムとの干渉を避ける必要があり,省スペース化が困難であった。
そこで,本件発明は,①支持部材の上下移動機構としてコラムを採用し,支持部
材の上下にその基端の関節部が支持部材の間にあるようアームを取り付け,
②上下のアームの肘関節部がコラムと反対側に同方向に突出するように配置し(相
違点1),③アームが縮み位置に移動したときにワークが二組のアームの基端の関
節部の間に位置するようにする(相違点2)という構成により,アームが縮んだ位
置でのワークとハンド部と支持部が同じ領域に重なって配置され,また,2つのア
ームの肘部は同じ方向に張り出しており,しかも,ハンド部の高さを変えるために
コの字型コラムを設ける必要もないことから,従来よりもロボットの占有面積を小
さくし,省スペース化を実現したものである。
また,本件発明は,上下移動機構がアームの伸縮方向の側部に位置するため,ア
ームの下限位置を下げることが可能になり,平面方向での省スペース化と同時に,
アームの上下方向への移動可能範囲を広げることも可能とした。
このように,本件発明は,横方向と上下方向の省スペース化を同時に達成する点
を課題としており,この点に関する被告の主張は,かかる一体的な課題を,横方向
の省スペース化と,上下方向の省スペース化の問題とに分け,個別に対処できる問
題にすぎないと主張するものであって,本件発明の課題の認識自体に誤りがある。
イ引用発明は,横方向に2台並べたロボット同士が干渉してスループットを向
上させることができず,しかも,基板処理装置が横方向に大型になるという課題を
解決するために,ロボットのアームを搬送チャンバの天井と床にそれぞれ対向する
ように設けたものであるところ,2つのアームを設けた場合に,更に省スペース化
を図ることや,上下方向に大きなストロークを持たせることは,全く課題とされて
おらず,実際,そのような構成は採用されていない。
(2)引用発明が示唆するアーム昇降機構について
ア前記1(1)のとおり,本件審決が,「引用発明が示唆するアーム昇降機構」
について,本件発明における「コラムにより支持部材を上下させる機構」と一致す
るとの認定は誤りである。
引用発明は,あくまでも,内部環境維持の目的から内部容量の極小化が望まれる
チャンバ内で作業を完結させるものであり,ロボットのアームが支持部材と共に上
下に移動するようなことは全く想定も示唆もしていない。
引用発明の支持部材がチャンバの天井と床である以上,支持部材を上下に移動さ
せてチャンバ以外に使用することを想起することは困難である。
イ本件審決は,支持部材がコラムにより上下方向に移動可能に保持される移動
機構は,周知例1ないし4より周知である,本件発明において,移動機構が,一つ
のハンド部の移動方向に関して肘関節部が突出する方向と反対側に設けられた点は,
干渉のおそれがあることから当然であって,設計的事項にすぎない,引用発明に周
知技術1を組み合わせると,「ハンド部の移動方向に関して前記肘関節部が突出す
る方向と反対側にコラムを含む移動機構」となるなどとする。
しかしながら,周知技術1は,アームの支持部材がコラムにより上下移動する構
成を有しているが,同技術は,入出庫に時間がかかることを課題とするものにすぎ
ず,省スペース化や上下方向の可動範囲の拡大を課題とする本件発明の課題とは大
きく異なるものである。また,周知技術1には,「平面方向の省スペース化」とい
う課題がなく,引用発明と組み合わせて本件発明の課題や解決手段が導かれるもの
ではない。そのため,周知技術1においては,アームを上下に配置し,かつアーム
の肘関節の突出方向と反対側にコラム等を含む移動機構を配置することは全く想定
していない。
肘関節部突出と移動機構との干渉を回避する方法は,本件発明のように,移動機
構をハンド部の移動方向に関して肘関節部が突出する方向と反対側に設ける方法に
限られるものではなく,支持部材を長くすることによって干渉を回避する方法,コ
ラムから離れる方向(放射状)にアームが伸縮する方法など,複数存在するもので
あるから,引用発明及び周知技術1によっても,当然に「ハンド部の移動方向に関
して前記肘関節部が突出する方向と反対側にコラムを含む移動機構を配置したも
の」となるものではなく,相違点1は設計的事項ということはできない。
ウ本件審決は,二組の肘関節部が同方向に突出する点について,上下移動機構
と干渉しないようにするためには,二組の肘関節部は,いずれも同方向に配置する
ことになり,さらに「二組」である以上,同方向か逆方向かの,二者択一にすぎな
いから,その選択に格別の困難性は認められないとする。
しかしながら,先に指摘したとおり,上下移動機構と干渉しない配置は,同方向
に限るものではない。また,搬送対象が重量物であることに伴って,アーム部自体
も相当の重量を有することになるから,「二組」のアーム部を安定的に稼働させる
ために,装置全体として二組のアーム部の重量のバランスを取ることが優先され,
従来のコラム型ロボットにおいてダブルアームの構造を採用する場合は,周知技術
1のように,二組のアーム部をコラムを挟んで左右対称(肘関節部が別方向に突出
する構成)に配置するのが当業者の常識であり,肘関節部を同方向に突出させたり,
「同方向,逆方向」のいずれを試み,適宜選択することはあり得ない。特に,本件
発明以前に,省スペース化という課題は認識されていなかったのであるから,ロボ
ット全体のバランスを重視して,周知技術1と同様の構成を採用することがむしろ
通常であり,省スペース化を目的として,本件発明のような構成を採用することは,
単なる設計事項ということはできない。
さらに,本件審決は,特開平9−102526号公報(甲15。以下「甲15文
