弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上および法律上の陳述ならびに立証関係は、左記のほか原判決
の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
 (控訴代理人の陳述)
 一、 国税徴収法第六三条には「徴収職員は債権を差し押えるときは、その全額
を差し押えなければならない」と規定され、第六七条第一項には「徴収職員は、差
し押えた金銭の取立をすることができる」とされていることからすれば、法律上は
債権の全額差押を原則とし、差し押えた債権は原則として全額につき取立権が存
し、また取り立てなければならないが、徴収職員において一部の取立で十分目的を
達しうると認めたときは、一部の取立もすることができると解すべきである。そし
て、本件滞納処分による差押債権は第三債務者によつて任意履行されたため強制執
行するまでに至らなかつたが、徴収職員が第三債務者に対し支払を求めた当時にお
いては、滞納者に対する他の債権者から交付要求がなされるか、などの滞納者につ
いての事情、ならびに第三債務者が任意履わに応ずるか、強制執行するまでに至る
か、他から配当要求が出るかなどの第三債務者についての事情は、徴収職員には全
く不明であつたのであるから、全額取立の必要性があつたのである。
 二、 次に、国税徴収法第五五条第三号は、滞納処分開始の事実を仮差押の執行
機関に通知すべき旨を規定しているに止まるから、通知の欠缺をもつてたゞちに被
控訴人の権利行使の機会を奪つたとすることはできない。仮にそうだとしても、通
知の欠缺と被控訴人主張の損害との間には因果関係がない。すなわち、被控訴人の
代理人たる石谷弁護士は、本件滞納処分開始の事実および債権取立の事実を知り、
その配当に先だつて徴収職員との間で配当について種々協議しており、従つて本件
滞納金充当後の残余金等に対し被控訴人の権利を行使する機会は十分あつたのに、
これを行使しなかつたからである。 三、 仮差押と滞納処分が競合した場合にお
ける仮差押の効力については、滞納処分による差押だけではたゞちに消滅するもの
でないことは、もちろんであるが、仮差押権利者は国税徴収法上ては交付要求をす
ることができないことや、同法第一二九条第三項が「配当した金銭に残余があると
きは、その残余の金銭は滞納者に交付する」と規定していること、および第一四〇
条の趣旨にかんがみれば、仮差押は滞納処分による目的物の換価ないし取立によつ
て当然に消滅すると解すべきであるから、被控訴人の本件仮差押は控訴人が本件取
立によつて得た金銭に対しては、なんらの効力も及ばないものである。 四、 ま
た、徴収職員が滞納金充当後の残余金中、二九八、二八八円を訴外A外一六名に支
払つたのは、右Aらが滞納者Bの代理人であつたことから国税徴収法第一二九条第
三項にのつとつて行つたのであり、また愛知県に九四、七一二円を交付したのは右
残余金につき滞納者に交付する前に控訴人を第三債務者とする差押があり、支払を
求められたからなしたものであつて、以上いずれも適法である。
 五、 本件滞納処分については、徴収職員に過失はなく、また訴外Bは本件仮差
押の対象となつた債権以外にも不動産や給料債権を有し、さらに半田市に対し工事
請負代金債権三、三六〇、〇〇〇円を有していたのであり、このうち四五四、七〇
〇円は徴収職員において取り立てたが、まだ残額二、九〇五、三〇〇円が存在した
のであるから、被控訴人はこれに対して権利行使をすれば十分目的を達することが
でき、従つて本件滞納処分によりたゞちに損害をこうむつたとすることはできな
い。
 六、 仮に、徴収職員が国税徴収法第五五条による通知をしなかつたことと本件
損害との間に因果関係があり、損害が生じたとしても、その損害額の算定について
は、前記九四、七一二円は訴外Bの県税滞納処分のため差押をうけ支払を求められ
