弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用中、補助参加に因つて生じた部分は補助参加人らの連帯負担とし、その余の部分
は原告の負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
1昭和五八年六月二六日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙区にお
ける選挙を無効とする。
2訴訟費用は被告の負担とする。
二請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
(本案の答弁)
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一請求の原因
1昭和五八年六月二六日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙(以下「本件選挙」
という)において、原告は東京都選挙区の選挙人である。。
2本件選挙は、公職選挙法(以下「公選法」という)一四条、別表第二が定める参議。

(選挙区選出)議員の定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という)に基づいて行。

れた。
3本件定数配分規定は、昭和二五年に公選法の制定にあたつて、参議院議員選挙法(昭
和二二年法律一七号)の定める定数配分規定(以下「旧規定」という)をそのまま継受。

たものである。
右旧規定は、選挙区割については既存の行政区画である都道府県をそのまま選挙区として
用い(行政区画主義、議員数の配分については地方選出議員定数を一五〇とし、昭和二)

年の同法制定当時直近の調査(昭和二一年四月二六日施行の臨時統計調査)に基づく全人
、、口をその定数一五〇で除して得た数を各選挙区の議員数を偶数とするとの前提のもとに
四捨五入的手法を用いて整数化するという操作(一種の配当基数方式)によつて作成され
たものであつたから、憲法の保障する平等選挙の原則に則るものであつた。
4参議院議員の定数配分規定は、その後の人口の異動にもかかわらず、沖縄の復帰に伴
い、沖縄県を一選挙区として議員二人を追加配分し、比例代表制の導入に伴い地方選出議
員を選挙区選出議員と改称するなどのほかは、立法上の改訂が加えられていない。
5昭和二一年臨時統計調査、昭和五五年国勢調査、第六回、第九回、第一一回、第一三
回(本件選挙)の各参議院議員選挙当時の人口又は有権者数は、別紙数表1ないし6記載
のとおりである。
6右のような人口異動の結果、本件選挙が行われた昭和五八年六月二六日当時には、
議員定数と人口との不均衡は、憲法の保障する平等選挙の原則に照らし、到底看過するこ
とのできない程度に達しており、参議員(選挙区選出)議員制度の特殊性その他国会の裁
量的権限を考慮しても、なおその許容される限界を超えるものというべきである。その理
由は、次のとおりである。
(一)選挙における平等原則は、実行できる限り人口比例主義を貫徹すべきことを意味
するものである。
国民主権下の議会制民主国家においては、国民の意思は選挙を通じて表明されるから、選
。、挙制度は国民各自の意思が公平に表明される内容のものでなければならないしたがつて
国民各自が有する選挙権は、単に一人一票の原則(選挙資格の平等)が保障されるだけで
はなく、異なる選挙区間における各投票が選挙の結果に及ぼす影響力においても等価であ
ること(投票価値の平等)が当然に要求されるものというべきである。このような投票価
値の平等を実効あらしめるためには、選挙制度の運用にあたつて、国民各自の選挙権を画
一的・形式的に取り扱う形式的平等主義に選挙権平等の指導原理を求めることが必要であ
る。すなわち、投票価値の平等は、各選挙区の配分議員数と人口又は有権者数との比率の
みを基準として検討されるべきであつて、およそ国政処理の場で検討されるべき内容を議
員定数の配分にあたり考慮するようなことを絶対に排除することが、国民主権に基礎をお
く主権者の政治的平等の基盤を保障することとなるのである。
憲法が、一四条の一般的平等原則のほかに、一五条、四三条一項、四四条但書で選挙の基
本原則を定めた趣旨は、民主政治の発展の過程において複数投票制、等級投票制等の差等
選挙制度を撤廃してきた選挙権獲得の歴史的発展のうえに立つて、選挙権については立法
府の裁量の余地を認める一般的平等原則とは質的に異なり、一切の裁量を許さない形式的
平等の原理を前提とし、各選挙区の人口又は有権者数以外の諸要素を考慮することを許さ
ない趣旨と解すべきである。
投票価値の平等の要請を損うことなく公平に議員定数を配分するにあたつてのミニマム・
リクワイヤーメント(最小限度の要請)として、二つの原則を挙げることができる。その
一は「取分制約」の原則、すなわち、各選挙区への配分議席数は人口比例によつて算出、

れた数値の小数部分の切り捨て又は切り上げによつて得られた数でなければならないとす
る原則である。例えば、
人口比例によつて得られた配分数が四・三であれば、実際の配分数は四又は五でなければ
、。、「」ならず三以下又は六以上であつてはならないとする原則であるその二は不可逆転
の原則、すなわち、人口のより少ない選挙区により多い議席を配分してはならないとする
原則である。例えば、有権者五〇万人で四名の議席を配分された選挙区と有権者六〇万人
で二名の議席を配分された選挙区とがあれば、五〇万と六〇万とで投票の価値が逆転する
ことになり、このような逆転は許されないとする原則である。
なお、アメリカ合衆国連邦最高裁判所の代表的判決は、議席の配分は「実行できるかぎり
精密に等価値に近く」行うべきであるとする原則を採用している。すなわち(1)ジヨ、

ジア州選出の連邦下院議員の選挙に関するA対B事件についてのC判事による法廷意見
は、
連邦下院議員の選挙区割に関する州法を連邦憲法一条二節の規定に違反するものとし、同
規定はいずれの選挙人の投票の価値も他の選挙人のそれと「実行できる限り精密に等価値
に近く」あるべきことを要求するものである、としており(2)アラバマ州上下両院議、

の選挙に関するD対E事件についてのF長官による法廷意見は、二院制の州議会のいずれ
の議院においても「人口を基準とする代表制」からの逸脱は連邦憲法修正一四条の規定、
(平等保護条項)に違反する、としており(3)ミズウリー州選出の連邦下院議員の選、

に関するG対H事件についてのI判事による法廷意見は(1)において示された「実行、

きるかぎり精密に等価値に近く」という原則の具体的な適用例を示している。
(二)わが憲法上も、投票価値の平等の要求は選挙制度に関する立法府の裁量に優越す
るものと解すべきである。
すなわち、わが憲法は代議制民主国家観に基づいて制定されたものであるから、選挙にお
ける平等原則は厳格に貫かれるべきものであつて、たとえ「人口比例」原則を直接に指示
する明文が存在しなくても、これを排除する趣旨の明文が存在しない以上「人口比例」、

