弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決中控訴人a、同b及び同cに関する部分を次のとおり変更する。
1 控訴人a、同b及び同cの訴えのうち更正の取消請求に係る部分をいずれも却
下する。
2 右控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
二 控訴人dの控訴を棄却する。
三 訴訟費用中、控訴人a、同b及び同cと被控訴人との間に生じたものは第一、
二審とも右控訴人らの負担とし、控訴人dと被控訴人との間に生じた控訴費用は同
控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が、控訴人らの平成四年一二月二一日相続開始(被相続人亡e)に係
る相続税につき、控訴人cに対し平成六年一二月七日付けで、その余の控訴人らに
対し同月一日付けでした各更正(ただし、いずれも平成七年四月二七日付けでされ
た異議決定により一部取り消され、かつ、控訴人dについては平成一〇年六月三〇
日付けでされた再更正により減額された後のもの)のうち控訴人dについては課税
価格五四七三万八〇〇〇円、納付すべき税額四九九万九六〇〇円を、同aについて
は課税価格七〇八七万二〇〇〇円、納付すべき税額六四七万三二〇〇円を、同bに
ついては課税価格八一九〇万一〇〇〇円、納付すべき税額七四八万〇六〇〇円を、
同cについては課税価格二二七二万四〇〇〇円、納付すべき税額二〇七万五五〇〇
円をそれぞれ超える部分及び各過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成七
年四月二七日付けでされた異議決定により一部取り消され、かつ、控訴人dについ
ては平成一〇年六月三〇日付けでされた変更決定により減額された後のもの)をい
ずれも取り消す。
(当審において、控訴人dは右のように請求を減縮し、その余の控訴人らは更正の
取消請求につき右のように請求を拡張した。)
第二 事案の概要
一 事案の概要は、以下のとおり付加、訂正をし、次項のとおり本案前の争点につ
いての主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄中「第二 事案の概要」
(ただし、四を除く。)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決五頁八行目の「求めた」を「求めて提訴し、原審は控訴人らの請求をい
ずれも理由がないものとして棄却したが、当審係属中に、それまで未分割であった
相続財産(全部)の分割が行われて、控訴人a、同b及び同c(以下「控訴人aら
三名」という。)はそれぞれ平成一〇年五月二七日に本
件各更正に係る課税価格及び納付すべき税額を上回る修正申告(以下「本件各修正
申告」という。)をし、控訴人dに対しては被控訴人が同年六月三〇日付けで減額
の再更正(以下「本件再更正」という。)及び減額の加算税変更決定(以下「本件
変更決定」という。)をしたところ、控訴人aら三名は、なお本件各処分の取消し
を求め、控訴人dは、本件再更正により減額された後の本件更正及び本件変更決定
により減額された後の本件賦課決定の取消しを求めている」に改め、同九行目の
「本件においては」の下に「、控訴人aら三名が本件各更正の取消しを求める訴え
の利益があるかどうか(その前提として、本件各修正申告が無効であるかどう
か。)が本案前の争点となっているほか」を、六頁一行目の「評価額」の下に「及
び過少申告についての正当な理由の有無」をそれぞれ加える。
2 原判決三一頁四行目の次に行を改めて次のように加える。
「5 未分割の相続財産の分割が行われたことによる変動(乙第一六、第一七号
証)
(一) 本件の相続税については、当審係属中の平成一〇年一月二八日にそれまで
未分割であった相続財産(全部)の分割が行われたことに伴い、控訴人aら三名
は、同年五月二七日、被控訴人に対し、控訴人aについては課税価格八三二一万八
〇〇〇円、納付すべき税額九二五万四六〇〇円、同bについては課税価格九五〇四
万六〇〇〇円、納付すべき税額一〇五七万円、同cについては課税価格二五六七万
五〇〇〇円、納付すべき税額二八五万五三〇〇円とする修正申告(本件各修正申
告)をし、また、控訴人dに対しては、被控訴人が、同年六月三〇日付けで、課税
価格六四三四万五〇〇〇円、納付すべき税額七一五万五八〇〇円とする再更正(本
