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裁判例


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主文
1原告Aを除く原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告Aを除く原告らの負担とする。
3本件訴訟のうち原告Aの請求に関する部分は,平成25年8月4日同人
の死亡により終了した。
事実及び理由
第1請求の趣旨
被告は,Bに対し,9011万8600円並びにうち8200万円に対する
平成23年12月2日から支払済みまで,うち635万4600円に対する平
成24年1月27日から支払済みまで及びうち176万4000円に対す
る同年4月20日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を
請求せよ。
第2事案の概要
本件は,原告らが,直方駅地区交通結節点改善事業(以下「本件事業」とい
う。)の一環で,九州旅客鉄道株式会社(以下「JR九州」という。)が所有す
る旧直方駅舎(以下,単に「旧駅舎」ということがある。)の解体を進めるため
の費用として,直方市が平成23年3月の直方市議会の議決に基づき同年12
月から平成24年4月にかけて支出した,用地測量業務委託料176万400
0円(以下「本件測量委託料」という。),直方駅舎記録保存調査業務委託料6
35万4600円(以下「本件調査委託料」という。),及び補償金8200万
円(以下「本件補償金」という。)の各公金の支出(以下,これらの支出を総称
して「本件各支出」といい,本件各支出に先立ちされた支出命令を「本件各支
出命令」という。)の原因となった支出負担行為は,都市計画法,文化財保護
法,地方自治法及び地方財政法に反して違法であるから,本件各支出命令も
財務会計法規に照らし違法であると主張して,地方自治法第242条の2第
1項第4号に基づき,直方市の執行機関である被告に対し,直方市長であ
るBに対する損害賠償の請求をすることを求める事案である。
1前提事実
以下の事実は当事者間に争いがないか,掲記の証拠ないし弁論の全趣旨によ
り容易に認められる。
⑴当事者等
原告らは,直方市の住民である。
被告は,直方市の執行機関である。
Bは,本件各支出の当時直方市長の地位にあり,本件各支出命令をする本
来的な権限を有していた者である。
⑵福岡県による都市計画の変更
福岡県は,平成18年9月20日,3・4・3号直方駅行橋線外2路線に
係る従前の都市計画を変更し,その旨を告示した(以下「本件都市計画変更」
といい,当該変更後の都市計画を「本件都市計画」という。)。
本件都市計画では,当時旧駅舎が存在していた場所が,駅前広場として整
備されることとなっていた(乙30)。
⑶本件事業の実施
福岡県知事は,平成18年10月17日,直方市に対し,本件都市計画を
含む複数の都市計画に係る都市計画法59条所定の都市計画事業として,本
件事業を認可した。当該認可を受け,直方市は現在,本件事業を実施してい
る。
本件事業は,JR九州の直方駅の東口駅前広場の整備により2つの鉄道
(JR九州及び平成筑豊鉄道)と2つのバス(JR九州バス及び西鉄バス)
の乗り継ぎの一元化を図ると共に,直方駅東口と西口をつなぐ自由通路の整
備等により,直方市の中心市街地の交通結節機能を強化することを目的とす
るものである。
直方市は,本件事業を実施するために,旧駅舎を元の位置から移築し又は
解体,撤去する必要があると判断した。
⑷旧直方駅舎の解体
旧直方駅舎は1910年(明治43年)に建築された木造建築物であり,
本件都市計画変更当時から下記解体までの間,JR九州が所有していた建物
である。
JR九州は,平成23年10月28日に旧駅舎の解体に着手し,その後撤
去した。
⑸本件各支出に係る支出負担行為
直方市は,本件事業を実施するために以下のとおり複数の契約を締結し,
本件各支出に係る債務を負担した(以下,これらの契約を総称して「本件各
契約」という。)。
ア補償契約
直方市は,平成20年11月28日,JR九州との間で,JR九州が旧
駅舎を含む不動産及び動産を本件事業の用地内から撤去する補償として,
直方市がJR九州に対し合計1億6382万4300円を支払う(うち8
200万円は,平成23年度に旧駅舎等の撤去が完了した後に支払う)旨
の補償契約(以下「本件補償契約」という。)を締結した。
イ旧直方駅舎記録保存調査業務委託契約
直方市は,平成23年5月11日,C建築設計室のCとの間で,旧直方
駅舎記録保存調査業務を委託する対価として,直方市がCに対し635万
4600円を支払う旨の業務委託契約(以下「本件調査委託契約」という。)
を締結した。
ウ用地測量業務等委託契約及びその増額契約
直方市は,平成23年12月21日,社団法人福岡県公共嘱託登記土地
家屋調査士協会との間で,本件事業に関する用地測量業務を委託する対価
として,直方市が同協会に対し166万6350円を支払う旨の業務委託
契約を締結した。
また,直方市は,平成24年2月24日,同協会との間で,業務の変更
に伴い同協会へ支払う金額を9万7650円増やし,合計176万400
0円とする増額契約(以下,上記業務委託契約と併せて「本件測量委託契
約」という。)を締結した。
⑹予算の議決及び本件各支出の実行
平成23年3月,直方市議会で,本件事業を実施するための本件各支
出に充てる予算の決議がされた。
これを受けて,本件各契約に基づき直方市が負う債務の履行のため,
以下のとおり,本件各支出がされた。
また,本件各支出命令の専決権者である直方市予算主管課長Dは,下
記の各支払日に先立つ近接した時期に,本件各支出命令をした。
ア本件補償金の支出
支払日:平成23年12月2日
支払先:JR九州
支払額:8200万円
使途:JR九州が旧駅舎を撤去することに対する補償金の一部(甲
3号証)
イ本件調査委託料の支出
支払日:平成24年1月27日
支払先:C建築設計室C
支払額:635万4600円
使途:旧駅舎の記録及び部材保存の監理業務委託料(乙23号証の
1及び2)
ウ本件測量委託料の支出
支出負担行為:平成23年12月21日付け業務委託契約
支払日:平成24年4月20日
支払先:社団法人福岡県公共嘱託登記土地家屋調査士協会
支払額:176万4000円
使途:本件事業により直方駅前広場として整備される土地の測量費
(乙36号証の1及び2)
⑺本件各支出の差止めを求める住民監査請求
原告らは,平成23年5月17日,直方市監査委員に対し,本件各支
出が,いずれも文化財保護法,都市計画法並びに地方自治法及び地方財
政法に違反すると主張して,本件各支出の防止を求める住民監査請求を
行った。
直方市監査委員は,同年7月15日に当該請求を棄却し,この結果は
同日原告らに通知された(弁論の全趣旨)。
⑻本件各支出の差止請求訴訟の提起及び訴えの変更
原告らは,平成23年8月9日,直方市長Bを相手に,本件各支出の
差止めを求める住民訴訟である本件訴訟を提起した。
しかし,前記⑹のとおり,本件訴訟の係属中に本件各支出が実行され
たため,原告らは,平成24年5月16日,訴えを変更して地方自治法
242条の2第1項4号に基づく損害賠償請求をするに至った。
2争点及び争点に関する当事者の主張
⑴本件各契約が文化財保護法に違反するか否か
(原告らの主張)