献」という。)の図1,図4,図7には,二組の肘関節部が同方向に突出する構成
が開示されており,かかる構成は,格別珍しいとも認められないとする。
しかしながら,甲15文献が開示するロボットは,単に肘関節の突出方向が同じ
であるにすぎず,それ以外の構成は,本件発明が開示するロボットと全く異なるも
のであり,解決しようとする課題も同様に全く異なるものであるから,本件発明と
およそ比較する余地はない。
エ本件審決は,引用発明のようなアームを利用した搬送機構は,甲15文献の
図13が開示するコラム型,図14が開示するテレスコピック型のいずれにも適用
し得るとするが,理屈上,適用することができるからといって,当業者が,実際に
容易に想到できるかは全く別の問題である。引用発明では,アームの支持部材がチ
ャンバの天井と床を構成しているものであり,コラムを使って上下移動させるとい
う発想はおよそ生じないものである。
(3)小括
以上からすると,相違点1について,設計事項であるなどとした本件審決の判断
は誤りである。
この点に関する被告の主張は,本件発明の各構成要素を,前提となる課題意識を
無視して個別に検討し,各要素が個別に開示されており,組合せが自明であると主
張するにすぎない。
3相違点2についての判断の誤りについて
(1)ワークと回転中心との位置について
本件審決は,大きいワークを回転させる場合,モーメント等の関係上,ワークを
回転中心に近づけることが望ましいことは明らかであるとする。
しかしながら,ワークを回転中心に近づけることが常識だとしても,具体的にど
のような構成によるかについてまで明らかであったものではなく,本件発明によっ
て,ダブルアーム型ロボットにおいて初めて,「ワークを回転中心に近づける」又
は「縮み位置においてワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる」構
成を達成することができたものである。
(2)ワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる構成について
本件審決は,ワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる構成は,テ
レスコピック型のロボットにおいては周知であり,ワークを回転中心に近づけるこ
と,すなわち,縮み位置においてワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置
させる構成は,設計的事項にすぎないとする。
しかしながら,本件審決がその根拠とする周知例5ないし10は,いずれも上下
移動機構としてのコラムを有さない,いわゆるシングルアーム型ロボットに関する
周知例であり,ワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる構造につい
て開示するものではない。ダブルアーム型ロボットにおいて,本件発明と同様の課
題を解決しようとする場合,アームの配置やコラムとの位置関係等,多くの解決す
べき技術課題があり,周知例5ないし10には,そのような技術課題を解決する具
体的技術の記載はないし,各発明が解決しようとする課題も,上下作業領域の拡大
と平面方向の省スペース化という本件発明の課題とはいずれも全く異なるものであ
る。
したがって,周知例5ないし10により,相違点2の構成は周知であるというこ
とも,設計事項であるということもできない。
この点について,被告は,本件明細書には,テレスコピック型の昇降機構を採用
することに関する記載があるなどと主張する。
しかしながら,コラム型においては,ハンドが移動する平面と昇降機構が交差す
るという構造上の問題があるが,テレスコピック型にはかかる構造上の問題はない
から,コラム型の構成をテレスコピック型に転用することが仮に容易であったとし
ても,テレスコピック型の構成をコラム型に転用することは容易ではない。
したがって,被告が指摘する記載は,従来のテレスコピック型の技術を本件発明
におけるコラム型のロボットへ転用することが容易であることを裏付けるものでは
ない。
(3)小括
以上からすると,本件発明について,引用発明に周知技術1ないし4を適用する
ことにより,容易に想到し得るものであるとした本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
1一致点の認定の誤りについて
(1)「コラム」について
ア引用例が開示する技術内容は,引用例が図示する実施形態に限定して理解す
べきではなく,ロボットを一側面が相対向するように上下に配置するという構成に
おける基本思想を念頭に置いて理解すべきである。
すなわち,引用例の,「また,本発明のロボットはハンドが二次元にしか動作で
きないものに限られず,…アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有する構成
(を有する)ロボットでもよい。」との記載からすると,引用発明は,アーム部が
単一の平面内のみでしか動作できない構成に限定しておらず,アーム部が上下に昇
降する構成についても開示されている。もっとも,引用発明には,アーム部の上下
移動に関する具体的構成に関する記載はないが,当業者であれば,引用発明におい
て,アーム部を例えばコラム型の昇降機構などに取り付けて上下に昇降させる構成
を採用することは容易である。
引用発明は,駆動部とアーム部とからなるロボットを一対,上下に配置する構成
に特色があるのであって,引用例に記載された実施例のような,一対のロボットを
搬送チャンバ内に配置する構成は,一つの推奨される実施形態にすぎない。
