弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人高田照市、同田中正人の上告理由のうち、従前の歩合給の計算方法は、
被上告人らの労働契約の内容になっておらず、本件タクシー運賃の改定後は上告会
社及び被上告人らを拘束しなくなったとする点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができ
ない。
 上告代理人高田照市、同田中正人の上告理由のうち、本件就業規則の変更は被上
告人らにとって何ら不利益に変更されたものではなく、また、本件就業規則の変更
には合理性があるとする点について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 上告会社は、札幌市内でハイヤー・タクシーによる旅客運送業を営む会社で
あり、被上告人らは、上告会社の従業員(乗務員)で、上告会社のA労働組合(以
下「訴外組合」という。)に加入している組合員である。
  なお、上告会社には、訴外組合のほかに昭和三七年にA新労働組合(以下「新
労」という。)が結成されており、昭和五五年一月当時は、訴外組合の組合員が約
一一四名、新労の組合員が約一八〇名である。
 2 上告会社における乗務員の給与については、その就業規則において、給与は
基本給及び諸手当とし、その決定及び支払方法等は別に定める旨を規定しており、
これを受けた賃金規程において、乗務員の賃金は「1」基本給、職務給及び皆勤手
当(以下これらを「基準内賃金」という。)、「2」歩合給(賃金計算期間内の運
賃収入総額から一定額を控除した後の額に一定の支給率を乗じて算出されるもの)
並びに「3」諸手当からなる旨定められているが、従前は、基本給及び歩合給の金
額及び計算方法については格別定めがなかった。
  なお、賃金の計算期間は、前月一六日から当月一五日までとし、当月二五日に
当月分として支払うことになっていた。
 3 上告会社においては、昭和五四年の春闘以降、基準内賃金については前年度
より平均五一九七円引き上げ、歩合給については前年と同様に足切額(運賃収入総
額からの定額の控除額)を二七万円、支給率(足切額を控除した後の運賃収入総額
に乗じる率)を三五パーセントとする計算方法(以下「旧計算方法」という。)に
よっていた。
  同年一二月一二日にタクシー運賃の値上げが認可された(実施は同月二〇日か
らである。以下「本件運賃値上げ」という。)ので、上告会社は、同月一八日訴外
組合との間で、歩合給の計算方法を変更するための団体交渉を行ったが、訴外組合
は、その変更に反対した。その後、翌五五年一月一七日と二六日にも労使間に団体
交渉が行われたが、いずれも合意に至らなかった。
  その間、同年一月二一日には、上告会社と新労とは、足切額を二九万円、支給
率を三三パーセントに変更する計算方法(以下「新計算方法」という。)を採用し、
その旨の労働協約を締結した。
 そこで、上告会社は、同年二月一二日、歩合給については新計算方法による旨の
就業規則の変更を行い、所轄の労働基準監督署長に届け出た(以下これを「本件就
業規則の変更」という。)。
 4 上告会社は、昭和五五年一月二五日の賃金支給日以降は、訴外組合に所属す
る被上告人らに対しても、新計算方式に基づいて歩合給を支払った。その後、同年
九月になって、上告会社は、同年一月分の歩合給については、旧計算方法に基づき
算出した金額と既払額との差額を支払った。
 5 上告会社において、歩合給の計算方法の変更は、従前は、運賃改定時には行
われず、その前後の春闘の機会に行われていたが、これには、運賃の改定と春闘と
が時期的に接着していたり(例えば、昭和四六年及び四九年においては、運賃の改
定は春闘の年度に入ってから実施され、その約三か月後に春闘が迫っていた。)、
あるいは、春闘の時点では近々運賃の改定がされることが既に予想されていた(昭
和四八年及び五〇年においては、将来の運賃改定を折り込んだ賃金交渉がされてい
る。)という事情も存在している。
  また、従前、札幌市内のハイヤー・タクシー業者においては、その七、八割が
歩合給の変更を運賃改定時に行ってきており、その余の業者も、春闘時に運賃改定
を考慮して賃金を決定している。
 二 原審は、本件就業規則の変更は被上告人ら従業員(乗務員)の労働条件を不
利益に変更するものであるとした上、これについては、賃金が労働契約の重要な要
素であること、並びに、上告会社において、歩合給の計算方法の変更が春闘の機会
ではなく運賃改定時に行われなければならない事業経営上の必要性があるか、旧計
算方法のままでは事業経営が成り立たない等の高度の経営上の必要性があるか、及
び旧計算方法を維持した場合運賃の値上げにより上告会社に配分されるべき利益が
どの程度侵害されるか等についての立証がされていないことなどを理由にして、そ
の合理性、ひいては本件就業規則の変更の効力を否定した。そして、原審は、昭和
五五年二月分から五六年四月分までの賃金について旧計算方法により算出した額と
新計算方法による支給額との差額の支払を求める被上告人らの請求を認容した第一
審判決を是認した。
 三 しかし、原審の右判断のうち、本件就業規則の変更が労働条件を不利益に変
更するものであるという部分はこれを是認することができるが、本件就業規則の変
更に合理性がないという部分はこれを是認することができない。その理由は以下の
とおりである。
 1 労働条件を不利益に変更する就業規則の効力については、新たな就業規則の