旧駅舎は100年以上の歴史を有する木造建築物である上,初代博多駅の
一部を移築して建設された可能性が高く,かつ産炭地として栄えた筑豊地域
の人的物的輸送手段として活躍した,筑豊地域の歴史と密接にかかわりのあ
る駅舎であったから,文化財保護法にいう「文化財」に該当するものであっ
た。
そうであるにもかかわらず,直方市は,平成18年4月11日に本件都市
計画の案を市報に掲載した時点から旧駅舎の解体を意図しており,旧駅舎の
歴史的価値を調査分析することも,その保存及び活用をしつつ本件事業を行
う方法を具体的に検討することもなかった。
加えて,直方市は,平成18年7月に行われた福岡県の本件都市計画に係
る都市計画審議会において用いられる資料に,旧駅舎は初代博多駅が移築さ
れたものである可能性が低いという根拠のない見解を盛り込ませ,また平成
23年10月29日に九州大学大学院芸術工学研究院の教授であるEによる
旧駅舎の調査が予定されていたにもかかわらず,その前日に旧駅舎を取り壊
すなど,旧駅舎の文化的価値が明らかになることを積極的に妨げた。
直方市は,文化財保護法3条及び同法の趣旨により,文化財の保存に注意
し,かつ文化財の保存を妨げてはならない義務を負っていたにもかかわらず,
上記のとおりこのような義務に違反して県に都市計画を変更させ,本件事業
を実施し,その一環として本件各契約を行った結果,旧駅舎が破壊されたの
である。
したがって,本件各契約は文化財保護法3条及び同法の趣旨に反し違法で
ある。
(被告の主張)
文化財保護法1条,3条及び4条は,地方公共団体に具体的な義務を課す
規定ではない。また同法182条2項を受けて制定された直方市文化財保護
条例は,所有者による申請,又は第三者による申請及び所有者の承諾を経て,
教育委員会が直方市指定有形文化財に指定した文化財につき,所有者に一定
の管理義務を課すにとどまり,旧駅舎のような,この指定を受けない文化財
一般,それも所有者であるJR九州が指定有形文化財への指定を望まず,か
えって解体撤去に同意しているような物について,直方市に保存管理を義務
付けるものではない。
加えて,旧駅舎は初代博多駅舎を移築したものではなく,かつ度重なる増
改築により建築当時の姿を留めていなかったのであるから,その有する歴史
的価値は限定的なものであった。それでも直方市は,平成15年頃からJR
九州との間で旧駅舎を元の位置に残したまま駅前広場を整備する可能性につ
き検討し,それが不可能であるとの結論に達し,平成18年に本件事業の実
施を決定した後も,移転保存の可能性を検討し,それが財政的に著しく困難
と判明したため,旧駅舎の部材又はデザインの新駅舎への活用を検討したも
のである。
このように,直方市は,文化財保護法により具体的義務を課されていない
にもかかわらず,旧駅舎の有する歴史的文化的価値に相応しい保存活用方法
を順次検討した上で,解体撤去やむなしとの結論に至ったのであり,旧駅舎
の保存につき必要な注意を払っていた。
また,平成23年10月28日に旧駅舎を解体したのはJR九州であり,
被告が積極的にEによる調査を妨げた事実はない。
したがって,直方市が締結した本件各契約は文化財保護法に違反するもの
ではない。
⑵本件各契約が都市計画法に違反するか否か
(原告らの主張)
本件各契約は,以下のとおり,都市計画法に違反する本件都市計画に係る
都市計画事業である本件事業のためにされたものであるから,本件各契約は
都市計画法に違反する。
ア本件都市計画は都市計画法16条,17条の趣旨に反する
平成18年6月14日に直方駅前整備計画が浮上してから約1月半しか
経っていない同年7月31日に,直方市の都市計画審議会で旧駅舎の解体
を前提とする直方市の都市計画が決定された。また,直方市は,その間に
直方市が作成した住民説明のための資料に,旧駅舎の老朽化が進み防災上
問題があると記載したり,旧駅舎の車寄せ部分が残されている図面を掲載
したりするなど,直方市民に誤解を与えかねず,旧駅舎の解体撤去反対の
意見を抑えかねない手法を用いて,当該都市計画決定をしたものである。
このような経緯で決定された当該都市計画には,都市計画を作成しよう
とする場合において公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な
措置を講じるべきことを定めた都市計画法第16条,都市計画決定に先ん
じて住民に意見書を提出する機会を与えなければならないと定めた同法第
17条の趣旨に反する違法がある。
イ本件都市計画は都市計画法18条2項の趣旨に反する
平成18年7月5日から19日にかけて行われた本件都市計画の縦覧期
間中,直方市は,本件都市計画に賛同する旨の同一内容の意見書を同一人
物に複数枚書かせ,意見書の総数及び本件都市計画に賛同する意見の数を
水増しした。また,直方市は,このような意見書のうち,旧駅舎の解体の
是非に触れずに本件都市計画に賛成する旨の意見を,全て旧駅舎の解体に
賛成する意見であるかのように取りまとめて,意見書の要旨を作成したた
め,当該意見書の要旨には,圧倒的多数の市民が旧駅舎の解体に賛成して
いるかのように記載されていた。
しかしながら,実際には,意見書のうち旧駅舎解体又は保存に触れたも
のは全体のうち9通しかなかった上,うち5通は保存を要するとした意見
であった。
直方市が作成した意見書の要旨は,平成18年8月3日に,福岡県都市
計画審議会での審議のために福岡県へと提供され,実際に審議に使用され
た。
このように,住民の意見が歪められた形で都市計画審議会に伝えられ,
それを前提とする審議に基づき決定された本件都市計画には,住民の意見
を都市計画審議会に反映するために定められた都市計画法18条2項の趣
旨に反する違法がある。
ウ本件都市計画が変更されなかったことが都市計画法21条1項に反する
本件都市計画変更後の平成23年5月26日,Eは旧駅舎を調査した上,
旧駅舎は初代博多駅を移築したものである可能性が高い旨の報告書を作成
し,同年6月19日までに直方市長に対して当該報告書を踏まえた調査を
要請した。また,同年8月18日には,直方市職員も参加した市民フォー
ラムにおいて,Eが実現可能な旧駅舎の保存方法等を提案した。
このような専門家の調査ないし提案が行われたことにより,「その他都
市計画を変更する必要が生じた」(都市計画法21条1項)にもかかわらず,
変更されていない本件都市計画には,同条項に反する違法がある。
エ本件都市計画の違法により,直ちに本件各契約は違法となる
直方市は,本件都市計画が直方市報に掲載された平成18年4月頃から,
JR九州による旧駅舎の解体と,それを前提とする本件各事業に必要な本
件各支出を予定しており,かつ本件都市計画変更及び本件事業の認可によ
り旧駅舎の解体が正当化されると認識していた。
このような直方市の認識に照らせば,本件都市計画変更は,本件各契約
の直接の原因と評価できるから,本件都市計画の違法により,直ちに本件
各契約が違法となる。
(被告の主張)
ア都市計画法16条,17条の趣旨に反する違法はない
そもそも,旧駅舎の解体撤去を前提とする駅前広場の整備に係る本件都
市計画は福岡県が決定する都市計画であり,直方市が公聴会等を実施すべ
き法律上の義務はなかった。
そうであるにもかかわらず,直方市は,自身の都市計画原案と併せて,
駅前広場の整備に係る都市計画についても,平成18年4月1日に事前閲
