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裁判例


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平成13年(行ケ)第260号 審決取消請求事件(平成13年12月6日口頭弁
論終結) 
判    決
  原      告      A
  訴訟代理人弁護士      長   瀬   弘   毅
   同    弁理士      近   藤       豊
   被      告      レイデント工業株式会社
   訴訟代理人弁護士      木   村   哲   也
   同             山   上   耕   司
   同    弁理士      山   下   賢   二
   主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
事    実
第1請求
  特許庁が平成7年審判第3632号事件について平成13年4月24日にし
た審決を取り消す。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
原告は、別紙1の「本件商標の構成」に記載のとおり、「レイデント」の片仮名
文字を横書きしてなり、指定商品を旧第1類の「金属材料の表面黒化並びに防銹処
理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」(以下「本件指定商品」という。)
とする登録第2043365号商標(昭和60年12月18日商標登録出願、昭和
63年4月26日設定登録、平成10年2月3日更新登録、以下「本件商標」とい
う。)の商標権者である。
 被告は、平成7年2月27日、本件商標の登録無効の審判を請求し、特許庁は、
この請求を平成7年審判第3632号事件として審理した結果、平成13年4月2
4日に「登録第2043365号の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本
は同年5月10日に原告に送達された。
 2 審決の理由 
 別紙2の審決書の写し(以下「審決書」という。)のとおり、
「被告(請求人、昭和39年12月設立)は、本件商標の出願(昭和60年12月
18日)前から、「レイデント」の片仮名文字からなる標章(以下「引用標章」と
いう。)を、自社の開発した黒色金属表面処理剤及びこの処理剤を用いる黒色防錆
薄膜処理法という金属表面処理法(以下「黒色金属表面処理」という。)に継続的
に使用しており、昭和50年6月20日に、指定商品の範囲及び表示が本件商標の
指定商品と同一であり、かつ本件商標と書体を同じくする片仮名文字「レイデン
ト」からなる商標について商標登録出願しており(昭和54年6月12日に出願公
告、昭和55年5月9日出願無効処分)、既に一定の信用や顧客吸引力が引用標章
に形成(化体)されていたところ、原告(被請求人)は、本件商標の出願前におい
て、被告と一定の売買取引があった訴外有限会社B(以下「訴外会社」という。)
の総務部長として被告と訴外会社との間の「レイデント基本契約」に関する書簡を
被告宛に送付していた者であり、自らあるいは関係者を通じて、被告の使用に係る
引用標章ないし被告の出願に係る商標及び指定商品等を知り、その上で原告名義を
もって本件商標を出願したものと認められ、原告が、被告の開発した黒色金属表面
処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にある
と認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その
他の化学剤」を指定商品として、引用標章と同じ片仮名文字からなる商標「レイデ
ント」(先にした被告の出願に係る商標と同一といえるもの)を出願して商標登録
を得たことは、引用標章に形成された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈化
させる等の不正競争の目的があったものといわざるを得ず、その行為は、信義則に
反するとともに公正な商取引秩序を乱すおそれがあったものといわなければなら
ず、本件商標は、商標法4条1項7号の規定に違反して登録されたものであるか
ら、同法46条1項の規定により、その登録を無効にすべきものとする。」
旨認定、判断した。
第3 原告主張の審決の取消事由の要点
