弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人A1の上告を棄却する。
     上告人A2の上告を却下する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人両名訴訟代理人三宅厚三名義の上告理由について。
 原審の確定するところによれば、被上告人らは昭和三七年六月二五日D株式会社
から原判決添付目録第三記載の建物を買い受け、昭和三八年一一月五日所有権移転
登記を経由したが、この登記に先立ち、上告人A1は、右建物について、その敷地
である同目録第二記載の土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求権の執行を保全
するため、D株式会社を債務者として処分禁止の仮処分命令を得 昭和三七年一二
月二六日右仮処分命令の登記簿への記入を経てその執行を了したというのである。
そして、原審が、同会社と被上告人らとの間における右建物所有権の移転は移転登
記と同時に生じたものと認定判断しているのは、判文上明らかであつて、右認定判
断は、証拠関係に照らし、首肯することができる。
 右の事実関係によるときは、同会社と被上告人らとの間で建物所有権移転の効果
を生じさせたことは、前記処分禁止の仮処分命令に違反するものといわなければな
らないが、このような処分禁止の仮処分命令は、右命令に違反してされた処分行為
の相手方たる第三者の権利取得をもつて仮処分債権者の被保全権利に対抗すること
をえないものとする効果を生ずるにとどまり、この範囲を超え、右第三者の権利取
得が、仮処分命令違反の故をもつて仮処分債権者に対する関係において全面的に否
定されるべきものとなるわけではないと解するのが相当であつて、本件において、
被上告人らが上告人A1に対する建物明渡請求の前提として前記売買による建物所
有権の取得を主張することは、本件仮処分の被保全権利たる同上告人の建物収去土
地明渡請求権の実現と何ら牴触するところはないから、これを妨げないというべき
である。
 したがつて、原審が被上告人らの建物明渡請求を認容するにあたつて、その所有
権が被上告人らに帰属したものと認めた点には、何ら違法はなく、原審において、
前記仮処分の被保全権利を訴訟物とする上告人A1の建物収去土地明渡を求める反
訴請求については、D株式会社を相手方とする同上告人の請求が認容されるべきも
のとされているからといつて、原判決に理由齟齬の違法があるものということはで
きないし、被上告人らの建物明渡請求に関する判断によつて、同上告人の右反訴請
求の認容部分が執行不能に陥ることのないことも、いうまでもない。論旨は、叙上
と異なる独自の見解に立つて、原判決の違法をいうものにすぎず、採用することが
できない。
 なお、上告人A2の上告については、その対象たる部分について何ら上告理由の
主張がなく、上告理由書が提出されないことに帰するから、右上告を却下すべきで
ある。
 よつて、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、九五条、八九条、九三条に従い、裁判
官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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