件再更正)及び過少申告加算税額一八万円とする加算税変更決定(本件変更決定)
をした(別表一ないし四の順号九の欄のとおり。なお、別表一ないし四は、原判決
別表1ないし4に順号九の欄を加えたものである。)。
(二) 被控訴人が本件の相続税について右分割後のものとして主張する課税価格
及び納付すべき税額の各算出の根拠は、別表五及び六のとおりであり、これが原判
決別表5及び6と異なる点は、右分割が行われたことに伴う点のみである(なお、
端数計算によって生じる差異があるのは別論であり、例えば課税価格の合計額につ
いてみると、原判決別表5及び6では二億七四二八万一〇〇〇円であるのに対
し、別表五及び六では二億七四二八万四〇〇〇円であって、三〇〇〇円の差があ
る。)。また、本件変更決定に係る過少申告加算税額一八万円は、控訴人dについ
ての本件再更正に係る納付すべき税額七一五万五八〇〇円と本件期限内申告に係る
納付すべき税額五三四万八八〇〇円との差額一八〇万円(通則法一一八条三項によ
り一万円未満切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額である。
 右課税価格の算出において、控訴人らと被控訴人との間で争いがあるのは、前同
様に本件土地の価額の点についてのみであり、それ以外の点については争いがな
い。また、仮に本件土地の価額が被控訴人主張の二億八四三〇万七四二五円(本件
各更正が前提にした額)であることを前提にすると、課税価格及び納付すべき税額
は別表五及び六のとおりとなり、このことは控訴人らも認めている。そして、本件
各修正申告における課税価格及び納付すべき税額の各算出の根拠は、やはり別表五
及び六のとおりであって、本件各修正申告は本件土地の価額についても被控訴人主
張の二億八四三〇万七四二五円であることを前提にしている。
(三) 本件の相続税について、本件各修正申告においては、控訴人aら三名は右
のとおり本件土地の価額が二億八四三〇万七四二五円であることを前提にしていた
が、本訴においては、控訴人らは、従前と同様に本件土地の価額は二億四六二五万
九七五一円であることを前提にして、右分割後の課税価格及び納付すべき税額は控
訴人dにつき五四七三万八〇〇〇円及び四九九万九六〇〇円、同aにつき七〇八七
万二〇〇〇円及び六四七万三二〇〇円、同bにつき八一九〇万一〇〇〇円及び七四
八万〇六〇〇円、同cにつき二二七二万四〇〇〇円及び二〇七万五五〇〇円である
とし、本件各更正のうち右各金額を超える部分の取消しを求めている。」
3 原判決三一頁五行目の「争点」を「本案の争点」に改め、三七頁一行目の次に
行を改めて次のように加える。
「3 過少申告についての正当な理由の有無について
(控訴人ら)
 控訴人らは、本件期限内申告書を提出するに当たり、本件土地の価額の評価につ
いて、地価の急激な変動のために路線価方式によることができず、かといって課税
庁からこれに代わる具体的な評価方法も示されていなかったため、やむを得ず前記
のとおり修正路線価を用いて評価したものである。
 右によれば、控訴人らの過少申告については正当な理
由があるというべきである(なお、そもそも、申告が違法でなければ、過少申告加
算税を賦課することはできない。)。
(被控訴人)
 控訴人らは、修正路線価という独自の見解に拘泥して申告をしたことから過少申
告となったものであり、正当な理由があるということはできない。」
二 本案前の争点(控訴人aら三名の本件各更正の取消しを求める訴えの利益の有
無)についての主張
1 控訴人aら三名
(一) 本件各修正申告のような、相続税について未分割の相続財産の分割が行わ
れたことに伴う修正申告は、税務署長に対し分割が行われたという事実を通知して
更正を促すものであって、通則法一九条に規定する修正申告のように税額を確定す
る効果を有するものではない。
 仮にそうでないとしても、本件各修正申告は、民法九三条ただし書により無効で
ある。すなわち、控訴人aら三名は、前記のとおり、本件土地の価額は本件各更正
が前提にした額と同額であること、したがってまた、課税価格の合計額も本件各更
正が前提にした額と同額であることを前提にして本件各修正申告をしたが、それ
は、右の本件土地の価額及び課税価格の合計額を相当なものとして容認したからで
はなく、未分割の相続財産の分割が行われたことに伴い、本件各更正により一応確
定している税額についての相続人間の負担額の変更の手続及び税額が増加した相続
