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平成27年3月5日宣告裁判所書記官
平成26年(わ)第1494号受託収賄,事前収賄,公職にある者等のあっせん
行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件
判決
主文
被告人は無罪。
理由
第1はじめに
1公訴事実の要旨
本件各公訴事実の要旨は「被告人は,平成22年10月13日から平成2,
5年5月8日までの間,岐阜県β市議会議員(以下「市議会議員」という)。
として,岐阜県β市議会(以下「市議会」という)における質問,質疑及び。
発言等の権限を有し,同年6月2日施行の岐阜県β市長選挙(以下「市長選」
という)に当選して岐阜県β市長(以下「市長」という)に就任した後は,。。
市長として,岐阜県β市(以下「β市」という)が行う契約の締結等の事務。
を統轄掌理する職務を行うものであるが
第1同年3月7日,δ市a区bc丁目d番e号所在の飲食店Aにおいて,株式会
社Bの代表取締役であるCから,株式会社Bがβ市との間で災害時の給水設
備である自然循環型雨水浄水プラント(以下「浄水プラント」という)を。
β市立の学校に設置する契約が締結できるように市議会議員としての権限を
行使するとともにβ市職員(以下「市職員」という)に働きかけるなど有。
利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾し,同月
14日,β市γ町v番地w所在の市議会議場において,同年の市議会第1回
定例会本会議で,β市に対する質疑を行い,β市での浄水プラントの導入を
検討されたい旨発言し,同月22日,δ市f区gh丁目i番j号kl階所在の飲食
店Dにおいて,Cから,前同様の有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨
の請託を受け,これを承諾し,同月25日頃,β市γ町v番地w所在のβ市
役所(以下「市役所」という)において,防災対策,消防防災施設の設置。
(「」及び管理等の職務に従事していたβ市総務部防災安全課以下防災安全課
という)E課長に対し,浄水プラントの資料を交付して検討を促し,市議。
会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して,β市が株
式会社Bと浄水プラントを設置する契約を締結するように申し入れてあっせ
んした上,同年4月2日,β市m町n丁目o番p号所在の飲食店Fにおいて,C
から,前記質疑,発言及びあっせんをしたことの報酬並びに今後も同様の取
り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,
現金10万円の供与を受け,もって自己の職務に関し,請託を受けて,賄賂
を収受するとともに,自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職
務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんを
することにつき,その報酬として財産上の利益を収受し
第2前記第1記載のとおり,Cから,株式会社Bがβ市と浄水プラントを設
置する契約が締結できるように市職員に働きかけるなど有利かつ便宜な取り
計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾していたところ,同月15
日頃,市役所において,E課長に対し,浄水プラントの件を早急に取り組む
ように要望した文書を送付し,市議会議員としての質疑及び質問等の権限に
基づく影響力を行使して,β市が株式会社Bと浄水プラントを設置する契約
を締結するように申し入れてあっせんした上,同月25日,δ市q区rs丁目t
番u号所在の飲食店Gにおいて,Cから,市議会議員として引き続き市職員
に働きかけて株式会社Bがβ市と浄水プラントを設置する契約が締結できる
ように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けるとともに,
市長選に立候補して市長になろうとしていた被告人が市長に就任した後も前
記契約が締結できるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託
を受け,これを承諾し,同日,飲食店Gにおいて,Cから,市議会議員とし
て前記あっせんをしたことの報酬,今後も同様のあっせんをすることの報酬
及び市長に就任した後も前記有利かつ便宜な取り計らいをすることの報酬と
して供与されるものであることを知りながら,現金20万円の供与を受け,
もって自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさ
,せるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをすることにつき
その報酬として財産上の利益を収受するとともに,公務員になろうとする者
が,その担当すべき職務に関し,請託を受けて,賄賂を収受した」という。
ものである。
2本件における争点は,①Cから被告人に対する2度の現金授受(以下「本件
各現金授受」といい,検察官が主張する平成25年4月2日の飲食店Fにおけ
る現金授受を「第1現金授受,同月25日の飲食店Gにおける現金授受を「第」
2現金授受」という)の存否,②Cから被告人に対する依頼の内容及び同依頼。
が請託と評価できるか否か,③被告人が市議会において浄水プラントの導入を
促す質疑及び発言を行ったと認められるか否か,④被告人のE課長に対する働
きかけが市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したものといえるか否
かであり,これらの点に関する当事者の主張は後記第3のとおりである。
当裁判所は,争点①の本件各現金授受に関するCの公判供述について,信用
性につき疑問があり,検察官が主張するその他の間接事実を考慮しても,本件
各現金授受のいずれについても認めるには合理的な疑いが残ることから,被告
人は無罪であると判断したので,以下,その理由を説明する。
第2前提事実
以下の事実は,弁護人及び被告人とも争っておらず,掲記した関係証拠によ
り明らかに認められる(以下において,証拠として掲記した「甲」の数字は採
,「」,「」用された検察官請求証拠の弁の数字は採用された弁護人請求証拠の職
の数字は職権により取り調べた証拠のそれぞれ証拠等関係カードに記載された
証拠番号を表す。なお,以下,特に断りのない限り,平成25年の記載は省略
し,同年については「同月」の記載は用いない。。)
1当事者等
(1)被告人は,平成22年10月13日に市議会議員に就任し,市議会議員
を議員辞職した5月8日までの間,市議会議員として,市議会における議案
,,,,(,提出権動議発動権表決権発言権質問権等の権限を有していたなお
市議会規則では,質疑に際しては発言通告書をあらかじめ提出することとさ
れている。被告人は,同辞職後,9月に任期満了となる前市長Hの病気に。)
よる辞職に伴い施行された,5月26日告示,6月2日執行の市長選に出馬
して当選し,同日付けで市長に就任し,同就任以降,市長として,一般的職
務権限のほか,防災安全課に防災対策並びに消防防災施設の設置及び管理に
関する事務を,β市総務部総務課に入札及び契約に関する事務を各分掌させ
るとともに,部下職員を指揮監督して,これら各事務を掌理する等の具体的
職務権限を有していた(甲1,2,40,41)。
(2)Cは,平成21年10月20日,株式会社Bを設立し,平成22年3月
26日,株式会社Bの代表取締役に就任した。株式会社Bは,地下水や雨水
を浄化して飲料水化する濾過機のレンタル事業等を業とする株式会社であっ
た。Cは,かねてより,δ市議会議員に働きかけるなどして,プールに溜ま
った雨水を浄化する濾過機と停電時でも稼働する太陽光発電パネルを一体化
した浄水設備である浄水プラント(なお「自然循環型雨水浄水プラント」と,
の名称は,Cが付した名称である)をレンタルする事業(以下「浄水プラン。
ト事業」という)等を進めていたものの,2月当時,δ市における浄水プラ。
ント事業等は進展せず,契約締結には至っていなかった(C及びIの各公判。
供述,甲3)
(3)Cは,平成23年9月ないし10月頃,知人のJの紹介で,Iと知り合
った。Iは,δ市議会議員とも人脈があり,Cは,株式会社Bの浄水設備を
δ市の施設に導入してレンタル契約を締結してもらうため,Iに対して活動
費を渡すなどしてδ市議会議員等に対する働き掛けを依頼し,Iも同依頼に
基づき活動していた(C及びIの各公判供述)。
被告人とIは,2月に知り合った。また,Cは,同時期頃,Iを介して,
市議会議員である被告人の存在を知るようになり,β市に浄水プラントを導
入してレンタル契約を締結してもらうため,Iから被告人の紹介を受けるこ
ととなった(被告人,C及びIの各公判供述,甲24,職1)。
23月7日の飲食店Aにおける会合等
(1)被告人,C及びI(以下「3人」という)は,3月7日昼頃,Cが予。
約した飲食店Aに集まり食事をした。なお,被告人とCは,この日が初対面
であった。Cは,その席において,被告人に対し,Cがδ市教育委員会宛に
作成した浄水プラント事業に関する資料を渡し,その内容を説明するなどし
た(被告人及びCの各公判供述,甲4,5,24,33)。
(2)3月7日,Cは,被告人に対し「本日はお忙しい中,足をお運びいた,
だき誠にありがとうございました。微力ながら議員のお力になれることがあ
りましたら,何なりと遠慮なくおっしゃって下さい。つまらないことでも結
構です。遠慮なくおっしゃって下さい。役所から問い合わせがございました
,。」。()らすぐに報告させていただきますとの文面のメールを送信した職1
(),,,3被告人は同日又はその翌日に前記資料を持参して防災安全課を訪れ
同課職員に対し,同資料を手渡して,同課において浄水プラント事業の検討
を行うよう依頼した。また,その頃,同職員を介して同資料を受け取ったE
課長は,同資料に目を通した上で,同資料を同課内において回覧に付した。
(甲33,35,77)
3被告人の議会における発言等
(),,,,1被告人は3月11日付けで市議会議長に対し予算関係議案に関し
議案質疑発言通告書を提出したが,同通告書中には,「防災施設整備事業につ
いて」との項目を付した下記内容の記載がある(甲28)。

防災施設整備事業について
①今回の整備で,どれくらいの備蓄が可能になるか。
②災害対策に,民間が開発した新技術等を導入する考えは。
(2)3月14日に開催された市議会定例会議において,被告人は,予算関係
議案に関して質疑を行ったが,その一連の質疑の中で,下記内容の被告人に
よる質問と当時のβ市総務部長Kによる答弁が行われた(甲29,32)。

()。,被告人175ページの防災施設整備事業についてお伺いします今
地域防災計画の案がパブコメでも出されているところだと思いますが,それ
にあるような備蓄量には今回の予算ではどれぐらい充填ができるようになる
のかということと,もう1点が,これからそのような備蓄というか備えをし
ていく上で,東京とかδとか進んだ都市部のほうの備蓄品を見ていますと,
地方に比べて最新鋭というかすぐれた備えができているんじゃないかなとい
うのを拝見しますので,費用の面は当然考慮した上でなんですが,そういう
新しいものをできるだけ今後購入するのであれば導入するという考えがある
のかどうか,お伺いします。
(総務部長K)まず,備蓄の予定につきましては,非常用食料としてアル
ファ米を400食,それからビスケットを1,750食,それから毛布を1
00枚,子供用おむつを5,400枚,それから大人用おむつを4,500
枚,生理用品を4,500枚等のほか,粉ミルクや離乳食,トイレットペー
パー,簡易トイレ等の購入を予定しております。これだけではとても十分で
はありませんし,また賞味期限等がある食料につきましては毎年少しずつ買
っていって費用の平準化を図っていくということも考えておりますので,よ
ろしくお願いします。
また,新しい技術の導入ということで議員さんからもちょっと御提案いた
だいておりますけれども,それはプールにたまる雨水の活用ということで御
提案いただきました。これについては環境に大変優しいということもありま
すし,災害時においても有効な株式会社Bとなるということで,学校の現在
の施設ですね,それに簡単に連結ができるかどうか,また維持管理の方法な
どについても,教育委員会とか,また学校といろいろ協議をしてまいります
し,また業者のほうにもいろいろとこの辺のお話も今後伺って,本当に有効
なものであったら導入に向けて検討をしていくということで,よろしくお願
いしたいと思います。
(被告人)まず,備蓄品についてですが,答弁にあったように,徐々に備
えていかないと賞味期限等があるのは承知していますが,これも自治体によ
っては,福祉施設等と上手なバランスをとって,結構面倒なことかもしれま
せんが,ちゃんとした量は備えながらも回していけるような計画ももしでき
たらお願いしたいと思いますし,2点目の新技術の話ですが,この前テレビ
で見たのでは,マンホールを簡易式トイレにするだとかいろいろな取り組み
が,今アイデアがありますので,しっかりした精査をしていただいた上で,
導入できるものは導入するという考えを検討していただきたいと思います。
以上です。
43月22日の飲食店Dにおける会合等
3月22日午後2時過ぎ頃,3人は,Cが予約した飲食店Dに集まり食事を
した(被告人及びCの各公判供述,甲6,7,24)。
53月26日,E課長は,Cに対し,3月27日に市役所において浄水プラン
ト事業に関する打ち合わせを行いたい旨の連絡を入れた。そこで,Cは,同日
午前10時頃,防災安全課宛の浄水プラント事業の資料を持参して市役所に赴
き,E課長らに対し,同資料を渡して,株式会社Bの浄水プラントの仕組み等
について説明をした(Cの公判供述,甲33,34)。
64月1日から4月2日にかけての株式会社B名義の銀行口座の入出金状況等
4月1日,Cの知人であるLが経営する株式会社M名義でN信用組合O支店
に開設された普通預金口座から,Cが管理する株式会社P銀行Q支店に開設さ
れた株式会社B名義の普通預金口座に15万円が振込送金された。4月2日午
前8時57分頃,同行R支店に設置されたATMにおいて,同口座から15万
円が出金され,同日午前8時59分頃,同ATMを使用して,C名義で,株式
会社S銀行O支店に開設されたT名義の普通預金口座に5万円が振込送金され
た(甲12)。
74月2日の飲食店Fにおける会合等
(1)4月2日午前8時25分頃から同日午前11時56分頃にかけて,Cと
被告人との間で,次の内容のメールがやり取りされた(職1)。
ア同日午前8時25分頃のCから被告人への送信メール
「おはようございます。朝から申し訳ございません。ご相談とお渡しした
い資料がございます。どの時間でも結構ですので,少しお時間頂けません
でしょうか?βの方に伺わせて頂きますので,宜しくお願い致します」。
イ同日午前8時48分頃の被告人からCへの送信メール
「御世話になります!今日は正午なら何とかなりますが,いかがです
か!?」
ウ同日午前8時49分頃のCから被告人への送信メール
「ありがとうございます。正午にどちらに伺えば宜しいでしょうか?」
エ同日午前8時59分頃の被告人からCへの送信メール
市役所の近くの飲食店Fではいかがですか?わざわざすいません()「,m__
」m
オ同日午前9時頃のCから被告人への送信メール
「了解致しました。宜しくお願いします」。
カ同日午前9時2分頃の被告人からCへの送信メール
「中に入る時間はないと思うので外で宜しくお願いします!」
キ同日午前9時3分頃のCから被告人への送信メール
「了解致しました」。
ク同日午前11時52分頃のCから被告人への送信メール
「到着致しました」。
ケ同日午前11時56分頃の被告人からCへの送信メール
「まもなく着きます!」
(2)同日,CがIに対して,飲食店Fにおいて被告人と会う予定がある旨を
伝えたところ,IがCに同行する旨申し出たことから,CとIは,株式会社
Bの事務所からCの運転する自動車に乗って飲食店Fに向かった。同日正午
頃,3人は,飲食店Fに入店した上,飲食店Fの座席番号2-9のテーブル
席に着座し,各人がいずれもランチ及びドリンクバーを注文して飲食し,同
日午後零時45分頃,Cが3人分の飲食代をまとめてクレジットカードで支
払い,3人は飲食店Fを退店した(被告人及びCの各公判供述,甲8,9,。
24,85,90)
(3)同日午後5時40分頃から同日午後7時3分頃にかけて,Cと被告人と
の間で,次の内容のメールがやり取りされた(職1)。
ア同日午後5時40分頃のCから被告人への送信メール
「本日はお忙しい中,突然申し訳ございませんでした。議員のお力になれ
るよう,精一杯頑張りますので宜しくお願いします」。
イ同日午後7時3分頃の被告人からCへの送信メール
「こちらこそわざわざありがとうございます!全ては市民と日本のためな
ので宜しくお願いいたします!」
84月4日から飲食店Gにおける会合までのできごと
(1)4月4日から4月13日にかけて,3人の間で,防災安全課に提出する
PTA対策資料等の作成及びその修正等に関するメールのやり取りが続けら
れたほか,被告人からCに対し,E課長の対応に不満を感じている内容のメ
ールが送信された(職1)。
(2)4月8日頃,Cは,市役所を訪れてE課長と面談し,E課長に対し,β
市教育総務課宛の浄水プラント事業に関する資料を手渡した(甲34)。
(3)被告人は,β市は浄水プラント事業に喫緊に取り組むべきであることな
どが記載された防災安全課宛の文書を作成した上,4月15日,E課長に対
し,前記文書を手渡し,翌日までにβ市としての対応につき回答するよう求
め,4月16日夜にE課長から浄水プラントを導入するに当たっての問題点
,,,の指摘をメールで受けるとCとメールで連絡を取り合った上4月17日
E課長に対し,指摘を受けた問題点に意見を付した上での更なる回答及び株
式会社Bによる説明会の開催を求める内容等が記載されたメールを送信する
などして,浄水プラント事業のβ市への導入を働き掛ける行動を取った(甲。
30,34,職1)
94月25日の株式会社B名義の銀行口座の入出金状況等
同日午前10時46分頃,株式会社T銀行U支店に設置されたATMにおい
て,Cが管理する同行V支店に開設された株式会社B名義の普通預金口座から
90万円が出金された。また,同日午後3時15分頃,株式会社W銀行V支店
に設置されたATMにおいて,Cが管理する同行X支店に開設された株式会社
B名義の普通預金口座に70万円が入金された(甲13)。
104月25日の飲食店Gにおける会合
同日夜,3人は,飲食店Gに順次集まり,飲食店Gの座席番号44の掘りご
たつ式の座敷に着座して飲食をした。Cは,同日午後10時41分頃,Iに対
し「そろそろ,おいとまします。議員に具体的に,どう行動すべきかを教授,
しておいて下さい。お願いします」との内容のメールを送信した上で先に退。
店した(Cの公判供述,甲10,11,24)。
11飲食店Gでの会合後のCと被告人との間のメールのやり取り
4月26日,Cと被告人との間で,次の内容のメールがやり取りされた(職。
1)
(1)同日午前8時49分頃のCから被告人への送信メール
「昨晩はありがとうございました。市長選頑張って下さい。お手伝いや,ご
協力,そして・・・。なんでも遠慮なくご相談下さい」。
(2)同日午後零時31分及び32分頃の被告人からCへの送信メール
「昨晩はありがとうございました!本当にいつもすいません。昨日は盛り上
がりましたが現実はそんなに簡単なものではないので,見極めながら興して
いきますので,色々お力お借りしますが宜しくお願いします!」
(3)同日午後零時32分頃のCから被告人への送信メール
「かしこまりました」。
125月20日,市役所において,E課長,C,β市立Y中学校の校長らが出
席し,Cが浄水プラントの説明を行う説明会が実施された(甲34,37)。
13被告人は,市長就任後も,β市への浄水プラント事業の導入に関して,総
務部長KやE課長に対してその進捗状況を確認したり,設置予定場所となって
いたY中学校に下見に出向くなどして,浄水プラントの導入を働き掛ける行動
を取った(甲32,34,37)。
147月31日付けで,株式会社Bとβ市との間において,浄水プラントをY
中学校に設置して2か月間の実証実験を行う旨の確認書が交わされ,8月12
日,Y中学校に浄水プラントが設置されたが,その後,同実証実験期間は平成
26年3月末まで延長された(Cの公判供述,甲32,34,36,39)。
1511月4日,3人は飲食店Gに集まり食事をした(被告人及びIの各公。
判供述,職1)
16Cは,株式会社Bの事業に関し,株式会社Z銀行の担当者に嘘を言うなど
して1000万円をだまし取るなどしたとして,平成26年2月6日,逮捕さ
,,,。,,れ上記詐欺等を含む公訴事実により同月26日起訴されたまたCは
株式会社Bの事業に関し,株式会社W銀行の担当者に嘘を言うなどして110
0万円をだまし取ったとして,同年3月5日,再逮捕され,上記詐欺の公訴事
実により,同月26日,追起訴された。さらに,Cは,被告人の弁護人らの告
発に基づき同年9月4日にδ地方検察庁に受理された,株式会社Bの事業に関
して株式会社W銀行X支店の担当者に嘘を言うなどして合計4000万円をだ
まし取った詐欺等の公訴事実により,同年10月20日に追起訴された(弁。
2,86,87)
第3当事者の主張
1争点①(本件各現金授受の存否)について
(検察官の主張)
(1)Cの公判供述によれば,被告人は,Cから,4月2日,飲食店Fにお
いて現金10万円を,4月25日,飲食店Gにおいて現金20万円をそれぞ
れ収受したことが認められ,同供述は以下のとおり信用できる。
ア客観的証拠や関係者の公判供述等と符合していること
(ア)第1現金授受について
①供与した現金の原資が裏付けられていること
第1現金授受の前日である4月1日,株式会社M名義の口座から株
式会社B名義の口座に15万円が振り込まれ,第1現金授受の当日,
同口座から15万円が出金され,その直後5万円が別口座に振り込ま
れている。このように,第1現金授受の直近にその原資の裏付けがあ
る。
②メールと符合していること
第1現金授受の当日である4月2日にCと被告人との間で交わされ
たメールをみると,Cが相談と渡したい資料があるとの口実で被告人
を呼び出したことや,Cと被告人が現金授受を前提とする更なる依頼
や感謝の言葉を交わすやり取りがされている。
③飲食店Fのジャーナルと符合していること
,,,,Cの公判供述は座席位置注文内容精算時刻及び方法について
いずれも飲食店Fのジャーナルと合致している。
④被告人宅から押収された資料と符合すること
Cが現金とともに被告人に渡したと供述している資料は,被告人宅
。,から押収された紙ファイルに綴られていた書面と合致しているまた
この資料が,第1現金授受の時点でCが被告人に早急に直接手渡さな
