弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山口源一、同加藤保三の上告理由について。
 原判決によれば、訴外株式会社D商店(以下、訴外会社という。)は被上告会社
に対し金八八八万円余の債務を負担していたところ、昭和三四年八月一五日被上告
会社に対し訴外会社所有の第一審判決添付の物件目録記載の物件(以下、本件物件
という。)価額合計金五四九万〇三三八円相当を、同額の債務の代物弁済として譲
渡したのであるが、右代物弁済は、被上告会社の代表者らが訴外会社に倒産の気配
があることを察知し、他に債権者のあることを知つていたが、自己の債権の回収を
図るべく、訴外会社の代表者らに対し、債務の支払かこれに代わる商品の交付を要
求し、訴外会社の代表者らは、これを拒絶していたものの、被上告会社から引き続
いて強硬な要求を受け午前三時頃に及んだため、ついに疲れあきらめて、本件物件
を収納してある倉庫の錠を開け、被上告会社において右物件を運び出し持ち去るに
任せたというのである。原審の右認定は、原判決挙示の証拠関係(ただし、原判決
の理由中に甲第九号証の二、第一〇、一一号証とあるのは、それぞれ甲第一号証の
九の二、同号証の一〇、一一の誤記と認める。)に照らして首肯するに足りる。そ
うとすれば、被上告会社がその債権回収のためとつた方法は、常軌を逸したものと
いうべきであるが、原審が、右認定事実に基づいて、訴外会社としては、右のとお
り被上告会社に本件物件を譲渡すれば他の債権者を害するであろうことを認識して
いたといえるが、これを害することの積極的な意思のもとになしたものとは認めが
たい旨説示し、右代物弁済行為は詐害行為とならないとした判断は、正当として是
認することができる。所論引用の判例(最高裁判所昭和三二年(オ)第三六二号、
同三五年四月二六日第三小法廷判決、民集一四巻六号一〇四六頁)は、無資力の債
務者が既存債務の担保として一部の債権者に抵当権を設定した事案に関するもので
あつて、債権者から執拗に要求されてやむなくなした物件価額と同額の債務の代物
弁済に関する本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、右と異なる
見地に立つて原判決を非難するか、または原審の専権に属する証拠の取捨判断、事
実の認定を非難するに帰し、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三

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