弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成24年1月12日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成22年(ワ)第3533号通信料金返還請求事件
(口頭弁論終結の日平成23年9月21日)
判決
主文
1被告は,原告に対し,10万7138円及びこれに対する平成22年9月2
2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第1項の額を超える額の金員の支払を求める原告のその余の請求をいずれも
棄却する。
3訴訟費用は,これを20分し,その11を被告の,その余を原告の各負担と
する。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告は,原告に対し,19万6571円及びこれに対する平成22年9月2
2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,電気通信事業者である被告との間で,携帯電話端末を利用する電
気通信役務提供契約(3Gサービス契約)を締結した原告が,携帯電話端末
とパソコンを接続し,携帯電話端末をモデムとして用いることにより,パソ
コンでインターネット通信をすることができるサービスを利用し,上記通信
に係る通信料金として被告から計20万6571円を請求され,これを支払
ったことに関し,被告に対し,①上記通信契約における通信料金を定める契
約条項のうち,一般消費者が上記サービスを利用する際に通信料金として通
常予測する額である1万円を超える部分は,消費者契約法10条若しくは公
序良俗に反し無効であると主張して,不当利得返還請求権に基づき,被告に
対し支払った上記通信料金のうち1万円を超える部分に相当する19万65
71円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定年5分
の割合による遅延損害金の支払を求めるか,または②被告が,上記通信契約
に関し,原告に対し,上記サービスを利用する際の通信料金を具体的に説明
する義務若しくは同サービスの利用により通信料金が高額化することを防止
するための措置を採るべき義務の履行を怠ったと主張して,上記通信契約の
債務不履行による損害賠償請求権に基づき,損害(原告が被告に支払った通
信料金の一部であり,原告が上記通信に係る通信料金として予想していた額
である1万円を超える部分である19万6571円)及びこれに対する訴状
送達日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の範囲内である年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提となる事実関係(証拠の掲記のない事実は争いがない。)
(1)本件契約の締結
原告は,平成19年9月29日,電気通信事業等を目的とする株式会社
である被告との間で,携帯電話を利用する電気通信役務提供契約である3
Gサービス契約を締結した(以下「本件契約」という。)。
本件契約は,消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たる。
(2)原告によるアクセスインターネットの利用
原告は,平成20年3月26日から同年4月1日までの間,複数回にわ
たり,本件契約締結の際に購入した携帯電話端末(以下「本件携帯電話」
という。)を自宅にあるパソコンと接続し,携帯電話をモデムとして用いる
ことによりパソコンでインターネット通信を行うサービスである「アクセ
スインターネット」(以下,被告のサービスに関しては「アクセスインター
ネット」といい,他の電気通信事業者が提供する同内容のサービスを含む
場合には,「インターネット接続」という。)を,送受信するデータを複数
の単位(パケット(小包の意味))に分割して伝送し(以下,この方式によ
る通信を「パケット通信」という。),その単位数に従って一定の通信料金
が課金される方式(以下「パケット通信方式」という。)により利用し,パ
ソコンでウェブサイトの閲覧を行った(以下「本件通信」という。)。
(3)本件契約約款における通信料金の規定(乙10)
本件契約に適用される約款の第52条には,「契約者は,その契約者回線
から行った通信等(当該契約者回線契約者以外の者が行った通信又は当該
契約者が利用した国際アウトローミング機能を利用した場合に,その移動
無線装置へ着信した通信を含みます。)について,当社等が測定した通信時
間,情報量又は通信回線と料金表第1表第3(通信料)の規定とに基づい
て算定した通信料の支払いを要します。」との定めがあり,これを受けた同
約款の料金表第1表第3においては,本件通信時における原告の加入して
いた料金プランを前提とすると,パケット通信方式によるアクセスインタ
ーネットの通信料金は,1課金対象パケットあたり0.2円(消費税転嫁
分除く。以下同様とする。)と定められている(以下,本件約款52条及び
料金表第1表第3における上記規定を併せて「本件パケット料金条項」と
いう。)。
(4)通信料金の請求及び支払
原告は,平成20年4月及び同年5月ころ,被告より,本件通信に係る
通信料金として,合計20万6571円の支払の請求を受け,被告に対し,
同額を支払った。
2争点及びこれに関する当事者の主張
(1)アクセスインターネットの利用により発生する通信料金に関する被告の
説明義務違反・情報提供義務違反の有無
(原告の主張)
ア事業者と消費者の間には情報力及び交渉力に格差があることから,消
費者基本法,消費者契約法1条・3条及び民法1条2項(信義則)等の
規定により,事業者は,消費者がその内容を容易には理解できない契約
や,料金が消費者が予測し得ないような高額なものとなり得る契約につ
いては,その内容について,消費者が理解できるように説明する義務を
負うというべきである。
イパケットによる従量制の課金方式においては,(ア)パケットという単
位が不明確かつ不可視であるため,提供される情報について,どの程度
の料金が課されるのかが不明であること(単位の不明確性),(イ)サービ
スの提供を受ける際に,提供される情報量が,あらかじめ明らかになら
ないこと(サービス量のコントロールの不能性)から,サービスを受け
る消費者は,当該ウェブサイトを閲覧することによりどの程度の通信料
金が発生するかについて,事前に計算し,課金される通信料金を予測す
ることが出来ない。また,携帯電話によるインターネット通信において
は,1分間の通信により最大で8万6000円を超える料金が発生する
こともあり,アクセスインターネットは,月額4200円に通信料金の
上限額が定められている料金プランである「パケットし放題」(以下,単
に「パケットし放題」という。)の対象外とされていることから,同サー
ビスの利用により,通信料金が,消費者の予測に反し高額になるおそれ
がある。現実に,独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活セン
ター」という。)等には,消費者から,平成18年度で249件,平成1
9年度で865件もの多数の高額パケット料金の苦情が寄せられ,平成
19年4月5日には,国民生活センターが高額パケット料金に関する注
意喚起を行い,平成20年にかけて報道で高額パケット料金のトラブル
が取り上げられ,総務省も注意喚起をした。
このように,本件契約においては,異常に高額なパケット料金が発生
する事態が生じる危険性があったのであるから,情報・交渉力において
消費者と格差のある事業者である被告は,消費者に高額なパケット料金
が発生しないよう,単に「1パケット=0.2円」と説明するだけでは
足りず,具体的に消費者が予測できるような形で,消費者が当該ウェブ
サイトを閲覧すれば,いくらのパケット料金が課されるかを説明し,情
報提供する義務,または,本件契約当時,消費者が高額パケット料金発
生を避けられるように情報提供,説明する義務があった。
ウ原告は,本件契約時に,被告の販売代理店の従業員から,通信料金が
1パケットあたり0.2円であることや,携帯電話をパソコンにつない
でインターネット通信をすると,通信料金が高額になるおそれがあるの
で注意すべきこと等について説明を受けていない。また,原告は,アク
セスインターネットを利用した際や,楽曲や動画等をダウンロードした
際に発生する通信料金について,具体的な説明を受けていない。
エ被告は,ウェブサイト,カタログ及び取扱説明書等において,通信料
金が高額となり得ることについて注意喚起をしていた旨主張するが,こ
れらが十分なものではないことは,国立大学医学部の学生であった原告
でさえ高額パケット料金の発生を防ぐことができなかったこと,被告や
国民生活センター等に対する同種の高額パケット料金に対する苦情が極
めて多数にのぼっていることからも明らかである。
オ被告は,アクセスインターネットは,通常想定される携帯電話端末の
利用方法ではないことから,原告がその利用をする際に自ら料金等を確
認すべきであった旨主張するが,被告は,アクセスインターネットの使
用が可能となるUSBケーブルを携帯電話端末の個装箱に同梱して無償
で配布していたのであり,本件携帯電話にも同ケーブルが同梱されてい
た。このように,被告自らがアクセスインターネットを利用するための
器具を無償で配布していることからすれば,アクセスインターネットが
通常の利用方法ではないとの主張は失当であり,上記主張自体が信義則
違反と評価されるべきである。
カ原告は,アクセスインターネットの使用料金は,インターネットカフ
ェのせいぜい2倍程度で高くても月1万円くらいと認識していたのであ
り,これを超える部分については,被告の説明・情報提供義務違反によ
り生じた損害であると評価すべきである。
(被告の主張)
ア携帯電話の通信契約においては,提供するサービス内容等が極めて多
種にのぼるところ,契約時に,利用者に対し,そのすべての内容を説明
することを義務づけることは,大量かつ定型的に処理される携帯電話サ
ービスの特質を無視し,携帯電話事業者に不可能を強いるものであるし,
利用者にとっても,契約手続に長期間拘束されることとなり,煩雑であ
る。したがって,契約締結時においては,一般的な利用者が通常利用す
ることが想定されるサービスの内容及びその利用料金を説明すれば必要
かつ十分なのであり,それを超えてすべての契約内容を説明する義務を
負うものではない。①アクセスインターネットは,その利用者もごく僅
かであり,一般的な利用者が通常利用すると想定される利用方法ではな
いこと,②被告は,平成19年9月当時,利用者に対し,パケット通信
サービスの課金システム(従量制),料金単価,ウェブ通信料の目安及び
データ量の多い送受信を行うと通信料が高額となる場合があることを説
明していたこと,③アクセスインターネットを利用する場合の課金シス
テム及び料金単価は通常の携帯電話によるウェブ閲覧の場合と同様であ
ること,④パソコンでの閲覧を想定して作成されたウェブサイト(以下
「PCサイト」という。)が,情報量を抑えて作成された携帯電話用のウ
ェブサイト(以下「携帯サイト」という。)と比較して画面に表示される
情報量が大きいことは常識的に考えて明らかであり,利用料金が相当高
額になる可能性があることは利用者にも十分に認識可能であること等か
ら,被告は,利用者からの質問がない限り,パケット通信サービスの1
つであるアクセスインターネットの利用料金について別途,積極的に説
明すべき義務を負わないというべきである。
原告は,本件契約締結手続において,被告の販売スタッフに対して,
アクセスインターネットの利用料金について質問することはなく,原告
にアクセスインターネットの利用を窺わせる行動は一切なかったのであ
るから,被告が,このような原告に対して,利用料金を説明する義務を
負うことはない。
イ仮に,被告に,アクセスインターネットを利用した場合の料金につい
て特別に説明する義務があるとしても,次のとおり,被告は,十分な説
明を行っており,説明義務違反・情報提供義務違反がないことは明らか
である。
(ア)被告は,本件契約締結当時,すべての契約者に,アクセスインタ
ーネットがパケットし放題の適用対象外となるサービスであることを
契約締結時に口頭で説明し,さらに,アクセスインターネットの利用
を具体的に予定していた契約者に対しては,利用料金が高額になる場
合があることを口頭で説明していた。
(イ)被告は,本件契約締結当時,各店舗の店頭に,サービスの内容,