したがって,引用例に明示されている,「アーム部およびハンド全体が昇降する
機能を有する構成」を採用する場合,当業者が,搬送チャンバ全体を昇降させる構
成を採用することは通常あり得ず,アーム部とハンド部とを支持部材を介して何ら
かの形式の昇降機構(例えばコラム型の昇降機構)に取り付ける構成とすることは,
容易に想到することができるものである。
イ本件審決は,引用発明について,「二組のアームの上下移動機構である限り
において」という条件を満たす場合には,「二組のアーム昇降手段」は,本件発明
の「第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能に保持するコラムとを含む移動
機構」と一致すると認定しているのであって,引用例にコラムが記載されていると
するものではない。
また,本件審決は,引用発明においては,上下移動機構の詳細が明らかではない
点について,相違点1として認定しており,原告の主張は誤りである。
(2)「ハンド部」について
この点に関する原告の主張は,引用発明のハンドを,基板載置部とそれ以外の部
分とに分割し,それぞれが,本件発明のハンド部と前腕に対応するとの前提に基づ
くものである。
しかしながら,引用発明における基板載置部は,ハンドと一体に形成されたハン
ドの一部分であるところ,本件発明におけるハンド部は,関節部を介して前腕部に
取り付けられた横方向板状部分と,当該部分と一体に形成されワークを載置する2
本のフォーク部材とから構成されており,基板載置部がフォーク部材に対応してい
るものであって,本件発明のハンド部と,引用発明のハンドとは同一の構成である。
原告の主張は,その前提自体が誤りである。
また,原告は,本件発明のハンド部は,アーム及び基端の関節部の間に位置する
ものであるとも主張するが,本件発明の構成要件を無視した主張である。
さらに,原告は,引用発明では,アームの縮み位置において,基端の関節部と重
なる位置にワークが必ずあるとはいえないとも主張するが,アームの縮み位置にお
いて,基板載置部の少なくとも一部が駆動部の軸中心と重なる位置となることは,
引用例の第1図の記載から明らかである。
2相違点1についての判断の誤りについて
(1)本件発明と引用発明の課題と解決手段について
引用例には,基板処理装置が横方向に大型化することにより,高価なクリーンル
ーム内において占有面積が増大することを指摘しているから,引用発明の解決しよ
うとする課題は,本件発明の旋回半径の増大という課題と同一である。
また,引用例には,アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有する構成に関す
る記載があるから,本件発明と引用発明の解決手段が異なるものでもない。
(2)引用発明が示唆するアーム昇降機構について
ア原告は,引用発明は,あくまでもチャンバ内で作業を完結させるものであり,
ロボットのアームが支持部材と共に上下に移動するようなことは全く想定も示唆も
していないなどと主張するが,かかる主張は,引用発明の構成を引用例の第1図な
いし第5図に記載された構造に限定して解釈するもので,明らかに誤りである。
引用例は,搬送装置の設置場所をチャンバ内に限定するものではなく,むしろ,
一般的に,基板をエッチング等の処理が行われる処理室に出し入れする搬送装置に
ついて記載しているものであるし,2つのロボットを上下に配置する構成を技術思
想として開示するもので,上下移動機構についての十分な示唆があるものである。
イ原告は,周知技術1には,平面方向の省スペース化という課題がなく,引用
発明と組み合わせて本件発明の課題や解決手段が導かれるものではないなどと主張
するが,本件審決は,相違点1についての判断において,引用発明に周知技術1を
組み合わせて結論付けたものではなく,コラムを採用した移動機構は,周知技術1
ないし4から周知であるとするものであるから,周知例1について,当該発明の課
題等,その細部の記載についてるる言及する原告の主張は,その前提自体が誤りで
ある。
ウ周知例1は,「アームの肘関節の突出方向と反対側にコラム等を含む移動機
構を配置する」構成及び「2つのアームを上下に配置する」構成について,いずれ
も明確に開示している。
さらに,コラムに支持部材が上下方向移動可能に設けられ,支持部材に伸縮自在
なアーム機構が取り付けられた構造を有するロボットにおいて,「移動機構を,ハ
ンド部の移動方向に関して肘関節部が突出する方向と反対側に設ける」構成は,本
件特許の出願前,周知例1及び2,特開昭58−109284号公報(乙1),特
開平10−278790号公報(乙2)等から明らかなとおり,当業者にとって周
知であったものである。肘関節部突出方向に移動機構を配置した場合,干渉の恐れ
があるから,反対側に配置する構成を採用することについて,設計的事項であると
したとした本件審決の判断に,誤りはない。
この点について,原告は,肘関節部突出と移動機構との干渉を回避する方法は,
種々存在するなどと主張する。
しかしながら,肘関節部突出と移動機構との干渉を回避する方法が他に存在し得
ることと,そのうち,周知技術である移動機構をハンド部の移動方向に関して肘関
節部が突出する方向と反対側に設ける方法を採用することが設計事項であることと
は全く矛盾しない。
エ原告は,従来のコラム型ロボットにおいて,ダブルアームの構造を採用する
場合,上下移動機構と干渉しない二組のアーム部の肘関節部の突出方向は同方向に
限られるものではないと主張する。
しかしながら,移動機構を肘関節部が突出する方向と反対側に設ける方法が設計
