弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役六月、被告人B、同Cを各懲役三月に処する。
     但し被告人B、同Cに対しこの裁判が確定した日から二年間右刑の執行
を猶予する。
     領置にかかる現金(計二〇万円。当裁判所昭和三九年押第八三八号の
一、ないし三)はこれを没収する。
     被告人Aに対し公職選挙法第二五二条第二項の選挙権及び被選挙権を有
しない期間を四年に短縮する。
     原審及び当審における訴訟費用は、全部被告人三名の連帯負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、千葉地方検察庁八日市場支部検察官検事三原健三作成名義
の控訴趣意書及び被告人三名の弁護人伊藤博文、同伊藤敬寿共同作成名義の控訴趣
意書記載のとおりであり、検察官の控訴趣意に対する答弁は、右両弁護人提出の答
弁書記載のとおりであるから、これらをここに引用する。
 検察官の控訴趣意第一点及び弁護人等の控訴趣意第二点について。
 検察官の所論は、被告人B、同Cについて、原判決が『右被告人両名はA(本件
相被告人)と共謀の上、昭和三八年四月三〇日施行予定の千葉県香取郡a町町長選
挙に際し、立候補の決意を有するDに対し候補者となろうとすることを止めさせる
目的をもつて、同年三月二六日同郡a町b番地のcの前記D方において同人に立候
補を辞退せられたい旨申し向け右辞退の代償として現金二〇万円を差し出し、以て
金銭供与の申込をした』旨のAとの共同正犯としての公訴事実(罰条公職選挙法第
二二三条第一項第一号)に対し、Aを右金銭供与申込罪の正犯と認定した上、右被
告人両名の行為はこれを幇助したに止まるものと認定したのは、判決に影響を及ぼ
すことの明らかな事実誤認を犯したものである、と言うにあり、また、弁護人の所
論は、被告人三名についてDはもともと立候補の意思を有せず、被告人Aもこれを
知悉していたが、ただDに対する儀礼上、同人が同県同郡d町長たる被告人B、同
e町長たる被告人Cの勧告により立候補を辞退したかの如き形式を整えるため右被
告人両名をD方に差し向けたところDは一旦立候補しない旨を明言した後、金員交
付方を要求しこれに応じなければ前言を取り消すと言い出すに至り、右被告人両名
はその旨を被告人Aに伝えたので、同被告人は予てDの経済的窮状に同情していた
ところからこれを救済するため贈与する趣旨をもつて同人の要求に応じ被告人B、
同Cを介して本件の金二〇万円を提供したものであり、被告人B、同Cもこれと同
趣旨において右選挙とは関係なく右金員提供の仲介をしたに過ぎないから被告人三
名の所為はいずれも罪とならないものである。しかるに原判決がこれをDが立候補
を辞退することの代償として供与の申込をしたものと認めて被告人等に金員供与の
申込または幇助の罪責を問うたのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認
を犯したものであると言うに帰する。
 <要旨第一>よつて各所論にかんがみ、被告人Aについては職権をも加えて審究考
察するに、公職選挙法第二二三</要旨第一>条第一項第一号第二二一条第一項第一
号の金銭供与申込罪は、公職の候補者となろうとすることを止めさせる目的をもつ
て公職の候補者となろうとする者に対し金銭の贈与する旨の意思表示をし、又は、
現実に金銭を提供して相手方においてこれを受領し得べき状態におくことによつて
成立する犯罪であるから、自らかかる所為に出でた者をもつて犯罪の実行行為者即
ち正犯と解すべきことは言うまでもないところ、刑法第六二条第一項にいわゆる従
犯とは、主として犯罪の実行行為(刑罰法規各本条所定の構成要件に該当する行
為)以外の行為に<要旨第二>より、正犯者の自ら行う犯罪の実行行為を助けその実
現を容易ならしめることを言い、犯罪を主謀画策した者</要旨第二>において自ら
はその実行行為に出でず、これと意思を通じた他の者においてこれを担当実行した
場合においては、たとえその者において、専ら右主謀者の指示に従い、その意図を
実現するため従属的立場においてこれに加功したに過ぎない観を呈することがあつ
てもその所為は従犯たるに止まるものではなく、右主謀者と共同して犯罪を実行し
た者として刑法第六〇条所定の(共同)正犯の罪責あるを免かれず、公職選挙法第
二二三条第一項第一号第二二一条第一項第一号の金銭供与申込罪についてもその理
を異にするものではないと解するのが相当である。これを本件について観ると、原