覧と公聴会開催につき広報し,同月3日から17日までそれら都市計画原
案の事前閲覧に供した(都市計画法16条1項)。さらに,直方市は,同年
7月1日にそれらの都市計画案に対して意見を述べることができる旨広報
した後,同月5日に直方市の都市計画案を公告し,同日から同月19日ま
での2週間公衆の縦覧に供した(都市計画法17条1項)。
イ都市計画法18条2項に反する違法はない
直方市が意見書の総数を水増しした事実はない。また,直方市は意見書
の要旨の作成に当たり原告らが主張するような取りまとめ方はしていない。
意見書の要旨には,圧倒的多数の市民が旧駅舎の解体に賛成しているかの
ような記載はなく,かえって,旧駅舎の保存・有効活用を望む意見の要旨
を正確に記載している。
以上の事実は,直方市が作成した意見書の要旨が資料として用いられた,
平成18年7月31日の直方市都市計画審議会において,旧駅舎の保存活
用を図る意見の内容が説明されたことからも明らかである。
ウ都市計画法21条1項に反する違法はない
Eは,平成23年5月に行われた調査の報告書でも,同年8月の市民フ
ォーラムでの発言においても,旧駅舎が初代博多駅舎を移築したものであ
るとは断定していないから,このような報告書に基づく調査の要請や発言
により,都市計画を変更する必要が生じたとはいえない。
エ仮に本件都市計画に違法があったとしても,本件各契約は違法ではない
地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づき損害賠償請求等を
請求できるのは,職員等が行った財務会計行為自体が財務会計法規上の義
務に違反する違法なものであるときに限られる。
福岡県の本件都市計画に都市計画法上の違法があるとしても,直ちには
直方市の職員等が行った財務会計行為である本件各契約が違法とはならな
い。
⑶本件各契約が地方自治法又は地方財政法に違反するか否か
(原告らの主張)
本件事業のために旧駅舎を解体撤去しようとすれば1億6382万430
0円の支出を余儀なくされるのに対し,旧駅舎を現地で保存又は一部保存す
ればその費用は数千万円で済んだ。
このような手段があるにもかかわらず,より多額の経費を要する旧駅舎の
解体撤去を選択した本件事業及びそれに基づく本件各契約は,地方自治法2
条14項及び地方財政法4条1項に反し,違法である。
(被告の主張)
争う。旧駅舎の解体に直接要する費用は1604万2363円である一方,
旧駅舎を現地で保存又は一部保存した場合の費用が数千万円にとどまる根拠
はない。
また,地方財政法4条にいう「目的」とは,個々の経費の支出目的を指す。
本件各支出は,本件事業のために旧駅舎を解体撤去するための経費として妥
当なものであり,地方財政法はそれを超えて,直方市が支出する予定のない
旧駅舎の修復及び保存活用という目的の実現のために要する費用との比較を
義務付けるものではない。
したがって,本件各契約は地方財政法に違反しない。
⑷本件各支出命令が違法か否か
(原告らの主張)
以上のとおり,本件各契約は違法に締結されたものであり,それらは著し
く合理性を欠き,本件各契約の締結には予算執行の適正確保の見地から看過
し得ない瑕疵が存している。
また,JR九州は,平成23年4月19日に市民団体である直方文化遺産
研究会に対し,旧駅舎の調査,保存及び活用の可否の最終的な判断は直方市
において決定すること並びに直方市が駅舎の有効活用を検討するのであれば
直方市と協議する旨回答している。加えて,JR九州の代表取締役であるF
は,同月13日に放送されたテレビ番組において,旧駅舎につき,地元の市
民が熱心に動いているので保存する方向でやっていると発言した。さらに,
旧駅舎の有効活用を図る場合に必要となる調査,測量業務を委託する等の条
件を付すことにより,C及び社団法人福岡県公共嘱託登記土地家屋調査士協
会と従前の契約の解消を交渉する余地は十分にあった。
このように,本件においては,直方市が本件各契約の相手方に事実上の働
きかけを真摯に行えば,相手方が本件各契約の解消に応ずる蓋然性が高かっ
たというべきである。
そうである以上,支出命令を発する本来的な権限を有するBは,違法な本
件各契約に基づき本件各支出命令を行わせてはならないという財務会計法規
上の義務を負っていたのであり,BがDをして行わせた本件各支出命令は,
当該義務に反して違法である。
(被告の主張)
そもそも本件各契約は違法ではなく,まして予算執行の適正確保の見地か
ら看過し得ない瑕疵は存在しない。
また,JR九州は,本件訴訟に先立ち提起された駅舎取り壊し工事差し止
め仮処分申立事件(当庁平成23年第●●●号)において,平成23年8
月10日付けの準備書面で,JR九州は本件補償契約に基づき旧駅舎を撤去
するとの主張をしており,直方市がJR九州に対して事実上の働きかけを真
摯に行えば,JR九州が本件補償契約の解消に応ずる蓋然性が高かったとは
いえない。
さらに,本件各支出命令が行われた時点では,本件各契約に基づき本件各
契約の相手方が負っていた債務の履行は既に完了していたから,いずれの相
手方についても本件各契約の解消に応じる蓋然性が高かったとはいえない。
第3争点に対する判断
1争点⑴(本件各契約が文化財保護法に違反するか否か)について
⑴認定事実
前記前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
が認められる。
ア旧駅舎の来歴
旧駅舎は,明治43年に建築された木造駅舎建造物である。
旧駅舎は,建築後,平成23年10月28日に着手された解体以前,下
記のとおり建造物の内外につき相当な規模で改装された。(乙29号証4な
いし6頁)
昭和5年3月21日電話交換室改築
昭和16年3月14日駅長室及び小荷物室を拡張
昭和30年3月30日屋根瓦の葺き替え工事が完成
昭和35年3月26日駅長室内休憩所拡張,駅手詰所改築,
営業関係浴場完成及び駅会議室完成
同年6月19日貨物室内改装工事完成
昭和44年3月13日小荷物室屋根改修及び発送整理事務室改築
工事完成
昭和45年10月2日駅本屋模様替え工事着工
昭和46年から昭和52年頃北側屋根の葺き替え
昭和63年屋根及び外壁の改修
イ直方市の駅舎保存に関する検討の推移
現地保存の断念
直方市の担当者は,平成18年7月31日,本件都市計画変更の承認
に係る直方市都市計画審議会において,下記のとおり駅舎を元の位置に
残したまま駅前広場を整備することが困難であり,市として駅舎の移転
又は解体撤去が前提となる下記dのA案に即した駅前広場の整備を実施
する方針を説明した(甲41号証の3,4枚目及び甲39号証の7枚目)。
したがって,直方市は,この頃までに,駅舎の現地保存を断念してい
たと認められる。
a駅舎と駅前広場との間を南北に直方駅上老良線及び直方駅我孫子線
が通る案(甲39号証の7枚目B案)では,駅舎と駅前広場が分断さ
れる上,駅前広場に関係のない通過交通が生じやすい道路線形となる。
b直方駅我孫子線に駅前広場を迂回させる案(甲39号証の7枚C案)
では,駅舎と駅前広場の位置関係が悪く,利用者にとって不便な動線
が形成される。
c駅舎の東方に隣接して駅前広場を置いた上で,直方駅上老良線及び
直方駅我孫子線を駅前広場を大きく迂回するように設置する案(甲3
9号証の7枚目D案)では,駅前広場及び迂回道路のために既存の建
物を移転させざるを得ず,法律関係が錯綜し事業化が困難である。