,。ければならないものではなかった点もCの公判供述と合致している
(イ)第2現金授受について
①供与した現金の原資が裏付けられていること
第2現金授受の当日である4月25日,株式会社B名義の口座から
90万円が出金され,同日,他の株式会社B名義の口座に70万円が
入金されている。このように,第2現金授受についてもその直近に原
資の裏付けがある。
②メールと符合していること
Cは,その翌日である4月26日,被告人に対し「お手伝いや,ご,
協力,そして・・・」などと,飲食店Gで現金を渡したことを前提に。
更なる資金援助を意味する思わせぶりなメールを送信している。そし
て,これに対し,被告人は,同日「本当にいつもすみません」など,。
と,Cから2回にわたって現金の供与を受けたことに対する感謝の言
葉と解されるメールをCに送信している。
③丙の公判供述と符合していること
Cの公判供述は,飲食店Gでの座席位置や市長選のことが話題にな
ったことなど,飲食店Gの店長代行である丙の公判供述と合致してい
る。さらに,丙は,第2現金授受の当日,はっきりとは覚えていない
が,Iが席におらず,Cと被告人が二人だけの場面があったような記
憶がある旨の供述をしており,Cの公判供述と整合している。
④Jの公判供述と符合していること
Jは,Cが,Jに対し,4月下旬頃,本気で被告人に現金を渡した
がっている様子で,被告人は市長選で当選確実で,恩を売るために被
告人に現金を渡したい旨発言し,さらには,後日,貸してもらった現
金を被告人に渡した旨発言したことを供述している。これらCの発言
は,いわゆる犯行告白とも評価できる。
(ウ)本件各現金授受の双方について
①戊の公判供述と符合していること
戊は,8月22日,Cと一緒にY中学校に設置された株式会社Bの
浄水プラントの視察を行った際,Cに対し「よくこんなとこに付けれ,
たね」と話したところ,Cは「接待はしてるし,食事も何回もしてる,
し,渡すもんは渡してる「30万くらい」と言っていた旨供述して」,
いる。かかるCの発言は,いわゆる犯行告白と評価できる。
②被告人の言動と符合していること
被告人は,6月21日,Iに対し「Cさんとは,ずっと連絡とっ,
てないって事にしておいたほうが良いですよね?」と記載したメール
を送信している。このような後ろめたさを示す被告人の言動は,現金
授受を認めるCの公判供述と符合している。
③被告人の資金繰り状況と符合していること
被告人は,当時,臨時収入であった国税還付金を除くと,支出が収
入を上回っており,口座の合計残高は,市議会議員の給与の支給前に
なると,十数万円から20万円程度まで減っていた。その他,ガソリ
ン代の滞納があったことや生活費を家にほとんど入れていなかったこ
となどからすると,被告人の資金繰りが楽ではない状況にあったこと
は明らかである。しかも,被告人は,第1現金授受の2日後の4月4
日,経営していた学習塾の口座に現金9万5000円を入金し,第2
現金授受の5日後の4月30日,同じくこの口座に現金8万6000
円を入金しているところ,これらの入金について,被告人は明確な説
明をしていない。
イ供述内容が具体的かつ自然であること
Cの公判供述は,前記各現金授受の場面,現金授受に至った経緯及びそ
の後の状況等につき具体的かつ詳細に供述しており,その内容は当時の心
境も含め自然である。
すなわち,Cは,第1現金授受及び第2現金授受のいずれも,被告人が
Cの依頼を受けて迅速な動きをしてくれたことの謝礼とともに,今後も同
様に迅速な動きを継続させてほしいとの気持ちから,現金を供与しようと
考えた旨供述しているところ,そのように考えることは,当時の株式会社
Bの事業の進展状況とも符合しており,自然である。
また,第1現金授受及び第2現金授受双方ともCと被告人との間で短い
やり取りがあって被告人が別段驚くでもなくすんなりと現金を受け取った
というCの公判供述は,その場の状況からして極めて自然である上,被告
人の資金繰り状況や脇の甘さを示す種々の行動とも整合している。
さらに,被告人に現金を供与することをIには知られたくないと思って
おり,そのため,Iが席を外したときに被告人に現金を渡した旨の公判供
述も,具体的かつ自然である。なお,Iは,飲食店F及び飲食店Gにおけ
る会合中,席を外したことは一度もない旨供述しているが,席を外してい
ないことだけを明確に記憶し,その他の事柄を覚えていないとする同人の
供述内容は不自然であり,捜査段階においては席を外したかどうか覚えて
いないと供述していたことからすると合理的理由なく変遷している上,信
用できる丙の公判供述にも反するから,信用できない。
ウ供述するに至った理由が自然であること
(ア)供述するに至った理由が十分に納得できること
Cは,前記各現金授受につき供述をするに至った経緯として,警察官
に,嘘つき父ちゃんでは娘さんに顔を合わせられないなどと言われ,話
すべきかどうかを何回も自問自答したが,やはり本当の反省をするため
には全て話して全ての罪を償い,家族とやり直したいと思った旨供述し
ており,かかる経緯は自然である。
(イ)虚偽の供述をする理由がないこと
Cには,虚偽の供述をして被告人を陥れる動機はない。
なお,弁護人は,Cには起訴されていない融資詐欺が存在しており,
その捜査経緯が不自然であるなどとして,Cは融資詐欺の捜査処理で有
利な取り計らいを受けることを期待して虚偽の贈賄事実を自白した,い
,,わゆる闇取引が存在した旨主張しているがかかる闇取引など存在せず
捜査は適正に行われている。Cによる融資詐欺の可能性がある事案は,
いずれも,期限が到来したものは返済が行われており,総額約3億64
00万円のうち合計約2億3266万円は返済され,完済されていたも
のも多々あった上,当初起訴した2件の事案以外に被害届が提出された
事案はなかった。追起訴をしたもう1件の融資詐欺は,Cが,β市と契
約が締結できた旨装って不正融資を受けたという事案であり,市職員の
事情聴取を行う必要もあったため,本件の贈収賄事件の立件を先行させ
ていたに過ぎない。
Cが捜査機関と接触する前に,J及び戊に対して被告人に現金を渡し
た旨の発言をしていること,前記の融資詐欺の追起訴がされた後に行わ
れたCの証人尋問においてC供述が動揺しなかったことも,闇取引など
なかったことの証左である。
「,,,『。Cが平成26年4月下旬頃留置施設において人数が合わない
どうやって合わせればいいか。取り直しだとものすごい怒られた』など。
という発言をしていた」旨の庚の公判供述については,第1現金授受の
際の飲食店Fの利用人数が3人であったことは遅くとも同月13日には
捜査機関に客観的に判明していたから,同月下旬頃に飲食店Fの利用人
数が二人か3人かという点が問題となっていたとは考えられず,新聞報
道を見て知った弁護人の主張に合わせて虚偽の供述をしているものと考
えられるから,信用できない。また「Cが,被告人の話を出せば詐欺の,
起訴がストップするなどという発言をしていた」旨の庚の公判供述につ
いても,Cを陥れるとともに検察官を困らせたいとの意図に基づき,虚
,。,偽の供述をしているものと考えられるから信用できないしたがって
,。前記庚の公判供述はいわゆる闇取引があったことの証拠にはならない
なお,Cは,庚に宛てた手紙の中で,予想される求刑や検察官との関係
等につき記載しているが,Cは,庚との関係につき,留置施設で出会っ
た相手であり,まともに受け答えをする対象ではなく,前記手紙の記載
についても,庚に話を合わせたり,脚色しつつ反抗的な言葉を使ったり
していた旨説明しており,この説明を踏まえると,前記記載を根拠にC
が検察官から求刑などで有利な取扱いを受けることを期待していたなど
ということはできない。
また,Cに対する証人テストについても適正に行っており,検察官が
Cに弁護人の告発した別件の融資詐欺事案を不起訴にする約束などして
いないことは当然である。
エ供述の経過が自然で内容も一貫していること
捜査段階から公判供述に至るまでの供述経過については,自然な供述経
過をたどっている上,供述内容も,第1現金授受及び第2現金授受につい
ての日時,場所,渡し方,被告人とのやり取り等の根幹部分について一貫
している。内容は徐々に詳細化しているが,捜査過程で証拠収集が進み,
それら証拠により記憶喚起が行われれば,記憶が明確化し供述が詳細化す
ることは当然である。
Cが作成した平成26年3月16日付け上申書(以下「3月16日付け
上申書」という)及び同月17日付け上申書(以下「3月17日付け上申。
書」という)には,第1現金授受に関する記載がない上,Cの同月27日。
付け警察官調書(以下「3月27日付け警察官調書」という)では,第1。
現金授受の際,飲食店FにIがおらず,現金を挟んだ資料は飲食店Dで被
告人に渡した資料と同じものであった旨記載されており,その記載だけを
取り上げ,後に作成された供述調書や公判供述と比較すると,Iの存在や
資料の内容に変遷があるかのようにも見える。しかし,Cの公判供述によ
れば,前記各上申書に第1現金授受の記載がない点については,第1現金
授受が全く記憶になかったわけではなく,被告人に供与した現金の額や場
所等の詳細がはっきりしなかったに過ぎず,第2現金授受の方が市長選の
,,前ということで印象的であったため記憶が明確に残っていたと考えると
当初第2現金授受についての供述及び上申書の作成が先行し,その詳細ま
で思い出せていなかった第1現金授受についての供述及び上申書の作成が
後回しになったということであって,何ら不自然ではない。また,Iの存
在については,Iに現金供与が知られたとしても警察や世間一般に発覚す
るのとはわけが違うというCの心境からすれば,IがいるかどうかはCに
とってそれほど大きな問題ではなく,3月27日付け警察官調書を作成し
た当初の段階で,記憶が曖昧であったとしても無理からぬところである。
,,,,そしてCが同月下旬頃から同年4月上旬頃メールのやり取りを見て
最初に,飲食店Fの駐車場でIとともに被告人を待っていたところ,被告
人が到着して,Iと一緒に車を降りたシーンを思い出したことなどの経緯
も,十分に了解可能である。さらに,前記資料の内容については,Cにと
って資料が重要ではなく,被告人との関係では呼び出すための口実である
とともに現金を紛れさせるための手段にすぎず,どのような資料でも良か
ったという点では一貫している上,このような位置付けからすれば,資料
の内容に関して,当初は記憶が鮮明ではなく,その後,被告人宅から押収
された資料を見て記憶が明確化したという経緯は,自然である。
なお,供述調書に過度に依存することなく公判中心主義,直接主義の下
で重要関係者の公判供述に重きを置いて立証する場合,捜査段階の供述調
書の些細な変遷を取り上げて変遷理由を供述調書に記載することはせず,
そのような変遷が仮に問題とされるのであれば,重要関係者が公判廷で説
明することで供述の信用性の吟味を受けることに委ねるのが相当であり,
そのような考え方に立つと,変遷理由を記載した供述調書が存在しないこ
とを殊更に問題視するまでもない。
,,。また公判供述は弁護人からの反対尋問を受けても全く崩れていない
Cは,第3回公判期日において,4月25日以後は被告人とは会っていな
いかのようにも聞こえる供述をしているが,これは,第3回公判期日にお
ける前記質問を,市長選前の接触状況を聞く質問であると誤解して答えた
に過ぎず,供述の変遷には当たらない。
オ供述態度が真摯かつ誠実であること
被告人をことさら悪く言うことはなく,記憶の濃淡に応じてありのまま
に供述しており,真摯かつ誠実である。
カ以上によれば,Cの公判供述は信用できる。
(2)他方,被告人は,本件各現金授受の事実をいずれも否定しているが,具
体的な状況や客観証拠について,何ら合理的な供述ができておらず,自己に
不利益な事柄については,覚えていない,分からないという逃避的な供述に
終始しているだけであり,このような被告人の弁解は信用できない。
(3)以上によれば,被告人及び弁護人の主張はいずれも現金授受があったこ
との認定を覆すものではなく,本件各現金授受の事実については,信用性に
疑いの余地がないCの公判供述及びそれを裏付ける客観的証拠等から明らか
である。
(弁護人の主張)
(1)被告人は,Cから現金を収受したことはなく,Cの供述は虚偽供述であ
って,信用できない。
アCの贈賄供述の動機と「闇取引」の疑い
Cは,自治体の首長等の贈収賄事件の立件を目指す警察に協力すること
で警察の捜査を贈収賄に集中させ,融資詐欺事件の立件及び起訴の範囲を
最小限にとどめ,最終的に自分に対する処罰が軽くなることを期待して,
被告人に賄賂を渡した旨の虚偽の自白を行った可能性が極めて高い。さら
には,Cと検察官の間に,融資詐欺の起訴を最小限にとどめることの見返
りとして,贈賄自白を維持し本件の公判における検察官立証に協力すると
の明示又は黙示の約束があったものと考えられ,少なくとも,Cが,被告
人の有罪立証に協力することで自らの捜査や事件処理に関して有利な取扱
いを受けることを期待し,一方で,検察官側が,Cに対する捜査や処分に
おいて有利な取扱いを行うことで被告人の有罪立証のために協力させると
いう関係が続いてきたことは明らかである。
実際にも,総額3億7850万円にのぼる融資詐欺を概括的に認めるC
の警察官調書が平成26年3月28日付けで作成されているにもかかわら
ず,検察官は,当初,同月26日までに,被害額合計2100万円分の2
件の融資詐欺につき起訴したのみであり,その余の融資詐欺の事実につい
ては弁護人の告発があるまで半年以上放置し,事実上,融資詐欺について
の起訴を前記2件分で終了しようとしていたのであり,Cは,検察官のか
かる不適切な事件処理によって恩恵を受けた。なお,弁護人は,2回にわ
たり,Cの融資詐欺の余罪について告発を行ったところ,検察官は,この
うち,同年9月4日受理にかかる告発事実については同年10月20日付
けで追起訴を行ったが,同月27日受理にかかる告発事実については,嫌
疑不十分を理由として同年12月10日付けで不起訴処分とした。この不
起訴処分についても,検察官が,Cが検察官立証に協力しなくなることを
恐れたからである。そして,検察官は,Cとの間で,当公判廷における同
人の証人尋問期日に向けて,連日長時間にわたって証人テストを行ってい
たところ,その内実は供述の確認の限度を超えた供述内容の作出や弁護人
の反対尋問に対する対策協議に近いものであった。
イ供述経過及び供述内容の変遷等
(ア)3月16日付け上申書及び3月17日付け上申書には,第1現金授
受に関する記述がない。第2現金授受については記憶があるのに,初め
て現金供与を行い印象深いはずの第1現金授受についてはこの時点で記
憶がないということは極めて不自然である。
また,3月27日付け警察官調書では,被告人と最初に会ったのは3
月22日の飲食店Dである旨,飲食店Fでは被告人とCの二人で会った
旨記載されているが,実際は,最初に会ったのは3月7日の飲食店Aで
あり,飲食店Fにおける会合にはIが同席していた。なお,Cの平成2
(「」。)6年5月1日付け検察官調書以下5月1日付け検察官調書という
には,飲食店Fでの会合時にIが同席した旨記載されており,非常に重
要な点に関して変遷があるが,記憶喚起の経緯や変遷理由についての説
明が記載された調書は存在しない。これは,Cが,自ら記憶を喚起した
のではなく,飲食店Fでの会食の人数が3人であったことを示す客観的
証拠に基づき,これと辻褄が合うように供述を変更したからである。ま
た,Iの同席を前提とすると,贈収賄事件の立件が極めて困難になるの
で,同人が同席していないとの前提で供述調書を作成したという捜査側
の事情があったのだとすると,この点について調書で訂正しなかったこ
とも理解できる。
仮に,捜査段階における飲食店Fでの人数に関するCの供述経過が,
Cが公判廷で述べたように,自ら3人で会ったことの記憶を喚起した後
に飲食店Fのジャーナル中から3名利用のものを選び出したなどという
ものであれば,検察官は,これを裏付けるために,同ジャーナルの抽出
経過等の証拠を請求するなどして供述経過を立証すべきであるのに,こ
れをしていない。
以上のとおり,第1現金授受についてのCの供述は,同人の記憶によ
るものではなく,客観的証拠によって明らかになった事実と辻褄が合う
ように変更された疑いがあり,信用できない。
(イ)なお,第2現金授受についてのCの供述は,3月16日付け上申書
作成時から一貫しているが,第1現金授受に対する前記捜査経緯やその
,,,基本姿勢は第2現金授受にも大きく影響する上前記虚偽供述の動機
後述する供述内容の不合理性等に照らし,信用できない。
(ウ)Cは,第3回公判期日において,4月25日を最後に被告人とは会
っていない旨供述したが,第7回公判期日においては,11月に飲食店
Gにおいて被告人及びIと会ったことがある旨供述を変遷させている。
11月という時期は,既に被告人が市長に就任し,今後浄水プラントの
レンタル契約に向けて本格的に動く必要があった時期であり,11月に
会ったとすれば,それは4月25日以降約半年ぶりに,市長就任後は初
めて被告人と会う極めて重要な機会であったといえ,かかる重要な会合
,「」に関してこのように供述が変遷するのはCが全て検察官との打合せ
のとおりに供述しようとしたからにほかならない。
ウ供述内容の不合理性
(),,アCは被告人が賄賂を受け取る人間であると判断した理由について
「プライベートでの食事ができる「食事の会話の中でお金の話が出る」,
ような会話になる方」であったからと供述しているが,第1現金授受よ
り前にCが被告人と食事をした機会は,いずれもI同席の上,簡素な昼
,「」,,食を共にしたに過ぎないしお金の話についても反対尋問において
被告人ではなくIの発言であった旨認めている。仮に被告人自身,市議
会議員の給料が少ないなどの発言をしていたとしても,その発言から,
賄賂を受け取る人間であると判断できるようなものではないから,Cの
前記供述部分は不合理である。
(),イCが第1現金授受の際被告人に渡したとする資料の内容からすると
Cには,この時点で,重要な事項を記載したメモや資料を渡すために被
告人に直接会う必要があったことは明らかであり,特に会って渡したい
資料はなかったというCの供述は不合理である。
(ウ)第1現金授受の現場である飲食店Fは市役所に近く,平日昼食時間
帯にはβ市民や市職員が利用することも十分に考えられる。そして,被
告人らが着席したとされる席は,他の客が近づくことが多いドリンクバ
ーのごく近くであり,店員が頻繁に利用する客席と厨房との出入り口の
真横でもある。そのような場所で現金授受を行ったということ自体が不
合理である。
また,仮に,Iだけがドリンクバーのために席を立ったとしても,ド
リンクバーの位置から当該座席でのやり取りは見通しがよい上,座席と
の距離は数歩程度であり,Cは壁側を向いていて,自分の背後から見ら
れているか否かを確認することもできない状況であって,Iらに見られ
ないで現金入りの封筒を渡せると判断できるような状況でなかったこと
は明らかである。そして,Cは,4月2日に必ず現金を被告人に渡さな
ければならない事情はなかった旨も供述しているところ,そうだとすれ
ば,Iに見られるかも知れない上記のような状況下においてあえて金銭
を渡すということは不合理である。
(エ)Cが供述する,第1現金授受と第2現金授受の場面におけるCと被
告人とのやりとりは酷似しており,現実味に乏しい。また,被告人の反
応及びその際のCの心情につき,贈賄供述が真実であれば当然具体的に
表現されるはずであるのに,Cの捜査段階の調書には全く記載されてお
らず,公判廷においても具体的な供述はされていない。
(オ)第1現金授受の現金の原資についてのC供述は,当時10万円程度
であれば,手持ちの現金から捻出できたのに,被告人にいつ会えるかも
不明な時点において,他人から,振り込みという記録化される手段によ
って贈賄原資を調達し,贈賄行為に及ぶ直前にその資金を銀行から引き
出したというもので,不合理である。
第2現金授受の現金の原資についてのC供述も,その当時手持ちの現
金がなかったわけではなく,4月25日に入金が見込まれる金銭もあっ
たのであるから,あえてJから借り入れる必要はなく,仮にJから50
万円を借りる際に被告人に渡す金という理由を出した事実があったとし
ても,そのような理由を説明することと,実際に第2現金授受が行われ
たか否かとは全く関連性がなく,借入れのための一つの口実にしたとし
か考えられない。
株式会社B名義の口座履歴は,贈賄原資という以外にも説明がつくも
,。のであり現金を供与したことを裏付ける証拠としての意味を持たない
エ他の証拠との関係について
(ア)メールのやり取りについて
飲食店Fでの会食後のCと被告人のメールのやり取りは,Cの供述内
容に沿うものと見ることが可能であるというだけであり,別の解釈も可
能であるから,供述の信用性判断の材料にはならない。また,飲食店G
での会食後の同人らのメールのやり取りについても,Cが被告人に現金
。「」を渡したか否かという点とは直接関係しない本当にいつもすいません
という文言が,資金援助の謝礼の意味だとする検察官の主張は,的外れ
である。
(イ)Iの公判供述について
Iは,4月2日の飲食店Fでも,4月25日の飲食店Gでも,一切席
を外していない旨供述しており,同供述は信用できる。すなわち,各会
合とも,限られた短い時間の中で,特に飲食店Gに関しては被告人と政
策議論等を行うという重要な目的を有しつつ被告人と会っているのであ
るから,席を外さなかったことは至極当然である。また,Iの警察官調
書において,席を外していた旨が録取されているのは,警察官の取調べ
がしつこかったので折れてしまったからであるし,Iの検察官調書にお
いて,席を立ったことが絶対にないかと言われればはっきりとは言い切
れない旨録取されているのも,検察官が執拗に「絶対か」という質問を
繰り返したり,誘導的な取調べを行ったりしたからである。Iは,公判
廷においては検察官の執拗な反対尋問にも揺らぐことなく,一貫して,
席を外していないという記憶がある旨供述している。しかるに,Cは,
Iが席を外した隙に現金を渡したなどと,信用できるI供述に反する供
述をしているから,信用できない。
(ウ)丙の公判供述について
丙は,4月25日の飲食店Gでの会合の際,Iが席を外したことがあ
ったような記憶があるという趣旨の供述をしているが,この供述は,目
撃した対象者の特定がされておらず,曖昧なものであって信用できず,
C供述を補強するものではない。
(エ)J及び戊の各公判供述について
Jは,Cに対し,長年,多数回にわたり,多額の金銭を高利で貸し付
け,頻繁に小口の返済を受けていたが,その賃借管理は極めて杜撰であ
ったところ,第2現金授受の直前の50万円に過ぎない金銭貸借に関し
てのみ貸付けの経緯や応じた理由等を詳細に記憶していることは不自然
である。また,Jの公判供述は,貸した金銭の実際の用途を確認するか
どうかの点や,被告人に渡す金銭として借金を申し込まれた回数等につ
きC供述と相反している。さらに,Jは,本件贈賄事件の共犯者として