 審決は、被告が審判において提出した証拠の内容を精査せず、引用標章につい
て、商品「黒色金属表面処理剤」に継続的に使用されていたと誤って認定し、その
結果、引用標章の使用状況について誤った判断をし(取消事由1)、また、審決
は、被告が開発したとする「黒色金属表面処理剤」の商品を特定せず、商品の内容
が不明のまま、「原告は、被告の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこ
の処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の
表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品と
した」と認定し、この認定を前提として、原告には被告会社の商標に形成された信
用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈させる等の不正競争の目的があったものと
誤って判断した(取消事由2)という違法があるから、取り消されるべきである。
 1 取消事由1(引用標章の使用状況の判断の誤り)
  (1) 審決は、被告が本件商標の出願前から、引用標章「レイデント」を被
告の開発した「黒色金属表面処理剤・・・」に使用してきたことを認定するために
採用した証拠として、甲第2ないし第69号証(審判甲第1、第10、第39、第
42ないし第47、第50ないし第55、第57ないし第96、第98、第10
4、第105、第131、第132、第134、第136ないし第138、第14
0、第141、第160、第161号証)を挙げている(審決書11頁25行ない
し32行)。そして、審決は、「上記各証拠においては、引用標章を冠した「レイ
デント液」、「レイデント処理液」、「レイデント処理触媒液」等の表示が使用さ
れているが、それらの表示中の「液」、「処理液」及び「処理触媒液」は、いずれ
も上記黒色金属表面処理剤を指すものと認められる。」(審決書11頁33行ない
し36行)、と説示した上で、「引用標章は、本件商標の出願前から、請求人(被
告)の開発した黒色金属表面処理剤・・・に継続的に使用され、本件商標の出願時
には、既に一定の信用や顧客吸引力が引用標章に形成(化体)されていたものとい
うべきである。」(審決書15頁27行ないし30行)と判断している。
  (2) しかし、審決が掲記する上記の甲第2ないし第69号証を精査してみ
ても、これらの証拠の中から被告が開発したとする商品に片仮名書きの引用標章
「レイデント」を使用していたと推測することができるのは、せいぜい甲第5号証
(黒色金属表面処理剤/レイデントハイブラック、昭和46年10月8日付けらし
き日刊工業新聞)、甲第6号証(レイデント処理液、昭和50年10月16付け日
刊工業新聞)、甲第58号証 (レイデント液、昭和48年10月15付け注文
書)、甲第59号証(レイデント液、昭和52年3月23付け注文書)、甲第67
号証(レイデントハイブラック、作成日付け不明の被告会社の封筒)、甲第68号
証(レイデント処理液、昭和52年12月1付け契約書)、甲第69号証(レイデ
ント処理液、昭和53年9月15付注文書)のみであり、さらに、「処理液」、
「処理溶液」の語が被告開発の商品を暗示するとしても、「処理液」、「処理溶液」
の記載があるのは、甲第9号証(処理液、昭和60年1月30付日本工業技術新
聞)、甲第10証(処理液、昭和60年3月20付日本工業技術新聞)、甲第63
号証(処理溶液、昭和43年4月27付書面)にすぎない。
  (3) この点に関し、被告は、原告が挙げた上記の各証拠だけでなく、乙第
13ないし第24号証(審判甲第2ないし第8、第11、第48、第49、第13
0、第133号証)や乙第33、第34、第36、第38号証(審判甲第163、
第164、第166、第199号証)、乙第40ないし第44号証(審判甲第11
8、第119、第124、第125、第201号証)にも、被告商品の内容とこれ
に使用されていた引用標章「レイデント」の記載がある旨主張する。
 しかし、被告が指摘する書証を精査しても、引用標章「レイデント」との関連で
被告商品の記載があるのは、せいぜい乙第14、第33、第34、第36、第3
8、第43号証にすぎず、被告が指摘する乙第13、第15ないし第24、第40
ないし第42、第44号証には、引用標章「レイデント」との関連で、被告商品が
記載されている事実は、一切認めることはできない。
