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○ 主文
原告の各被告に対する各請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 青色承認取消処分の取消の訴
一 当事者双方の求めた裁判
1 原告
被告所沢税務署長が昭和四八年一二月一八日付で原告に対してした昭和四五年度分
以後の所得税青色申告書の提出承認を取消す旨の処分(以下「本件青色承認取消処
分」という。)を取消す。
訴訟費用は被告所沢税務署長の負担とする。
2 被告所沢税務署長
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因
1 原告は肩書地においてプレス加工業を営み、被告所沢税務署長より所得税の申
告につき青色申告書の提出の承認を受けていたが、被告所沢税務署長は昭和四八年
一二月一八日付で原告に対し、昭和四五年度分以後につき青色申告書の提出の承認
を取消す旨の処分(以下「本件青色承認取消処分」という。)をし、昭和四九年二
月一二日異議申立をしたが同被告が同年五月一〇日異議申立を棄却する旨決定し、
原告が同年六月七日被告国税不服審判所長に対し審査請求し、同被告が昭和五一年
三月二三日これを棄却する旨の審査裁決をした。
2 被告所沢税務署長の本件青色承認取消処分の理由は、原告が、青色申告者とし
てその業務につき備付け、記録及び保存をすべき帳簿書類(以下、「帳簿書類」と
もいう。)につき、所沢税務署係官(以下「署員」という。)の調査要求に応じな
かつたことが、青色承認取消事由を定めた所得税法一五〇条一項一号の事由、すな
わち、同法一四八条一項に規定する大蔵省令で定めるところに従つて行なわれてい
ないというのである。但し、その正確な記載は被告所沢税務署長主張のとおりであ
る。
3 しかし、本件青色承認取消処分は、次の点で違法であり、取消を免れない。
(一) 原告は所沢税務署員(以下「署員」という。)の帳簿調査を拒否したこと
がない。すなわち、
(1) 署員A国税調査官が昭和四八年八月一日事前の通知もなく原告宅に臨場し
原告に対し、昭和四七年度分の所得税に関する調査に来た旨及び青色申告書の備付
け記録保存すべき帳簿を調査したいので提出されたい旨述べたが、帳簿の作成保存
を原告の弟Bに任せていたため、Bの仕事をしている<地名略>の工場に行つて調
査するよう返答したところ、署員が右工場に行きBに対し同様中述したけれども、
事前の通知もなかつたのでBがその準備ができず、これを提出しなかつた。また、
<地名略>の工場は当時プレス機械が作動中で立入が危険な状況にあつたため立入
検査に応じなかつたものである。
(2) 原告が同月三日事前の通知がなく原告方に来た署員A、同C事務官から前
回同様帳簿書類の提示を求められたので、B方に行くよう述べた。Bがその日右署
員らから右工場で同様の申出を受けたが、Bは帳簿書類が自宅にあるので後刻連絡
する旨述べて帰つてもらつた。その後電話で、同年八月一〇日の来宅を希望する旨
告げたところ、署員がその日に調査する旨述べた。しかし、署員はその際原告に対
し、「署員のいうとおりにしないと不利になるか、その他いろいろの処分を受け
る。」旨不穏当な発言をしたので、飯能民主商工会に相談し、調査期日に同会員の
立会を求め、原告を補助させることとした。
(3) 原告は同年八月一〇日約束通り原告方に来た署員A、C、D国税調査官か
ら、昭和四五年度分以後の帳簿書類の提出を求められたが、B方に同道したとこ
ろ、同署員らがBに対しても同様申出をした。原告及びBは関係の帳簿書類を机上
に並べ、まず署員に対し、前回青色承認を取消す旨の不穏当な発言をしたのでその
趣旨を釈明したが確答がなく、署員らが直ちに調査に入ろうとしたので、調査年度
と調査理由を具体的に告知すべきことを求めたのに、署員らは何らその告知をせ
ず、押し問答の末、帳簿書類の提示をしないうちに、署員が自ら席を立つてしまつ
ただけである。
(4) 署員Aが同年九月七日事前の通知もなく原告方に来たが、用件も言わず、
したがつて、帳簿書類も提示しないうちに帰つた。
(5) 原告が同年九月八日事前の通知もなく来た署員Aから従前同様の申出を受
けたが、B方にある帳簿を提出する準備をしていなかつたため提示できなかつた。
後刻同年同月一二日に来て欲しい旨連絡した。
(6) 原告が同年九月一八日事前の通知もなく来た署員A、Cから従前同様の申
出を受けたので、B宅に同道し、Bが右署員より同様の申出を受けた。しかし、B
は署員らに対し、調査に応じなければ青色承認が取消されるとの従前の発言内容の
意味につき釈明を求めたが、納得できる説明がなく、応酬を重ねでいるうち、署員
はB方に民商会員が来ているのを見て、卓治が帳簿書類を提示しないうちに帰つて
しまつた。
その理由は、おそらく、署員が違法な反面調査をしたことにつき同席の民商会員か
ら追及されたため早々に退散したものと思われる。
以上(1)ないし(6)の事実から明らかなように、原告は何ら調査拒否をした事
実がないから、調査拒否を前提とする本件青色承認取消処分は違法である。
(二) そうではないとしても、原告が調査に応じなかつたことは所得税法一五〇
条一項一号の取消事由にあたらない。すなわち、
(1) 青色申告者の帳簿書類の調査理由は、帳簿書類の該当箇所を示すか、所得
計算の基礎となる売上高、経費などにつきその数額を示して調査すべき事項、内容
を具体的に告知しなければ違法であり、その理由告知がないかぎり納税者は帳簿書
類を提示して質問検査に応ずる義務はない。
(2) 同法同条同号にいう「帳簿の備付け、記録又は保存」は同法一四五条一号
に照応し、青色承認がされると、青色承認却下事由の不存在すなわち大蔵省令で定
めたところにより帳簿書類が備付け記録、保存がされているとの認定がされたこと
になり、その状態のもとでは、調査に応じないとしても、そのことから、右認定と
反対の事実すなわちその帳簿書類の備付け、記録、保存がされていることを確認で
きないとはいえない筈である。
(3) 同条同号の備付け、記録、保存は、同法施行規則五六ないし六一条、六
三、六四条に定められた別個独立の義務であり、調査拒否事由はそのいずれにも該
当せず、これを青色承認取消事由とするのは立法的解釈であつて租税法律主義に反
する。
(4) そうではないとしても、帳簿書類の調査に応じなかつた事実から、直ち
に、帳簿書類の備付け、記録、保存がないとの事実を認定できない筈であり、この
点で経験則に反する。ちなみに、原告は所定の帳簿書類を備付け、記録、保存して
いた。
(三) 承認取消処分に関する同法一五〇条二項の理由附記としては、被処分者の
いかなる行為が同条一項一号の事由に該当するかの具体的な記載を要するところ、
被告所沢税務署長は本件青色承認取消理由として前記のように原告の調査拒否のみ
を記載しているのにすぎず、それが同号にいう「備付は、記録又は保存」のいずれ
にあたるかの具体的記載を欠き、違法である。
(四) 原告は本件青色承認取消処分の異議申立審理の際備付け、記録、保存した
関係帳簿書類を全部提示し、検査に応じたのであり、これにより、帳簿書類の「備
付け」「記録」「保存」の事実が確認できたのであるから、その時点で、右処分
は、理由を失ない違法となつた。
4 よつて、原告は被告所沢税務署長に対し、本件青色承認取消処分の取消を求め
る。
三 被告所沢税務署長の主張
1 原告請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。但し、正確には「昭和四五年分以降三年間の所得税の調
査に関し、必要があつたので、昭和四八年八月一日、同月三日、同月一〇日、九月
七日及び同月一八日の五回にわたり当税務署のA国税調査官があなたの自宅とあな
たの申し出による使用人宅において、あなたに事業に関する帳簿書類の提示を求め
たところ、その提示がありませんでしたが、このことは、青色申告にかかる帳簿書
類の備付け、記録又は保存が所得税法一四八条に定めるところに従つて行なわれて
いないことになります。したがつて、所得税法一五〇条一項一号に該当しますの
で、青色申告の承認を取消します。」と記載した。
3 同3の事実は争う。本件青色承認取消処分は適法であり、その事情は次のとお
りである。
(一) 原告は青色申告者として所得税法一四八条一項及び同法施行規則、大蔵省
令で定める帳簿書類を備付けているべきところ、署員の帳簿書類の調査に応じなか
つたため、その備付け、記録、保存がされていないものと認定されたものである。
すなわち、
(1) 署員A国税調査官が昭和四八年八月一日午前一一時五五分ごろ事前の通知
