弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告に対し,4562万2490円及びこれに対する平成15年
8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを5分し,その4を被告の負担とし,その余を原告の負担
とする。
4この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,5512万2490円及びこれに対する平成15年8月8
日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,亡Aの弟で唯一の相続人である原告が,被告に対し,Aと被告との間の
診療契約の債務不履行に基づき,損害賠償金として5512万2490円及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日である平成15年8月8日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。
(1)Aは,昭和22年3月18日生まれの男性であり,平成14年2月8日死
亡した。原告は,Aの弟であり,平成9年ころから肩書地においてAと同居してい
。,,,。(,たAには原告のほか兄のB妹のC及びDの兄妹がいた甲1の4及び6
甲13,乙1)
B,C及びDは,平成14年6月26日,さいたま家庭裁判所に対し,相続放棄
の申述をしており,原告がAの唯一の相続人である(甲1の9。)
(2)被告は,埼玉県川口市において,河合病院(以下「」という)被告病院。
を開設する医療法人である。
(3)Aは,平成14年2月3日日曜日(以下,特に断りのない限り,日付は平
成14年の日付である,被告病院で診察を受けた。。)
Aは,2月4日,再度,被告病院で診察を受けたところ,腹部大動脈瘤と診断さ
れた。Aは,同日,被告病院に入院し,同月8日まで,被告病院において診療を受
けた。Aの担当医は,被告病院に勤務するX医師であった。
,(,。)この間の診療経過は別紙診療経過一覧表記載のとおりただし下線部を除く
である。
(4)被告病院は,腹部大動脈瘤の手術を行う設備,人員を有していなかった。
(5)Aは,2月8日午前5時5分ころ,状態が悪化し,同日5時30分,東京
(「」。)都荒川区所在の東京女子医科大学附属第二病院以下東京女子医大病院という
に救急搬送された。Aは,同日午前6時,東京女子医大病院に到着し,開胸心臓マ
ッサージ,大動脈遮断などの処置がなされたが,午前7時38分に死亡が確認され
た。死亡の原因は腹部大動脈瘤破裂であった(甲3,甲16)。
2争点
(1)Xに転医義務違反があったか(争点1)。
()。()2Xの転医義務違反とAの死亡との間に相当因果関係があるか争点2
(3)Aの損害額はいくらか(争点3)。
(4)転医が遅れたことについてA側に過失があるか(争点4)。
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1(転医義務違反)について)
(原告の主張)
,,被告病院のXとしてはAを2月4日に手術適応の腹部大動脈瘤と診断した時点
遅くとも,2月6日午前8時の時点で,腹部大動脈瘤の手術を行うことのできる設
備及び人員を有する医療機関に転医させるべき義務があったのに,これを怠った。
以下,詳論する。
アAの腹部大動脈瘤の状態
(ア)腹部大動脈瘤の治療には,内科的治療と外科的治療(手術)とがあるが,
腹部大動脈瘤の径の大きさが4センチメートル(5.5センチメートルとする見解
もある)を超える場合は,破裂の危険があり,手術適応とされている。なお,破。
裂前に手術を行った場合の手術死亡率は5パーセント未満であるのに対し,破裂後
の死亡率は80パーセント程度とされている。
,,。Aの腹部大動脈瘤は径の大きさが約7センチメートルであり手術適応だった
(イ)腹部大動脈瘤の手術においては,直ちに手術を行うべき場合(緊急手術)
と一定の検査及び処置を行ってから手術を行うべき場合がある(待期手術。腹部)
大動脈瘤の患者は,腹部大動脈瘤による圧迫症状として,腹痛,腰痛及び大腿部痛
が生じることがあり,これらの症状は破裂が切迫している徴候であるから,緊急手
術をすべきである。
(ウ)Aは,被告病院において診療を受けている間,次のとおり,腹痛,腰痛及
び右大腿部痛を訴えており,緊急手術の適応であった。
a2月3日,右腰痛と大腿部痛を訴え,休診日にもかかわらず被告病院を受診
した。
b2月4日,Xの診察を受けたときから,腹痛及び右大腿から膝にかけての疼
痛を訴えた。
c2月5日午前6時,軽度の右大腿部痛を,午後1時及び午後8時に右大腿部
痛をそれぞれ訴えた。
d2月6日午前8時ころ,自制できない大腿部の疼痛を訴え,鎮痛作用のある
インダシンを投与され,午後1時ころに自制できる範囲ではあるが右大腿部痛を訴
えた。
e2月7日午前11時ころ,自制できない右大腿部痛を訴え,鎮静剤であるセ
ルシンを投与された。午後2時ころ,疼痛を訴え,Xから安静にするよう指示され
た。午後8時ころ,右大腿部痛を訴えた。午後9時ころ,自制できない右大腿部痛
を訴え,鎮痛剤であるレペタンを投与された。
