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平成22年2月5日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第7735号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成21年12月9日
判決
東京都千代田区<以下略>
原告株式会社オーガニックランドシステムズ
同訴訟代理人弁護士鈴木和雄
同鈴木一毅
同補佐人弁理士唐木浄治
さいたま市<以下略>
被告財団法人グリーンクロスジャパン
同訴訟代理人弁護士上野廣元
埼玉県川口市<以下略>
被告A
埼玉県川口市<以下略>
被告セントラル・エンジニアリング株式会社
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して5000万円及びこれに対する平成19年
5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告セントラル・エンジニアリング株式会社(以下「被告セントラ
ル」という)との間で,冷凍システム並びに凝縮用熱交換装置に関する後記。
2()記載の特許権についての通常実施権の許諾契約を締結した原告が,当該1
特許の共有特許権者である被告財団法人グリーンクロスジャパン(以下「被告
グリーンクロス」という)及び被告Aが被告セントラルに対して設定した専。
用実施権は,特許原簿に設定登録がされていないため無効であり,この専用実
施権に基づき許諾された上記通常実施権も無効であるとして,被告らに対し,
不法行為に基づき,損害賠償金5000万円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日である平成19年5月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求めるとともに,被告セントラルに対し,債務不履行
に基づき,同額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案
である。被告セントラルに対する不法行為に基づく請求と債務不履行に基づく
請求は,選択的併合の関係にある。
2前提となる事実(証拠等は各項に掲記)
()本件特許権(甲1,3の5)1
被告グリーンクロス及び被告Aは,下記特許権の共有者である(以下,こ
「」,「」。。の特許を本件特許と本件特許に係る特許権を本件特許権という)

ア特許番号第2835325号
イ出願日平成9年11月14日
ウ出願番号特願平9−349898号
エ登録日平成10年10月9日
オ発明者A
カ発明の名称冷凍システム並びに凝縮用熱交換装置
キ特許請求の範囲
【請求項1】圧縮機1から吐出した高温高圧の凝縮性ガス冷媒を過半
量と残余量とに分流して,過半量の凝縮性ガス冷媒は内箱6及び該内箱
6を取囲む外箱7の二重箱型熱交換器から成る凝縮器5の内箱6に送
り,残余量の凝縮性ガス冷媒はその内部を流れる冷媒に対し増速及び減
圧作用を成すキャピラリコイル8に送り,このキャピラリコイル8にお
いて凝縮及び減圧膨張して得られる低温低圧の液冷媒を前記凝縮器5の
外箱7に送って内箱6の凝縮性ガス冷媒との間で熱交換を行なわせるこ
とによって,内箱6の凝縮性ガス冷媒を凝縮液化させる一方,外箱7の
液冷媒を蒸発気化させ,次いで,内箱6の高圧液冷媒を液冷媒に渦流を
生じさせるための螺旋状伝熱管9Aが備えられる液管9を経て膨張弁3
に送って減圧膨張させた後,冷却器4に送って空気又は冷却水との間で
蒸発潜熱を熱交換させることにより蒸発気化させ,この冷却器4で蒸発
気化した低圧凝縮性ガス冷媒と外箱7で蒸発気化した低圧凝縮性ガス冷
媒とを合流させた後,圧縮機1に返戻させ,前記冷却器4において冷凍
冷房用の冷熱が得られる冷凍サイクルを形成してなることを特徴とする
冷凍システム。
【請求項2】内箱6及び該内箱6を取囲む外箱7を備える二重箱型熱
交換器からなる凝縮器5と,内部を流れる冷媒に対し増速及び減圧作用
を成す螺旋状細径伝熱管からなり,管出口を外箱7の冷媒入口に接続し
たキャピラリコイル8と,その内部を流れる冷媒に対し渦流を生じさせ
る螺旋状伝熱管9Aを備えて管入口を内箱6の冷媒出口に接続した液管
9とを含み,圧縮機1から吐出した高温高圧の凝縮性ガス冷媒のうち過
半量を内箱6に導入し,圧縮機1から吐出した高温高圧の凝縮性ガス冷
媒のうち前記過半量を差し引いた残余量をキャピラリコイル8に導入
し,熱交換作用で蒸発した外箱7内のガス冷媒を圧縮機1の吸入側に返
戻し,熱交換作用で凝縮した内箱6内の液冷媒を液管9を経て膨張弁3
に送るように設けてなることによって,冷凍サイクルにおける凝縮行程
を担持する装置に形成したことを特徴とする凝縮用熱交換装置。
()専用実施権の設定2
被告グリーンクロス及び被告Aは,平成16年6月8日,被告セントラル
との間で,被告セントラルに対して本件特許権につき専用実施権を設定する
旨の契約を締結した(以下「本件専用実施権設定契約」といい,設定された
専用実施権を「本件専用実施権」という(乙1)。)。
特許原簿に本件専用実施権の設定登録はされていない。
()通常実施権の許諾3
被告セントラルは,平成16年6月16日,原告(当時の商号は「東世ワ
ールド株式会社)との間で,原告に対し,日本国内におけるスポットクー」