捜査を受けたこともあり,自己保身のため,Cに迎合する供述をする動
機もある。したがって,Jの公判供述は信用できず,C供述を補強する
ものではない。
戊が聞いたとするCの発言中「渡すもんは渡してる」との部分につ,
いては,誰に対して渡したのかという最も重要な部分が欠落しており,
また「接待はしている」との部分については,Cが被告人と昼食を共に,
した程度であった事実に明確に反するものである。また,戊,J及びC
の信頼関係からすれば,戊がCないしJの今後の処遇に少しでも有利に
働くように検察官に迎合することも考えられる。したがって,戊の公判
供述は信用できず,C供述を補強するものではない。
(オ)被告人の資金繰りについて
被告人は,市議会議員の少ない収入で様々な対外的活動等の費用を賄
,,,い自らは塾の講師料を受け取ることもなく塾の講師をも務めており
被告人の経済状況が決して楽なものでなかったことは事実であるが,こ
の点は,賄賂と認識しつつ現金を受領することとは無関係である。
(2)被告人供述について
被告人は,逮捕以降一貫して本件各公訴事実を全面否認し,終始,断片的
な記憶,曖昧な記憶等から言えることを精一杯述べており,供述内容に不自
然不合理な点はない。
(3)以上によれば,被告人が,Cから現金を収受した事実がないことは明ら
かである。
2争点②(Cから被告人に対する依頼の内容及び同依頼が請託と評価できるか
否か)について
(検察官の主張)
Cは,被告人に対し,飲食店A及び飲食店Dにおいて,市議会議員として,
市議会で浄水プラントの導入に向けた質問を行うよう依頼するとともに,市職
員に対して浄水プラントを導入することをあっせんするよう依頼した。また,
Cは,飲食店Gにおいて,被告人に対し,市議会議員として市職員に対して浄
水プラント導入をあっせんするよう依頼するとともに,市長に就任した場合に
は浄水プラントを導入するよう依頼した。これらの依頼はいずれも請託と評価
できる。
(弁護人の主張)
Cは,被告人に対し,議会での質問や市職員への働きかけを明示的にも黙示
的にも依頼したことはない「浄水プラントを導入してほしい」といった極め。
て漠然とした要望を伝えたことはあるが,この程度では,収賄罪における請託
に当たらないことはもちろん,公職にある者等のあっせん行為による利得等の
処罰に関する法律にいう請託と評価することもできない。
3争点③(被告人が市議会において浄水プラントの導入を促す質疑及び発言を
行ったと認められるか否か)について
(検察官の主張)
被告人は,3月14日の市議会において,浄水プラントの導入を促す質疑及
び発言を行った。弁護人は,前記質疑等は,備蓄品に関するものである旨主張
するが,被告人が飲食店Aにおいて市議会で浄水プラントの導入に向けた質問
をすることに言及したこと,浄水プラントの導入につき検討している旨の総務
部長Kの答弁に対して訂正や再質問をすることなく,検討を促す旨発言してい
ることからすると,前記質疑等が,浄水プラントの導入を促すものであること
は明らかである。
(弁護人の主張)
被告人は,市議会において,浄水プラントではなく,備蓄品について質問を
したのであり,浄水プラントにつき答弁がされているのは,答弁者が質問の意
図を取り違えたからである。
4争点④(被告人のE課長に対する働きかけが市議会議員としての権限に基づ
く影響力を行使したものといえるか否か)について
(検察官の主張)
被告人は,3月25日頃,E課長に対し,浄水プラントに関する資料を渡す
ことにより,浄水プラントの導入につき前向きに検討することを求めるととも
に,4月15日頃,同人に対し,浄水プラントの件を早急に取り組むように要
望した文書を渡して回答を求めることにより,検討結果によっては,今後も市
議会で質問権等を行使することがあり得る旨を明示的ないし黙示的に示したも
ので,市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したものといえる。
(弁護人の主張)
検察官は,被告人が,今後も市議会で質問権を行使することを示して,市議
会議員としての権限に基づく影響力を行使したと主張するが,被告人は,そも
そも検察官が主張の前提とする市議会における浄水プラントに関する質問を行
ったことはない。また,市職員にとって,議会で再質問されることは一般的な
ことであって,特に負担になるものではないから,これを恐れて対応すること
は考えられない。検察官が指摘している被告人の行為は,いずれも「市議会議
員としての権限に基づく影響力の行使」に該当するとはいえない。防災安全課
が浄水プラントの導入に積極的に動いたのは,市として必要があったからであ
り,被告人の権限に基づく影響力の行使によるものではない。
第4C及び被告人の各公判供述要旨
1Cは,被告人との関係等につき,当公判廷において,要旨,以下のとおり
供述している。
(1)被告人を知った経緯について
2月頃,Iから,市議会議員であり前回の選挙でトップ当選をした被告人
を紹介してもらい今度会うことになっているが,その際に株式会社Bの宣伝
をしておくので株式会社Bの資料を用意してもらいたいと言われたため,C
がδ市宛に作成した株式会社Bの資料を用意してIに交付していたところ,
Iから,被告人が株式会社Bに興味を持ってくれたので,3人で会おうと誘
われた。当時は,銀行に対する詐欺行為により株式会社Bが受けた不正融資
の返済やCが個人的に借りていたJへの返済を行うために,株式会社Bの資
金繰りは自転車操業状態が続いており,β市への浄水プラントの導入を実績
にして他の自治体にも販路を拡大すれば,この自転車操業状態から抜け出せ
るのではないかと思い,β市への浄水プラントの導入をチャンスと考えた。
(2)3月7日の飲食店Aでの会合について
3月7日昼,Cが店を予約し,Iが被告人に会う段取りを付け,飲食店A
において3人で会った。飲食店Aに先に到着したIとCは,被告人が到着す
るまでに店内の個室で話をしたが,その際,Iは,当時開かれていた市議会
において,被告人が防災について質問することになっているが,このタイミ
ングだと株式会社Bのことを質問に盛り込むことは少し難しいかもしれない
と話していた。その後,被告人が飲食店Aに到着し,前記個室において,C
と被告人が名刺交換をした後,Cは,持参していたδ市教育委員会宛の浄水
プラントの資料を被告人に渡すと,被告人は,この資料をぱらぱらとめくっ
て読んでいた。その後,食事が運ばれてきたので3人で食事を取ったが,そ
の頃,Iが被告人に対し,今度議会で防災のことをやるらしいが,株式会社
Bのことを盛り込むのは難しいのではと問い掛けると,被告人も,今回は時
間的に難しいかも知れないというように答えていた。また,食事をしていた
頃,Iは,被告人に対し,株式会社Bの事業に関して,δ市議会議員に動い
てもらってδ市立病院への地下水の濾過機設備の導入の働き掛けを行ってい
ることや,δ市議会における同市議会議員の質問原稿もIが作成しているこ
となどを話していた。食事を終えてから,Cが,被告人に対し,先に渡して
いる資料に基づき,災害時であっても太陽光の動力を使って濾過機を動かし
,てプールにたまった雨水を飲料化することは災害対策として有効であること
設置はレンタル契約であることから初期費用は不要であることなど浄水プラ
ントに関する説明を行った上,全国で最初にβ市で導入していただきたいの
で,被告人には是非力を貸してほしい旨頼むと,被告人が「いいですね,,
やりましょう」と言ってくれたので,Cは,被告人による市議会における質
問や市職員に対する働き掛けにより,β市における浄水プラントの導入が実
現するかも知れないと思った。浄水プラントの話が一段落すると,その後は
Iが被告人と政策論議をしていた。飲食店Aの食事代はまとめてCがクレジ
ットカードで支払った。
,,店員に声を掛けられたために3時過ぎに店を出ることになったがその際
被告人が「今からだと議会には間に合わないかもしれないが,役所には今,
から行けば間に合うので,一度担当者に話してみる」と言ってくれたので,
Cは「是非よろしくお願いします」と頼んだ。帰り間際に被告人が財布を,
出したので,Cが,今日の会計は済んでいる旨伝えると,被告人は「どう,
もすいません,ごちそうになります」と発言し,被告人とは飲食店Aの玄関
で別れた。被告人が帰った後,CがIに対し,被告人についてすごい行動力
だと伝えると,Iも,δ市議会議員と比較してか「さすがに違いますね」,
と答えていた。Iと別れた後,Cは事務所に戻ってから,被告人に対し「微,
力ながら議員のお力になれることがありましたら,何なりと遠慮なくおっし
ゃってください」という文言が含まれるメールを送信しているが,このメ。
ールの文言は,被告人がβ市における浄水プラントの導入に動いてくれるの
であれば金のことを考えるという示唆をしたものである。
(3)3月22日の飲食店Dでの会合について
3月22日午後2時開始でCが店に予約を入れ,Iが被告人と会う段取り
を付け,飲食店Dで3人で会うことになった。CとIは,一緒に株式会社B
の事務所から自動車で飲食店Dに向かい,被告人とは現地で集合した。座席
は掘りごたつ式で,時間も遅かったことから先に食事を注文した。食事の注
文後,Cが,被告人に対し,β市宛に作成した資料を被告人に渡すと,被告
人から「こないだの議会の反応,良かったですよ」などと言われ,飲食店,
Aで話していたことが間に合い,議会で質問してくれたのだと分かった。食
事中はIと被告人が政策論議的な話をしていたが,食事後に,Cが,β市宛
に作成した資料に基づき,太陽光発電パネルで太陽電池を使って濾過機を稼
働させれば,その濾過機でプールにたまった雨水を飲料水化できるという説
明や,レンタル契約をしてもらえば初期費用が不要であることなど,浄水プ
ラントの説明をすると,被告人は真剣に聞き,被告人からも濾過機の性能等
につき質問してきた。Cが被告人に対して株式会社Bの浄水プラントがβ市
で導入されるよう是非力を貸してもらいたい旨お願いすると,被告人も「是
非やりましょう」と言ってくれた。
一方,Iは,市職員に対する働き掛けの方法について,被告人に対し「役,
人は議会で質問するぞと言えばびびって動く「議会で質問されたくなかっ」,
たらちゃんと動けと言ってやればいい「口頭でやり取りしてもごまかされ」,
るので,全部書面でやり取りして証拠を残して逃げられないようにすればい
い」と述べたほか,被告人が今後議会で質問するようなことになったら,原
稿はIの方で準備するので心配しなくてもよいなどと話していた。さらに,
Iは,9月に予定されていた市長選を話題に出し,被告人に対して,前市長
Hが再出馬しない場合には被告人に出馬するように勧め,被告人から本当に
そういう状況になったら協力してもらえるのか問われると,何でもやるなど
,,,と答えIがCに対して資金面で協力してもらえるか求めてきたことから
,。,,,Cはその際にはもちろん協力する旨答えたさらにIは被告人に対し
梅雨の時期くらいまでにβ市にモデルとしてとりあえず1校の学校に株式会
社Bの浄水プラントを導入し,被告人がマスコミに名前と顔を売って市長選
に向かえば良いとも発言し,Cに対して梅雨の時期までに導入するにはどの
ようなスケジュールになるのか尋ねてきたことから,Cは,4月中に仮契約
か発注をしてもらえれば梅雨までに導入は間に合うと答えた。そのほか,こ
の日には,被告人がIに対し,選挙戦は別として,普段からも政策ブレーン
として協力してほしい旨言うと,Iは,何でもやるが自分は高くつくなどと
答え,これに対して,被告人が,市議会議員の給料は安いので金はないが,
市長になればポケットマネーで出せるかもしれないなどと言うと,Iが,C
に対して「Cさんも協力してくれますよね」などと言ってきたので,Cも,,
被告人が自分の願いを聞いて動いてくれればIの活動費について当然に協力
させてもらうという意味合いで「もちろん私も協力します」などと答える,
やり取りもあった。
この日の食事代は3人分まとめてCがクレジットカードで支払い,被告人
,。が1000円を出してきたのでこれを受け取り飲食店Dの玄関先で別れた
その際,被告人は,今から役所に行けば間に合うので資料を持って担当者に
会ってくると言っていた。その後,Iと一緒に株式会社Bの事務所に戻り,
事務所でIとは別れた。
(4)飲食店Dでの会合から第1現金授受までのできごとについて
飲食店Dで会った翌日の3月23日に被告人からCに対して電話があり,
昨日は担当者に会えなかったので,週明けの月曜日である3月25日に担当
者に会いに行くので,行ったらまた連絡を入れる旨言われた。しかし,同日
に被告人から電話がなかったことから,その翌日にCから被告人に様子を尋
,,ねる簡単なメールを入れるとE課長から株式会社Bの事務所に電話があり
被告人から話を聞いた,一度詳しい話を聞きたいので市役所まで来てもらい
たい旨言われたことから,3月27日午前10時にCが市役所を訪れる旨の
約束をした。Cのイメージよりも市役所側の反応が早かったため,被告人が
相当なプレッシャーを掛けてくれたのだと感じた。E課長からの連絡を受け
て,被告人にメールでその旨を伝えると,被告人からも,E課長からはとり
あえず浄水プラントに関する説明を聞きたいという話だけであった旨及び被
告人からE課長に対して同人に渡した株式会社Bの資料は日曜日(3月24
日)に株式会社Bの事務所まで再度取りに行ったという話をしてあるのでC
にもE課長と話をする際には話を合わせてもらいたいと読み取れる内容のメ
ールの返信があった。
3月27日にCが市役所を訪れ,E課長らと会い,資料を渡し,浄水プラ
ントの説明を一通り行った上で,まずモデルとしてどちらかの学校1校に設
置してもらえないかと申し出たところ,E課長からは,モデルを設置するな
らY中学校かと思うので,Y中学校に設置することを前提として具体的に提
案をしてもらいたい旨告げられた。そこで,CがY中学校の平面図や配管図
等の資料を見せてもらいたい旨申し出ると,3月28日及び3月29日に2
日間にわたり,市役所においてその資料を見せてもらうことができた。
(5)第1現金授受について
ア被告人に現金10万円を渡そうと具体的に考えるようになったのは,3
月30日か3月31日頃だった。そのように考えるようになったのは,議
会において被告人が質問をしてくれたことや,被告人の迅速な行動でE課
長に取り次いでもらったことに対するお礼と,この勢いを今後も続けてE
課長らへの働き掛けを継続し,また,議会で発言する機会があれば発言や
質問をしてもらいたいというお願いの気持ちからである。被告人がCから
の金を受け取らなかったらどうしようということまで,当時は考えていな
かった。この当時,手持ちの金がなかったわけではないが,資金繰りの関
係でこの金を使うと次の支払等が厳しくなるように思ったことから,これ
までにも金を借りたことがあるLから金を借りて渡そうと考えた。また,
Lから金を借りるに当たっては,当時,Cの個人的な借金の返済資金も5
万円必要だったので,併せて15万円をLから借りることにした。Lに対
して,具体的に使途を説明せずに借入れを申し込んだところ,Lは,休み
明けに振り込むことを承諾し,4月1日月曜日,株式会社Bの株式会社P
銀行の口座に15万円を振り込んでくれた。なお,この日は,朝から市役
所においてE課長と打ち合わせが入っていた日であった。4月2日はCの
,。,スケジュールが空いており被告人の都合に合わせやすかったこのため
Cは,同日の朝自宅を出る前に,被告人に対して,時間を取って会っても
。,,,らいたい旨のメールを送信したなおCの本心は金を渡したいだけで
直接会って相談したいことや渡したい資料があったわけではなかったが,
金を渡したいとメールではさすがに記載できなかったことから,メールの
文面としては,相談したり渡したい資料があるという内容となった。その
後,Cは,Lから振り込んでもらった15万円を引き出した上で返済分の
5万円を振り込むため,自動車で株式会社P銀行R支店に向かった。する
と,銀行に到着する前に,被告人から,飲食店Fで会うとの提案のメール
が送信され,さらに,その後も被告人から,時間がないと思うので外で会
うことを提案する内容のメールが送信され,Cはこれをいずれも了解する
旨のメールを返信した。Cは,同支店で株式会社Bの口座から15万円を
引き出すと,内5万円を使って返済のために振込手続を行い,残る10万
(,「」円を同支店備え付けの封筒以下この10万円入りの封筒を銀行封筒
という)に入れた。Cは,被告人との上記メールのやり取りの内容から,。
飲食店Fの駐車場で手渡すことになることが予想されたため,銀行封筒を
そのまま駐車場で渡す場面を人に見られるとまずいと考え,資料に挟んで
カモフラージュしようと考え,その準備のために同支店から株式会社Bの
事務所に向かった。
株式会社Bの事務所に向かう途中,Iに被告人と会うことになった旨の
連絡を入れた。Iには,これまでも活動費として300万円を渡したこと
もあり,被告人に金を渡すことを知られると,Iからも金を要求されかね
ないことから,本当は同行したくなかったが,Iに黙って被告人と会った
ことが後からIに知れて関係が悪くなるのも嫌だと感じたことから,被告
人と会うことだけは報告しておこうと思う一方で,Iが同行すると言い出
す可能性もあったことから,Iに連絡を取った際には,資料を届けたら被
告人も時間がないのですぐに帰ってくるだけだと説明した。しかし,Iが
自分も一緒に行くと言い出したため,やむなくIと一緒に被告人に会うこ
とになってしまった。そこで,Iに現金を渡していることがばれないよう
に資料に金を紛れ込ませて渡せばよいと考え,その方法として,製本用の
クリアファイルに資料を挟み,その資料の裏に銀行封筒を挟み,クリアフ
ァイルごと大きめの封筒に入れて被告人に渡せばよいと考えた。また,C
としては,駐車場で渡す際に近くにIがいて被告人に現金が銀行封筒の中
に入っていることを伝えられない場合には,最悪,外側の封筒ごと資料を
渡して後で被告人に連絡を入れることになっても仕方がないとも考えてい
た。もっとも,仮に被告人に金を渡したことがIにばれてしまったとして
も,Iにはこれまでにもδ市において株式会社Bの事業を導入するための
活動費として金を渡していたこともあったので,警察とか世間一般の人間
にばれるのとは違い,絶対にIにばれてはいけないというまでの気持ちは
なかった。株式会社Bの事務所に着いてから,Iに何の資料を渡すのか聞
かれた際に説明するため,前日に会ったE課長との打合せ結果をまとめた
報告書や工程表を新たに作成し,これら資料に株式会社Bの提案書の表紙
を付けて製本用のクリアファイルに一緒に挟み込んだ後,資料の一番裏面
とクリアファイルの裏表紙との間に銀行封筒を挟み,クリアファイルごと
(「」。)飲食店A4サイズより一回り大きい薄緑色の封筒以下大封筒という
に入れた。
その後,Iが株式会社Bの事務所まで来たので,Cの運転する自動車で
一緒に飲食店Fに向かった。CとIは,12時少し前に飲食店Fに到着し
たが,その時点ではまだ被告人は到着していなかった。このため,Cが被
告人に到着したことをメールで知らせると,被告人から,間もなく到着す
。,,るとのメールが返信されたその後被告人が自動車で到着したことから
CとIが自動車から降りて被告人に近付くと,被告人から,時間があるの
で店に入ろうと誘われ,3人で飲食店F店内に入った。
イ3人で飲食店F店内に入った後,人目もあるのでCは一番奥の端のテー
ブル席を選び,奥側のベンチシートに被告人が一人で,椅子席側にCとI
が横並びに被告人と向かい合って座り,3人ともランチとドリンクバーを
注文した。Iが席を立ってドリンクバーに行く際,被告人に飲み物を確認
していたので,Cは,IがIの分と被告人の分の二人分の飲み物を取りに
行くと思った。Cは,もともとIが動いた機会に被告人に現金を渡そうと
思っていたので,その際には,ドリンクは後で取りに行くと言った。Iが
,,,席を立ってドリンクバーに行った後Cは大封筒をテーブルの上に出し
クリアファイルの表面の半分くらいを大封筒から出して,向かいに座って
いた被告人に見せ,次いで,ひっくり返して裏面を見せて銀行封筒が挟ま
っているのを確認してもらい,大封筒の中にクリアファイルを仕舞ってか
ら「これ,少ないですけど足しにしてください」と小声で言いながら大,
封筒を差し出すと,被告人は「すいません,助かります」と小声で言っ,
て大封筒ごと受け取った。その際,Cは,Iには金を渡したことを内緒に
してもらいたいという気持ちを伝えるために,被告人に対し「Iさんに,
は」と口に出した後,左手の人差し指を唇に立てて当て,内緒にしてもら
いたいというジェスチャーをしたところ,被告人は,小声で「分かりまし
た」と言って,受け取った大封筒を被告人の右側の座席に置いた。この間,
IがCの背後からどちらの方向を見ているかは,Cの位置からは分からな
かった。その後,Iが席に戻ってきたので,Cはドリンクバーに行くため
席を立った。
ウその後,3人で浄水プラントについての話をしたり,被告人とIがβ市
の政策について話をしながら3人で食事を終え,一人当たり800円くら
いの食事代の会計をCが3人分まとめてCのクレジットカードで支払った
が,飲食店Fは被告人の地元であったことから,Cから被告人に対し,割
り勘にすることを申し出た上で,切りの良い500円で良い旨伝えると,
被告人が500円を出したので受け取った。
被告人とは飲食店Fの駐車場で別れ,CはIと一緒に自動車で株式会社
Bの事務所に戻り,同所でIとは別れた。その日のうちに,Cは被告人に
対してメールを送信しているが,そのメールの記載内容のうち「議員の,
お力になれるよう,精一杯頑張りますので宜しくお願いします」との文。
言は,今まで被告人が株式会社Bのために動いてくれたお礼及び今後もよ
ろしくお願いしたいという気持ちと,今後もまた被告人が株式会社Bのた
めに動いてくれれば更に金を渡すとの意図を含むものであった。その後,
被告人からCに対しては「こちらこそわざわざありがとうございます!」,
とのメールが返信されてきているが,Cは,この文言は,飲食店Fで現金
を渡されたことに対する謝礼の趣旨と理解した。
(6)飲食店Fでの会合から第2現金授受までのできごとについて
飲食店Fでの会合の後,CはE課長からの依頼を受けて,PTAを含めた
教育関係宛の資料を作成し,被告人にも見てもらい,後日,E課長にも届け
た。被告人もまた,Y中学校のPTA会長や校長に会って直接話をしてくれ
たり,水道課に行って直接話をしてくれたりした。さらに,被告人は,この
時期,被告人と浄水プラントの導入に反対していた教育関係のβ市の役人と
の板挟み状態となっているE課長に働き掛けるため,書面を作成して働き掛
けるような行動を取るようになっていた。
(7)第2現金授受について
ア4月24日午前9時過ぎ頃,Iからのメールに対してIに電話をかけた
ところ,Iは,被告人が市長選に出ることになった,前市長Hの後継指名
ももらっているようであり,被告人はまず間違いなく当選するだろうなど
と伝えてきた。これを聞いたCは,それまで被告人に動いてもらっている