たために、国の徴収職員が愛知県知多地方事務所係員に支払つたものであるから、
これを本件の損害額から控除すべきであり、さらに、仮に徴収職員がBの代理人ら
に残余金二九八、二八八円を交付したことに過失があつたとしても、被控訴人は徴
収職員が右残余金を交付する以前に本件債権取立の事実を知つていたのであり、右
残余金に対して再度仮差押をする機会は十分にあつたのに、これを行わなかつたの
は被控訴人の過失によるものであるから、本件損害額の認定については相当の過失
相殺が行われるべきである。
 七、 なお、原判決事実摘示における控訴人の答弁中(原判決五枚目裏九行目か
ら一〇行目にかけて)、「徴収法第五五条は所謂訓示規定に過ぎず」とあるが、控
訴人は同部分を「徴収法第五五条は仮差押の目的債権に対して滞納処分が開始され
た事実を執行裁判所に注意的に知らせるための規定に過ぎないから」と主張する。
 (立証関係)
 控訴代理人は、乙第五号証の一、二を提出し、証人B、Cの各証言を援用し、被
控訴代理人において右乙号各証の成立は不知と述べた。
         理    由
 一、 被控訴人が訴外Bに対する売掛代金等債権金三八七、〇七九円の執行を保
全するため、右Bの訴外半田市に対して有する新居公民館新築工事の請負代金債権
金三、三六〇、〇〇〇円のうち三八七、〇七九円について名古屋地方裁判所半田支
部に債権仮差押決定の申請をし、昭和三七年三月一五日その旨の債権仮差押決定が
なされ、右決定が翌一六日第三債務者たる半田市に送達されたこと、控訴人(国の
機関たる愛知労働基準局徴収職員)は同年四月九日付で右仮差押債権を含め、当時
弁済期が到来した右請負代金債権中の金四五四、七〇〇円全額につきBが滞納した
労働者災害補償保険料(以下、労災保険料という)の徴収のため、国税徴収法に基
づく滞納処分による差押をしたうえ同月二〇日右滞納処分による差押債権の全額を
第三債務者たる半田市から取り立てたこと、当時Bの労災保険料の滞納額が六一、
七〇〇円であつたこと、当時控訴人は前記仮差押の執行裁判所に国税徴収法第五五
条による滞納処分の通知をしなかつたこと、控訴人は右滞納処分により取り立てた
四五四、七〇〇円のうち六一、七〇〇円をBの滞納労災保険料の徴収に充当し、残
金のうち二九八、二八八円を訴外Aほか一六名に交付し、さらに残金九四、七一二
円をBの地方税滞納金への充当として訴外愛知県知多地方事務所に交付したこと
は、いずれも当事者間に争いがない。
 そして成立に争いのない甲第二、第三号証の各一、二によれば、本件仮差押の本
案訴訟たる被控訴人よりBに対する名古屋地方裁判所半田支部昭和三七年(ワ)第
一五号売掛代金等請求事件において、同年六月一一日Bに対し右売掛代金等債権金
三八七、〇七九円およびこれに対する遅延損害金の支払を命ずる旨の被控訴人勝訴
の判決があり、右判決が同月二七日確定したことが認められ、右認定を左右するに
足る証拠はない。
 二、 まず、被控訴人は、控訴人が本件労災保険料の滞納処分手続において、自
己の債権額以上の債権を差し押えたことは違法であると主張するからこの点につい
て判断する。労働者災害補償保険法第三一条第四項によれば、労災保険料の徴収に
ついては国税滞納処分の例によつてこれを処分することになつているが、国税徴収
法第六三条によれば、徴収職員が債権を差し押えるときは原則としてその全額を差
し押えることを要し、例外として、徴収職員において全額差押の必要がないと認め
るときはその一部を差し押えることができる旨規定している。これは、国税徴収の
確実を期するため、原則として徴収職員をして徴収すべき滞納税額にかゝわらずこ
れを超過する当該債権全額の差押をなさしめることとし、たゞ徴収職員において当
該債権の実質的な価値を判断しその一部を以て滞納税額の徴収に十分であると考え
た場合は例外的にその一部を差し押えることができることとしたのであつて、いわ
ば当該債権を全部差し押えるか一部差し押えるかの問題は徴収職員の自由裁量に委
