弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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           主      文
被告人を懲役1年4月に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
           理      由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 A及びBと共謀の上,支払督促制度を悪用して,Aにおいて同人の叔父である
Cの財産を不正に差押えするため,
1 Aが平成14年3月20日付けでD簡易裁判所書記官に申し立てたAを債権者
としCを債務者とする元金6480万円の立替金請求事件の支払督促(以下「本件支
払督促」という。)について,同裁判所がC宛に発送した支払督促正本を郵便配達員
から詐取しようと企て,同月23日,兵庫県西宮市a町b番c号所在のC方付近におい
て,前記Bにおいて,同正本を送達するためC方を訪れたD郵便局配達員Eに対し,
「私がCです。」などと嘘を言った上,行使の目的をもって,ほしいままに,支払督
促正本に係る郵便送達報告書の「受領者の押印又は署名」欄に「C」と冒書し,もっ
て,偽造した他人の署名を使用して事実証明に関する文書であるC作成名義の郵便送
達報告書(民事第一審訴訟記録1冊‐平成14年押第174号の1中の同報告書)
中の受領書部分を偽
造した上,即時同所において,これをあたかも真正に成立したもののように装い提
出して行使し,前記Eをして,前記BがC本人であって支払督促正本を受領する権限が
あるものと誤信させ,よって,即時同所において,前記Eから同正本の交付を受け,
もって,人を欺いて財物を交付させた
2 Aが同年4月9日付けでD簡易裁判所書記官に申し立てた本件支払督促に係る
仮執行宣言について,同裁判所がC宛に発送した仮執行宣言付支払督促正本を郵便配
達員から詐取しようと企て,同月10日,前記C方付近において,前記Bにおいて,
同正本を送達するためC方を訪れたD郵便局配達員Fに対し,前同様に嘘を言った
上,行使の目的をもって,ほしいままに,仮執行宣言付支払督促正本に係る郵便送
達報告書の「受領者の押印又は署名」欄に「C」と冒書し,もって,偽造した他人の
署名を使用して事実証明に関する文書であるC作成名義の郵便送達報告書(民事第一
審訴訟記録1冊‐平成14年押第174号の1中の同報告書)中の受領書部分を偽
造した上,即時同所において,これをあたかも真正に成立したもののように装い提
出して行使し,前記
Fをして,前記BがC本人であって仮執行宣言付支払督促正本を受領する権限があるも
のと誤信させ,よって,即時同所において,前記Fから同正本の交付を受け,もっ
て,人を欺いて財物を交付させた
第2 Aと共謀の上,Aの祖母であるGが被告人を貸主としAを借主とする金700万
円の金銭消費貸借契約の連帯保証人になった旨虚偽の申し立てをして,公正証書の
原本にその旨不実の記載をさせようと企て,同年3月27日,兵庫県尼崎市de丁目
f番地所在のI公証人合同役場H公証役場において,公証人Hに対し,Aが同年1月8日
に被告人から金700万円を借り受けた事実はなく,GがAのためにその連帯保証人
になった事実もないのに,Aが同年1月8日に被告人から金700万円を借り受けそ
の返還債務を負担していることを承認するとともに,GがAの債務を保証し連帯して
その履行の責任を負うことを約した旨の虚偽の申し立てをし,よって,即時同所に
おいて,情を知らない公証人Hをして,債務承認弁済契約公正証書の原本にその旨不
実の記載をさせ,即時
これを同所に備え付けさせて行使した
ものである。
(証拠の標目)‐かっこ内は検察官請求証拠甲乙の番号
省略
(補足説明)
 弁護人は,判示第1の各犯行について,被告人らには不法領得の意思がなかった
から,詐欺罪は成立しない旨主張するが,当裁判所は,被告人らには不法領得の意
思があったと認定したので,その理由について,補足して説明する。
 詐欺罪が成立するためには,犯人に不法領得の意思,すなわち,「権利者を排除
して他人の物を自己の所有物としてその経済的ないし本来的用法に従いこれを利用
もしくは処分する意思」が必要であると解すべきことは所論指摘のとおりである。
 関係各証拠によれば,判示第1の各犯行において,被告人らは,支払督促制度を
悪用して,共犯者のAにおいて同人の叔父であるCの財産を不正に差押えするため,A
がD簡易裁判所書記官に申し立てたAを債権者としCを債務者とする本件支払督促に
ついて,支払督促正本及び仮執行宣言付支払督促正本(以下併せて「本件支払督促
正本等」という。)が正当な受領者である債務者のCに送達されなようにするため,
これらを郵便配達員から騙し取ったものであり,騙取した本件支払督促正本等につ
いては廃棄するつもりであったことが明かである。
 財物は,一般的には,その存在ないしは利用に価値があるから,騙取した財物を
廃棄するつもりであったときには,上記の「その経済的ないし本来的用法に従いこ
れを利用もしくは処分する」意思がなく,不法領得の意思を欠くことになると考え
られる。しかし,ある種の財物は,その不存在ないしは利用を妨げることが,その
まま特定の者の利益になることがある。例えば,約束手形や借用証書は,その不存
在ないしはその利用を妨げることが,約束手形の振出人や消費貸借の借主に債務の
履行を免がれる可能性をもたらし,その経済的利益になり得るのである。したがっ
て,約束手形の振出人や消費貸借の借主が,約束手形や借用証書を廃棄するつもり
でそれを所持人から騙し取ったような場合には,約束手形の振出人や消費貸借の借
主にとっては,その
約束手形や借用証書を廃棄することが,「その経済的ないし本来的用法に従いこれ
を利用もしくは処分する」ことにほかならないと考えられるから,やはり不法領得
