弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主        文
      1 原判決中被控訴人に関する部分を取り消す。
      2 被控訴人が平成8年2月9日付けでした原判決別紙物件目録記載の建物の
取得に対する不動産取得税賦課決定処分のうち,課税標準額1億0178万4000円,納
付すべき税額407万1300円を超える部分を取り消す。
      3 控訴人の被控訴人に対するその余の請求を棄却する。
      4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを2分し,その1を被控訴人の,その余を
控訴人の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
(1) 原判決中被控訴人に関する部分を取り消す。
(2) 被控訴人が平成8年2月9日付けでした原判決別紙物件目録記載の建物の取得に
対する不動産取得税賦課決定処分のうち,課税標準額9573万2000円,納付すべき税
額382万9200円を超える部分を取り消す。
 2 被控訴人
   控訴棄却
第2 事案の概要
 1 控訴人は,平成7年10月30日,原判決別紙物件目録記載の建物(茨城県結城市所
在,鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建,店舗,床面積1180.79㎡,本件建物)を新築し,
同年11月に使用を開始した。被控訴人は,平成8年2月9日付けで,本件建物の取得に
対し,課税標準額1億0857万1000円,納付すべき税額434万2800円とする不動産取
得税賦課決定(本件処分)をした。本件は,控訴人が,本件建物取得時の適正な時価は,
9573万2000円を上回ることはないなどとして,本件処分のうち,課税標準額9573万2
000円,納付すべき税額382万9200円を超える部分の取消しを求める事案である。
 原判決は,本件処分における課税標準額は本件建物取得時の適正な時価を下回るとし
て,控訴人の請求を棄却した。これに対し,控訴人が不服を申し立てたものである。
 2 以上のほかの当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の事実欄第2(2頁
以下)記載のとおりであるから,これを引用する。
(控訴人の当審における主張)
 (1) 不動産取得税の課税標準について
 不動産取得税の課税標準は,その不動産を取得したときの価格であり(地方税法73条
の13第1項),その価格とは,「適正な時価」をいう(同法73条5号)。不動産の適正な時価
とは,正常な条件の下に成立する当該不動産の取引価格である。本件建物のような店舗
として利用される家屋の新築の場合には,一方で,請負人においては,建築に必要な資材
費,労務費,設計管理費に適正な利益を上乗せした金額を下回ってはならないという要請
があり,他方で,施主においては,収益還元的視点から建築費がその家屋から上がる収
益で回収できる費用を上回ってはならないという要請がある。そこで当事者間で建築費の
交渉がされ,正常な条件の下で取引価格が形成されるのである。したがって,請負人と施
主との間に特殊の関係等のない独立した契約当事者間で,新築家屋について約定された
工事請負価格があるときは,これが取得時の家屋の価格を最も正確に反映しているという
べきである。本件建物の建築工事費及び開発費から看板,舗装,外構といった本件建物
以外の部分に係る建築工事費及びこれに比例する開発費を控除した本件建物の実質取
得価格は,9397万1637円である。
 (2) 再建築価額評価法の問題点
 ア 家屋の価格は,固定資産評価基準においては,再建築費を基準として算定される。
それは,評価のばらつきを防ぎ,課税処分の公平を実現するものであるといわれている。
ところが,その評価基準によってされた評価額は,現実には評価者により極めて大きな価
格差がある。控訴人は,全国に構造,仕様,部材を標準化した店舗を多数建築している
が,平成12年に取得した店舗建物についてみても,控訴人が支出した実建築費以上に,
課税標準の価格偏差が大きく,また,実建築費を上回る課税評価がされた例が相当数に
のぼる。こうした実情からすれば,「現実の取得価額には個別事情による偏差があるが,