判決挙示の各証拠を綜合すれば、被告人Aは昭和二六年以降八年間に亘り千葉県香
取郡a町議会議員として在職し、現在同町農業委員会委員の任に在るもの、被告人
Bは昭和三三年一〇月から同郡d町長の職に在るもの、被告人Cは同年一二月から
同e町長の職に在るものであるが、被告人Aは昭和三八年四月三〇日施行予定の右
a町長選挙に際し、昭和二二年以降連続四期に亘り無投票当選により同町長として
勤続し、同選挙にも立候補の意思を有していたEを支持し、五たび無投票当選を得
しめることを切望した結果、同人に対立して立候補の意思を有し昭和三八年一月
頃、既にその意思を表明していたDに対し、金員供与を代償として立候補を辞退さ
せることを企図し、同年三月二〇日頃、同町役場総務課庶務係長兼人事係長の職に
在り、Dとは眤懇の間柄にあるFに意中を明かし、一〇万円や二〇万円の金なら自
分が出してもよいから、それ位の金を供与すればDが立候補を辞退するかどうか、
同人の意向を探りがてらその趣旨で同人に働きかけて欲しい旨を依頼したところ、
Fは同月二四日頃Dと面談し、被告人Aの名を秘し同被告人依頼の趣旨に副つてD
の心事を打診した結果、被告人Aに対し、Dは、二〇万円位の金を貰えば引込むこ
とを仄めかしたが、同人にも応援者がいるので、適当な人に説得されて立候補を辞
退した形にしないと具合が悪い、その説得者はd、eの両町長(即ち被告人B、同
C)ならよいとの意向である旨を報告したこと、被告人Aは、被告人B、同Cはい
ずれも隣接町の現職町長として社会的地位もあり、声望も高く、従つて両名がDに
直接勧告して立候補辞退方を説得した形をとるのが最も効果的であるから、先ず、
両名をしてDの説得に当らせ、同人が立候補辞退の意向を明らかにするにおいて
は、所望の金員は別にFに依頼してこれを届けさせようと考え、同月二五日被告人
Bに対し、金員供与の意向はこれを秘し、右経過を述べて被告人CとともにDの立
候補辞退勧告に当られたい旨を依頼したところ、被告人BもかねてEの無投票当選
を希望していたところからこれを承諾し、翌二六日被告人Cに右依頼の趣旨を伝え
てDに対する共同勧告方を促し、同様Eのa町長勤続を望んでいた被告人Cの承諾
を得、即日予めFを介してDに面会を申し込んだ上、右被告人両名においてa町b
番地のcのD方居宅に同人を訪問し、こもごも立候補辞退方を勧告したこと、Dは
右勧告を受けるや、さきに右町長Eの下僚であるFに示唆した線に副い、同人の仲
介により被告人B、同Cが来訪したところから、金員供与を代償とする立候補辞退
勧告の動きは、町長Eの策謀指示によるものと臆測し、この動きに乗じて故ら、金
員の供与があれば立候補を辞退する意思があるもののように装い、金員を提供させ
た上、直ちにこれを司直に告発して同町長の刑事責任を追及しかねてから政敵とし
て対抗して来た同人を失脚させるきつかけとしようと企て、一応右被告人両名の勧
告に応じて立候補を見合わせる旨を表明した上、両名が辞去しようとするや、片手
の指を二本出し、もう一方の手の指で丸を作つて見せながら、金を持つて来る筈に
なつているがどうしたのか、金を持つて来なければ今言つたことは取り消すと言い
立候補辞退の代償として金二〇万円の供与を要求するかの如き態度を示したので、
右被告人両名は一旦同家を辞し、直ちに被告人Aにこの旨を電話報告し、Dに所望
の金員を渡さなければ、同人に立候補を辞退させることは不可能な状況にある旨を
告げたところ、被告人Aは急遽現金二〇万円を調達の上、被告人B、同Cに対し、
初めてDに金員を供与して立候補を辞退させる意図の下にその工作をして来た経過
を打ち明けて右金員を両名に差し出し、Dを再訪してこれをその趣旨で同人に手交
されたい旨を懇請したこと、被告人B、同Cは、今更これを拒絶するにおいては、
被告人Aの画策したE町長無投票五選の企図は頓挫し、これに同調してDの立候補
辞退勧告に当つた両被告人の尽力もその成果を期待し難い事態に立ち至ることを顧
慮した結果これを承諾し、被告人Aから右金員を預かり、即日両名同道してD方に
到り同人に対し同人が立候補を辞退することの代償として贈与する趣旨のもとにこ
れが受領方を求めてこれを同人に差し出したことを認めることができ、当審事実取
調の結果によつてもこれを裏付けるに足り、論旨援用の証拠はもとより記録を精査
しても右認定を覆えすに由がない。そしてこれを前段説示に照らせば、被告人三名
は右a町長選挙に際し被告人Aの主謀画策に基き共謀の上、同町長の候補者となろ
うとしていたDに対し候補者となろうとすることを止めさせる目的をもつて金銭を