をしないで原告方に行き原告に対し、昭和四七年度分、場合によつては昭和四五及
び四六年度分の所得税に関する調査に来たので帳簿書類を提出の調査に応ずるよう
求めたところ、原告は帳簿書類の備付け、記録、保存につきその一切を実弟のBに
委任しているのでB方に行つて欲しい旨述べたので、署員が直ちにB方のある小瀬
戸の工場に行き暫く待ち帰宅したBにその旨述べて帳簿書類の提出と調査に応ずる
ことを求めたところ、同人は「突然来ても相手はできないので、都合のよい日を連
絡する。」旨述べ、調査に協力しなかつた。そこで、署員は再度原告方にいたり原
告に対しその状況を話し、原告方に持参させて原告がその調査に応ずるよう求めた
が、原告は「弟に任せてあるので難かしい。」としてこれを拒否した。しかし、署
員は重ねて原告に対し次に調査に来る時までに帳簿書類を持参させ調査に応じられ
るよう準備すべきことを告げた。また、<地名略>の工場では工場内の検査をした
い旨申出たが、原告の弟らにそれを拒否された。
(2) 署員A、C事務官が同年八月三日午前一〇時三〇分ころ事前の通知をしな
いで原告方にいたり原告に対し、前同同様に帳簿書類調査の申出をしたが、原告は
再び前回同様B方に行くように述べただけであつたので、再びB方に行き同人にそ
の旨告げたところ、同人は帳簿は同年同月一〇日に来た時に提示し調査に応ずる旨
述べて、その調査に応じなかつた。その際民商会員ら七名が立会い調査理由を言え
などと述べた。
(3) 署員D、A、C係官が同年八月一〇日午前一〇時二〇分ころ事前に通知を
した上Bの自宅にいたりBに対し、原告が所得税青色申告者として所定の法規によ
り備付け、記録、保存しである昭和四五年度分以後の帳簿書類を提示し調査に応ず
るよう求めたところ、同人は帳簿書類として、経費帳、現金出納帳、固定資産台
帳、領収書、振替伝票がある旨述べ、同人の意思で同席しBの補助者であつた民商
会員らが、机の上に置かれた箱の中から帳簿らしきものを取り出したが、署員がこ
れを受取ろうとすると手渡さず、「具体的な調査理由を言わないかぎり内容を絶対
見せない。」旨述べ、ついに、その帳簿らしきものがどのような帳簿であり、その
帳簿が法規で定める帳簿書類にあたるかどうかについて何ら確定すべき資料のない
まま調査不能となつた。
(4) 署員Aが同年九月七日午前一〇時ころ事前の通知をしないで原告方にいた
り原告に対し、同年八月一〇日の模様を話し、重ねて原告が納税者であるので、帳
簿書類を原告方に持参させた上調査に応ずるよう求めたが原告は言を左右にして調
査に応じようとしなかつた。
(5) 署員A係官が同年九月八日午前九時一五分ころBから電話で、次回調査期
日についでの連絡打合せを受けたが、その際Bは「申告書や帳簿のどこが違つてい
るか言わなければ帳簿を見せない。」旨述べた。
(6) 署員A、C係官は同年九月一八日午前一〇時ころ事前の通知をしないで原
告方にいたり原告に対し、Bと一諸に調査に応ずるように説得し、たとえ帳簿が備
付けてあつたとしても提示がなければ確認できないので青色承認が取消されること
もあることを注意し、原告とともにB宅に同日午前一一時一〇分ころ行つた。しか
し、Bは同席した民商会員五名とともに、具体的な帳簿上の調査すべき点を指摘し
ないかぎり帳簿書類の調査に応じられないので、反面調査でもせよとの趣旨を怒鳴
り、険悪な雰囲気であつたため調査ができなかつた。
以上(1)ないし(5)のとおり、原告は帳簿書類の調査に応じなかつたものであ
るから、それを前提とする本件青色承認取消処分は適法である。
(二) 原告の行為は所得税法一五〇条一項一号の取消事由にあたる。
(1) 青色承認は例外を除いて原則としてその申請を受理しなければならないの
で実質的には届出制に近いもので、申告者が大蔵省令で定めるところにより帳簿書
類を備え付け、所得金額が正確に算定できるように資産、負債、資本に影響を及ぼ
す一切の取引を正規の簿記原則に従い整然明瞭に記録し、これに基づき貸借対照
表、損益計算書を作成した上確定申告をした場合その計算した税額どおり課税され
る。したがつて、これらの帳簿書類は、税務署員が必要に応じていつでも調査でき
ることを制度上の前提とし、帳簿上の調査すべき具体的な点を指摘し理由を告知し
なくても、帳簿書類の調査ができるものである。
(2) 原告が前記(一)のように署員の帳簿書類の調査に応ヒなかつたことは、
本件青色承認取消処分の時点において、原告が青色申告者として大蔵省令の定める
ところに従い帳簿書類を備付け、記録、保存をしているかどうかについて確認でき
ない結果となり、その備付け、記録、保存がないと認定すべきものと解される。
原告の青色承認は同法一四七条により昭和四五年一二月三一日の経過とともに承認
があつたものとみなされ、昭和四八年八月一日に始めてその調査の対象となつたも
のにすぎず、同法一四五条一号の申請却下事由の不存在を認定して明示の承認(同
法一四六条)をしたものではなく、したがつて、青色承認の事実から直ちに帳簿書
類の備付け、記録、保存が認定される事案ではない。
(3) 本件青色承認取消は調査拒否の事実から同法一五〇条一項一号の事実を認
定したものであつて、何ら立法的解釈をするものでもなければ租税法律主義に反す
るものではない。
(4) 大蔵省令の定める帳簿書類の備付け、記録、保存とは、その正確な記録を
した帳簿書類を備付け、保存することを意味し、物理的な存在だけを意味するもの
ではない。
このように解さなければ、青色申告者の帳簿書類の備付け、記録及び保存が大蔵省
令で定めるところに準拠しているかどうかを確認するための手段がないことになる
ばかりでなく、課税庁はこれに違反する青色申告者に対しては適正手続による課税
ができなくなるからである。
(三) 本件青色承認取消処分には、前記2のとおり理由が附記されている。青色
承認取消処分については、取消し原因となつた事実と所得税法一五〇条一項各号の
いずれに該当するかについて附記すれば足り、さらに当該事実が右各号に該当する
理由まで附記する必要はない。
(四) 青色申告者が更正に対する異議申立または審査手続で帳簿書類を提示して
も、青色承認取消の事由が消滅しない。青色承認取消によりその年度まで遡及して
効果が生じ、処分後に帳簿書類を提出しても処分要件の存在に影響がない。そうで
はないとすれば、後続の更正処分も取消され、再度の調査で再び帳簿書類の調査を
拒否するおそれがあり、課税庁は課税の機会を失う結果となる。したがつて、事後
の帳簿書類の提示は取消事由とはならない。
4 よつて、本件青色承認取消処分の取消を求める原告本訴請求は失当として棄却
されるべきである。
第二 昭和四五年度分所得税等課税処分取消の訴
一 当事者双方の求めた裁判
1 原告
被告所沢税務署長が昭和四八年一二月二四日付で原告に対して」た昭和四五年度分
所得税金一六万三、一〇〇円とする更正処分のうち金二万八、二〇〇円を越え金一
四万四、七〇〇円までの部分、過少申告加算税金六、七〇〇円のうち金二、三〇〇
円の賦課処分を取消す。
訴訟費用は被告所沢税務署長の負担とする。
2 被告所沢税務署長
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因
1 被告所沢税務署長は昭和四八年一二月二四日付でプレス加工業を営む原告に対
し、昭和四五年度分の事業所得につき、課税対象となる総所得金額を金一九六万
二、一一〇円、その所得税を金一六万三、一〇〇円とする旨の更正処分をし、あわ
せて、過少申告加算税を金六、七〇〇円として賦課する処分をした。原告は昭和四
九年二月二五日被告所沢税務署長に対し右処分につき異議申立し、総所得金額を金
八六万九、七四五円、所得税額金二万八、二〇〇円と主張したが、同被告は同年五
月一三日右更正処分の異議申立を棄却し、過少申告加算税を金三、二〇〇円と更正
した。
そこで、原告は同年六月二一日被告国税不服審判所長に対し審査請求したところ、
同被告が昭和五一年三月二三日処分を一部取消の上、総所得金額を金一八五万五、
〇七四円、所得税額を金一四万四、七〇〇円とし、過少申告加算税を金二、三〇〇
円とする旨裁決した。
2 原告の主張する所得算出基礎のうち、被告主張(別表一の1該当欄記載のとお
り)と異なる部分は次のとおりである。
(一) 収入金額  金七一〇万九、九三二円
右算定基礎は別表一の2昭和四五年度分収入一覧表の原告主張額欄記載のとおりで
ある。被告主張の武蔵野金属工業所分はEのアルバイトであり、原告との取引では
ないから、それを収入に計上することはできない。
(二) 青色申告計算  金八四万八、〇〇〇円
本件青色承認取消処分が違法で取消されるべきことは第一の二に述べたとおりであ