則が当然に妥当し、それこそが国会議貝の定数配分を律すべき基準とされなければならな
いのである。
ところで、わが憲法は、四三条、四七条において、国会議員の選挙に関する諸事項の決定
を国会に委ねる旨規定しており、
これは立法府に対して国会議員選挙の執行法律の制定を義務づけたものである。右の規定
は、一見、立法府に何らの拘束も課すことなく広汎な裁量の自由を保障するもののように
解されないでもない。しかしながら、その内容は、実に主権原理に直結する国会議員選挙
に関するものであり、国会に対しては、憲法の規範的要請としての選挙に関する諸原則に
具体的な形象を与える権限が付与されているにすぎず、したがつて、いわゆる立法裁量は
その枠内でのみ認められるにすぎないものと解すべきである。
最高裁判所昭和五八年四月二七日大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁(以下「五八年大
法廷判決」という)は、昭和五二年七月一〇日に施行された参議院議員選挙に対する選。

無効請求事件において、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投
票の有する価値の平等も憲法上要請されるものであることを認めながら、どのような選挙
制度を選択するかは国会の裁量に委ねられているから、国会が具体的に定めたところのも
のがその裁量権の行使として合理性を是認しうるものである限り、それによつて「投票価
値の平等」が損なわれることとなつても、やむをえないものと解すべきであるとし、当時
の参議院地方選出議員についての選挙の仕組みは、国会に委ねられた裁量権の合理的行使
として是認することができ、そのような選挙制度の仕組みの下では「投票価値の平等」、

要請は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れな
いと断じている。
このように国会の裁量を前面に強く打ち出す考え方は、最高裁判所昭和五一年四月一四日
(「」。)、、大法廷判決・民集三〇巻三号二二三頁以下五一年大法廷判決というが衆議院
参議院を区別することなく、各選挙人の「投票価値の平等」が憲法上の要請であることを
確認したうえで「国会がその裁量によつて決定した具体的な選挙制度において現実に投、
票価値に不平等の結果が生じている場合には、それは、国会が正当に考慮することのでき
る重要な政策的目的ないしは理由に基づく結果として合理的に是認することができるもの
でなければならないと解される」と判示したところを大きく後退させるものである。
五八年大法廷判決のように投票価値の平等は憲法の要請するところであると説きなが
ら、
立法裁量に藉口して投票価値の平等が損われてもやむを得ないとするのは、
憲法規範上の価値判断を誤つたものであり、投票価値の平等を画餅にするものといわざる
を得ない。
(三)五八年大法廷判決及びその原判決は、衆議院に対する参議院の特殊性を強調し、
各選挙区間における議員定数の不均衡の現状を是認している。
しかし、憲法は、任期の長短、解散の有無、参議院議員の半数改選、兼職禁止等の点に両
院の差を認めるものの、選挙権平等の原則の適用については、両院間に何らかの差のある
ことを是認する規定を全くおいていない。かえつて、憲法は衆議院と参議院とを区別する
ことなく、両議院を全国民を代表する選挙された議員で組織する(四三条一項)とし、一
四条、一五条のほかに四四条で議員及び選挙人の資格の平等原則を明記している。このこ
とから、憲法は二院制を採用しながら、両院の各選挙に関して適用される選挙権平等の原
則の内容については、何らの差異を認めていないことは明らかである。五一年大法廷判決
は、衆議院、参議院の区別をすることなく、各選挙人の「投票価値の平等」が憲法上の要
請であることを確認している。
したがつて、参議院の特殊性を考慮するとしても、選挙制度の選択は憲法の要求する投票
価値の平等に抵触しない範囲で認められているにすぎないものである。
(四)参議院発足当時から昭和六〇年までの人口異動は前記5のとおりである。
(1)その結果、本件選挙当時は別紙「逆転現象一覧表」記載のとおりの逆転現象、す
なわち、有権者数の少い選挙区の方が有権者数の多い選挙区よりも多くの議員定数を配置
されるという現象が生じている。なお、本件選挙後の昭和六〇年国勢調査によれば、同年
一〇月一日現在の各選挙区の議員数、人口数、議員一人当りの人口数は別紙数表7のとお
りであり、逆転現象は、本件選挙当時に比較して、埼玉に対する北海道、宮城に対する長
野が新たに加わつており、逆転現象は一層進行していることが明らかである。
このような逆転現象は、議員定数の配分の多寡という量的問題を超えて、投票価値の平等
原則が全く考慮されていない程度にまで達しており、憲法違反の状態になつているものと
いわざるを得ない。
(2)次に、マジヨリテイー・コンーロール率、すなわち当該選挙で選出される議員の
過半数を獲得するのに要する有権者の全国百分率の推移は、別紙数表8中(2)実態のマ
ジヨリテイー・コントロール率欄記載のとおりであり、
マジヨリテイー・コントロール率が三五パーセントを大きく下廻る状態が一二年を超えて
存続している。このことからも、本件定数配分規定は、本件選挙当時、すでに改正のため
憲法が容認する合理的期間を徒過していたものとして、憲法違反の評価を受けるべきもの
であるといわざるを得ない。
(3)本件選挙当時の議員総定数と有権者数に基づき、都道府県単位の選挙区を前提と
して、最大剰余法(ビントン法)といわれる配分法によつて、議員の定数配分を是正する
と、別紙数表612のとおりとなり、議員一人当りの選挙人数は選挙区間で最大一対三・
九五の較差を生じ(別表8中(3(イ)の比率欄参照、マジヨリテイ・コントロール))

は四二・六七パーセントとなる。
、、()()、、なお最大剰余法とは1全国人口もしくは有権者数を議員定数で除しqを得
(2)各選挙区人口(もしくは有権者数)をqで除し、Niを算出し(3)Niの整数、

分一Niを各選挙区に配分し一(Niが0のときは1とする(4)Niから一Niを。)、

除した教値の大きい順に残余の議度を配分する、という方法である。
(三)右のとおり、都道府県を単位とする選挙区制と偶数制を前提とする限り、逆転現
象の解消はなしえても、投票価値の平等を実現することは不可能である。この点について
は、芦部信喜教授が指摘するように「憲法は参議院の選挙については半数交代制を定め、