料金プラン及び各携帯電話端末の有する機能等を分かりやすく説明し
た商品のカタログ(以下「カタログ」という。)を設置して利用者に提
供し,契約締結時には,必要な契約条件を網羅的に記載した提供条件
書及びサービス内容や本件携帯電話の具体的な使用手順等を詳細に説
明した取扱説明書等を交付しており,次のとおり,アクセスインター
ネットを含むパケット通信サービスの課金システム,料金単価,ウェ
ブ通信料の目安及び容量の大きいデータの送受信を行う場合には通信
料が高額となる場合があることを説明していた。
aカタログ及び提供条件書には,パケット通信料の料金単価が1パ
ケットあたり0.2円であること及びパケット通信によるアクセス
インターネットを利用した場合にも同様の料金単価が適用されるこ
とが明確に説明されている。また,カタログには,どのような通信
を行うと,どの程度のパケット通信料金が発生するのかについて,
利用者が具体的にイメージできるよう,ウェブ通信料の目安を記載
しており,容量の大きいデータ通信を行う場合には,通信料が高額
となる場合があることも注意事項として記載していた。
b取扱説明書の中のPCブラウザ(携帯電話において,PCサイト
を閲覧することができるサービス)に関する説明の欄に,「データ量
の多い情報画面を表示するときは通信料が高額になりますのでご注
意ください。」との注意書きがされており,携帯電話からPCサイト
に接続し,データ量の多い情報画面を表示するときは,通信料が高
額になることを説明している。
c本件携帯電話の個装箱には,アクセスインターネットを利用して
データ量の多い通信を行う場合,パケット通信料が高額となる場合
があることを,強調体で,かつ他の文字より一段大きな文字で,簡
潔明瞭に記載したリーフレットを原告が同携帯電話の利用開始前に
必ず目にするような形で同梱していた。また,平成19年9月当時
の被告のウェブサイトのアクセスインターネットの説明ページにも,
同内容の記載があった。
ウ上記イ,(ア),(イ)のような説明をしていれば,説明事項を認識した
顧客は,利用料金に注意を払ってアクセスインターネットを利用するこ
とが可能になるのであるから,被告の説明としてはそれで足り,アクセ
スインターネットの具体的な料金例についてまで説明する義務はない。
むしろ,パケット通信の料金体系は従量制であり,顧客がどのようなウ
ェブページを閲覧するかによって,利用料金は大きく変動するため,具
体的な料金の説明を行うことは,かえって顧客の誤解を招き,クレーム
に発展する可能性がある。
エ本件携帯電話には,アクセスインターネットの接続に用いるUSBケ
ーブルは同梱されていなかった。原告は,携帯電話をパソコンと接続し
てインターネット通信を行うという通常とは異なる利用をするのである
から,利用前に,利用料金を確認するのが当然である。原告は,被告の
販売スタッフに利用料金を尋ねたり,被告のウェブサイト等で利用料金
を確認することが可能であった。被告の販売スタッフは,原告からの問
い合わせがあれば,アクセスインターネットの利用料金は高額になる場
合があるので気を付けてほしいと注意喚起をしたはずである。仮に本件
通信に係る利用料金が原告にとって予測できなかったとしても,それは
被告の説明の不足によるものではなく,原告自身が利用前の料金確認を
怠り,被告の提供した情報を十分に確認しなかったことによるものであ
るというほかない。
オ原告は,インターネットカフェの利用料金から,通信料金が1万円程
度であると認識した旨主張するが,携帯電話を利用する場合と比較して,
インターネットカフェにおいてインターネット通信を行う場合の利用料
金の課金方法及び料金システムは全く異なるのであり,両者の料金が同
程度になるという予測は,何ら根拠のないものである。
(2)被告が,本件契約上,原告がアクセスインターネットを利用した際に
パケット通信料金がその予測を超えて高額となりすぎないよう,説明・情報
提供・注意喚起等の措置を採る義務があったか否か。また,それが肯定さ
れる場合,被告に上記義務の違反があったか否か。
(原告の主張)
ア前記第2,2,(1),(原告の主張),イのとおり,本件通信契約にお
いては,異常に高額なパケット料金が発生する事態が生じる危険性があ
ったのであるから,情報力及び交渉力において消費者と格差のある事業
者である被告は,消費者に高額なパケット通信料金が発生するのを防止
する措置を採る義務があった。被告は,上記義務を怠り,そのために,
原告は,予測できない高額なパケット通信料金を課金されるという損害
を被った。
イ被告は,ソフトバンクパケットメーター(以下「パケットメーター」
という。)や高額請求アラートにより高額利用につき注意喚起をしてい
た旨主張するが,パケットメーターは一般的なソフトウェアではなく,
その提供をもって十分な措置であったとは到底いえないし,高額請求ア
ラートは,当時10万円という極めて高額な額を基準として設定され,
しかも,基準額を超えた翌日にメールが発せられるという不十分なもの
であったから,これらをもって,被告が十分な措置を尽くしたとはいえ
ない。
ウ被告は,データ通信につき月々の上限額を定めた定額サービスを導入
しているが,顧客がアクセスインターネットを利用する場合も,一般消
費者が予測できる程度の金額を通信料金の上限額として設定することが
可能であったはずである。
(被告の主張)
ア本件のように従量制の料金システムが適用されるサービスにおいては,
どの程度の量のサービスを利用するかは,サービスの利用の必要性,料
金額等を考慮して,利用者が自ら判断,管理すべきものであり,被告に
高額なパケット料金の発生を防止する義務など存在しない。
イ仮に,被告が,顧客に高額なパケット料金が発生することを防止する
必要性があるとする原告の立場に依ったとしても,被告は,次のとおり,
顧客が自ら利用料金を確認・管理することが可能となる十分な措置を講
じていたのであり,被告にかかる義務の違反は認められない。
(ア)被告は,契約者のパケット通信料金が基準額(10万円)を超え
た場合,翌日に注意喚起のメール(SMS)を送信するサービスを提
供していた。なお,契約回線の累計利用料金が基準値を超えているか
否かの判断は,深夜0時を基準に行っており,基準値を超えたことを
確認した利用者に対しては,翌日の早朝から順次これを通知するメー
ルを送信していた。
(イ)被告は,アクセスインターネットを利用した場合の通信データ量
及びその利用概算金額を確認するためのソフトウェアであるパケット
メーターを,被告のウェブサイトの中のアクセスインターネットの説
明・紹介ページから自由にダウンロードすることができる形で利用者
に提供をしていた。なお,被告は,同ウェブサイトにおいて,携帯電
話とパソコンを接続してインターネットを利用する場合には,パケッ
トメーターを利用するなどして,通信料金を確認しながら利用するよ
う求めていた。
ウ被告は,契約者に対し,利用料金照会サービスを提供しており,利用
者は,自身の携帯電話から,前日までの利用料金の概算を確認すること
ができた。
エ被告は,契約者が所定の登録をすることにより,月毎の利用料金が利
用者の指定する金額を越えた場合に,メールで通知するサービスを提供
していた。
(3)本件パケット料金条項が消費者契約法10条に反するか否か。
(原告の主張)
被告の1契約あたりの月間平均売上収入(ARPU)は,平成20年度
においては1740円であり,平成21年度においても2020円である
ことからすれば,一般消費者は,1か月間で,1万円を超える通信料金が
発生することは予測できないというべきである。前記第2,2,(2),(原
告の主張),イのとおり,本件パケット料金条項は,消費者が予測できな
い極めて高額なパケット料金を課金する不当な内容のものであること,被
告は契約締結時等に料金について十分な説明,情報提供をしていないこと
からすれば,本件パケット料金条項のうち,消費者が通常予想する額であ
る1万円を超える部分は,一般の条理に比して消費者に信義則に反する一
方的な不利益を与えるものとして,消費者契約法10条により無効である。
ア通信サービス契約のように,契約後に,消費者の注文に応じた役務提
供を行う契約等においては,あらかじめ,消費者に対して,提供を受け
るサービスの価格が単価として示され,これに基づき,どの程度の量の
サービスを受けるかについて消費者がコントロールできる条件が示され
ている場合には,合理的な契約が締結されたものとみなされる。すなわ
ち,消費者は,単価及び量をあらかじめ計算することで,サービスを受
けるか否かを決定することができるのである。しかしながら,前記第2,
2,(1),(原告の主張),イのとおり,パケット通信方式においては,
サービスを受ける消費者は,課金される通信料金を予測・計算すること
ができず,予測外の高額な利用料金を課金されるおそれがある。現実に,
高額な通信料金が発生する危険性を認識せずにアクセスインターネット
を利用した結果,被告から超高額の通信料金の支払を請求された消費者
被害が多数発生しているところである。
イ消費者契約法10条前段は,形式的要件であると解すべきであり,同
条項は,任意規定の有無に関係なく,「民法1条2項に規定する基本原
則に反して消費者の利益を一方的に害する」条項を広く無効とする趣旨
である。また,仮に,同条前段に意味を持たせるとしても,「民法,商
法,その他の法律の公の秩序に関しない規定」とは,明文の規定のみな
らず,判例や条理に基づく法準則,契約に関する一般法理も含まれると
解すべきである。そして,消費者に予測がつかないような高額な通信料
金が課される契約内容は,一般の条理に照らして消費者に不利益を与え
るものということができるから,本件パケット料金条項は同条前段の要
件に該当するというべきである。
ウ消費者の予測がつかない料金の課金を行う契約条項が,不意打ち的で
略奪的であることは明らかであり,本件パケット料金条項のうち,消費
者の予測を超える部分については暴利を目的とした契約といえ,信義則
に反し消費者に一方的に不利益なものとして,同条後段の要件を満たす
というべきである。
エ被告は,本件パケット料金条項は対価条項であり,消費者契約法10
条の適用がない旨主張するが,(ア)対価条項とその他の条項の区別は判
然としない場合が多いこと,(イ)我が国において消費者契約法3条の事
業者の義務は情報提供義務ではなく,情報提供努力義務にとどめられて
おり,消費者に対する情報提供の基盤が十分ではないこと,(ウ)消費者
契約の分野では,民法の公序良俗の基準のみならず,消費者契約法が予
定する事業者と消費者との間の情報の質・量及び交渉力の格差を前提と
した基準による不当条項の審査がなされるべきこと,(エ)我が国におい
ては市場における競争メカニズムが完全に機能していないこと等から,
同法10条は対価条項についても適用があると解すべきである。
本件パケット料金条項は,価格の合意そのものではなく,価格の決定
方法を定める価格に付随する条項であり,内容規制の対象とすべきもの
であること,消費者はウェブサイトを閲覧した場合に課金されるパケッ
ト料金を知ることができない状態に置かれ,対価部分につき合理的に判
断できる基盤がないこと,上記のとおり市場における競争メカニズムを
機能させる措置が十分でないことからすると,少なくとも本件パケット
料金条項については,同条が適用されるというべきである。
(被告の主張)
ア消費者契約法10条は,市場への過剰介入とならないよう,契約の主
要目的に関する条項または物品,権利,役務の価格・対価に関する条項
(中心条項・対価条項)には適用されないものとして立法されたもので
あり,同条が,パケット通信料金(役務の対価)に関する条項に適用が
ないことは明らかである。
イ仮に,本件パケット料金条項に,消費者契約法10条の適用があると
しても,本件パケット料金条項が,同条に反しないことは明らかである。
(ア)本件契約において被告の採用する課金システムは,利用者が実際
に送受信したデータ量に応じて課金を行うもので,文字のみのメール
送信や,静止画のみの通信の場合にはパケット料金を低額に抑え,多
くのデータが含まれる動画や音楽のデータ通信の場合は,より多くの
パケット料金を発生させる合理的な料金システムであり,利用者は自
身のサービス利用の必要性,料金額等を考慮して,どの程度の量のサ
ービスを利用するかを判断,管理することができるとともに,送受信
したデータ量が少ない月は,低額の利用料で足りるというメリットを
享受する。
(イ)被告におけるパケット通信の利用単価は,1パケットあたり0.