人の延納の手続をするためと、延滞税及び加算税が課されないようにするためであ
ったところ、被控訴人は、控訴人aら三名が本件各更正の取消しを請求する本訴を
維持していることからして、右のような控訴人aら三名の真意を知り、又は知り得
たというべきである。
 以上のとおりであるから、控訴人aら三名には、本件各賦課決定についてはもと
より、本件各更正についても、その取消しを求める訴えの利益があるというべきで
ある。
(二) 仮に、本件各修正申告が有効に税額を確定するものであって、これに本件
各更正が吸収されるとしても、控訴人aら三名は、本件各更正による税額の増加分
に対する延滞税の納付義務との関係で、本件各更正が違法であることを理由にその
義務の解除を求めるためには、本件各更正の取消しを求める以外に方法がないか
ら、なお本件各更正の取消しを求める訴えの利益がある。
2 被控訴人
(一) 本件のような修正申告も、通則法一九条に規定する修正申告であることに
変わりがなく、当該修正申告書に記載された
とおりに税額を確定する効果を有するものである。
 また、私人の公法行為である納税申告について、民法の意思表示の瑕疵に関する
規定が適用されるとは解し難いが、仮に納税申告について民法九三条ただし書の適
用ないし類推適用の余地があるとしても、本件各修正申告について、真意と表示の
不一致がないことは控訴人らの主張自体に照らして明らかであるから、これを無効
とすることはできないというべきである。
(二) 本件のように増額更正がされた後にその税額を上回る修正申告がされた場
合、当該増額更正は、その効力が当該修正申告の効力に吸収され、これと一体とな
ることにより、その外形が消滅して独立の存在意義を失うものであって、当該増額
更正の取消しを求める訴えの利益は失われるものというべきである。
 なお、修正申告又は増額更正がされた場合、原則として、当該修正申告又は増額
更正後の納付すべき税額と当該修正申告又は増額更正前の納付すべき税額との差額
(通則法一九条四項三号イ又は二八条二項三号イ)に対する法定納期限の翌日から
完納までの期間についての延滞税を納付しなければならないのであり(同法六〇条
一項二号、二項)、右のように増額更正がされた後にその税額を上回る修正申告が
された場合において、仮に当該増額更正が取り消されたとしても、当該修正申告後
の納付すべき税額と当該修正申告前の納付すべき税額(すなわち、当該増額更正が
取り消されたことを前提にすることになるから、当該増額更正前の申告に係る納付
すべき税額)との差額に対する法定納期限の翌日から完納までの期間についての延
滞税を納付しなければならないことに変わりがないから、延滞税との関係でも、当
該増額更正の取消しを求める訴えの利益はないというべきである。
第三 当裁判所の判断
一 本案前の争点(控訴人aら三名の本件各更正の取消しを求める訴え利益の有
無)について
1(一) 本件各修正申告のような、相続税について未分割の相続財産の分割が行
われたことに伴う修正申告も、通則法一九条に規定する修正申告と同様に、当該修
正申告書に記載されたとおりに税額を確定する効果を有するものである。この点に
関する控訴人aら三名の主張は、独自の見解であって、採用することができない。
(二) 本件各修正申告が民法九三条ただし書により無効であるとの控訴人aら三
名の主張についてみる。
 控訴人aら三名は、未分割の相続財産(全
部)の分割が行われたことに伴って本件各修正申告を行うに当たり、本件土地の価
額について、本件期限内申告において前提にした額(二億四六二五万九七五一円)
ではなく本件各更正が前提にした額(二億八四三〇万七四二五円)と同額とし、し
たがってまた、課税価格の合計額についても、本件期限内申告において前提にした
額(二億三六二三万五〇〇〇円)ではなく本件各更正が前提にした額(二億七四二
八万一〇〇〇円)と同額(ただし、端数処理に伴って差異が生じるため、二億七四
二八万四〇〇〇円)とした上で、課税価格及び納付すべき税額を算出したことは、
前記のとおりである。
 控訴人aら三名の主張によれば、同控訴人らは、本件各修正申告をするに当た
り、あくまでも本件土地の価額は二億四六二五万九七五一円とするのが相当である
と考えていたが、未分割の相続財産の分割が行われたことに伴い、本件各更正によ
り一応確定している税額についての相続人間の負担額の変更の手続及び税額が増加
