弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
     被告人を懲役3年に処する。
     この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
理     由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,平成6年4月18日,夫Aと婚姻届出をし,平成8年2月10日に長女を,平
成12年9月13日に長男Bをそれぞれ出産した。
 被告人は,長男Bを出産後,実家で養生し,同年9月終わりころ自宅に戻ったが,10
月中旬ころの1か月検診でBの体重の増加が大きすぎるので母乳だけにするように指
摘されたためミルクの併用をやめてみたものの,Bがぐずって泣き止まない状態が続く
などして手がかかり,長女の世話にも手が回らなくなった上,11月末ころから母乳の出
が悪くなり,ミルクを与える量や時間などの育児の方法に悩み次第に自信を喪失し,Bと
長女を連れて,実母を頼って頻繁に里帰りしていたが,同年12月終わりころから,Bを
連れて実家から自宅へ帰ろうとすると,自宅に帰ってからBが泣いたときどうしたらよい
か不安で手足が震えるようになり,平成13年1月5日,母親の勧めでC医科大学病院精
神科を受診し,うつ病と診断された。
 被告人は,平成13年1月11日ころからBと長女と共に実家に滞在していたが,長女を
保育園に通園させるため自宅へ帰らなければいけないとか,そろそろ両親に頼らず自
分1人で子育てをしなければならないなどと考える反面,帰宅後の育児に対して不安を
感じていた上,同月16日には定期検診で離乳食開始の指導を受け,ますます不安を募
らせた。
(犯罪事実)
 被告人は,平成13年1月17日午前8時ころ,目覚めた後に布団の中で,今日こそ自
宅に帰らなければ,いつまでも両親に頼っていられない,長女を保育園に連れて行かな
ければいけないなどと考えて追い詰められた気持ちになる一方で,自宅に戻った後の育
児に対する不安やあせりが募ってゆき,咄嗟に,Bがいなくなればいいと思い,被告人
の隣で就寝していたBを殺害しようと決意し,a市b区cd丁目e番地fD住宅g号棟h号室の
実父F方北側6畳間において,長男B(当時4か月)に対し,殺意をもって,その前頸部を
左手の母指及び示指等で圧迫し,よって,同月18日午前7時54分ころ,b区ij丁目k番l
号所在のC医科大学病院救命救急・熱傷センターにおいて,同児を頸部圧迫による低
酸素性脳症により死亡させて殺害したものである。
(証拠)省略
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,声を出すことのできなかった被告人に代わって被告人の夫が本件犯行を
医療関係者に告げたことから被告人の緊急逮捕に至ったものであり,自首が成立すると
主張する。
 たしかに,被告人は,警察官が病院に臨場する前に,病院の待合室で,夫に対して自
らの犯行を打ち明けたことは認められるが,被告人は,夫に対して捜査機関への申告を
依頼したものではなく,また,夫が捜査機関に申告するのが当然であったともいえない
から,被告人が,夫を介し,捜査機関に対して犯罪事実を申告して自首したものとは認
められない。
(法令の適用)
罰条刑法199条
刑種の選択有期懲役刑
刑の執行猶予同法25条1項
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 被告人は,育児の行き詰まりから,長男Bへの愛情が感じられなくなると共にその育児
を拒否する気持ちが高じ,判示の経緯で,いたいけな4か月のわが子の生命を奪ったも
のであり,その動機はあまりに短絡的であるといわざるを得ない。
 また,その態様は,生後間もなく,自らの意思を表明することもままならないBに対し,
母親として保護し,養育すべき立場にあった被告人において,顔にバスタオルをかぶ
せ,その前頸部を左手の親指と人差し指で掴んだまま,脈を感じなくなるまで圧迫し続
けたというものであり,最も信頼すべき実母の横で安心して就寝していた最中に,このよ
うな態様で殺害されたBはまことに哀れである。
 Bの春秋に富む将来の人生が失われたその結果の重大さはいうまでもなく,Bの出生
を喜び,その成長を楽しみにしていた被告人の夫や親族等に与えた悲しみも計り知れな
いものがある。このようにみてくると,被告人の刑事責任はまことに重大といわなければ
ならない。
 しかしながら,被告人は,産後のうつ病の症状の下で突発的に本件犯行に及んだもの
であって,恒常的ないわゆる「幼児虐待」があったとは認められないばかりか,本件まで
は,被告人なりにBの育児に努め,Bの育児を真剣に考え,それを1人で抱え込んでしま
った被告人の生真面目さが本件を引き起こしたとみられること,被告人には前科前歴が
なく,これまで平穏に暮らしてきたこと,本件について十分反省していること,夫と幼い長
女が被告人の帰りを待っており,被告人に実刑を科すことが,残された長女の精神面に
計り知れない悪影響を与えると考えられること,被告人の両親による監督も今まで以上
に期待できることなど被告人に有利な又は酌むべき事情を考慮すれば,被告人には主
文のとおりの刑を科し,その執行を猶予するのが相当と判断した。
(求刑・懲役4年)
平成13年9月19日
横浜地方裁判所川崎支部刑事部
 裁判長裁判官   中島   肇
          裁判官   髙木  順子
          裁判官   下馬場 直志

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