2円であるが,これは,国内の他の大手携帯電話事業者と同水準の利
用料であり,消費者にとって不合理に高く設定されているわけではな
い。
(ウ)利用者は,自らの使用量を正確に数値で把握していなくとも,電
力,水道,ガス等と同じように,感覚的にその使用量の多寡から,利
用料金をある程度予測することが可能である。また,取扱説明書やリ
ーフレットの記載を確認すれば,利用単価や,利用料金を確認するこ
とができる。さらに,使用量や利用料金の概算を数値で把握したけれ
ば,被告が無料で提供するパケットメーターや利用料金照会サービス
等を用いて容易に利用料金を確認することが可能である。
(エ)消費者契約法10条の「公の秩序に関しない規定」とは,任意規
定のみを指すところ,上記(ア)ないし(ウ)によれば,本件パケット料
金条項は,消費者が本来任意規定によって行使できる権利を制約し,
または,消費者に任意規定によって本来加重されることのない義務を
加重するものではなく,同条前段の要件を満たさない。また,同様の
理由から,本件パケット料金条項は,なんら信義誠実の原則に反する
ものではなく,また,消費者の利益を一方的に害する契約でもないこ
とから,同条後段の要件も満たさない。
(4)本件パケット料金条項が,公序良俗(民法90条)に反するか否か
(原告の主張)
本件パケット料金条項は,消費者が予測できないような極めて高額のパ
ケット料金を課するものであり,前記第2,2,(3),(原告の主張),ア
と同様の理由から,消費者が通常予想する額である1万円を超える部分は,
公序良俗に反し,無効である。
(被告の主張)
本件パケット料金条項は,その利用単価,課金の仕組み,同業他社の課
金方法との比較,利用者の料金の予測可能性等,いずれの観点からしても
合理的であり,事業者による役務の提供と,利用者による対価の支払との
均衡が保たれているから,当該条項によって事業者が過大な利益を上げ,
他方で消費者が著しい損害を受けるような内容ではなく,公序良俗に反し
ないことは明らかである。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記第2,1の事実,証拠(甲1ないし12,14ないし24,乙1,3
ないし13,14の1・2,15,17ないし35,証人A,原告本人。た
だし,後記認定に反する部分は除く。)及び弁論の全趣旨によると,次の事
実が認められる。
(1)当事者
ア原告は,本件契約締結時においては,28歳であり,国立大学法人の
設置する大学の医学部医学科の学生であった。
イ被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社であり,データ通信の
用に供することを目的として,電気通信回線設備を使用して行う電気通
信サービスを提供する業務等を行っている。
(2)本件契約の内容,料金等
ア被告が提供するインターネット接続サービスの種類等
①携帯電話によるインターネット接続
利用者は,携帯電話から,携帯サイトに接続し,携帯電話端末の画
面において,携帯サイトの閲覧をすることができる。
②PCサイトブラウザ・PCサイトダイレクト
利用者は,携帯電話端末の画面を用いて,PCサイトを閲覧するこ
とができる。
③アクセスインターネット
利用者は,携帯電話とパソコンを接続し,携帯電話をモデムとして
用いることにより,パソコンの画面においてPCサイト等の閲覧をす
ることができる。
イアクセスインターネットのサービス内容及び利用状況等
被告の顧客がアクセスインターネットを利用する際には,あらかじめ,
契約時に購入した携帯電話端末に同梱されているCD-ROM等を用い
て,専用のユーティリティーソフトをインストールし,アクセスポイン
トを設定する等の操作を行う必要がある。携帯電話とパソコンを接続す
るには,USBケーブルを用いるが,被告が指定するものであれば,一
般に市販されているUSBケーブルを用いて接続をすることができる。
利用者は,アクセスインターネットを利用することにより,パソコンを
インターネットと接続できる環境がない外出先等においても,携帯電話
とパソコンを接続し,インターネット通信をすることが可能となる。
被告の契約者のうち,アクセスインターネットの利用者の割合は少な
く,平成20年5月の時点において,被告の契約者のうち同サービスを
利用する者の割合は,0.19パーセントであった。
ウパケット通信料金について
(ア)携帯電話端末を使用して,ウェブサイトの閲覧,ウェブサイトか
らのファイルのダウンロード,又は電子メールを送受信する際等に,
データが複数のパケットと呼ばれる単位に分割して伝送されて通信が
行われ(パケット通信),この単位数に応じて一定の通信料金が課金
される(パケット通信方式。以下,パケット通信方式によって発生す
る通信料金のことを「パケット通信料金」という。)。上記通信の際に
は,通信情報量はパケットという単位により算定される。なお,通信
情報量がバイトという単位で表示されることもある。
(イ)本件契約における料金体系はパケット通信方式であり,パケット
通信料金は,1パケット(128バイト)あたり0.2円と定められ
ている。パケット通信によりアクセスインターネットを利用してイン
ターネットに接続する際も,上記基準に従い,通信料金が課される。
本件契約において,パケットし放題に加入した場合は,接続料金が,
1パケットあたり0.08円となり,月毎のパケット通信量がいくら
増加しても,通信料金の上限は月額4200円に設定されている。ま
た,パケットし放題に加入している場合であっても,PCサイトブラ
ウザ及びPCダイレクトを利用すると,通信料金の上限額が自動的に
変更になり,PCブラウザを利用した場合は月額5700円,PCダイ
レクトを利用した場合は月額9800円が通信料金の上限額となる。
(ウ)上記のとおり,パケットは,送信される情報量の単位であり,通
信情報量が大きくなるにつれ,パケットの数も大きくなる。一般に,
楽曲や,動画,アプリケーション等,容量が大きいファイルをダウン
ロードする場合,パケット通信量は大きくなり,楽曲の長さ等によっ
ては,1曲をダウンロードするのに,5000円以上の通信料がかか
るときもある。また,ウェブサイトを閲覧する場合であっても,アク
セスインターネット,PCサイトブラウザ及びPCサイトダイレクト
を利用する場合等,データ量が比較的大きいウェブサイトを閲覧する
場合には,一般の携帯サイトを閲覧する場合と比較して,通信料金が
高額になることがあり,1つのウェブページを閲覧するのに約500
円の料金が課金されることもある。被告が,利用者に提供していたカ
タログには,パケット通信により発生する通信料金の目安として,別
紙「カタログ」のとおりの記載がある。
(エ)アクセスインターネットの利用料金は,パケットし放題の対象と
なるサービスではなく,パケットし放題に加入している利用者につい
ても,月々の通信料金の上限額が定められていない。
(オ)被告の,1契約あたりの月々の平均売上収入(ARPU)は,平
成20年度においては4060円であり,平成21年度においては4
070円であった。また,このうち,パケット通信を含むデータ通信
による月々の平均収入(データARPU)は,平成20年度において
は1740円であり,平成21年度においては2020円であった。
(3)本件契約の締結から本件通信に至るまでの経緯について
ア原告は,平成19年9月29日,富山県B町(当時,現在は富山市B
町)所在の被告の販売代理店であるC(以下「本件販売店」という。)
において,被告との間で,本件契約を締結した。原告が加入した料金プ
ラン等は,次のとおりである。
(ア)料金プランホワイトプラン
(イ)料金割引プランパケットし放題(同年10月末まで無料期間),
家族割引
イ原告が,本件契約締結時に購入した本件携帯電話の機種名はSoft
Bank810Pであり,同携帯電話端末の個装箱には,アクセスイン
ターネットを利用する際に必要となるソフトウェアをインストールする
ためのCD-ROMが同梱されていた。なお,同サービスを利用する際
に必要となる,パソコンと携帯電話端末を接続するためのUSBケーブ
ルは,個装箱に同梱されていなかった。
ウ原告は,同年11月2日ころ,本件契約締結時に加入した,パケット
し放題を解約した。
エ原告は,平成20年3月下旬ころ,京都市内に住居を移した。原告の
転居先の自宅には,インターネットの接続環境がなかったことから,転
居した直後の同年3月26日から同年4月1日までの間,自ら調達した
USBケーブルを用いて本件携帯電話をパソコンに接続して本件携帯電
話をモデムとして用いて,アクセスインターネットを利用し,PCサイ
トを閲覧した(本件通信)(原告が,アクセスインターネットの利用方
法に関する知識を取得した時期及び経緯は,原告本人がこの点について
の供述を回避していることもあり不明である。)。
原告は,上記アクセスインターネットの利用をするのに先立ち,カタ
ログ,取扱説明書及び被告のウェブサイト等における,アクセスインタ
ーネットに関する説明書きの内容を確認しなかった
オ原告は,本件契約締結後,本件携帯電話を利用して日常頻繁に携帯サ
イトを閲覧することはなく,電子メールの送受信を除く月々のパケット
通信料金はいずれも3000円に満たないものであった。また,原告は,
本件通信を行うまでの間に,アクセスインターネットを利用した経験は
なかった。
カ同年3月及び4月において,原告が,本件携帯電話を用いて,本件通
信を含むパケット通信を行った日時及びそれに伴い発生したパケット通
信料金は,別紙「通信料金一覧表」記載のとおりであり,同年3月30
日午後8時の時点において,同年3月分の累積パケット通信料金は5万
円を超え,翌31日の午後10時の時点においては,同月分の累積パケ
ット通信料金は10万円を超えた。
原告は,本件通信により,転居先の周辺区域に関する情報が掲載され
たウェブサイトや,インターネットプロバイダ会社のウェブサイト,通
信販売のウェブサイトの閲覧等を行ったが,動画を提供するウェブサイ
トを閲覧したり,楽曲や動画等の容量の大きいファイルをダウンロード
することはなかった。上記期間において,原告がアクセスインターネッ
トを利用したのは,合計で約10時間程度である。なお,アクセスイン
ターネットには,データの送受信の量に応じて料金が発生するパケット
通信方式と,接続時間の長さに応じて料金が発生するデジタルデータ方
式があるが,原告は,パケット通信方式を選択し,アクセスインターネ
ットを利用した。
キ被告は,同年4月1日,本件携帯電話の原告のメールアドレス宛に,
電子メールを送信し,前日までのパケット通信料金等の後記概算パケッ
ト通信料が10万円を超過したことを通知した(後記高額請求アラー
ト)。原告は,同日午後6時ころ,上記メール内容を確認し,アクセス
インターネットの利用によりパケット通信料金が予想外に高額になった
と考え,以後,アクセスインターネットの利用を止めた。なお,原告は,