d駅舎を撤去して跡地に駅前広場を整備する案(甲39号証の7枚目
A案)は,新たな直方駅舎と駅前広場を経由する交通処理上,最も理
想的である。
移転を前提とする駅舎活用方法の検討
直方市は,平成19年2月,下記内容を含む直方駅舎移転構想策定業
務報告書(乙21号証)を取りまとめた(以下,括弧内は乙21号証の
記載頁数)。
a旧駅舎の文化的価値に対する認識
旧駅舎は100年に迫る歴史を持つ九州内でも最古参の鉄道駅舎
で,稀少価値の高い鉄道文化遺産として評価されており,とりわけ駅
舎玄関の車寄せに特徴的な意匠が見られる(1頁)。また,駅舎の基本
構造,特徴的な車寄せ及び庇部の柱の一部などは,開業当時からのも
のである(16頁)。
反面,駅舎内部のレイアウトなどは,時代に対応するため逐次改装
されて当初からは変化しており,保存を意識して利用されているわけ
ではない。また,建築に使用されている木材は,厚い塗装が塗られ質
感が薄まっており,建築に用いられている部材,装飾などの状態につ
いては不明である(16頁)。
車寄せ部や庇部についての文化財的価値,景観的価値などについて
は,公式に評価されたものがない(16頁)。
b保存のあり方検討のための前提(16頁)
旧駅舎は,JR九州が所有する,間口約55m,建築面積約100
0㎡の比較的規模の大きい木造平屋建築物である。
旧駅舎を現地保存することは不可能であり,また駅周辺は既に市街
化が進んでいるため,近接地での移築用地の確保は困難である。
c保存・活用法の検討(16頁ないし32頁)
建造物の保存活用の方法を,全体移築,部分移築,部材の利活用,
復元(イメージ保存),資料保存の5種に分類すると共に,その長所及
び短所を整理,分析している。また,奈良駅(全体移築)や軽井沢駅
(復元)など,各地の駅舎の保存活用事例を,費用と共に挙げる。
その上で,上記5種の方法それぞれを旧駅舎に適用した場合の可能
性及び問題点を以下のとおり整理している。
すなわち,規模の大きい旧駅舎を全体移築する場合,部材の運搬,
保管,維持管理及び再築等の費用が用地取得費用を除いても2ないし
4億円以上になる可能性があり,また広い再築用地が必要となる。
特徴的なデザインを保つ正面の車寄せ部分や回廊部分などが部分移築
の対象として考えられるが,築造の規模によっては費用が上昇する可
能性がある。
車寄せ部分の支柱を新駅舎の一部に装飾として使用したり,新駅舎
内で展示したりする部材の利活用が考えられるが,細分化して使うほ
ど元の駅舎の印象が薄れる。
旧駅舎のイメージを復元するためには一定規模以上の新築建造物を
建てねばならず,費用の上昇が避けられないが,別に公的な建造物へ
の需要があり,そのデザインに旧駅舎の意匠を採用するのであれば,
当該デザインに要する費用のみで済む。
資料保存は最も簡易な方法であるが,旧駅舎の文化財的価値の調査
及び記録の方法に工夫を要する。
d保存活用案の策定(33頁)
以上の検討を経て,この時点における旧駅舎の活用案として,改築
駅舎への旧駅舎の部材の利活用及び新駅舎のデザインに旧駅舎のイメ
ージを反映する復元の2案を提示している。
JR九州の担当者との協議
直方市は,平成20年8月7日,JR九州の担当者と直方駅前広場周
辺整備事業につき協議し,直方市が旧駅舎を現物保存することはない旨
伝えるとともに,車寄せ部分のレプリカ保存の可能性をJR九州に打診
した。
これに対し,JR九州の担当者は,JR九州においても旧駅舎の現物
保存をするつもりがなく,また新駅舎に車寄せ部分が突き出るように付
属させるのは困難であり,新駅舎のデザインに旧駅舎のイメージを反映
させればよいと回答した。(甲46号証の2枚目)
旧駅舎の解体を前提とする本件補償契約の締結
直方市は,平成20年11月28日,JR九州との間で,本件補償契
約を締結した(前提事実)。
旧駅舎移転保存の断念と車寄せ部分の保存検討
直方市は,平成21年3月及び6月の直方市議会定例会において,直
方市の財政状況から旧駅舎を移転保存することが困難であり,併せて特
徴的な車寄せ部分についての保存を検討している旨説明した(乙22号
証の1及び2)。
資料保存案の採用及び車寄せ部分を除く取壊し方針決定
直方市は,平成22年11月5日,旧駅舎全体を専門家の調査により
図面や写真等の資料として記録した後,車寄せ部分を除いて旧駅舎を取
り壊す方針を決定した(甲59号証)。
旧駅舎記録保存業務の実施及び車寄せ部分の解体保存
直方市は,本件調査委託契約に基づき,C建築設計室のCをして,旧
駅舎の記録保存調査を行わせ,平成23年12月22日,JR直方駅舎
記録保存調査報告書が作成された。
その内容は,旧駅舎の沿革や建築形式につき文献とともにまとめた上
で,旧駅舎の状況を古写真や解体前写真及び各種の図面で記録したもの
である(乙29号証)。また,乙29号証写真番号KH1ないしKH39
によれば,旧駅舎の車寄せ部が解体保存されていると認められる。
ウ旧駅舎の価値についての外部からの指摘
Eは,平成18年9月27日,福岡県教育委員会文化財担当者からの
依頼を受け(甲65号証1頁),「直方駅舎の評価」と題された文書をま
とめた(甲4号証)。
Eは上記文書において,旧駅舎の歴史的芸術的価値を下記5つの観点
から極めて高いものと評価しており,また当該評価に基づき旧駅舎が登
録有形文化財の登録(文化財保護法57条1項)を受けるための審査要
件を満たすものと考えている(甲65号証1頁)。
a現在も利用されている明治期の駅舎建築としての稀少価値
bアメリカ開拓期の影響を受けた特徴的なスティック・スタイルの建
築様式
c産炭地と鉄道網の広がりの中枢として,近代化の過程と歴史的意義
を象徴する近代化遺産
d直方市の都市形成過程の中枢としての空間遺産
e観光資源としての付加価値
経済産業省九州経済産業局は,平成22年3月,産業遺産を活用した
広域連携及び多様な主体の連携による地域活性化方策に関する調査(産
業遺産を活かした地域活性化への民間活力導入に関する調査報告書)に
おいて,旧駅舎を直方地域に存する産業遺産の一つに挙げた上で,直方
市が観光客に提供し得る観光プログラムとして,筑豊地方の石炭流通の
拠点となった直方駅の見学を含む,「石炭運搬の拠点として栄えた街並み
歩き」を提案した(甲38号証の5,12及び13枚目)。
Eは,平成23年5月26日午後2時30分から午後4時30分まで
の間,JR九州の許可を得て旧駅舎の実地調査を行い,その結果を同年
6月15日付け「直方駅旧舎屋建物緊急調査報告書」(甲6号証)にまと
めた(甲65号証1頁)。
上記報告書は,旧駅舎のトラス架構を構成する部材に,手斧,斧及び
鉞による加工の痕があるものと,丸鋸による機械製材の痕があるものの
2種類が混在している外,柱にも手斧や斧による加工の痕がある事実を
指摘した上で,機械製材が普及し始めたのは大都市でも明治30年代頃
であることから,旧駅舎には明治30年代を挟んで前後する2つの時代
の技術が用いられていると考察している。その上で,旧駅舎の竣工が明
治43年3月1日である一方,初代博多駅舎の竣工が明治23年,その
解体が明治42年であったことから,旧直方駅舎が,明治23年までに
製材された部材による初代博多駅舎のトラス架構を移築した上で明治4
3年頃に製材された補充材を加えて建築されたと推論する。(甲6号証の
8ないし11枚目)
エ旧駅舎の文化財保護法等所定の指定又は登録状況