り、原告はなおその計算ができるものであり、その内容は、青色事業専従者給与額
金七四万六、四〇〇円、貸倒引当金繰入額金一〇万一、六〇六円(計金八四万八、
〇〇六円)である。
3 したがつて、原告は所得について何ら過少申告をしたものではなく、過少申告
加算税金二、三〇〇円の賦課処分は違法である。
4 よつて、原告は被告所沢税務署長に対し、請求趣旨記載のとおり、昭和四五年
度分所得税更正処分、過少申告加算税賦課処分のうちそれぞれ現に効力を有する部
分の取消を求める。
三 被告所沢税務署長の主張
1 原告の請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は争う。
(一) 収入金額  金七四九万八、二六四円
その算定基礎は、別表一の2昭和四五年度分収入一覧表の被告主張額欄記載のとお
りである。
(二) 同(二)の事実は争う。本件青色承認取消処分が適法であることは第一の
三に記載したとおりで、原告は青色申告の計算をすることができず、事業専従者控
除として金一五万円を計上できるのに止まる。
3 過少申告加算税  金二、三〇〇円
総所得額金一九五万六、〇六五円(別表一の1)、課税所得額金一一九万二、〇〇
〇円で過少申告加算税の基礎となる所得税額金六万四、七〇〇円に一〇〇分の五を
乗ずる(国税通則法六五条)と、金三、二三五円となり、課税額金二、三〇〇円を
越えるから適法である。
4 よつて、昭和四五年度分所得税更正処分、過少申告加算税賦課処分の取消を求
める原告本訴請求は失当として棄却されるべきである。
第三 昭和四六年度分所得税等課税処分取消の訴
一 当事者双方の求めた裁判
1 原告
被告所沢税務署長が昭和四八年一二月二四日付で原告に対してした昭和四六年度分
所得税金二〇万七、六〇〇円とする更正処分のうち金二万七、九〇〇円を越える部
分、過少申告加算税金八、九〇〇円のうち金五、七〇〇円の賦課処分を取消す。
訴訟費用は被告所沢税務署長の負担とする。
2 被告所沢税務署長
原告の請求を棄却する
訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因
1 被告所沢税務署長は昭和四八年一二月二四日付でプレス加工業を営む原告に対
し、昭和四六年度分の事業所得につき、課税対象となる総所得金額を金二四四万
二、一九七円、その所得税を金二〇万七、六〇〇円とする旨更正処分をし、あわせ
て、過少申告加算税金八、九〇〇円を賦課する処分をした。原告は昭和四九年二月
二五日被告所沢税務署長に対し右処分につき異議申立をし、総所得金額を金九六万
〇、四三六円、所得税を金二万七、九〇〇円と主張したが、同被告は同年五月二三
日右更正処分の異議申立を棄却し、過少申告加算税を金五、七〇〇円と更正した。
そこで、原告が同年六月二一日被告国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同
被告が昭和五一年三月二三日右審査請求を棄却した。
2 原告の主張する算定基礎のうち、被告主張(別表二の1該当欄記載のとおり)
と異なる部分は次のとおりである。
(一) 収入金額  金七七〇万一、二三〇円
右算定基礎は別表二の二昭和四六年分収入一覧表の原告主張欄記載のとおりであ
る。被告主張の武蔵金属工業所分はEの、丸大製作所のうち昭和四六年一一月以前
の分はBのアルバイトで、原告と関係がない。
(二) 青色申告の計算
原告の青色承認取消処分が違法で取消されるべきことは第一の二に記載したとおり
で、青色申告の計算をする利益があり、その内容は貸倒引当金戻入額金一〇万一、
六〇六円のほか、青色事業専従者給与額金八四万円、貸倒引当金繰入額金一一万
七、七三〇円、青色事業主特別経費準備金五万一、九九四円(合計金一〇〇万九、
七二四円)である。
(三) 農業所得は全くなかつた。
3 原告は所得の過少申告をしたことがないから、過少申告加算税金五、七〇〇円
の賦課処分は違法である。
4 よつて、原告は被告所沢税務署長に対し、昭和四六年度分所得税につき請求趣
旨記載のとおり、その更正処分、過少申告加算税賦課処分(現に効力を有する部
分)の取消を求める。
三 被告所沢税務署長の主張
1 原告の請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は争う。
(一) 収入金額  金八五六万一、七五八円
その算定基礎は、別表二の2昭和四六年度分収入一覧表の被告主張額欄記載のとお
りである。そのうち、武蔵野金属工業所、丸大製作所についての取引もまた、原告
の実弟で従業員であるB、Eが山川製作所こと原告の営業名義で取引したものであ
るから、原告の収入である。また、売上金額は、原告が取引先に製品を納入した日
に発生したものとして帳簿に計上すべきであり、その代金が小切手などで実際に支
払われた日をもつて計上すべきものではない。
(二) 同(二)の事実は争う。本件青色承認取消処分が適法であることは第一の
三に記載したとおりで、原告は青色申告の計算をすることができず、事業専従者控
除として金一六万五、〇〇〇円を計上できるだけである。
(三) 農業所得  金二万三、七六〇円
畑一二アールを耕作し収入をえていたので、農業所得標準率から推計した。
3 過少申告加算税  金五、七〇〇円
総所得金額金二五八万七、八四二円(別表二の1)、課税所得金額金一七一万一、
〇〇〇円で、その過少申告加算の基礎となつた所得税額金一一万四、六〇〇円に一
〇〇分の五を乗じて(国税通則法六五条)金五、七〇〇円を賦課した(但し、異議
決定で一部原処分を変更した。)ので、適法である。
4 よつて、昭和四六年度分所得税更正処分、過少申告加算税賦課処分の取消を求
める原告本訴請求は失当で棄却を免れない。
第四 昭和四七年度分所得税更正処分取消の訴
一 当事者双方の求めた裁判
1 原告
被告所沢税務署長が昭和四八年一二月二四日付で原告に対してした昭和四七年度分
所得税金一六万七、二〇〇円とする更正処分のうち金三万三、〇〇〇円を越える部
分を取消す。
訴訟費用は被告所沢税務署長の負担とする。
2 被告所沢税務署長
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因
1 被告所沢税務署長は昭和四八年一二月二四日付でプレス加工業を営む原告に対
し、昭和四七年度分の事業所得につき、課税対象となる総所得金額を金二二六万
六、二七〇円、その所得税額を金一六万七、二〇〇円とする旨更正処分をし、あわ
せて、過少申告加算税金六、七〇〇円を賦課する処分をした。原告は昭和四九年二
月二五日被告所沢税務署長に対し右処分につき異議申立をし、総所得金額を金一〇
五万一、五二六円、所得税を金三万三、〇〇〇円と主張したが、同被告は同年五月
二三日右更正処分の異議申立を棄却し、過少申告加算税を取消し、原告が同年六月
二一日被告国税不服審判所長に対し右更正処分につき審査請求をしなか、同被告は
昭和五一年三月二三日右審査請求を棄却した。
2 原告主張の算定基礎のうち被告主張と異なる点は次のとおりである。(1)本
件青色承認取消処分が違法で取消されるべきことは第一の二に記載したとおりであ
るから、青色申告の計算として貸倒引当金戻入額金一一万七、七三〇円のほか青色
申告事業専従者給与額金一一三万円、貸倒引当金繰入額金二四万三、九一四円、青
色申告控除額金一〇万円(合計金一四七万三、九一四円)を計上でき、(2)農業
所得は農業をしておらず零である。
3 よつて、原告は被告所沢税務署長に対し、昭和四七年度分所得税更正処分、過
少申告加算税賦課処分につき請求趣旨のとおりその取消を求める。
三 被告所沢税務署長の主張
1 原告の請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は争う。(1)本件青色承認取消処分が適法であることは第一の三
に記載したとおりで、原告は青色申告の計算をできず、事業専従者控除として金一
七万円を計上できるのに止まる。(2)農業所得は金二万八、五六〇円である。
3 よつて、昭和四七年度分所得税更正処分、過少申告加算税賦課処分の取消を求
める原告本訴請求は失当である。
第五 昭和四八年度分所得税等課税処分取消の訴
一 当事者双方の求めた裁判
1 原告
被告所沢税務署長が昭和四九年八月九日付で原告に対してした昭和四八年度分所得
税金三八万八、三〇〇円とする更正処分のうち金一二万六、五〇〇円を越える部
分、過少申告加算税金一万三、〇〇〇円の賦課処分を取消す。
訴訟費用は被告所沢税務署長の負担とする。
2 被告所沢税務署長