アクセスインターネットの利用を開始して以後,上記メールを閲覧する
までの間,パケットメーターや利用料金照会等のサービスを利用するこ
とにより,累積パケット通信料金の額を確認しなかった。
(4)本件契約締結時における口頭による説明内容
ア本件契約締結の際,本件販売店の担当者は,原告に対し,カタログの
記載等を示して,料金プランや,サービスの内容等を説明した。原告は,
本件契約締結前から,本件契約におけるパケット通信料金が,1パケッ
トあたり0.2円であることを認識していた。なお,原告は,本件契約
締結時において,本件販売店の担当者に対し,携帯電話を用いてウェブ
サイトの閲覧やメールの送受信をすると,具体的にどの程度の通信料金
が発生するかについて,自ら質問をしなかった。
イ本件販売店では,本件契約が締結された時点において,アクセスイン
ターネットの利用を具体的に検討している顧客に対しては,アクセスイ
ンターネットは,パケットし放題の対象外となるサービスであるから,
通信料金が高額になるおそれがあることを口頭で説明することとしてお
り,朝礼や連絡帳等を通じてその旨店員に指示が出されていた。原告は,
本件契約締結時,アクセスインターネットを利用する具体的な予定があ
ることを本件販売店の店員に述べず,アクセスインターネットを利用し
た際に発生する通信料金について質問をしなかったため,本件販売店の
担当者は,原告に対し,アクセスインターネットの料金等について,別
途説明をしなかった。
(5)被告が本件契約締結時に原告に対し交付した書類等
本件販売店の店員は,契約締結時に,原告に対し,カタログ,提供条件
説明書及び取扱説明書等の書類を交付した。また,本件携帯電話にはリー
フレットが同梱されていた。それぞれの記載内容は,大要,次のとおりで
ある。
アリーフレット
本件携帯電話に同梱されていたリーフレットには,「<重要>ソフト
バンクモバイルからのお知らせ」という表題の下,携帯電話端末とパソ
コンがUSBケーブルで接続されている状態の図が描かれ,その側に,
「パソコンやPDAでのUSB接続による通信(インターネット接続な
ど)はパケット通信料割引サービス「パケットし放題」の対象外となり
ます。画像を含むサイトの閲覧などデータ量の多い通信を行いますと,
パケット通信料が高額となる場合がございます。ご利用にはご注意願い
ます。」との注意書きが記載されている。上記説明書きのうち,「パケッ
ト通信料割引サービス「パケットし放題」の対象外」という部分は赤い
太ゴシック体の文字で記載され,右側にイラストでもUSBケーブルを
用いたインターネット接続がパケットし放題の対象外であることが示さ
れている。被告は,同リーフレットを,平成19年6月ころから,被告
が販売する携帯電話端末の個装箱内の見つかりやすい箇所に同梱してい
た。
イカタログ
被告は,販売店の店頭等に,携帯電話端末の機能や料金プラン,サー
ビスの内容,価格等を詳細に記載したカタログを備置し,顧客に提供し
ていた。また,契約締結時等において,本件販売店の店員は,顧客に同
カタログの記載を示して,契約内容等を説明することとしていた。
カタログには,本件契約において,パケット通信料金が1パケットあ
たり0.2円であることや,アクセスインターネットを利用した場合に
も同様の通信料金が課されることが記載されていた。また,原告が本件
契約締結時に交付を受けたカタログの中の,パケットし放題に関する説
明書きがある頁には,「パソコンやPDAでのモバイルデータ通信(イ
ンターネット接続など。アクセスインターネットを含む),SMS,国
際SMS,国際S!メール(MMS)および通話料,TVコール通信料
は,パケットし放題の定額サービスの対象外となります。」との記載が
あり,上記記載は,赤字で記載され,かつ,同記載が目立つように,黄
色の実線で囲まれている。さらに,カタログのパケットし放題に関する
説明の記載がある頁には,PCブラウザやPCダイレクトを利用すると,
上限料金が自動的に変更になる旨の記載があり,それぞれ,上限額も記
載されている。
なお,カタログには,別紙「カタログ」のとおり,パケット通信の通
信料金の目安が記載されていた。
ウ取扱説明書
原告が本件契約締結時に交付を受けたSoftBank810Pの取
扱説明書には,上記機種の携帯電話端末の利用方法や機能,サービスの
内容等が詳細に記載されている。同説明書のPCサイトブラウザに関す
る説明書きがある頁には,携帯電話からPCサイトに接続する際には,
「データ量の多い情報画面を表示するときは通信料が高額になりますの
で,ご注意ください。」との注意書きがある。なお,同説明書の中の,
携帯電話端末とパソコンをUSBで接続し,インターネットに接続する
方法に関する説明書きがある頁には,通信料金に関する注意書きは記載
されていない。
エ提供条件書
本件契約締結時に原告に交付された提供条件書には,料金プランの一
覧,各プランにおける通信・通話料金,サービスの種類・内容等が記載
されている。同提供条件書には,パケット通信料金が1パケットあたり
0.2円であること等も記載されている。同提供条件書のパケットし放
題に関する説明書きがある頁には,PCブラウザやPCダイレクトを利
用すると,上限料金が自動的に変更になる旨の記載があり,それぞれ,
上限額も記載されている。
(6)被告ウェブサイトにおける説明内容
ア被告ウェブサイトにおけるアクセスインターネットの説明
被告のウェブサイトの,アクセスインターネットの説明書きがあるウ
ェブページにおいては,「パケットし放題は適用対象外となります。」「パ
ケット通信を利用してデータ量の多い通信を行うと,通信料が高額とな
りますのでご注意ください。」との記載がある。また,同ページには,
パケットメーターに関する説明が記載され,同ソフトウェアを当該ペー
ジからダウンロードすることができる。
イ平成19年4月27日付けのウェブサイトにおける告知
被告は,平成19年4月27日付けで,被告のウェブサイトに,「パ
ケット通信のご利用にあたってのご注意」という表題で,「パケット通
信のご利用にあたっては,ご利用方法によりパケット通信料が高額とな
る場合もございます。ご契約内容をお確かめの上,思わぬ高額とならな
いようご注意ください。」との注意書きを載せるとともに,顧客に対し,
利用料金の照会が可能であること及び定額サービス,割引サービスの利
用を奨める案内を掲載した。また,PCサイトブラウザ,PCサイトダ
イレクトについて,「閲覧されるページが携帯電話向けに作成されてい
ない場合が多く,パケット通信料が高額となることがございます。」と
の注意書きを記載し,その下に,パケットし放題に関する案内を掲載し
ている。さらに,「ソフトバンク携帯電話をパソコンと接続してインタ
ーネットをご利用いただく場合」との表題の下に,「携帯電話とパソコ
ンを接続してインターネットをご利用頂く場合(モバイルデータ通信)
は,短時間で大量のパケット通信が行われることが多く,パケット通信
料が高額となる場合がございます。ご利用される場合は,ソフトバンク
パケットメーターをご利用いただくなど,通信量を確認しながらご利用
いただくことをお勧めします。」との記載があり,その下には,「なおモ
バイルデータ通信は,パケット定額サービスの対象となりませんので,
ご注意ください」との赤字の記載がある。
(7)アクセスインターネット利用の際の画面表示等
アクセスインターネットに接続する際には,あらかじめ,本件携帯電話
の個装箱に同梱されているCD-ROMを用いて,ユーティリティソフト
をインストールする必要があるが,その際,画面にパケット通信料金に関
する注意書きが表示されることはない。同様に,アクセスインターネット
を利用する時点において,パケット通信料金に関する何らかの注意事項が
画面に表示されることはない。
(8)アクセスインターネットの利用による高額料金発生に関する消費者か
らのクレーム等
ア平成18年12月22日付けで,被告は,被告の販売店に対し,「パ
ケット通信料割引サービスの説明徹底のお願いについて」という表題で,
平成17年8月の「着うたフル®」サービス開始以降,顧客の利用状況
によりパケット通信料が高額となり,クレームに発展するケースが散見
されるとし,新規契約,契約更新申込みの際に「着うたフル®」対応機
種を購入する顧客に「着うたフル®」等について利用意思を確認し,各
種パケット通信料金割引サービスの説明並びに加入推奨を徹底するよう
要請する旨の通知を発した。
イ平成19年4月5日,国民生活センターは,パケット通信料金の高額
化に関し,消費者からのパケット料金が高額で納得できないといった相
談が多く寄せられていることなどを発表し,消費者に注意を呼び掛けた。
同発表において使用された記者説明会資料において,相談件数について
は,パケット通信関連の相談件数と携帯電話サービス全体に占める割合
の推移を平成14年度から平成18年度までの相談件数等の数値を示し
て,いずれも平成15年度以降増加し,パケット通信に関する相談件数
は年間600件ないし800件以上で,携帯電話サービス全体に対する
相談件数中に占める割合も15%ないし16%で推移していること,パ
ケット通信料金の高額化によりトラブルとなった相談事例として,パケ
ット定額制を契約していなかったもの3事例,パソコンと携帯電話をつ
ないだデータ通信のもの3事例,海外の使用であることから定額対象外
であることを理解していなかった1事例を具体的に紹介し,消費者への
アドバイスとしては,①料金プランやオプション契約の内容など,十分
に確認し,不明な点は説明を求めること,②携帯電話事業者によって,
パケットの定額制であっても対象外があることに注意すること,③子ど
もに携帯電話を使わせる場合には利用方法などよく家族で話し合うこと,
④利用料金はこまめにチェックすることを呼びかけている。
同じころ,国民生活センターは,被告を含む携帯電話事業者各社に対
し,①契約内容について,消費者個々人のレベルに合わせたわかりやす
い説明を望むこと,②パケット通信の接続先ごとのパケット数を消費者
が把握できるように努力することを求め,接続先の履歴と利用パケット
数を利用者が容易に確認できるような仕組みが望ましいことを要望事項
として伝え,このような要望を伝えたことも発表した。
ウ平成17年4月1日から平成20年3月31日までの間,国民生活セ
ンターが受付をした相談事例で,同年4月22日までにPIO-NET
(全国消費生活情報ネットワーク・システム)に登録されたもののうち,
被告の契約者からのパケット通信に関する相談は,1114件あり,そ
のうち,平成18年(ただし,10月以降のみ)は249件,平成19
年は865件であった。
上記期間における相談事例の中の最新のもの50件のうち,アクセス
インターネットの利用により発生したパケット通信料金が高額に過ぎる
とする相談事例は,海外での利用により定額制の範囲外となったものを
除き,8件あった。その内容は,概ね,次のとおりである。