  (4) 以上によれば、被告の引用標章が、本件商標の出願前から、少なくと
も被告の開発した商品「黒色金属表面処理剤理剤」に継続的に使用され、本件商標
の出願時には、既に一定の信用や顧客吸引力が被告会社の標章に形成(化体)され
ていたとは到底考え難く、審決の上記の認定、判断には誤りがあり、違法である。
  (5) なお、審決が証拠採用した甲第5号証(審判甲第42号証)のうち、
被告の広告部分は、被告が本件訴訟において自白しているように、昭和46年10
月8日付けの日刊工業新聞に掲載された広告ではなく、当然のことながら、真正に
成立した証拠ではなく、被告の偽造ないし変造に基づくものであり、審判官を欺く
ものであって到底許されるものではない。
 してみると、審決は、このような証拠をそのまま採用しているのであり、この点
からも、審決は取り消されべきである。
 2 取消事由2(被告商品の内容が不明のまま、本件指定商品について認定した
誤り)
  (1) 一般に、めっき業において用いる薬品のほとんどは、毒物及び劇物取
締法に規定の「毒物又は劇物」に該当するが、「毒物又は劇物」の取扱いについ
て、同法は、毒物劇物営業者に対して、容器及び被包に、毒物又は劇物の名称、毒
物又は劇物の成分及びその含量等を表示することなどを義務付けているところ、甲
第5号証に記載された被告の「黒色金属表面処理剤」が実際に存在する場合には、
同法にいう「毒物又は劇物」である蓋然性が極めて高い商品と考えられ、その場合
には、被告は、毒物又は劇物の名称を商品(容器を含む。)に表示し、購入者に毒
物又は劇物の名称を告知する義務があるにもかかわらず、被告は、顧客に対して、
このような告知をしていなかった。
  (2) 商標法上の商品とは、少なくとも、一般市場で流通に供されることを
目的として取引対象となる動産であって、大量生産が可能なものをいうと解される
ところ、審決は、被告商品の内容及び販売形態(例えば、いかなる容器にどのよう
な商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)について全く確認や検討を加
えることなく、被告が開発したとする「黒色金属表面処理剤」の商品が存在してい
ると速断し、被告商品の内容が不明のまま、「原告は、請求人(被告)の開発した
黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接
な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面
処理剤、その他の化学剤」を指定商品とした」旨を認定したものであり(審決書1
5頁36行ないし16頁1行)、この認定を前提として、原告には被告の商標に形
成された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈させる等の不正競争の目的があ
ったと判断したものであるから、違法である。
第4 被告の反論の要点
  原告が指摘する審決の認定、判断はいずれも正当であり、審決に原告主張の違
法はない。
 1 取消事由1(引用標章の使用状況の判断の誤り)に対して
  (1) 審決で被告が提出した証拠中には、原告が挙げる証拠だけでなく、乙
第13ないし第24号証(審判甲第2ないし第8、第11、第48、第49、第1
30、第133号証)や乙第33、第34、第36、第38号証(審判甲第16
3、第164、第166、第199号証)、乙第40ないし第44号証(審判甲第
118、第119、第124、第125、第201号証)にも、被告商品の内容及
びこれに使用されていた引用標章「レイデント」の記載がある。
 また、審決も採用した甲第17ないし第57号証にも、引用標章「レイデント」
が記載されており、被告の取引先であった多数の企業から各種金属材料の黒色金属
表面処理について、その文字標章「レイデント」の名指しによる依頼を受けていた
ことが明らかである。
 さらに、被告から被告商品の黒色金属表面処理剤を買い求め、その使用上の技術
的な指導と支援を受けていた訴外会社(B)も、乙第59ないし第61号証(審判
甲第101ないし第103号証)や乙第68号証(審判甲112号証)、乙第72
ないし第74号証(審判甲第168ないし第170号証)に記載されているとお
り、引用標章「レイデント」を使用して、ユーザー獲得の広告宣伝に利用していた
のである。また、上記乙第59ないし第61号証、第68号証、第72ないし第7
4号証の他にも、乙第36ないし第38号証(審判甲第166、第198、第19