再建築価額は家屋の価格の構成要素として基本的なものであり,適切な評価方法である」
との建前は,もはや幻想でしかない。
 イ 控訴人は,本件処分が平成6年度の固定資産評価基準を適切にあてはめたもので
あること(評価の基準適合性)自体を特に争うものではないが,本件では,評価基準が定
める評価の方法によっては,適正な時価を算出することができない特別の事情がある。す
なわち,建物の建築物価水準の下落傾向が続く場合には,一定の過去における建築物価
をもとに算定され,3年に一度しか改訂されない標準評点数を用いて再建築費を積算する
評点式評価法は,不合理な結論に至る場合がある。平成6年度の固定資産評価基準にお
ける標準評点数は,平成4年1月現在の東京都(特別区の区域)の建築物価水準をもとに
積算されたものとされている。しかし,それがいかなる指標に基づいた建築物価を基礎とし
ているのか明らかではなく,それ自体の信頼性に疑問がある。その上,平成4年から本件
建物が建築された平成7年までの間,建築物価水準は毎年下落し続けており,このような
事態は,評価基準においても予定していないところである。この間の建築物価の下落率
は,建物全体においては,11.05%,構造別のうちの鉄骨造においては,11.83%とい
う大幅なものである。このことは,固定資産評価基準の再建築費評点基準表にも反映され
ており,平成7年1月の建築物価水準をもとに積算された平成9年度の固定資産評価基準
における標準評点数は,平成6年度のそれに比べて多くの項目で評点が下がっている。本
件処分における被控訴人の評点評価を平成9年度固定資産評価基準における評点に引
き直して算定すると,課税標準額は1億0132万4369円となる。この点からも,本件処分
における課税標準額が本件建物の適正な時価を超えていることが明らかである。土地の
評価においては,いわゆる7割評価基準により,こうした事態にも一定の幅で課税処分の
謙抑性を保つことが可能である。ところが,家屋の評価においては,そのような課税処分の
謙抑性が保たれていないのである。
 (3) 鑑定による評価額について
 原判決は,本件建物の適正な時価について,鑑定人Aによる鑑定の結果(A鑑定)によれ
ば,1億0947万円であるとして,請求を棄却した。しかし,A鑑定は次のような点から採用
することはできず,少なくとも,そのような難点のない不動産鑑定士B作成の不動産鑑定評
価書(甲8,B鑑定)による1億0178万4000円をもって適正な時価とすべきである。
 ア A鑑定においては,平成12年11月13日付け不動産鑑定書により,いったん1億06
50万2000円との鑑定結果を出していたにもかかわらず,設計管理費の項目を挙げなが
らこれを0円と査定したこと,時点修正の指数を鑑定時点である平成7年11月のものでは
なく,平成7年平均のものを用いたことを指摘され,平成13年4月27日付け不動産鑑定補
正書により,1億0947万円と修正することを余儀なくされている。設計管理費につきこの
ような錯誤を犯す鑑定人Aの専門性,習熟性には強い疑念が残る。
 イ A鑑定においては,その基礎となった見積もりをC株式会社という規模も大きくないと
考えられる1社のみから取っており,その信用性には疑問がある。
 ウ A鑑定が時点修正のために用いた建築費指数の一部(平成12年7月の「仮設」の項
目の建築費指数)に不適切なものがある(98.2ではなく,98.3)。
 エ A鑑定では,石・タイル工事につき,御影石貼りの材料費(1㎡当たり8000円ないし
1万円)と貼り手間を合わせた工事単価を1㎡当たり1万6000円(50㎝角のもの)ないし1
万5500円(60㎝角のもの)としているが,材料費の1㎡当たり単価として4000円ないし
7000円を示す工事契約書及び見積書からみて,明らかに高価にすぎる。また,A鑑定に
おいては,本件建物に用いられた御影石の材質,加工精度,施工精度が低いものである
ことを十分吟味していない。原判決は,中国産御影石の価格は,上記工事契約書及び見
積書の日付である平成11年ないし13年当時より,本件建物建築当時(平成7年当時)の
方が高価であったと推認できること,本件建物の御影石は,控訴人自ら中国から輸入し,
施工業者に卸したものであり,客観的時価より安価であったと推認できることから,A鑑定
を相当としている。しかし,A鑑定が1㎡当たりの単価を8000円ないし1万円としたのは平
成12年当時の価格なのであるし,平成7年当時,控訴人が施工業者に御影石を卸す際に