事項であると同様に,二組のアーム部の肘関節部が突出する方向を同方向とするこ
ともまた,設計事項にすぎない。
そもそも,二組以上のアームを備えたロボットにおいて,各アームを上下に配置
し,各アームの肘関節の突出方向を同一とした構成は,引用発明,甲15文献,特
開平7−297255号公報(甲16),特開平10−163294号公報(甲1
7),特開平11−188670号公報(甲18)等から明らかなとおり,本件特
許の出願前に,当業者にとって周知であったものである。
(3)小括
以上からすると,本件審決の相違点1についての判断に誤りはない。
3相違点2についての判断の誤りについて
(1)ワークと回転中心との位置について
本件審決は,ワークを回転中心に近付けることが望ましいという技術常識を前提
として,周知例5ないし10から明らかなとおり,ワークを二組のアームの基端の
関節部の間に位置させる構成は,テレスコピック型ロボットにおいては周知である
ことを前提として,相違点2についても設計事項にすぎないとするものである。
しかるところ,相違点2の構成は,引用例により既に開示されているものという
ことができるから,本件審決が,設計事項にすぎないとした判断に誤りがないこと
は明らかである。
(2)ワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる構成について
本件審決は,ワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる構成が,極
めて普通のこととして当業者により採用されていたことを示すために,周知例5な
いし10を引用したものであるから,個々の周知例における発明の課題やその解決
手段は,当該構成が周知であったことを否定する理由とはならない。
また,原告は,周知例5ないし10には,本件発明のようなダブルアーム型ロボ
ットにおける課題を解決する具体的技術の記載はないなどと主張するが,周知例5
ないし10が開示するワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる構成
は,テレスコピック型の昇降機構を備えたロボットに固有なものではなく,本件発
明のようなコラム型の昇降機構を備えたロボットにも容易に転用可能なものである。
本件明細書にも,アームを上下移動させるために,コラム型昇降機構の代替として,
テレスコピック型昇降機構を適用し得ることが明確に記載されており,かかる記載
は,アームが上下移動するロボットにおいて,コラム型の昇降機構とテレスコピッ
ク型の昇降機構とは,二者択一的に選択使用できるものであって,両者の間に技術
の転用可能性があり,かつ,両者間で技術の転用をすることは,当業者が通常行い
得る程度のことであることを明確に示すものである。
(3)小括
以上からすると,本件発明について,引用発明に周知技術1ないし4を適用する
ことにより,容易に想到し得るものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1一致点の認定の誤りについて
(1)「コラム」について
ア引用例の記載について
引用例(甲1)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
(ア)引用発明の特許請求の範囲は,「駆動部と該駆動部の一側面に沿って動作
するアーム部とよりなるロボットを備え,前記アーム部の先端に設けられたハンド
に基板を載せて移動させる基板搬送装置であって,前記一側面が相対向するように
して上下に前記ロボットが配設されていることを特徴とする基板搬送装置」である。
(イ)引用発明は,半導体基板等に対してエッチング等の処理を施す処理装置に
おける基板の搬送装置に関するものである。
半導体基板等にエッチング処理を施す装置において,基板を載せるハンドが先端
に設けられたアーム部を有するロボットを有する搬送装置が用いられているところ,
かかる搬送装置は,従来,ロボットを1台しか搭載しておらず,基板の搬送に要す
る時間が長く,処理装置のスループット(単位時間当たりの基板処理枚数)が低下
するという問題があった。
(ウ)ロボットを2台並べて搬送装置を構成すると,ロボット相互の干渉により,
スループットを向上させることができないのみならず,基板処理装置が横方向に大
型になり,高価なクリーンルームにおいて占める面積が増大する。
(エ)本発明の基板処理装置は,各ロボットのそれぞれのアーム部がどの方向に
動作しても,アーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板が互いに干渉すること
はなく,しかも,上下のロボットのハンドを相互に重ねるようにして同時に処理室
へ挿入することができる。ロボットは上下に配設するので,設置スペースは少なく
とも従来と同様に小さく維持できる。
(オ)本発明のロボットは,ハンドが二次元的にしか動作できないものに限られ
ず,例えば,ハンドがアーム部に対して昇降する機能を有していたり,アーム部及
びハンド全体が昇降する機能を有していてもいい。
イ引用例における上下移動装置に関する開示について
原告は,引用発明における支持部材が,チャンバの天井・床である上板部材や下
板部材であることを前提として,引用例は,その上下移動に関する技術的事項等の
詳細について,具体的に開示していないなどと主張する。
確かに,引用例においては,引用発明の実施例として,一対のロボットを搬送チ
ャンバ内に配置する構成について開示しており,かかる実施例においては,チャン
バ内の床と天井が,アームが取り付けられる支持部材に相当するものということが
できる。