(エ)被告は,上記の腹痛,腰痛及び右大腿部痛について,腹部大動脈瘤と関連
性がないと主張する。
しかしながら,①2月4日に実施された理学的検査において,左第2腰痛にし
びれがあるとされた以外に異常が発見されていないこと,②Aの訴える痛みは憎
悪しており,日を追うごとに鎮痛作用のより強い薬が処方されていること,③A
の腹部大動脈瘤が被告主張のコンテインド・ラプチャー(破裂によって生じた血腫
により破裂箇所が覆われ,破裂部が完全に閉鎖されたものをいう。潜在的破裂とも
いう)の状態にあった場合,腰痛や大腿部痛が生じることが多く,その程度は比。
較的軽いとされていること,④2月8日にAの腹部大動脈瘤が破裂していること
からすれば,上記の腰痛,腹痛及び右大腿部痛は,いずれも,腹部大動脈瘤と関連
性のある痛みである。
イ2月4日の転医義務
Aの腹部大動脈瘤は,径の大きさが7センチメートルであり,Aが2月4日の時
点で腹部大動脈瘤に起因すると考えられる痛みを訴えていることからして,その時
点で既に破裂するかもしれない状態にあった。
Xは,このことを認識しており,かつ被告病院は手術設備を有しないから,Xと
しては,Aが手術適応の腹部大動脈瘤であると診断した以上,緊急手術を要するか
否かの点も含めて,Aに専門医による診断及び手術を受けさせるため,直ちに,腹
部大動脈瘤の手術設備と専門の医師を有する病院に転医させるべき義務があった。
ウ2月6日の転医義務
仮に,2月4日の転医義務が認められないとしても,Aは,上記のとおり,2月
6日午前8時の時点で,自制できない大腿部痛を訴えており,緊急手術の適応であ
った。
したがって,Xとしては,Aを腹部大動脈瘤の緊急手術を行える病院に転医させ
るべき義務があった。
エしかるに,Xは,上記各転医義務にもかかわらず,Aを転医させなかった過
失がある。
(),,,,,,アすなわち2月5日Xは原告C及びDに対し病院はどこでもいい
川口市立医療センターでも,東京女子医大でもと述べており,設備及び体制が整っ
ているから東京女子医大病院がよいとは述べていなかった。原告,C及びDは,A
,,,が苦しそうにしているのを見て早く転医先を連絡した方がよいと考え相談の上
2月5日のうちに川口市立医療センターに転医させることに決め,その旨被告病院
に連絡している。
(イ)Bは,2月6日,被告病院のZ医師と面談し,虎ノ門病院でもどこでもい
いから早く転医させるよう求めた。
(ウ)Xは,上記の原告らの働きかけにもかかわらず,Aを川口市立医療センタ
ー等腹部大動脈瘤の手術を行える医療機関に転医させなかった。
(エ)被告は,Aの転医が遅れたのは,A側の事情であると主張する。
しかし,上記のとおり,転医の遅れはA側の事情ではないし,そもそも,早期の
転医が必要であれば,医師において,患者及びその家族に対し,転医の必要性を説
明し,転医の承諾を得るよう努めるべきであり,そのような努力もなしに,転医の
遅れを患者側に転嫁することは許されない。
(被告の主張)
被告病院のXにおいて,Aを腹部大動脈瘤の手術を行うことのできる設備及び人
員を有する医療機関に転医させるべき義務があったことは認めるが,原告主張の時
点において転医させるべき緊急性はなく,また,転医が遅れたのは,A側の事情に
よるものであるから,転医義務違反はない。
アAの腹部大動脈瘤の状態について
(ア)Aの腹部大動脈瘤の大きさが7センチメートルであったこと,手術適応で
あったことは認める。
(イ)原告が主張するとおり腹部大動脈瘤が発見されたからといって,直ちに手
。,,,術をすべきことには結び付かない腹部大動脈瘤の大きさ場所拡大のスピード
形状,合併疾患などによって,手術をすべき時期は異なる。Aの腹部大動脈瘤は,
コンテインド・ラプチャーの状態にあり,比較的安定しており,一般に緊急手術の
必要はない。
(ウ)原告主張の3(1)ア(ウ)の腹痛,腰痛及び右大腿部痛の事実は,同b
(Aが2月4日に腹痛及び右膝の疼痛を訴えた)の点は否認し,その余は同a,。
cからeまでのとおりである。
Aには腹部大動脈瘤破裂の徴候である腹痛が認められず,2月8日午前5時5分
になって初めて認められた。
Aの主訴である腰痛についても,①2月4日に行った理学的検査及び腹部造影
CT検査の結果,腹部大動脈瘤から造影剤の漏れは認められておらず,②痛みの
程度も,あいまいで,鎮痛剤により抑制される程度であり,③入院中も一人で歩
いて喫煙所に行き,喫煙するなど全身状態も安定しており,④Aがタクシー運転
手であって腰痛は職業病と考えられ,レントゲン写真によって観察されるAの腰椎
は通常人のようにS字型に湾曲せずに,腰痛患者に典型的にみられる真っすぐな形
状をしており,腰痛と整合していたため,腹部大動脈瘤との関連性は否定された。
また,大腿部痛は,腹部大動脈瘤の典型的な症状とはいい難く,その程度も,鎮
,。痛剤によって緩解する程度の痛みであって腹部大動脈瘤切迫破裂の痛みではない
したがって,Aに腹部大動脈瘤の症状は現れておらず,緊急手術の必要性はなか
った。
イ2月4日及び2月6日の転医義務について
Xが,Aを腹部大動脈瘤の手術を行える医療機関に転医させるべき義務を負って
いたことは認める。しかし,上記のとおり,緊急手術の必要はなく,血圧を下げる
などの内科的治療を行い,安静にしていれば,被告病院においても,転医までの診