は,自社物件の建築の場合も,他社物件の場合と同様,利益分の上乗せをして卸してい
たのであり,上記の点は理由にならない。
 オ A鑑定における土工事及び屋根工事の単価は,本件建物の実際の建築費はもとよ
り,民間工事よりは一般に高価と評価される公共工事に用いられる建設物価と比較しても
高価にすぎる。
 原判決は,建設物価は一般的な工事規模における建設費用の定価を示したものにすぎ
ず,施工量の多寡,異なる施工方法の採用等特殊な事情を含まず,これのみを理由とし
て,価格の高低は考えられないとする。しかし,本件ではそのような特殊な要因は見当たら
ない。また,原判決は,控訴人の店舗で,延床面積や仕様がほぼ共通なものが全国に36
0あるとすれば,本件建物の工事については,地域の実情に特に精通した地元の建設業
者や控訴人から多数回請け負っていることにより大幅な値引きが可能となるような建設業
者が請け負ったものと推認でき,本件建物の工事における実建築費には,控訴人固有の
特殊な条件による可能性もあるとするが,全くの憶測にすぎない。
 カ これに対し,B鑑定は,控訴人の依頼にかかる私的鑑定ではあるが,鑑定士としての
経歴,経験には何ら問題はなく,自己が採用した方式の適合性,合理性,その方式の留意
点に対する配慮,対立する方式を採用しなかった理由,利用した補助者の資質,石・タイ
ル工事における留意点と採用した単価の合理性,値引率を決定するに当たっての判断過
程のいずれにも問題は見当たらない。
(被控訴人の当審における主張)
 (1) 不動産取得税の課税標準は,不動産取得時の適正な時価,すなわち正常な条件の
下に成立する取引価格であるが,地方税法73条の21第2項によれば,本件建物のように
課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については,同法388条1項の定
める固定資産評価基準によって課税標準となる価格を決定するものとされている。そして,
固定資産評価基準に従って決定した価格は,評価基準が定める評価の方法によっては再
建築費を適切に算定することができない特別の事情等の存しない限り,家屋の適正な時
価と推認するのが相当である。
 (2) 家屋が新築される場合においても,その実際の請負代金価格をもって,直ちに正常
な条件下で成立した取引価格と認めることは正当ではない。正常な条件下に成立する取
引価格を一義的に確定する手段,方法が確立しているものではなく,家屋の場合は,土地
の場合と異なり,当該家屋の本来の価値のほかに,敷地の場所的条件や当事者の主観
的事情等によってその取引価格が大きく左右され,家屋固有の価格が,公開された市場に
よって形成されることはほとんど期待できない。実際の取引(新築の場合の請負契約も含
む。)における家屋の取得価格においては当事者間の恣意性は避けられず,これを客観
的な価値と評価することはできない。このため,再建築価額を評価するという固定資産評
価基準による評価が定められているのである。評価基準に基づき家屋の価格を求めること
により,実際の取引における恣意性を排除し,納税者から要請される法的安定性や予測
可能性と課税庁に要請される取扱いの公平性,画一性を達成することができる。
 (3) 控訴人は,本件建物に適用された評価基準は平成6年度固定資産評価基準であ
り,その評点数は,平成4年1月の建築物価をもとに作成されたものであると論難する。し
かし,地方税法は税負担の安定を図り,課税事務の安定化の観点から,原則として基準年
度の課税標準額である価格を3年間据え置くこととしており,平成7年10月建築の本件建
物につき,平成8年10月24日に告示された平成9年度固定資産評価基準を適用すること
は事実上不可能である。また,平成6年度固定資産評価基準に従って決定された本件建
物の価格が適正な時価を上回っていないことは,本件建物建築時の建築物価水準によっ
て算定したA鑑定の評価額からも明らかである。なお,B鑑定とA鑑定との評価額の差は6
%程度であり,その誤差は,不動産鑑定において通常生ずる誤差として許容範囲内のも
のである。
 (4) 本件建物の実際の建築費においては,本体工事において17.4%の,空調工事に
おいては28%の,通常では考えられない大幅な値引きがされている。また,控訴人自らが
輸入した中国産御影石が石・タイル工事に使用されている。こうした特殊事情を考慮するこ