本件各契約に先立ち,旧駅舎が文化財保護法に基づく国宝若しくは重
要文化財への指定(文化財保護法27条1,2項),登録有形文化財への
登録(文化財保護法57条1項),又は文化財保護法182条2項を受け
る直方市文化財保護条例4条1項(乙26号証)所定の市指定有形文化
財への指定を受けた事実はない(弁論の全趣旨)。
⑵文化財保護法の規定
文化財保護法1条,2条1項1号,3条及び3章の各規定によれば,同
法は,全ての建造物を一律に保護するのではなく,歴史上又は芸術上の価
値が高く文化財に該当する建造物のうち,重要なものを重要文化財又は国
宝に指定し,あるいは保存及び活用のための措置が特に必要とされるもの
を登録有形文化財に登録して,同法3章1節及び2節による保護の対象と
している。その一方で,文化財に該当する建造物であっても,これらの指
定又は登録を受けていないものについては,同法3条,4条及び70条の
対象とされるにすぎない。
そして,同法3条の文言から,同条が政府及び地方公共団体に対する訓
示規定又は努力義務を定めた規定であることは明白であって,文化財の保
存と相いれない地方公共団体の行為が直ちに同条に反し,違法となると解
することはできないことからすれば,被告による本件各契約の締結が,文
化財保護法の規定に全く配慮せず,あるいは著しく違反した行為であると
評価できる場合にのみ,地方公共団体の基本的な責務に違反するものとし
て違法となる余地があると解するべきである。
⑶本件における判断
ア旧直方駅舎の文化財(文化財保護法2条1項1号)該当性
旧直方駅舎は明治43年に建築された木造駅舎建造物であって,以
降およそ100年にわたり駅舎として使用され続けたものである。加
えてその間,直方駅が筑豊地域の石炭を搬出する拠点であったことを
捉えて,Eが近代化の過程と歴史的意義を象徴する近代化遺産である
と評価するとともに(前記⑴ウc),経済産業省九州経済産業局が石
炭流通の拠点となった産業遺産として観光資源に挙げており(前記⑴
ウ),複数の識者が日本の近代化を支えた重工業に不可欠の燃料を供
給し続けた拠点としての直方駅を評価している。以上を踏まえれば,
旧駅舎には相応の歴史的価値が認められていたというべきである。
また,旧駅舎の建築様式につき,Eがアメリカ開拓期の影響を受け
たスティック・スタイルであるとして評価するとともに(前記⑴ウ
b),経済産業省九州経済産業局も,旧駅舎の特色としてスティック・
スタイルを基調とする建築様式と,アールヌーボー風の車寄せを挙げ
ている(甲38号証の5枚目)ことからすれば,同様に旧駅舎も一定
の芸術性が認められていたというべきである。
したがって,旧駅舎は相応の歴史的価値や一定の芸術性が認められ
ていたと評価できるのであり,有形文化財(文化財保護法2条1項1
号前段)と評価される余地はあったというべきである。
これに対し,被告は前記⑴アのとおり旧駅舎が度重なる改装を繰り
返していることから,旧駅舎の有する文化的価値がそれほど高度であ
るとはいえないと主張する。確かに,旧駅舎が竣工以来改装を繰り返
していることにより,旧駅舎の有する歴史的価値は一定程度減殺され
るといわざるを得ない。しかしながら,甲6号証の4枚目によれば,
Eが,旧駅舎の屋根形状こそ変わっているものの,下屋部分には大き
な変更を受けていないと評価しており,また,乙19号証の2ないし
3枚目によれば,特に被告自身特徴のある意匠と評価する車寄せの部
分を中心に,旧駅舎の建築当時の佇まいが一定程度残存していると認
められる。さらに,改装を繰り返しながらも石炭の搬出拠点として利
用され続けてきたという,旧駅舎の建築物としての意匠と必ずしも直
結しない歴史的価値それ自体は,旧駅舎が改装されている事実によっ
て大きくは減殺されないというべきである。
したがって,被告の主張によっても,旧駅舎についての前記評価は
左右されない。
他方で,原告は旧駅舎が初代博多駅舎を移築して建てられたもので
あるから,その歴史的価値は極めて高度である旨主張し,これに沿う
証拠としてEによる調査報告書(甲6号証),「福岡駅風土記」(甲7号
証)及び「鉄輪の轟き」(甲8号証)を提出する。
しかし,福岡日日新聞が明治39年7月9日付けの記事において「現
在の博多駅家屋は吉塚駅に移(中略)すること既報の如し」と報じ(乙
10号証),また,歴史ボランティア・直方を語る会「とおれんじ」が,
平成18年7月1日付けで,JR九州の従業員が「鉄輪の轟き」中の
旧駅舎が初代博多駅舎を移転したものであると記載した部分の出典,
根拠が定かではなく,追って削除したい旨述べたことを端緒に,旧駅
舎が初代博多駅舎を移転したものではないと考察する(乙18号証)
など,旧駅舎が初代博多駅舎を移転したものであることを否定する文
献の存在も認められる。また,甲6号証に現れたEの考察のとおり,
旧駅舎が異なる製材痕を持つ2種類の部材により建てられているとし
ても,手作業で製材された部材が初代博多駅舎に使われていたもので
あるとは直ちに推認できない。
したがって,旧駅舎が初代博多駅舎を移転したものであるとまでは
認められず,これを前提とする原告の主張は採用できない。
イ直方市の行為の評価
本件補償契約は,旧駅舎の所有者であるJR九州が,旧駅舎を含む
不動産及び動産を本件事業の用地内から撤去する補償として,直方市
がJR九州に対し1億6382万4300円を支払うことを内容とす
るものであるから,有形文化財である旧駅舎の保存とは相いれないも
のであったといわざるを得ない。
そこで,本件補償契約の締結が,文化財保護法の規定に全く配慮せ
ず,あるいは著しく違反した行為であるか否かについて検討する。
確かに,直方市は,文化財保護法3条により文化財の保存が適切に
行われるよう同法の趣旨の徹底に努める努力義務を負うものであるが,
しかし他方で,旧駅舎の所有者は直方市ではなくJR九州であったか
ら,直方市は文化財の所有者等に課される文化財の保存活用に努める
努力義務(文化財保護法4条2項)を負うものではなく,かえって文
化財保護法の執行に当たり関係者の所有権その他財産権を尊重すべき
義務(文化財保護法4条3項)を負っていたといえる。
ここで,所有者であるJR九州の旧駅舎の保存に関する意思がどの
ようなものであったかを見るに,本件補償契約に先立つ平成20年8
月7日の時点で,JR九州担当者がJR九州として旧駅舎の現物を保
存する意思がない旨明言しており(甲46号証の2枚目),遅くともこ
の頃までには,JR九州が本件事業に協力して旧駅舎を解体撤去する
意思を有していたと認められ,このような所有者の意思は,文化財保
護法の適用に当たり尊重されねばならない。
そうであるとすれば,直方市による本件補償契約の締結は,直方市
が所有管理しておりその保存及び活用につき直方市自身が努力義務
(文化財保護法4条2項)を負う建造物を解体する行為や,所有者が
建造物の解体撤去に反対し文化財として保存活用する意思を有してい
るにもかかわらず,その敷地を収用して建造物を解体撤去せざるを得
ない状況に所有者を追い込むような行為に比べ,文化財保護法の趣旨
に反する程度は軽微というべきである。
また,直方市は,前記⑴イのとおり,平成18年7月31日までに
旧駅舎の現地保存を断念した後も,移転を前提とする旧駅舎の保存活
用方法を検討したものの,他の駅舎の保存に要した費用と比較して旧
駅舎の移転保存に要する費用を大まかに2ないし4億円と見込んだ上