療を行うことは十分に可能であった。
また,Xとしては,Aを東京女子医大病院に早急に転医させる準備を進めていた
が,2月5日夜,原告らと面談した際に,東京女子医大病院への転医を拒絶され,
その後2月7日に至ってようやく川口市立医療センターに転医させる旨の申出がさ
れており,転医が遅れたのはA側の事情である。
したがって,Xに,転医義務違反はない。
(2)争点(2(因果関係)について)
(原告の主張)
腹部大動脈瘤は,破裂前に手術を行えば,心臓病など重大な合併症がない限り,
危険性は小さい。腹部大動脈瘤の場合,破裂前に手術を行った場合の死亡率は5パ
ーセント未満である。以下のとおり,Aが腹部大動脈瘤の手術を行える医療機関に
転医されていれば,腹部大動脈瘤が破裂する2月8日午前5時までの間に,手術が
行われ,その結果Aは救命された。
ア2月4日の転医義務違反
Aは,その腹部大動脈瘤が径7センチメートル大で手術適応であったこと,腹部
大動脈瘤に起因する腰痛及び大腿部痛を訴えていたこと,手術の設備を有する医療
機関においては,入院後,速やかに所要の検査を行うことなどを考慮すると,入院
後,短時間で手術が行われた可能性が高い。
イ2月6日の転医義務違反
Aは,2月6日の時点で緊急手術の適応があったから,腹部大動脈瘤の手術が可
能な医療機関に転医すれば,直ちに手術が行われ,Aが死亡することもなかった。
(被告の主張)
腹部大動脈瘤に対し,破裂前に手術を行った場合の死亡率が5パーセント未満で
あることは認める。しかし,原告主張の時期に転医が行われたとしても,Aについ
て,緊急手術の必要性は認められないこと,そうなれば,待期手術となるが,その
場合には,術前の検査に1週間程度を要し,腹部大動脈瘤が破裂した2月8日金曜
日朝までに手術が行われる可能性は低かったことから,救命の可能性はなかったと
いうべきである。
なお,Aは,腹部大動脈瘤破裂後,通常は手術まで数時間の余裕があるのに,こ
れと異なって約2時間33分という極めて短時間で死亡しており,腹部大動脈瘤の
手術を行える医療機関に入院していても,救命は困難であった。
したがって,転医義務違反とAの死亡との間には相当因果関係がない。
(3)争点(3(Aの損害)について)
(原告の主張)
ア逸失利益2212万2490円
Aは,タクシー運転手として就労し,平成13年中に471万0170円の年間
収入を得ていた。Aは,死亡時54歳であり,67歳までの13年間にわたり就労
可能であった。Aは独身であったから,得ることのできた収入の50パーセントを
生活費として控除し,さらに中間利息を控除する(13年間に対応するライプニッ
ツ係数は9.3935である)と,逸失利益は次のとおりとなる。。
万円×(-)×=万円471017010.59.393522122490
,,,なおAは腹部大動脈瘤を有しているが一概に予後が悪いということはできず
Aの逸失利益を否定することはできない。
イ慰謝料2800万円
ウ弁護士費用500万円
エ合計5512万2490円
オ遅延損害金上記エの5512万2490円に対する訴状送達の日の翌日で
ある平成15年8月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員
(被告の主張)
争う。
特に,逸失利益について,Aは,腹部大動脈瘤の診断を受けており,仮に手術に
,。,よって治癒したとしても冠動脈疾患の合併のおそれがあるなど予後は悪いまた
Aは,C型肝炎に罹患しており,C型慢性肝炎に罹患しつつあったと考えられ,や
がて肝硬変及び肝がんに移行するおそれがあり,予後は悪い。損害額の算定に当た
っては,これらの点を考慮すべきである。
(4)争点(4(過失相殺)について)
(被告の主張)
Aの転医が遅れたのは,次のとおり,A側の事情であった。
Xは,2月5日,A,原告,C及びDに対し,東京女子医大病院の血管外科に転
医させるよう勧告した。しかし,Aらは,自分たちだけでは決められない,親族で
協議が整うまで待ってほしいと申し出た。2月6日,Bは,被告病院を訪れ,不在
のXに代わって応対したZ医師に対し,知り合いのいる虎の門病院に入院させたい
と申し出た。2月7日,家族側から,川口市立医療センターに入院させたいとの申
出があった。Xは,その意向をいれて,川口市立医療センターへ連絡をとり,紹介
状を作成した。
Aは,当初から入院自体に消極的であり,2月4日には「痛くないのになぜ入院
するのか」などと意見を述べ,入院後もXの禁煙するようにとの指示に従わず,。
頻繁にベッドから出て喫煙室まで歩いてゆき,喫煙するなどしていた。
(原告の主張)
被告の主張は争う。A側に,Aの転医が遅れたことについての過失はない。
Xは,2月5日,原告,C及びDに対し,腹部に大動脈瘤があるが,破裂するこ
とはない,河合病院では手術できないので,来週くらいに別の病院に転院させて検
査する,東京女子医大でも川口市立医療センターでもどこでもいい,と話した。C
,,,,は手術後の身の回りの世話を考え同日午後8時30分ころ被告病院に電話し
川口市立医療センターがよいと伝えた。2月6日,Bは,Xと面談し,早く転医さ
。,,。せるよう求めたBはその際転医先の例として虎の門病院を挙げただけである