しかしながら,引用発明の特許請求の範囲においては,アーム部やハンド全体が
上下移動する構成が排除されているものではなく,引用例にも,ハンドがアーム部
に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能が明示されてい
るものである。
そうすると,当業者が,引用例の記載から,引用例の実施例において開示された
搬送チャンバ内に上下一対に配設されたロボットにつき,「ハンドがアーム部に対
して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する構成とし
て,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを,支持部材を介してコラ
ム型等の上下昇降機構に組み合わせることは,容易であるということができる。
したがって,本件審決が,引用発明の「二組のアーム昇降手段」は,「二組のア
ームの上下移動機構である限りにおいて」,本件発明の「第1及び第2の支持部材
を上下方向に移動可能に保持するコラムとを含む移動機構」と一致すると認定した
点に誤りはない。
なお,原告は,引用例の,「駆動部の一側面に沿うハンドの動作については全く
干渉あるいは死角などが発生せず」との記載からすると,引用発明には,アーム部
の旋回あるいは直線移動に関して周囲に干渉物がないこと,すなわちコラムが存在
しないことを意味するものであるなどと主張する。
しかしながら,引用例の上記記載は,ロボットを2台横に並べて配置した場合に
死角等が生じる問題点がロボットを上下に並べて配置することにより解消すること
を指摘したものと解されるのであって,かかる記載をコラムが存在しないことを意
味するものということはできない。
しかも,本件審決は,「二組のアームの上下移動機構である限りにおいて」,す
なわち,引用発明が,上下移動機構を有することを一致点として認定したものであ
って,引用発明がコラムを有するものと認定したわけではなく,実際,相違点1に
おいて,本件発明がコラムを含む移動機構を有するところ,引用発明の上下移動機
構の詳細は明らかでない点については,これを相違点として認定し,判断している
ものである。
原告の主張は採用できない。
(2)ハンド部について
ア本件審決は,引用発明が,「ハンドと,第2アームと,第1アームと,前記
ハンドと前記第2アームを連結する軸部,軸受と,前記第2アームと前記第1アー
ムを連結する軸,ボス部と,前記第1アームの前記軸とは反対側に設けた第1アー
ムの基端のボス部,第1駆動軸と,前記第1駆動軸,ボス部,軸部を連結駆動して
回動させる第1モータ,第2モータ」からなる構成を有するとするところ,原告は,
引用発明が当該構成を有することを前提として,本件審決が,引用発明の「二組の
アーム昇降手段」が本件発明の「第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能に
保持するコラム」に相当するとした判断は誤りであると主張する。
イそこで,引用発明の上記構成と,これに対応する本件発明の構成,すなわち,
「ハンド部と,前腕と,上腕と,前記ハンド部と前記前腕を連結するハンド関節部
と,前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と,前記上腕の前記肘関節部とは反対
側に設けたアームの基端の関節部と,前記各関節部を連結駆動して回動させる回転
駆動源」とについて,以下対比する。
(ア)前記指摘の本件発明の構成によると,本件発明には,3個の関節(肩関節
部,肘関節部,ハンド関節部)及びそれらの間に2本のアーム(上腕,前腕)が設
けられているところ,引用発明にも,3個の軸部(基端のボス部,軸,軸部)とそ
れらの間に2本のアーム(第1アーム,第2アーム)が設けられている。
そして,本件発明の肘関節部と,引用発明のボス部は,いずれも両側に2本のア
ームが配置されていることからすると,引用発明の軸及びボス部は,本件発明の肘
関節部に相当するものということができる。
(イ)また,本件発明の肘関節部には,前腕及び上腕が連結されているところ,
引用発明でも,軸及びボス部には,第2アーム及び第1アームが連結されているか
ら,引用発明の第2アーム及び第1アームは,本件発明の前腕及び上腕に,それぞ
れ相当するものということができる。
(ウ)さらに,本件発明のハンド関節部は,前腕に連結された関節部であるから,
本件発明においては,連結部がハンド関節部であり,引用発明においては,第2ア
ームに連結された軸部,軸受がハンド関節部に相当する。
ウ以上からすると,引用発明において,軸部,軸受に連結されるハンドは,本
件発明のハンド関節部につながるハンド部に相当するものであるから,引用発明の
基板載置部が,本件発明のハンド部に相当するとの原告主張は,採用できない。
(3)小括
したがって,本件審決の一致点の認定には,誤りはない。
2相違点1についての判断の誤りについて
(1)本件明細書の記載について
本件明細書(甲26)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
ア本発明は,ワークの取り出し及び供給を行うダブルアーム型ロボットに関す
るものである。
従来,液晶用のガラス基板や半導体ウェハ等の薄板状のワークをストッカから取
り出したり,ワークをストッカに供給するために,ダブルアーム型ロボットが利用
されている。
従来のダブルアーム型ロボットは,両アームが縮んだ際,両肘関節部が左右対称
に突出して,ロボットの旋回領域が大きくなってしまうという問題点がある。さら