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因
1 被告所沢税務署長は昭和四九年八月九日付でプレス加工業を営む原告に対し、
昭和四八年度分の事業所得につき、課税対象となる総所得額を金三五一万二、一一
〇円、所得税を金三八万八、三〇〇円とする旨の更正処分をし、あわせて、過少申
告加算税を金一万三、〇〇〇円として賦課する処分をした。原告は同年一〇月九日
被告所沢税務署長に対し右処分につき異議申立し、総所得金額を金一八六万七、六
六一円、所得税を金一二万六、五〇〇円と主張したが、同被告は同年一二月一七日
右異議申立を棄却し、原告が昭和五〇年一月一六日被告国税不服審判所長に対し審
査請求し、同被告が昭和五一年三月二三日これを棄却した。
2 原告主張の算定基礎のうち被告主張と異なるのは、青色申告の計算についてだ
けである。すなわち、貸倒引当金戻入額金四万二、三〇九円のほか、青色事業専従
者給与額金一五三万五、〇〇〇円、貸倒引当金繰入額金二四万四、二五八円、青色
申告控除額金一〇万円(合計金一八七万九、二五八円)がある。
3 原告は所得を過少申告したことがないから、過少申告加算税金一万三、〇〇〇
円の賦課処分は違法である。
4 よつて、原告は被告所沢税務署長に対し、昭和四八年度分所得税につき請求趣
旨記載のとおり更正処分、過少申告加算税賦課処分の取消を求める。
三 被告所沢税務署長の主張
1 原告の請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は争う。
本件青色承認取消処分が適法であることは、第一の三に記載したとおりで、原告は
青色申告の計算をすることができず、事業専従者控除として金一七万円を計上でき
るのに止まる。
3 過少申告加算税  金一万三、〇〇〇円
総所得金額金三五一万二、一一〇円(別表四)、更正処分により納付すべき所得税
額金二六万一、八〇〇円(三八八、三〇〇-一二六、五〇〇)に一〇〇分の五を乗
ずる(国税通則法六五条)と金一万三、〇〇〇円となる。
4 よつて、昭和四八年度分所得税更正処分、過少申告加算税賦課処分の取消を求
める原告本訴請求は失当として棄却すべきである。
第六 審査裁決取消の訴
一 当事者双方の求めた裁判
1 原告
被告国税不服審判所長が昭和五一年三月二三日付で原告に対してした(1)被告所
沢税務署長の青色承認取消処分に対する審査請求を棄却する旨、(2)同被告の昭
和四五年度分所得税更正処分のうち金二万八、二〇〇円を越え金一四万四、七〇〇
円までの部分の審査請求を棄却し、過少申告加算税を金二、三〇〇円と更正する
旨、(3)昭和四六年度分所得税金二〇万七、六〇〇円とする更正処分のうち金二
万七、九〇〇円を越える部分、過少申告加算税金五、七〇〇円の賦課処分に対する
各審査請求を棄却する旨、(4)昭和四七年度分所得税金一六万七、二〇〇円とす
る更正処分のうち金三万三、〇〇〇円を越える部分に対する審査請求を棄却する旨
の、各裁決を取消す。
訴訟費用は被告国税不服審判所長の負担とする。
2 被告国税不服審判所長
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因
1 原告は昭和四九年六月七日被告国税不服審判所長に対し本件青色承認取消処分
の審査請求をしたところ、同被告は昭和五一年三月二三日右審査請求を棄却する旨
裁決し、第二ないし第四の各二1記載のように原告がそれぞれ昭和四五ないし四七
年度分所得税更正処分、過少申告加算税(昭和四七年度分を除く。)賦課処分につ
き各審査請求し、同被告が審査裁決した。
2 右各審査請求について被告国税不服審判所長は併合審理をしたが、その裁決手
続に次の違法があり、各裁決はすべて違法である。
(一) 本件青色承認取消処分に対する審査裁決には、判断遺脱ないし理由不備の
違法がある。すなわち、右裁決は、(1)単に所得税法一五〇条一項一号の取消事
由に該当するとしてあるのみで、同号所定の帳簿書類の「備付け」「記録」「保
存」のいずれに該当するかを特定し、その内容を具体的に記載していない。(2)
その審理の段階で、帳簿書類の提示がなされたのになお原処分を維持しなければな
らない理由につき、その判断を示していない。
(二) 昭和四五ないし四七年度分更正処分等に対する審査請求につき、首席国税
審判官は昭和四九年六月二六日に担当審判官指定前で処分庁が答弁書を提出してい
ない段階において原告審査請求人に対し同年七月四日までに不服事由の計数的な説
明資料の提出を求めたが、それは、首席国税審判官に実質審査の権限がない上、原
処分の当否の審査という審査構造に反して、被告所沢税務署長から答弁書が提出さ
れ争点が確定する前に、その立証を求めるもので、違法である。
(三) 本件青色承認取消処分、昭和四五ないし四七年度分更正処分等に対する審
査請求につき、原告は昭和四九年一一月一日国税通則法九六条二項にしたがい担当
審判官に対し、原処分庁から提出された一件書類その他関係書類の閲覧を求めたと
ころ、そのうち、所得調査書の閲覧を拒否し、これにかえて原告に所得調査書等要
約書を閲覧させた。しかし、右閲覧請求を拒否すべき正当な理由はなく、担当審判
官が原処分庁に代つて右要約書のような文書を作成交付し、原処分庁から提出され
た所得調査書の閲覧に代えることは、右法条に反して許されず違法である。
3 よつて、原告は被告国税不服審判所長に対し、請求趣旨記載の各裁決の取消を
求める。
三 被告国税不服審判所長の主張
1 原告の請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は争う。
(一) 本件青色承認取消処分に対する審査裁決に判断遺脱、理由不備の違法はな
い。所得税法一五〇条一項一号は、税務職員が正規の簿記原則に従い整然明瞭に記
載された帳簿書類を調査することによつて、納税義務者の日日の取引状況を検証、
把握し得るようにすることが、正当な税額を認定するのに不可缺である、との趣旨
に基づいて規定されたちので、その趣旨は、備付け、記録、保存のすべてに共通す
るから、右裁決が帳簿書類の提示がない事実を単に同法一五〇条項一号該当と判断
し記載したことは、何ら判断遺脱ないし理由不備に当らない。
(二) 計数説明資料の提出について
原告が国税通則法施行規則二条に基づき、首席国税審判官に提出した審査請求書に
よると、同法施行令三二条、同法八七条一項三号所定の審査請求の趣旨及び理由を
計数的に説明する資料が添付されていなかつたため、右首席国税審判官はその審査
権限に基づき、事後の手続の効率的な運用に資する目的で、同法施行令三二条に基
づき、かつ、同条により求めるものであることを明記してその資料の任意提出を促
したもの(担当審判官の提出命令と異なる。一で右手続は適法である。
(三) 閲覧請求拒否について
被告国税不服審判所長は原告主張のように、原処分庁から送付の一件記録中、所得
調査書の閲覧を拒不口した。しかし、右書類には第三者である取引先の営業内容を
忠実に記載したために他の部分と相俟つて被調査者の個人的秘密事項とみるべき記
載があつたから、国税通則法九六条二項後段の閲覧を拒否できる正当な理由に該当
するものとして、閲覧を拒否した。そして、このような場合は、担当審判官が、そ
の閲覧に代えて、所得算定の基礎を要約した書面を作成の上閲覧させる方法をとつ
たので実質的な防禦権の行使を妨げるものではないから、その方法が閲覧権を定め
た法条に反し許されないものであるということはできない。
3 よつて、各裁決の取消を求める原告本訴請求は失当として棄却すべきである。
第七 証拠(省略)
○ 理由
第一 本件青色承認取消処分の取消の訴
一 原告の請求原因1の事実(昭和四五年度分以後の青色承認を取消す旨の処分、
異議、審査)は当事者間に争いがない。
二 原告は、署員に対し所定の帳簿書類の提示を拒否した事実がないから、その事
実の存在を前提とする本件青色承認取消処分は違法である旨主張する。
1 次の事実は当事者間に争いがない。
(一) 所沢税務署員A国税調査官が昭和四八年八月一日原告宅にいたり原告に対
し、原告の昭和四七年度分所得の調査に来たことを告げ、青色申告者が大蔵省令に
より備付け、記録、保存すべき帳簿書類の提示を求めたところ、原告は帳簿書類に
ついては、実弟Bにすべて任せB宅にあるので同人方に行き調査して欲しい旨答え
た。そこで、A係官は直ちに飯能市<地名略>所在の原告経営の工場に赴きBに対
し、原告との応待状況を告げて帳簿書類の提示を求めたところ、Bは、準備ができ
ていないとしてその提示をしなかつた。
(二) 前記署貝A及び同署員C事務官は同年八月三日事前の通知をせずに原告方