いるにとどまる。そしてこの半数交代制を運用していくうえで定数再配分が人口比例原則
から大きく乖離する状態になり、その是正が都道府県を単位とする地方区制をとる限り不
可能に近いのだとすれば、憲法原則である投票価値の平等を生かすために、現行制度と異
なる新しい選挙区制(たとえば関東、中部、近畿というような数県を単位とするブロツク
制)に変えるか、あるいは、それも人口比率を保ちがたく全国区制と機能的にそれほど違
、、、わない制度であるならば全く別の制度たとえば全国区一本に統一するように改めるか
とにかく立法府において選挙区改革を検討することこそ、参議院制度にとつてもつ地方区
の地域的代表的性格よりも、より強い憲法の要請だと考えるべきであろう・・・・・・。
・・・
定数再配分問題の審査にあたつて都道府県を単位とする地方区の地域代表的性格を人口比
例主義からの大きな逸脱を正当化する理由とすることは、
いわば逆立ちの論理であり適切とは言いがたいであろう(芦部「参議院定数訴訟と立。」

府の裁量」法学教室三四号一一頁以下)というべきである。
また、憲法は、選挙区毎に偶数の議員を配分しなければならないとはどこにも明文をもつ
て規定していない。各選挙区に偶数配分するか、又は奇数配分を認めたうえで全国的に半
数改選されれば可とするかは、いずれも公選法別表第二の改訂のみで足りることであり、
議員定数の是正という処理手続内ですませることは十分可能である。
7よつて、原告は、公選法二〇四条の規定に基づいて、本件選挙について原告が選挙人
である選挙区における選挙を無効とする旨の判決を求める。
二本案前の答弁の理由
別紙「本案前の答弁の理由」記載のとおりである。
三請求の原因に対する認否
1請求の原因1ないし5の事実は認める。
2同6は争う。
(1)原告は、選挙における平等主義、すなわち各選挙区の配分議員数は、実行できる
限り各有権者数に比例したものでなければならないとする人口比例主義はわが憲法上の要
請である、と主張する。
しかしながら、原告の右主張は、次のとおり、到底正当とはいえない。
(1)一般に、平等選挙制とは、選挙人の投票数の平等を意味し、信条、性別、社会的
身分、門地、教育、財産、収入等により選挙人の投票数に差別を設けてはならないとする
制度である。複数選挙制、等級別選挙制などは平等選挙制に抵触するものとして排斥され
てきたところであるが、それ以上に投票の結果価値の平等、すなわち、投票の選挙の結果
に及ぼす影響力の平等まで意味するものではない。
ところで、異なる選挙区間における投票価値の平等をも要求して国会両議院の議員定数を
選挙区別の選挙人の数に比例して配分しなければならない旨を定めた規定は憲法上存在し
ない。すなわち、一選挙区において、選挙人の投票が当該選挙区における候補者の当落と
いう結果に影響するために平等な価値を持てば、投票における価値の平等は十分に保障さ
れる。わが憲法の定める平等の原理が要請するのはここまでであり、それ以上に、他の選
挙区との比較において投票価値の平等を要請するものではない。
(2)なお、アメリカ合衆国の憲法には「代議院議員及び直接税は、連邦に加入する、

州の人口に比例して、各州の間に配分される。各州の人口とは、自由人の総数をとり、
この中には年期奉公人を含ませ、課税されないインデイアンを除外し、それに自由人以外
のすべての人数の五分の三を加えたものとする。人口の算定は、合衆国連邦議会の最初の
集会から三か年以内に行い、その後一〇年毎に法律の規定に従つて行うものとする。代議
院議員の数は、人口三万人に対し一人の割合を超えることはできない。ただし、各州は少
くとも一人の代議院議員を持つことを要する・・・・・・・・・」とする一条二節三項。

規定及び「代議院議員は、各州の人口に比例して、各州の間に配分される。課税されない
インデイアンを除いた総人口を各州の人口とする。しかし、もし合衆国大統領並びに副大
統領の選挙委員の選任、連邦議会代議員、各州の行政官並びに司法官、もしくはその州議
会の議員の選挙に際して、いずれかの州が自州の住民たる男子中、年齢二一歳に達し、か
つ、合衆国市民たる者に対し、叛乱の援助又はその他の犯罪によるのではなくして、投票
の権利を拒み、又は何らかの形で制限する場合には、その州より出す代議院議員の数は、
これらの男子市民の数とその州における二一歳以上の男子市民の総数との割合に準じて、
減少される」とする修正一四条二節の規定があるので、アメリカ合衆国の連邦最高裁判。

が原告指摘の各判決の中で人口比例の原則をアメリカ合衆国の憲法上の要請である旨判示
したのは当然のことである。わが憲法は単に「両議院の議員の定数は、法律でこれを定め
る(四三条二項ごと規定するにとどまるので、右アメリカ憲法の考え方をそのまま当ては
めることはできない。ちなみに、アメリカ憲法で人口比例原則が採用されているのは下院
(代議院)の議員についてだけであり、上院(元老院)の議員については、各州から二名
、(、)。ずつ選出するものとされ人口比例原則は採用されていない一条三節一項修正一七条
(二)そもそも、両議院議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定は、憲法上国会の広範
な裁量に委ねられているのであり(四三条二項、四七条、国会がその具体的決定にあた)
り、
異なる選挙区間における投票価値の平等、すなわち、人口比例主義をどの程度まで考慮す
るかは、専ら国会が独自に決定すべき立法政策の問題である。それ故、国会は、正当に考
慮することができる他の政策的目的ないし理由をも斟酌したうえ、その裁量により両議院
議員の各選挙制度の仕組みを具体的に決定するのであつて、
国会の定めたものが、その裁量権の行使として合理性を有する限り、たとえ異なる選挙区
間における投票価値の平等、すなわち、人口比例主義に一定の制約が付される結果になつ
たとしても、それは憲法自身の容認するところであるというべきである。国会両議院の議
院定数を選挙区別の選挙人の数に比例して配分することは、法の下の平等という憲法上の
原則からいつて望ましいことであるが、それは望ましいというにとどまり、そこから違憲
の問題を生ずることはない。
(三)原告は、いわゆる逆転現象が生じていることを強調するが、仮に、本件定数配分
規定につき、公選法制定時に採用されたという方法で機械的に定数配分を改訂しても、そ
れのみでは原告主張のような選挙区間の形式的平等の確保は不可能である。すなわち、別
紙数表8中(2(イ)欄・昭和五八年欄から明らかなように、昭和五八年当時の有権者)