となく,上記建築費をもって適正な時価を評価することは妥当ではない。
第3 当裁判所の判断
 1 不動産取得税の課税標準について
 (1) 固定資産税の課税標準である不動産の価格である適正な時価とは,正常な条件の
下に成立する当該不動産の取引価格である。地方税法は,固定資産の評価の基準並び
に評価の実施の方法及び手続を固定資産評価基準にゆだね,市町村長は,この評価基
準によって,固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(同法388条1項,4
03条1項)。しかし,これは適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準を定め
ることをゆだねたものであり,賦課期日における客観的な交換価値を上回る価格を算定す
ることまでをゆだねたものではない。したがって,固定資産評価基準に従って決定された不
動産の価格が,適正な時価を上回るときは,その上回る限度において,当該価格の決定
は違法となる。
 固定資産評価基準の定める家屋の評価の方法は,家屋の再建築費評点数を基礎とし
て,これに損耗の状況による減点等を行って評点数を付設し,当該評点数を評点1点当た
りの価額に乗じて各個の家屋の価額を求める方法(再建築価額評価法)である。評点1点
当たりの価額は,自治大臣(現総務大臣)が別に指示する「物価水準による補正率」と「設
計管理費等による補正率」とを相乗した率を乗じて得た金額とされる。再建築費評点数に
ついては,自治大臣が定めた再建築費評点基準表に基づいて算定される。
 このような評価の方法は一般的な合理性を肯定することができ,固定資産評価基準に従
って決定した価格は,この評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算
定することができない特別の事情等の存しない限り,家屋の適正な時価であると推認する
ことができ,これが適正な時価を超えるものと判断するには,上記特別の事情の存するこ
とを要する。
(以上につき,最高裁平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第一小法廷判決及び最
高裁平成11年(行ヒ)第182号同15年7月18日第二小法廷判決参照。)
 (2) 不動産取得税の課税標準である不動産取得時の当該不動産の価格は,固定資産
税と同様に「適正な時価」とされているところ,これは正常な条件の下に成立する当該不動
産の取引価格であると解される。地方税法73条の21第2項によれば,本件建物のように
課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については,同法388条1項の定
める固定資産評価基準によって課税標準となる価格を決定するものとされている。したが
って,不動産取得税の課税標準となる適正な時価に関しても,上記(1)と同様に解するこ
とができ,評価基準に従って決定された不動産の価格が適正な時価を上回るときは,その
上回る限度において,当該価格の決定は違法となる。
 2 本件建物の建築費及び再建築費について
 (1) 当事者間に争いのない事実に加え,証拠(甲5,10,13,15,19,乙1,3,5,6,
10,19)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
 ア 控訴人は,総合衣料スーパーを全国展開している株式会社であり,全国に,その床
面積,構造,仕様,部材等が概ね共通する多数の販売店舗を建築している。本件建物は,
平成7年10月に新築され,同年11月から使用が開始されたものである。
 イ 控訴人は,本件建物の建築に関し,D株式会社等の請負人に対し,その建築工事費
等(測量費,設計費等の開発費を含む。)として,総計1億1295万円を支払っている。この
金額から,外構工事,舗装工事及び看板工事という本件建物以外の部分の工事費とこれ
に開発費を工事費に応じて按分した金額の合計1897万8363円を控除した場合の金額
は,9397万1637円となる。
 ウ 本件建物の取得時の再建築費の評価は,平成6年度の固定資産評価基準によって
され,別表第12の非木造家屋再建築費評点基準表に基づいて評点数が付設された。平
成6年度の再建築費評点基準表の標準評点数は,平成4年1月現在の東京都(特別区の