した相続人の延納の手続をするためと、延滞税及び加算税が課されないようにする
ために、あえて本件土地の価額を二億八四三〇万七四二五円、課税価格の合計額を
二億七四二八万四〇〇〇円とした上で、課税価格及び納付すべき税額を算出したと
いうのである。
 そうだとすれば、控訴人aら三名は、本件各修正申告をするに当たり、本件土地
の価額が二億八四三〇万七四二五円であること、したがってまた、課税価格の合計
額が二億七四二八万四〇〇〇円であることを前提にすることには不満があり、それ
ゆえに本件各更正の取消しを求める本訴を維持したままであったものの、本件各修
正申告書に記載したとおりに税額が確定することを前提にして相続人間の負担額変
更等の手続をしたり延滞税等の課税を回避するために本件各修正申告をしたものに
ほかならないというべきであるから、本件各修正申告書に記載したとおりの内容の
修正申告をする意思で本件各修正申告をしたものといわざるを得ず、真意と表示の
不一致はないというべきである。右控訴人らは、本件各修正申告をしてもなお本件
各更正の取消しを求める訴えの利益は失われないと考えていたことが窺われるとこ
ろ、後に判断するとおり右訴えの利益は失われるというほかはないが、この点にお
いて右控訴人らの考えと相違するとしても、それは本件各修正申告をする動機にお
いて法律の誤解があったというにすぎず、本件各
修正申告それ自体につき真意と表示の不一致があるということはできない。
 したがって、仮に納税申告について民法九三条ただし書を類推適用する余地があ
るとしても、本件各修正申告については、これを無効とすることはできないという
べきである。
2(一) 本件のように、増額更正がされた後にその税額を上回る修正申告がされ
た場合、少なくとも本税に関しては、当該増額更正は、その効力が当該修正申告の
効力の中に吸収されてこれと一体になることにより、独立の存在意義を失うものと
解するのが相当であり、したがって、納税者が当該増額更正の取消しを求める訴え
の利益は失われるというべきである。
(二) 控訴人aら三名は、本件各更正に係る増差税額(通則法二八条二項三号
イ)に対する延滞税の納付義務との関係で、本件各更正が違法であることを理由に
その義務の解除を求めるために、なお本件各更正の取消しを求める訴えの利益があ
る旨主張する。
(1) しかし、修正申告又は増額更正がされた場合、原則として、当該修正申告
又は増額更正後の納付すべき税額と当該修正申告又は増額更正前の納付すべき税額
との差額(通則法一九条四項三号イ又は二八条二項三号イ)に対する法定納期限の
翌日から完納までの期間についての延滞税を納付しなければならないのであり(同
法六〇条一項二号、二項)、そうすると、期限内申告に対して増額更正がされた後
にその税額を上回る修正申告がされた場合において、仮に当該増額更正が取り消さ
れたとしても、当該修正申告後の納付すべき税額と当該修正申告前の納付すべき税
額(すなわち、当該増額更正が取り消されたことを前提にすることになるから、当
該期限内申告に係る納付すべき税額)との差額に対する法定納期限の翌日から完納
までの期間についての延滞税を納付しなければならないことに変わりがないから、
延滞税との関係でも、当該増額更正の取消しを求める訴えの利益はないというべき
である。
(2) もっとも、相続税については、期限内申告書を提出した者は、法三二条一
号に規定する事由、すなわち、「法五五条(未分割遺産に対する課税)の規定によ
り分割されていない財産について民法の規定による相続分に従って課税価格が計算
されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割
により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価
格と異なることと
なったこと」という事由が生じたため既に確定した相続税額に不足を生じた場合に
は、修正申告書を提出することができ(法三一条一項)、右のような修正申告書を
提出したことにより納付すべき相続税額については、法定納期限の翌日から当該修
正申告書の提出があった日までの期間は、通則法六〇条二項の規定による延滞税の
計算の基礎となる期間に算入しないとされている(法五一条二項一号ロ)ことか
ら、本件のように、相続税について期限内申告に対して増額更正がされた後に未分
割の相続財産の分割が行われたことに伴って修正申告がされた場合には、右(1)