にいたり原告に対し、再度帳簿書類の提示を求めたが、原告がB宅で見せてもらう
よう述べたので、Aらは、前記<地名略>の工場へ赴きBに対し帳簿書類の提示を
求めたが、Bが、帳簿は自宅に置いてあり、八月一〇日には調査に応ずる旨述べ
た。
(三) 署貢A、CのほかD国税調査官が原告及びBと約束した同年八月一〇日原
告に連絡した上B宅にいたりBに対し、所定の帳簿書類の提示を求めたが、調査の
具体的理由の告知を求めて帳簿書類を提示しなかつた。
(四) 署員Aが同年九月七日事前の通知をせずに原告方にいたり原告に対し面接
したが、原告は帳簿書類を提示しなかつた。
(五) 署員Aが同年九月八日事前の通知をせずに原告方にいたり原告に対し、所
定の帳簿書類の提示を求めたが、原告がこれに応じなかつた。
(六) 署員A、Cが同年九月一八日事前の通知をせずに原告方にいたり原告に対
し、所定帳簿書類の提示を求め、原告と同道の上B宅にいたりBに対し、同様の趣
旨を述べたが、Bが帳簿書類を提示しなかつた。
2 前記1の争いのない事実以外の原告主張事実(請求原因3(一)の(1)ない
し(6))に沿う証人B、同Fの証言は署員に対し非協力的態度に終始しているの
でにわかに信用し難く、他に前記原告主張を認めることのできる証拠はない。
かえつて、前記争いのない事実、証人A、同D(第一、二回)の証言を総合する
と、次の各事実が認められる。
(一) 原告の青色承認は同法一四七条により昭和四五年一二月三一日の経過とと
もにその承認があつたものとみなされたもので、被告所沢税務署長が原告の昭和四
五ないし四七年度分所得の確定申告書を調査したところ、右各年度分の所得金額が
原告の事業規模及び同業者の所得率に照らして低額であるとみられ、原告に対して
は昭和四三年に事業の概況等について調査したが、昭和四一年以後所得金額の調査
を行なつていなかつたので、その調査をすることとした。そこで、署員Aは昭和四
八年八月一日Bと面会した後再び原告方に戻り原告に対し、Bから所定の帳簿書類
を持参させた上原告方で調査に応ずるよう説得したが、原告は「Bに任せているの
で難かしい。」旨述べこれを断つた。しかし、署員は重ねて原告に対し、次回の調
査期日までに帳簿書類を原告方に持参し原告方で調査に応ずるよう求めた。また、
同日<地名略>工場の機械設備状態及び従業員数が申告どおりであるかを確認する
ため工場内への立入検査をしようとしたところ、原告の実弟で従業員のEから拒否
された。
(二) 署員A、Cが同年八月三日B方に行つた際Bは民商会員数名を補助者と称
して立会わせ、民商会員らからも調査理由を言えと言われた。
(三) 署員D、A、Cが同年八月一〇日B方に行つたところ、民商会員数名がテ
ープレコーダーを用意して待機しており、A係官が八月三日に臨場した際青色承認
が取消される場合があると述べたことにつき、口々に抗議した。
署員らはBに対し、昭和四五ないし四七年度分の所定の帳簿書類を提示するよう求
めたところ、Bは、調査理由を具体的に告知しない限り、提示には応じない旨述べ
た。そこで、署員Dが、原告の所得については、数年間調査を行なつておらず、原
告の右各年度分の確定申告の所得金額が正確であるかどうか確認する必要があるの
で、所得税法二三四条の質問検査権に基づいて行なうことを告知したが、Bは調査
理由をたとえば必要経費のどの部分が多いというような具体的な指摘がないかぎり
応じないとの態度を固執して、その提示を拒絶した。そこで、署員らは、帳簿書類
の種類、取引先についてBに発問したところ、同人は金銭出納帳、経費帳、伝票、
領収証等が各年度毎に備え付け、記録、保存してあり、取引先は四か所あると答
え、居合わせた原告の補助者と称する民商会員のFが、傍らに置かれた紙箱の中か
ら帳簿とみられるものを一冊とり出し、表紙部分だけを示してこのとおり備え付け
てあるから確認するようにと述べたので、署員Dがそれを受取ろうとして手を伸ば
したところ、これを手渡さず、箱にしまいこみその調査を制した。そのため、その
帳簿が法規で定められた帳簿であるかどうか何ら確定する資料もなく、その後も一
切帳簿書類を提示せず、調査の具体的理由の告知を迫り、原告側と署員らとの押問
答が続いたため、署員らは、午前一〇時三〇分ころから午後二時三〇分ころまで約
四時間にわたる調査準備を打切つて帰つた。
(四) 署員Aが同年九月七日原告方にいたり原告に対し前同様述べたが、原告は
言を左右にして協力する態度を示さなかつた。
(五) 署員Aが同年九月八日午前九時過ぎころBから電話で次回期日の打合せを
受けたが、その際Bが「申告書や帳簿書類のどこが間違つているか、たとえば、収
入とか経費とかを特定しない限り帳簿書類の提示には応しない。」旨述べ、依然不
提示の態度を変えなかつた。
(六) 署員Aが同年九月一八日原告宅に行き、原告と共にさらにB宅に赴いた
が、Bは帳簿の提示に応じなかつた。そこで、署員は帳簿書類を提示の上調査に応
じないと青色承認が取消されることがある旨重ねて注意した。しかし、立会つた民
商会員数名が、今度は調査理由をはつきり言えるか、反面調査しただろう等と口々
に述べ、原告は口ではBに対し帳簿書類を提示するように慫慂しながら、実際に
は、Bがこれに応じないのを見ても、同人を積極的に説得しまたは帳簿書類を自ら
提示しようとしなえつたので、結局、その日も調査がなされず、調査不能となつ
た。
以上のとおり認められる。
3 右1の争いのない事実、2の認定事実によると、署員が申告の所得額が同業者
に比較し低いので所得税法二三四条の質問検査として原告に対し所定の帳簿書類を
提示し調査に応ずるよう述べたところ、帳簿書類を提示せず、その調査を拒否した
ものである。したがつて、この点の原告主張は失当である。
三 原告は、原告が調査に応じなかつたことは所得税法一五〇条一項一号の取消事
由に該らない旨主張する。
税務職員が、青色申告を承認した納税者の申告にかかる所得額が同業者と比較し低
きに過ぎるため所得額調査をしようとして、所得税法二三四条の質問検査権に基づ
き青色申告者に対し、同法一四八条一項の大蔵省令で定めるところにより備付け、
記録、保存を義務づけられた帳簿書類の提示を求めたところ、右申告者が、帳簿書
類のどの事項について調査するのかなどを明らかにしその具体的な調査理由を告知
しないかぎりその提示に応じられない旨述べて調査を拒否した場合、その調査拒否
の事実から、青色承認取消事由としての同法一五〇条一項一号の帳簿書類の備付
け、記録、保存が大蔵省令の定めるところに従つて行なわれていないとの事実を推
認し、青色承認を取消すことができるものと解するのが相当である。その理由は次
のとおりである。
1 青色申告制度は、納税者が自己の計算した税額を納付するという民主的な租税
制度で、納税者がその計算の根拠となるべき帳簿書類を備付け、記録、保存するこ
とにより、申告納税の公正を確保し、白色申告者に対する賦課方法との公平を図
り、申告を容易ならせてその協力を促進している。このように、帳簿書類の備付
け、記録、保存がその制度を支える根幹となつており、納税者がその義務を負うこ
とは同法一四八条の定めるところであつて、この義務には、課税庁の税務職員が必
要に応じ同法二三四条の質問検査をする際に申告者が所定の帳簿書類を提示してそ
の調査に応ずる義務をも包含しているものと解される。税務職員が帳簿書類の提示
を求めることは、納税者の申告が正当であるかどうか所定の帳簿書類に基づいて検
討し調査することであり、抽象的に同業者の所得に比較して申告所得額が低い旨を
述べればその調査の必要性の理由告知としでは十分であり、それ以上具体的に帳簿
中のどの事項とか、所得額計算の基礎となる売上高、経費などの項目の特定、その
数額などを調査理由として告知する必要がないことは、前記のような帳簿書類の性
質からみて明らかである。
2 (一)この青色申告が所得税(及び法人税)課税の原則的な制度であり(実際
の事業所得者への普及率は、個人約五〇パーセント、法人約八〇パーセントである
という。)、納税者が大蔵省令で定めるところに従い帳簿書類の備付け、記録、保
存をし、真実に従い記録している場合原則として青色承認が許可され、明示的な許
可がなくても、却下処分のないかぎり青色承認があつたものとみなされる(同法一
四七条)。本件の原告もまた、このようなみなし青色承認である。したがつて、租
税制度上この青色申告をできるかぎり維持しようとするのが所得税法の基本的な立
場であると解され、青色申告制度の目的からみてそれを阻害するような違反行為に
対する制裁措置として、同法一五〇条一項各号の青色承認取消事由が規定されたも
のであり、その制裁内容として、青色申告の場合の諸規定、たとえば、更正は帳簿