に,2つのハンド部が接触することがないように,コの字型コラムが基台上部の旋
回中心の外側に向かって突出しており,ロボットの旋回半径がさらに大きなものと
なってしまうという問題点等もあった。
そのため,他の装置にぶつかることがないように,ロボットの周囲に十分なスペ
ースを設ける必要が生じ,クリーンルーム内の占有スペースの増大化によるコスト
高,レイアウトの自由度低下という支障が生じる。
イ近年,液晶用ガラス基板の大型化により,ガラス板の撓みも大きくなり,そ
れに伴い,ストッカの各段の間隔を大きくする必要が生じるため,ロボットの上下
方向のストロークを大きくする必要がある。
従来のダブルアーム型ロボットでは,アームの縮み動作に伴い,両肘関節部が左
右対称に突出するため,設置スペースを考慮すると,アームの移動機構はアームの
下側に配置する必要があるが,上下移動機構として従来採用されている多段テレス
コピック機構では,上下方向のストロークを大きくするほど複雑大型化するなどの
問題が生じる。
ウ本発明は,旋回半径が小さく,また,装置の大型化・複雑化を伴わない上下
移動機構により構成可能なダブルアーム型ロボットを提供することを目的とする。
本発明の実施形態としてのダブルアーム型ロボットは,アームが設けられている
支持部材を上下に移動させる移動部材を備え,アームの上下位置を調整可能として
いる。移動機構の台座は回転可能に設けられ,ロボットを旋回して向きを変えられ
るようにしている。
二組のアームは,互いに干渉しないように,上下方向に対面するようにスライダ
に配置されるため,互いに接触することなく,かつ接近させて配置することが可能
となり,従来のように,一方のアームに接触防止用のコの字型コラムを設ける必要
はない。また,アームが縮み位置に移動する際,肘関節部がハンド部の移動方向の
側方に突出する方向を同方向となるようにしているため,従来のように両肘関節部
が左右対称に突出することはない。さらに,上下移動機構は,ワークの取り出し・
供給方向,すなわちアームの伸縮方向の側部に位置しており,また,肘関節部が突
出しない側部に配置しているため,アームの最下位置を下げることが可能となる。
また,スライダをコラムの側面でスライド移動させるように構成しているので,
上下移動方向を大きく設計する必要があった場合でも,多段テレスコピック機構等
で上下移動機構を構成する場合と比較して,機構を複雑化・大型化することなく対
応することが可能となる。
エ以上のとおり,本発明の構成によると,上下移動方向のストロークを大きく
設計する必要がある場合でも,機構を複雑化・大型化することなく対応可能であり,
また,二組のアームを上下対称に重ねて配置しているので,上下移動機構をアーム
の側面に配置しても,配置スペースを大きく占めることはない。
また,アームを縮み位置に移動させた際,当該アームに取り付けられたそれぞれ
のハンド部がアームの基端の関節部の間に位置し,かつ,二組の肘関節部をハンド
部の移動方向に関して同方向に突出させているので,アームが縮んだ位置でのワー
クとハンド部と支持部材の回転中心とが同じ領域に重なって配置され,旋回半径を
小さくすることができる。
さらに,本発明の構成によると,ハンド部の高さを互いに変えるためのコの字型
コラムを設けることは不要であり,その分だけ旋回半径の径方向外側への突出物が
減少し,さらに旋回半径を小さくすることが可能となる。
(2)本件発明における二組のアームの突出方向と移動機構の配置について
本件発明は,前記のとおり,従来のダブルアーム型ロボットにおいては,両アー
ムが縮んだ際,両肘関節部が左右対称に突出してしまうこと及び2つのハンド部の
接触を防止するために設けられたコの字型コラムにより,ロボットの旋回領域が大
きくなってしまうという課題並びにアームの縮み動作に伴い,両肘関節部が左右対
称に突出するため,アームの移動機構はアームの下側に配置する必要があることか
ら,上下移動機構として従来採用されている多段テレスコピック機構では,上下方
向のストロークを大きくするほど複雑大型化するなどの課題を解決するために,二
組のアームを,基端の関節部が互いに上下に異なる高さで配置された第1及び第2
の支持部材に取り付け,二組の肘関節部を二組ともにハンド部の移動方向に関して
同方向に突出させるのみならず,第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能に
保持するコラムとを含む移動機構を,ハンド部の移動方向に関して肘関節部が突出
する方向と反対側に設けることにより,解決するものである。
(3)引用発明の構成について
前記1(1)において説示したとおり,引用発明は,ロボットを2台並べて搬送装
置を構成すると,ロボット相互の干渉により,スループットを向上させることがで
きないのみならず,基板処理装置が横方向に大型になり,高価なクリーンルームに
おいて占める面積が増大するとの課題を解決するために,各ロボットのそれぞれの
アーム部がどの方向に動作しても,アーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板
が互いに干渉することがないように,上下にロボットを配置する構成を開示するも
のであり,しかも,ハンドがアーム部に対して昇降する構成や,アーム部及びハン
ド全体が昇降する構成についても示唆するものである。
そして,当業者が,引用例の記載から,引用例の実施例において開示された搬送
チャンバ内に上下一対に配設されたロボットについて,「ハンドがアーム部に対し
て昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する構成として,
搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを,支持部材を介してコラム型
等の上下昇降機構に組み合わせることは,容易であるものということができること
も,先に指摘したとおりである。
(4)周知技術について
ア周知例1(甲2)は,保管庫に関する発明についての文献であるところ,図
2には,コラム型の上下移動装置を有する移載器の構成が開示されている。
イ周知例2(甲4)は,複腕ロボットに関する発明についての文献であるとこ
ろ,図1には,ボールスクリューを用いて支持部が上下に移動するコラム型の上下
移動装置を有するロボットの構成が開示されている。
ウ周知例3(甲5)は,ハンドリング装置に関する発明についての文献である
ところ,第1図には,昇降コラムとキャリッジからなるコラム型の上下移動装置を
有するシングルアーム型ロボットの構成が開示されている。
エ周知例4(甲6)は,産業用ロボットのハンド装置及びワーク搬送方法に関
する発明についての文献であるところ,図7には,昇降軸からなるコラム型の上下
移動装置を有する産業用ロボットの構成が開示されている。
オしたがって,本件特許の出願当時,コラム型の上下移動装置を有する産業用
ロボットは,周知技術であったということができる。
また,甲15文献には,従来技術として,コラム型又はテレスコピック型の上下
移動装置を有する真空内基板搬送装置が開示されており,産業用ロボットにおける
上下移動装置には,コラム型又はテレスコピック型があることもまた,周知技術で
あったものということができる。
(5)引用発明と周知技術の組合せについて
ア以上によると,当業者が,引用例の記載から,引用例の実施例において開示
された搬送チャンバ内に上下一対に配設されたロボットについて,「ハンドがアー
ム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する
構成として,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを支持部材を介し
て上下昇降機構に組み合わせる際に,周知技術であるコラム型の移動装置を採用す
ることも,容易であるものということができる。
そして,本件発明においても,引用発明においても,二組のアームの突出方向に
干渉が生じることを防止することが共通の課題とされているところ,肘関節部の突
出と移動機構との干渉を回避するためには,移動機構を,アームと接触しない位置,
すなわち,ハンド部の移動方向に関して肘関節部が突出する方向と反対側に設ける
構成を採用することは,設計事項にすぎないものということができる。
その場合,二組のアーム部の肘関節部が突出する方向も,相互の干渉や移動機構
との干渉を防止するために,同方向とすることはむしろ当然であって,肘関節部が
突出する方向を同方向とすることもまた,設計事項というほかない。
イこの点について,原告は,引用発明の支持部材がチャンバの天井と床である
以上,支持部材を上下に移動させてチャンバ以外に使用することを想起することは
困難であるなどと主張するが,前記(1)において先に説示したとおり,原告のかか
る主張はその前提を欠くものである。
また,原告は,周知技術は,省スペース化や上下方向の可動範囲の拡大という本
件発明の課題とは大きく異なる課題を解決するものであり,引用発明と周知技術と
を組み合わせて本件発明の課題や解決手段が導かれるものではない,肘関節部突出
と移動機構との干渉を回避する方法は複数存在する以上,設計事項ということはで
きない,「二組」のアーム部を安定的に稼働させるために,従来のコラム型ロボッ
トにおいてダブルアームの構造を採用する場合は,周知技術1のように,二組のア
ーム部をコラムを挟んで左右対称に配置するのが技術常識であったなどと主張する。
しかしながら,産業用ロボットにおいて,省スペース化や可動範囲の拡大を図る
ことは,普遍的な課題ということができるものである。実際,周知例2には,「設
置面積を増やすことなく,アームやワークの干渉による損傷を防ぎ,作業効率を上
げること」が目的として指摘されているし,周知例4には,ハンド装置の上面に突
出したワーク押圧機構が周辺装置に干渉することを避けるために,周辺装置が大型
化かつ高価格化するという問題点が指摘されているものである。そして,周知技術
1ないし4において,各発明の課題を解決するための特有の構成として,コラム型
の上下移動機構装置を採用したという事情はうかがわれない。
また,肘関節部との干渉を避けるという目的からすると,移動機構を肘関節部の
突出方向と反対側に設けることは,むしろ当業者がまず第1に着想する構成という
ことができるから,肘関節部突出と移動機構との干渉を回避する方法が複数存在す
るとしても,省スペース化という課題を前提に,当業者が適宜選択することが可能
であることは明らかである。
さらに,二組のアーム部を上下方向に対向して設置する構成が,引用例において
開示されている以上,従来,二組のアーム部をコラムを挟んで左右対称に配置する
構成が技術常識であったとしても,上記結論を左右するものではない。
原告の主張は採用できない。
(6)小括
以上からすると,相違点1については,格別なものではないとした本件審決の判
断は,相当である。
3相違点2についての判断の誤りについて
(1)周知例5ないし10について
ア周知例5(甲8)は,多関節ロボットに関する発明についての文献であると
ころ,従来のロボットにおいては,アームを折りたたんだ状態のまま回転する際,
基台から突出している領域が大きくなるという課題が指摘され,また,図4には,