区域)における物価水準により算定した工事原価に相当する費用に基づいて算出されたと
され,その費用の1円を1点として表している。評点1点当たりの価格は,自治大臣が別に
指示する金額を基礎として市町村長が定めるとされており,平成5年11月22日の通達に
より,自治大臣が別に指示する金額は現行どおりとされ,評点1点当たりの補正率は,非
木造家屋については,全市町村を通じ,物価水準による補正率が1.00,設計管理費等
による補正率が1.10とされている。
 エ 被控訴人は,本件建物につき,平成6年度の固定資産評価基準における非木造家
屋再建築費評点基準表の標準評点数に基づき,工事形態,地盤,施工の程度による補正
の要否を個別に検討した上で,部分別の評点数を積算し,再建築費評点数を9870万12
13点と算定し,評点1点当たりの補正率を乗じて,その評価額を1億0857万1334円とし
た(新築の家屋の場合,損耗の状況による減点補正は適用されない。)。なお,固定資産
評価基準においては,市町村長は,家屋の構造等の実態から特に必要があるときは,再
建築費評点基準表に所用の補正を行い,これを適用することができるとされているが,本
件においては,そのような補正はされていない。
 オ 建設省(現国土交通省)建設経済局調査情報課発行の建築統計年報に記載された
各年の着工建築物の床面積と工事費予定額から求めた1㎡当たりの工事費予定額は,平
成4年から平成7年にかけて,全体で約11.0%,構造別のうちの鉄骨造では約11.8%
減少している。なお,建築統計年報において工事実施額を推計するために対象建築物を
抽出して実地調査を行った補正調査においては,工事費予定額に対する補正率は,非木
造建築物につき,平成4年は100%,平成5年は103%,平成6年は100%,平成7年は
101%であった。
 また,平成9年度の再建築費評点基準表の標準評点数は,平成7年1月現在の東京都
(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価に相当する費用に基づいて算
出されたものとされているが,平成6年度のそれに比べて,多くの項目で小さくなっている。
 (2) 前記のとおり,地方税法は,課税台帳にその価格が登録されていない家屋の不動
産取得税の課税標準としての適正な時価の算定については,固定資産評価基準に従って
決定するものとしている。固定資産評価基準は,再建築価額評価法を採用しており,新築
家屋を取得した場合においても,実際の建築費や請負代金額によるものとはしていない。
これは,実際の建築費の中には当事者間の特殊な事情によって影響されたものが混在し
ていること,また,実際の建築費をもって評価額とすると,建築費につき過小の積算や隠蔽
がされるおそれもあることから,徴税事務の簡易,迅速,低廉と納税者間の公平を実現す
べく,固定資産評価基準に従った評価によって均衡を図ろうとしたものと考えられる。
 しかし,前記のとおり,適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該不動産の取引
価格であり,新築家屋の取得の場合,施主と請負人との間に特殊な関係がなく,正常な価
格交渉がされて請負契約が成立する限りにおいて,その請負金額は,適正な時価を反映
しているものということができる。すなわち,本件建物のような営業の用に供する家屋の場
合,施主は,その家屋における営業によって上げ得る収益によって建築に要する資金を回
収すべく,収益還元額以下の金額となることを望み,請負人は,資材費,労務費等のコスト
を賄った上で利益を上げ得る金額であることを望んで,その価格交渉に臨むのであり,経
済社会に存在する競争によって,価格交渉が促進され,適正な取引価格が決定されるの
である。
 上記認定事実によれば,控訴人と請負人との間で成立した請負契約における本件建物
の実際の建築費は,およそ9397万円程度であると推認される。この金額と,被控訴人が
固定資産評価基準に従って決定した金額である1億0857万1000円とは,相当程度の
隔たりがある。もっとも,この金額の正確性や請負契約締結の際の特殊な事情の有無につ
いては,必ずしも十分な立証があるとはいえず,上記の実際の建築費とされる金額がその
まま本件建物の適正な時価を反映するものということはできない。しかしながら,弁論の全
趣旨によれば,控訴人と請負人との間に親子会社や関連会社といった特殊な関係があっ