また,Aは,2月4日,痛みを訴えて被告病院を訪れており「痛くないのにな,
ぜ入院するのか」などと述べるわけがない。。
第3争点に対する判断
1前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって認められる事実は次のと
おりである。
(1)当事者等
アAは,昭和22年3月18日生まれの男性である。Aは,父E(昭和57年
2月27日死亡)と母F(平成9年11月19日死亡)の二男として生まれた。A
に婚姻歴はない。平成14年2月8日当時生存していたAの兄妹は,B,C,D及
び原告であった。
Aは,高等学校を卒業後,名古屋市内の会社に勤務し,昭和42年ころからは,
首都圏でタクシー運転手として働いていた。Aは,平成9年夏ころから,体調を崩
した原告と一緒に生活するようになった(前記前提事実(1,甲1の4,13)。)
イB,C及びDは,平成14年6月26日,さいたま家庭裁判所に対し,相続
放棄の申述をしており,原告がAの唯一の相続人である(前記前提事実(1)。)
ウ被告は,埼玉県川口市において,被告病院を開設している。被告病院は,腹
部大動脈瘤の手術を行う設備及び人員を有していない(前記前提事実(4)。)
エXは,平成5年3月に川崎医科大学を卒業後,東京女子医科大学附属病院救
急救命センター救急医学講座に入局し,以降,牛久愛和総合病院や室蘭太平洋病院
などへの出向も含め,平成11年7月まで救急医療に携わった。その後,整形外科
に転科し,平成13年3月から平成15年10月まで被告病院に出向していた。
Xは日本救急医学会専門医のほか,日本外科学会認定医,日本医師会産業医の認
定を受けている(乙16)。
(2)腹部大動脈瘤に関する医学的知見
ア腹部大動脈瘤は,腹部大動脈の一部が拡大し,こぶのような形状を呈するも
のをいう。腹部大動脈瘤は,時間の経過とともに拡大する。その原因は,ほとんど
が動脈硬化によるものである。
腹部大動脈瘤は,胸部大動脈瘤と異なり,かなりの大きさになっても無症状の場
。,,,合が多い腹痛があっても鈍痛程度でその他の症状としては不定の胃症状腰痛
下肢への牽引痛などが挙げられる(甲4,6の3,乙14,証人G)。
イ腹部大動脈瘤は,約30パーセントに破裂の危険があり,大きさが7センチ
メートル以上の場合,1年以内に80パーセントの割合で破裂するとされている。
破裂した場合,急性腹症の症状を呈する。周辺組織を圧迫しつつ血腫を形成してい
く場合が多いので,ショック症状により短時間で死亡するものは比較的少なく,数
時間ないし数日の経過を示すものが多い。したがって,迅速適切な診断,処置によ
り救命しうる時間的余裕のある場合が多い。
腹部大動脈瘤の破裂様式には,①動脈瘤の前壁が破裂し,腹腔内に出血するも
の(オープン・ラプチャー,②動脈瘤壁の一部に破綻を来し,後腹膜腔内に出)
血,形成された血腫により破裂孔が一時的に圧迫被覆されて出血が止まるもの(ク
),,ローズド・ラプチャー③破裂によって生じた血腫によって破裂箇所が覆われ
破裂部が完全に閉鎖されたもの(コンテインド・ラプチャー)がある。コンテイン
ド・ラプチャーについては,数週間ないし数か月にわたって(数年間にわたるもの
もあるとされる)そのままの状態を保つ場合があるとされている。コンテインド。
・ラプチャーのうち大多数は,数週間から数か月の幅があるものの,皮膜の破綻に
よって再破裂を生じるといわれており,再破裂の時期を予測する方法は確立されて
いない(甲4,乙14,15,20,証人G)。
ウ腹部大動脈瘤は,その大部分が動脈硬化性のもので,全身的な動脈硬化症の
一部の現象であるから,ほかの多くの臓器の疾患を合併していることが多い。その
例としては,高血圧症,心疾患(特に虚血性心疾患,脳及び下肢動脈の閉塞性疾)
患,腎機能障害がある。これらの合併症は手術適応の決定,手術後の早期及び長期
の予後の推定などに際して,慎重に考慮すべきであるとされている(甲6の3,。
8,乙12,14)
エ腹部大動脈瘤に対する治療は,症状のある場合と症状のない場合で異なって
くる(甲6の3,8,乙12,14。)
(),,,,,ア①破裂した場合②腹痛腰痛悪心嘔吐その他の腹部圧排症状が現れ
これらの症状が,腹部超音波検査又はCT検査などにより,腹部大動脈瘤によるも
のと認められる場合など,腹部大動脈瘤の症状が現れているときは,緊急手術をす
べきであるとされている。緊急手術とは,できる限り早急に行う手術をいう。
緊急手術の場合,急性期の内科的治療(血圧を下降させることなど,必要な検)
査(造影CT検査,胸部レントゲン撮影,心電図検査,各種超音波検査など,手)
術の準備の3点を迅速に行える環境が必要であるとされている(甲8,乙12)。
(イ)腹部大動脈瘤の症状が現れていない場合は,手術適応の有無を各種の検査
によって見極め,経過観察を行うか,待期手術を行うかを決定することになる。こ
の場合,腹部大動脈瘤の大きさが5センチメートル以上であれば手術適応となり,
それ以下の場合は経過観察となる。
手術適応とされた場合,血圧のコントロールを行い,腹部の打撲に注意するよう
指示するとともに,合併症について所要の検査を行い,手術のリスクについて検討
することになる。リスクが低ければ,待期手術を行うものとされている。待期手術