を検討すると、有権者最多の東京は最少の鳥取の約一九倍にもなつており、仮に原告主張
のような選挙区間の形式的平等の確保が必要ということになれば、鳥取の議員数が二名な
ら東京は三八名、鳥取が一名なら東京は一九名としなければならないことになる。このよ
うなことは技術的に不可能であるばかりでなく、単に人口の大小でこれほどの議員数の格
差を設けるのはかえつて不合理と考えられるのである。
また、参議院発足当初の議員一人当りの人口は、鳥取は二七万八七一四人、宮城は七三万
一〇五〇人であり、その比率は一対二・六二であつて、当初から原告主張のような選挙区
間の形式的平等なるものは存在しなかつたのである。
要するに、公選法制定時に用いられたという定数配分方法は、あくまでもその当時におけ
る立法府の裁量で一つの合理的方法と考えられて採用されたにすぎず、憲法自体の要請に
基づくものではなかつたのであるから、その後の人口異動の結果原告指摘のような逆転現
象が生じたからといつて、立法論はともかくとして、そのことによつて直ちに憲法違反と
いう問題が生じる余地は全くない筈のものである。
第三証拠関係(省略)
○理由
第一本件訴えの適法性について
一本件選挙が本件定数配分規定に基づいて施行されたこと、原告が本記選挙の東京都選
挙区の選挙人であつたことは、当事者間に争がない。また、本件選挙当時において原告の
属する東京都の参議院(選挙区選出)議員の定数は八人、
東京都の有権者数は八四一万六〇九三人であり、全国の参議院(選挙区選出)議員の定数
は一五二人、全国の有権者数は八三六八万二四一六人であつたことは、当事者間に争いが
ない。したがつて、本件選挙当時において原告の属する東京都の参議院(選挙区選出)議
員一人当りの有権者数は一〇五万二〇一一・六人で全国平均の参議院(選挙区選出)議員
一人当りの有権者数五五万〇五四二・二人の約一・九一倍であり、原告主張のように投票
価値の平等を尊重する見地から議員定数配分の是正を行つた場合には、右選挙区に配分さ
れる議員数が本件選挙の際のそれと異なつたものになる可能性があるから、本件訴訟提起
については法的利益が存するものというべきである。
本件訴えが公選法二〇四条所定の選挙の日から三〇日の期間内に提起されたものであるこ
とは、本件記録上明らかである。
二被告は本件訴えは不適法であると主張するので、右主張について判断する。
1被告は、本件訴えは公選法二〇四条が規定する選挙無効の訴えの範ちゆうに入るもの
ではなく、不適法である、と主張する。
公選法二〇四条は、選挙規定の有効を前提とし選挙の管理執行上の瑕疵があつた場合に当
該選挙を無効とするための訴訟を予定して規定されており、同条に定める訴訟の被告が選
挙管理委員会とされていることや、訴訟の結果当選人がなくなつたなどの場合の再選挙に
関する規定(同法一〇九条、三四条)の存在することなどに照らすと、選挙規定自体の違
憲、無効を理由として選挙の効力を争う場合までをも予想して規定されたものでないこと
は明らかである。
しかし、およそ国民の基本的権利を侵害する国権行為に対しては、できるだけその是正、
救済の途が開かれるべきであるという憲法上の要請に照らして考えると、選挙規定に基づ
く単なる管理執行上の瑕疵以上に重大な瑕疵というべき選挙規定それ自体の違憲、無効を
理由とする無効の訴えが前記規定の許容する範囲外であり、かつ、そのような訴えを許容
すべき実定法規が存在しないことを理由としてその訴えの提起を許されないとすること
は、
決して当を得た解釈ということはできない。衆議院議員定数配分規定そのものの違憲、無
効を理由とする選挙の効力に関する訴訟が公選法二〇四条の規定に基づく訴訟として許さ
れることは夙に最高裁判所の判例(昭和五一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二
二三頁、
同五八年一一月七日大法廷判決・民集三七巻九号一二四三頁、同六〇年七月一七日大法廷
判決・民集三九巻五号一一〇〇頁)とするところであり、参議院議員定数配分規定につい
てもこれと別異に解すべき理由はないから、被告の右主張は採用することができない(昭
和三九年二月五日大法廷判決・民集一八巻二号二七〇頁、昭和五八年四月二七日大法廷判
決・民集三七巻三号三四五頁は、参議院議員定数配分規定に関して、かかる訴訟が許され
ることを前提とにている。。)
2更に、被告は、国会議員の選挙区定数をいかに定めるかは高度の政治問題に属し、立
法府が自ら解決すべきものであるから、定数配分規定の効力判定は司法審査に親しまず、
また、仮に裁判所がその是非を判断しうるとしても、裁判所は違憲の限界を示す明確な基
準を持ち合わせておらず、そのうえ違憲として選挙を無効としてみたところで、新たな立
法措置が講じられない限りその是正は不可能であるから、本件訴えは不適法である、と主
張する。
しかし、右定数を国会がいかに定めるかについては諸々の政治的判断がなされるべきこと
は否定できないが、定数配分規定が合理性を欠く場合においても司法審査を排除する程高
度の政治性を有するものとは解しえず、違憲の限界の基準は「公序良俗「権利濫用」」、

どの一般条項の場合と同様に判例の集積により次第に明確にされるべきものであり、国会
が適切な対応をしないことを理由に選挙規定自体の違憲、無効を理由とする選挙無効の訴
えの提起が許されないものとするのは本末転倒である。したがつて、被告の右主張は採用
することができない。
3そうすると、本件訴えは適法なものというべきである。
第二本案について
一議会制民主主義を採るわが憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成す
る衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基
本的権利であつて、憲法は、その重要性にかんがみ、一四条一項の定める法の下の平等の
、、、原則の政治の領域における適用として成年者による普通選挙を保障するとともに人種
信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて選挙人の資格を差別しては
ならないものとしている(一五条三項、四四条。そして、この選挙権の平等の原則は、)