お礼の気持ちに加えて,今後市長選に突入して忙しくなったとしても,株
,,式会社Bの件は動きを止めないでほしい市議会議員の立場にあるときは
今まで同様にβ市の役人に働き掛けを続けてもらいたい,議員辞職後もそ
のまま影響力を持って働き掛けをお願いしたい,市長になればその力で浄
水プラントの導入をお願いしたいとの気持ちから,この機会にもう一度,
被告人に金を渡しておいた方がいいと考え,その金額としては,前回が1
0万円であったことから,その倍の20万円を渡そうと考えた。Cは,こ
の当時,被告人に渡す手持ち金がなかったわけではないが,今後のCの支
払や資金繰りが苦しくなることが予想できたことから,Jから,被告人に
渡す20万円に加えて,他の支払に充てる分や資金繰りを上乗せして50
万円を借りようと考え,同日朝,Jに電話をかけた。この電話の中で,C
が,Jに対し,被告人が市長選に出るということになったので,このタイ
ミングで金を渡しておきたいから金を貸してほしい旨依頼したところ,J
は,被告人が落選したらどうするのか,あげ損じゃないかなどと言ってき
た。そこで,Cが,前市長Hの後継指名の話や,被告人が市議会議員選挙
にトップ当選しており,この勢いがあれば当選する旨Iが言っていること
などを説明して説得したところ,渋るJからは,貸し主を当たってみる旨
の返答がなされ,その時点では借金の話は留保となった。なお,Jに借金
を依頼した時点では,まだ被告人と会う日程は決まっていなかった。
,,,,イ4月25日夕方過ぎCはIから被告人がδに来るとの連絡を受け
3人で集まることになった。しかし,その時点では,Jから金を借りる段
取りはできてはいたものの,受取は4月26日となっていて,Cの手元に
はまだその金が来ていなかった。このため,Cは,同日朝に株式会社T銀
行U支店で株式会社Bの口座から90万円を引き出し,その中から株式会
社W銀行X支店に開設された株式会社Bの口座に入金した70万円を差し
引いた20万円が手元に残っていたことから,この20万円を被告人に渡
すこととした。なお,この金を被告人に渡すことは,飲食店Fのときと同
じ理由で,Iに伝えるつもりがなかったので,Iが席を外したときに渡せ
ば良いと思っていた。
ウ4月25日の夕方過ぎになって,飲食店Gでその日の午後9時半に会う
ことが決まり,Cが飲食店Gに予約を入れた。飲食店Gには,先にIが,
次に午後9時頃にCが着き,最後に被告人が午後10時前に到着したと思
う。Cはあらかじめスーツの内ポケットに現金20万円を茶封筒(以下,
この20万円入りの封筒を「茶封筒」という)に入れて持参した。飲食。
店Gでは,座敷の掘りごたつ式のテーブル席に座り,先に到着したCとI
は軽く話をした。その話の中で,Cから,Iに対し,被告人はIに選挙協
力の依頼に来るはずだから,それには応えてあげてほしい,Iの活動費は
C側で負担するので,その代わりに市長選で忙しくなっても,被告人には
浄水プラントの件で動きが止まらないようにIから被告人に話をしてもら
いたい旨依頼すると,Iもこれを了解した。また,その話の中で,Cから
Iに対し,当日は自分は先に帰るので,後はゆっくりと被告人とIとで話
,。をしてもらいたい旨を告げた上でCは食事代として2万円をIに渡した
Iに先に帰ると告げたのは,被告人とIにゆっくり打合せをしてもらいた
かったという気持ちと,当日に絶対に被告人に金を渡さなければいけない
とまでは思っておらず,最悪,後日でもいいかというように思っていたか
らである。また,Cには,飲食店GにおいてIが席を外さなければ,帰り
際に被告人を飲食店Gのトイレか玄関口に呼び出して金を渡そうという考
えもあった。さらに,仮にIに見られたとしても,Iだから最悪ばれても
問題ないだろうという気持ちもあった。
エ被告人が飲食店Gに到着し,CとIは横並びに二人で座り,向かい側に
被告人が一人で座った。飲食店Gにおいて,被告人からは,市長選に出る
ことになった,前市長Hの後継指名ももらった,前市長Hの市議会の青年
部の後援ももらえそうだとの報告があり,Cは,被告人が市長選に当選す
ることは間違いないと感じた。Iから被告人に対し,選対でも何でもやる
旨申し出ると,被告人は,選対は市議選のときの選対と前市長Hの後援会
の青年部の選対があるから大丈夫と告げた上で,Iには,マニフェストや
政策を作る仕事を至急手伝ってもらいたい旨依頼があり,Iはこれを承諾
していた。その後,Iが,自分は高いですよと言った上で,Cに対し,資
金面での協力の話を振ってきたことから,Cが,もちろん協力する旨答え
たところ,Iは,被告人に対し,市長選で忙しくなるかもしれないが浄水
プラントの件は止めないでやってほしい旨依頼し,Cからも同様の依頼を
したところ,被告人は,「分かってます「何でも言ってください」と答」,
えた。飲食店Gでは,上記やり取り以外には,主として被告人とIが市長
選を見据えた政策の話をしていたが,そのような中で,理由は分からない
もののIがちょっと席を外したときがあったので,Cは,脱いであったジ
ャケットの内ポケットから茶封筒を取り出して,それを持ってテーブルを
回るような形で被告人の左横隣まで移動し,正座よりもやや腰を浮かせた
姿勢で,テーブルのちょっと下の陰になるようなところで両手で茶封筒を
持ち,被告人に対し「これ,少ないけど足しにしてください」というふ,
うに言いながら差し出した。これに対し,被告人は「いつもすいません,,
助かります」というふうに言ってこれを受け取った。Cは「これもIさ,
んには内緒にしといてください」というふうに言い,Iが戻ってきたらま
ずいと思ったのですぐに自席に戻った。被告人が受け取った茶封筒をどう
したか最後まで確認はしていないが,鞄の中に仕舞ったのではないかと思
う。Cは,自席に戻った後,被告人に対し,選挙の期間中,費用は自分が
負担するので,Iを自由に使ってほしい旨伝えると,被告人は「ありが,
」。,,,とうございますというふうに言っていたその後Cは被告人に対し
自分は先に帰るが,後はゆっくりとIと打合せをしてもらうよう,また,
飲食代の支払はIに金を預けてあるので心配しないでよい旨を伝えた。
このようなやり取りの後,席に戻ってきたIから,何を話していたのか
尋ねられたため,Cは,Iの噂をしていたと答えた。その後,被告人とI
は政策について話をしていたと思う。Cは,Iに対し,メールにて,そろ
そろ帰ることを告げるとともに,被告人には市長選で忙しくなったとして
も浄水プラントの件を止めないためにどう行動したらよいか教えておくよ
う依頼した。そして,上記メールを送信した後,ほどなくして飲食店Gを
出た。
オ翌4月26日,被告人に対してメールを送信しているが,その中の「お
手伝いや,ご協力」の文言は,市長選でCが個人的に何か手伝えることが
あれば言ってもらいたいという趣旨であり「そして・・・」の文言は,,。
金や資金のことを意味し,金を渡したので浄水プラントの件はよろしく頼
むということや,被告人が動いてくれたのでCもできる限り資金面で協力
するという意味を伝えたい気持ちを表したものである。これに対して,被
告人からメールの返信があったが,Cは,その趣旨につき,飲食店Gで金
を渡したことに対するお礼と,Iを動かすことによって発生するIの活動
費等についてCの金の力を借りたいということだと理解した。
(8)飲食店Gでの会合以降のできごとについて
ア被告人は市長選に立候補して市長になったが,市長選に関して,Cは,
Iを派遣する形で被告人に協力した。具体的なIの選挙運動の内容として
は,被告人のために政策作りをしたり,マスコミからの質問に対する回答
を作成したりすることがあったとIから聞いていた。Cは,そのような活
動をしているIに合計十数万円の活動費を支払ったほか,Iのために手配
した宿泊施設の宿泊費もCが負担した。
イ市長選に入ってからも,浄水プラントの導入の動きは止まらず,5月2
0日に開かれたβ市での担当者会議にCは出席して浄水プラントの説明を
行った。また,被告人が市長になった後の6月中旬頃だと思うが,E課長
から,入札方式の一つであるプロポーザル方式を予定している旨及び入札
手続を行うには半年くらいの時間を要する旨の連絡がCにあった。このた
め,CがE課長に対し,もっと何か早く導入できる方法がないか相談する
と,E課長から,株式会社Bが費用負担して社会実験か共同実験という形
を取れば早く導入できるとの説明があったことから,Cは,それでも構わ
ないのでその方法で話を進めてもらいたいと伝えた。Cが浄水プラントに
ついて当初の目的であったレンタル契約ではなく社会実験等という形を取
ってでもβ市に導入したいと考えたのは,早期に設置して他の自治体への
営業を拡販したいとの理由に加えて,β市に設置する浄水プラントについ
ては,社会実験等を終えた後にプロポーザル方式をとってレンタル契約に
移行すれば良いと判断したからである。
ウCは,浄水プラントをY中学校に設置することについて,Y中学校の校
長が反対しているとの話をE課長から聞いたため,被告人に連絡して,何
とか同校長を説得してほしいと頼んだところ,被告人は,その後すぐにE
課長と一緒に同校長の元に行って説得してくれた。Y中学校に浄水プラン
トを設置して社会実験を行う件については,7月31日付けで株式会社B
とβ市との間で確認書が交わされ,8月12日にはY中学校への浄水プラ
ントの設置が完了し,実験が開始された。
エこの社会実験は,当初2か月の予定であったが,その後,平成26年3
月末まで延長された。被告人は,Cに対し,Y中学校に設置した浄水プラ
ントの同時期以降の取扱いやβ市内の他の学校への浄水プラントの設置を
含めて,株式会社Bの件は,同年4月に設置される市長直属の新しい部署
において取り扱っていくと説明していたが,その時期が来る前の同年2月
にCは詐欺等の被疑事実で逮捕されてしまった。
2他方,被告人は,当公判廷において,要旨,次のように供述している。
(1)今回起訴された公訴事実に関し,Cから現金を受け取ったことは絶対に
ない。
Cは,被告人がβ市における浄水プラント事業の導入に関し,議会質問,
市議会議員としてのβ市当局への働き掛け及び市長就任後は市長としての取
り計らいを依頼した旨供述している。しかしながら,浄水プラント事業に関
して被告人が議会で質問した事実はない。β市当局への働き掛けという点に
ついても,被告人は浄水プラントがβ市にとって有意義なものになると考え
たためにE課長らに資料を持って行ったり,メールを送信したりしたことは
あるが,これはCの依頼に基づくものではない。市長就任後の取り計らいの
点についても,市長就任前から既に防災安全課でも話が進んでいたので,市
長になってからも,特段何か指示を出したり,会議で発言をしたりしたこと
はない。
(2)本件当時の被告人の経済状態について
,。本件当時は市議会議員の収入のほかに学習塾の経営による収入があった
4月4日に塾の口座に入金された9万5000円の原資については,その少
し前に塾の月謝等の収入が現金で入ってきており,それを入金したものであ
る。4月30日に塾の口座に入金された8万6000円の原資については,
どこから出た金かはっきりと覚えていないが,給料,塾の月謝などの可能性
がある。3月末から4月初めにかけては,年度初めということで,年間維持
費や教材費など,月謝以外の収入もあり,これらの収入分から月初めに支払
ったと思われる塾のアルバイト講師の給料を支払っても,10万円くらいの
現金は手元に残ることになる。また,4月3日には国税還付金として28万
円が振込入金されているが,被告人としても飲食店FでCと会った時点で,
近い時期に国税還付金が振り込まれることは予想していた。したがって,こ
の時期に被告人において資金繰りが楽でなかったという状況は存在していな
い。
(3)I及びCと知り合った経緯について
2月19日に岐阜市の会社で開催されたバイオエタノールの勉強会に被告
人が参加していたとき,同社社長から,δ市議会議員にバイオエタノールの
説明をしてほしいと言われ,被告人が同市議会議員に会いに行った際,Iが
同席していたことから,Iと知り合った。その会合の中で,同市議会議員か
ら,浄水プラントを研究しているという話が出たので,もう少しその話を聞
かせてほしいということでIと連絡を取り,3月7日に飲食店AでIと会う
ことになった。
(4)3月7日の飲食店Aでの会合について
3月7日に飲食店Aに到着すると,その場にIの他に初めて会うCがいた
が,自分はCが来ることはIからは聞いていなかったはずである。飲食店A
では昼のランチの弁当を食べた。また,Cから,資料を基に,病院にどのよ
うに濾過機を取り入れているかとの話を聞いた後,具体的な濾過機について
いろいろと説明を受けた。Cが,被告人の知らなかった隈井式という濾過機
について,鉱物で濾過をすることや,性能も非常に優れているということを
説明したのをよく覚えている。資料には,濾過機の実績一覧があり,岐阜県
にも実績場所が2か所あったことははっきり覚えている。その他,病院局の
資料とδ市の学校か教育委員会宛のプールについての資料をもらった。Cか
,,。,らは浄水プラントについてプールの水を使うとの話も聞いたこのとき
自分が,濾過機又は浄水プラントについて,是非やりましょうという発言を
したかどうかははっきり覚えていないが,濾過機についても浄水機について
,,も良いものなのでβ市に政策的に取り入れられないかと思ったこともあり
そのような発言をした可能性は十分にある。Cとは水のリサイクルや浄水プ
ラント以外の雑談はしていない。その後は,Iと政策についていろいろと話
をした。
この日,飲食店Aを出た後,浄水プラントの資料を持って防災安全課を訪
れたことについて,被告人にははっきりとした記憶はないが,防災安全課の
職員がそのように話しているなら間違いないと思う。
(5)浄水プラントに関する被告人の考え方
東日本大震災以降は,災害に対する意識をもっと高めなければという気持
ちがあり,その中で市民のための水の確保というのも大切なものの一つとい
うことで,Cから話を聞いたときは,設備も大きく費用も掛かるという浄水
,,,,設備のイメージとは異なり浄水プラントは性能も良く非常に簡易的で
財政的にもほとんど負担がないという話だったので,β市の政策の中に取り
込んでいけないかという思いを持った。
(6)議会質問等について
議会での質問には,大きく分けて,一般質問と質疑の2種類があり,この
うち一般質問は,年4回の定例議会において,議員一人当たり約1時間の時
間が与えられ,答える市役所側も,議員の質問通告を受け,市長を交えてし
っかりと答弁するので,議員活動の重要なものの一つとして議員も位置付け
ているのに対し,質疑は,各議会で提出された議案に対する質問であり,一
。,般質問と質疑とでは重みが全然異なる3月14日に被告人が行った質問は
質疑である。
また,議員が質問を行えば,当然に真摯には受け止められるものの,毎回
の議会では10人以上が質問に立つ上,一人で何項目も質問するので,年間
にして何十件の提案や意見を市の政策に取り込むことはなかなか簡単なもの
ではなく,多くの場合には,市側も,検討するとか研究するとか今後の課題
にするというような答弁にとどまり,再質問を恐れて議員の意見や提案に従
わざるを得ないということはあり得ない。
地方議会で過半数を占める会派の主要メンバーなど,地方議会の議員の中
でも特別に大きな影響力を持っている人の意見や質問であれば,影響力も違
ってくることはあるが,被告人は一人会派で活動しており,そのような影響
力は全くなかった。
(7)3月14日の市議会について
3月14日の市議会の議題は次年度の予算であった。被告人は,この日,
質疑を行うに当たり,議案質疑発言通告書を事前に提出しているが,同通告
書中「①今回の整備で,どれくらいの備蓄が可能になるか」との趣旨は,,。
β市として新年度にどれぐらい備蓄品を備える予定かということを尋ねたも
のである。また「②災害対策に,民間が開発した新技術等を導入する考え,
は」との趣旨は,①に関連して,これから備蓄品を備えていくに当たり,。
都市部の方の備蓄品には地方に比べて優れた備えができているということを
聞いていたので,今後購入するのであれば,民間が開発した保存食等の最新
鋭の備蓄品を導入する考えがあるかということを尋ねたものである。被告人
が浄水機について一切質問していないのに,答弁者が浄水プラントについて
答弁しているのは,その前に,被告人がE課長に浄水プラントの資料を持っ
ていったため,それと混同して勘違いをしたためだろうと思う。被告人とし
ては浄水機のことも当然に念頭にあったとは思うが,再質問の際,マンホー
ルの簡易式トイレの例を挙げたのは,今回は一般論として聞いているという
ことを言いたくて,あえて知識としてあった他の例を出してとっさに言った
のだと思う。この議会で浄水プラントのことを出していないのは,まだ一度
しか話を聞いていないものに対して,議事録が残るような議会という場で発
言するのはどうかという思いが自分自身にあったのだと思う。
(8)3月22日の飲食店Dでの会合について
3月22日に飲食店Dに行ったことは,はっきりとは覚えていないが,い
ろいろな記録を見せてもらうと,自分が行ったことは間違いないと思う。C
から何か資料を受け取ったかどうかはっきりと覚えていないが,浄水機の話
をするときは大体資料を基にCが話をしていたので,この場でも資料をもら
っている可能性は十分ある。
Cが,被告人から,議会で質問したら反応が良かったという発言があった
旨供述している点に関しては,議会で浄水プラントについての質問はしてい
ないものの,提案書を持って行ったらそういう答弁があったというような話
をした可能性は十分ある。しかし,Iが,議会で質問するようなことがあっ
たら原稿はIが作るなどという発言をしたことはなかったと思う。被告人は
いつも自分で原稿を必ず作っていたので,誰かに頼むということはあり得な
いからである。また,Iから,4月中に仮契約とか発注までいこうとの発言
もなかったと思う。議員としては契約とかそういったものに関与できるよう
な立場では全くないので,そういった話が出るということはあり得ないから
である。その席で,市長選の話題も一切出ていないと思う。前市長Hは,入
院等はしていたが,もう一期続けるということは周知の事実であり,そこで
市長選の話が出るということは考えられない。被告人の立場の人間が,市長
選に出るなど,うかつにも言える話ではないし,被告人は,前市長Hには市
議会議員時代からいろいろと可愛がってもらっており,そのような前市長H
が次の選挙には出ないと言わない状況で,被告人が選挙に出るとか出ないと
いう話になることはあり得ない。市長選に出るにも被告人には金がないとい
う話も,そもそも市長選の話自体が出ていないので,そのような話が出るこ
とはあり得ない。被告人が市長選に出ようと思ったのは,4月18日に辛か
ら,前市長Hが辞めるという情報とともに,被告人に市長選に出る気がある
のかと聞かれたときが最初である。Iの活動費について,被告人が,市議会
議員の給料は安いが市長になったらポケットマネーで出せるかもしれないな
どと言ったという話もあり得ないことである。
飲食店Dを出た後,被告人が,これから役所に行って話をしてくるという
話をすることは,時間さえ間に合えば役所に行くということは十分考えられ
るので,あり得ると思う。
被告人は,よほどお世話になっている人以外はしっかりと支払うので,飲
。,食店Dの食事代も割り勘で払っているはずであるCと食事を取ったときは
すべて割り勘で払っていた。
仮に飲食店DでCから資料を受け取ったのであれば,防災安全課に被告人
が受け取った資料を持って行った可能性は十分にあると思う。飲食店Aや飲
食店DでCから受け取った資料について,被告人にも浄水プラントを是非防
災安全課で検討してもらいたいという思いもあり,Cから頼まれたから役所
に持っていったのか,自分から進んで持っていったのかについては,はっき
りと覚えていない。
(9)3月26日に被告人がCに送信したメールについて
Cから被告人宛に3月26日送信されてきたメールに対して,被告人がC
に対して返信した「日曜日に再度僕が聞きに行って資料をもらってきた,と
言う話にしたので宜しくお願いします」とのメールの意味は,被告人がE課
長と話をする中で日曜日に資料をもらってきたと言ってしまったので,Cに
も話を合わせてもらいたいという趣旨のことを書いたものであるが,このよ
うな発言をE課長にした理由は,被告人が土日を問わずに活動していたこと
から,自分が日曜日も活動しているので,E課長も頑張ってほしいというこ
とを言いたかったかも知れないし,そう捉えられても仕方はない。
(10)4月2日の飲食店Fでの会合について
4月2日に飲食店Fで3人で会ったことは,はっきり覚えていないが,い
ろいろな記録を見せてもらって,行ったことは間違いないし,少し場面場面
で思い出せることはある。Cからメールをもらったとき,CがE課長と会っ
ていることは知っていたし,逐一,どのように進んでいるかの情報が欲しい
とは思っていたので,会うことにしたのだと思う。この日は,年度初めとい
うことで,スケジュールがしっかり詰まっていたので,最初は会って資料を
もらうだけという話をしたのだろうと思う。しかし,実際にあったやり取り
は覚えていない。飲食店FでCから資料を受け取ったかどうかについては,
はっきりは覚えていないが,受け取った可能性はある。しかし,Cから,中
に金が入った封筒を挟んで見せられながら資料を受け取ったということは絶
対にない。被告人が資料を受け取るときは,普通は,資料を受け取るだけと
いうことはなく,資料を見て説明を受けるなどして資料の中身をしっかりと
見たり,ときにはメモを取ることもしている。
あまり飲食店Fの光景を覚えていないので,ドリンクバーに行った具体的
な記憶はないし,何を食べたかということも覚えていない。ただし,いわゆ
るファミレスでドリンクバーを頼んだとき,後輩と行ったときなどは取りに
行ってもらうことはあるが,ドリンクバーの飲み物は,大体は自分で取りに
,。,行くしIに被告人の飲み物を取りに行ってもらうことはあり得ないCは
被告人が現金入りの封筒を受け取ったときに,「すいません,助かります」
,「」,と言ったと供述したが被告人はすいませんという言葉はよく使っても
「助かります」という言葉は普段使うことはない。また,Cは,被告人に金を
渡したことをIに内緒にしてほしいと言ったと供述しているが,Cはもとも
とIが連れてきた人間であり,Cとの話については,全て情報を共有してお
り,Iに内緒にしていることはない。
飲食店Fでの食事代については,Cとは基本的に割り勘にしていたし,飲
食店Fのジャーナルを見てから思い出したことだが,誰かが大盛りを頼んで
珍しいなと思ったことや,被告人が小銭を出した場面を何となく記憶してい
る。
飲食店Fでの会食後,Cからのメールに「議員のお力になれるよう,精一
杯頑張りますので宜しくお願いします」という文言があるが,同文言の意味
としては,被告人も市議会議員として浄水プラントの導入を実現させたいと
の思いがあったので,そのことに協力してもらえるものと理解していた。被
「」告人がCに送信したメールのこちらこそわざわざありがとうございます!