の場合であっても,破裂前に手術を行うことが必要であり,速やかな手術が必要と
されている(甲6の3,8,乙12)。
(ウ)手術死亡率は,腹部大動脈瘤破裂前の待期手術の場合,5パーセント未満
とされている。一方,腹部大動脈瘤が破裂した場合,病院到着前に約60パーセン
トが死亡し,緊急手術の救命率が40から60パーセント程度であることから,死
亡率が80パーセント以上になるとされている(甲6の3,乙12,14)。
(エ)なお,コンテインド・ラプチャーについては,既に破裂しているものの,
状態が安定しているため,待期手術に準じて扱うことができるとの報告がある。一
方,証人Gは,コンテインド・ラプチャーであっても,とにかくできるだけ早く手
,,術した方がよいというのは通説であることコンテインド・ラプチャーにおいては
腰痛及び大腿部痛に注意すべきであり,これらが憎悪したときは手術を考慮すべき
場合があり得ることを指摘する(甲4,乙14,15,証人G)。
(3)Aの河合病院における診療経過は,次のとおり,整理するほか,別紙診療
経過一覧表記載のとおりである。なお,別紙診療経過一覧表のうち,下線部は当該
認定箇所に掲げた証拠により裁判所が認定した事実である。
ア2月3日日曜日,Aは,被告病院を受診した。Aは,当直のY医師に対し,
その日の昼ころから右腰痛があると訴えた。当直のY医師は,一応筋肉痛と診断し
たが,同日は日曜日で時間外であったため,Y医師は,痛み止め(オムゼン,ソレ
ルモン,リンゲリーズ)と湿布薬(インテナース)を投与し,明日整形外科で正式
に診察を受けるように指示した(前記前提事実(3)。)
なお,Aが,この時,Y医師に対し,腰と足が痛いと訴えたと認めるに足りる証
拠はない。
イ2月4日月曜日夕方,Aは,診療時刻終了間際になって,被告病院を受診し
た。Aは,Xの診察を受けた。Xは,腰痛の検査として行ったMRI検査の際,腹
部大動脈瘤を発見した。Xは,急遽,造影剤を投与して,CT検査を行った。CT
検査の結果,Aの腹部大動脈瘤の径の大きさが約7センチメートルであること,造
影剤が腹部大動脈瘤から腹腔内に漏れだしていないことが認められた。Xは,この
CT検査の結果から,腹部大動脈瘤の切迫破裂のおそれはなく,緊急手術の必要は
ないものと判断した。なお,このとき撮影されたCT画像には,大動脈瘤の右側に
大きな血腫が映っていた。
Xは,Aに対し,入院するよう勧めた。Aは,仕事を休むわけにはいかないと入
。,,院に難色を示したXは腹部大動脈瘤の径の大きさが約7センチメートルであり
手術適応であるとともに万一運転中に破裂した場合にはタクシー運転手という職業
柄自動車の運転には危険が伴うことなどを説明して,入院するよう説得し,Aの承
諾を得た。その際,Xは,被告病院には腹部大動脈瘤の手術のための設備も人員も
備わっていないため,これを備えている東京女子医大病院への転医が必要であると
考えており,Aに対し,その旨の説明もした。Aは,独り暮らしで,自分だけでは
決められないと述べた。Xは,症状が進行的ではなく,2,3週間は手術を猶予し
てもよいと判断し,これ以上の説明をしなかった。
Xは,Aに対し,禁煙をするよう指示したほか,療養方法の指示は行わず,投薬
もしなかった。Aは,午後7時の入院時,血圧が159/83で,右大腿から膝に
。,,かけて自制できる程度の疼痛を訴えていたAは独りでふらつくことなく歩いて
病室に入った(前記前提事実(3,乙1,2,16,証人X,証人G)。)
ウ2月5日火曜日,Aは,午前6時ころ,午後1時ころ,午後8時ころにそれ
ぞれ看護師に対し,右大腿部痛があると述べた。
Xは,胸部レントゲン検査,腹部レントゲン検査及び胸部CT検査を行った。X
は,Aを東京女子医大病院血管外科へ転医させることを考え,紹介状を作成する予
定とした。
Xは,午後7時30分ころ,原告,C及びDと面談し,転医の必要があると説明
し,東京女子医大,川口市立医療センターなど複数の候補を挙げた。原告らは,ち
ょっと待ってくださいと述べ,転医先を決めなかった。Xは,緊急手術の必要はな
いと考えており,原告らの意向を待って,転医先を決めることにした。
原告,C及びDは,被告病院を出た後,Aの転医先について話し合い,Aの身の
回りの世話を考えて,住居に近い川口市立医療センターへの転医を申し出ることと
し,午後8時30分ころ,被告病院に電話し,川口市立医療センターに転医させる
よう依頼した(前記前提事実(3,甲7,乙1,2,証人C,証人X)。)
エ2月6日水曜日,Aは,午前6時ころに看護師に対し,右大腿部痛を訴え,
夜間眠れなかったと述べた。
Aは,午前8時ころ,看護師に対し,自制できない右大腿部痛を訴えた。看護師
は,Z医師から指示を受けて,消炎鎮痛剤であるインダシン50ミリグラム坐薬1
個を手渡し,使用させた。Aは,その後,インダシン坐薬の副作用で,血圧が低下
するなどショック状態に陥ったが,処置によって回復した。なお,インダシン50
ミリグラム坐薬の通常の使用量は1個である。
被告病院循環器内科のV医師は,同日,Aを診察し,大動脈瘤切迫破裂のおそれ
はないと診断した。
Aは,その後,午後1時ころ及び午後8時ころの2回にわたり,右大腿部痛を訴
えたが,いずれも自制できる範囲内であった。