供与することを企て、被告人B、同Cにおいてこれが実行行為を担当し右Dに対し
現金二〇万円の贈与方を申入れてこれを差し出しもつて金員供与の申込をしたもの
にほかならないから、いずれも公職選挙法第二二三条第一項第一号、第二二一条第
一項第一号、刑法第六〇条(金員供与申込罪の共同正犯)の罪責あるものと言わな
ければならない。
 されば原判決が被告人Aの所為を金員供与申込罪の単独実行正犯、被告人B、同
Cの所為をこれが幇助犯と認定したのは、いずれも事実を誤認したものであつてこ
れが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、検察官の論旨はもとより、弁護
人の論旨も結局その理由あるに帰し、原判決は全部破棄を免かれない。
 よつて刑事訴訟法第三九七条第三八二条に則り検察官及び弁護人のその余の控訴
趣意につき判断を省略して原判決を破棄するとともに同法第四〇〇条但書に従い被
告事件につき更に判決をする。
 (罪となるべき事実)
 被告人三名は昭和三八年四月三〇日施行予定の千葉県香取郡a町長選挙に際し立
候補の意思を有していたEに無投票当選を得しめるため被告人Aの主謀画策に基き
三名共謀の上右Eに対立して同町長の候補者となろうとしていたDに対し、候補者
となることを止めさせる目的をもつて金銭を供与することを企て被告人B、同Cに
おいて同年三月二六日同県同郡a町b番地のcD方において同人に対し候補者とな
ろうとすることを止めることの代償とする趣旨のもとに現金二〇万円(当裁判所昭
和三九年押第八三八号の一乃至三)を贈与する旨の申込をしてこれを差し出し、も
つて金員供与の申込をしたものである。
 (証拠の標目)
 1 原審第一回、第四回、第一〇回、第一三回、第一五回及び第一六回各公判調
書中、被告人三名の各供述記載
 2 被告人Aの検察官に対する供述調書三通
 3 被告人Bの検察官に対する供述調書三通
 4 被告人Cの検察官に対する供述調書
 5 原審第二回及び第一〇回各公判調書中、証人Dの供述記載
 6 原審第六回及び第一〇回各公判調書中、証人Fの供述記載
 7 原審第四回公判調書中、証人G、同Hの各供述記載
 8 原審第五回公判調書中、証人I、同Jの各供述記載
 9 原審第八回公判調書中、証人Kの供述記載
 10 原審第三回公判調書中、証人Lの供述記載
 11 原審第七回公判調書中、証人Eの供述記載
 12 Mの検察官に対する供述調書
 13 a町選挙管理委員会委員長N作成名義の検察官に対するa町長選挙結果に
ついてと題する報告書
 14 同委員会の検察官に対する電話聴取書
 15 領置してある各現金(計二〇万円、当裁判所昭和三九年押第八三八号の一
乃至三)
 16 被告人三名の当公判廷における各供述
 17 当審における証人F、同K、同H、同I、同J、同D及び同Oの各尋問調

 (法令の適用)
 被告人三名の右所為は各公職選挙法第二二三条第一項第一号、第二二一条第一項
第一号、刑法第六〇条、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するので、被告人三
名につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内において本件犯行の罪
質、動機、態様、被告人等の犯行加功の程度、状況、被告人等の経歴、職業、社会
的地位にかんがみ、且つ検察官及び弁護人等の量刑に関する各所論をも参酌の上、
被告人Aを懲役六月、被告人B、同Cを各懲役三月に処し、被告人B、同Cに対し
ては、情状により刑法第二五条第一項第一号を適用してこの裁判が確定した日から
二年間右刑の執行を猶予し、領置にかかる現金二〇万円(当裁判所昭和三九年押第
八三八号の一乃至三)は、右犯行を組成した物で被告人三名以外の者に属しないか
ら刑法第一九条第一項第一号第二項に則りこれを没収し、被告人Aに対しては、公
職選挙法第二五二条第四項を適用して同条第二項の選挙権及び被選挙権を有しない
期間を四年に短縮し、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一
項本文第一八二条により、被告人三名をしてこれを連帯負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 小林健治 判事 遠藤吉彦 判事 吉川由己夫)

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