かせられるところであつて、仮にその判断に誤りがあつてもそれは単に不当である
というに止まつて直ちにこれを違法ということはできない本件において控訴人がB
の滞納労災保険料六一、七〇〇円の徴収のため滞納処分として、同人が第三債務者
たる半田市に対し有する弁済期の到来した本件仮差押債権すなわち前記請負代金債
権金四五四、七〇〇円全額を差し押えたことは、当該徴収職員がその自由裁量によ
り全額差押えの必要があると判断した結果であつて、仮に半田市の弁済能力の点か
らみて右労災保険料と同額の債権額を差し押えることで必要にしてかつ十分であつ
たのではないかとの見解が成りたつとしても右全額差押を目して違法であるという
ことはできない。そして他に特段の事情が存しないから徴収職員のなした右全額差
押は適法であるものというべきである。
 三、 次に被控訴人は、控訴人が本件債権を差し押えながら国税徴収法第五五条
により本件仮差押の執行裁判所である名古屋地方裁判所半田支部に対しその旨通知
しなかつたのは違法で本件滞納処分は無効であり、またこの通知の欠缺により被控
訴人をして執るべき保全手段の機会を失わせ損害を生ぜしめたと主張するからこの
点について判断する。
 国税徴収法第五五条は仮差押がなされている財産につき競合的に滞納処分による
差押をしたときは、徴収職員は仮差押をした執行裁判所に対し滞納処分による差押
その他必要な事項を通知しなければならない旨規定している。これは主として仮差
押債権者に対してその権利行使の機会を与えることを目的とするものであつて、控
訴人がこの通知を怠つたことは違法であるが同条は滞納処分の効力に関する規定で
はないから、同条の通知の欠缺だけでは滞納処分の効力に影響を及ぼすものではな
い。また、仮差押債権者たる被控訴人が右通知の欠缺により具体的に執るべき保全
手段の機会を失つたという点は本件全証拠によるもこれを認めがたい。もつとも、
成立に争いのない甲第五、第七号証当審証人Cの証言により真正に成立したものと
認められる乙第五号証の二、原審および当審証人Cの証言ならびに弁論の全趣旨を
合せて考えると、控訴人が滞納処分による差押をした直後の昭和三七年四月一三日
第三債務者たる半田市は控訴人に対し被控訴人外一名から既に右差押にかかる債権
の一部について仮差押がなされている旨の通知をし、控訴人においてこれを了知し
たにもかかわらず控訴人は執行裁判所たる名古屋地方裁判所半田支部に対し国税徴
収法第五五条の通知をしなかつたが、被控訴人は控訴人の右滞納処分による差押後
に仮差押の被担保債権について前示確定判決による債務名義を得たこと、被控訴人
はおそくとも控訴人が本件滞納処分による差押債権全額の取立をして労災保険滞納
金を超える取立をした日である昭和三七年四月二〇日本件滞納処分による差押およ
び取立の事実を知り、その代理人たる石谷弁護士を通じ徴収職員との間に種々協議
をしたか、その協議は円満解決に至らなかつたことが認められ、これらの事実に前
示争いのない事実を合せ考えると、被控訴人は右四月二〇日からおそくとも控訴人
がその超過取立金中の二九八、二八八円を訴外A外一六名に交付した日である同年
五月七日までの間において、右超過取立金についてさらに民事訴訟法上の保全手続
を採りうべきであつたのにこれをしなかつたものというべきところ、控訴人が執行
裁判所に同条の通知をなすべき時期より被控訴人が右滞納処分による差押を現実に
知つた時期までの間における執行裁判所への通知欠缺と被控訴人主張の損害との間
に、右通知欠缺による採りうべき手段の喪失により発生した相当因果関係があるこ
とについては、被控訴人の立証はもちろん本件の全証拠によるもこれを認めがた
く、そのほかに右通知の欠缺によつて被控訴人主張の損害が発生したことを認める
に足る証拠はないから、結局、右通知の欠缺を前提とする被控訴人の主張は、いず
れも失当として採用することができない。
 <要旨>四、 さらに、被控訴人は、控訴人が前記労災保険料および差押手続費用