この日,Bは,Z医師と面談した。Bは,Z医師に対し,虎の門病院を受診させ
たい,明日,Xと相談して決めると話した(前記前提事実(3,甲10,乙1。)
0,証人X)
,,,,。オ2月7日木曜日Aは午前5時ころ看護師に対し左足の疼痛を訴えた
鎮静剤であるアタラックスPが2分の1アンプル投与された。
Aは,Xに対し,腰痛はあるが変化はない,夜間眠りたいと述べた。右大腿部の
症状は,しびれがあったりなかったりで,はっきりしなかった。
Aは,午前11時ころ,自制できない右大腿部痛を訴えた。鎮静剤であるセルシ
ン2分の1アンプルが投与された。
Aは,午後2時にも疼痛を訴え,鎮痛剤であるレペタンが1アンプル,鎮静剤で
あるアタラックスPが1アンプル投与された。できるだけ安静にするように指示さ
れた。
Aは,午後8時に右大腿部痛を訴え,寝る前に注射してほしいと訴えた。Aは,
午後9時,自制できない大腿部痛を訴えた。レペタンが1アンプル,アタラックス
Pが1アンプル投与された。なお,鎮痛剤であるレペタンの通常の使用量は1アン
プルである(前記前提事実(3,甲11,証人X)。)
カ2月8日金曜日,Aは,午前5時5分ころ,ナースコールし,ベッドから下
りたところ,腹痛が現れたと訴えた。Aは,冷や汗があり,顔色が悪く,血圧は,
上が70から80,下は測定不能であった。
医師は,川口市立医療センターの担当医が処置中で受入れができないため,東
京女子医大第2病院に連絡をとり,Aを搬送することにした。
Aは,午前5時30分ころ,被告病院を救急車で出発し,午前6時ころ,東京女
子医大第2病院に到着した。Aに対し,開胸心臓マッサージ,大動脈遮断などの処
置がされたが,午前7時38分に死亡が確認された(前記前提事実(5,乙1。)
6,証人X)
キAの死亡原因は腹部大動脈瘤破裂であった(前記前提事実(5)。)
以上の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
2争点1(転医義務違反)について
(1)まず,2月4日の時点において,Xにおいて,Aを腹部大動脈瘤の手術が
可能な医療機関に転医させるべき義務を負っていたかにつき検討する。
ア上記認定のとおり,Aの腹部大動脈瘤は径7センチメートル大で手術適応が
あり,かつ,コンテインド・ラプチャーの形態で以前破裂したことがあったこと,
Aのようなコンテインド・ラプチャーの場合,いずれ再破裂する危険性があり,そ
の時期を予測する方法は確立されていないこと,腹部大動脈瘤が破裂した場合の死
亡率が非常に高い(80パーセント以上)のに対し,破裂前の手術死亡率は格段に
低いこと(5パーセント未満,したがって,速やかに手術を行うべきとされてい)
ることが認められる。
また,同様に,腹部大動脈瘤の手術を行うには所要の検査を事前に行う必要があ
り,その検査には早くとも3,4日を要すること,仮に腹部大動脈瘤が破裂した場
合には,①急性期の内科的治療,②造影CT検査,胸部レントゲン撮影,心電
図検査及び各種超音波検査など必要な検査,③手術の準備の3点を迅速に行うこ
とが必要であること,被告病院は,上記のような腹部大動脈瘤破裂の治療を行う設
備及び人員を有していないことが認められる。
イ以上によれば,2月4日にXがAを診察した時点において,Aに緊急手術の
必要がないとしても,できるだけ速やかに手術を受けさせる必要があり,手術に備
えて前記に必要な諸検査を行うとともに,また,腹部大動脈瘤が破裂した場合に備
えて必要な処置を迅速にとることができる体制を整えておく必要があったものと認
められる。したがって,被告病院において,これらの手術及びこれを前提とする医
療措置を行うことができない以上,Xとしては,腹部大動脈瘤の手術を行うことが
でき,Aを受け入れることのできる医療機関を自ら探すとともに,A及びその親族
に対し,早期の転医があることを説明して,承諾を得るよう努め,Aをできる限り
速やかに転医させるべき義務があったというべきである。
被告は,Aを転医させるべき緊急性がなかったと主張するけれども,上記のとお
り,できるだけ速やかに手術を受けさせたり,これに備えて諸検査をしたりするな
どの必要があり,かつ腹部大動脈瘤の破裂の時期を予測することができないのであ
るから,診察の時点において緊急性がなかったことが,転医の必要性を否定するこ
,。とにはならず上記の転医義務についての認定判断を左右する事情には当たらない
(2)次に,Xの転医義務違反の有無につき,検討する。
ア前記認定のとおり,Xは2月4日の時点において東京女子医大病院への転医
を考慮したこと,Xは,2月5日夜,原告C及び原告Dと面談した際,転医先の候
補を挙げて,原告らにおいて転医先を選択するよう述べたこと,Cは,同日,被告
病院に電話でAを川口市立医療センターに転医させるよう依頼したこと,Bは,2
月6日のZ医師との面談の際,Aを虎の門病院に入院させてほしいととれる発言を
したこと,Xは,2月7日,川口市立医療センターに連絡を取り,Aを受け入れる
よう依頼したことが認められる。
イ以上によれば,Xは,Aの腹部大動脈瘤の手術につき,2,3週間猶予して
もよいと判断しており,A及びその親族に対し,速やかに転医するよう説明をした
とは認められず,Aをしてできる限り速やかに転医させる措置を講じたとは認め難