という文言の意味は,年上のCがわざわざβ市まで来て自分に時間を割いて
くれたことへの感謝の気持ちだと思うし「市民と日本のためなので」とい,
う文言の意味は,この浄水機が市民のため,ひいては社会などのためになる
と思ったので,付け足したものだと思う。
(11)飲食店Fでの会合から4月25日の飲食店Gでの会合までのできごと
について
ア被告人は,4月4日,その年度にY中学校のPTA役員になった人を訪
れた際,浄水機の話をしたほか,以前から仲良くしてもらっていたことも
あり,政策についてもいろいろ話をした。同人は,もともと環境に理解の
ある人で,浄水機について「水を生かすということは大事だ「ずっと,」,
使っていなかったプールを活用することも面白い」と言ったが,飲料水に
するということについてはあまり同人の理解は得られなかったという感じ
を覚えている。その後,4月12日くらいまでの間に,Cから,今度は教
育総務課宛に資料を作るという話で何度かメールが送信されてきた。Cか
,,らのメールの中に4月中に仮契約という言葉が入っているものがあるが
市議会議員としては契約等には関与できない上,被告人もそういう知識が
全くないので,Cが言っていただけだと思う。β市は洪水の被害等が普段
からあり,梅雨の時期までに浄水機の設置ができればという話はあったの
で,それで4月という話が出たのではないかと思う。
被告人が,4月15日に防災安全課宛に書面を出したことがあるが,こ
れは,もともと東日本大震災の話から,高い防災意識を持たなければなら
ないと思い,浄水プラントの話を進めていたところ,4月13日に発生し
た淡路島地震の際,水道管の破裂等の大きな被害があったということがニ
ュースで大きく報道されたので,災害に対する備えは一日でも早く取り組
まなければならないと思い,あえてE課長に宛ててこの書面を手渡した。
これに対し,E課長は,その数日後,導入に向けての課題を五,六項目指
摘するメールをくれた。その課題点については,もともと技術的なことは
CとかIに聞きながらという考えがあったので,そのままCのほうに転送
した。Cの返信では,ある程度の解決策が書いてあったが,それだけでは
,,足りない部分もあり結果的には被告人が考えた付け足し部分が多くなり
被告人自身も調べていたこと等をかなり付け足して作り直した上で,E課
長にもう一度メールで送信した。
イはっきりいつとは覚えていないが,3人でβ市の壬という喫茶店で会っ
たような記憶がある。そういった話が出たので,一度地元の喫茶店壬に行
ってみたところ,喫茶店壬の確か喫煙席で3人で話をしたことがあること
を何となく思い出した。その際には,はっきりとは覚えていないが,浄水
機の話をしたように思う。
ウ4月18日,辛に呼ばれて,前市長Hが辞めるということと,被告人に
市長選に出る気持ちはあるかということを聞かれ,被告人は,出る気持ち
はあると答えた。4月22日夜に辛のほかに二人の支援者と被告人を含め
て4人で会い,その場で被告人から市長選に出る気持ちはあるという話を
した。そして,4月23日,もし被告人が市長選に出るならば準備をして
おかなければならないと考え,以前から政策の話をいろいろしていたIに
も連絡を入れた。4月22日の会合の結果,他のメンバーにも話を直接に
聞いてみようということになり,4月30日に集まることになった。
(12)4月25日の飲食店Gでの会合について
4月23日に被告人からIに連絡を入れた結果,一度話をしたいというこ
とになり,Iと二人で会うことになった。その場にCが来るということはお
そらく事前には聞いていなかったと思う。この日は飲食店Gに行くまで勉強
会に出席するなどしていたが,飲食店Gを捜すのに手間取り,かなり遅れて
飲食店Gに到着したところ,既にIとCが到着し,テーブルの上にいろいろ
食事が並んでいた光景は覚えている。丙とは,市長になってから11月に飲
食店Gに行ったときに名刺交換したことは覚えているが,4月25日に丙に
会ったかどうかは覚えておらず,むしろ紹介されていないのではないかと思
。,,う丙は被告人を市長選に出る人だと言って紹介されたと供述しているが
まだ市長選に出るということは決まっていないし,外に向かって言えない時
期なので,わざわざ店の人にそういった紹介をされるというのは時期的にも
おかしいと思う。Cは,被告人が前市長Hから後継指名されたと発言したと
供述しているが,前市長Hは後継指名はしないと言われていたし,実際もし
ていない。また,市長選に出るという被告人の挨拶回りは5月1日からだっ
たので,Cが供述するような,飲食店Gにおいて挨拶回りでばたばたしてい
たなどという発言を被告人はしていない。Cは,市議選のときの選対と前市
長Hの後援会の青年部の選対があって調整が必要だと被告人が発言した旨供
述しているが,被告人の場合は,市議会議員選挙のときも本当に被告人のこ
とを応援してくれる人たちだけで何とか作り上げた選挙だったので,その選
対ともう一つの選対などという話は出ておらず,当然だが,二つの選対の調
整という話も出るはずはない。
飲食店Gでは,市長選の話になったが,選挙は地域ごとによって異なるた
め,Iとは選挙自体についてはあまり話をせず,もし市長になったらという
具体的な政策について,熱く語った記憶はある。Cは,その話の間,横で聞
いていたり,いつも電話とか煙草とかで席を立つので,いたりいなかったり
という印象で,時々口をはさむことはあったものの,あまり発言した印象は
ない。また,この日に飲食店GでCと二人きりになった時間は記憶にない。
Iは基本的に席を立たないし,この日の飲食店Gでは,特に普段にも増して
熱く政策の話などをいろいろ語ったことを覚えているので,わざわざトイレ
とか携帯電話で席を立つということはなかったはずである。浄水プラントの
話は,Cが来ていたので,少しくらいはあったかなとは思うが,Cから浄水
プラントの資料を受け取ったか否かも含めて良く覚えていない。この頃の被
告人の浄水プラント事業に対するスタンスは,CとE課長の双方から話を聞
いて情報にずれがないかを確認するようなものだった。この頃は,市長選に
出るとしたら,準備があるのでほとんど市議会議員の期間はなく,もしそこ
でCから浄水プラントについて頼まれたとしても,何か市議会議員としてで
きることはもう何もない。もし市長選に出なかった場合は,引き続き市議会
議員として同じ活動をするだけで,市議会議員を辞職してしまっては,逆に
市役所にも行きづらくなるのでβ市の役人に対する影響力というのは考えら
。,,れないこの時期は市長選に出馬するか否かもはっきりしていなかったし
市長選に出馬したとしても,勝てるかどうか大変厳しいのは目に見えていた
ことから,Cが供述するような,市長になったら云々という話は場違いだと
思うし,一切出ていない。また,被告人としては,そのようなことをCが期
待しているともそのときは全く思っていなかった。もし,Cがそれを期待し
ていることが分かっていて,被告人がそれに応えようと思ったら,市長選の
マニフェストに掲げるということが考えられるが,この日に市長選でマニフ
ェストに株式会社Bのことを掲げる話は全く出ていないし,実際にも浄水プ
ラントに関連することはマニフェストには掲げていない。
飲食店Gで会った翌日にCから送信があったメールの文言の意味は,飲食
店Gで話が出ていた市長選に関するものと思う。被告人としては,自分が市
長選に出たら応援してくれるという気持ちはありがたいと思ったことはある
が,そのメールの中の「そして・・・」という文言の意味については,特。
に思い当たることはない。このCからのメールに対して,被告人は,メール
を返信しているが,これは,これまでと同様に,Cに時間を割いてもらった
ことへのお礼の気持ちと,Cが応援してくれるなら有り難いという気持ちを
述べたものである。
(13)4月25日の飲食店Gでの会合後のできごとについて
ア5月7日に市長選への出馬の記者会見を行い,5月8日に議員辞職をし
た。Iにも政策については引き続き相談していた。5月7日にIから送信
されたメールには,市長選においてIが被告人をバックアップしやすいよ
うに,CがIの拠点をεに準備していることなどを知らせる内容が書かれ
ているが,そのときは忙しかったせいか,読み飛ばしてしまい,頭には入
っていなかった。その後,日付等は覚えていないが,Iからβ市の旅館に
いるというメールが送信されてきたので,1度くらいは会っておこうと思
ったことはあるが,Iに市長選に関して選挙運動を手伝ってもらおうと考
えたことは一切なかったし,実際にIに選挙運動を手伝ってもらったこと
はなかった。Iの旅館の費用についても,誰が出しているかというのは当
時は全く考えなかった。
イ浄水プラント導入の件に関しては,市長就任前に,もう既に防災安全課
でも話が進んでいたので,特段市長になってから何か指示をしたりとか,
会議で発言をしたということはない。被告人が市議会議員のときにもβ市
にとって良いものだと思っていたし,市長になってからも,可能であれば
導入したいという思いはあった。また,雨水の利用等に関する法案が出て
法律化されるという話があったので,Cに対し,この機会にマスコミにP
Rできるのではないかということや,その頃に実証実験を株式会社Bの費
用負担で実施するとの話があったので,そういったことに協力をしてもら
。,うというような電話を被告人からしたかと思うCからのメールの文言に
Cと被告人との関係について「良い癒着」との表現があるが,被告人は,,
「」,明るい癒着という言葉はいろいろな場所で積極的に使っているものの
「良い癒着」という言葉を使うことはない。なお,この「癒着」という言葉
は,決して金のやり取りとか資金提供を意味するものではなく,自治体と
企業が協力して市民のサービスに応えるために,良い関係作り,協力関係
を築くことを意味するものである。
ウ市長になってから,浄水プラント事業の件について,E課長や総務部長
Kからときどき話を聞くことがあった。また,E課長とともにY中学校を
訪れ,校長先生と会ってプールを見たことはあるが,同校長を説得したよ
うなことは一切ない。7月末に,β市と株式会社Bとの間で「自然循環,
」,型雨水浄水プラント実証実験の実施に関する確認書が交わされているが
その締結に至るまで,被告人が部長会議等で発言をしたことは一切ない。
また,9月30日までとされていた上記実験期間は,その後,確認書を締
結して平成26年3月末まで期間延長されているが,同確認書の締結に当
,,。たっても被告人が部長会議等で発言したり指示したりしたことはない
9月18日頃,市職員一同でY中学校まで上記実験結果を見に行ったこ
とがあり,その際,その場にいたCを久しぶりに見掛けた。Cは,居合わ
せた幹部に話し掛けていたが,被告人はCには話し掛けなかった。
エ11月,Cから連絡があり,δ市の癸市長を紹介できるような話がある
ということだったので,会うことにした。このときは,被告人が最初に店
に到着し,次にI,その後にCが遅れて来たということを覚えている。こ
の日は,浄水プラントのレンタル契約のことは話題に一切出ていない。こ
の日は,Iが政策について話をし,被告人も,アンテナショップの話やゆ
るキャラの話をしたことを鮮明に覚えている。また,癸市長の話題も出て
いた。この日の食事代も割り勘にしているはずである。帰りは,Cの自動
車でβ市まで送ってもらったことははっきりと覚えている。Cと二人で話
をすることがそれまでなかったので,被告人からCの住んでいる場所を尋
ねたり,Cからも,被告人が政治家になった理由を尋ねてきたりして,そ
の場でいろいろ話をしたのを覚えている。その際には,Cが次の事業計画
として,ソーラー発電と一緒に風力発電も考えているということで,風力
発電の資料も受け取っている。
第5争点①に関するCの公判供述の信用性の検討
1基本的視点
本件において,4月2日に飲食店Fで,4月25日に飲食店Gで,いずれも
被告人がCと会食した事実及び上記各会食の席にIが同席している事実につい
ては検察官及び弁護人の間に争いはなく,関係証拠によっても明らかであるこ
とから,本件の真の争点は,Iが離席した機会にCが被告人に対して現金を交
付した事実を認めることができるかという点にあることになるところ,本件各
現金授受に関しては,第三者による目撃供述はなく,また,後述のとおり本件
各現金授受の点を直接に基礎付ける客観的で決定的な証拠も存在しない。そう
すると,本件各現金授受の事実を基礎づける証拠としては,贈賄者であるCの
公判供述があるのみであるところ,被告人はそれらの機会に現金を受け取った
事実を捜査段階から一貫して否認していることなどから,Cの公判供述の信用
性判断は特に慎重に行う必要があるものといえる。
そして,弁護人は,Cの公判供述に関し,Cには贈収賄事件に関して虚偽供
,,,,述をする動機がありまたCの公判供述自体に不合理性があることさらに
第1現金授受については,Cの捜査段階における供述経過及び供述内容には不
自然な変遷等があるなどとして,その信用性を争っているので,以下,Cの捜
査段階における供述内容及び捜査段階における記憶状況等に関するCの公判供
述を順に掲記する。
2捜査段階におけるCの供述のうち,贈収賄事件に関連する被告人との関係等
に関する供述要旨は次のとおりである。
(1)3月16日付け上申書(甲73)
被告人が市長選に出る旨を本人から聞いて知り,その選挙前に,市長にな
った後も株式会社Bの浄水設備をβ市に導入してもらえるように力を貸して
ほしいという意味合いで現金20万円を渡した。渡した場所は,確か,飲食
店Gという居酒屋で,その際,被告人に対し「少ないですけど使ってくだ,
さい」などと言って渡した。その他のことは良く思い出して話をしたい。
(2)3月17日付け上申書(甲74)
以前,被告人に20万円の賄賂を渡した。その頃,被告人には,株式会社
Bの浄水設備をβ市に導入させてほしいなどと,メールや口頭で,自分やI
からお願いしていた。
(3)3月27日付け警察官調書(弁3)
被告人のことを知ったのは,3月頃のことで,Iから,若くして市議会議
員にトップ当選した被告人と知り合ったので,株式会社Bの事業がβ市に参
入できるように話をすると言われた。Iから,まずIが被告人と会って株式
会社Bの事業がβ市で採用されるように頼んでみると言われ,Iにその食事
代を渡した。後日,Iから,被告人が株式会社Bの事業に興味を持ってくれ
たので話を進めてくれそうだと聞かされ,一度,3人で会うことになり,3
月頃の昼,自分が予約した飲食店Dにおいて3人で会った。飲食店Dでは,
被告人に株式会社Bの事業について説明し,株式会社Bのパンフレットを渡
し,浄水設備をβ市の学校などに入れさせてもらいたい,設置は株式会社B
で負担するのでレンタル契約をしてもらいたいなどと株式会社Bの浄水設備
がβ市で採用されるよう力を貸してほしいとお願いすると,被告人は,株式
会社Bの事業に興味を抱き「いいですね,ぜひやりましょう」などと言っ,
て力を貸すことを承知してくれた。同席していたIも,自分の話を後押しす
る発言をしていた。Iは,自称政策シンクタンクを名乗っており,δ市議会
議員にも政策を提供する男であり,被告人もIの政策に非常に興味を持って
いるようだった。また,この席で,Iは,金がないという被告人に対し,I
の活動費はCからもらうので,Cの事業を勧めてやってほしいとか,被告人
が株式会社Bとの癒着を疑われないように,株式会社Bの浄水事業を政策に
してしまえば良いとの発言もしていた。被告人は,今から市役所に行けば間
,。に合うので株式会社Bの事業を勧めにこの足で役所に行くと言って帰った
その約2日後に,E課長から事業の内容を聞きたいのでβ市へ説明に来ても
らいたい旨の連絡が来たので,被告人が株式会社Bのために働きかけてくれ
たのだと感謝するとともに,もっと尽力してもらうためにとりあえず10万
円位は差し上げておかなければと思った。
そこで,4月上旬頃と思うが,被告人に直接アポイントを取って,用事が
あるなどと言って呼び出した。アポイントが取れた後に銀行のATMで10
万円を引き出し,これを封筒に入れ,株式会社Bのパンフレットにこの封筒
を挟んで被告人に渡せるように準備した上で飲食店Fの駐車場で落ち会い店
内に入った。店内において簡単な挨拶をした後,自分の鞄に忍ばせていたそ
のパンフレットを封筒が見えるように被告人に示し,その後,他の人たちに
ばれないよう封筒側を下にして被告人に対し議員これ資料です少,,「,」,「
」,,ないですけど足しにしてくださいなどと言って被告人に渡すと被告人は
現金入り封筒が入っていることを知った上で「助かります。すみません」,
などと言って現金入りパンフレットをすっと受け取り,被告人の持っていた
鞄の中にしまった。現金入り封筒を挟んだパンフレットは,飲食店Dで会っ
た時に被告人に渡したものと同一の資料であった。二度も渡す必要のない資
料を自分がわざわざβ市まで持ってきて再度被告人に渡したことからも,被
告人はパンフレットが賄賂をカモフラージュする意味だと分かったはずであ
るし,被告人には封筒が見えるように見せていたから,現金が入っているこ
とは当然に分かったはずである。被告人は,断るようなそぶりもなく,いと
も簡単に賄賂を受け取ったので,議員というのは簡単に賄賂を受け取るもん
なんだなどと思った。Cが賄賂を渡した後は,E課長やIの話をしながら食
事をした。会計については,被告人の方から別々にすることを提案された。
会計を終えた後,二人で店を出た際,被告人に対し「今後ともよろしくお,
願いします」などと,株式会社Bの浄水設備がβ市で採用されることに力を
貸してほしいとお願いした。その後,被告人からメールでお礼が届いた。
被告人は,10万円の賄賂を受け取った後,E課長に質問書を提出するな
ど株式会社Bのために本当によく力を貸してくれた。そうした中,4月下旬
頃,Iから,被告人が市長選に出馬する旨を聞かされ,市長選の間に株式会
社Bの事業の話がしばらく進展しなくなってしまうのではないかと危惧し,
被告人には市長選の間も株式会社Bの事業を忘れずにいてもらい,市長選に
当選後は今以上に株式会社Bに力を貸してほしいという意味合いで,市長選
前に賄賂を渡すことにした。金額は,前回よりも多くした方がよいと考え,
Jに電話をして,被告人が市長選に当選した際には,株式会社Bの事業がβ
市に採用される可能性がものすごく高くなると説明して,50万円を貸して
くれるよう頼み,落選した際のリスクを理由に渋るJを口説き落とした。J
には,被告人に50万円を渡すと説明したものの,あまり多い賄賂だと被告
人に受け取ってもらえないリスクも考えて,被告人には20万円を渡すこと
にして,残りは自分の生活費に充てようと思っていた。Jは貸す旨約束して
くれたが,実際に借りることができる前の4月下旬頃に被告人及びIと自分
が予約を入れた飲食店Gで会うことになり,Jからの借入れが間に合わなか
ったことから,株式会社T銀行V支店の株式会社Bの口座から90万円を引
き出し,うち70万円をクレジットカードの返済に充て,手元に残った20
万円を被告人に渡すことにした。この20万円は,株式会社Bの事務所にあ
った茶封筒に入れて自分の胸内ポケットに忍ばせて,飲食店Gに行った。飲
食店Gには,IとCが先に到着し,被告人が後から来た覚えである。Cは,
被告人が到着する前に,Iに対し,被告人はIと二人で話したいだろうから
途中で先に帰るが,自分から言うのもどうかと思うので,被告人と仲の良い
Iから被告人に,市長選で忙しくなっても,浄水プラントの導入に向けた動
きが止まらないようにお願いしてもらいたい旨を依頼した。その後,被告人
が飲食店Gに到着し,3人で食事を始めたが,この日はIと被告人が市長選
,,,,の話で盛り上がっており自分も被告人に対し市長になってほしいこと
市長になっても株式会社Bのことをお願いしたいこと等を話した。そうした
中,Iがトイレか何かで席を立ったので,今がチャンスと思い,Cは被告人
側の席に移動し,胸内ポケットに入れて用意していた20万円入りの封筒を
差し出して「少ないですけど足しにしてください。Iさんには内緒で」な,。
どと言いながら差し出すと,被告人は「あー,どうもすみません」などと,
言って持っていた鞄に封筒をさっとしまった。Cが被告人に対し,Iには黙
っているように告げたのは,Cから被告人に金が渡されたことを知ったIか
らも金を要求されることが嫌だったからである。しばらくして,Iが戻って
きたので,被告人に市長選を頑張るように声を掛け,Iと被告人を残して先
に店を出た。
(4)5月1日付け検察官調書(弁6)
ア2月頃,Iから,被告人を紹介してもらったので会うことになったこと
を告げられ,その際,Iは,被告人について,市議会議員選挙でトップ当
選した若くて勢いがある議員だと言っていた。当時は,δ市における株式
,,会社Bの事業が思うように進展しない状況にあったことからCとしても
β市の学校に浄水プラントが設置できれば,それを足がかりにして他の自
治体も交渉に応じてくれるようになり,浄水プラント事業を展開していく
ことができるのではないかと考えたが,Iも同様の考えからか,被告人に
会った際には株式会社Bのことを宣伝してくると言ってきたことから,I
に対し,被告人に渡すための浄水プラントの資料を渡した上で,浄水プラ
ントをβ市の学校に設置してレンタル契約が締結できるように宣伝してき
てほしい旨を頼んだ。その後,被告人と会ったIから話を聞いたところ,
被告人が浄水プラント事業に興味を抱いたことが分かり,また,Iからも
被告人をCに紹介すると言ってきたので,Cが被告人に直接会って,浄水
プラントのレンタル契約が締結できるように取り計らってほしいとお願い
することになった。
イ3月7日の昼,Iの仲介により,飲食店Aで3人で会うことができたこ
とから,Cは,被告人に対し,浄水プラントの資料を渡した上で株式会社
Bの事業内容を説明し,β市への浄水プラント事業の導入に力を貸してほ
しい旨お願いすると,被告人は「いいですね,やりましょう」などと言,
ってくれた。また,このときは市議会が開会中であったことから,被告人
は,うまくβ市の担当者に働き掛けることができれば,市議会において株
式会社Bの事業について言及することができるかもしれないなどとも言っ
てくれた。そして,市議会が開会中の時期であったことから,被告人はな
かなか時間がとれないとのことだったため,次に会うのは,市議会が一段
落した後ということになった。
ウ3月22日の午後,飲食店Dで3人で会った。飲食店Dでは,被告人に
対し,新たにβ市宛に作成した浄水プラントの資料を渡した上で,被告人
の質問に答える形で,浄水プラント事業を説明し,β市で導入してもらえ
るように力を貸してほしい旨お願いした。また,この日,Iは,役人は議
会で質問されることを嫌うので,そのことを持ち出して働き掛ければ効果
。,,があるということを言っていた被告人はCの願いを快く了解してくれ
市議会議員の力をもって,株式会社Bの事業に関してβ市の役人に働き掛
けるなどしてうまく取り計らってくれることになった。また,この日,I
の提案もあって,β市の学校に浄水プラントを設置してレンタル契約を締
結する件に関しては,4月中に仮契約や仮発注など何らかの形にできるよ
うにしようということになった。Cは,進捗状況が芳しくないδ市と異な
り,フットワーク軽く動いてくれそうな被告人の様子から,β市における
株式会社Bの事業の導入に期待をした。
エその後,被告人がβ市の担当者に働き掛けるなどしてくれたお陰で,E
課長から連絡があった。自分としては,どうやって被告人がβ市の担当者
に働き掛けたかは分からなかったものの,Iが言っていたように,市議会