を超過して本件差押債権の全額を取り立てたことは違法であつて、仮差押権
者たる被控訴人の権利を侵害したものであると主張するからこの点について検討す
る。
 国税徴収法第一四〇条によれば、滞納者の財産について仮差押がされていても当
該財産について滞納処分としての差押後の処分は何らの影響を受けることなくこれ
を続行することができる旨規定されており、滞納処分手続において滞納者の滞納税
額にかかわらずこれに超過する債権全額の差押をなしうることは前記説示のとおり
である。しかし、滞納処分の執行において滞納金およびその手続費用を超えて差押
債権の全額につき金銭を取り立てることについては問題がある。
 国税徴収法第六七条第一項によれば、徴収職員は差し押えた債権の取立をするこ
とができる旨規定しているので徴収職員が滞納額を超えて債権全額の差押をしたと
きでも、その差し押えた債権について取立権を取得しその全額を取り立てることが
できると解すべき余地があるようにも考えられないではないがこの見解には容易に
賛成しがたい。もちろん、差押の対象となつた債権がいわゆる不可分債権であるよ
うな場合は全額取立によらざるをえないが、その債権が金銭の給付を内容とする可
分債権である場合、第三債務者が任意に滞納金および手続費用に相当する金銭の取
立に応じたときは、滞納税徴収の目的は達せられ租税債は消滅するのであるから、
取立時において滞納金に優先する債権について当該徴収職員に対し、交付要求され
ておるとか或は第三債務者が任意支払に応じないとか特段の事情が存在する場合は
格別、かゝる事情の存在しない場合には差押債権全額を取り立てるべき具体的必要
性を欠き、その超過部分の差押を解除すべきであるにかゝわらず、あえてこの超過
部分を滞納処分として取り立てることは違法であると解すべきであり、このことは
国税徴収法第六七条第三項、および同法第七九条第一項第一号の趣旨に徴しても明
らかである。
 これを本件についてみるに、前示争いのない事実によれば、控訴人が本件差押債
権につき昭和三七年四月二〇日第三債務者たる半田市より差押債権の全額に相当す
る金銭を受領して取立を終了した当時においては、控訴人の有する滞納労災保険料
に優先する債権の交付要求その他配当要求が徴収職員に対しなされておらず、半田
市の弁済能力および任意支払の態度よりして本件滞納金六一、七〇〇円と同額の金
銭を取り立てることが可能であり、本件滞納処分はすべてその目的を達しうる状態
にあつた(また取立後の経緯よりみても右六一、七〇〇円の取立による滞納金への
充当により本件滞納処分は現実にその目的を達成し終了した)のであるから、控訴
人としては差押債権金四五四、七〇〇円中、滞納金六一、七〇〇円を取り立てれば
必要にして十分であり、右金員以上の額を取り立てるに必要な特段の事情がなかつ
たのであるから、その超過部分の差押を解除すべきであるのにこれをなさず、あえ
て徴収すべき金員の七倍余に相当する金員である差押債権全額につき全額金銭を取
り立てたのであるから、右滞納額を超える部分の取立は違法であるといわねばなら
ない。
 五、 従つて控訴人は、右違法取立により被控訴人が本件仮差押をした債権金三
八七、〇〇〇円中、右滞納金六一、七〇〇円を控除した三二五、三七九円の債権に
つき仮差押の効力を消滅させ、よつて被控訴人は仮差押による権利の侵害をうけた
ものであるから、滞納金を超える右違法取立は公権力の行使にあたる国の機関たる
愛知労働基準局の徴収職員が、徴収手続に関する法の誤解またはその手続の不知に
もとづく職務執行上の過失によつて、被控訴人の本件仮差押による権利を侵害した
ものというべきであり、国たる控訴人は被控訴人の権利に対する右違法侵害によつ
て生じた損害を賠償すべき義務を負わねはならないことになる。
 六、 そこで、その損害の有無について判断する。債権の仮差押による権利は、
将来の強制執行を予想しこれを保全するためにあらかじめ、債務者の債権を仮に差