作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に
課することは、原則として許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、
特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規
則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないこと
を理由として、その適用を拒否することは許されないというべきである(最高裁昭
和四〇年(オ)第一四五号同四三年一二月二五日大法廷判決・民集二二巻一三号三
四五九頁)。
  そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作
成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被るこ
とになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規
範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される(最高裁
昭和六〇年(オ)第一〇四号同六三年二月一六日第三小法廷判決・民集四二巻二号
六〇頁)。
 2 そこで、まず本件就業規則の変更の必要性について検討する。
 (一) 前記の事実関係によれば、被上告人ら乗務員の歩合給は、当該乗務員の運
賃収入総額を基準として計算されるが、これはタクシー運賃の改定により大きく変
動するものであるから、歩合給の計算方法の合意は、もともとその合意がされた時
点におけるタクシー運賃を前提にしたものというべきである。また、旧計算方法を
変更しないとすれば、本件運賃値上げにより確保されるべき事業者の適正利益が侵
害されるおそれも生じないではなく、現に札幌市のハイヤー・タクシー業界におい
ては、従来、運賃の値上げがあった場合には、これに対応して速やかに歩合給の計
算方法を変更しているのである。
  そうすると、旧計算方法が上告会社と被上告人らとの間の労働契約の内容にな
り、それが本件運賃値上げによって当然に失効するものではないとしても、本件運
賃値上げ後は、労使双方が、速やかに値上げ後の新運賃を前提として歩合給の計算
方法につき協議をし直すことが予定されているというべきである。
 (二) 上告会社と被上告人らとの間において、歩合給の計算方法の変更を春闘以
外の時期には行わないとする合理的理由も考え難い。
 (三) 歩合給の計算方法は、個々の賃金額そのものではなく、乗務員全体に共通
する賃金の計算方法であるから、本来、統一的かつ画一的に処理されるべきもので
あり、就業規則による処理に親しむものであるが(労働基準法八九条一項二号参照)、
本件においては、上告会社と新労との間では新計算方法による合意が成立し、一方、
訴外組合との間では三回に及ぶ団体交渉がいずれも不調に終わっているのである。
 (四) 以上を総合すると、本件就業規則の変更の必要性はこれを肯認することが
できる。
 3 次に、本件就業規則の変更の内容の合理性の有無について検討する。
 (一) この点については、新計算方法に基づき支給された乗務員の賃金が全体と
して従前より減少する結果になっているのであれば、運賃改定を契機に一方的に賃
金の切下げが行われたことになるので、本件就業規則の変更の内容の合理性は容易
には認め難いが、従前より減少していなければ、それが従業員の利益をも適正に反
映しているものである限り、その合理性を肯認することができるというべきである。
  したがって、本件においては、まず、新計算方法に基づき支給された賃金額と
それまで旧計算方法に基づき支給されていた賃金額とを対応して比較し、その結果
前者が後者より全体として減少していないかを確定することが必要である。そして、
これが減少していない場合には、それが変更後の労働強化によるものではないか、
また、新計算方法における足切額の増加と支給率の減少がこれまでの計算方法の変
更の例と比較し急激かつ大幅な労働条件の低下であって従業員に不測の損害を被ら
せるものではないかをも確認するべきである。
  このほか、新計算方法が従業員の利益をも適正に反映しているものかどうか等
との関係で、上告会社が歩合給の計算方法として新計算方法を採用した理由は何か、
上告会社と新労との間の団体交渉の経緯等はどうか、さらに、新計算方法は、上告
会社と新労との間の団体交渉により決められたものであることから、通常は使用者
と労働者の利益が調整された内容のものであるという推測が可能であるが、訴外組
合との関係ではこのような推測が成り立たない事情があるかどうか等をも確定する
必要がある。
 (二) 本件就業規則の変更の内容の合理性は、右の諸点についての認定判断の結
果いかんにかかるから、これらの点の認定判断を怠った原判決には、就業規則に関
する法令の解釈適用を誤った違法、ひいては審理不尽の違法があるというべきであ
って、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
 四 論旨はこの趣旨をいうものとして理由があるので、原判決を破棄し、以上の
点につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    木   崎   良   平

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