で質問することを引き合いに出すなど,市議会議員としての力を使ってう
まくやってくれたんだろうと思った。Cは,3月27日にβ市に出向き,
E課長らに対し,株式会社Bの事業を説明した。また,このとき,E課長
らに対し,まずはモデルという形で1校に浄水プラントを設置してレンタ
ル契約を締結し,それが軌道に乗れば,他の学校にも順次設置していくと
いう計画を提案した。これに対し,E課長は,検討して連絡すると言い,
その後は,まずはY中学校に浄水プラントを設置してレンタル契約を締結
するという方向で話が進んでいった。
オβ市ではCの依頼により被告人が動いてくれた結果,E課長らと話を進
めることができ,浄水プラント事業も現実化してきた。そこで,浄水プラ
ント事業についてβ市の役人に働き掛けるなどうまく取り計らってくれた
見返りと,今後も同様にうまく取り計らってもらう見返りとして,被告人
に金を渡そうと思った。自分が渡す金は賄賂になるので,被告人が金を受
け取ってくれるか不安もあったが,被告人に会った際に市議会議員の給料
が安いなどと言っていたので,その様子などからして受け取ってくれるだ
ろうと思った。
,,被告人に渡す賄賂の原資については経済的な余裕がなかったことから
以前に勤務していた病院の院長に対する支払分5万円を含めて15万円の
借金を,これまでにも借金をしたことがあるLから借りることにして,L
に申し込んだところ,Lはこれを了解し,4月1日,株式会社Bの口座に
15万円を振り込んでくれた。Cは,4月2日,ちょうど予定が空いてい
たので,被告人に会って賄賂を渡そうと思い,被告人に連絡を取ったとこ
ろ,当日昼に飲食店Fで会えることになった。そこで,Lに振り込んでも
らった株式会社Bの口座から15万円を引き出し,うち5万円は上記院長
の口座に振り込み,残りの10万円を封筒に入れた。被告人に金を渡して
いることを周囲にばれないよう,透明ファイルに浄水プラントの資料とと
もに10万円入りの封筒を挟み,それを大きめの封筒に入れて準備した。
以前よりIから,議員に金を渡すくらいなら自分に金を渡すように言われ
ていたため,Iには被告人に金を渡すことを秘密にしておきたかったこと
から,Iには知らせずに被告人と二人で会おうかとも考えたが,後でそれ
を知ったIから何か言われると嫌なので,Iに連絡を入れ,被告人と会っ
て浄水プラントの資料を渡すなどと告げた。そうしたところ,Iから同行
すると言われたので,断るのも不自然だし,資料を渡すふりをすれば金を
渡すこともばれないだろうと判断し,Iと一緒に被告人に会うことにし,
準備した10万円を持ってIと一緒に飲食店Fに行った。間もなく被告人
も到着したので,3人で店内に入って席に着いたが,その後,Iが席を外
したとき,Cは被告人に対し,大きめの封筒から10万円入りの封筒が見
えるように中身を引き出して見せ「これ少ないですけど足しにしてくだ,
さいなどと小声で言ったすると被告人はどうもすみません助」。,,「」,「
かります」などと小声で言い,大きめの封筒ごと10万円入りの封筒を受
け取った。Cは,Iには被告人に賄賂を渡したことを秘密にしておきたか
ったので,続けて,被告人に対し「これはIさんには内緒にしといてく,
ださい」などと言った。その後,Iが席に戻ってきた。Iが席に戻った後
は,Cが被告人と浄水プラント事業について話をしたこともあったが,主
として話をしていたのは,被告人とIであった。
被告人は,4月2日以降も,株式会社Bの事業について,議会のことを
引き合いに出して質問状を送りつけるなど,市議会議員の力をもって,E
課長らに働きかけてくれたほか,Y中学校の校長やPTA等にも働き掛け
てくれたようだった。
カ4月24日,Iからの連絡で,被告人が,病気で辞任する前市長Hの後
。,任指名を受けて市長選に立候補することになったとの情報を得た当時は
被告人のお陰で浄水プラント事業に関して話は進んでいたが,まだ学校関
係でクリアしなければならない問題があったほか,他の自治体と交渉する
ためにもY中学校への浄水プラントの設置及びレンタル契約の締結をでき
る限り早く進めたい気持ちがあった上,被告人が市長選に立候補すれば,
Y中学校に浄水プラントを設置する件が滞ることが予想された。そこで,
被告人に対し,引き続き浄水プラント事業に尽力してもらうべく,その見
返りとして更に金を渡そうと考えた。被告人に渡す金額については,市長
に就任するだろうことを考えると前回よりも多くしなければと思ったが,
あまり大金すぎても受け取ってもらえないのではと考え,20万円に決め
た。ただ,Cには資金に余裕がなかったことから,以前からβ市における
浄水プラント事業について被告人に働き掛けていることを話していたJか
ら生活費等を含めて50万円を借りることにし,Jには被告人が市長選に
立候補することも告げた上で,被告人に渡す金を貸してほしい旨頼んだ。
被告人との連絡はIが取っていたが,4月25日午後,Iから連絡があ
り,同日夜に飲食店GでIを交えて3人で会うことになった。そこで,被
告人に渡す20万円を封筒に入れて準備したものを持って飲食店Gに行っ
たが,このとき持っていった20万円は,Jから借りたものではなく,当
,日Lから株式会社Bの口座に振り込まれた金の中から90万円を引き出し
うち70万円を引き落としのある株式会社Bの口座に振り込んだ残りの2
0万円である。
飲食店Gには,IとCが先に到着したが,浄水プラント事業について被
告人に何度もあからさまにお願いするのはいやらしいという気持ちがCに
あったことから,被告人が来る前に,Iとの間で,Iから被告人に対して
株式会社Bの事業について市長選の前後にわたって尽力してほしい旨をお
願いするように言っておいた。その後,被告人が到着したことから,3人
は一緒の席に着いたが,この日は,まず市長選の話題となり,被告人がI
,。に協力を求めIはCが活動費を出す形で被告人に協力することになった
Cは,市長選の話の合間には,被告人に対し,市長になってください,市
長になっても株式会社Bのことを見捨てないでくださいなどとお願いし,
Iも,被告人に対し,市長選で忙しくなっても浄水プラント事業は引き続
き協力してやるように言ってくれたが,これに対し,被告人は,これを了
解してくれた。そして,飲食店Fと同様に,Iが席を外したとき,被告人
の側に行き,被告人に対し「少ないですけど足しにしてください」など,
と言い,封筒を差し出すと,被告人は「いつもすいません「助かりま,」,
す」などと言いながら封筒を受け取った。このときも,Cは,被告人に対
し「これもIさんには内緒にしておいてください」などと言った。その,
後,Iが席に戻ってきたので,Cは,被告人とIは市長選で掲げる政策の
ことなどで相談したいのだろうと判断し,しばらく経った頃,先に帰った
が,帰るに当たり,Iにメールを送信して,改めて,事前に打ち合わせて
おいたとおり,β市における浄水プラント事業について,被告人が市長選
の前後にわたって尽力するようIからもうまく言っておいてほしい旨お願
いした。
キ被告人は,5月の連休明け頃に市長選への立候補を正式に表明し,市議
会議員を辞職した。β市における株式会社Bの事業の件は,4月25日以
降も止まることはなく,Cは5月20日にβ市で浄水プラントの説明を行
うこともできた。市長選は5月26日が公示日で,6月2日に投票が行わ
れ,被告人が当選して市長に就任した。その後,E課長から,β市で浄水
プラント事業を行うことになれば,入札方式の一つであるプロポーザル方
式の公募にする必要があり,それには時間を要するが,株式会社Bが費用
負担して社会実験という形にすれば早く結論を出せると言われた。Cとし
ては,実験という形であっても,浄水プラントをβ市の学校に設置できる
わけで,それを足がかりとして他の自治体に交渉できると判断し,将来的
にはプロポーザル方式の公募に応募するなど何でもやってレンタル契約の
締結にまでこぎ着けたいとは思ったものの,この段階では早く結論が出る
ということなので,実験という形で了承することにした。E課長は,被告
人が市長に就任後も,β市における浄水プラント事業について,以前にも
増して積極的に推し進めてくれたことから,市長となった被告人の力は大
きいと感じた。その後,7月に入り,Y中学校に浄水プラントを設置して
実験を行う件につき,株式会社Bとβ市との間で確認書が交わされた。被
告人は,このような経過も把握しており,浄水プラント事業について実験
となったことは申し訳なく,今後,レンタル契約の締結は,平成26年4
月に立ち上げる市長直属の部署において取り扱っていくと言ってくれた。
Cは,実験という形で1校であっても,浄水プラントがβ市の学校に設置
されたことをありがたいと思っており,被告人に対してお礼を差し上げよ
うと思った。ただ,被告人が,実験という形となったことを申し訳ないと
言っていたことから,被告人には,レンタル契約の締結まで至った際に改
めてお礼をしようと考えていたが,その後も他の自治体に浄水プラント営
業を行うなどしていたところ,平成26年2月にCは詐欺で逮捕された。
(5)平成26年5月7日付け警察官調書(以下「5月7日付け警察官調書」
という。弁7)
ア先日,刑事に対して,被告人と初めて会ったのは3月頃の昼で場所は飲
食店Dだと話していたが,刑事と話していく中で,飲食店Aで3人で会っ
。,て食事したことがあったことを思い出した飲食店Aでは食事を終えた後
被告人を見送った覚えがあり,その際,被告人が今から役所に行ってくる
と言っていたことも思い出した。刑事から,3月7日に飲食店Aでクレジ
ットカードを使用していると教えてもらい,伝票のサインも確認して,そ
の場に自分がいたことは間違いないことが分かった。警察が押収した資料
の中にも3月7日に被告人とIが飲食店Aで会った資料があると聞いて,
その日,3人で飲食店Aに行ったことは間違いないと確信した。初めて被
告人と会った場所が飲食店Dと思い込んでいたのは,株式会社Bの浄水設
備をβ市に導入してもらえるように具体的に話した飲食店Dの場面が鮮明
に残っていたため,そのように思い込んでいたので,初めて被告人に会っ
た事実に関して以前に話した内容は訂正する。
イ3月7日に飲食店Aで被告人に初めて会った際,δ市宛に作成した資料
を持参し,浄水設備をβ市の学校などに入れさせてほしい,学校のプール
を利用して災害時に飲料水として利用したり,普段から飲み水やトイレ用
水としても利用できる,設置代金は株式会社Bが負担するのでレンタル契
約でお願いしたいなどと,株式会社Bの浄水設備がβ市で採用されるよう
に力を貸してほしいとお願いした。これに対して,被告人は,浄水プラン
ト事業に興味を持ってくれ「いいですね。やりましょう」などと株式会,
社Bの浄水設備がβ市で導入されるように市議会議員としての立場を使っ
て役所に働き掛けてくれることを約束してくれた。この当時,β市は議会
が開会中だったことから,うまくいけば議会で株式会社Bの浄水設備の件
,,。,を出せるかもしれないと言ってくれCはお願いしますと頼んだまた
この日,被告人は,食事を終えた後,Cの持参した資料を持って,今から
役所に説明に行くなどとも言ってくれた。その後,Iと電話で話した際,
市議会が終わった頃に再度被告人と会って,株式会社Bの浄水設備がβ市
で導入してもらえるように,具体的な進め方を打ち合わせようなどと言わ
れた。そして,Iから,市議会が終わったので,被告人と会って食事をす
る場所を探すように言われ,飲食店Dを予約した。
ウ3月下旬の昼頃,飲食店Dで3人で会った際には,あらかじめβ市宛に
作ったパンフレットを持参し,被告人に対して食事の場でパンフレットの
内容を説明したり,被告人から質問を受けたりしながら,株式会社Bの事
業がβ市で導入されるように市議会議員としての力を使って役所に働き掛
けてほしい旨お願いしたところ,被告人は,飲食店Aで会ったときと同様
に株式会社Bに力を貸してくれることを約束してくれた。このように,飲
食店Aでは,被告人は株式会社Bの事業に興味を持ち,株式会社Bへの力
添えを約束してもらったが,株式会社Bの浄水設備をβ市で採用してもら
えるように具体的に話を進めたのが飲食店Dだった。だから,飲食店Dで
のできごととして前回に話をした,Iの活動費をCからもらうので,被告
人には浄水プラント事業を勧めてやってもらいたいとIが被告人に言って
くれたことや,株式会社Bとの癒着が疑われないために,浄水プラント事
業も政策にしてしまえばよいなどとIが言ったことは,飲食店Dでの会話
に間違いない。また,この日,Iは,被告人に対し,議会で質問すると言
。,,えば役人はすぐに動くなどとも言っていたこの日食事を終えた際にも
飲食店Aと同様に,被告人は,フットワークよく,今から行けば間に合う
ので,浄水プラント事業を勧めにこの足で役所に行ってくる旨発言し,そ
の日のうちに市役所まで足を運んでくれた。
エその数日後くらいに,E課長から浄水プラント事業の内容を聞きたいの
で役所に説明に来てもらいたい旨の連絡があったので,Cは,3月下旬に
市役所に行き,E課長らに株式会社Bの事業説明や浄水プラントを有償で
レンタルするなどの説明をさせてもらった。被告人には,市議会議員とい
う立場を使って役所に掛け合ってもらい,その結果,Cが市役所に呼んで
もらって株式会社Bの浄水設備を導入してもらえるようにβ市にアピール
することができ,また,今後も被告人はどんどん株式会社Bのために動い
てくれるだろうと思い,被告人に賄賂を渡そうと思った。また,被告人に
,,渡す金額は以前にδ市議会議員に渡した10万円と同額にしようと思い
その10万円は,仕事上の付き合いがあり,何度も金を融通してくれたL
から,賄賂であることは隠して株式会社Bの口座に振り込んでもらった。
オ4月上旬頃,被告人にアポイントを取り,その日の昼に被告人と飲食店
fで会い,10万円を渡したが,その際にはIも同席していた。当初は飲
食店Fで食事をする予定はなく,飲食店Fの駐車場で資料の中に挟んだ封
筒に入った10万円をさっと渡すつもりだったことから,Iにはばれない
だろうと思った。ところが,被告人と駐車場で落ち合った際,被告人から
,。時間ができたので食事をしようと誘われ3人で食事をすることになった
そこで,飲食店F店内では,Iがドリンクを取りに行っている隙を見計ら
って,飲食店F店内のテーブルで,被告人に対し「これ,少ないですけ,
ど」と言って資料に挟んだ賄賂を渡すと,被告人は「どうもすみません,,
助かります」などと言って受け取った。このとき被告人に渡した10万円
の賄賂は,被告人が市議会議員としての力を使って浄水プラント事業に関
してβ市の役人に働き掛けてくれた見返りと,今後も同様に働き掛けたり
役人の動きが悪ければ議会で取り上げてもらうなど,市議会議員の力を使
ってうまく取り計らってほしいという意味合いで渡したものであり,被告
人も当然に分かっていると思っていた。
カ飲食店Fで10万円を渡した後,被告人が市長選に立候補する話を4月
下旬頃にIから聞いた。この話を聞いて,Cは,市長に当選してもらって
更に株式会社Bのために力を貸してほしいと思うと同時に,選挙になれば
被告人は忙しくなってしまうだろうから,市議会議員でいる間にその立場
を使って浄水プラント事業をβ市で行う件を止めずに進めるよう,β市の
役人に働き掛けるなどしてほしいと思った。そのため,被告人には飲食店
Fと同様に賄賂を渡して,引き続き株式会社Bの事業に力を貸してもらお
うと思った。そして,被告人に渡す金額については,市長になるかもしれ
ないことを考えると,10万円では少なく,前回より多い20万円くらい
なら受け取ってもらいやすいのではないかと判断し,その20万円はJか
ら借り入れることにした。Jには50万円を被告人に渡すので貸してほし
いと嘘を言ったが,差額の30万円はCの生活費などに充てるつもりだっ
た。しかし,実際にはJから借りる前に被告人と会うことになった。ちょ
うどその頃,Lには,β市で浄水プラント事業を行うことができるかもし
れないので出資してほしいと依頼して,Lに銀行から3000万円を借り
,,てもらっておりちょうどその金が株式会社Bの口座に振り込まれたので
その中から90万円を払い戻し,うち20万円を賄賂として用意した。4
月下旬頃,3人で会って食事をしたのは,飲食店Gという居酒屋で,この
席でも,被告人に対し,Cが,市長になっても株式会社Bのことはよろし
くお願いしたいと頼んだり,Iが,市長選で忙しくなっても引き続き株式
会社Bの事業に協力してやってほしいとお願いするなどしていた。飲食店
G店内において,Iが席を外している隙に,被告人に対し,封筒に入れて
準備しておいた20万円を「少ないですけど,足しにしてください」な,。
どと言って渡したところ,被告人は「いつもすみません」などと言って,。
受け取った。被告人に渡した20万円は,被告人が市議会議員としての力
を使ってこれまで浄水プラント事業についてβ市の役人に働き掛けてくれ
た見返りと,今後も被告人に市議会議員の間と同じようにβ市の役人に働
き掛けるなどうまく取り計らってもらう見返り,更には,市長に就任した
暁にもうまく取り計らってもらう見返りだった。その後,Iが戻ってしば
らくしてから,Cは被告人とIを残して帰ったが,帰り間際にIに対し,
β市における浄水プラント事業に関して市長選の前後に関係なく進めてい
くように被告人にうまく言っておいてほしい旨のメールを送信し,被告人
に対しては,市長選を頑張るよう声を掛けて店を出た。
(6)平成26年7月12日付け検察官調書(弁8)
ア3月7日に飲食店Aで,3月22日に飲食店Dで被告人と会った。その
際,被告人に対し,浄水プラント事業に関し,市議会議員の力をもって,
議会で質問したり役人に働き掛けたりなど,うまく取り計らってほしいと
お願いした。被告人は,Cの願いを受け入れ,3月の議会で株式会社Bの
浄水プラントの件について質問したり,E課長に働き掛けたりするなど,
市議会議員の力をもって取り計らってくれた。その結果,3月27日には
E課長らに株式会社Bの浄水プラントの件を説明することができ,その後
も打合せを行うなど,β市における浄水プラント事業の件はどんどん進ん
で現実化してきた。このような状況だったため,被告人に対しては,Cの
願いを受けて取り計らってくれた点で感謝していたし,今後も引き続きE
課長らに働き掛けたり,議会で質問したりするなどして市議会議員の力を
もってうまく取り組んでほしいと思った。特に,E課長の対応やδ市の状
況などを考えると,今後はβ市の教育委員会等の役人とも折衝する必要が
あり,被告人にはそれら役人にも働き掛けてもらうなど,ますます市議会
議員の力をもって動いてもらう必要が出てくると思った。そこで,これら
の見返りとして,被告人に金を渡そうと考えた。また,その金額について
は,以前にδ市議会議員に同様に金を渡す際,Jにそれとなく相談するな
どして10万円を渡していたことから,被告人にも同額の10万円を渡す
ことにした。被告人は,市議会議員の給料は安いと言っていたので,その
ような賄賂であっても受け取ってくれるだろうという気持ちもあった。そ
のように,被告人に賄賂として10万円を渡そうと決めたのは,3月30
日か3月31日頃であった。
イ当時,Cの手元には多少の金はあったが,余裕がなかったので,これま
でにも何度か金を借りたことがあるLから金を借りることにした。また,
Cは,以前に働いていた病院の院長に対して返済しなければならない5万
円も必要であったことから,被告人に渡す10万円と併せて15万円をL
。,,から借りることにしたLには3月30日か3月31日頃に連絡を取り
15万円を貸してほしいとお願いした。Lはこの申入れを了解し,4月1
日,株式会社P銀行Q支店の株式会社B名義の口座に15万円を振り込ん
でくれた。なお,Cは,4月1日も,朝から株式会社Bの浄水プラントの
件で市役所に行ってE課長と打合せをするなどしていた。Cは,Lから金
を借りることができ,4月2日はちょうど予定が空いていたので,この日
に被告人に会って金を渡すことにした。
ウ4月2日午前8時25分頃,被告人に会えないか打診するメールを送信
した。このメールを送信後,上記院長に対する借金の返済期限が月末だっ
たことから,とりあえずLから振り込んでもらった15万円のうち5万円
を院長の口座に振り込むことにした。Cは,同日午前8時30分頃,自宅
を出て,自動車で株式会社Bの事務所に行く途中,株式会社P銀行R支店
に向かったところ,その途中と思われる同日午前8時48分頃,被告人か
ら,その日の正午なら何とかなるとの返信メールがあった。Cは,この日
の昼に被告人と会えると思い,Lに振り込んでもらった15万円のうちの
10万円を被告人に渡すこととし,会う場所を確認するために,同日午前
8時49分頃,正午に落ち合う場所を尋ねるメールを被告人に送信した。
その後のことになると思うが,上記R支店に到着し,同日午前8時57分
頃,ATMを使用して株式会社B名義の口座から15万円を引き出し,同
日午前8時59分頃,そのうち5万円を上記院長の口座に振り込んだ。そ
して,手元に残った10万円をATMの近くに置いてあった株式会社P銀
行の封筒に入れた。上記R支店でこのような出入金を行っていたところ,
被告人から飲食店Fでどうかというメールが送信されてきたが,Cとして
は,場所はそれほど気にしていなかったので,同日午前9時頃,被告人に
対し,落ち合う場所を飲食店Fにする旨のメールを返信した。すると,被
告人から,同日午前9時2分頃,飲食店F店内に入るような時間がないと
思うので外で落ち合うことを了承してもらいたい旨のメールが送信されて
きたため,Cは,同日午前9時3分頃,これを了解する旨のメールを返信
し,その後,Cは株式会社Bの事務所に向かった。Cは,これまで被告人
に会うときにはいつもIと一緒だったが,被告人に賄賂として金を渡すこ
とをIが知ると,Iからも金を要求される可能性があったことから,Iに
は秘密にしておくつもりだった。そのため,Iには知らせずに被告人と会
おうとも考えたが,その一方で,Iに知らせずにCが被告人と会ったこと
が,後になってIに知られると,Iの機嫌を損ねるかもしれず,また,か
えって何かしたのかと疑われる可能性もあった。このため,Cが被告人と
会うこと自体はIに伝えておこう,Iには資料を被告人に渡すだけだと説
明すればIも分かったということで話は終わるだろうと思った。そこで,
Iに連絡を取り,被告人と会って資料を渡すことを伝えたところ,Iも同
。,,行すると言い出したCはIには来てほしくないと思っていたことから
本当に資料を渡すだけだと説明したが,Iはそれでもいいから一緒に行く
と言ってきたため,ここであまり拒否するのもかえって不自然だと思った
上,資料を入れる封筒の中に現金を入れて渡せば,Iにもばれずに金を渡
せるだろうと考え,仕方なくIと一緒に被告人に会うことにした。Cとし
ては,被告人に渡したい資料は特になかったが,Iから,被告人にどのよ
うな資料を渡すのか聞かれたときに備え,渡す意味があると説明が付く資
料を作成しようと考え,株式会社Bの事務所において,まだ被告人には報
告していなかったE課長との4月1日の打合せ結果をまとめた資料を新た
に作成した上,同資料等を透明なクリアファイルに挟み,その後ろ側に現
金10万円を入れた銀行封筒を挟み,それを大封筒に入れて準備した。同
月2日午前11時前頃,Iが株式会社Bの事務所まで来たので,Cの運転
する自動車にIを同乗させ,飲食店Fに向かった。飲食店Fの駐車場に到
着したところ,被告人の姿がまだ見えなかったことから,同日午前11時
52分頃,被告人に対し,自分たちが到着したことを知らせるメールを送
信すると,同日午前11時56分頃,被告人から,間もなく到着すること