に選挙人の資格における右のような差別を禁止して選挙権行使の平等を保障するにとどま
らず、
選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票が選挙の結果に及ぼす
影響力においても平等であること(投票価値の平等)をも保障することを要求するものと
解するのが相当である。
しかしながら、投票価値の平等は、必ずしも絶対的なものではなく、憲法は、国会両議院
の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制
約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべき
ものとし(四三条、四七条、どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果)

に国会に反映させることになるかの決定を国会の広い裁量に委ねている。それゆえ、憲法
は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としている
ものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をも斟酌
して、その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決
定することができるのであつて、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使
として合理性を是認しうるものである限り、それによつて右の投票価値の平等が損なわれ
ることとなつてもやむを得ないものと解するのが相当である(前記昭和五一年四月一四日
大法廷判決、昭和五八年四月二七日大法廷判決参照。)
二公選法は、参議院議員の選挙については、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする
選挙制度の仕組みを設け、昭和五七年法律第八一号による改正前は、参議院議員を全都道
府県の区域を通じて選挙される全国選出議員と都道府県を単位とする選挙区において選出
(、、、、)。される地方選出議員とに区分していた四条二項一二条一項二項一四条別表第二
そして、右地方選出議員の各選挙区ごとの議員定数を定めた参議院議員定数配分規定は、
昭和四六年法律第一三〇号沖縄の復帰に伴う関係法令の改廃に関する法律により沖縄の復
帰に伴い新たに同県の地方選出議員の議員定数二人が付加されたほかは、参議院議員選挙
法(昭和二二年法律第一一号)別表の定めたものであり、その制定経過に徴すれば、憲法
()、が参議院議員は三年ごとにその半数を改選すべきものとしている四六条ことに応じて
各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるよう配慮し、総定数一五二人
のうち最小限の二人を四七の各選挙区に配分した上、
残余の五八人について人口を基準とする各都道府県の大小に応じてこれに比例する形で二
人ないし六人の偶数の定数を付加配分したものであることが明らかである。昭和五七年法
律第八一号による改正により、全国選出議員は比例代表選出議員に、地方選出議員は選挙
区選出議員にそれぞれ改められたが、前記別表第二は改正されていない。また、衆議院議
「、、員の定数配分規定である公選法別表第一には本表はこの法律施行の日から五年ごとに
直近に行われた国勢調査の結果によつて、更正するのを例とする」との添書があるのに。

して、本件議員定数配分規定には右のような添書はない。
公職選挙法が参議院議員の選挙の仕組みについて右のような定めをした趣旨、目的は、結
局、憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し、各議院の権限及び議員
の任期等に差異を設けているところから、参議院が衆議院のカ−ボンコピーと化すること
のないように、参議院議員については衆議院議員とはその選出方法に差異を設けることに
よつてその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、衆
議院議員に関しては人口比例を第一原則として定数配分をしたのに対して、参議院議員に
関しては、これを比例代表選出議員と選挙区選出議員とに分ち、前者については、徹底し
た投票価値の平等を図る反面、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、
社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうる
ことに照らし、地域代表的性格を加味しようとしたものであると解することができる。
原告は、憲法一四条、一五条、四三条一項、四四条但書の規定は、選挙区選出議員の議員
定数の各選挙区への配分についても厳格な人口比例主義を基準とすべきことを要求するも
のであり、右のように地域代表の要素を反映した定数配分は憲法の右規定に違反する旨主
張する。しかし、参議院議員の半数改選制は憲法四六条の要請するところであり、各選挙
区に最低二名の定数を配分するのが適切であるため、前記のとおり、総定数一五二名中九
四名(四七選挙区各二名)を除いた五八名が人口比により配分されうるにすぎず、右五八
名を偶数で人口比により配分すべきこととなり、人口異動が激しく、過疎地、過密地の人
口差が著しくなつた現在、人口比例の原則を貫くことは技術的にも極めて困難であること
を認めざるを得ない。
このことは、人口比例を志向する原告の試案(別紙数表6ー2)においても、なお四・〇
四対一という較差(別紙数表8中(3(イ)の比率欄の昭和五八年欄)が残ることから)

明らかである。
以上述べたような参議院の特殊性、都道府県の有する意義、参議院選挙区選出議員の地域
代表的性格、定数配分について人口比例の原則を貫くことの技術的困難性等を総合勘案す
ると、公選法が参議院議員の選挙について定めた前記のような選挙制度の仕組みは、合理
性を欠くものとはいえず、国会の有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を
逸脱するに至つているものと断ずることはできない。
三ところで、第六回、第九回、第一一回、第一三回(本件選挙)の各参議院議貝選挙当
時の有権者数が別紙数表3ないし6記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
右事実によれば、選挙区間において議員一人当りの選挙人数の最大較差は、別紙数表8
(2)
(ロ)の比率欄)のとおり、四・〇九対一(昭和三七年、五・〇八対一(昭和四六年、))
五・二六対一(昭和五二年、五・五六対一(昭和五八年)と順次拡大していることが認)