①息子がアクセスインターネットにより,インターネットのオンライ
ンゲームを長時間していたら,請求額が150万円にも達した。(甲
5の別添50例中の事例番号1)
②息子が携帯電話を契約した後,アクセスインターネットによりイン
ターネットのオンラインゲームを約5時間したところ,1週間の利用
で150万円の請求が来た。(同2)
③アクセスインターネットを30分ほど使用したところ,翌日,携帯
電話会社から高額な利用料になっているとの連絡があった。(同3)
④携帯電話のアンテナショップで店員にインターネットをしたい旨告
げたところパケットし放題の料金形態を勧められて加入し,携帯電話
をモデム代わりにしてパソコンに接続し,インターネットを利用した
ところ,1日半から2日間で利用料金が100万円になった。(同1
2)
⑤約7時間,アクセスインターネットを利用したところ,通信料金が
78万円になっているとの連絡が携帯電話会社からあった。定額制適
用外であることは知っていたが,1時間1万円くらいだと思っていた。
(同13)
⑥携帯電話を契約した際,パケット代金定額制にしたが,パソコンに
つないで使った場合も定額制の範囲内であるとの説明であったのに,
1か月間パソコンとつないで使ったら高額の請求が来て驚いた。実際
は範囲外だった。交渉して請求額は3分の1になったが納得いかない。
(同18)
⑦取扱説明書にアクセスインターネットを利用した場合,パケットし
放題の対象外となり利用料が高額となる旨の記載があることは知って
いたが,便利なのでつい数日間利用したところ,計52万円の通信料
金の請求を受けた。分割払いを要望してほしい。(同23)
⑧アクセスインターネットを利用したところ,1日の通信で60万円
のパケット通信料金を請求された。(同36)
エ国民生活センターに寄せられたパケット料金に関する相談事例につい
て,相談者が,通信事業者から請求を受けたパケット通信料金を含む利
用料金の平均額は,平成14年度は8万6733円,平成15年度は8
万7229円,平成16年度は8万4391円,平成17年度は12万
8135円,平成18年度は15万5216円であった。
オ適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者機構日本は,平成2
0年5月ころ,インターネット接続によるパケット通信料金の高額化に
関する消費者からの相談事例が増加しているとして,被告を含む携帯電
話事業者3社に対し,通信料金の高額化を防止するための説明や情報提
供をするよう業務改善を要望し,それに対する各社の回答を発表した。
同回答によれば,被告を除く2社(株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
(以下「ドコモ」という。)及びKDDI株式会社(以下「KDDI」
という。))は,同時点において,インターネット接続等の高額料金防止
のために,次のような措置を採っている旨回答した。
①ドコモ
携帯電話端末の個装箱に同梱されているCD-ROMから,インタ
ーネット接続のためのソフトをダウンロードする際,インターネット
接続は,パケット定額制プランの対象外であることについて注意喚起
をする文章を表示させている。また,その際,ウェブ閲覧の際にパケ
ット通信料金の目安を確認することのできるソフト(FOMAバイト
カウンタ)が自動的にインストールされる。さらに,パケット通信料
金が一定額に到達した場合に,電子メールで通知するサービス(無料)
を利用者の任意申込みがあれば提供している。以上に加えて,例月に
比べて通信料等が高額となった場合は,確認のために,料金請求前に
利用金額を知らせるはがきを送付している。
②KDDI
携帯電話端末の個装箱に同梱されているCD-ROMから,インタ
ーネット接続のためのソフトをダウンロードする際,インターネット
接続は,パケット定額制プランの対象外であることについて注意喚起
をする文章を表示させている。パケット通信料金が一定額に到達した
場合に電子メールで通知するサービスである「料金安心サービス」を
利用者の任意申込みがあった際には,無料で提供している。
カ平成20年5月30日,総務省は,同省内にある電気通信消費者相談
センター等に寄せられた消費者からの相談に基づき,「携帯電話のパケ
ット通信料金の高額利用の防止策」と題する発表を行い,パケット料金
高額化を防止するための消費者の対策を紹介し,利用者に対する注意喚
起を行った。同発表においては,パケット通信料金が思いがけず高額と
なる理由として,①音楽等データ量が大きいサービスの利用,②パケッ
ト通信料金の定額制の対象外となるインターネット接続などの利用,③
通信速度が速いサービス・端末の利用が紹介され,インターネット接続
が定額制の対象外となることがあるサービスであり,その利用により通
信料金が高額になるおそれがある旨の注意が示された。
(9)インターネット接続に関し,被告の講じた対応策について
上記のような各種団体からの申入れや消費者からの苦情等に対応して,
平成19年以降,被告は,次のとおり,対策措置を講じた。
ア平成19年2月以降,カタログを改訂し,前記第3,1,(5),イの
パケットし放題についての注意喚起文について,次のとおり,記載の方
法,文字の大きさ,色等を変更した。
①同年2月版
それまで黒字であった文字を,利用者に見やすいように,赤字に変
更した。
②同年3月版
文字サイズを,それまでの5ポイントから,6ポイントに変更し,
大きくした。併せて注意喚起文を囲む黒枠をなくした。
③同年5月版
パケットし放題の適用除外の対象となるモバイルデータ通信に,ア
クセスインターネットが含まれることを明記した。
④同年9月版
「「パケットし放題」をご利用の場合でも,定額の対象外となる通
信がありますのでご注意下さい。」との表題(文字の大きさ・8ポイ
ント,太字)を追加し,本文を一部改訂した。また,注意喚起文を,
より見やすいよう,黄色の枠で囲った。
イ同年6月ころより,携帯電話端末の個装箱へのリーフレット(前記第
3,1,(5),ア)の同梱を開始した。
ウ平成19年夏モデルの携帯電話端末の一部機種について,パソコンと
携帯電話端末を接続するために必要となるUSBケーブルを同梱するこ
とを取り止め,別売りにした。なお,CD-ROMの同梱については,
継続することとした。
本件携帯電話の機種は,平成19年6月に発売が開始された同年夏モ
デルのSoftBank810Pであり,これはUSBケーブルが同梱
されなかった機種の1つである。
エ被告の販売代理店に対し,契約締結時に,利用者に,アクセスインタ
ーネットは,パケットし放題の対象外であることを説明するよう指示を
出した。
オ前記第3,1,(6),イのとおり,同年4月27日付けで,アクセス
インターネットの利用に関する注意喚起を,被告のウェブサイトで行っ
た。
(10)被告の利用者がパケット通信料金を確認するための措置について
ア利用料金照会サービス
被告の契約者は,被告の顧客専用のウェブサイトである「MYSO
FTBANK」の該当ウェブページを閲覧することにより,前日までの,
当月分における累積パケット通信料金の額等を確認することができる。
同サービスの内容は,カタログにおいて紹介されている。
イパケットメーター
同ソフトウェアをインストールすることにより,ウェブ閲覧等のパケ
ット通信時に,当該パケット通信に係るパケット通信量及びそれに伴い
発生する通信料金(概算)が表示される。被告のウェブサイトから無料
でダウンロードすることができる。また,パケット通信料金が一定額に
達した場合には,警告が表示されるように設定をすることも可能である。
同サービスは,被告のウェブサイトにおいて紹介されているが,カタロ
グ等の交付書類には同サービスの内容に関する記載はない。
ウ一定額Eメール通知サービス
当月分の利用料金(音声通話料,メール通信料,ウェブ通信料,パケ
ット通信料金,データ通信料,コンテンツ情報料等の合計)が,利用者
があらかじめ設定した一定の額に達した場合には,その旨を電子メール
により通知するサービス。利用者の申込みが必要となるが,利用料金は
無料である。同サービスの内容は,カタログに掲載されている。なお,
原告は,同サービスの申込みをしていない。
エ高額請求アラート
当月分のパケット通信料金等が一定額に達した場合,利用者への注意
喚起のため,被告から利用者に対し,電子メールにて累積概算パケット
通信料(メール通信料,ウェブ通信料,パケット通信料,データ通信料
の合計金額)が通知される。前日の0時において,パケット通信料金が
基準額を超えている利用者に対し,翌日の早朝から順次メールが自動配
信される仕組みとなっている。被告が同サービスの導入を販売代理店等
に通知するために作成した平成20年1月31日付けの書面には,パケ
ットし放題に加入している契約者も,アクセスインターネット等のパケ
ットし放題の適用除外サービスを利用する場合もあることから,高額請
求アラートに関する説明をするよう指示する記載がある。
なお,同サービスは,平成20年2月1日に開始され,基準額は10
万円に設定されていたが,被告は,平成20年5月2日に,同サービス
の基準額を5万円に変更した。現在,同サービスの基準額は3万円に設
定されている。
オ上記各サービスに関する原告の認識等
本件契約締結時において,本件販売店の店員は,原告に対し,上記ア
ないしウのサービス内容に関し口頭で説明をしなかった。また,原告は,
本件通信時において,上記各サービスが提供されていることを認識して
いなかった。
2事実認定の補足判断
(1)原告は,本件携帯電話の個装箱には,USBケーブルが同梱されてい
た旨主張し,甲18号証(原告の陳述書)及び原告本人の供述中にはこれ
に沿う部分がある。しかしながら,証拠(乙2,13)によれば,本件契
約締結当時,被告の携帯電話端末の商品カタログには,USBケーブルが
同梱されている機種については,当該機種の紹介部分の「付属品キット」
欄に「USBケーブル(試供品)」との記載があるが,同梱されていない
機種に上記記載がないこと,本件携帯電話の機種であるSoftBank
810Pの紹介部分の同欄には上記記載がないこと,また,原告が本件契
約締結時に交付を受けたSoftBank810Pの取扱説明書には,「お
買い上げ品の確認」の欄に,お買い上げ品として,本体,電池パック,急
速充電器,取扱説明書,ファーストステップガイド及びユーティリティー
ソフトウェア(CD-ROM)が記載されているが,USBケーブルとの
記載はなく,他方,別の通信・外部接続についての説明箇所に「本機とパ
ソコンを当社指定のUSBケーブルで接続すると」アクセスインターネッ
ト等ができる旨,USBケーブルが同梱されていないことを前提とするか
のような記載があることが認められる。加えて,甲18号証には,a「本
件契約締結時に店員にパソコンに携帯電話を接続してインターネット通信
をする方法を尋ねたが明確な回答がなかったので」b「梱包物を探したと