を知らせるメールが返信され,その後間もなく,被告人が運転する自動車
が飲食店Fの駐車場に入ってきた。Cは,飲食店Fの駐車場で被告人に金
を渡すつもりであったことから,銀行封筒の入った大封筒を手に持って自
動車を降りたが,自動車から降りてきた被告人から,時間ができたので中
に入ろうと言われたので,3人で飲食店Fに入店した。このとき,Cは,
準備してきた10万円については店内でIが席を外したときにでも渡そう
と考え,大封筒を持ったまま店内に入った。3人が座った位置は,飲食店
Fの奥の4人掛けテーブルで,CとIが横に並び,テーブルを挟んだ向か
い側に被告人が座った。飲食店Fでは3人ともランチとドリンクバーを注
文し,注文を終えると,Iは席を立ってドリンクバーに飲み物を取りに行
ったが,その際,Iは,被告人の分も取ってくるため,被告人に飲み物を
確認していた。Cは,被告人と二人きりになりたかったので,自分は後で
取りに行くとIに告げた。Cは,こうしてIが席を外したとき,今のうち
だと思い,大封筒をテーブルの上に出し,まず,大封筒からクリアファイ
ルを半分くらい引き出し,被告人に対し,クリアファイルの中の資料だけ
が見える表側を見せ,次に,金を渡すことを分かってもらうため,大封筒
ごと裏返し,クリアファイルの後ろに挟んだ銀行封筒を見せ,その上で,
クリアファイルを大封筒に戻し,小声で「これ少ないですけど足しにし,
てください」と言いながら差し出すと,被告人は「すみません,助かり,
ます」と小声で言って大封筒ごとさっと受け取った。Cは,被告人に金を
渡すことをIには秘密にしておくつもりだったので「Iさんには」と言,
った上で,人差し指を唇に当て,内緒にしてもらいたいというジェスチャ
ーをした。すると,被告人は,「分かりました,ありがとうございます」と
小声で答えたが,受け取った大封筒を隣の座席に置いたと思う。Cの仕草
や発言内容からも,被告人は渡されたものが単なる資料ではなく金である
ことが分かるだろうと思った。また,Cにとって,被告人に渡した金はこ
れまでの被告人の株式会社Bの事業に関する取り計らいに対する見返りで
あり,そのことは被告人も分かっていると思った。しばらくすると,Iが
飲み物を取って席に戻ってきたので,Cも,自分の分の飲み物をドリンク
バーに取りに行った。3人は食事をしながら話をしたが,被告人は,浄水
プラント事業に関してE課長が精力的に動いてくれていい感じになってい
ると話し,また,Cも,もっと被告人に動いてもらいたいと思っていたこ
とから,今後もいろいろお願いすることがあるのでよろしくお願いしたい
旨発言した。飲食店Fでは,浄水プラント事業以外にも,被告人とIが政
策論議などもしていたと思う。飲食店Fの食事代は,Cの方から割り勘を
持ちかけ,実際は一人当たり800円くらいであったが,500円くらい
出してもらえばと申し出たところ,被告人が500円を出してきたので受
け取り,同日午後零時45分頃,Cが3人分をまとめてCのクレジットカ
ードで支払った。3人は食事を終え,午後1時前には店を出たと思う。そ
して,被告人とは駐車場で別れ,CはIと一緒に自動車で株式会社Bの事
務所に戻り,Iとは株式会社Bの事務所で別れた。その日の午後5時40
分頃,見返りとして金を渡したことで被告人には浄水プラント事業に関し
てうまく取り計らってもらおうと思いメールを送信したが,その中の「議
員のお力になれるよう」という文言は,要するに,見返りとして金を渡し
。,,たということを伝えたかったからであるすると同日午後7時3分頃に
被告人からメールが返信されてきたが,その中の「わざわざありがとうご
ざいます」という文言は,Cがわざわざ飲食店Fまで来て金を渡したこと
に対する感謝の意味だと理解した。
3Cは,公判廷において,本件に関する捜査段階における記憶状況,記憶喚起
の経緯,捜査段階の供述からの変遷を指摘された点などについて,次のとおり
説明している。
(1)被告人に金を渡したことを刑事に初めて話したのは平成26年3月15
日である。翌日に3月16日付け上申書を書いたが,刑事から,もう一度書
いてくれと言われ,さらにその翌日にはもう少し付け足すような内容の3月
17日付け上申書を書いた。この時点では,市長選のことを知った頃,飲食
店Gで被告人に20万円を渡したことは覚えていたので話したが,その時点
ではそれ以上のことは思い出せなかった。3月16日付け上申書の作成時点
では,飲食店Fの件について,刑事には,前にも金を渡したことはあるけれ
ども,今は,いつ,どこで,幾ら渡したかは思い出せない,はっきりしない
というふうに話した。飲食店Fで10万円渡したことを思い出したのは,そ
れから二,三日後のことである。刑事から,思い出したら話してくれと言わ
れ,いろいろ過去のことを思い返しているうちに,δ市議会議員に動いても
らって10万円を渡したことを最初に思い出し,それに関連して,被告人に
も10万円でいいかと思って渡したことを思い出し,確か場所は飲食店Fだ
ったなということまで思い出した。そこから細かな記憶を思い出す作業をす
るに当たって,メールとか銀行口座の金の動きなどの資料とかいろいろ見せ
てもらい,日にちとか,Iがいたなとか,順番に一つ一つ思い出し,思い出
したことでまた次が思い出されてという作業をした結果,今話している内容
のことを思い出した。
(2)3月27日付け警察官調書の作成時点では,メールはたまに見せてもら
ったことはあるが,しっかりと自分の手元で見せてもらうことはなかった。
自分の思い出せる範囲と,そうだったかもしれない,だったんじゃないかな
とか,そういう抽象的な話し方をしていた記憶がある。3月27日付け警察
官調書は,自分の記憶がはっきりしているところとはっきりしていないとこ
ろを自分がまとめて話をして取ったものである。もっとも,はっきり思い出
さないことを,はっきり思い出したかのように話したことはない。ただ,今
になって3月27日付け警察官調書を見ると,実際に自分が言った言葉と違
うようになったりしているところもあり,正直,その当時はあまり細かくチ
ェックして読んでいなかったなと感じた。
,,,同日より前にも警察官に対しIが飲食店Fにいたかどうかについては
はっきりしないと話しており,3月27日付け警察官調書を作成する際,自
分としても,被告人に金を渡したときは二人だったということは思い出せた
が,そのほかのことはうろ覚えであったことに加えて,刑事から,4月2日
のメールを見てもIはいるように思えない,今回はIの件は外しておくぞと
いうふうに言われ,刑事がそう言うんだったら,自分もはっきりしなかった
ので,まあいいかと思い「はい」と答え,その結果,3月27日付け警察,
官調書ではIがいないふうに書かれてしまった。Iが飲食店Fに同行してい
たことを思い出して最初に話したのは検察官ではなく刑事であったと思う。
メールを熟読して思い出す作業をしていたときに思い出した記憶がある。思
,。,い出した時期は平成26年3月末頃から同年4月上旬頃である警察では
,,3月27日付け警察官調書の作成後詳しい資料を見せてもらうようになり
飲食店Fの店外で被告人と待ち合わせのためにやり取りした4月2日のメー
ルをじっくりと読ませてもらっているときに,最初に,Iと一緒に飲食店F
の駐車場で待っていたときに,被告人が到着したので,Iと二人で自動車を
降りていったという情景を思い出した。
Iと一緒に行ったにもかかわらず,どのようにしてIに知られないで被告
人に金を渡したかという具体的な状況についても,最初にIがいたことを思
い出した時点では思い出せなかったが,そのときに自分がどう考えていたか
ということを一つ一つ思い出していった結果,平成26年4月上旬頃には,
Iがドリンクバーに行っているときに被告人に現金入りの資料を渡したこと
を思い出した。
,,同年3月27日の取調べにおいて現金入り封筒を挟んだ資料については
カモフラージュをしたという印象の記憶しかなく,資料に関しては全然思い
出せないが,資料は何でもいいと思っていたはずなので,もしかしたら飲食
店Dで渡した資料をもう一回用意して渡したかもしれないし,そうであって
もおかしくないという言い方をしたところ,3月27日付け警察官調書では
飲食店Dで渡したのと同じ資料を渡したというふうに断定的に書かれてしま
った。同日に同警察官調書を読んだときには,そこまで細かく意識しておら
ず,後になって断定されたんだということを思った。
同日の時点では,飲食店Fにおける金の渡し方は,まだはっきりとした記
憶が喚起できておらず,カモフラージュのために資料をクリアファイルに挟
み,現金入り封筒を挟んで大きめの封筒の中に入れて鞄の中に入れたことく
らいは覚えていたが,クリアファイルの表裏を順番に見せたことまでは覚え
ていなかったと思う。また,その時点では,被告人に渡す物の中に現金が入
っていることをきちんと確認してもらおうと思っていたかどうかまでは思い
出せなかったし,渡した具体的な場面も覚えていなかった。
3月27日付け警察官調書に記載された「これ資料です」という自分の発
言は,覚えていたわけではないが,刑事に対し,それくらいのことは言った
んじゃないかなというふうな言い方をした記憶がある「少ないですけど足。
しにしてください」との自分の発言は,自分が言ったというふうに伝えてお
り,同じく記載された「助かります,すいません」という被告人の発言は,
そういう言葉を聞いたというふうに覚えていた。
(3)検事調べが始まった平成26年4月中旬前には,飲食店FにIが一緒に
いて,被告人に対して公判廷で供述しているような示し方をしながら大封筒
を渡したということは思い出しており,検事調べのときにもちゃんと話して
いる。金を渡した具体的状況についても,Iがドリンクバーに飲み物を取り
に行くために席を外した間に現金入りの資料を渡したことも,検事調べが始
まった時点で話をしていた。5月1日付け検察官調書にその旨の記載がない
理由は,検事に聞いてみないと分からないが,検事からは,一連の流れをざ
っと取ること,細かなところは後から別に要所要所で調書を取ることを告げ
られた。
(4)警察の取調べの際には,あんなことはなかったかとか,こんなことはな
かったかとか,Cの記憶を思い出させるためのキーワード的なことにならな
いかというような意味で,そういうことを言われたことはあった。しかし,
検事調べでは,基本的にそういうことは言われておらず,客観的な資料を示
されてこういう話だったら辻褄が合うとか,こうなんじゃないかと言われた
こともない。すべて自分が思い出して話をしている。
(5)証人として公判廷で供述している内容については,平成26年4月中旬
頃までには,細部はともかくその大部分につき記憶は喚起できていた。11
月4日に飲食店Gで3人で会ったことも平成26年4月中旬頃には記憶喚起
できていた。被告人から自分に対し,Iと会える段取りを取ってほしいとの
連絡があったのでその日を設定した記憶である。具体的な日付は,飲食店G
の予約表を見て思い出した。3人で会った際に話した内容は,今後,β市の
アンテナショップをδに出そうとか,来年(平成26年)4月に市長直属の
部署が立ち上がるので,株式会社Bの件はそこで扱っていく予定だというも
のだった。第2回公判期日において,4月25日以降,被告人とは会ってい
ない旨供述したが,これは,市長選までの間に会ったかどうかを聞かれてい
ると勘違いしてしまったからである。また,同公判期日において,4月25
日以降は被告人と接触を試みたこともない旨供述したが,これは,金を渡す
という用件のために接触したかどうかを聞かれていると思い,そのように答
えてしまったものである。
4本件各現金授受に関するCの公判供述の信用性に関する判断等
(1)ア供述の信用性が大きな争点となる事件においては,信用性の吟味に
,,,際しては供述の具体性や裏付け事実の存在等のほか供述内容の一貫性
反対尋問にも揺らいでいないか,供述態度が真摯なものであるか,内容に
迫真性があるか,虚偽の供述をする合理的な動機がないか等が判断の要素
となる。
この点についてCの公判供述は,全体として具体的かつ詳細なものであ
り,飲食店Fにおける3人の飲食内容や飲食代金の支払状況については客
観的資料の裏付けが存在する上,被告人に対して飲食店Fで交付したとす
る現金10万円及び飲食店Gで交付したとする現金20万円の各原資に関
,,しても一定の裏付けも存在し弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず
供述内容に矛盾を含むなど明らかに不合理な内容も見受けられない。
イしかしながら,その一方で,第1現金授受について,Cの公判供述によ
れば,飲食店FにおいてIが被告人に何を飲むか尋ねていたのでIが被告
人の分の飲み物も取りに行ったと思ったというものの,被告人がIに取っ
てくるよう頼んだ飲み物の種類について具体的な説明はなく,また,Iが
ドリンクバーから二人分の飲み物を持ち帰った状況や,取ってきた飲み物
を被告人に渡した際のやり取りの様子,さらには,C自身がドリンクバー
から取ってきた飲み物の種類についても何らの説明もなされていないが,
この点は,Cが被告人に対して現金を交付した際の状況について具体的か
つ詳細に説明していることと対比すると違和感を感じざるを得ない。
また,Cの公判供述では,Iがドリンクバーに飲み物を取りに行くため
席を立ってから戻ってくるまでの間のIの様子について何ら説明はなされ
ていないが,ドリンクバーが,3人が座っていたテーブル席の壁際から約
..,34メートルないし約64メートルという比較的近い場所に設置され
かつCの着座位置からしてほぼ真後ろの背中側の位置にある(甲85)た
めに被告人の方を向いた状態ではIの様子をうかがい知ることができない
状況にあったことから,Cの述べるように被告人に現金を渡す事実をIに
できる限り知られたくなかったというのであれば,Cにおいて,Iが3人
のテーブル席の方向を見ていないかどうかを確認しようとする行動を取る
か,少なくともIの様子について警戒心を抱いて然るべきところ,本件に
おいてCがそのような行動等を取った形跡はない。この点,Cは,公判廷
において,被告人に現金を渡したことがIに発覚したとしたらそのときは
仕方がないと覚悟していた旨の説明をしているが,そのような説明は,I
が同行するのを避けたいと考えたCの行動等に照らして不自然である上,
捜査段階でも一切なされていない。さらに,それまで飲食店Aと飲食店D
において昼食を2回取った以外に会ったことはなく,個人的にも親しい関
係にあったわけではない市議会議員である被告人に対して賄賂であるとい
う認識を持ちながら現金を交付する場合,犯罪行為を行う者として少なか
らず緊張感を覚えたり,相手に受け取りを拒否されて浄水プラント事業の
β市への導入が頓挫してしまうことへの警戒感などの気持ちを抱いたりし
ても不思議ではないが,Cの公判供述ではそのような心情について具体的
に述べられていない。
ウ第2現金授受について,Cは,第2現金授受の核心部分ともいえるIの
離席時の状況については,Iが何かの理由により少し席を外したときがあ
ったので,机を回り込んで被告人の左側まで移動して茶封筒を渡したと述
べるに止まっている。しかしながら,Cの述べるように被告人に現金を渡
す事実をIにできる限り知られたくなかったというのであれば,Cにおい
てIの動静に注意を払うのが普通であるが,Cは,公判廷においても,I
が席を離れてから戻ってくるまでのIの様子については何も具体的に説明
していないし,C自身において,Iが席に戻って来ないかどうかについて
注意を払った形跡もない。さらに,第2現金授受の場面をIに見られたく
ないというCの立場に立てば,少しでも手早く被告人に茶封筒を渡すため
には,例えば,席を移動することなくその場で茶封筒をメニュー表でカモ
フラージュするなどして机越しに手渡す方が簡便であることは明らかであ
り,Cにおいてそのような行動を取ることに支障があった事実もうかがえ
ない。しかるに,Cによれば,わざわざ机を回り込んで被告人の左横隣に
移動した上,正座よりもやや腰を浮かせた姿勢で両手で茶封筒を被告人に
差し出したというのであるが,そのような行動を取れば,余分に時間を要
するばかりか,Iにその状況を遠くから見られた場合にも目立ちやすく,
さらには席に戻って来るIが自分の背中側で死角になることでその姿に気
付きにくい結果となるが,合理的とは思えないそのような行動を取った理
由について,Cは公判廷でも合理的な説明をなし得ていない。この点,C
,,,は公判廷において被告人に現金を渡したことがIに発覚したとしても
Iだから最悪ばれても問題ないと思った旨の説明をしているが,そのよう
な説明は,被告人に対する現金交付の事実をIには発覚したくないと考え
たCの行動等に照らして不自然である上,捜査段階でも一切なされていな
い。加えて,Cの公判供述における第2現金授受の際のCと被告人との発
言内容を含むやり取りについては,第1現金授受の内容とほとんど変わら
ない内容となっている。
エ以上の点に照らすと,Cの公判供述は,全体的にみて具体的かつ詳細な
ものといえるとしても,本件各現金授受という本件の核心的な場面につい
,。て具体的で臨場感を伴う供述がなされていると評価することはできない
(2)そこで,さらに進んで,Cの捜査段階における供述経過等について検討
する。前記のとおり,Cは,公判廷において,被告人に現金を渡したことを
刑事に初めて話したのは平成26年3月15日であり,その当時は曖昧な記
憶しかなく,3月27日付け警察官調書の作成時点では,メールはたまに見
せてもらったことはあったが,しっかりと自分の手元で見せてもらうことは
なく,自分のその時点の記憶に基づき調書を作成した,同時期以降,メール
や銀行口座の記録などを熟読する中で,一つ一つ思い出していく作業を続け
た結果,平成26年3月末頃から同年4月上旬頃に,Iが飲食店Fに同行し
ていた記憶が思い出され,同月上旬頃には,Iがドリンクバーに飲み物を取
りに行ったときに被告人に現金入り封筒を挟んだ資料を渡したことを思い出
し,検事調べが開始された同月中旬頃前には,Iが飲食店Fに同行し,公判
廷で供述しているような現金の渡し方をしたことは思い出しており,同月中
旬頃までには,細部はともかくとして,公判廷で述べている事実の大部分は
記憶を喚起できていた旨供述しているところ,上記供述には,次のような疑
義がある。
ア前記のとおり,Cは,3月16日付け上申書及び3月17日付け上申書
において,被告人に対して現金を渡した事実に関し,4月25日の飲食店
Gにおける出来事しか記載していないところ,その理由について,Cは,
公判廷において,その当時は,飲食店Gで被告人に20万円を渡したこと
以外は思い出せず,平成26年3月16日時点では,刑事には,飲食店F
の件に関して,前にも金を渡したことはあるが,いつ,どこで,幾ら渡し
。,,たかは思い出せないと説明した旨供述しているしかしながらそもそも
市議会議員である被告人に対して賄賂であるとの認識を持った上で現金を
渡すという行為は非日常的なものとして,通常はそれを行った者において
強く印象に残るはずであるし,多数回にわたる現金交付の事実があったと
するならばともかく,Cの述べるところによれば,現実には被告人と会食
をした回数は11月4日の飲食店Gを含めても合計5回に過ぎず,Cが被
,告人に現金を渡したとする回数もわずか2回に過ぎないというのであれば
具体的な日の特定はまだしも,被告人に現金を渡した機会及びその金額に
ついては記憶に残っていて然るべきである。この点,Cは,8月22日,
Y中学校において,浄水プラントが設置できたことに感心した業者仲間で
ある戊に対し,渡した相手方が被告人であることを暗に認めた上で,しか
るべき人に30万円くらいを渡している旨を告げた事実が認められるがC(
及び戊の各公判供述,甲68,それから約7か月しか経ておらず,しか)
も自ら警察官に贈賄行為を上申するという状況において,平成26年4月
中旬頃には現在とほぼ同程度の記憶喚起ができていたと述べるCが,同年
3月中旬頃の時点では飲食店Fの件について極めて曖昧な記憶しかなかっ
たというのは不自然といわざるを得ない。
なお,Cは,公判廷において,同月16日頃に飲食店Gの件を刑事に話
した二,三日後には,飲食店Fで10万円を渡したことを思い出したとも
供述しているが,本件において上記供述の裏付けとなる上申書や捜査資料
の存在はうかがわれず,Cの上記供述内容はそのまま信用することはでき
ない。
イCは,飲食店FにおいてIが同席していた事実について,同月27日よ
り前に,警察官に対し,Iが飲食店Fにいたかどうかはっきりしないと説
明していた,3月27日付け警察官調書の作成時点では,飲食店Fで被告
人に現金を渡したときに二人だけだったことは思い出せたが,それ以外に
ついてはうろ覚えであり,刑事からも,メールを見てもIが同席していた
ようには思えないと言われたことから,Iが同席していなかった内容の供
述調書が作成されてしまった旨説明している。
しかしながら,同日の取調べに関して作成された警察官の取調べメモに
おいても,CがIの存在の可能性について刑事に話していた形跡はうかが
えない。また,3月27日付け警察官調書においても,Iが同席していた
可能性を示唆したような記載は全く見当たらないばかりか,同警察官調書
には賄賂を渡した後にIの話題などを出しながら食事をした旨の記載すら
存在することに照らすと,同日の取調べの際には,Cには被告人と二人き
りで食事をしたとの記憶しかなかったのではないかと疑われる。さらに,
Cは,公判廷において,3月27日付け警察官調書を作成した後,メール
等の詳しい資料を熟読するうちに,平成26年3月末頃から同年4月上旬
頃,被告人が到着するのを飲食店Fの駐車場でIと一緒に待っていた情景
等を思い出したとも供述している。しかし,Cは,すでに3月27日付け
警察官調書において,被告人と飲食店Fの駐車場で待ち合わせたこと自体
は供述しているし,4月2日午前中に被告人とCとの間でやり取りされた
メールを見ても,Iを同行していた事実を推測させるような記載は見当た
らないことからして,前記資料等を見たことをきっかけに前記情景等が思
い出されたとするCの説明はそのまま首肯し難い。
以上によれば,平成26年3月27日の時点でCが刑事に対して飲食店
Fで被告人と会った際にIが同席していた可能性があることを告げていた
こと及び同年4月上旬までには飲食店FにIを同行していた場面の記憶を
具体的に喚起できていたとのCの公判廷における供述内容の信用性には大
きな疑問があるといわざるを得ず,Iが飲食店Fに同席していたか否かと
いう重要な事実に関して,Cの供述は変遷しているといわざるを得ない。
ウCは,公判廷において,3月27日付け警察官調書の作成時点では,飲
食店Fにおいて被告人に現金を渡した具体的場面は覚えておらず,現金の
渡し方についても,現金入り封筒を株式会社Bの資料に挟んでカモフラー
ジュしたという印象しかなかったなどと供述している。しかしながら,C
については,同警察官調書が作成された翌日である同月28日,市長選に
関してIの便宜を図るためにβ市内に旅館を確保したほか,Iに活動資金
を渡したことなどの事実や,被告人の市長就任後の時期にIから被告人を
乗せるためとして要求されたために自動車を準備した上でIに提供した事
実に関して,相当に具体的かつ詳細に供述した2通の警察官調書(弁4,
5)が作成されているところ,同時期頃に被告人との関係について他の事
,,実に関して詳細な記憶をとどめていたCが公判廷において述べるように
3月27日付け警察官調書の作成時点において賄賂の供与という強く印象