られ、また、本件選挙当時の有権者数が別紙数表6記載のとおりであることは当事者間に
争いがなく、右事実によれば、別紙逆転現象一覧表記載のとおり、有権者数の少い選挙区
の方が有権者数の多い選挙区よりも議員定数が多いといういわゆる逆転現象が一部の選挙
区の間に生じていることが認められる。
しかしながら、公選法制定後の人口異動によつて、選挙区間における議員一人当りの選挙
人数の較差が拡大し、一部の選挙区の間において逆転現象が生じたとしても、その故に直
ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下
において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認め
られる程度の投票価値の著しい不平等を惹起に、かつ、それが相当期間継続して、このよ
うな不平等状態を是正する何らの措置をも講じないことが国会の立法裁量権の限界を超え
ると判断される場合に、初めて議員定数配分規定が憲法に違反するものと解すべきである
(前記最高裁判所昭和五八年四月二七日大法廷判決参照。)
これを本件についてみるに、
右大法廷判決において国会の立法裁量権の許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著
しい不平等状態が生じていたとするには足りないとされた昭和五二年七月一日の第一一回
参議院議員選挙当時の選挙区間における議員一人当りの選挙人数の最大較差五・二六対一
は、本件選挙当時までに五・五六対一に拡大され、かつ、本件選挙当時にも逆転現象が一
部の選挙区において見られたとはいえ、なお右先例における選挙当時と大きく異なるとこ
ろがあるとはいえない(最高裁判所昭和六一年三月二七日第一小法廷判決は、選挙区間に
おける議員一人当りの選挙人数の較差五・三七対一の状態における昭和五五年六月二二日
施行の第一二回参議院議員選挙当時の議員定数配分規定を合憲とした大阪高等裁判所昭和
五七年九月二八日判決・行集三三巻九号一九〇〇頁の判断を是認している。したがつ。)
て、
将来右の較差が更に拡大し、当該選挙制度の仕組みの下においても到底看過することがで
きないものと認められる程度にまで投票価値の著しい不平等を惹起し、かつ、その状態を
相当期間放置したことが国会の立法裁量権の限界を超えると判断される場合は格別とし
て、
本件選挙当時においては、まだ本件定数配分規定が憲法一四条一項、一五条一項ないし三
項、四三条一項、四四条但書に違反するに至つていたものということはできず、したがつ
、。て本件議員定数配分規定の下に執行された本件選挙をもつて違憲とすることはできない
四よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担
について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条、九四条を各適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官川添萬夫佐藤榮一篠田省二)
補助参加人目録(一)∼(五(省略))
本案前の答弁の理由
一はじめに
本件訴訟は、訴状で明かなように、公職選挙法(以下「公選法」という)二〇四条を根。

とする選挙無効の訴えであり、その主張の骨子は、昭和五八年六月二六日に行われた参議
院(選挙区選出)議員選挙は公選法一四条、別表第二による選挙区及び議員定数の定めに
従つて実施されたが、右による選挙区別定数は「平等選挙に係る憲法原則」に反し違憲で
あるから、右選挙は無効である、というものであり、原告は右以外には右選挙の無効事由
を主張していない。
このような訴訟は、以下に述べるとおり、不適法な訴えであるから、
却下を免れないものである。
ニ1公選法の「選挙訴訟」の法的意義
選挙の効力に関する訴訟(公選法二〇三条ないし二〇五条)は、選挙の管理執行機関の公
選法規に適合しない行為を是正し、選挙の執行の公正の維持を目的とする典型的な民衆訴
訟(行政事件訴訟法五条は、当該選挙区の有権者が、選挙人の資格で提起する選挙の効力
に関する訴訟を、まさに民衆訴訟の代表的な実例として、摘示しているとみることができ
る)であるから「法律に定める場合において、法律に定める者に限り提起することが。、

きる(行政事件訴訟法四二条)ものであつて、それ自体当然に、個人の具体的権利義務」

関するいわゆる「法律上の訴訟」として司法権の範囲に属するものではなく、法律におい
て特に定められた場合に、裁判所の権限として裁判所に付与されるところの特別の訴訟な
のである(裁判所法三条一項。)
しかも、右訴訟の性格上、裁判所の権限は、一般の民事、刑事、行政事件訴訟に関する司
法本来の裁判権に比較して特に狭く限定されているものである(田口精一・議員定数の「

均衡是正と選挙訴訟」法学研究五〇巻一号七七ページ以下参照。)
2本件訴訟の公選法上の問題点
(一)右のように公選法の予定する参議院議員の選挙の効力に関する訴訟は、公選法二
〇四条による場合のみであつて、現行法体系の下においては、同条による以外の方法の選
挙訴訟の提起は許されていないのである。しかも右許された訴訟においても裁判所は、公
選法二〇五条によつて、当該選挙が「選挙の規定に違反」し、かつ「選挙の結果に異動を
及ぼす虞がある場合に限り」選挙の全部又は一部の無効を判決することができるに過ぎな
いのである。
そして、ここでいう選挙の無効原因である「選挙の規定」違反とは選挙の管理執行に関す
る手続規定に違反した場合のほか、明文の規定に違反しなくても、選挙の自由公正が著し
く阻害された場合も含むとされているが、いずれにしても、裁判所に対する訴えが、選挙
法規の違反とそれが選挙の結果に影響を及ぼすおそれがあることを理由に、当該選挙の無
効を争う限度においてのみ許されるものである。
()、、()二しかも現行法の予定する訴訟は民衆訴訟としての本質行政事件訴訟法五条
及び公選法の規定(一〇九条)の解釈からして、選挙法規及びこれに基づく選挙の当然無
効を確定する趣旨のものではなく、
選挙管理委員会が法規に適合しない行為をした場合にその是正のため当該選挙の効力を失
わせ、改めて再選挙を義務づけるところにその本旨があるのであつて、右訴訟で争い得る
「選挙の規定違反」も、当該選挙区の選挙管理委員会が、選挙法規を正当に適用すること
により、その違法を是正し適法な再選挙を行いうるもの(当該選挙管理委員会の権限に属
する事項の規定違反)に限られるのである。したがつて、同委員会においてこれを是正し
適法な再選挙を実施することができないような議員定数配分規定自体の違憲を主張して選
挙の効力を争うことは到底許されないというべきである(最高裁昭和五一年四月一四日大
法廷判決・民集三〇巻三号二二三ページ)以下「大法廷判決」という)におけるJ裁判。

の反対意見、同昭和五八年四月二七日大法廷判決におけるK裁判官の反対意見、田口精一

前掲論文等参照。)
(三)また、公選法二〇四条の訴訟によつて選挙が無効とされた場合の再選挙はこれを
行うべき理由が生じた日から四〇日以内に行わなければならず(公選法一〇九条四号、三
四条一項、しかも再選挙の期日は、少なくとも二三日前に告示しなければならない(同)

三四条二号。仮に、議員定数配分規定の違憲無効を理由として選挙が無効とされて再選)