ころUSBケーブル(「USB端子」とあるが,前後の文脈からUSBケ
ーブルの意味と解される。)が出てきてこれを使用して接続することが分
かった」,c「店員にUSBケーブルの使用方法を尋ねたが適切な説明が
なかった。」旨の記載があるが,原告本人尋問においては,上記a,cは,
本件契約前に原告の夫が携帯電話端末を購入した際の出来事である旨供述
しており,原告の記憶の正確性には疑問があり,USBケーブルの同梱(上
記b)についても,原告の夫の購入時の記憶と混同されている疑いがある。
以上によれば,本件携帯電話の個装箱にUSBケーブルは同梱されていな
かったものと認められ,甲18号証及び原告本人の供述の上記部分は措信
できない。
(2)原告は,その本人尋問において,リーフレットを見た記憶が全くない
旨供述する。証拠(乙4,27,28,証人A)及び弁論の全趣旨によれ
ば,被告は,平成19年5月ころ,携帯電話端末の個装箱に,前記第3,
1,(5),ア記載の内容のリーフレットを同梱することを決定し,そのこ
ろから,印刷業者にその作成を発注したこと,その最終納期は同年6月2
9日であったことが認められ,これによれば,特段の事情のない限り,原
告の購入した本件携帯電話の個装箱にも上記リーフレットが同梱されてい
たものと認められる。原告は,その内容を確認したかどうかはともかく,
上記個装箱から同携帯電話を取り出す際に同リーフレットを目にしたはず
であり(前記認定のとおりリーフレットは個装箱内の見つかりやすい箇所
にあった。),本人尋問の時点ではその記憶が失われていたと考えるほかな
い。
3消費者契約法10条違反の有無について
(1)前記第3,1,(1)の事実によれば,本件契約は,消費者契約法2条3
項所定の「消費者契約」に該当する。したがって,本件契約における条項
のうち,同法10条の要件を充たすものは無効となる。
しかし,本件パケット料金条項は,被告の提供する役務の対価に関する
条項であるが,一般に,双務契約における対価又は対価の決定方法を定め
る明文規定又は一般法理は存在しないから,対価に関する条項について任
意「規定の適用による場合」(同条前段)と当該条項による場合を比較す
ることはできないことなどからすると,対価に関する条項に同条が適用さ
れるかは極めて疑問である。また,原告は,本件パケット料金条項のうち
1万円を超える部分が同条に違反して無効である旨主張するが,同料金条
項に1万円を超える部分というべき部分が存在するのかも疑問である。原
告の主張する1万円は,単に,同料金条項の定めるパケット料金の算定方
法に従って計算した場合,消費者の得た通信情報量が一定のパケット数を
超えたときに算出される計算結果に過ぎず,それ自体は消費者と被告との
間の合意の内容ではないと解されるからである。あるいは,原告の主張は,
計算結果として1万円を超えるパケット通信料金が算出されるような算定
方法を定める合意が無効であるとの趣旨とも解されるが,その場合の無効
とすべき合意部分の具体的範囲・内容が特定されているのか疑問であり,
原告の主張は,結局,パケット通信料金が1万円を超えないような計算方
法に契約内容が変更されるという同法10条の規定しない効果をいうもの
と解さざるを得ない。なお,仮に,本件パケット料金条項の1万円を超え
る部分に同条が適用され,同条の要件を充たすとされた場合,その効果と
しては,同料金条項に定める計算方法に従って計算したパケット通信料金
が1万円に達したときは,当該料金計算期間内においては,以後,消費者
がパケット通信をどれだけ行っても支払うべき対価は1万円に留まること
になるのか,そうではなく,以後,被告も通信サービスを提供すべき義務
を免れる(対応する反対給付の合意部分も無効となる)のかについて,原
告の主張は明確ではない。前者とすると,任意規定を適用した場合,必然
的に上記のような一種の料金定額制になるといえるのか疑わしく,後者と
すると,消費者に不利益が生じない被告の役務提供義務を約する部分が無
効となる法理(無効にならないが被告が役務提供義務を負わないとするな
らその法理)の説明が必要となる。
(2)上記の点をひとまず措くとしても,本件パケット料金条項が消費者契
約法10条前段の要件を充たすとは解されない。すなわち,本件パケット
料金条項は,パケット通信に係る料金及びその算定方法を定めるものであ
るところ,本件契約における料金の算定にあたって用いられるパケットと
いう単位は,通信情報量を示すものとして客観的なものであり,通信役務
提供契約においては,利用者が提供を受けた役務の量である通信情報量に
従い利用料金を算定する合理的なものであるといえるから,本件パケット
料金条項が定める価格決定方法が任意規定(明文の規定のみならず,一般
的な法理等も含まれる(最高裁平成22年(オ)第863号同23年7月
15日第二小法廷判決参照))から乖離するとはいえない。このことは,
我が国において,本件契約と同じく,消費者が供給量に応じて便益を受け
る水道,電気及びガス等の供給契約において,利用量に応じた従量制の料
金システムが広く採用され,これが水道法,電気事業法及びガス事業法等
の上記各事業を規律する事業法等において是認されていることからも明ら
かである。
さらに,本件パケット料金条項には,1パケットあたり0.2円という
役務提供の単価が一義的かつ具体的に記載されており,当事者間において
上記単価につき明確な合意がなされたと解される。このような場合におい
て,合意された役務提供の単価の額の当否は,基本的には市場による評価
及び調整に委ねるべき事柄であり,これを規律する明文の規定及び一般法
理は存在しないといわざるを得ない。
以上によれば,本件パケット料金条項が,任意規定の適用による場合に
比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであると
はいえず,消費者契約法10条前段が定める要件に該当しないというべき
である。
(3)これに対し,原告は,パケットという単位は不明確かつ不可視であり,
消費者は,ウェブ等を閲覧するに際し,あらかじめ通信量を把握すること
ができず,パケット通信により高額な通信料金が発生するおそれがあるこ
と等を理由として,本件パケット料金条項は,不意打ち的に高額な料金を
消費者に課すものであり,一般法理に比して消費者に不利益を与えるもの
である旨主張する。
しかしながら,本件契約のような役務提供契約に関し,提供される役務
の量や価格が役務提供時にあらかじめ具体的に明らかにされるべきことを
定める明文の任意規定はない。また,前記認定のとおり,本件パケット料
金条項は,通信情報量に応じた客観的な料金算定方法が定められており,
消費者は,カタログにおけるパケット通信料金の目安に関する記載や月々
の通信料金等から,当該パケット通信により発生する通信料金をある程度
予測することも可能であり,被告が契約者に無料で提供する利用料金照会
等のサービスにより,自ら事後的に通信量を把握することもできる。そし
て,パケット方式による通信サービスを行う以上,サービス提供の量に従
った料金制度としては,パケット当たりの単価を定める方法以外は考えに
くい。そうすると,パケット通信においては,通信情報量によっては通信
料金が予想外に高額化する可能性ないし傾向があること等を考慮しても,
本件契約における通信料金の算定方法が,消費者にとって不明確かつ不可
視であるとか,何らかの一般法理に比して消費者に不利益を与えるとはい
えない。したがって,原告の主張は採用できない。
4公序良俗違反の有無について
原告は,本件パケット料金条項は,不意打ち的に高額な料金を消費者に課
すものであり,公序良俗に反する旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,パケットは,通信情報量を示す客観的
な単位であり,利用者は,カタログの記載や,月々の通信料金等を目安とす
ることにより,パケット通信料金をある程度予測することが可能であること,
利用料金照会等を用いることにより,事後的にパケット通信量を把握するこ
ともできることからしても,本件契約における通信料金の算定方法が,消費
者にとって,不明確かつ不可視なものであるとか,不意打ちを与えるものと
はいえない。また,被告が,契約締結時や通信役務提供時等に,原告に対し,
本件契約に係るパケット通信料金について原告に誤解を与えるおそれのある
説明若しくは情報提供をしたことを示す証拠はない。
本件パケット料金条項は,通信情報量に応じて料金が発生する従量制の料
金システムを採っているが,インターネット通信役務の性質上,通信情報量
が多ければ多いほど,利用者は,それに応じた便益を享受したといえるので
あるから,通信情報量に応じて料金を定めることは合理的であり,通信情報
量と被告の負担する経費が完全な比例関係にはないとしても,被告が提供役
務の内容に照らし不相当に過大な利益を得るとはいえない。したがって,本
件パケット料金条項により,被告が,原告又は契約者一般の窮迫・軽率・無
経験に乗じて過大な利益を獲得するものとはいえず,同条項が公序良俗に反
するとはいえない。
5パケット通信料金に関する説明・情報提供義務違反の有無について
(1)被告が契約上の付随的義務として原告に対して負う説明義務・情報提供
義務の内容
ア本件契約においては,通信量に応じて通信料金が発生する料金制度が
採られていることから,一定の通信を行った場合に,それに伴い発生す
る通信料金の額がいくらであるのかについては,原告が当該通信サービ
スの提供を受けるか否か,受けるとした場合にどの程度の量のサービス
の提供を受けるのかを判断するのに極めて重要な影響を及ぼす事実であ
る。したがって,被告は,本件契約上の義務として,原告が,各種通信
サービスの提供を受けるか否かを決定することができるよう,当該サー
ビスの提供を受けることを決定するまでの間に,原告に対し,適宜の方
法により,当該通信サービスの利用により発生する通信料金について,
わかりやすく説明する義務を負うというべきである。
イまた,前記認定のとおり,本件契約は被告の設けた定型的な契約の1
つであるが,この定型的契約(以下,本件契約と同一内容の定型的契約
を総称して「本件定型契約」という。)における通信役務の種類,内容
は多種多様であり,利用者がいかなる内容,種類の通信を行うかにより,
通信量及び発生する通信料金は大きく異なる。そして,利用者は,イン
ターネット通信サービスの性質上,通信時において,当該通信に係る通
信量を正確に把握することは困難であること等から,利用者が,当該通
信により発生する通信料金につき十分な認識を有しないまま,通信サー
ビスの利用を開始するおそれが多分にある。さらに,アクセスインター
ネットによるパケット通信は,PCサイトの情報量が携帯サイトと比較
して大きいことから,通信内容如何によっては,短時間のうちに通信料
金が高額となるおそれがある。そのうえ,被告は,本件携帯電話にアク