のように、仮に当該増額更正が取り消されたとしても、当該修正申告後の納付すべ
き税額と当該期限内申告に係る納付すべき税額との差額に対する法定納期限の翌日
から完納までの期間についての延滞税を納付しなければならないことに変わりがな
いということはできず、延滞税との関係で、なお当該増額更正の取消しを求める訴
えの利益があるのではないか、ということが問題になる。
 しかし、右のような延滞税の特則の適用がある修正申告書を提出したことにより
納付すべき相続税額とは、未分割の相続財産の分割が行われたことそれ自体による
修正により納付すべき相続税額を指し、本件各修正申告のように、それ以外の事由
(本件土地の評価の見直し)による修正をも含むものについては、当該修正申告後
の納付すべき相続税額から右分割の事由がないものとして計算される納付すべき相
続税額を控除した相続税額についてのみ右特則の適用があると解される。
 そうすると、本件において、控訴人aら三名は、本件各更正が取り消されるかど
うかにかかわらず、本件各修正申告後の納付すべき税額と本件各期限内申告に係る
納付すべき税額との差額のうち、本件各修正申告後の納付すべき税額から本件の分
割がないものとして計算される納付すべき税額を控除した税額については、本件各
修正申告書の提出があった日の翌日から完納までの期間についての延滞税を、その
余については、法定納期限の翌日から完納までの期間についての延滞税をそれぞれ
納付しなればならないことになるから、結局、延滞税との関係でも、本件各更正の
取消しを求める訴えの利益はないというべきである。
(3) なお、前記(1)のように、期限内申告に対して増額更正がされた後にそ
の税額を上回る修正申告がされた場合において、仮に当該増額更正
が取り消されたとしても、当該修正申告後の納付すべき税額と当該修正申告前の納
付すべき税額(すなわち、当該増額更正が取り消されたことを前提にすることにな
るから、当該期限内申告に係る納付すべき税額)との差額(以下「差額A」とい
う。)に対する法定納期限の翌日から完納までの期間についての延滞税を納付しな
ければならないことに変わりがないにしても、仮に当該増額更正が取り消されたと
すると、差額Aに対する延滞税の税率は、納期限(当該修正申告書を提出した日)
までの期間及び納期限の翌日から二月を経過する日までの期間は年七・三パーセン
トであるところ、当該増額更正が取り消されないとすると、当該増額更正後の納付
すべき税額と当該増額更正前の納付すべき税額(当該期限内申告に係る納付すべき
税額)との差額(以下「差額B」という。差額Aのうちの一部に当たる。)に対す
る延滞税の税率は、納期限(当該増額更正の更正通知書が発せられた日の翌日から
起算して一月を経過する日)までの期間及び納期限の翌日から二月を経過する日ま
での期間は年七・三パーセントであるが、その後は年一四・六パーセントであるか
ら、その軽減税率の適用を受ける関係で、当該増額更正の取消しを求める訴えの利
益があるのではないかということが問題になり得る。
 しかし、延滞税の税率は、原則として法定納期限の翌日から年一四・六パーセン
トであり、ただ、税額確定後なるべく早期に納付することを奨励する趣旨で、納期
限(更正により納付すべき税額については当該更正通知書が発せられた日の翌日か
ら起算して一月を経過する日、修正申告により納付すべき税額については当該修正
申告書を提出した日)までの期間及び納期限の翌日から二月を経過する日までの期
間は年七・三パーセントという軽減税率を適用することにしたものである(通則法
六〇条二項)。
 そうすると、当該増額更正を取り消すことによって、差額Bに相当する税額に対
しても当該修正申告書を提出した日までの期間及びその翌日から二月を経過する日
までの期間について軽減税率の適用を受けるという利益が得られるとしても、その
利益は、当該増額更正の後に行われた当該修正申告の存在を前提にすることによっ
て初めて観念し得るものであり、当該増額更正によって侵害された利益が回復され
たという関係には立たないものというべきである。しかして、課税処分取消訴訟に
おいて訴えの利益
が認められるためには、納税者が当該課税処分によって法律上保護された利益を侵
害され、これを取り消すことによって右利益を回復し得るというのでなければなら
ないから、右のような場合に、軽減税率の適用を受けるという利益を得るために当
該増額更正の取消しを求める訴えの利益を認めることはできないというべきであ
る。