に残るべき第1現金授受に関して,その具体的場面やIの同席の有無に関
する記憶が曖昧であったというのも不自然といわざるを得ない。
また,Cは,公判廷において,同月27日の時点においては飲食店Fに
おける記憶が曖昧であったと供述する一方,現金を被告人に渡す際に,C
が「これ,少ないですけど足しにしてください」という発言をしたことが
ある旨を刑事に伝えており,また,被告人が「すいません。助かります」,
と発言したことは当時から覚えている旨供述するが,現金を渡した具体的
場面等について曖昧な記憶しかなかったにもかかわらず,その際の被告人
と自分の会話部分については具体的な記憶があるということもまた不自然
といわざるを得ない。
エCは,3月27日付け警察官調書において,飲食店Fで被告人に渡した
,,資料は飲食店Dで渡した資料と同一であった旨供述していた点について
公判供述の際,同日の時点では,飲食店Fで被告人に渡した資料について
全然思い出せなかったので,もしかしたら飲食店Dで渡した資料と同じ物
だったかも知れないと刑事に話したにもかかわらず,断定的に供述したよ
うな供述調書ができてしまい,供述調書を読んだときも意識していなかっ
た旨説明している。
しかしながら,3月27日付け警察官調書の記載内容をみると,資料に
ついて供述した内容は,飲食店Fにおいて現金を被告人に渡した理由に関
連する積極的な根拠として供述されているのであって,曖昧な供述をして
いたのにそのような記載になってしまった旨のCの説明には無理があると
言わざるを得ない。そうすると,同日の時点において,警察官に対して,
飲食店Fで渡した資料に関して上記のような説明をしていながら,公判廷
で異なる説明をした理由としては,同調書作成後に捜査機関が被告人宅か
ら差し押さえた株式会社Bの資料(甲78)の内容に供述を合わせた疑い
があり,Cの供述は変遷しているといわざるを得ない。
そこで,以下,前記説示に基づき,Cが捜査機関に対して,飲食店Fにお
いてIが同席した事実及びIがドリンクバーに飲み物を取りに離席した機会
に被告人に対して現金を交付した事実を記憶喚起して具体的に供述するよう
になった時期について判断する。上記のとおり,平成26年3月末頃から同
年4月上旬頃に,Iが飲食店Fに同行していた記憶が自発的に思い出され,
同月上旬頃には,Iがドリンクバーに飲み物を取りに行ったときに被告人に
現金入り封筒を挟んだ資料を渡したことも自発的に思い出した旨のCの供述
には,不自然な点や供述の変遷などの看過し難い問題が多々含まれており信
用できない。そして,捜査機関においてIが飲食店Fに同行していた事実が
初めて調書化された時期が5月1日付け検察官調書の作成時であり,Iが飲
食店Fにおいてドリンクバーに飲み物を取りに離席した機会に被告人に対し
て現金を交付した事実が初めて調書化された時期が5月7日付け警察官調書
の作成時であるところ,一件記録によっても,Cが,平成26年4月13日
までに,Iが飲食店Fに同行していた事実やIが飲食店Fにおいてドリンク
バーに飲み物を取りに離席した機会に被告人に対して現金を交付した事実を
捜査機関に話していた形跡はうかがわれず,また,検察官からその点に関し
て何らの立証もなされていない。その一方で,Cが同月14日から始まった
検事調べの直前である同月13日頃に,刑事から同日付け捜査報告書に添付
された4月2日付け飲食店Fのジャーナルを示されている事実があることを
認めていることに照らすと(Cの公判供述,本件では,Cが上記ジャーナ)
ルを刑事から提示されたことをきっかけに,Iを飲食店Fに同行していた事
実やIが飲食店Fにおいてドリンクバーに飲み物を取りに離席した機会に被
告人に対して現金を交付した事実を捜査機関に対して供述するようになった
可能性がある。
(3)その他のC供述の問題点
ア3月27日付け警察官調書には,3人で飲食店Aで会った事実は記載さ
れていないところ,Cは,5月7日付け警察官調書において,それまで刑
,,事には被告人と初めて会った機会が飲食店Dであったと説明してきたが
実際は,3月7日に飲食店Aで会ったのが,被告人と初めて会った機会で
あることを思い出したので,その点を訂正する旨供述するとともに,その
ような記憶違いをしていた理由として,株式会社Bの浄水設備についてβ
市に導入してもらえるように具体的に話した飲食店Dの場面が鮮明に残っ
ていたので,そのように思い込んでしまった旨説明している。
しかしながら,Cは,公判廷において,Cが初めて被告人に会った飲食
店Aにおいても,δ市教育委員会宛の資料ではあったものの,同資料を被
告人に渡した上で,δ市における株式会社Bの事業の動きについて説明し
たほか,浄水プラントが災害対策としても有効であり,設置はレンタル契
約であることから初期費用が不要であることなどを説明し,全国で最初に
,β市で導入していただきたいので被告人に是非力を貸してほしいと頼むと
被告人が前向きな発言をしてくれたことから,Cにおいてもβ市において
浄水プラントの導入が実現するかもしれないと感じたことがあること,飲
食店Aでの別れ際に,被告人がこれから役所に行って担当者に話をしてみ
ると発言したため,Cが,Iに対して,被告人はすごい行動力だと言った
記憶がある旨の供述をしているほか,飲食店Dでの会合において,被告人
から,市議会での反応が良かったとの発言があったことから,飲食店Aで
話したことが間に合い,市議会で質問をしてくれたのだと分かった旨述べ
ているが,そのように飲食店Aにおいて被告人に対して浄水プラントにつ
き具体的な働き掛けを行い,被告人からも前向きな返答をもらったことで
その行動力に強い印象を抱き,飲食店Dにおいても飲食店Aでの会合を前
提とした議会質問に関する話題が出ていたというのであれば,飲食店Aに
おけるやり取りはCの記憶に強く残っていて然るべきであって,飲食店D
の場面が鮮明に残っていたために平成26年3月27日の時点で飲食店A
の件を失念していたとのCの説明は不自然といわざるを得ず,上記の点も
またCの記憶状況に関する重大な問題点といえる。
イCは,5月1日付け検察官調書において,飲食店Dでの会合の後,E課
長から株式会社Bに連絡をもらった点に関し,被告人がβ市の役人にどの
ように働き掛けたのかは分からないが,Iが言っていたように,議会で質
問することを引き合いに出すなど,市議会議員としての力を使ってうまく
やってくれたのではないかと思った旨供述している。しかしながら,この
ような供述内容は,Cの公判供述にある,飲食店Dにおいて市議会での反
応が良かったという被告人の発言を聞いて,飲食店Aで話していたことが
間に合って被告人が議会で質問してくれたことが分かった,3月23日の
被告人からのメールなどにより,被告人がβ市の役人に相当なプレッシャ
ーを掛けてくれたのだと感じたとの供述とは整合性を欠き,その供述には
変遷が認められる。この点につき,Cからは何ら説明はないが,5月1日
付け検察官調書の作成時点において検察官に対して上記のような説明をし
ていながら,公判廷で異なる説明をしている理由としては,平成26年5
月7日に捜査機関がβ市から入手した市議会の資料(甲29の原資料)に
より被告人の発言内容を知ったCにおいて供述を合わせた可能性があり,
この点は,Cが同年4月中旬頃までにほぼ現在の記憶を喚起していたとの
Cの説明の信用性の判断に影響を与える事情といえる。
第6第1現金授受の存否に関する判断
検察官は,第1現金授受に関するCの公判供述について,客観的証拠や関係
者の供述等と符合していることや,供述内容が具体的かつ自然であること,供
述経過が自然で内容も一貫しているなどとして,Cの公判供述には信用性が認
められる旨主張しているので,この点について判断する。
1客観的証拠や関係者の供述等と符合しているとの検察官の主張について
前提事実のとおり,本件では,Cが4月2日に株式会社B名義の預金口座か
ら15万円を引き出した上で,5万円を振込送金した事実から,同日,Cの手
元に現金10万円が残ったことになる。しかしながら,この事実は,Cにおい
て被告人に渡すことができる現金10万円の原資があったことを裏付ける事実
にはなり得るとしても,直ちに被告人に対する第1現金授受の存在を裏付ける
事実となるものではない。また,本件では,4月4日に被告人経営の塾の預金
口座に9万5000円が入金されている事実(甲71)は存在するが,そもそ
も被告人が本件当時学習塾を経営しており,年度初めということで月謝以外に
(,も学習塾関係の現金収入が相当額あった事実が存在する上被告人の公判供述
甲86,その入金時期及び金額に照らしてみても,Cが出金した現金との関)
連性は希薄といわざるを得ず,4月2日に被告人がCから現金10万円を受領
した事実の裏付けとみることはできない。
,,検察官は同日午前中に被告人とCとの間でやり取りされたメールの文言は
被告人に対して現金を渡そうと考えたCの行動を裏付けるものであると主張す
るが,同文言は,その内容に照らしても何ら第1現金授受の裏付けになり得る
ものではない。検察官は,飲食店Fでの会合後にCから被告人に送信された同
日のメールの文言について,現金授受を前提とする更なるCからの資金援助の
意図を含むものと解釈できる旨主張するが,同メールの文言は多義的に解釈し
得る上,現金授受がなかった飲食店Aでの会合後にCから被告人に対して同旨
のメールが送信されている事実に照らしても,Cの上記意図を裏付ける証左で
あるとの検察官の主張は根拠に乏しい推測というほかない。また,飲食店Fで
の会合後に被告人からCに送信された同日のメールの内容についても,防災対
策について関心が高く,浄水プラント事業を積極的にβ市において導入したい
という被告人の政策に合致する株式会社Bの事業についての資料をβ市まで持
参してくれたCに対する感謝の気持ちを表したとの趣旨に取ることも十分にで
きるなど,やはり多義的な解釈を許すものであって,上記メールもまた第1現
金授受の裏付けとなり得る証拠とはいえない。
なお,Cの公判供述を裏付ける飲食店Fのジャーナルが存在することや被告
人宅からCが渡したと供述するものと合致する資料が押収されていることは,
第1現金授受自体の存否について裏付けとなり得る証拠とはいえない。
検察官は,その他,本件各現金授受に共通する裏付ける事実として,被告人
の言動や被告人の経済状態を挙げるが,これら事実もいずれも直ちに本件各現
金授受を推認させるような事情と認めることができないか,あるいはC供述の
核心部分の信用性との関係では,これを強める効果に限界があるものといわざ
るを得ない。
2Cの公判供述の内容が具体的かつ自然であること及び供述経過が自然で内容
も一貫しているとの検察官の主張について
Cの公判供述は,前記のとおり,全体として具体的かつ詳細なものと評価で
き,一定の裏付けも存在し,弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず,供述
内容に矛盾を含むなど明らかに不合理な内容も見受けられないことは検察官の
主張するとおりである。しかしながら,Cのような会社経営の経験があり,ま
た,金融機関を相手として数億円の融資詐欺を行うことができる程度の能力を
有する者がその気になれば,その内容が真実である場合と,虚偽や誇張等を含
む場合であるとにかかわらず,法廷において具体的で詳細な体裁を備えた供述
をすることはさほど困難なことではない。加えて,本件では,Cは,平成26
年10月1日の第2回公判期日及び同月2日の第3回公判期日で実施された証
人尋問に臨むに当たり,検察官との間において相当入念な打合せをしてきたも
のと考えられる上,庚との間で対質の方法により行われた第7回公判期日で実
施された証人尋問に臨むに当たっても,検察官との間で六,七回に及ぶ打合せ
,,,を行っていたというのであるから公判廷において客観的資料と矛盾がなく
具体的かつ詳細で不自然かつ不合理な点がない供述となることは自然の成り行
きといえる。さらに,Cの公判供述に一定の裏付けが存在する点も,既に説示
したとおり,第1現金授受の裏付けとなり得るものと評価できなかったり,C
の公判供述までの間に捜査機関において入手したメール,預金口座及び議会資
料を含む各種資料に整合するように供述を整えたりした可能性が否定できず,
第1現金授受に関するCの公判供述の信用性を強く裏付けるものではない。そ
して,Cの公判供述については少なからず変遷が認められ,捜査段階からの一
貫性に疑義があることは既述のとおりである。
なお,8月22日にCが戊に対して,浄水プラント事業に関し,約30万円
の賄賂を渡したとの話をした事実がある旨の戊の公判供述は,その性質上伝聞
証拠に当たり,Cの公判供述の信用性に関する補助事実に過ぎない上,戊の公
判供述におけるCの発言内容は曖昧な内容であることからすると,上記戊の公
判供述によってもCの公判供述の信用性に関する前記判断は左右されるもので
はない。
3以上,詳述したように,第1現金授受に関しては,これを直接に基礎付ける
客観的で決定的な証拠は存在せず,また,Cの公判供述の信用性については看
過し難い問題点があることに照らすと,果たしてC自身において第1現金授受
に関して自ら経験した事実を語っているのか疑問といわざるを得ず,第1現金
授受の事実を一貫して否認している被告人供述や,被告人とCを席に残してド
リンクバーに被告人の分の飲み物を取りに行った事実を否定するI供述を排斥
することはできない。そうすると,結局,関係証拠を総合しても,被告人が飲
食店Fの会合においてCから現金10万円を受領したと認めるには,なお合理
的な疑いが残るというべきである。
第7第2現金授受の存否に関する判断
検察官は,第2現金授受に関するCの公判供述について,客観的証拠や関係
者の供述等と符合していることや,供述内容が具体的かつ自然であること,供
述経過が自然で内容も一貫しているなどとして,Cの公判供述には信用性が認
められる旨主張しているので,この点について判断する。
1客観的証拠や関係者の供述等と符合しているとの検察官の主張について
前提事実のとおり,本件では,Cが4月25日に株式会社B名義の預金口座
から90万円を引き出した上で,その日のうちに株式会社B名義の他の預金口
座に70万円を入金した事実から,同日,Cの手元に現金20万円が残ったこ
とになる。しかしながら,この事実は,Cにおいて被告人に渡すことができる
現金20万円の原資があったことを裏付ける事実にはなり得るとしても,直ち
に被告人に対する第2現金授受の存在を裏付ける事実となるものではない。ま
た,本件では,4月24日頃,CがJに対し,株式会社Bの事業を進めるため
に被告人に渡す現金として50万円の借入れを申し入れた事実は認められるも
のの(C及びJの各公判供述,上記事実は,その当時自転車操業状態にあっ)
た株式会社Bの資金繰りを解消するためにβ市への浄水プラント事業の導入を
早期に進めたいとの気持ちがあったCにおいて被告人に対して現金供与の計画
を抱いていたとの事実の裏付けにはなり得るものの,それ以上に第2現金授受
の存在を直接に裏付ける事実となるものではない。さらに,本件では,4月3
0日に被告人の塾の預金口座に8万6000円が入金されている事実は存在す
るものの(甲71,その入金時期及び金額に照らしてみても,Cが出金した)
現金との関連性は希薄といわざるを得ず,上記入金の事実をもって第2現金授
受の裏付けとみることはできない。
,,検察官は4月26日に被告人とCとの間でやり取りされたメールの文言は
Cによる資金援助を意味する思わせぶりな内容と2度にわたる現金供与を受け
たことに対する被告人の感謝の言葉と解釈できる旨主張するが,同メールの文
言もまた多義的に解釈し得るところであり,Cから被告人に対して将来的に現
金供与を行う気持ちがあることを暗に伝えようとしたものと解釈する余地はあ
るとしても,第2現金授受があったことを裏付ける証左であるとの検察官の主
張は根拠に乏しい推測というほかない。
さらに,検察官は,Iが4月25日の飲食店Gにおける会合中に離席したと
のCの公判供述を裏付ける証拠として当時飲食店Gの店長代行であった甲の供
述の存在を挙げるが,その供述内容は具体性に乏しく,およそCの公判供述の
裏付けとなり得る証拠とはいえない。
2Cの公判供述の内容が具体的かつ自然であること及び供述経過が自然で内容
も一貫しているとの検察官の主張について
第2現金授受に関するCの公判供述は,全体として具体的かつ詳細なものと
,,,評価でき一定の裏付けも存在し弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず
供述内容に矛盾を含むなど明らかに不合理な内容も見受けられないことは検察
官の主張するとおりである。
しかしながら,上記事情をもって,直ちに信用性が認められるものではない
ことは,第1現金授受に関する判断と同様であり,また,前記のとおり,第2
現金授受の核心的な場面についても具体的で臨場感及び迫真性を伴う供述がな
されているとはいえない上,個々に観察すれば不自然かつ不合理な点も見受け
られる。
3以上,詳述したように,第2現金授受に関しても,これを直接に基礎付ける
客観的で決定的な証拠は存在せず,また,Cの公判供述については,前記説示
した供述自体の問題点に加え,Cが第2現金授受の実行に当たりその前提とな
ったと述べる第1現金授受の存在が認定できないこと,後述のとおり虚偽供述
の動機も否定できないことなどに照らすと,Cが第2現金授受に関して当初か
ら捜査機関に申告している点を考慮してもその信用性には疑念が残り,果たし
てC自身において第2現金授受に関して自ら経験した事実を語っているのか疑
問であって,第2現金授受の事実を一貫して否認している被告人供述や飲食店
Gでの離席を否認するI供述を排斥することはできない。そうすると,結局,
関係証拠を総合しても,被告人が飲食店Gの会合においてCから現金20万円
を受領したと認めるには,なお合理的な疑いが残るというべきである。
第8Cの虚偽供述の動機の可能性に関する当裁判所の判断
1前記第7までに説示したところによれば,本件各現金授受については,その
存在を認めることはできないところ,本件の経緯に鑑み,Cの虚偽供述の動機
の可能性に関して当裁判所の判断を敷衍して示すこととする。
2この点に関し,弁護人は,Cと検察官との間には,融資詐欺の起訴を最小限
にとどめることの見返りとして,贈賄自白を維持し本件の公判における検察官
立証に協力するとの明示又は黙示の約束という闇取引が存在した疑いがある旨
主張するが,本件においてこのような闇取引の事実はうかがえない。
しかしながら,Cが被告人に現金を渡した事実を初めて刑事に話したとする
平成26年3月15日当時,Cは,株式会社Bの事業に関し,既に株式会社Z
銀行に対する1000万円の融資詐欺等で起訴され,さらに,株式会社W銀行
に対する1100万円の融資詐欺で強制捜査を受けていた立場にあるところ,
そのようなCにおいて,自分の量刑に大きな関心を抱くのは至極当然のことで
あり,自ら認めていた総額3億7850万円に及ぶ金融機関に対する融資詐欺
に関して更なる追起訴が続けば,量刑上も不利になることも,Cにおいては当
然に予想していたはずである。そうすると,そのようなCが,融資詐欺に関し
て,なるべく軽い処分,できれば執行猶予付き判決を受けたいとの願いから,
捜査機関の関心を他の重大な事件に向けることにより融資詐欺に関するそれ以
上の捜査の進展を止めたいと考えたり,C自身の刑事事件の情状を良くするた
めに,捜査機関,特に検察官に迎合し,少なくともその意向に沿う行動に出よ
うと考えることは十分にあり得るところである。現に,Cは,平成26年9月
頃,かつて愛知県α警察署に収容されていた当時に隣接する収容場所にいた庚
に対して,被告人の弁護団から4000万円の融資詐欺について告発されたこ
とを知って,期待していた執行猶予の可能性が遠のいたことを嘆く内容の手紙
や,被告人の弁護人らがCを悪く言えば言うほどC自身の公判では有利に働く
結果となるものと判断していることを伝える手紙を郵送しているが,これらの
手紙の内容は,Cに上記意図があった事実をうかがわせるものといえる。そし
て,実際にも,同年3月26日に融資詐欺に関して2回目の起訴がなされた後
は,被告人の弁護人らの告発を受けて同年10月20日に融資詐欺に関して3
回目の起訴がなされるまでの間,融資詐欺に関する起訴はなされておらず,ま
た,被告人の弁護人らによる告発を受けて,検察庁内でその対応をめぐり協議
中である旨が検察官からCの弁護人に伝えられた事実があること(第3回公判
期日のCの証人尋問中における関口真美検察官の発言)からも,当初起訴され
た2件の融資詐欺等の起訴事実以外の融資詐欺については,上記告発がなされ
るまでは具体的な起訴の予定がなかったものと考えられる。こうした状況は,
結果的にみれば,上記告発がなされるまでは,Cにとって当初の期待に沿う有
利な展開となっていたといえるところ,さらに同年4月頃,Cが,庚に対し,
被告人に対する現金供与の話を出せば融資詐欺の捜査が止まる旨の話をしてい
る事実(庚の公判供述)もCの上記意図の存在を推認させるものといえる。
なお,庚は,同月2日から同年6月13日までの間,恐喝又は覚せい剤事犯
の容疑により愛知県α警察署においてCの収容場所と隣接する収容場所に収容
されていたものであり,本件第7回公判期日においてCとの対質の方法により
証人尋問を受けた者であるところ,検察官は,庚の上記供述は信用性がない旨
主張し,また,Cも,公判廷において,庚とは留置場で出会った関係なので波
風を立てないような付き合いを心掛けており,贈収賄事件に関する取調べ状況
についてもあまり説明をすることはなかったなどと供述して,庚の供述内容を
否定している。
しかしながら,Cとは隣接する収容場所にいる間は取調べ状況を含めて親し
く話をする仲であったとの庚の供述内容は,Cとの間で交わされた会話等に関
する具体的な供述内容や,庚が平成26年6月13日にδ拘置所に移送された
後において庚とCとの間で交わされた手紙のやり取りの内容及び庚がCの依頼
に応じてCが知ることができなかった贈収賄事件に関する新聞等の情報提供を
密に手紙で伝えていた事実等に照らして信用できるのであって,庚とは親しい
関係ではなかったとのCの公判供述は信用できない。また,庚の公判供述は,
時間の経過に伴い記憶が乏しくなった部分はあるものの,具体的で不自然な点
はなく,Cが庚に郵送した手紙の内容にも良く符合しており,その供述態度を
見ても,そこには殊更に事実を作り上げようとする供述態度も窺われないし,
庚は,贈収賄事件とは何らの利害関係もなく,証人としてあえて虚偽の供述を
行う具体的動機も見当たらず,これらのことからも上記内容の庚の公判供述は
信用できるのであって,検察官の主張は理由がない。
3以上,詳述したところによれば,Cの虚偽供述の動機となりうる事情は存在
し,かつ,その動機の存在を裏付ける事情も少なからずあることからすると,
Cには,虚偽供述をする理由ないし動機が存在した可能性があったものと考え
られる。
第9結論
以上によれば,本件各公訴事実については,争点①に関して本件各現金授受
の事実を認めることはできない。そうすると,いずれも犯罪の証明がないこと
になるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑懲役1年6月,30万円の追徴)
平成27年3月5日
名古屋地方裁判所刑事第6部
裁判長裁判官鵜飼祐充
裁判官伊藤大介
裁判官柘植明子

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