弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人古谷判治の上告理由について。
 原審は、第一審判決正本は、昭和四六年四月一日第一審被告訴訟代理人笹本晴明
に送達されたところ、これに対する本件控訴は、控訴期間を徒過した同年六月二六
日提起されたもので不適法であるとして、右控訴を却下する旨の判決をしている。
 しかしながら、職権によつて調査するのに、本件記録に編綴されている本件控訴
状、受継申立書および控訴委任状の各日付の記載、右委任状に押捺されている第一
審受訴裁判所の受理印、右書類に添付されている戸籍謄本の記載およびその認証日
付に、第一審受訴裁判所である山口地方裁判所下関支部の訟廷管理官児島信俊、主
任書記官松井成義、訟廷事件係長福田満、事件担当書記官野口登が当裁判所に提出
した各報告書の記載を総合すれば、第一審被告Eは、第一審口頭弁論終結前の同年
三月二四日に死亡したため、同人の訴訟代理人の一人であつた上告代理人古谷判治
は、右Eの相続人である上告人ら三名から控訴の授権を受けたうえ、同人らの名を
もつて、控訴期間内である同年四月一四日、第一審受訴裁判所である山口地方裁判
所下関支部に控訴状および受継申立書と題する書面を提出し、同支部の事件係担当
書記官がこれを受理したこと、しかるに、右各書面は、その後いつたん撤回され、
Eの死亡後三か月を経過した前記六月二六日ふたたび同支部に提出されるに至つた
こと、その理由は、同支部職員が、上訴の特別授権のある前記笹本代理人の訴訟委
任状の存在することを看過して、本件の訴訟手続は、第一審判決の送達と同時に中
断し、右Eの死亡後三か月間、すなわち、相続放棄の熟慮期間が経過するまでは受
継手続ができないものと誤信し、古谷代理人に対してその旨の誤つた教示をしたた
め、同代理人において、右書面を撤回する措置に出たものであること、以上の事実
を認めることができる。
 右事実関係によれば、本件控訴状は、その控訴期間内である同年四月一四日第一
審受訴裁判所に提出されて受理されているのであるから、その時控訴の効力が生じ
たものということができ、この効力は、前記のような事情のもとでなされた控訴状
の撤回によつては消滅しないと解するのが相当である。したがつて、原審が本件控
訴を控訴期間経過後に提起された不適法なものとして却下したのは、結局審理を尽
さなかつた違法があるに帰着するものであつて、原判決は破棄を免れない。そして。
本件は、さらに審理を尽す必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条を適用して、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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