(4) 以上のとおりであって、延滞税との関係でも、控訴人aら三名が本件各更
正の取消しを求める訴えの利益はないというべきである。
3 以上の次第で、控訴人aら三名が本件各更正の取消しを求める訴えの利益はな
いものといわざるを得ないから、右控訴人らの訴えのうち本件各更正の取消請求に
係る部分は、不適法なものとして却下を免れない。
二 本案の争点について
1 本案の争点1(通則法二四条の解釈)及び2(本件土地の評価)に対する判断
は、原判決「事実及び理由」欄中「第三 争点に対する判断」の一及び二に記載の
とおりであるから、これを引用する。
2 右について敷衍する。
(一)本案の争点1について
 控訴人らは、本件各期限内申告は違法でないとし、そうである以上更正をするこ
とはできないとして、本件各更正は違法である旨主張する。
 ところで、国税の税額は、国税に関する法律によって客観的に定まるべきはずの
ものであり、期限内申告であれ更正であれ、これらに係る税額が国税に関する法律
によって客観的に定まっている税額(以下「あるべき税額」という。)と一致しな
いときは、本来、国税に関する法律に従っていないという意味において違法である
というべきである。ただ、更正に係る税額があるべき税額を下回るときは、当該納
税者の権利、利益を侵害するものではないことから、当該納税者がその取消しを求
めることはできず(行政事件訴訟法一〇条一項)、その意味において当該更正は適
法なものとして扱われることになる。本件のように申告に対する増額更正が行われ
た場合、当該増額更正に係る税額があるべき税額を下回るときは、当該増額更正
は、当該納税者との関係においては適法なものとして扱われるが、国税に関する法
律に従っていないという意味においては違法であり、したがってまた、当該申告
も、その税額があるべき税額を更に下回るのであるから、国税に関する法律に従っ
ていないという意味において違法であるといわざるを得ない。
 右によれば、増額更正の取消訴訟において、当該増額更正に係る
税額があるべき税額を上回ることがないということが認められれば、当該増額更正
は適法とされ、他方、当該増額更正に係る税額を下回る税額の申告は当然に違法で
あるということになる。したがって、増額更正の取消訴訟においては、当該増額更
正に係る税額があるべき税額を上回ることがないかどうかについて審判をすれば足
り、当該増額更正に先立つ申告が違法であるかどうかを独自に審判する意味がない
というべきである(当該増額更正に係る税額があるべき税額を上回ることがないと
認められれば、当然に当該増額更正に先立つ申告は違法であるということにな
る。)。
 よって、控訴人らの右主張は意味がない。
(二) 本案の争点2について
 法二二条は、相続に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時
価によるものと規定しており、右にいう「時価」とは、不特定多数の当事者間で自
由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(客観的時価)をいうも
のと解される。
 そうすると、相続税についての更正が前提にした相続財産たる土地の評価につい
ては、本来、その価額が客観的時価を超えることがないと認められさえすれば、当
該納税者の権利、利益を侵害することがないという意味において適法であるという
ことになるはずであり、ただ、評価通達の定める路線価方式によって評価すること
が運用上の原則になっていることから、一般の運用と異なる評価をすることは、仮
にその評価による価額が客観的時価を超えることがないと認められる場合であって
も、公平の原則に反するものとして違法とされる場合があるというにすぎない。
 したがって、本件のように、評価通達の定める路線価方式により評価すると、そ
の価額が客観的時価を超える可能性があることにより、著しく不適当であると認め
られる場合には、右路線価方式によることは相当でなく、それ以外の、客観的時価
を超えることがなく、しかし客観的時価により近似する価額を求め得るような方法
で評価するのが相当ということになる。
 右のような見地に立ってみると、路線価は各年の一月一日時点の公示価格の概ね
八割程度の価格をもって定められており、かつ、その公示価格は、適正な地価の形
成に寄与することを目的として、標準地について自由な取引が行われるとした場合
におけるその取引において通常成立すると認められる正常な価格(すなわち客観的