の意思があると解するのが相当である。すなわち,その不存在ないしは利用を妨げ
ることがそのまま特定の者の利益になる財物について,その特定の者が廃棄するつ
もりでその財物を騙取したとしても,その特定の者については,その財物を廃棄す
ることが,「その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する」こ
とになるから,不法領得の意思が認められるというべきである。
 これを本件についてみると,被告人らは,本件支払督促正本等を郵便配達員から
騙し取り,正当な受領者である債務者のCに送達されないようにして,その利用を妨
げることにより,共犯者のAにおいて本件支払督促に係る仮執行宣言付支払督促正本
に基づきCの財産を差し押えることが可能な経済的利益を不正に得ようとしていたも
のであるから,騙取した本件支払督促正本等については廃棄するつもりであったと
しても,被告人らにとっては,それが「その経済的ないし本来的用法に従いこれを
利用もしくは処分する」意思にほかならないということができる。
 以上のとおりであって,判示第1の各犯行について,被告人らには不法領得の意
思があったものと認定できるから,詐欺罪の成立を認めることができる。
(法令の適用)
罰条
判示第1の各行為のうち
各有印私文書偽造の点   刑法60条,159条1項
各同行使の点       刑法60条,161条1項,159条1項
各詐欺の点        刑法60条,246条1項
判示第2の行為のうち
公正証書原本不実記載の点 刑法60条,157条1項
同行使の点        刑法60条,158条1項,157条1項
科刑上一罪の処理       刑法54条1項後段,10条(判示第1の各罪は
それぞれ1罪として最も重い各詐欺罪の刑‐ただし,短期は各偽造有印私文書行使
罪の刑のそれによる‐で,判示第2の罪は1罪として犯情の重い公正証書原本不実
記載罪の刑でそれぞれ処断)
刑種の選択          判示第2の罪について懲役刑
併合罪の処理         刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯
情の最も重い判示第1の2罪の刑に法定の加重)
宣告刑            懲役1年4月
未決勾留日数の算入      刑法21条(60日)
(量刑の事情)
 本件は,被告人が,共犯者A及びBと共謀の上,支払督促制度を悪用して,Aにおい
て同人の叔父であるCの財産を不正に差押えするため,Aを債権者としCを債務者とす
る支払督促正本及び仮執行宣言付支払督促正本を送達してきた郵便配達員を欺き,B
がC本人であると偽り,郵便送達報告書中の受領書部分を偽造行使して,上記各正本
を詐取したという事案及び共犯者Aと共謀の上,Aを借主,被告人を貸主とする架空
の金銭消費貸借について,Aの祖母であるGが連帯保証をしたなどの虚偽の申し立て
をして,その旨公正証書の原本に不実の記載をさせた上,これを行使したという事
案である。
 被告人らは不正な方法によって多額の金員を得ようとしたものであって,その犯
行の動機に酌むべき点は存しないこと,被告人らは,支払督促という司法制度を悪
用して,Cの権利の行使を妨害し,その財産を不正に差押えしようとし,あるいは,
公正証書の制度を悪用して,Gに架空の債務を負担させ,その財産を不正に差押えし
ようとしたものであって,本件各犯行はいずれも手口の悪質巧妙な計画的犯行であ
ること,判示第1の各犯行については,Cが判示第1の2の犯行直後に被告人らの犯
行に気付いて督促異議の申立てをするなどしたことから,被告人らの悪巧みは中途
で失敗に終わったものの,担保を提供して仮執行宣言付支払督促に基づく強制執行
停止決定を得ることを余儀なくされるなど,Cの被った迷惑は小さくなかったし,も
ちろんCが被告人
らの悪巧みに気付かなかったならば,その財産に対する不正な差押えが実行される
など,その被害は多大なものになっていたであろうこと,判示第2の犯行について
は,実際に不実の記載のされた公正証書正本によりGの預金が不正に差押えられてお
り,請求異議の訴えの提起等を余儀なくされるなど,Gの被った被害は小さくなかっ
たこと,被告人は,Aからの犯行への加担の誘いを断り難い立場にあったとはいえ,
犯行加担が自己の利益につながることをも期待してこれに応じ,本件各犯行におい
てそれなりに重要な役割を果たしていることなどを考え併せると,犯情は悪く,被
告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 また,被告人には,平成13年9月に覚せい剤取締法違反罪により懲役2年,4
年間保護観察付き執行猶予の判決を受けた前科があって,本件各犯行はその執行猶
予期間中のものであることも,量刑上看過できないところである。
 しかしながら,前記のように,判示第1の各犯行については,Cが判示第1の2の
犯行直後に被告人らの犯行に気付いて督促異議の申立てをするなどしたことから,
被告人らのCの財産を不正に差押えしようとの悪巧みは中途で失敗に終わったこと,
判示第2の犯行については,Gが請求異議の訴えを提起するなどしたことから,実際
にその預金を取立等するには至らなかったこと,本件各犯行の首謀者はCの甥でGの
孫であるAであって,被告人の共犯者間における立場は従属的なものであったこと,
被告人が事実を認め現在では反省していること,被告人の母や婚約者が被告人の監
督を誓っていること,被告人が本件で服役することになると,執行猶予中の前記の
刑も併せて服役することになるであろうことなどの,被告人のために酌むべき事情
も認められる。
(検察官の科刑意見 懲役2年6月)
 よって,主文のとおり判決する。
   平成15年3月13日
    神戸地方裁判所第12刑事係甲
             裁判官   森   岡   安   廣

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