セスインターネットの利用の際に必要となるソフトウェアをインストー
ルするためのCD-ROMを同梱し,市販のUSBケーブルを用いるこ
とにより,原告がアクセスインターネットを利用することのできる状態
を作出している。そうすると,被告は,本件契約上の義務として,原告
がアクセスインターネットを利用するに先立ち,原告に対し,同サービ
スを利用することにより高額な料金が発生する可能性があることにつき,
情報提供をする義務を負うと解するのが相当である。
(2)そこで,以下,被告が,上記説明ないし情報提供義務を果たしたか否
かについて検討する。
前記認定のとおり,被告が本件契約締結時に原告に交付したカタログ及
び提供条件書には,アクセスインターネットを含むパケット通信料金が1
パケットあたり0.2円であることが明確に記載されており,原告も本件
契約締結前から上記通信料金の額を認識していた。また,上記カタログに
は,楽曲や動画のダウンロード等,情報量の大きいパケット通信を行った
場合の通信料金の目安が記載されており,PCサイトは携帯サイトと比較
して通信情報量が大きく,原告本人も,その旨認識していたと供述するこ
とからすれば,アクセスインターネットを利用してPCサイトを閲覧した
場合,上記カタログに記載がある楽曲や動画等のダウンロードと比較して,
発生する通信料金が格段に低額にならないことは,原告にとって予測が可
能であったといえる。さらに,本件携帯電話の個装箱に同梱されていたリ
ーフレットには,アクセスインターネットに関し,データ容量の大きい通
信を行う場合には,通信料金が高額となるおそれがある旨の注意書きが記
載されており,そのうえ,被告は,上記カタログや被告のウェブサイトに
おいて,利用料金照会,一定額メール通知サービス及びパケットメーター
等のサービスに関する紹介を行っており,契約者は,これらのサービスを
利用することにより,自らウェブサイト閲覧時等のパケット通信料金の目
安を確認することも可能であった。上記に加えて,①本件定型契約におい
て被告の提供する通信役務の内容は多種,多様であり,契約締結時等に口
頭においてすべてのサービスの内容や料金等を説明することは時間的制約
から困難であり,利用者にとってかえって理解しにくいものとなる可能性
もあること,②アクセスインターネットの利用者は極めて少なく,大部分
の被告の顧客にとって同サービスの料金説明は不要なものであることから
すれば,上記のとおり,口頭による説明ではなく,契約締結時に提供した
カタログ及び提供条件書並びにウェブサイト等の記載を通じて契約者にア
クセスインターネットの通信料金に関する情報提供をすることは,説明・
情報提供の方法として不十分なものであるとはいえない。
したがって,被告は,原告に対し,アクセスインターネットによりPC
サイトを閲覧する際に発生する通信料金の額及び同サービスの利用により
高額な料金が発生する可能性があることについて,本件契約に基づき要求
される範囲の説明・情報提供をしたと認めるのが相当である。
(3)これに対し,原告は,①パケットという単位は,不明確かつ不可視な
ものであり,パケット通信時に通信量を把握することは困難であること,
②アクセスインターネットの利用により,通信料金が高額化するおそれが
あり,現実に,国民生活センター等にアクセスインターネットの利用によ
る通信料金の高額化に関する苦情が多数寄せられていること等から,被告
は,原告に対し,具体的に原告が予測できる形で,原告が当該ウェブサイ
トを閲覧すれば,いくらのパケット通信料金が課されるかを説明し,情報
提供する義務があった旨主張する。
原告が,いつの時点で被告が上記義務を履行すべきであると主張するの
か不明であるが,本件契約締結時点では,将来,原告がいかなるウェブサ
イトを閲覧するかは,原告自身も分からなかったはずであるから,被告が
原告主張の上記義務を履行することはおよそ不可能である。また,原告が
当該ウェブサイトを閲覧しようとする段階においても,当該ウェブサイト
を構成するウェブページ又はデータファイルのうちいずれを閲覧するかを
被告が予測することは不可能であり,さらに,原告が特定のウェブページ
等を閲覧する操作を実行した際に,当該ページの情報が送信される前に,
当該ページを閲覧することにより課される通信料金を概算にしろ原告に告
知し,原告が上記情報送信を中止させることもできるようにすることも,
技術的には可能であるとしても,少なくとも,本件通信当時,普及はして
いなかったと考えられる。したがって,特定のウェブサイト閲覧前に,被
告が原告主張の具体的料金情報を原告に提供し,それに基づいて当該ウェ
ブサイトを閲覧するか否かを判断させることは不可能であるか又はそれを
可能とするサービスの提供を求めることは著しく困難であったというほか
ない。本件契約上,被告が要求されるパケット通信料金に関する事前の説
明及び情報提供としては,前記説示のとおり,カタログ及びウェブサイト
等を通じ,アクセスインターネットを含むパケット通信により発生する通
信料金の算定方法及び楽曲や動画のダウンロード等,情報量の大きいパケ
ット通信を行った場合の通信料金の目安を説明するとともに,アクセスイ
ンターネットを利用してデータ量の多い通信を行う場合には,通信料金が
高額化するおそれがあることにつき説明をしていれば足りると解すべきで
ある。
なお,顧客による明示の申出がない場合においても,アクセスインター
ネットによるパケット通信時に,逐時,送受信した通信量や,それに伴い
発生する通信料金が明らかになるよう,当該通信に係る通信量や通信料金
を画面で表示するサービス等を提供することとすれば(被告の同業者であ
るドコモは平成20年5月の時点においてこのようなサービスを導入して
いたことは前記認定事実のとおりである。),ウェブサイト閲覧開始後では
あるが,利用者が現に発生中の通信料金を即時的に把握することが容易に
なり,利用者にとって予測外の通信料金が発生するという事態は回避する
ことができる可能性が高いと考えられる。しかしながら,上記のようなサ
ービスを導入するには一定の経済的負担が伴い,特に本件のように財産的
利益に関する情報提供が問題となる局面においては,そのようなシステム
を導入して顧客に詳細な情報を提供する必要性の程度と,当該システムの
導入に伴う被告への負担を比較衡量し,被告に課される情報提供義務の存
否を判断せざるを得ない。そして,前記認定のとおり,アクセスインター
ネットの利用者は極めて少なく,利用者は自ら既に発生した通信料金を確
認する手段も存することからすれば,国民生活センターにアクセスインタ
ーネットの利用による通信料金の高額化に関する苦情が相当数寄せられて
いること等を考慮しても,上記サービスの導入が,本件契約上の義務とし
て要求されているとまでは認めることができない。
6原告の通信料金が高額化した段階における被告の情報提供義務違反の有無
について
(1)前記第3,5は,未だ利用者がアクセスインターネットを利用する以
前の段階において,被告に契約上課される通信料金に関する説明義務ない
し情報提供義務であるが,これに対し,一旦,利用者がアクセスインター
ネットの利用を開始し,通信料金が高額化した後の段階においては,利用
者に生じる予測外の財産的負担の拡大の防止という観点から,情報提供の
必要性の程度が高まるといえるのであり,この段階において被告に課され
る情報提供義務の有無については,別途検討する必要がある。
(2)ア前記認定説示のとおり,本件定型契約は,利用者が認識しないうち
に高額な通信料金を発生させる危険性を内包するものであり,特に,ア
クセスインターネットは,通信情報量が大きくなりがちであることから,
利用料金の高額化のおそれが高い。そして,同定型契約におけるサービ
ス内容は多種多様であり,かつ,利用者は,契約締結時から一定期間経
過後に初めてアクセスインターネットを利用する意思が生じることも想
定されることからすれば,利用者が,契約締結時等における説明や情報
提供の内容をサービス利用時点においては失念したり,契約締結時に交
付されたリーフレット等の説明書類等が既に廃棄される等して手元にな
いために,上記説明書類等や被告ウェブサイトにおける説明書き等を確
認しないままにサービスの利用を開始することも予想されるところであ
る。
さらに,利用者としては,利用料金照会,パケットメーター及び一定
額通知サービス等の被告が提供するサービスを利用することにより,パ
ケット通信料金を確認することができるものの,①パケットメーター及
び一定額通知サービスは,利用者が自ら被告ウェブサイトを通じて申込
みやインストールをすることを要するし,利用料金照会についても,被
告ウェブサイトにアクセスをしなければ料金の確認ができないこと,②
これらのサービス等は,被告のウェブサイトやカタログにおいて紹介さ
れているものの,被告が,契約者に対し,口頭や書面等を通じ,アクセ
スインターネットを利用する際等に上記サービスを利用するよう具体的
に働き掛けたことを認めるに足りる証拠はなく,上記各サービスはカタ
ログや被告ウェブサイトにおいて紹介がされているのみであることから
すれば,上記各サービス等の存在について認識がない利用者や,サービ
スの内容自体は認識していても,これらをアクセスインターネットによ
る通信の際に活用しない利用者がいることも十分に予測されるところで
ある(なお,被告がウェブサイトにおいて平成19年4月27日付けで
アクセスインターネットを利用する際に,パケットメーターを利用する
よう告知したことは前記認定のとおりであるが,上記ウェブページが本
件通信時にも被告のウェブサイトに残されていたことを認めるべき証拠
はない。)。そして,このことは,前記認定のとおり,平成19年ころの
時点において,相当数のアクセスインターネットの利用者が,国民生活
センター等に,通信料金が予想外に高額になったことにつき苦情・相談
等を寄せていたことからも明らかである。また,前記のとおり,被告は,
本件携帯電話にアクセスインターネットの利用の際に必要となるソフト
ウェアをインストールするためのCD-ROMを同梱し,市販のUSB
ケーブルを用いることによりアクセスインターネットを利用することの
できる状態を作出している。そのうえ,被告は,平成20年2月に高額
請求アラートを開始し,顧客に発生したパケット通信料金を日々把握し
ていることからすれば,本件通信時において,原告がアクセスインター
ネットを利用したことにより発生したパケット通信料金の額について,
容易に把握することができる立場にあったということができるし,原告
のパケット通信料金が一定額を超過した場合にこれを通知することを
要求することとしても,被告に過大な負担を与えるともいえない。
イ以上に掲げた諸事情を考慮すれば,本件通信時において,原告のアク
セスインターネットの利用により高額なパケット通信料金が発生してお
り,それが原告の誤解や,不注意に基づくものであることが被告におい