書類を調査の上所得金額の計算に誤りがある場合にのみすることができ(同法一五
五条一項)、その更正理由を附記しなければならないこと(同法同条二項)、各引
当金(同法五二ないし五五条の二)、事業専従者控除(同法五七条)、純損失の繰
越控除(同法七〇条)、租税特別措置法上の減価償却(一一ないし一三条の二、一
五ないし一六条の二、一八条)準備金(一九ないし二〇条の四)その他多くの特別
措置規定などの適用を、排除している。換言すれば、青色申告者に特典(恩恵的権
利)を認めたものではなく、その違反者に制裁として不利な計算規定を適用するこ
ととしたものである。
(二) したがつて、同法一五〇条一項一号が所定の帳簿書類の備付け、記録、保
存がないことを青色承認取消事由とした法意は、その事実が青色申告を維持できな
い結果をもたらすので、その制裁措置として取消すこととしたものとみるべきであ
り、備付け、記録、保存が真実存在しないとの事実が認定できない場合でも、それ
が真偽不明の結果青色申告を維持できない場合もまたその事由に包含されるものと
解しなければ、その法意に沿わないことになる。ところで、青色申告者が税務職員
の質問検査に応じて帳簿書類を提示して調査に応ずる義務があること前記1のとお
りであり、それを提示して調査に応じなかつたため、帳簿書類の備付け、記録、保
存がされているかどうか真偽不明となつた場合その調査拒否という義務違反事実か
ら、その制裁として、同法一五〇条一項一号の所定帳簿書類の備付け、記録、保存
がされていないとの事実を推認することができるものというべきである。
(三) 右のような制裁としての事実の推認は、処分時にそれが存在すれば足り、
真実の事実の推認ではなく、その事実の擬制にすぎない。このことは、国税通則法
九七条四項からも類推される。したがつて、納税者が青色承認取消処分に対する異
議手続で始めて帳簿書類を提示し調査に応じたとしても、少くともその調査対象年
度分の青色承認取消処分の効力には何らの影響を及ぼすものではないと解するのが
相当である。
(四) 前記の制裁の必要性は次の点からもいえる。青色申告者が帳簿書類を提示
せず調査を拒否し前記義務に違反し青色申告制度を根底から覆えす行為をしなが
ら、他方において、青色申告により自己の計算した税額のみを納税する利益をえよ
うとするのは、信義誠実の原則に反するものといわなければならない。
3 本件青色承認取消事由としての同法一五〇条一項一号の事実は調査拒否事実か
ら推認した事実であり、そのような推認も適法であること前記のとおりであるか
ら、そのことは何ら立法的解釈でもなければ租税法律主義に反するものでもない。
4 本件青色承認取消事由の推認方法は前記のとおりであつて何ら経験則に反する
ものではない。
5 以上のとおりであるから、この点の前記原告主張は失当である。
四 原告は、本件青色承認取消処分が、通知書に、原告の調査拒否事実のみ記載
し、それが所得税法一五〇条一項一号の備付け、記録、保存のいずれにあたるかの
理由記載を欠く点で違法であるという。
本件青色承認取消の通知書には、「昭和四五年分以降三年間の所得税の調査に関
し、必要があつたので、昭和四八年八月一日、同月三日、同月一〇日、九月七日及
び同月一八日の五回にわたり当税務署のA国税調査官があなたの自宅とあなたの申
し出による使用人宅において、あなたに事業に関する帳簿書類の提示を求めたとこ
ろ、その提示がありませんでしたが、このことは、青色申告にかかる帳簿書類の備
付け、記録又は保存が所得税法一四八条に定めるところに従つて行なわれていない
ことになります。したがつて、所得税法一五〇条一項一号に該当にますので、青色
申告の承認を取消します。」と記載されていたことは当事者間に争いがない。この
事実によると、本件青色承認取消理由の要旨は、原告の調査拒否の事実から所得税
法一五〇条一項一号の帳簿書類の備付け、記録、保存のすべてがないと認定したと
いうのであり、そのような認定が相当とみられること前記三説示のとおりであるか
ら、右理由附記には何ら違法がない。この点の原告主張は失当である。
五 原告は、本件青色承認取消処分に対する異議申立手続で、帳簿書類を提示し、
調査に応じたから青色承認取消理由が消滅した旨主張する。
しかし、青色承認取消に対する異議手続で納税者が帳簿書類を提示し調査に応じで
も処分の効力に影響がないこと前記三(三)のとおりであるから、原告の前記主張
は失当である。
六 以上のとおりであるから、原告の被告所沢税務署長に対する本件青色承認取消
処分の取消を求める請求は失当として棄却を免れない。
第二 昭和四五年度分所得税等課税処分取消の訴について
一 原告の請求原因1の事実(更正、過少申告加算税賦課、異議、審査)は当事者
間に争いがない。
二 1昭和四五年度分所得額の計算基礎のうち収入金額、経費等青色申告計算を除
く項目について、別表一の一昭和四五年度分総所得金額の該当欄記載のとおりであ
ることは、当事者間に争いがない。
2 収入金額
(一) 武蔵野金属工業所分につき、原告はEのアルバイトで原告との取引ではな
い旨主張し、証人Bの証言の一部はこれに沿う。しかし、弁論の全趣旨から成立が
認められる甲第一五号証の二、証人Bの証言の他の部分を総合すると、Eは原告の
実弟で原告の経営するプレス加工業(山川製作所の名称を用いた。)の従業員で原
告から給与の支払を受ける労働者にすぎず、何ら機械設備などの生産手段を有せ
ず、独自の事業を営む経済力もないことが認められるから、Eが自ら注文を受け加
工することはなかつたものというべきであり、前記証言の一部は信用し難い。他に
右原告主張を認めることのできる的確な証拠はない。
かえつて、証人Gの証言から成立が認められる乙第一号証、証人G、同Hの各証言
を総合すると、武蔵野金属工業所は山川製作所こと原告との取引であると認識して
おり、製品の納入、代金の請求は、いずれも原告従業員Bが行ない、取引先からの
支払に対しては山川製作所名義の領収証を発行していたこと、原告が昭和四五年度
中に武蔵野金属工業所に売渡した代金額は金二八万九、三四〇円であることが認め
られ、所得額計算上は債権発生主義に従い右額が収入額であり、それが同年度内に
支払われたかどうかは計算に影響を及ぼさない。
(二) サイタ工業分
証人Iの証言から成立が認められる甲第一号証、同証人の証言を総合すると、原告
が昭和四五年度中にサイタ工業に売渡した額は金二一万七、三〇〇円である旨記載
されていることが認められるが、右数額は原告の自認額金二四万九、八〇〇円とも
相違するので、右記載は不正確であるとみるべきでにわかに信用し難く、他に右原
告主張額を認定できる証拠はない。かえつて、成立に争いのない乙第三号証、弁論
の全趣旨を総合すると、原告が昭和四五年度中にサイタ工業に売渡した額は同年八
月から同年一二月まで各金七万二、五〇〇円ずつ合計金二九万〇、〇〇〇円であ
り、これから振込手数料金三〇〇円を控除した金二八万九、七〇〇円がその収入額
となることが認められる。
(三) サイタエレベーター製造分
原告が昭和四五年度中にサイタエレベーター製遣に売渡した金額は、前出甲第一号
証の記載では金四〇三万九、四七二円であるが、成立に争いのない乙第五号証(サ
イタエレベーター製造の報告書。いわゆる反面調査。以下同様である。)では金四
〇三万二、二五〇円であり、差があるが、右乙第五号証の記載の方がその書面の性
質上正確であるとみられ、これより被告所沢税務署長も自認し弁論の全趣旨から認
められる協力会費金一万二、〇〇〇円、振込手数料七〇〇円を差引いた金四〇一万
九、五五〇円がその収入額である。
(四) 半田プレス工業分
原告が昭和四五年度中に半田プレス工業に売渡した金額は、前記甲第一号証による
と、金一四七万一、三八四円であるが、成立に争いのない乙第七号証(半田プレス
工業の報告書)では金一六八万〇、一三九円であり、その差があるが、右乙第七号
証の方がその書面の性質上正確であるとみられるから、その売上額は金一六八万
〇、一三九円というべきである。
(五) ミツミ精工分
原告が昭和四五年度中にミツミ精工に売渡した金額は、前記甲第一号証によると、
金一〇六万八、六三八円であり、成立に争いのない乙第九号証の一(ミツミ精工の
報告書)、証人Aの証言を総合すると、金一〇八万九、七一七円(納入金二一四万
八、五四七円から支給金一〇五万八、八三〇円を差引いたもの。原告の売上帳(甲
第一号証)の記載では、ミツミ精工から仕入れた原材料一右甲第九号証の一で支給
と記載した分)を仕入れに計上せず、現金収入のみを計上しているため、右原材料
はプラスマイナス零となる計算をして、納入代金相当額からその代物弁済の形で仕
入れた原材料分を差引いた額が売上額となる。