を行う場合には、違憲無効とされた定数配分規定に基づいて再選挙を行うことは許されな
いので、まず右配分規定の改正を行わなければならないことになる。しかし、議員定数の
配分の是正そのものは種々の政治的利害の対立を伴う極めて困難な問題であるから、わず
か一七日間でその改正を行うことは事実上不可能であり、選挙管理委員会としては、同規
定が立法府において改正されるまで再選挙を延期せざるを得ないこととなる。
しかし、前述のとおり、選挙管理委員会は、公選法により、四〇日以内に再選挙を行う義
務を負つているところ、配分規定が違憲無効であるとの点についての判決の拘束力(行政
事件訴訟法四三条一項、三三条一項)に従う限り同法三四条一項の規定に違反せざるを得
ず、他方、右規定に従おうとするときは、違憲無効な定数配分規定に基づいて再選挙を行
うことを余儀無くされるので、判決の拘束力を無視せざるを得ないというジレンマに陥る
こととなるのである。
この場合、選挙管理委員会としては、
違憲無効とされた定数配分規定に基づいて再選挙を行うことは違法な選挙を繰り返すこと
となつて不合理であることが明らかであるから、結局定数配分規定が憲法に適合するよう
に改正されるまで再選挙を延期せざるを得ないことになると思われるが、その場合には、
その間、国権の最高機関の一部の存立を否定する結果になり、国権の最高機関たる国会の
正常な運営が著しく阻害されることとなる(最高裁昭和三九年二月五日大法廷判決・民集
一八巻二号二七三ページ以下のL裁判官の意見、同昭和四一年五月三一日第三小法廷判
決・裁判集民事八三号六三二ページ以下のM裁判官の意見等参照。このため、裁判所の)

う議員定数配分規定の違憲無効の判断は選挙の結果に異動を及ぼさない場合に該当すると
の見解もあるくらいである(芦部信喜・憲法訴訟の理論」二〇二ページ以下参照。「)
(四)以上(一)ないし(三)においてるる検討した本件訴訟に関する公選法上の諸々
の問題点は、究極のところ、現行公選法が、本件のような訴訟を到底予定していないとこ
ろから生じてくるのであつて、公選法の諸規定を全く無視することとなる本件のような訴
訟は不適法なものである。
しかも、本件訴訟において原告が真に意図するところは、公選法の予定している当該選挙
区の選挙を無効として再選挙の施行を求めることを直接の目的とするものではなく、むし
ろ、裁判所の判決による影響力を通じて、公選法の改正をしなければならないところへ立
法機関を追い込むことにあるというべきであつて、形式的には訴訟の形態を採るものの、
その実体は、裁判所に対する出訴を媒介として、立法機関に対して法律の改正を迫る政治
行動として理解すべきものである点に留意しなければならない。
(五)結び
以上のとおり、議員定数配分規定自体の違憲、無効を主張する訴訟は、現行法体系の規定
の仕方、民衆訴訟の本質から、公選法二〇四条の拡張解釈をしてもその限界を超えるもの
として、同法によつては許容されないものというべきである。
なお、大法廷判決は、本件のような訴訟につき、公選法二〇四条に基づく出訴を容認し、
その理由づけとして「右訴訟において議員定数配分規定そのものの違憲を理由として選挙
の効力を争うことはできないのではないか、との疑いがないではない」としつつも「公。、
選法の規定が、その定める訴訟において、
同法の議員定数配分規定が選挙権の平等に違反することを選挙無効の原因として主張する
ことを殊更に排除する趣旨であるとすることは、当を得た解釈ではないとした。」
しかしながら、大法廷判決の右のような考え方は、公選法二〇四条の立法目的、立法の趣
旨に反するもので到底正当とはいい難い。すなわち、前に述べたとおり、選挙訴訟は、典
型的な民衆訴訟であつて「法律に定める場合において」のみ提起できるのであるから、、

律の規定のない以上訴訟の提起の道はなく、法律が新たにこれを認める特別の争訟制度を
採用しない限り、不適法なものとして却下されるべきなのである。裁判所が国民の期待に
応ずるといつても、それは法定の権限に基づき、その範囲においてのみなし得ることであ
つて、これを踏み越えることは、かえつて国民の真の期待と信頼に反することになる。三
権分立の原理は、司法の逸脱、独走を許すものではなく、司法権の独立を容認しつつも法
治主義を基本とする法治国家原理にとつてかわるものでないことを銘記しなければならな
い(田口精一・前掲論文参照。)
三本件訴訟を司法権の対象としない理由
−アメリカ、西ドイツの裁判制度との対比において−
1そもそも、本件のような事態に対して、現行法上、救済手段が存在しないことについ
ては、それなりの正当理由がある。
すなわち、参議院議員定数配分規定の問題は、元来、高度の政治的、技術的要素が絡むも
のであるから、本来的に立法による解決が期待され、司法もこれを尊重し、自己抑制作用
の強く働く分野である。更にわが国における伝統的な司法制度及び現在の裁判所の権限か
ら選挙訴訟制度をみるに、法律は、裁判所がこの問題に立ち入ることを回避すべきである
としたものと思われるのである。
2(一)西ドイツの連邦選挙法、更にはアメリカにおいては、議員定数配分規定の違憲
無効を理由とする選挙訴訟が認められ、裁判所も憲法判断を行つている。しかし、以下の
とおりこれら諸外国の選挙訴訟制度は、わが国のそれとは根本的に異なるのであるから、
これらの国において是認されているとの理由によつて、直ちにわが国の裁判制度において
。、もこの種の訴訟が是認されて然るべきであるということにはならないのであるすなわち
わが国における選挙訴訟は既に施行された選挙の効力を争い、再選挙の実施を求めるもの
であつて、
裁判所の権限も無効を宣言するにとどまるものである。
(二)しかるに、まずアメリカにおいては、いわゆる配分法(議員定数、選挙区割等を
)、、、定めているの効力を裁判所において争うことができるがこの場合出訴者たる原告は
具体的な選挙と関係なく配分法の規定自体の合憲、違憲を争うことができ、このため、裁
判所は、いわゆる職務執行命令や差止命令等の衡平法上の救済権限を与えられている。し
たがつて出訴者は当該配分法によつて行われた選挙の効力を争うのではなく、配分法自体
の無効宣言とその定めに従つて行われる次の選挙を阻止するための差止命令を訴求するの
が通常である。しかもその救済方法は極めて弾力的であつて、例えば、現行の議員定数配
分を違憲と判断した場合においても、その定数配分によつて選出され現に議員である者の
地位を奪うことはほとんどなく、違憲とされた当該定数配分によつて次の選挙が行われる
ことを禁止するにとどまる。そして、仮に次の選挙が差し迫つているときは、違憲とされ
た定数配分による選挙を許すとともに、違憲とされる選挙によつて選出された議員の任期
を制限し、更にはそれら議員による議会の権限を定数配分のための立法措置を講ずること
に限定することもできるのである。あるいはまた右のように救済の延期を許さないで裁判
所が自ら配分表を定め、それによつて選挙を行うことを命ずることさえできるとされてい
る(田中和夫・アメリカにおける議員定数の是正と裁判所」ジユリスト五三二号七八ペ「