たことなどはうかがわれず,上記の隔たりは,本件建物の適正な時価を考慮するに際し
て,なお看過することができないものといわざるを得ない。
 (3) 前記認定事実によれば,平成4年から平成7年にかけては,一般的に建築物価水
準は,相当程度下落しているということができる。このように建築物価水準が下落傾向にあ
るときは,賦課期日の2年前の物価水準により算定した工事原価に相当する費用に基づ
いて算出される標準評点数につき,3年にわたって何らの補正,修正をすることなくこれを
用いて評価した場合には,賦課期日における本件建物の再建築費を適切に算定できない
可能性がある。
 もとより現実の取引社会において形成される建築価格は,それが正常な条件の下に成
立した取引価格であっても,相当程度の幅を有するものである。大量評価を前提として定
められた固定資産評価基準に従って評価した結果が,一般的に適正な時価として認めら
れるのは,こうした正常な取引価格の下限を超えない限りにおいてである。それ故,標準
評点数を設定するに当たっても,その基礎となる建築物価の調査において,正常な取引で
も幅のある取引価格のうちの安値のものについても調べ,それらが排除されないよう配慮
すべきものである。
 したがって,上記のような現実の取引社会における建築物価水準の下落は,家屋の適正
な時価の判断において,看過することができないものといわざるを得ない。
 (4) 以上のような状況を勘案すれば,本件建物の評価が,再建築費評点基準表に従っ
て決定されたといい得るとしても,その評価額は,なお本件建物取得時の適正な時価を上
回っている可能性があり,本件においては,固定資産評価基準が定める評価の方法によ
っては適正な時価を適切に算定することができない特別の事情があるというべきである。
 3 鑑定について
 そこで,本件建物取得時の適正な時価について,さらに検討する。平成7年時点の本件
建物の正常価格については,A鑑定とB鑑定とがある。
 (1) A鑑定における鑑定額は,平成7年11月時点の本件建物の再調達原価を1億094
7万円,1㎡当たりの単価を9万2709円とするものである。
 A鑑定においては,いわゆる合い見積もりを経ない1社の見積もりを基礎とした上で,1級
建築士の意見を参考として,鑑定時点の各単価を積算した上,平成7年11月の価格時点
への修正をするなどしているが,競争を経ない1社の見積もりを基礎とする場合には,その
単価が割高となるおそれが生ずる。そして,甲28,証人Aの証言(A証言)及び証人Bの証
言(B証言)によれば,月刊「建設物価」という書籍に記載された建設物価の単価は,一般
に民間工事における単価よりも割高となる部分があるが,A鑑定における土工事等の単価
は,建設物価の単価を超えるものとなっていることが認められる。
 また,A鑑定は,石・タイル工事のうちの床の御影石貼り工事については,仕上がりの単
価として1㎡当たり1万5500円から1万6000円と評価している。A証言によれば,同鑑定
は,鑑定時点である平成12年当時の石工事における材料費を1㎡当たり8000円から1
万円とみたものである。しかしながら,前記のとおり,控訴人が全国展開する各店舗の仕
様,部材等は概ね共通するものであるが,甲22の1ないし3,24の1,25の1,2,4,6,
7によれば,平成11年ないし13年における控訴人の各店舗の石工事における材料費を4
000円ないし7000円とするものが多数あり,A鑑定において前提とする平成12年当時の
材料費は高額に過ぎるというべきである(なお,平成12年当時の材料費が平成7年当時
のそれに比べて,時点修正率を超えて大幅に下落していることを認めるに足りる事情もな
い。)。控訴人は,自ら石の輸入及び卸販売も業としており,本件建物の石工事における御
影石も,控訴人が中国から輸入したものであるが,甲8,24の1及び弁論の全趣旨によれ
ば,控訴人は,本件建物の工事の際に,中国から輸入した御影石について輸入販売業者
としての利益を上乗せして工事業者に卸していたというのであり,控訴人が工事業者に材
料を供給しない場合の材料費単価も同程度のものであることが認められ,控訴人が自ら輸
入したため,控訴人の各店舗の石工事における材料費が特に安価になったともいえない。
さらに,甲8,21の1,24の2,26の1ないし9,乙1ないし4,A証言,B証言によれば,本
件建物における床の御影石貼り工事は,御影石の品質,加工精度,施工精度が劣るもの