,,,ラーの製造・販売に関し本件特許権について通常実施権を許諾し原告は
被告セントラルに対し,その対価として一時金3500万円及び特許製品1
台につき製品販売価格の5パーセントの特許実施料を支払う旨の通常実施権
許諾契約(以下「本件通常実施権許諾契約」という)を締結した(甲7。。
の1及び2,弁論の全趣旨)
3争点
()本件通常実施権許諾契約の有効性(争点1)1
()不法行為又は債務不履行の成否(争点2)2
()損害額(争点3)3
4争点に関する当事者の主張
()争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)について1
ア原告の主張
被告グリーンクロス及び被告Aは,被告セントラルに対して本件専用実
施権を設定したが,その設定登録は行われていないため,本件専用実施権
設定契約は特許法上効力を有しておらず無効であるから(特許法98条1
項2号,被告セントラルは本件特許に関して無権利者であると解すべき)
である。また,特許法上の書面主義の下,専用実施権設定契約には書面の
作成が必要であるところ,本件専用実施権設定契約については書面が作成
されていないと考えられるから,この点からも本件専用実施権設定契約は
無効と解すべきである。
設定登録なき専用実施権の設定が独占的通常実施権としての効力を生じ
るためには,その旨の特約が不可欠であるところ,本件専用実施権設定契
約にはそのような特約はなく,独占的通常実施権としての効力も生じない
ため,被告セントラルは本件特許に関して無権利者である。また,通常実
施権は特許権者又は専用実施権者でなければ許諾することはできず,独占
的通常実施権者が再許諾できるものではない。
原告は,無権利者である被告セントラルから通常実施権を許諾されたに
すぎないため,正当な通常実施権を取得することができなかった。
イ被告グリーンクロスの主張
本件専用実施権設定契約については,専用実施権の設定登録はされてい
ないが,設定登録がされていない場合であっても,当事者間で独占的な実
施権を付与するという合意が成立している場合には,独占的通常実施権と
して有効に成立していると解すべきである。
,,本件専用実施権設定契約においても被告グリーンクロス及び被告Aは
被告セントラルに対し,独占的な実施権を与える意思を有し,被告セント
ラルもこれを取得する意思を有していたものであるから,専用実施権の設
定登録がされていなくても,独占的通常実施権を許諾する契約として有効
であり,被告セントラルは無権利者ではなく,本件特許の独占的通常実施
権者である。
また,再実施許諾で利害関係を有するのは特許権者だけであるから,特
許権者の承諾が得られているなら再実施許諾を認めてよいこと,他の強行
,,法規に反しないこと現実に再実施許諾は多く行われていることなどから
特許権者の承諾があれば独占的通常実施権の再実施許諾は有効である。
本件専用実施権設定契約において,共有特許権者である被告グリーンク
ロス及び被告Aは,被告セントラルに対して再実施許諾を明文をもって認
めており(乙1の第1条,また,被告セントラルが再実施を許諾した第)
三者より取得した実施許諾料について,被告セントラルの被告グリーンク
ロスに対する支払義務等を定めていることからすると(同第3条,共有)
特許権者である被告グリーンクロス及び被告Aが,被告セントラルが第三
者に対し通常実施権を再許諾することにつき承諾していたことは明らかで
ある。
したがって,本件通常実施権許諾契約は,独占的通常実施権の再実施許
諾契約として有効なものであるから,原告は,本件特許の通常実施権を有
効に取得している。
ウ被告A及び被告セントラルの主張
否認ないし争う。
()争点2(不法行為又は債務不履行の成否)について2
ア原告の主張
(ア)被告らの不法行為責任
特許の流通性にかんがみると,被告A及び被告グリーンクロスは,被
告セントラルに対して専用実施権を設定するに当たり,被告セントラル
が原告のような第三者に通常実施権を許諾することを承知し,又は少な
くとも予測していたといえ,原告のような第三者に対して無効な通常実
施権許諾契約を締結することのないよう,専用実施権の設定登録をする
作為義務を負っていた。
,,被告A及び被告グリーンクロスは本件専用実施権の設定登録を怠り
この作為義務に反することによって,原告が有効な通常実施権を取得す
ることを阻害しており,かかる不作為は,被告A及び被告グリーンクロ
スの故意又は過失による原告に対する権利侵害行為ということができ
る。
被告セントラルは,被告A及び被告グリーンクロスから有効な専用実
施権を取得しておらず,本件特許権に関して全くの無権利者であるにも
かかわらず,原告と本件通常実施権許諾契約を締結し,原告が有効な通
常実施権を取得することを害しており,かかる行為は,被告セントラル
の故意又は過失による原告に対する権利侵害行為ということができる。
本件通常実施権許諾契約が本件専用実施権設定契約の存在を当然の前
提とするものであること,本件専用実施権設定契約の当事者である被告
Aと本件通常実施権許諾契約の当事者である被告セントラルは,被告A
が被告セントラルの代表者という関係にあったことから,被告らの行為
は共同不法行為を構成する。
(イ)被告セントラルの債務不履行責任
被告セントラルは,本件通常実施権許諾契約に基づき,原告に対して
