弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告指定代理人香川保一、同高橋正、同座本喜一、同鬼塚朝昭、同平井章夫、同
武田勇の上告理由について。
 本件記録によれば、被上告人は、税理士名簿に登録された税理士であるが、上告
人により、昭和三九年一一月二日付で「一年の税理士業務の停止」の懲戒処分に処
せられたため、同年一二月三〇日異議の申立てをしたところ、昭和四〇年一〇月三
〇日付で異議申立てを棄却されたので、同年一二月二日、右懲戒処分の取消しを求
めて本訴を提起したというのである。原審は、右懲戒処分は一種の行政処分である
からそれが当該税理士に告知された時にその効力を生ずるものであり、本件懲戒処
分は遅くとも被上告人が異議申立てをした昭和三九年一二月三〇日の前日までに被
上告人に告知されその効力を生じ、したがつてまた、昭和四〇年一二月二九日以降
その効力を失うにいたつたものであるから、仮に、本件懲戒処分が違法であつたと
しても、被上告人はその取消しによつて法律上の利益を回復する余地はなく、本件
訴えは不適法であるとしてこれを却下した第一審判決を相当として、控訴を棄却し
たのである。
 論旨は、要するに、税理士に対する懲戒処分の効力は処分の確定によつて発生す
るものと解すべきであるにもかかわらず、当該処分が告知された時に発生するとし
た原判決は、税理士法の解釈を誤つたものであり、右違法は判決に影響を及ぼすこ
とが明らかであるというのである。
 思うに、行政処分は、原則として、それが相手方に告知された時にその効力を発
生するものと解すべきであるが、法律が効力の発生につき特別の定めをしている場
合には、その定めに従うべきものであり、この法律が特別の定めをしている場合と
は、法律が直接明文の規定をしている場合(海難審判法四条二項、五条、五七条参
照)にかぎらず、当該法律全体の趣旨から特別の定めをしていると解せられる場合
を含むものであることはいうまでもないところである。
 税理士法は、国税庁長官が税理士に対して行う懲戒処分の効力(執行力)の発生
時期について、直接明文の規定を設けてはいない。しかしながら、同法四条七号は、
税理士の欠格事由の一として、懲戒処分により税理士業務を行うことを禁止された
者で、当該処分が確定した日から三年を経過しない者と定め、また、同法二八条一
項は、税理士が税理士業務の停止の懲戒処分を受け当該処分が確定した場合には、
遅滞なく税理士証票を日本税理士会連合会に返還しなければならない旨を定め、ま
た、同法四八条は、国税庁長官は、懲戒処分が確定したときは、遅滞なくその旨を
官報をもつて公告しなければならない旨を定め、さらに、同法六一条四号は、税理
士業務の停止の懲戒処分が確定した場合において、その処分に違反して税理士業務
を行つた者を処罰する旨を定めている。このように、税理士法が懲戒処分の効力の
発生に伴う処置やこれを前提とする不利益な効果の付与を懲戒処分の確定にかから
せていることから考えると、同法は、税理士に対する懲戒処分の効力の発生時期を
その処分の確定した時としているものと解するのが相当である。
 そうすると、原審の前記判断は、税理士法の解釈を誤つたものというべきであり、
右違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。した
がつて、原判決は破棄を免れず、前示の事実関係のもとにおいては、本件訴えは適
法というべきであるから第一審判決を取り消し、さらに本案につき審理を尽させる
ため、本件を第一審裁判所に差し戻すべきである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条
に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    吉   田       豊

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