で移転保存を断念し,直方市として資料保存と車寄せ部分の保存を実
施する方針を決め,実際にそれらを行ったものである。直方市の,旧
駅舎の保存に向けたこれら一連の取組は,旧駅舎自体の現地保存や移
転保存に比べると文化財保存の観点からは徹底しないものといわざる
を得ないが,直方市として可能な旧駅舎保存のあり方を模索,実施し
た点で,文化財保護法3条に基づき直方市が負うべき最低限の努力義
務を果たしたものと評価することができる。
以上のとおり,直方市による本件補償契約の締結が文化財保護法の
趣旨に反する程度は比較的軽微であって,また直方市は旧駅舎保存に
向けた最低限の努力義務を果たしていたといえるから,本件補償契約
の締結が,文化財保護法の規定に全く配慮せず,あるいは著しく違反
した行為であると評価することはできない。
これに対し,原告らは,直方市が平成18年に行われた福岡県都市
計画審議会の資料に旧駅舎が初代博多駅の移築されたものである可能
性が低い趣旨の根拠のない記載をし,また平成23年10月29日に
予定されていたEによる旧駅舎の調査の前日に旧駅舎の解体工事が始
まったことから,直方市が旧駅舎の文化的価値が明らかになることを
積極的に妨げたと主張する。しかし,旧駅舎が初代博多駅の移築であ
るとまで認められないのは前記のとおりであり,移築の可能性が低い
旨の見解に必ずしも根拠がないとはいえず,また本件補償契約の内容
から,旧駅舎の解体工事の主体は旧駅舎の所有者であるJR九州であ
ると認められるから,旧駅舎の解体工事が平成23年10月28日に
始まったことをもって,直方市が原告らの調査を妨げたとは評価でき
ない。
したがって,これらの原告らの主張によっても,前記評価は左右さ
れない。
また,本件測量委託契約は旧駅舎の撤去を直接の目的とするもので
はなく,本件調査委託契約は本件補償契約により撤去される旧駅舎の
文化的価値を記録として保存することを目的とするものであるから,
いずれの契約も,旧駅舎の保存と相いれないものではない。
ウ小括
以上のとおり,直方市による本件各契約の締結は,いずれも文化財保
護法の規定に全く配慮せず,あるいは著しく違反した行為であるとはい
えないから,いずれも違法とは評価できない。
2争点⑵(本件各契約が都市計画法に違反するか否かについて)
⑴都市計画法16条,17条の趣旨違反について
ア本件都市計画変更に先立ち直方市が経た手続
直方市は,平成18年4月1日,本件都市計画変更及び本件都市計画
と一体となって本件事業を基礎づけることになる直方市による都市計画
変更(3・5・15号山部高木線外3路線及び8・7・1号直方自由通
路線外1路線に係るもの。以下「直方市都市計画変更」といい,当該変
更に係る都市計画を「直方市都市計画」という。)の原案確定に先立ち,
同月3日から同月17日にかけて当該原案を住民の事前閲覧に供すると
ともに,後記公聴会での意見の公述を希望する者は同日までに申し出る
べきこと,公述希望者がいた場合には同月25日に公聴会を開催するこ
とを,直方市の広報紙上で広報した(乙31号証)。
このときは,公述希望者がいなかったため,公聴会は開催されなかっ
た(弁論の全趣旨)。
直方市は,平成18年7月1日,本件都市計画変更及び直方市都市計
画変更の案につき意見を述べることができる旨を広報した(乙32号証)
後,同月5日から19日にかけてこれらの都市計画案を公衆の縦覧に供
した(弁論の全趣旨)。この間,直方市にはこれらの案につき89通の意
見書が寄せられた(甲54号証。以下,これらを総称して「本件意見書」
という。)。
同月31日に直方市都市計画審議会が開催され,本件都市計画変更及
び直方市都市計画変更の案につき審議された。直方市は当該審議会に本
件意見書の要旨(乙28号証)を提出し,審議の結果,直方市都市計画
の変更については提案どおり可決されるとともに,本件都市計画の変更
については承認された。(甲41号証)
イ判断
前記前提事実⑵のとおり,本件事業に係る都市計画のうち,旧駅舎所在
地を含む場所を駅前広場として整備する内容を含むものは,福岡県が変更
した本件都市計画であるから,当該変更に先立ち都市計画法16条及び1
7条所定の手続を取ることが求められているのは福岡県であって,直方市
ではない。そうであるとすれば,上記アのとおり,直方市は直方市都市計
画とともに本件都市計画についても公聴会の開催を試み,都市計画案を縦
覧に供し,意見書提出の機会をも設けたのであるから,これらの直方市の
行為が都市計画法16条ないし17条の趣旨に反して違法であるとは評価
できない。
原告らは,平成18年6月14日に本件都市計画に基づく事業が実施さ
れれば旧駅舎が解体されかねない旨の新聞報道(甲43号証)がされてか
ら,約1月半しか経過していない同年7月31日に直方市都市計画審議会
が開催され,また直方市が住民に対して旧駅舎に防災上問題がある等の誤
った説明を行ったため,旧駅舎の解体に反対する住民の意見が抑え込まれ
た点で,都市計画決定に当たり住民の意見を反映させる措置を講じるべき
ことを定めた都市計画法16条及び17条の趣旨に反すると主張する。
しかしながら,乙28号証及び甲54号証(11枚目,16枚目,47
枚目等)によれば,旧駅舎の解体に反対し,保存及び有効活用を望む意見
書が直方市に相当数寄せられた事実が認められ,旧駅舎の解体に反対する
意見が抑え込まれていたとまではいえないから,原告らの主張は採用でき
ない。
⑵都市計画法18条2項違反について
ア都市計画法の規律
都市計画法は,都道府県が都市計画の変更を行う場合に,都道府県都市
計画審議会の審議を経てこれを行うべきことを定めているが(都市計画法
18条1項,21条2項),その趣旨は,都市計画の変更においては,各種
行政機関の調整,相対立する住民の利害の調整,利害関係人の権利,利益
の保護といった種々の要請を考慮する必要が生じることから,都道府県都
市計画審議会という第三者機関の審議を経ることを義務付けることにより,
都道府県の都市計画変更の判断が適正に行われることを手続的に保障する
ことにあるものと解される。
したがって,都道府県都市計画審議会における審議が適正に行われたか
どうかは,都市計画の変更手続における極めて重要な要素として,都市計
画の変更手続の有効要件となるものと解すべきであって,同審議会の審議
手続に著しい瑕疵がある場合には,都道府県の都市計画の変更に関する判
断にも当然に重大な影響をもたらすものとして,同審議手続は,都市計画
法18条1項又は21条2項の規定に違背する違法なものとなるというべ
きである。
また,都市計画法は,都市計画を変更しようとする場合に,当該都市計
画案を公衆の縦覧に供するよう定めるとともに,関係市町村の住民及び利
害関係人が縦覧に供された都市計画案について都道府県(市町村の作成に
係る都市計画案については市町村)に意見書を提出することができる旨及
び都道府県は同意見書の要旨を都道府県都市計画審議会に提出しなければ
ならない旨を定めているが(都市計画法17条1,2項,18条2項,2
1条2項),これは,関係市町村の住民及び利害関係人の意見を上記審議会
における重要な判断資料とするものであるから,同審議会に提出された意
見書の要旨が実際に提出された意見書の内容と異なり,審議会の結論に影
響を及ぼすような不正確,不公正なものであった場合には,同審議会の審
議手続には著しい瑕疵があることになるから,適正な審議が保障されなか