ジ以下参照。)
(三)次いで西ドイツにおいては、連邦選挙法において、選挙区の平均人口の差が、多
くても少なくても三分の一を超えてはならないとの実体法上の客観的基準が明定されてい
る(同法三条三項。そして、現実の定数配分が同法に違反し、更には違憲でもあると選)

、、、、、人が考えた場合選挙人は連邦憲法裁判所法に基づきこの種定数配分の違憲無効を
いわゆる憲法訴願手続の中で、争うことができるのであるが(同法九五条一項、なお連邦
憲法裁判所一九六三年五月二二日第二部決定、BverfGE16、130参照。その)

合、当該定数配分が、連邦選挙法ないし基本法に違反すると連邦憲法裁判所が認めれば、
同裁判所は同配分が基本法を侵犯している旨確認することができるのである(同法九五条
一項。そして、ラント選挙法が、連邦選挙法に違反し、)
連邦選挙法が基本法に違反するなど法律が基本法等に違反するとの憲法訴願が認容される
場合には、当該法律の無効も宣言できるのであり(同法九五条三項、その場合、右無効)

言は法律的効力を有する旨、明定されている(同法三一条二項、一三条八号a。このよ)

に西ドイツにおける選挙訴訟制度は、あらかじめ明文の規定によつて、実体法上、違憲か
どうかの判断基準が設定されている上、手続法上その訴訟の方式、判決(決定)の効果等
も定められているのである。しかも、解釈論としては、連邦憲法裁判所は、連邦憲法裁判
所法三五条に基づき、新しい選挙法を作成し、新しい選挙を施行することも可能であると
されているのである(野中俊彦・西ドイツにおける違憲判決の方法」公法の理論上一〇「

ページ以下参照。)
以上のごとくこれら諸外国においては、我が国とは異なり、この種の選挙訴訟が制度的に
認められているものである。
四本件訴えは次の事由に基づいても却下を免れない。
本件の如き訴えは立法府で独自に解決すべきものであり、司法はその判断を抑制しこれを
却下しなければならない。
1本件における選挙人の投票価値の不平等とは要するに選挙区別定数の不均衡をさして
、、、いるものであるところ選挙区別定数をどうするかは単なる数字の操作の問題ではなく
政治のあり方を規定し、政治の根幹に関わるものであつて、それは常に政党並びに国民の
、、真撃な関心事であり高度の政治問題として立法府が自ら解決すべき筋合の問題であつて
憲法上も立法府にその解決が委ねられているものである。
(一)憲法八一条は、具体的訴訟事件につき裁判所に違憲立法審査権を認めているが、
三権分立が憲法の原則である以上その審査権には自ずから限界があり、立法府自らの解決
が要請される高度の政治問題については立法府の専権事項として司法判断が不適合とされ
ている。この点については既にいわゆる砂川判決等において判例上も認められているとこ
ろである。
(三)憲法一五条、同四一条ないし四四条及び四七条は、国会議員の定数、選挙人並び
に被選挙人の資格、選挙区及び投票の方法等選挙制度に関することはすべて法律の定めに
よるとし、選挙権被選挙権の資格につき人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財
産又は収入によつて差別してはならないと規定しているにとどまり、選挙権の内容につき
特段の定めをしてはいない。
このような憲法の規定ぶりからすれば、右のような議員定数の配分の仕方をすることは、
法の下における平等という憲法の原則からいつて望ましいことであるが、それは望ましい
というにとどまると解すべきものである(昭和五八年四月二七日最高裁判所大法廷判決に
おけるK裁判官反対意見参照。)
(三)勿論憲法一四条に基づく平等条項が存在し、選挙権等についても基本的にはその
平等な行使が十分尊重せられねばならないが、選挙制度は、国の政治の根幹に係わる問題
なので、政局の安定を図りながら、しかも少数意見をも国政に適正に反映せしめ得るよう
な代表制度を、その国民を代表する国会議員によつて確立させることとした方がより望ま
しいため、選挙制度全般を立法府の裁量権限としたものである。従つて、各政党間の利害
が最も厳しく対立するところでもあるけれども、国会は、右憲法の要請に応え複雑な諸要
素を総合調整し公正かつ効果的な代表制度を定めなければならないことはいうまでもな
い。
(四)現行の公選法の規定も右の趣旨を踏まえ国会において総合的調整の結果定められ
ているものと考えられ、単なる数字的格差のみを原因として安易に改正することは適当で
なく、また、現実問題として政党間の利害対立により一朝一夕に改正が行われ得ることは
考えられない。従つて、選挙制度の改正は、一定の年月をかけて慎重な検討を行い諸要素
を総合的に調整しながら国会により漸進的な解決を図ることが現実的に最も妥当な方策と
いうべく、立法政策の当否につきその違憲性を云々すべき筋合のものではない。
2また、立法府にその解決が委ねられている事項につき、仮りに、裁判所が違憲判断を
なし得るとしても、その為には少なくとも裁判所にその判断の為の明確な基準が存し、か
つ、その判断に適合する実効性が保障されているという要件が充足される場合に限られる
ものと考える。本件の如き選挙区別定数の不均衡の是正は前述した如く憲法上立法府にそ
の解決が委ねられており、仮りに、裁判所がその是非を判断し得るとしても、裁判所はそ
の違憲の限界を示す明確な基準を持ち合せておらず、その上違憲として選挙を無効として
みたところで、新たな立法措置が講じられない限りその是正は不可能なことである。従つ
て、法改正がなされない限り折角の裁判所による選挙無効の判断も、単なる宣言効にとど
まり、その是正の為には全く効果がなく、
かえつて選挙の無効を宣言した結果本来定数不足として増員が認められるべき選挙区につ
きその代表を失わしめるという結果が招来され、かくなつてはかかる請求を認めた意義が
全く没却されてしまうのであつて、この点から考えても、本件の如き訴えは司法審査不適
合としてその司法判断を抑制し訴えを却下すべきものである。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