く,上記転医義務を尽くしたものとはいえない。
なお,上記認定のとおり,Aの兄妹において,Aの転医先についての意見が必ず
しも一致していない事実も認められ,これがAの転医が遅れる一因となったことも
否定できない。しかし,早期に転医させる必要がある以上,Xにおいて,Aに速や
かな転医が必要な具体的な事情を説明するとともに,転医先として候補先の病院を
選定した上,速やかに転医するよう説明すべきであり,このような説明がされたこ
とが主張・立証されていない以上,転医の遅れをA側の落ち度と見ることはできな
い。
(3)よって,その余の点について判断するまでもなく,Xにおいて,2月4日
の時点で,Aを腹部大動脈瘤の手術が可能な医療機関にできる限り速やかに転医さ
せる義務があり,Xにはこれを怠った過失がある。
3争点2(因果関係)について
(1)前記認定のとおり,腹部大動脈瘤の患者に,腹痛,腰痛,悪心,嘔吐その
他の腹部圧排症状が現れ,これらの症状が,腹部超音波検査又はCT検査などによ
り,腹部大動脈瘤によるものと認められる場合には,緊急手術の適応とされている
から,Aにそのような生じたか否かについて検討する。
(),,,,2前記認定のとおりAは被告病院に入院後一貫して腹痛を訴えており
そのほか大腿部痛を訴えていたこと,2月6日午前8時には自制できない大腿部痛
を訴え,鎮痛剤であるインダシンの投与を受け,翌7日にも,午前5時,午前11
時,午後2時,午後9時に自制できない大腿部痛を訴え,それぞれ,鎮静剤,鎮痛
剤が重ねて投与されていたことが認められ,これら一連の経緯に照らせば,Aの訴
える痛みは次第に憎悪していたものと認められる。
被告は,原告のこれらの痛みがあいまいなものであったと主張し,その根拠とし
て,医師の診察の際に痛みがはっきりしない旨述べていたことを挙げている。しか
し,腹部大動脈瘤による場合,痛みが強まったり,弱まったりすることは,証人G
の証言からも,ありうることであり,自制できない痛みがあったこととは矛盾しな
い。
そこで,これらの症状と腹部大動脈瘤との関連性について検討するに,上記痛み
の程度に加え,前記認定のとおり,Aの腹部大動脈瘤が,コンテインド・ラプチャ
ーであること,コンテインド・ラプチャーにおいては,腰痛及び大腿部痛に注意す
べきであり,これらが憎悪したときは手術を考慮すべき場合があり得ることを考え
ると,これらの症状は腹部大動脈瘤に起因するものであったと認められる。以上に
よれば,Aが腹部大動脈瘤の手術が可能な医療機関に転医していれば,Aの腹部大
動脈瘤は,遅くとも7日午後9時までには緊急手術の適応として,手術を行う判断
がされたものと認められる。
被告は,腰痛が生じる可能性のあるレントゲン撮影の所見があること,全身状態
が安定していることを挙げるけれども,問題とすべきは自制できない大腿部痛であ
ること,全身状態の悪化がなくとも,緊急手術に踏み切るべき場合があることも指
摘されていること(乙12)に照らし,採用できない(なお,被告は,Aが腹部。
大動脈瘤の破裂後約2時間33分という極めて短時間で死亡しており,転医してい
ても救命は困難であったとも主張する。しかし,上記のとおり破裂前の時点におい
て手術が行われると判断されるので,被告の前記主張はその前提を欠き,理由がな
い)。
(3)以上のとおり,Aが腹部大動脈瘤の手術が可能な医療機関に転医していれ
,,。ば腹部大動脈瘤の緊急手術が行われAが救命された高度の蓋然性が認められる
4争点3(Aの損害)について
(1)逸失利益2212万2490円
ア基礎収入471万0170円(前記認定事実(1)ア,甲5)
イ労働可能年数13年
Aは,死亡時54歳であり,67歳までの13年間にわたり就労可能であったと
認められる。
なお,Aが腹部大動脈瘤及びC型肝炎に罹患していたことが,余命に影響すると
認めるに足りる証拠はなく,これを逸失利益の算定上考慮しない。
ウ生活費控除50パーセント
Aが独身で配偶者及び子はいないこと(前記認定事実(1)ア)からすれば,上
記基礎収入の50パーセントを生活費として控除するのが相当である。
エ中間利息の控除9.3935(13年間に対応するライプニッツ係数)
オ計算式万円×(-)×=万円471017010.59.393522122490
(2)慰謝料2000万円
本件診療経過,Aの家族関係など本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,慰謝料
として上記金額が相当である。
(3)弁護士費用350万円
本件事案の性質にかんがみると,発生すべき弁護士費用のうち350万円の限度
で本件と相当因果関係ある損害と認める。
(4)合計4562万2490円
(5)遅延損害金上記合計額に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上
明らかな平成15年8月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員
5争点4(過失相殺)について
前記認定のとおり(前記3(2)イ,A及びAの兄妹が転医先を速やかに決定)
しなかったのは,Xから,早期の転医の必要性について具体的な事情を踏まえて説
明を受けなかったことによると認められ,これによれば,A側が転医先を明確に指