し押えて債務者がその債権を処分したり第三債務者がその履行をしたりするのを禁
止しておくことによつて得られる権利であつて、その権利の侵害滅失による損害
は、最終的には、仮差押が強制執行に移行しその執行における配当が行われた場
合、仮差押による被担保債権中の弁済をうけうべき金員につき、弁済をうけえなく
なつたことによる損害であつて、その強制執行が終了してみないと確定しないけれ
ども、この理はその強制執行終了以前の権利侵害時において、困難ではあるにして
も、弁済をうけうべき金員の喪失による損害額を計算することを排斥するものでは
ないと解すへきである。しかし、本件において成立に争いのない甲第二号証の一、
第五、第七ないし第九号証、乙第一、第二号証、原審および当審正人C(一部)、
当審証人Bの各証言を合せ考えると、控訴人が本件取立をした昭和三七年四月二〇
日当時、本件仮差押のなされた訴外Bの半田市に対して有する新居公民館新築工事
の請負代金債権については、被控訴人のほかに訴外合資会社大嶽電気商会が債権額
一九八、五〇〇円の仮差押をしていたこと、被控訴人は当時Bに対し売掛代金債権
および約束手形金債権合計三八七、〇七九円を有していたこと、Bは当時弁済期の
到来した前示控訴人差押の請負代金債権金四五四、七〇〇円のほか訴外未収債権約
二〇万円および時価約一、〇〇〇万円の土地建物を所有していたか、他方、訴外A
外一六名に対し支払うべきいわゆる先取特権を有する給料債務金二九八、二八八円
(債務名義存在)および愛知県に対し地方税滞納金九四、七一二円を負担し、また
右土地建物には被担保債権約一、〇〇〇万円の根抵当権が設定されている等負債約
二、〇〇〇万円近く存在したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はな
い。
 以上の事実によつて、本件仮差押債権につき控訴人の違法取立がなく被控訴人に
おいて強制執行をしたものと仮定した場合において、被控訴人が右仮差押債権の被
担保債権金三八七、〇七九円について弁済をうけうべき金額を考えるに、Bは控訴
人の取立時において地方税滞納金九四、七一二円およびA外一六名に対する弁済期
の到来した給料債務金二九八、二八八円を負担していたから、被控訴人の前示債権
に優先するこれらの債権について右強制執行は配当要求その他の方広により被控訴
人の最終的な執行満足を妨げられることが予見されるところ、もしこれらの優先債
権が配当要求その他の方法によつて右強制執行に介入したならば、これらの優先債
権の額は被控訴人の本件仮差押によつて保全された債権額よりも多額であるから、
たとえ右強制執行をしたとしても、その効果を奏せず被控訴人の被担保債権の回収
は得られないことに帰する。そして以上のほかに、被控訴人の有する被担保債権が
本件仮差押債権につき強制執行をした場合において弁済をうけうべき具体的確実性
ないし確定可能性およびその数額の存在については、被控訴人の立証だけではこれ
を認めかたく、そのほかにこれを認めるに足る証拠はない。そうだとすれば、本件
仮差押による権利の違法侵害にもとづく被控訴人の損害は、結局、証明がないこと
に帰するものというべきである。
 七、 以上の理由により、被控訴人が本件仮差押による権利につき控訴人の違法
侵害により損害をうけたことを前提とする本訴請求は、その余の点(遅延損害金)
について判断するまでもなく失当であるから、棄却をまぬがれない。
 よつて、右の趣旨と異なる原判決は一部失当に帰するから、これを取消し被控訴
人の請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第
八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 渡辺門偉男 裁判官 村上博巳)

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