時価)として公示されるものであ
る以上、被控訴人の評価方法すなわち平成四年の路線価を〇・八で割り戻した単価
をもって同年一月一日時点における客観的時価を反映したものとし、右単価を基に
近隣公示地の同年一月一日時点の公示価格と平成五年一月一日時点の公示価格の変
動から算出される平成四年一二月二一日時点(本件相続開始時)での時点修正率を
用いた時点修正をして得られた価格を修正単価として、これを路線価方式における
路線価に代入するという方法の方が、控訴人らの評価方法すなわち平成四年の路線
価を基に右とほぼ同様の時点修正をして得られた価格を修正路線価として用いる方
法に比べて、客観的時価により近似する価額を求め得るものであることは明らかで
ある。
 この点について、控訴人らは、被控訴人の評価方法では、評価通達の定める路線
価方式によれば路線価が評価の安全性の確保の観点から公示価格の八割程度とされ
ていることによって得られるはずの評価上の利益が失われるかのように主張する。
なるほど、評価通達の定める路線価方式によれば、路線価が評価の安全性の確保の
観点から公示価格の八割程度とされていることから、相続開始時点と当該年の一月
一日時点とで価格の変動がないものとすれば、納税者は客観的時価の二割程度の減
価という評価上の利益を得られることになるといえる。しかし、右のような利益
は、課税当局が全国に大量に存在する相続財産たる土地の評価を画一的に行うに当
たり評価の安全性等を考慮して路線価を低めに定めていることによって得られる事
実上の利益にしかすぎず、法律上保護された利益ないし法的保護に値する利益とい
うことはできないものであり、本件のように評価通達の定める路線価方式によるこ
とが著しく不適当であると認められる場合には、それ以外の方法によって、法が要
求する客観的時価により近い価額を求めるべきは当然のことである。もっとも、本
件のように評価通達の定める路線価方式によることが著しく不適当であると認めら
れる場合にも、客観的時価の二割程度の減価という評価上の利益が得られるような
評価の方法を用いることが運用上の原則になっているというのであれば、本件につ
いてのみ右とは別の方法を用いて右評価上の利益を失わせることは、公平の原則に
反して違法であるとされる余地があるが、そのようなことが運用上の原則になって
いることを窺わせる資料は全くない。
 しかして、被控訴人評価額が客観的時価
を超えるものでないことは前記引用に係る原判決の認定判断(六二頁四行目から七
〇頁八行目まで)のとおりである。
3 本案の争点3(過少申告についての正当な理由の有無)について
 控訴人らは、本件期限内申告書を提出するに当たり、本件土地の価額の評価につ
いて、地価の急激な変動のために路線価方式によることができず、かといって課税
庁からこれに代わる具体的な評価方法も示されていなかったため、やむを得ず修正
路線価を用いて評価したものであると主張するが、評価通達の定める路線価方式に
よることができないとすれば、法の定める原則に従って客観的時価により近い評価
をすべきことは当然であり、右主張のような事由があるからといって過少申告につ
いて正当な理由があるということはできない。
 他に、右の正当な理由があると認めるに足りる事情は見当たらない。
4 以上によれば、控訴人dについての本件更正(本件再更正により減額された後
のもの)及び控訴人らについての本件各賦課決定(控訴人dについては本件変更決
定により減額された後のもの)はいずれも適法であるというべきである。
三 以上の次第で、控訴人aら三名の訴えのうち本件各更正の取消請求に係る部分
は、訴えの利益がなく、不適法なものとして却下を免れず、右控訴人らのその余の
請求及び控訴人dの請求は、いずれも理由がないものとして棄却を免れない。
 よって、原判決中控訴人aら三名に関する部分を主文第一項のとおり変更し、原
判決中控訴人dに関する部分は相当であって、同控訴人の控訴は理由がないから、
これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条、六一条、六五条を
適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第五民事部
裁判長裁判官 魚住庸夫
裁判官 小野田禮宏
裁判官 貝阿彌誠

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