)であることが認められ、両者に差があるが、右乙第九号証の一の方がその書類の
性質上正確であるとみられるから、その売上額は金一〇八万九、七一七円というべ
きである。
(六) 赤井製作所に対する昭和四五年度中の売上額が金九万五、八〇〇円である
こと、同年度の雑収入が金三万四、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(七) 以上のとおりであるから昭和四五年度の収入総額は別表一の2昭和四五年
度分収入一覧表記載のとおり金七四九万八、二四六円となる。
3 青色申告計算について
本件青色承認取消は適法であること前記第一のとおりであるから、原告は昭和四五
年度分について所得税法上の規定による青色申告の場合の計算(青色事業専従者給
与額、貸倒引当金繰入額の各主張)をすることができない。したがつて、原告主張
の青色事業専従者給与額金七四万六、四〇〇円を計上することができず、これに代
えて、事業専従者控除額として金一五万円(その額について原告は特に争わない。
一を計上できるのにすぎず、また、貸倒引当金繰入額金一〇万一、六〇六円も計上
することができない。
4 以上の事実に基づいて計算すると、昭和四五年度分の総所得金額は被告所沢税
務署長主張額と同一の金一九五万六、〇六五円となり、この点の原告主張は失当で
ある。
三 過少申告加算税についてみるのに、原告は前記計算の結果申告額との差額金一
〇八万六、三二〇円だけ過少申告したことになり、過少申告加算税基礎税額金四万
七、〇〇〇円(過少申告額を右額とした場合のこの計算につき原告は争わない。)
に六〇〇分の五を乗じた範囲内で金二、三〇〇円の過少申告加算税を賦課した被告
所沢税務署長の賦課処分は適法である。この点の原告主張も理由がない。
四 よつて、原告の被告所沢税務署長に対する昭和四五年度分更正処分、過少申告
加算税賦課処分の取消を求める請求は失当として棄却を免れない。
第三 昭和四六年度分所得税等課税処分取消の訴について
一 原告の請求原因1の事実(更正、異議、審査)は当事者間に争いがない。
二 1昭和四六年度分所得額の計算基礎のうち収入金額、経費中の青色申告の計
算、農業所得を除く項目について、別表二の1昭和四六年度分総所得金額の該当欄
記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
2 収入金額
(一) 武蔵野金属工業所分
原告はEのアルバイトで原告との取引ではない旨主張し、証人Bの証言の一部はこ
れに沿う。しかし、同証人の証言が信用し難いことは第二の二2(一)に述べたと
おりであり(なお、そのうち、甲第一五号証の二に代えて甲第一八号証の二とす
る。)、他に右原告主張を認めることのできる的確な証拠はない。かえつて、証人
Gの証言から成立が認められる乙第二号証、同証人の証言を総合すると、山川製作
所こと原告が昭和四六年度中に武蔵野金属工業所に売渡した代金額は金二八万五、
一六〇円であることが認められる。
(二) サイタ工業分
原告が昭和四六年度中にサイタ工業に対し売渡した代金額は、前出甲第一号証によ
ると、金七六万二、八九〇円で原告主張額八五万四、二九〇円より少いのでにわか
に信用し難く、かえつて、成立に争いのない乙第四号証によると、金八九万二、六
一五円であることが認められ、この額より弁論の全趣旨から認められる振込手数料
金八〇〇円を差引いた金八九万一、八一五円がその収入額となる。
(三) サイタエレベーター製造分
原告が昭和四六年度中にサイタエレベーター製造に対し売渡した代金額は、前出甲
第一号証によると、金一六二万七、一九七円であり原告主張額金一四九万五、三二
八円より多く、他方、成立に争いのない乙第六号証(サイタエレベーター製造の報
告書)によると、金一七一万九、五〇四円であることが認められ、右報告書の方が
その性質上信憑性が高いから、右乙第六号証の金額が相当であり、この額より弁論
の全趣旨から認められる協力会費金一万二、〇〇〇円を差引いた金一七〇万七、五
八四円がその収入額となる。
(四) 半田プレス工業分
原告が昭和四六年度中に半田プレス工業に対して売渡した代金額は、前出甲第一号
証によると、金一八六万〇、三二六円であるが、右金額は成立に争いのない乙第八
号証によると、サイタエレベーター製造が昭和四六年度中に原告に支払つた額であ
ることが認められ、債権発生主義により収入が確定されるべきであるから右額は収
入額とはいえず、その売渡代金額は右乙第八号証によると、金一八五万一、五〇三
円であることが認められる。
(五) ミツミ精工分、ミツミ電機分
前出甲第一号証によると、原告はミツミ精工分とミツミ電機分を一部混同して記載
しており、昭和四六年度中に、ミツミ精工及びミツミ電機の両者に売渡した代金額
は金一七二万八、一二六円であるが、それは原告主張額金一七九万三、九四七円と
も相違しこれより少いのでにわかに信用し難く、かえつて、前出乙第九号証の一、
二、証人Aの証言を総合すると、ミツミ精工分が金一五六万二、四三一円(昭和四
五年度分と同様に、乙第九号証の一の納入額計金二三二万八、六四〇円から支給額
計金七六万六、二〇九円を差引いた額)であることが認められ、成立に争いがない
乙第一二号証(ミツミ電機の報告書)によると、ミツミ電機分が金一三万一、九四
四円であることが認められる。
(六) 東志分
原告が昭和四六年度中に東志に売渡した代金額は、前出甲第一号証によると、金一
〇二万六、七二二円であるが、成立に争いのない乙第一〇号証(東志の報告書)に
よると、金一〇八万七、四五八円であり、右乙第一〇号証の方がその書類の性質上
信憑性が高いので、売上額は金一〇八万七、四五八円とみられ、この額より弁論の
全趣旨から認められる振込手数料金五五〇円を差引いた金一〇八万六、九〇八円が
収入額となる。
(七) 丸大製作所分
原告が昭和四六年度中に丸大製作所に売渡した代金額は、前出甲第一号証に全くそ
の記載がないが、原告主張の金八万七、〇〇〇円とも異なるので、右甲第一号証は
にわかに信用し難く、かえつて、証人Hの証言から成立が認められる乙第一一号証
(丸大製作所の報告書)、同証人の証言を総合すると、金四三万五、四五七円であ
ることが認められる。
(八) 日野電気工業分
原告が昭和四六年度中に日野電気に売渡した代金額は、前出甲第一号証によると、
全くその記載がないが、原告主張の金八万三、九八〇円とも反するので、右甲第一
号証の記載はにわかに信用し難く、かえつて、成立に争いのない乙第一三号証(日
野電気工業の報告書)、証人Aの証言を総合すると、金六万二、七八〇円(乙第一
三号証のうち飯能信用金庫振込料計金二〇〇円を除く。)であることが認められ
る。
(九) 原告の昭和四六年度中の売上高が、ゼネラル分金三二万八、七六六円、荒
幡製作所分金二万二、〇五〇円、武田製作所分金八万三、〇〇〇円であること、雑
収入金九万二、三六〇円であることは当事者間に争いがない。
(一〇) 以上の事実に基づいて昭和四六年度分の収入を計算すると、別表二の2
昭和四六年度分収入一覧表記載のとおりで、合計金八五六万一、七五八円となり、
被告所沢税務署長主張額と同一になり、この点の原告主張は失当である。
3 本件青色承認取消が適法であることは前記第一のとおりであり、原告は青色申
告の計算(貸倒引当金戻入額、青色事業専従者給与額、貸倒引当繰入額、青色事業
主特別経費準備金の各主張)をすることかできず、事業専従者控除として金一六万
五、〇〇〇円(その額については争いがない。)を計上できるのに止まる。
4 農業所得
原告の昭和四五年度分農業所得が金二万九、五〇〇円であつたこと、原告が昭和四
六年度分の農業所得を申告しなかつたことは、当事者間に争いがなく、成立に争い
がない乙第一九、第二〇号証、撮影年月日、場所につき被告所沢税務署長主張のよ
うな写真であることにつき争いがない乙第一五号証ないし第一八号証、証人Jの証
言から成立が認められる第一四号証、証人Jの証言を総合すると、原告が昭和四六
年度中も飯能市<地名略>に畑一二アールに野菜などを作付して耕作し、収入をえ
ていること、被告所沢税務署長が隣地耕作者から原告の耕作状況を聴取の上確認
し、農業所得につき、農業所得標準率を用いて金二万三、七六〇円と推計したこと
が認められ、右推計は相当とみられる。
5 以上の事実により昭和四六年度分所得金額を算定すると、別表二の1昭和四六
年度分総所得金額の被告所沢税務署長の主張額金二五八万七、八四二円と同一額と
なり、原告主張は失当である。
三 したがつてまた、同被告の右主張額に基づき過少申告加算税計算の基礎となつ
た所得税金一一万四、六〇〇円(同被告額を基礎にした右計算につき原告は争わな