ダブルアーム型ロボットにおいて,「縮み位置においてワークを二組のアームの基
端の関節部の間に位置させる」構成が開示されている。
イ周知例6(甲9)は,薄型基板の搬送装置に関する発明についての文献であ
るところ,従来のセンタリング装置を廃止し,省スペース化を図るという目的が記
載され,また,図5には,「縮み位置においてワークを基端の関節部の間に位置さ
せる」構成が開示されているほか,ダブルアーム型ロボットにも当該発明は適用で
きる旨の記載がある。
ウ周知例7(甲10)は,非接触式ガラス基板ズレ検知装置に関する発明につ
いての文献であるところ,機械的構造の簡素化及び省スペース化を図るという目的
が記載され,図1には,「縮み位置においてワークを基端の関節部の間に位置させ
る」構成が開示されている。
エ周知例8(甲11)は,真空作業装置に関する発明についての文献であると
ころ,真空作業装置において,常時,薄型基板の有無が検出可能で,ロボットの動
作を迅速に制御することを可能にするという目的が記載され,図2には,「縮み位
置においてワークを基端の関節部の間に位置させる」構成が開示されている。
オ周知例9(甲12)は,真空作業装置に関する発明についての文献であると
ころ,真空作業装置において,常時,薄型基板の有無が検出可能で,ロボットの動
作を迅速に制御することを可能にするという目的が記載され,図2には,「縮み位
置においてワークを基端の関節部の間に位置させる」構成が開示されている。
カ周知例10(甲13)は,半導体ウエハ搬送用ロボットのハンドに関する発
明についての文献であるところ,半導体ウエハを高精度でハンドの所定位置に固定
させる目的等が記載され,図2には,「縮み位置においてワークを基端の関節部の
間に位置させる」構成が開示されている。
キしたがって,本件特許の出願当時,シングルアーム型ロボット又はダブルア
ーム型ロボットにおいて,「縮み位置においてワークを基端の関節部の間に位置さ
せる」構成あるいは「縮み位置においてワークを二組のアームの基端の関節部の間
に位置させる」構成は,周知技術であったということができる。
(2)引用発明と周知技術の組合せについて
ア以上によると,当業者が,引用発明において,アーム部とハンド部とを支持
部材を介してコラム式の上下昇降機構に組み合わせる際,アームを折りたたんだ縮
み位置の状態において,省スペース化の観点から,周知技術である「縮み位置にお
いてワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる」構成を採用すること
は容易であるというべきである。
イこの点について,原告は,周知例5ないし10は,いずれも上下移動機構と
してのコラムを有さない,いわゆるシングルアーム型ロボットに関する周知例であ
り,ワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる構造について開示する
ものではない,ダブルアーム型ロボットにおいて,本件発明と同様の課題を解決し
ようとする場合,多くの解決すべき技術課題があるところ,周知例5ないし10に
は,そのような技術課題を解決する具体的技術の記載はないし,各発明が解決しよ
うとする課題も,本件発明の課題とはいずれも全く異なるものであるから,周知例
5ないし10により,相違点2の構成は周知であるということも,設計事項である
ということもできないなどと主張する。
しかしながら,周知例5ないし10には,ダブルアーム型ロボットにおける構成
が図示されているものや,ダブルアーム型ロボットにおける適用の可能性について
記載されているものもあるのみならず,「縮み位置においてワークを二組のアーム
の基端の関節部の間に位置させる」構成は,縮み位置における省スペース化を図る
目的においては,シングルアーム型ロボットに特有の構成というわけではないから,
各アームが支持部材によって上下対向して配置されたダブルアーム型ロボットにお
いて採用することは,容易であるということができる。
また,本件審決は,周知例5ないし10について,上記構成自体は周知技術にす
ぎないことを裏付ける周知例として採用したものであり,各周知例により開示され
た発明の課題やその解決手段自体は,当該周知技術を引用発明に適用するための阻
害事由となるものではない。しかも,周知例5ないし10については,省スペース
化という課題が示唆されているものである。
さらに,原告が強調する,アームの配置やコラムとの位置関係等の解決すべき課
題についても,先に述べたとおり,移動装置は,アームの突出方向と干渉しない位
置として,その反対側に設置することとされるなど,個別の考察により,適宜設計
し得る事項にすぎないものということができる。実際,縮み位置におけるワークの
位置について,上記周知技術を適用したとしても,反対側に設置されるコラムと干
渉することはないのであるから,移動装置の位置等は,周知技術の適用について,
阻害事由となるものではない。
原告の主張は採用できない。
(3)小括
以上からすると,相違点2について,格別の技術的意義があるものではないとし
た本件審決の判断は,相当である。
4結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光

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また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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