ったものとして,上記審議手続が違法とされることがあるというべきであ
る。
イ本件への当てはめ
原告らは,本件意見書の中に同一の内容かつ類似した筆跡のものが多数
存在することから,直方市が同一人に複数の意見書を提出させ本件都市計
画変更に賛成する意見を水増しした結果,福岡県都市計画審議会に提出さ
れた意見書の要旨には住民の意見が正確に反映されていない旨主張し,そ
れに沿う証拠として本件意見書中7通が同一人の手による可能性が高い筆
跡であるとの筆跡鑑定書(甲66号証)を提出する。
確かに,本件意見書の中には同一の内容を類似の筆跡で記載したものが
見受けられるが,仮にそれらを同一人が記載していたとしても,直ちに直
方市がその者に意見書の作成を指示したとは推認できない。
また,都市計画法18条2項は,前記のとおり,意見書の原本や,意見
書の数に関する情報ではなく,意見書の要旨を都道府県都市計画審議会に
提出すべきことを定めているから,都市計画法が同審議会に対し意見書の
数による多数決を前提とする審議を要請しているとは到底解されない。
したがって,作成された意見書の要旨が上記審議会の結論に影響を及ぼ
すような不正確,不公正なものであったかは,意見書の多寡を問わず,実
際に提出された意見書の内容が過不足なく反映されているか否かの見地か
ら判断されるべきである。
このような見地に立ち,実際に本件意見書(甲54号証)と直方市が作
成した意見書の要旨(乙28号証)を対照すると,旧駅舎の解体に反対す
る意見書については,その数が1通であっても,旧駅舎がアイストップの
役割を果たす街のシンボルであることを指摘するもの,他の建造物の例を
挙げて保存活用を希望するもの,記念館又は憩いの場としての活用を提案
するもの,あるいは旧駅舎を残したままエレベーターの設置を希望するも
の等,意見の内容が旧駅舎の保存活用を望む他の意見と区別可能な程に詳
細にまとめられている反面,本件都市計画に賛成する意見であっても,原
告らが指摘するような類似内容の意見書は,通数こそ28件と記載されて
いるものの,その内容については,1日も早い着工,完成を望む旨,意見
書の内容どおりに簡潔に記載されている事実が認められる。したがって,
意見書の要旨について,本件意見書の具体的内容に反して,旧駅舎の解体
に反対する意見が不当に反映されていない,又は本件都市計画に賛成する
意見が不当に重く扱われているとまで評価することはできない。
また,甲41号証(7枚目から10枚目)によれば,直方市の担当者が,
直方市都市計画審議会において,提出した意見書の要旨(乙28号証)に
記載された個々の具体的な意見を,その件数の多寡にかかわらず全て口頭
で紹介した上,それぞれに対する直方市の対応を説明したと認められるが,
同様の説明が福岡県都市計画審議会においても行われたとすれば,なおさ
ら,意見書の要旨が審議会の結論に影響を及ぼすような不正確,不公正な
ものであったと評価することは困難である。
ウ小活
以上のとおり,直方市が作成した意見書の要旨が,実際に提出された意
見書の内容と異なり,それが提出された福岡県都市計画審議会の結論に影
響を及ぼすような不正確,不公正なものであったとはいえないから,都市
計画法18条2項に関する原告らの主張には理由がない。
⑶都市計画法21条1項違反について
ア判断基準
都市計画法は,都市計画について,健康で文化的な都市生活及び機能的
な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条),都市施設の整備
に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なも
のを一体的かつ総合的に定めなければならず(13条1項柱書き),都市施
設について,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切
な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良
好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項11号),
このような基準に従って都市施設の規模,配置等に関する事項を定めるに
当たっては,当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,
政策的,技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得な
い。
そうすると,このような判断は,これを決定する行政庁の広範な裁量に
委ねられているというべきであって,裁判所が都市施設に関する都市計画
の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更
が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な
事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,
又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程におい
て考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし
著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し
又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当
である。(最高裁平成18年11月2日第一小法廷判決・民集60巻9号3
249頁参照)
また,この理は,既存の都市計画を変更しないという不作為の適否につ
き判断する場合にも妥当するというべきである。
イ本件への当てはめ
一般に,都市計画を決定又は変更するに当たって,当該都市計画に基づ
く都市計画事業が実施された際に当該事業地に所在する有形文化財に該当
する建造物が被る影響をも考慮することは望ましく,また文化財保護法の
趣旨に合致するといえる。
しかし,都市計画法が,歴史的風致維持向上地区計画の策定において歴
史上価値の高い建造物及びその周辺の市街地が一体となって形成してきた
良好な市街地の環境の維持及び向上並びに土地の合理的かつ健全な利用が
図られるように定めるべきことを規定している(都市計画法13条1項1
6号)外,都市計画の策定に当たり有形文化財が被る影響を考慮すべきこ
とを定めていないことを踏まえれば,そのような考慮をしていないからと
いって,直ちに当該都市計画が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとは
いえない。
そして,旧駅舎が相応の歴史的価値や一定の芸術性が認められる文化財
と評価される余地はあるものの,国宝若しくは重要文化財への指定又は登
録文化財への登録を受けておらず,かつその所有者であるJR九州が解体
撤去に同意していたという前記認定事実に照らせば,Eが旧駅舎の文化的
価値や安価な保存方法につき新たな指摘をした事実を前提にしても,福岡
県が変更しなかった本件都市計画につき,その基礎とされた重要な事実に
誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,