ても容易に認識し得る場合においては,被告は,本件契約上の付随義務
として,原告の予測外の通信料金の発生拡大を防止するため,上記パケ
ット通信料金が発生した事実をメールその他の手段により原告に告知し
て注意喚起をする義務を負うと解するのが相当である。
(3)そこで,次に,本件において,被告が,原告に予測を超える高額の通
信料金が発生したことを容易に認識することができたか否かにつき,検討
する。
ア前記認定のとおり,平成19年に国民生活センターに寄せられた相談
事例の中の最新のもの50件のうち,アクセスインターネットの利用に
よる通信料金の高額化に関する相談が8件(16%)あり,総務省が,
平成20年5月に行った前記第3,1,(8),カの発表からも,平成1
9年ころの時点において,インターネット接続による通信料金の高額化
に関する相談が相当数存在したことが窺われる。そして,被告の契約者
のうちアクセスインターネットを利用する者の割合が極めて低いことを
考慮すると,アクセスインターネットを利用した者のうち,予測外に通
信料金が高額化した者の割合は相当高いといえる。また,①被告は,平
成19年1月以降,順次,カタログ掲載のアクセスインターネットを含
むパケットし放題の対象外となるサービスに関する注意書きを改訂して,
消費者に見やすいものとするよう文字の大きさ等を変更し,②平成19
年4月5日に,国民生活センターが,被告に対し,アクセスインターネ
ットの通信料金の高額化に関する対策の申入れを行って以降は,アクセ
スインターネットの利用に関する注意書きが記載されたリーフレットを
携帯電話端末の個装箱へ同梱することを開始するとともに,一部機種に
つきUSBケーブルの携帯電話端末への同梱を取り止め,③被告の販売
店に,アクセスインターネットがパケットし放題の対象外であることの
説明を顧客に行うよう指示している。さらに,④平成20年3月におい
ては,販売代理店等に,アクセスインターネットの利用者等が存するこ
とから,パケットし放題に加入している契約者にも,高額請求アラート
に関する案内をするよう指示を出している。したがって,被告は,遅く
とも,本件通信時において,アクセスインターネットの利用により,通
信料金が予想外に高額化した契約者が相当数存在し,予想外に高額な通
信料の請求を顧客が受けたとしてクレームとなるケースを減らすべくよ
り一層の対処が必要であるとの認識を有していたと推認できる。
イそして,①被告の契約者のデータARPUは,平成20年度において
は1740円,平成21年度においては2020円であり,原告の本件
通信時までのメールの送受信を除く月々のパケット通信料金は,いずれ
も3000円に満たない額であったこと,②パケットし放題の上限料金
が月額4000円台に設定されていることから,どれほど高く見積もっ
ても,短期間のインターネット通信に係る通信料金として,その10倍
以上の5万円を超える料金を支払うことを認識しつつ,あえて同サービ
スを利用する契約者はほとんどいないと考えられること(前記第3,1,
(8),ウ,⑤認定の相談者は,1回約7時間の利用で約7万円の料金負
担を覚悟していたことになるが,例外的な少数者と見られる。),③被告
は,平成20年2月,高額請求アラートを開始し,その基準額を10万
円と設定したものの,そのわずか3か月後の同年5月には基準値を5万
円に変更しており,その間に,10万円で設定したアラートを受けて,
高額すぎると苦情を被告に述べた顧客が少なからずいたことが推認され,
なお,その後,さらに基準額を変更し,現在においては3万円に設定し
ていること,④被告は,高額請求アラートを開始した後である本件通信
時点において,原告の累積パケット通信料金を日々把握していたこと等
を考慮すれば,被告は,遅くとも,原告のアクセスインターネットの利
用によるパケット通信料金が5万円を超過した平成20年3月30日午
後8時の段階において,原告が,誤解や不注意に基づきアクセスインタ
ーネットを利用し,通信料金が予測外に高額化したことを容易に認識し
得たといえる。
ウしたがって,被告が原告に発生したパケット通信料金を把握し,通知
をするために要する時間を考慮しても,遅くとも,平成20年3月31
日午後7時までには,被告は,原告に対し,パケット通信料金が5万円
を超過していることをメールその他の方法により通知することにより,
原告に通信料金の高額化に関する注意喚起をする義務があったというべ
きである。
(4)被告は,上記義務があるにもかかわらず,原告の累積パケット通信料
金が10万円を超過した翌日である平成20年4月1日になって初めて,
その旨の警告メールを原告に送信していることからすれば,被告には,上
記義務違反があるといえる。そして,前記認定のとおり,原告は,同年4
月1日,上記警告メールを見てパケット通信料金が予測外に高額になった
と考え,直ちにアクセスインターネットの利用を中止していること等から
すれば,被告が,同年3月31日午後7時までに,累積パケット通信料金
が5万円を超過した旨の電子メールを送信するなどして上記債務を履行し
ていれば,原告は直ちにアクセスインターネットの利用を中止したものと
認められ,同日午後7時以降に発生した通信料金相当額は被告の債務不履
行と相当因果関係のある損害と認められる。その額は,別紙「通信料金一
覧表」により,15万3055円と認めるのが相当である(なお,電子メ
ールを送信しても原告が実際にこれを閲覧しなければ情報提供としての実
効性を欠き,同月31日午後7時以降に発生した通信料金のすべてを上記
債務不履行と相当因果関係のある損害として認めることはできないとも考
えられる。しかしながら,原告は,特段の事情のない限り,携帯電話端末
を用いてアクセスインターネットを利用する際に,同携帯電話の画面を確
認し,送信されてきた電子メールを確認することを期待することができる
と解することができるのであり,原告がアクセスインターネットを利用す
る以前の時点において,被告が,上記内容を通知する電子メールの送信を
していれば,原告はこれを閲覧し,直ちに同サービスの利用を中止したと
解することができる。したがって,この点は上記判断を左右しないという
べきである。)
(5)これに対し,被告は,①パケット通信のように従量制の料金システム
が適用されるサービスにおいては,どの程度の量のサービスを利用するか
は,利用者が自ら判断,管理すべきものであり,被告に高額なパケット料
金の発生を防止する義務など存在しない,②仮にそのような義務が被告に
あるとしても,被告は,利用料金照会,一定額通知サービス,パケットメ
ーター等のサービスを提供し,原告のパケット通信料金が予測外に高額化
しないよう十分な措置を尽くしており,被告に義務違反はない旨主張する。
しかしながら,本件通信時において,被告に,原告のパケット通信料金
の高額化について注意喚起する情報提供義務が認められることは前記説示
のとおりであり,被告の上記①の主張は,採用できない。また,利用者は,
利用料金照会,パケットメーター及び一定額通知サービス等の被告が提供
するサービス若しくはソフトウェアを利用することにより,パケット通信
料金を確認することができるものの,これらのサービス等を認識していな
い契約者が存することも十分に考えられ,高額料金の発生防止のための実
効性が十分とはいい難いことは前記説示のとおりである。したがって,被
告の上記②の主張も,採用できない。
(6)また,原告は,被告はアクセスインターネットに関し通信料金の上限
を設けた料金プランを原告に提供すべきであった旨主張するが,通信料金
の上限額を設けるか否かは,契約者の動向,当該サービスの内容,価格,
他の料金プランとの関係等,諸般の事情を考慮し,被告の裁量的な経営判
断に委ねられるべき事柄であり,被告に上記のような料金プランを定める
義務があったということはできないから,原告の上記主張は採用できない。
7過失相殺について
原告は,被告が前記第3,5説示の説明・情報提供義務を履行したにもか
かわらず,アクセスインターネットを利用した場合の通信料金について,被
告に問い合わせをしたり,利用料金照会等のサービスを利用してパケット通
信料金の確認をすることなく,5日間にわたり,アクセスインターネットの
利用を継続した。原告は,本件通信時に至るまでの間,アクセスインターネ
ットを利用したことがなく,ただ,パケット通信量に従い,通信料金が発生
することは知悉し,携帯サイトの閲覧よりアクセスインターネットによるP
Cサイト等の閲覧の方が画面に表示される情報量が大きいことも認識してい
た(原告本人)のであるから,アクセスインターネットの利用にあたり,通
信料金の高額化については十分な注意を払うべきであったといえ,被告が相
当な方法により利用可能な程度の説明,広報を行い設定していたパケットメ
ーターや料金照会制度を利用し,短い間隔で累積パケット通信料金額を把握
しておくべきであったのに,これらを一切行わなかった点で過失があり,こ
の過失が原告の損害拡大に一定程度寄与しているというべきである。原告は,
インターネットカフェにおける料金との比較から,本件通信により発生する
パケット通信料金は高くてもせいぜい1万円程度であろうと予測していた旨
主張するが,インターネットカフェと本件契約では,提供されるサービスの
内容や,料金の体系等に著しい差異があることは明らかであり,インターネ
ットカフェにおける料金を基準に,本件通信によるパケット通信料金を予測
することは合理的な推測とは到底いえない。
以上の事情等を総合的に考慮すると,原告の側にも,本件通信に係るパケ
ット通信料金が高額化したことにつき過失があるというべきであり,被告の
債務不履行により発生した損害につき,3割の過失相殺を認めるのが相当で
ある。
したがって,被告が,原告に対し,上記債務不履行に基づき賠償責任を負
う損害額は,10万7138円(1円未満切り捨て。)となる。
計算式:153,055×(1-0.3)=107,138(1円未満切り捨て。)
8結論
以上によれば,原告の本訴のうち,本件契約に基づく料金高額化への注意
喚起のための情報提供義務の不履行による損害賠償請求は,10万7138
円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成2
2年9月22日から支払済みまで商事法定利率年6分の範囲内である年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,
上記債務不履行に基づくその余の請求,並びに上記認容額を超える額の支払
を求めるアクセスインターネットの通信料金に関する説明義務違反を理由と
する請求及び不当利得返還請求はいずれも理由がないからこれらを棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官佐藤明
裁判官栁本つとむ
裁判官板東純
(別紙省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