有効な通常実施権を付与する義務があるにもかかわらず,被告A及び被
告グリーンクロスから有効な専用実施権を取得しなかったのであるか
ら,上記義務を怠った債務不履行に基づく責任を負う。
イ被告らの主張
否認ないし争う。
(3)争点3(損害額)について
ア原告の主張
原告は,被告らの不法行為又は被告セントラルの債務不履行により,有
効な通常実施権を取得することができなかったにもかかわらず,下記の費
用を不当に支払わされており,原告が被った損害は5000万円を下らな
い。
(ア)契約一時金3500万円
(イ)実施準備金1896万0440円
イ被告らの主張
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)について
上記第2の2()のとおり,本件特許権の共有者である被告グリーンクロス2
及び被告Aは,平成16年6月8日,被告セントラルとの間で,本件専用実施
権設定契約を締結したものの,特許原簿に本件専用実施権の設定登録はされて
いない。そして,特許法98条1項2号は,専用実施権の設定は「登録しな,
ければ,その効力を生じない」と規定しており,専用実施権の設定は登録が効
力発生要件とされているため,設定登録がされなければ専用実施権が有効に成
立することはない。しかし,このような場合,契約を締結した当事者間では独
占的な実施権を付与するという合意は成立しているのであるから,約定の趣旨
に沿って,独占的通常実施権(特許権者が他の者に重ねて実施権の許諾をしな
)。い旨の特約を付した通常実施権としての効力は認められると解すべきである
そして,本件専用実施権設定契約において,被告グリーンクロス及び被告A
が被告セントラルに対して本件特許について独占的な実施権を許諾する意思を
有していたこと被告セントラルもこれに合意していたことは明らかである乙,(
1の第1条)から,独占的通常実施権の許諾として有効なものと解され,被告
セントラルは,これにより本件特許権について独占的通常実施権を取得したも
のということができる。
原告は,特許法上の書面主義の下,専用実施権設定契約には書面の作成が必
要であるが,書面が作成されていないため本件専用実施権設定契約は無効であ
ると主張するが,書面の作成を要件とする原告の主張は独自の見解であって採
用することができない上,本件専用実施権設定契約については契約書(乙1)
が作成されているのであるから,原告の主張はその前提が誤りである。
また,通常実施権者は,特許権者の承諾がある場合には,通常実施権の再実
施権を許諾することができると解すべきである。そして,前記第2の2()の3
とおり,被告セントラルは,平成16年6月16日,原告に対し,日本国内に
おけるスポットクーラーの製造・販売に関し,本件特許権について通常実施権
を許諾することを内容とする本件通常実施権許諾契約を締結したことが認めら
,(),,れるところ上記契約書乙1によれば本件専用実施権設定契約において
本件特許権の共有者である被告A及び被告グリーンクロスは,被告セントラル
に対し,本件特許権についてその範囲全部にわたり第三者に対する再実施権を
許諾したことが認められるから,本件通常実施権許諾契約は,本件特許権につ
いての通常実施権の許諾としての要件に欠けるところはなく,これにより原告
は本件特許権について通常実施権を取得したものということができる。
2争点2(不法行為又は債務不履行の成否)について
()不法行為責任について1
原告は,被告A及び被告グリーンクロスに対しては,被告セントラルに対
して専用実施権を設定するに当たり,原告のような第三者に対して無効な通
,,常実施権許諾契約を締結することのないようにする義務を怠ったあるいは
本件専用実施権の設定登録を怠り,原告が有効な通常実施権を取得すること
を阻害したことが不法行為を構成すると主張し,また,被告セントラルに対
しては,本件特許権に関して全くの無権利者であるにもかかわらず,原告と
本件通常実施権許諾契約を締結し,原告が有効な通常実施権を取得すること
を害したことが不法行為を構成すると主張する。
しかし,本件通常実施権許諾契約により原告が本件特許権について通常
実施権を取得したことは上記1に説示したとおりである。したがって,原
告の不法行為責任に係る主張は,いずれも前提が誤りであり,採用するこ
とができず,被告らに原告主張の不法行為を認めることはできない。
()債務不履行責任について2
原告は,被告セントラルには,本件通常実施権許諾契約に基づき原告に対
して有効な通常実施権を付与する義務を怠った債務不履行責任があると主張
する。
しかし,本件通常実施権許諾契約により原告が本件特許権について通常実
施権を取得したことは上記のとおりであるから,原告の債務不履行責任に係
る主張も前提が誤りであり,採用することができず,被告セントラルに原告
主張の債務不履行を認めることはできない。
3結論
以上のとおり,被告らに原告主張の不法行為,債務不履行を認めることはで
きないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも
理由がない。よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡本岳
裁判官
鈴木和典
裁判官
坂本康博

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