9号証)から明らかなように、被告の同業者として、訴外会社の他にも、岐阜レイ
デント工業株式会社、株式会社鈴幸鍍金工業所も、被告から被告商品「黒色金属表
面処理剤」を買い求めて、その黒色金属表面処理を行っていた事実が認められる。
  (2) 本件商標の指定商品として記載された「金属材料の表面黒化並びに防
銹処理のための金属表面処理剤」は、薬局において一般の消費者向けに市販されて
いる薬品と異なり、金属表面処理業者以外には使用することがあり得ない高度な専
門技術分野の特殊品(危険物)として、その役務(金属表面処理業)と不可分の関
係にあり、そのための許可を受けた設備がなければ、商品の製造や役務の提供を行
なえるものではない。
 つまり、その商品(金属表面処理剤)と役務(金属表面処理業)とは、ユーザー
層の範囲や用途、販売場所と提供場所などがことごとく一致し、商品の製造・販売
と役務の提供とが必らず同一業者によって行われ、互いに類似する関係にあり、そ
の意味から商標としての機能を商品と役務に切り離して考えることはできない。
 したがって、審決が「上記「黒色金属表面処理剤(商品)」と「黒色金属表面処
理(役務)」とは、その処理工程上密接不可分な関係にあるものといえる」(審決
書12頁5行、6行)と認定したことに誤りはなく、審決が被告による引用標章の
使用について、「上記各種取引書類や、上記1.(2)で示した広告宣伝や新聞記
事等においては、例えば「レイデント処理」、「レイデント加工」、「レイデント
処理(法)」、「レイデントメッキ」、「レイデントトソウ」、「レイデント・ハ
イブラック」、「レイデントLSL」にみられるように、「レイデント」に他の文
字が付加されているものも少なくないが、一般的に、実際の商標使用の局面では、
或る商標に他の一定の文字(商品の一般名称、品質・材料・加工方法等の表示、他
の商標等)を付加して使用されている実情があり、これに照らすと、上記使用例は
いずれも前半の「レイデント」の文字部分を要部とする商標の使用というべきであ
る」(審決書13頁28行ないし36行)として、引用標章が商品及び役務の商標
として使用されていることを認定したことは、極めて正当である。
  (3) 以上のとおり、被告が引用標章について、被告が開発した「黒色金属
表面処理剤(商品)」と「黒色金属表面処理(役務)」のいずれにも使用したこと
を肯定した審決の認定に誤りはなく、原告の取消事由1は、失当である。
  (4) なお、被告が審判手続において提出した甲第5号証(審判甲第42号
証)は、日刊工業新聞の複写であるところ、そのうち、①見出しに「防せい力黒染
法の十倍以上」と大書された記事の部分は、昭和46年10月8日付けの日刊工業
新聞の21面(乙第84号証)から切り抜いたもの、②被告の広告の部分は、昭和
46年12月29日付けの日刊工業新聞の19面(乙第85号証)から切り抜いた
ものであったが、被告がこれらを証拠として提出する際に、誤って、②の部分も①
と同一日付けの紙面であるかのように、一緒に貼り付けて複写したものであり、本
件訴訟において改めて乙第84、第85号証と分けて提出する。
 被告の上記②の広告の部分が甲第5号証に日付けの複写がある昭和46年10月
8日付けの日刊工業新聞に掲載されておらず、これと別な同年12月29日付けの
乙第85号証の紙面に掲載されていたものであるとしても、これと同じ「黒色金属
表面処理剤/レイデントハイブラック」という被告商品の記載内容は、乙第14号
証や乙第43号証にも明確に記載、表示されている。
 したがって、上記甲第5号証のうち、②の被告の広告の部分のみが真正に成立し
ていなかったとしても、これをもって、審決の認定、判断が変ることはない。
 2 取消事由2(被告商品の内容が不明のまま、本件指定商品について認定した
誤り)に対して
  (1) 原告は、被告商品である「黒色金属表面処理剤」の内容について不明
である旨主張するが、被告と訴外会社とは、甲第58、第59号証(審判甲第10
4、第105号証)や乙第72ないし第77号証(審判甲第168ないし第173
号証)から明らかなように、被告商品の売買取引を何回も行っていたのであり、原
告自身も、審判答弁書(第3回、乙第5号証)において、乙第56号証(報告書)
に基き「1回目の納品はレイデント工業が薬品をトラックで持参しBが用意した容
器に移し替えることにより行った。」と説明している。
 また、訴外会社は、乙第59ないし第61号証(審判甲第101ないし第103