であることが認められ,本件建物の実際の建築費における床の御影石貼り工事の値引前
の1㎡当たりの単価は1万2500円とされ,被控訴人の評価基準に従った評価において
も,本件建物の石工事は,人造石ブロック等によるものと同程度のものとして,1㎡当たり
の標準評点数が1万2600点とされている。こうした点からみても,A鑑定における石工事
の単価は高額に過ぎるものというべきである。
 (2) これに対し,B鑑定における鑑定額は,平成7年9月時点の本件建物の再調達原価
を1億0178万4000円,1㎡当たりの単価を8万6200円とするものである(なお,本件建
物の取得時点は同年11月とみなされるものであるが(地方税法73条の2第2項),価格時
点を同年9月としたことにより,その評価が過小になるものとは考えられない。)。
 B鑑定は,実際の本件建物の建築に当たって詳細な見積書が作成されていることから,
見積書における個々の単価の当否を検証した上,値引率について修正を施すなどして細
項目の工事ごとの補修正を行って本件建物の再調達原価を求めたものである。B証言に
よれば,上記の見積書は,4ないし5社の合い見積もりを取り,競争の上で採用されたもの
であり,これが過大な見積もりとなっているおそれは少ないといえる。また,値引率の点を
除けば,個々の工事の単価自体が過小であるといった事情もうかがわれない。
 石工事についてみても,御影石貼り工事における材料の品質,加工精度,施工精度を検
討した上で,実際の建築費における単価が不当に安価であるとはいえないとした上で,値
引率の補正を行って,石・タイル工事全体の単価として1㎡当たり1万2740円と査定した
ものであり,過大な評価とも過小な評価ともいえない。また,土工事等についても過小な評
価であるなどの事情は認められない。
 B鑑定においては,上記見積書の各単価は概ね適正と認められるとした上で,本体工事
については,17.4%の値引率は過大であるとして,これを12%程度が相当であるとして
補正をしている。これは,本体工事における通常の粗利益率からみて,17.4%もの値引
率ではほとんど粗利が生じない可能性があり,競争下においても適正な粗利として5%程
度が確保されるべきであるとして,12%の値引率に補正がされたものである。このような
見方にも一定の合理性があるといえる。また,空調工事については,28%程度の値引率
は過大であるとして,これを20%程度が相当であるとして補正をしている。これは,空調工
事については,空調機器の値引きにより仕入れ値が相当下がる可能性があることから,値
引率が高くなることがあるが,その場合でも20%程度が相当であるとして補正をしたもの
である。この見方も不合理とはいえない。
 (3) 以上によれば,A鑑定における評価額は,本件建物取得時の再調達原価として,割
高になっているというべきであり,採用することができない。他方,B鑑定における評価額に
は,合理性があるというべきであり,前提となる事実の確定や計算過程に問題があるとも
いえない。そして,本件建物の実建築費等について前述のような算定結果があることを考
慮すると,本件建物取得時における適正な時価は,少なくともB鑑定の評価額1億0178
万4000円を超えるものではないと認めるのが相当である。
 4 結論
 本件建物の取得時における適正な時価を1億0178万4000円であるとすると,税率10
0分の4(地方税法73条の15)を乗じ,100円未満を切り捨てて(同法20条の4の2第3
項)求められる納付すべき税額は407万1300円となる。そうすると,本件処分は,上記の
限度で適法であるが,これを上回る部分については,違法というべきであり,取消しを免れ
ない。
 そこで,控訴人の請求を全部棄却した原判決を取り消し,控訴人の請求を上記の限度で
認容し,その余を棄却することとする。
 よって,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成15年12月2日)
東京高等裁判所第19民事部
       裁判長裁判官    淺   生   重   機
            裁判官    及   川   憲   夫
            裁判官    竹   田   光   広

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