事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮
すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく
妥当性を欠くものと認められる場合に当たるとはいえない。
ウしたがって,福岡県が本件都市計画を変更しなかったことは,都市計画
法21条1項に反せず,違法とはならない。
⑷以上のとおり,本件都市計画が都市計画法に違反するとは言えないから,
本件都市計画の都市計画法上の違法を理由に本件各契約が違法であるとする
原告らの主張には理由がないと言わざるを得ない。
3争点⑶(本件各契約が地方自治法及び地方財政法に違反するか否か)につい

甲28号証によれば,平成23年8月18日に開催された市民フォーラムに
おいて,Eが,旧駅舎を保存するのに数千万円しか要しない旨の発言をした事
実が認められる。
原告らの主張は,つまるところ,この金額と比較して,本件補償契約に基づ
き直方市がJR九州に支払う1億6382万4300円が高額であることから,
本件補償契約を含む本件各契約が地方自治法2条14項及び地方財政法4条1
項に違反するというものである。
しかしながら,地方自治法2条14項は最少の経費で最大の効果を挙げるよ
うしなければならない旨を,地方財政法4条1項は目的を達成するための必要
かつ最少の限度を超えて経費を支出してはならない旨を規定するのみであり,
最大の効果又は達成されるべき目的がいかなるものかについては何ら定めてい
ないから,これらの規定は,複数の効果又は目的の中から,最少の費用で済む
ものを選択すべきことを地方公共団体に義務付けたものであると解することは
できない。
これを本件についてみるに,原告らが比較する2つの支出は,一方が旧駅舎
の保存を,他方が本件事業の実施のため旧駅舎を解体することを,その効果又
は目的とするものであって,挙げるべき効果又は達成されるべき目的を異にし
ているから,仮に旧駅舎の保存に要する費用がその解体に要する費用より安価
であったとしても,旧駅舎の保存を選択することが直方市に義務付けられるも
のではなく,本件補償契約を含む本件各契約が直ちに地方自治法2条14項又
は地方財政法4条1項に反し,違法であるとはいえない。
したがって,この点についての原告らの主張は,理由がなく採用できない。
4争点⑷(本件各支出命令が違法か否か)について
⑴以上のとおり,支出負担行為である本件各契約の締結を違法と評価するこ
とはできないが,仮に本件各契約の締結が違法であるとしても,直ちには本
件各支出命令が違法であるとはいえない。
⑵すなわち,地方自治法242条の2第1項4号に定める普通地方公共団体
の職員に対する損害賠償の請求は,財務会計上の行為を行う権限を有する当
該職員に対して職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の
個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならないから,当該職
員の財務会計上の行為を捉えて上記損害賠償の請求をすることができるのは,
たといこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,その原
因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違
反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である(最高裁平
成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)が,
普通地方公共団体が締結した債務を負担する契約が違法に締結されたもので
あるとしても,それが私法上無効ではない場合には,当該普通地方公共団体
はその相手方に対しそれに基づく債務を履行すべき義務を負うのであるから,
その債務の履行としてされる財務会計上の行為を行う権限を有する職員は,
当該普通地方公共団体において当該相手方に対する当該債務を解消すること
ができるときでなければ,当該行為を行ってはならないという財務会計法規
上の義務を負うものではないと解される。そうすると,普通地方公共団体が
締結した支出負担行為たる契約が違法に締結されたものであるとしても,そ
れが私法上無効ではない場合には,当該普通地方公共団体が当該契約の取消
権又は解除権を有しているときや,当該契約が著しく合理性を欠きそのため
その締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,
当該普通地方公共団体が当該契約の相手方に事実上の働きかけを真摯に行え
ば相手方において当該契約の解消に応ずる蓋然性が大きかったというような,
客観的にみて当該普通地方公共団体が当該契約を解消することができる特殊
な事情があるときでない限り,当該契約に基づく債務の履行として支出命令
を行う権限を有する職員は,当該契約の是正を行う職務上の権限を有してい
ても,違法な契約に基づいて支出命令を行ってはならないという財務会計法
規上の義務を負うものとはいえず,当該職員が上記債務の履行として行う支
出命令がこのような財務会計法規上の義務に違反する違法なものとなること
はないと解するのが相当である(最高裁平成25年3月21日第一小法廷判
決・裁判所時報1576号73頁参照)。
⑶これを本件についてみるに,本件に現れた全ての証拠によっても,直方市
が本件各契約につき取消権若しくは無条件の解除権を有している事実,又は
直方市が本件各契約の相手方に事実上の働きかけを真摯に行えば相手方にお
いて当該契約の解消に応ずる蓋然性が大きかったというような,客観的にみ
て直方市が当該契約を解消することができる特殊な事情は認められない。
この点につき,原告らは,JR九州の代表取締役であるFが,平成23年
4月13日に放送されたテレビ番組において,旧駅舎につき保存の方向で進
めている旨の発言をしていたことから,本件補償契約につき前記特殊な事情
があると主張する。
しかしながら,JR九州は,平成20年8月7日の直方市担当者との打ち
合わせの時点で,既に旧駅舎の現物を保存する意思がないことを表明してい
る(甲46号証の2枚目)外,当庁平成23年第●●●号駅舎取り壊し工
事差し止め仮処分申立事件において,JR九州が本件補償契約に基づき旧直
方駅舎を取り壊すことを前提にした準備書面を前記番組が放送された後であ
る平成23年8月10日付けで作成している(乙37号証)と認められるか
ら,原告ら主張の上記事実を前提としても,前記特殊な事情があったとはい
えない。
⑷したがって,原告らの主張のうち,本件各契約の違法に基づき本件各支出
命令の違法を主張する部分は,この点からも理由がないと言わざるを得ない。
第4結論
以上の次第で,本件各支出命令が違法であるとはいえないから,Bの責任に
ついては判断するまでもなく,原告らの請求には理由がないからこれを棄却す
る。
なお,本件訴訟のうち原告Aの請求に関する部分は,平成25年8月4日同
人の死亡により当然に終了している。
よって,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官永井裕之
裁判官林潤
裁判官太田慎吾

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