号証)や乙第73号証(審判甲第169号証)から明らかなように、被告商品のパ
ンフレットと酷似したパンフレットを作成して、被告から買い求めた黒色金属表面
処理剤を使用した黒色金属表面処理を実施する営業上、引用標章「レイデント」を
ユーザー獲得のための広告宣伝に使用し、その黒色金属表面処理剤の技術的効果
(優れた防錆力)を強調していたのである。
  (2) そして、原告は、昭和51年1月6日から昭和63年7月20日まで
の間、訴外会社に在職しており(乙第54、第55号証)、本件商標の出願日は昭
和60年12月18日、登録日は昭和63年4月26日であるから、訴外会社に在
職中の原告によって本件商標の登録が取得された結果になっている。
 したがって、原告が被告商品の内容を知悉していないはずはなく、その知悉して
いないと解釈することこそ著しく不自然・不合理である。
 まして、原告は、上記のとおり、被告商品の売買取引方法につき、「1回目の納
品はレイデント工業が薬品をトラックで持参しBが用意した容器に移し替えること
により行った。」と説明しているのであるから、原告が、審決について、「被告商
品の内容並びに売買形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付し定価をい
くらとして販売しているのか)について全く確認ないし検討を加えることなく、被
告が開発したとする黒色金属表面処理剤の存在を速断し、被告商品の内容が不明の
まま」に、「原告は、被告の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処
理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面
黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品とした
と認定したことは、違法である」旨主張することは、許されない。
  (3) また、原告が本件商標の使用を企図した本件指定商品の「金属材料の
表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」は、被告が出
願しつつも登録料の不納により出願無効となった商願昭50-81252号(商公
昭54-19754号)の指定商品と全く同一であり(乙第58号証)、原告が使
用する意志がある商品の内容を知らぬはずもない。
  (4) 被告商品の内容については、被告が審判手続において提出した次の被
告のパンフレットによって明らかとされている。
    ア 被告の業務内容を示すパンフレット(乙第13号証、審判甲第2号
証)には、「電化触媒法による黒色皮膜」、「レイデント法黒色皮膜処理はクロー
ム酸をベースにした水溶液に無機質の化合物を組成し、この原液が電解過程におい
て触媒としての機能を充分発揮し得るように調整し、確かめ、完全された電解液は
超低温下でこれを管理し、加工せんとする被金属にそれぞれ定格の荷電をすすめる
と、その表皮はアマルガム状を呈して素地心に向って変性結合が深められてゆく。
皮膜は粘帳質から靱性を帯び黒色が次第にさえてくるのをみる。」、「高温と超低
温に耐え得る」、「メッキによるものは400℃を限界としているが、レイデント
処理品は+800℃~-30℃間を繰り返えしても、色相に変化をみず、逆に表皮
は硬くなり防食度を益々あげてくる」と記載されている。
    イ 被告のパンフレットである乙第14、第15、第44号証(審判甲第
3、第4、第201号証)に、「当処理は黒色の浸透性皮膜型分野に属する工法で
ありますから、順じて、その処理型式より生じる特性が遺憾なく仕上りの状態に表
現されるものです。種々の特長につきましては下記の如くでありますが、レイデン
ト皮膜は、一言で申せば、皮膜型にも係わらず、通常の表面処理概念を超越した防
錆耐食能力を有していると明言出来ます。」と記載され、その用途と技術的な効果
及び表面処理した金属材料の写真も示されている。
    ウ 被告の「レイデント」と題したパンフレットである乙第40号証(審
判甲第118号証)には、「黒色皮膜処理レイデントについて」、「約30年前東
大航研において高速摺動部面の硬質鍍金処理に就き、これが基礎学的研究のための
実験中、処理条件の移行によって隅々その皮膜面に黒色の斑点が現出することに注
目し、その原因の追求に没頭、遂ひに全面均一にして強靱な黒色皮膜を構成する技
術を開発した。即ちその特質としてあげられる主なるものは、従来有機化合物を触
