弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人金原藤一、同亀井忠夫の上告趣意第一点について。
所論は、原判決が本件「酒酔い鑑識カード(別紙参照。以下「鑑識カード」」、
という)の証拠能力を認めた点は、憲法三七条二項に違反するというのである。。
「」、、、、本件鑑識カードを見るにまず被疑者の氏名年令欄に本件被告人の氏名
年令の記載があり、その下の「化学判定」欄は、赤羽警察署巡査Aが被疑者の呼気
を通した飲酒検知管の着色度を観察して比色表と対照した検査結果を検知管の示度
として記入したものであり、また、被疑者の外部的状態に関する記載のある欄は、
同巡査が被疑者の言語、動作、酒臭、外貌、態度等の外部的状態に関する所定の項
目につき観察した結果を所定の評語に印をつける方法によつて記入したものであつ
て、本件「鑑識カード」のうち以上の部分は、同巡査が、被疑者の酒酔いの程度を
判断するための資料として、被疑者の状態につき右のような検査、観察により認識
した結果を記載したものであるから、紙面下段の調査の日時の記載、同巡査の記名
押印と相まつて、刑訴法三二一条三項にいう「検証の結果を記載した書面」にあた
るものと解するのが相当である。つぎに、本件「鑑識カード」のうち「外観による
判定」欄の記載も、同巡査が被疑者の外部的状態を観察した結果を記載したもので
あるから、右と同様に、検証の結果を記載したものと認められる(もつとも、同欄
には、本来は「酒酔い「酒気帯び」その他の判定自体が記載されるべきもので」、
あろう。もしその趣旨における記載がなされた場合には、その証拠能力は、別に論
ぜられなければならない。しかし、本件「鑑識カード」のうち被疑者との問答。)
の記載のある欄は、同巡査が所定の項目につき質問をしてこれに対する被疑者の応
答を簡単に記載したものであり、必ずしも検証の結果を記載したものということは
できず、また、紙面最下段の「事故事件の場合」の題下の「飲酒日時」および「飲
」、、酒動機の両欄の記載は以上の調査の際に同巡査が聴取した事項の報告であつて
検証の結果の記載ではなく、以上の部分は、いずれも同巡査作成の捜査報告書たる
性質のものとして、刑訴法三二一条一項三号の書面にあたるものと解するのが相当
である。
以上のごとく、本件「鑑識カード」は、被疑者との問答の記載のある欄ならびに
「飲酒日時」および「飲酒動機」の両欄の記載部分を除いて、刑訴法三二一条三項
「」、、にいう検証の結果を記載した書面にあたるものと解するのが相当でありまた
このように解しても憲法三七条二項に違反するものではないことは、当裁判所昭和
二三年(れ)第八三三号同二四年五月一八日大法廷判決(刑集三巻六号七八九頁)
の趣旨に徴して明らかである(なお、当裁判所昭和三五年(あ)第八八七号同年九
月八日第一小法廷判決・刑集一四巻一一号一四三七頁参照。それゆえ、第一審裁)
判所が、本件「鑑識カード」を証拠とするにつき弁護人の同意がなかつたので、検
察官の請求に基づき、公判期日において作成者A巡査を証人として尋問し、それが
真正に成立したことについての供述を得たうえ、本件「鑑識カード」を取り調べ、
かつ、判決において犯罪事実認定の証拠に供し、原判決がこれを是認したことは、
そのうち被疑者との問答の記載のある欄ならびに「飲酒日時」および「飲酒動機」
の両欄の記載部分を除いて、その結論においては、正当といわなければならない。
つぎに、本件「鑑識カード」のうち被疑者との問答の記載のある欄ならびに「飲
酒日時」および「飲酒動機」の両欄の記載部分は、前示のとおり、刑訴法三二一条
一項三号の書面にあたるものと解するのが相当であるから、第一審裁判所が同号所
定の事由がないのに右部分を取り調べて証拠に掲げたのは、右部分に関するかぎり
刑訴法三二〇条一項に違反したものであり、原判決も、これを是正しなかつたもの
。、、、、であるしかし右部分自体は本件の争点に直接関係のある証拠ではなくかつ
第一審において作成者A巡査が証人として尋問され、もし被告人または弁護人にお
いて右記載部分について不服があれば反対尋問を行なう機会が与えられたことにか
んがみれば、第一審および原審の右措置は、いまだ憲法三七条二項に違反するもの
とは認められないこと、前示当裁判所昭和二四年五月一八日大法廷判決の趣旨に徴
して明らかである(なお、第一審および原審の右法令違反は、いまだ各判決に影響
を及ぼすものとは認められない。。)
以上の次第であるから、憲法違反の所論は、理由がない。
同第二点および第三点について。
所論のうち判例違反をいう点は、所論引用の当裁判所昭和三三年四月一〇日第一
小法廷決定(刑集一二巻五号八七七頁)は、本件と事案を異にして適切ではなく、
その余は、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、すべて刑訴法四〇五条の上
告理由にあたらない。また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは
認められない。
、、、。よつて同法四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する
昭和四七年六月二日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官村上朝一
裁判官色川幸太郎
裁判官岡原昌男
裁判官小川信雄
<別紙は省略>

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