示しなかったことについて,過失相殺の前提となる過失があるとは認め難い。
第4結論
よって,原告の請求は,4562万2490円及びこれに対する平成15年8月
8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるか
ら,主文のとおり判決する。
さいたま地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官小島浩
裁判官合田智子
裁判官小野寺健太
(別紙)
診療経過一覧表
日時既往症・原因・主要症状等処方・手術・処置等
月日右腰痛のため来院神経所見なし。当直のY医師は,おそらく筋肉痛かと23
診断した(乙1)が,同日は日曜日で時間外であった
ため,Y医師は,痛み止め(オムゼン,ソレルモン,
リンゲリーズ)と湿布薬(インテナース)を投与し,
明日整形外科で正式に診察を受けるように指示した。
月日まず,整形の一般的な検査(理学的検査)をしたとこ24
ろ,左第腰椎に痺れがあると認められた。2
理学的検査結果
(下肢伸展挙上テスト)左右とも,゚あがるSLRT90
大腿神経伸展テスト左右とも痛みなし異FNST(),(
常なし)
(),()Valleix圧痛テスト左右とも痛みなし異常なし
(筋力テスト)左右とも,オール(筋力に異MMT5
常なし)
検査腹部大動脈瘤を偶然発見。MRI
腹部(造影)検査CT
大の腹部動脈瘤()があるのを確認。7cmAAA
:独歩にて号室入床1900307
15983血圧/
右大腿から膝部にかけて疼痛あ
るも自制内
腹痛なし
吐気嘔吐なし
独歩もふらつきなし
:現在疼痛軽減していると答えた2100
2510566月日血圧/
:腹痛なし000
60011071:血圧/
腹痛なし
右大腿痛軽度のみ
水分飲用も吐気嘔吐なし
診察時刻胸部レントゲン
は不明腹部レントゲン検査
胸部検査CT
X医師は,前日の理学的検査に基づく所見,及び造影
検査の結果,動脈瘤からの造影剤の明らかな漏れCT
は認められなかったことから,腰痛と腹部動脈瘤との
関連はなく,動脈瘤が直ちに破裂する危険はないと考
えた(証人X)。
しかし,動脈瘤の大きさがで手術適応ありと認7cm
められたので,X医師は,女子医大血管外科への転送
を準備した。
なお,胸部検査では,胸部大動脈瘤()は認CTTAA
められなかった。
130012684:血圧/
体温.℃371
右大腿痛あり,自制内
腹痛なし
吐気嘔吐なし
200012278:血圧/
右大腿痛あるも,歩行スムーズ
腹痛なし
胸苦なし
月日入眠中26
000:
60013890:血圧/
右大腿痛あり
夜間不眠
腹部症状なし
:右大腿痛自制不可Z医師に電話。800
インダシン坐薬投与の指示。50mg
上記個を患者に渡す。1
:回診時,気分不快訴えあり925
顔色不良
8658血圧/
腹痛なし
:両足挙上し,血圧/心電図()施行9276441ECG
血中酸素濃度%酸素リットル投与982
血液ガス検査施行BS211
カルチコール静脈注射
9339258:血圧/
:血圧/酸素投与中止103012776
気分不快感なし
Aは,顔色不良で,不快感を訴え,一時ショック状態
になったことについて,以前痛み止めの服用で同じよ
うな症状になったことがあるが,かぜ薬は大丈夫との
ことであり,インダシン投与による一時ショックと考
えられた。
血液ガス検査結果
PH7488.
PCO2305mmHg.
PO2945mmHg.
Na135mmolL+/
K297mmolL+./
Ca102mmolL++./
過呼吸か(?)
心電図検査結果心臓(虚血等)問題なし。
腹部膨隆
腹部大動脈瘤()拍動あり雑音なし。AAA
:右大腿痛あり,自制内インダシン禁止1300
腹痛なし疼痛時,アンヒバ坐薬で様子みる。
吐気なし
嘔吐なし
:疼痛あり,自制内2000
月日27
:入眠中000
:疼痛ありアタラックス分の投与500P21
左足の痛みあり
腰痛あるが,変化なし
夜間眠りたいとの申し出あり
腹痛なし
右大腿部の痺れ感あったりなか
ったりで,症状がはっきりしな

:右大腿部痛あり,自制不可セルシン分のアンプル110021
14098血圧/
:再度疼痛訴えるにて挿管し,レペタン(アンプル,アタラ1400L5001A)
ックス(アンプル)点滴P1A
血圧/できるだけ安静にするよう話す。11984
:右大腿部痛あり2000
寝る前に注射をしてほしいとの
こと
:大腿部痛,自制不可レペタン(アンプル,アタラックス(アンプ21001AP1A)
ル)
月日28
:入眠中000
:訪室時,昨夜は良く眠れたと笑500
顔あり
:本人よりナースコールドクターコール505
ベッドサイドに降り立ったら,号室へ311
腹痛出現全開落下DIV
冷や汗あり酸素リットル投与5
顔色不良
血圧測定不能
血圧~/7080
腰痛あり
:血圧~台へ点滴本入れ。50560702
転送準備
川口市立医療センターへ電話を入れたが,担当医が処
23置中とのことで,東京女子医大第病院にコール。
次対応にて転送。
外来処置室にて呼吸浅いため.にて挿管80
:患者状態悪い女子医大第2へ救急搬送。530

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