媒としての高温電鍍工法を定則としていた観念を改め、無機化合物を触媒として然
かも低温中での電密操作如何によっては、非常に純度の高いクロームの析出のもと
に真黒色の皮膜を構成する技術に成功した。」、「高度の防錆力と熱容量増大に利
用する部面」、「バネ類で殊に錆を嫌うものはステンレス鋼を使用されていました
が、レイデント法は低温処理なので鋼質に変化を起さず、錆びないので高価なステ
ンレスを使用する必要がありません。」と記載されている。
    エ その他、被告の別のパンフレットである乙第41ないし第43号証
(審判甲第119、第124、125号証)にも、被告の黒色金属表面処理につい
て記載されている。
 そして、このような被告商品の内容と技術的効果は、立石電機株式会社の技術情
報資料(乙第20号証、審判甲第11号証)や咜広信社から発行された書籍「表面
技術総覧」(乙第22号証、審判甲第49号証)、日刊工業新聞(甲第5ないし第
8号証、審判甲第42ないし第45号証)、日本工業技術新聞(甲第9、第10号
証、審判甲第46、第47号証)などに紹介されたほか、被告自身としても、例え
ば日刊工業新聞(甲第5、第9、第11号証、審判甲第42、第46、第50号
証)や月刊雑誌(甲第12ないし第15号証、審判甲第51ないし第54号証)な
どに、「超級防錆・高精度・抜群の耐久力・超薄膜黒色法、レイデント処理」と題
して広告宣伝してきた。
 被告商品の上記内容は、明らかに本件商標の指定商品である「金属材料の表面黒
化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」と対応しており、金属材料の表面黒化
並びに防錆を目的とした金属表面処理剤であるといえる。
 したがって、審決が「原告は、被告の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む
又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属
材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定
商品として、引用標章と同じ片仮名文字からなる商標「レイデント」を出願して商
標登録を得た」と認定したことも、極めて正当であって、被告商品は、本件商標の
指定商品に係る「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」と
の対応関係において、その内容が明確になっている。
  (5) なお、被告商品の「黒色金属表面処理剤」とその使用による「黒色金
属表面処理法(役務)」は、被告の独自に開発した新技術であって、低温(マイナ
ス5℃~マイナス20℃程度)の電解浴を用い、特殊な触媒による濃度調整や熟成
などにノウハウを要する専門性があり、そのための特別な冷凍機(冷却機)も不可
欠となるが、商標法上の「指定商品」としては、そのノウハウを含む新技術の内容
までも明らかに記載することは要求されていない。
 例えば、「ビール」を指定商品とする場合、その商品の組成や製造法などについ
て、発明やノウハウとなる新技術があったとしても、その新技術まで開示する必要
はなく、単に「ビール」と記載しさえすれば、商標法上の指定商品として内容が特
定されることになる。
 これを本件についていえば、本件商標の指定商品である「金属材料の表面黒化並
びに防銹処理のための金属表面処理剤」と対応する程度の内容を特定して認定する
ことができれば、その内容の被告商品は、商標法上の商品として充分特定されてい
るといえる。
 その意味からも、審決は原告の主張するように、被告商品の内容が不明な状態の
もとで、その被告商品と本件商標の本件指定商品とを密接な関係にあると速断して
いるものではない。
  理    由
1 本件商標の構成及び指定商品等
 本件商標は、別紙1の「本件商標の構成」に記載のとおり、「レイデント」の片
仮名文字を横書きしてなり、指定商品を旧第1類の「金属材料の表面黒化並びに防
銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」として、原告によって昭和60
年12月18日に出願されたものであることは争いがなく、乙第58号証及び弁論
の全趣旨によれば、被告は、昭和50年6月20日に、指定商品の範囲及び表示が
本件商標の指定商品と同一であり、かつ本件商標と書体を同じくする片仮名文字
「レイデント」からなる商標について商標登録出願しており、昭和54年6月12