い。)に一〇〇分の五を乗じた額のうち金五、七〇〇円を過少申告加算税とした
(但し、異議決定で原処分を一部変更した。)ことに特段の違法も見当らない。
四 よつて、原告の被告所沢税務署長に対する昭和四六年度分更正処分、過少申告
加算税賦課処分の取消を求める請求は失当として棄却を免れない。
第四 昭和四七年度分所得税更正処分取消の訴について
一 原告の請求原因1の事実(更正、異議、審査)は当事者間に争いがない。
二 1 昭和四七年度分所得額の計算基礎のうち経費等に関する青色申告計算及び
農業所得を除くその余の項目について、別表三の昭和四七年度分総所得金額の該当
欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
2 本件青色承認取消が適法であることは前記第一のとおりであるから、原告は昭
和四七年度分につき青色申告の計算(貸倒引当金戻入額、青色事業専従者給与額、
貸倒引当金繰入額、青色申告控除額の各主張)をすることができず、事業専従者控
除として金一七万円(その額については争いがない。)を計上できるのにすぎな
い。
3 農業所得
原告の昭和四五年度分農業所得が金二万九、五〇〇円であり、原告が昭和四七年度
分農業所得の申告をしなかつたことは当事者間に争いがなく、昭和四六年度分農業
所得額が金二万三、七六〇円と推計されること前記第三の二4のとおりであり、第
三の二4記載の各証拠を総合すると、前記同様の事実及び昭和四七年度分農業所得
につき被告所沢税務署長が金二万八、五六〇円と推計したことが認められ、右推計
が相当であるとみられる。
4 以上の事実により昭和四七年度分所得金額を算定すると、別表三昭和四七年度
分総所得金額の被告所沢税務署長主張額金二二六万六、二七〇円と同一になり、原
告の主張は失当である。
三 よつて、原告の被告所沢税務署長に対する昭和四七年度分更正処分の取消を求
める請求は失当として、棄却を免れない。
第五 昭和四八年度分所得税等課税処分取消の訴について
一 原告の請求原因1の事実(更正、過少申告加算税賦課、異議、審査)は当事者
間に争いがない。
二 1昭和四八年度分所得額の計算基礎のうち青色申告計算の点を除く項目につい
て、別表四の昭和四八年度分総所得金額の該当欄記載のとおりであることは当事者
間に争いがない。
2 本件青色承認取消が適法であることは第一のとおりであり、原告は昭和四八年
度分についても、青色申告計算(貸倒引当金戻入額、青色事業専従者給与額、貸倒
引当金繰入額、青色申告控除額の各主張)をすることができず、事業専従者控除と
して金一九万二、五〇〇円(その額については争いがない。)を計上できるのにす
ぎない。
3 したがつて、昭和四八年度分所得額は、別表四の昭和四八年度分総所得金額の
被告所沢税務署長主張のとおり、金三五一万二、一一〇円となり、原告主張は失当
である。
三 したがつてまた、原告は青色申告計算分だけ過少申告したことになるところ、
本件青色承認取消が前記のように適法であるのにその取消を求め、青色申告計算に
よる申告をしたことはその分だけ過少申告をしたものというのを妨げず、被告所沢
税務署長が所定の計算(その計算方法は争いがない。)をして過少申告加算税金一
万三、〇〇〇円を賦課したことには、特段の違法も見当らない。
四 よつて、原告の被告所沢税務署長に対する昭和四八年度分更正処分、過少申告
加算税賦課処分の取消を求める請求は失当として棄却を免れない。
第六 裁決取消の訴について
一 原告の請求原因1(各裁決)の事実は当事者間に争いがない。
二 原告は、本件青色承認取消処分に対する被告国税不服審判所長の審査裁決に
は、原告の調査拒否が所得税法一五〇条一項一号の帳簿書類の備付け、記録、保存
のうちいずれに該るかの判断及び審理段階で帳簿書類が提示されたのに原処分を維
持する理由の判断をしておらず、判断遺税ないし理由不備の違法があると主張す
る。
しかし、原告に対する本件青色承認取消処分の取消請求が理由がなく棄却すべきこ
と前記のとおりであつて、被告国税不服審判所長が原告主張の各点につきあらため
て理由を付した審判をしたとしても、右請求につき原処分が適法で取消理由がない
ことが本判決により確定している以上、裁決取消を求める新たな訴訟において本判
決と異なる判断をすることができないから、裁決の理由不備ないし判断遺脱を理由
に裁決を取消すべき訴の利益を有しない(裁決の理由附記に関する最高裁判所昭和
三七年一二月二六日民集一六巻一二号二五五七頁参照)。したがつて、原告の前記
主張は不適法である。
三 原告は、昭和四五ないし四七年度分更正処分等に対する再審査請求につき、担
当審判官が決まらず、その争点が確定する以前に首席国税審判官が原告に対し計数
説明資料の提出を求めて立証させた違法があるという。しかし、この原告主張もま
た前記二と同様、各原処分取消請求が棄却される本件においては、右原告主張の理
由があつたとしても、これを理由に裁決を取消すべき利益がなく、右主張は不適法
というべきである。
四 原告は、各裁決手続で関係書類の閲覧請求をしたところ被告国税不服審判所長
は、そのうち所得調査書の閲覧を拒否しこれに代えて所得調査書等要約書(同被告
作成)を閲覧させたのは違法である旨主張する。
1 右原告主張は手続上の瑕疵の主張に止まらず、所得調査書を閲覧させることに
よつて、原告が新たな各原処分違法事由を発見しこれを理由に攻撃防禦方法を提出
することもありえるところであり、この場合には裁判所のした本判決の結論に影響
を及ぼすこともないわけではないから、右主張は適法である。よつて、すすんで、
その当否について判断する。
2 成立に争いのない丙第三号証、被告税務署長本人尋問の結果を総合すると、原
告が昭和四九年一一月一日被告国税不服審判所長に対し、各審査請求に関し、処分
庁から提出された一件書類の閲覧請求をしたところ、同被告は原告の昭和四五ない
し四七年度分の各確定申告書、各更正及び加算税賦課決定、右各決定に対する異議
申立書、これに対する異議決定、昭和四五年度分以後の青色承認取消決定、これに
対する異議申立書、右申立に対する異議決定を原告の閲覧に供したが、記録中の所
得調査書については閲覧を拒否し、これに代え、同被告が作成した所得調査書等要
約書を閲覧させた、との事実が認められる。
3 同被告は、右閲覧拒否は国税通則法九六条二項後段の閲覧拒否の正当な理由に
あたり、それに代えて、同被告の作成した所得調査書等要約書を閲覧させたのであ
るという。
前項1冒頭記載の証拠を総合すると、次の事実が認められる。
所得調査書の記載中には、被調査者の取引銀行及び融資額、日時など営業の秘密に
属する事項についても、反面調査自体の信憑性を高めるために記載しており、それ
が秘密保持事項に該ると考えられ、また、税務調査に関し留意すべき事項が書込ま
れている部分があり、その公表が事後における同種の税務調査の障害となり行政上
の機密事項と考えられたが、これらの事項が公表可能な部分と混然一体となり、物
理的に分離することが困難な状態であつた。そこで、同被告は所得調査書に記載し
てある事項のうち、これらの部分を除き原告の防禦に必要な限りできるだけ原本に
忠実に必要な部分を抽出要約した所得調査書等要約書を作成の上、これを原告に閲
覧させた。
以上のとおり認められ、これを左右する証拠はない。
右認定事実によると、被告国税不服審判所長がその所得調査書につき、被調査者の
営業上の秘密保持及び行政上の機密保持の必要からその閲覧を拒否したのは、右該
当部分に関して、国税通則法九六条二項後段にいう閲覧拒否の「正当な理由」があ
るものということができる。その他の部分につき閲覧させるべきであるが、その一
方法として、右認定のような所得調査書等要約書を新たに作成しこれを閲覧させる
方法によつても、これによつて格別原告の攻撃防禦に支障を及ぼすべき特段の事情
が認められない本件では、これを違法であるとすることはできない。
4 したがつて、原告の前記主張は失当である。
五 以上のとおりであるから、本件青色承認取消処分、昭和四五ないに四八年度分
更正処分等の各審査請求を棄却した被告国税不服審判所長の各裁決に違法はなく、
原告本訴請求は失当として棄却を免れない。
第七 結論
よつて、原告の各被告に対する各本訴請求はいずれも失当として棄却することと
し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主
文のとおり判決する。
(裁判官 高木積夫 小林敬子 坂部利夫)
別表一の1~四(省略)

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