弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用(但し、国選弁護人荒谷昇に支給した費用中昭和四〇年八月
三日の公判期日に関する分を除く。)は、被告人の負担とする。
       理   由
 本件控訴の趣意は、弁護人荒谷昇作成名義の控訴趣意書に記載されているとおり
であるから、これを引用する。
論旨第一点(事実誤認)について。
 所論は、被告人は、原判決認定の如く進行中の大型乗合自動車を追越したのでは
なく、一時停車した大型乗合自動車の右側を追抜いたに過ぎないのであるから、原
判決の認定は事実を誤認したものであるというのである。
 しかしながら、本件記録を精査するに、原判決挙示の各証拠を綜合すれば、原判
示事実を優に認定することができる。被告人は、本件検挙当時以来捜査及び原審公
判を通じて、終始、自己の先行車であるバス(大型乗合自動車)が停車したのでそ
の右側を追抜いた旨供述しているが、右バスの運転手A、右バスの車掌B、右追越
状況を現認した警察官Cの各証人尋問調書によれば、被告人は、停車中のバスを追
抜いたものではなく走行中のバスを追越したことが明白で疑の余地がなく、被告人
の供述は措信に値しない。従つて、原判決の認定は正当で、事実の誤認ありとは認
められないから論旨は理由がない。
 論旨第二点(法令適用の誤)について。
 所論は、原判示各罪は、刑法第五四条第一項前段の一所為数法に該る場合である
から、右各罪に同法第四五条前段を適用して併合罪の加重をした原判決は法令の適
用に誤りがあるというのである。
 刑法上一所為数法か併合罪かを区別するため行為の個数を決定するには、ありの
ままに見た自然的行為の形態、個数のみにとらわれず、その行為を犯罪に問う法の
趣旨を考え、犯罪構成要件としては自然的行為のいかなる部分がその犯罪を特徴づ
けその主眼をなす重要要素に該るかを評価した上、その重要要素の重なり合い如何
を検討し、更に行為の個数の如何により差異を来すべき起訴の効力及び判決の既判
力の範囲をも考慮してなすべきものである。本件において、原判示各罪は、自然的
事実としてはともに同一の運転行為にかかわるものではあるが、自動車の運転の機
会に犯さるべき多種の態様の違反行為を多数規定してこれ等をそれぞれ独立の犯罪
として処罰することとしている道路交通法の法意に徴すれば、自然的事実として原
判示各罪に共通のかかわりを有する運転行為そのものは、構成要件的評価において
は、追越しもしくは通行区分違反の各犯行を機会づける意味を有するにとどまり、
当該各犯罪を特徴づけその主眼をなすものではなく、構成要件の重要要素をなすも
のは、自動車運転の機会に犯された追越しもしくは通行区分違反の事実そのもので
あると解するのが正当であり、従つて、原判示各罪には構成要件的評価における重
要要素の重なり合いはなく、右各罪は、同一の運転の機会に事実上復合して行なわ
れた追越しと通行区分違反の別個の行為によるものと解することができ、且つ、本
件における行為の個数をこのように解しても起訴の効力及び判決の既判力の範囲の
点に何等不都合な結果を来すこともない。以上により、原判示各罪は、刑法第四五
条前段の併合罪の関係にあると解するの
が正当であつて、同法第五四条第一項前段を適用すべきものではないから、原判決
の法令の適用は正当で論旨は採用することができない。
 よつて、本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三九六条によりこれを棄却
し、当審における訴訟費用の負担につき同法第一八一条第一項本文を適用し、(但
し、国選弁護人荒谷昇に支給した費用中昭和四〇年八月三日の公判期日に関する分
は、本件審理の経過に徴し被告人に負担させることが相当でないから、これを被告
人に負担させないこととする。
)主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小山市次 裁判官 斎藤寿 裁判官 高橋正之)

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