日に出願公告されたが、昭和55年5月9日に登録料不納により出願無効処分とな
ったことが認められる。
2 取消事由1(引用標章の使用状況の判断の誤り)について
 (1) 本件証拠(甲第2ないし第4、第6ないし第69号証、乙第5、第13
ないし第15、第20、第22ないし第24、第27ないし第48、第56、第5
7、第59ないし第66、第69、第70、第72、第74ないし第77号証、第
84、第85号証)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、大日表面工業研究所を組
織変更し、冷電鍍工業株式会社がしていた業務を承継し、昭和39年12月17日
に設立された株式会社であり、金属材料の表面をクローム酸等を触媒とする電解過
程により黒色皮膜して、金属材料の表面を防錆(銹)する表面処理の工法について
研究し、クローム酸をベースにした水溶液に無機質の化合物を組成し、この原液を
電解過程における触媒としての機能を充分発揮し得るように調整し、その電解液を
超低温下で管理して、被加工金属材料に定格の荷電をして、金属材料の表面を薄く
皮膜し、真黒色化して、良好な防錆(防銹)力や耐久(耐食)力を得ることができ
る技術(黒色防錆薄膜処理法)を新たに開発し、この自社が開発した金属表面処理
剤の商品の販売及びこの金属表面処理法の役務の提供を業とし、遅くとも昭和46
年ころまでには、その商品である「黒色金属表面処理剤」及びその役務である「黒
色金属表面処理法」の商標として「レイデント」の標章を創作し、使用を開始して
いたこと、被告は、前記1のとおり、昭和50年に本件商標と書体を同じくする
「レイデント」からなる商標につき登録出願をしたことがあること、被告は、本件
商標の出願時である昭和60年12月18日までの間に、近畿地方所在の企業のほ
か、東京、名古屋等所在の企業との間で取引しており、その取引や宣伝広告におい
て、「レイデント」の文字標章を商品及び役務商標として使用するほか、商品商標
として「レイデント液」、「レイデント処理液」、「レイデント・ハイブラック」
等の標章、役務商標として「レイデント処理」、「レイデント処理法」、「レイデ
ント加工」等の標章を継続して使用していたこと、このため、引用標章である被告
の「レイデント」の標章は、本件商標の出願時までに、当業界及び取引者・需要者
の間で、一定の信用及び顧客吸引力を備えるに至っていたことが認められる。
 (2) 原告は、取消事由1として、引用標章「レイデント」が「黒色金属表面
処理剤」の商品について継続して使用されていたとの審決の認定を争っているが、
被告が業として販売している黒色金属表面処理剤の商品についても、引用標章「レ
イデント」を継続して使用してきたことは、「レイデント」の語が「処理液(処理
剤)」について使用されていることが明白に認められる甲第6、第58、第59、
第67ないし第69号証、乙第14、第22、第30、第33、第34、第36、
第43、第74、第85号証の各記載内容に照らして、明らかであって、この認定
に反する証拠はない。
 したがって、審決の上記の認定事実は正当であって、この認定が誤っているとの
原告の主張は、採用することができず、審決の上記認定が誤りであることを前提と
する取消事由1は、理由がない。
 (3) なお、原告は、被告が審判手続において提出した甲第5号証(審判甲第
42号証)について手続の違法を主張するが、甲第5号証、乙第84、第85号証
及び弁論の全趣旨によると、甲第5号証は、株式会社日刊工業新聞社発行の「日刊
工業新聞」の紙面を切り抜いたものの複写であるところ、そのうち、①見出しに
「防せい力黒染法の十倍以上」と記載された記事の部分は、昭和46年10月8日
付けの日刊工業新聞の21面(乙第84号証)から切り抜いたもの、②被告の広告
の部分は、昭和46年12月29日付けの日刊工業新聞の19面(乙第85号証)
から切り抜いたものを複写したものであり、被告がこれらを証拠として提出する際
に、②の部分を、①の部分及び①の部分の発行日付けの部分と、一緒に貼り付けた
上で、複写したものであることが認められる。
 してみると、甲第5号証の原本は、いずれも株式会社日刊工業新聞社発行の日刊
工業新聞の記事及び広告であるから、被告がその作成者を誤り、又はこれを偽って
提出したものではなく、甲第5号証の原本が真正に成立したものであることは明ら
かであり、また、甲第5号証の原本は、いずれも昭和46年に発行されたものであ
り、本件商標の出願時前に作成されたものであるから、その発行月日の相違によっ
て、本件における証拠価値が異なるものではない。
 以上によれば、審決が事実認定に当たり、甲第5号証を証拠として採用したこと
について、何ら違法な点は認められず、原告の上記主張は、失当である。
3 取消事由2(被告商品の内容が不明のまま、本件指定商品について認定した誤
り)について
 (1) 原告は、「審決は、被告商品の内容及び販売形態(例えば、いかなる容
器にどのような商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)について全く確
認や検討を加えることなく、被告が開発したとする「黒色金属表面処理剤」の商品
が存在していると速断した」旨主張している。
 しかしながら、上記2の(1)及び(2)に判示したとおり、被告は、商品とし
て「黒色金属表面処理剤」を開発して、業として販売していたことが認められ、審
決がこの事実を認定したことは、正当であるということができる。
 また、被告が引用標章「レイデント」を商品「黒色金属表面処理剤」に使用して
いたことを認定するに当たって、原告が主張するような被告商品の具体的内容や販
売形態を認定する必要性は、本件において認めることができないから(被告商品の
存在そのものを疑わしめるような証拠はない。)、審決がこれらについて具体的に
認定していないことをとらえて、審決が「被告商品の内容が不明のまま」に判断を
示したと評価することはできず、原告の上記主張は、失当である。
 (2) さらに、上記2の(1)に判示したとおり、被告は、金属材料の表面を
黒色皮膜して、金属材料の表面を防錆(銹)する表面処理の方法について研究し、
金属材料の表面を真黒色化して、良好な防錆(銹)力等を得ることができる技術を
新たに開発し、「黒色金属表面処理剤」の商品の販売及び「黒色金属表面処理法」
の役務の提供を業としており、この商品及び役務に「レイデント」の標章を使用し
ていたことが認められ、また、前記1に判示したとおり、被告は、昭和50年6月
20日に、指定商品を旧第1類の「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金
属表面処理剤、その他の化学剤」として「レイデント」の文字標章からなる商標の
登録の出願をしていることが認められるところ、本件商標の指定商品は、被告の出
願に係る上記商標の指定商品の範囲及び表示と同一のものであることが認められ
る。
 (3) 以上によれば、被告の開発した「黒色金属表面処理剤」の商品は、「金
属材料の表面黒化並びに防錆を目的とした金属表面処理剤」の商品範囲に属するも
のと認められ、本件商標の指定商品である旧第1類の「金属材料の表面黒化並びに
防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」の一部に当たるものであるこ
とは明らかであり、また、被告の「黒色金属表面処理剤」の商品と、これを使用し
た「黒色金属表面処理法」の役務とは、相互に密接な関係にあることを首肯し得る
から(これに反する証拠はない。)、審決が、本件商標の指定商品について、「請
求人(被告)の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる
黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防
銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」」(審決書15頁36行ないし
16頁1行)と認定したことに誤りはない。
 したがって、審決の上記認定が誤りであることを前提とする原告の取消事由2の
主張も、理由がない(なお、本件証拠を精査しても、審決の「原告には被告の引用
標章に形成された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈させる等の不正競争の
目的があった」旨の判断に誤りがあるとは認められない。)。
4 結論
 以上のとおり、原告主張の審決の取消事由はすべて理由がなく、その他審決には
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 古  城  春  実
    裁判官 橋  本  英  史
(別紙)
別紙1

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