弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成19年8月8日判決言渡
平成18年(行ケ)第10527号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年7月18日
判決
原告X
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人深澤幹朗
同小谷一郎
同岩瀬昌治
同高木彰
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−6891号事件について平成18年10月24日
にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成5年12月6日,発明の名称を「揚液装置」とする発明につ
き特許出願(特願平5−339698号。以下「本件出願」という。)をし
たが,特許庁が平成16年1月29日に本件出願につき拒絶査定をしたの
で,これを不服として審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2004−6891号事件として審理した結
果,平成18年10月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年11月15日,原告
に送達された。
2特許請求の範囲の記載
本件出願の願書に添付した明細書(以下,願書に添付した図面を含めて「
本件明細書」という。)記載の特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりで
ある(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】タンク(1)内に液体部(2)と減圧された気体部(3)
とを形成し一端がタンク(1)外より液体部(2)に連通する降液管(
5)を設け,その降液管(5)の他方を垂直方向にタンク(1)内の液
面(4)以下に延設し,その液面(4)以下の降液管(5)の延設部に水
車(6)排液口(7)を設け,その排液口(7)が浸漬する貯液槽(8)
を設けその液面は大気中に開放されている。その貯液槽(8)より吸液
管(9)間欠的に液体を送入する揚液ポンプ(10)揚液管(11)を通
じて液体を循環させてパスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を
利用してエネルギーを発生させる揚液装置。」
(なお,本件明細書(甲1)記載の請求項1の「巡環させて」は「循環さ
せて」の誤記であることは当事者間に争いがない。本請求項において,「
巡環」を「循環」との意味に理解することに相当性を欠く点は見出せない
ので,請求項1の記載は上記の意義を有するとの前提に立って,以下判断
することとする。)
3審決の内容
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,
特開昭61−200399号公報(以下「引用文献」という。甲2)に記載
された発明(以下「引用発明」という。)及び本件出願前の周知の技術(特
開平1−224478号公報(甲3),特開平2−19662号公報(甲
4))に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものであ
る。
審決は,本願発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点及び相違点
があると認定した。
(一致点)
タンク内に液体部と減圧された気体部とを形成し一端がタンク外より液体
部に連通する降液管を設け,その降液管の他方を垂直方向にタンク内の液体
部の液面以下に延設し,その液面以下の降液管の延設部に水車を設けてい
る。貯液槽より間欠的に液体を送入する揚液のためのポンプ揚液管を通じて
液体を移動させてパスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用し
てエネルギーを発生させる揚液装置。
(相違点)
本願発明においては,「降液管(5)」の「排液口(7)が浸漬する貯液
槽(8)を設けその液面は大気中に開放されている。貯液槽(8)より吸液
管(9)間欠的に液体を送入する揚液ポンプ(10)揚液管(11)を通じ
て液体を循環させて」いるのに対して,引用発明においては,「導管16」
の吸込口が浸漬する「液体14」を設けその液面は大気中に開放されてい
る。液体14より導管16間欠的に液体を送入する真空ポンプ18を通じて
液体を移動させている点。
第3当事者の主張
1原告主張の取消事由
審決には,以下のとおり,本願発明と引用発明の一致点の認定の誤り(取
消事由1),相違点の看過(取消事由2),相違点についての容易想到性の
判断の誤り(取消事由3)がある。
(1)取消事由1(一致点の認定の誤り)
ア引用発明について
(ア)引用発明は,以下のとおり,「パスカルの法則とフックの法則と
重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させ」ていない。
①パスカルの法則を利用していないこと
引用発明は,真空ポンプの排出口が大気圧であり,また,バルブ
24,31を開くと大気圧が上から押し入ってくるので,大気圧の
圧力エネルギーを利用できない。
引用発明は,タンク内を真空(水柱−10メートルに相当)にし
ても水柱は7メートル位しか上昇しないので,大気圧を利用してい
るとはいえず,パスカルの法則を適用できない。
引用発明は,大気圧を利用してエネルギーを得ることはできない
ので,真空ポンプの動力を減少させていない。
②液体を間欠的に圧送(送入)することができないこと
引用発明は,ポンプの始動停止を繰り返さなければ,液体を間欠
的に送入することができず,ポンプを作動させながら液体を間欠的
に(液体を圧送するピストンポンプのように)圧送(送入)するこ
ともできない。
③フックの法則を利用していないこと
引用発明は,真空ポンプの作動中には,タンク内の圧力は減少
し,空気は膨張している状態にあり,圧縮は起こらず,フックの法
則の作用効果がない。
一方,真空ポンプが停止した後に「バルブ24,31」を開く
と,大気圧に開放されたタンク内の圧力が増加するだけで圧力変
動(圧縮・膨張)を繰り返さないので,液面の上下動もありえず,
フックの法則は利用できない。
仮に真空ポンプが停止した後に圧力変動が起こるとしても,真空
ポンプの動力を減少させるとの作用効果は奏さない。
④重力を利用していないこと
引用発明は,上部タンクを大気圧に開放して初めて液体が落下
し,液体の落下は上部タンク内の空気の圧力の低下の作用効果を奏
するものではないので,重力を利用しているとはいえない。
⑤エネルギー効率が極めて悪いこと
圧力は,位置エネルギーと運動エネルギーの等価で変換されるの
で(ベルヌーイの定理),引用発明は,エネルギー効率が極めて悪
い。
(イ)引用文献には,パスカルの法則・フックの法則・重力の相互作用
に関する記載が一切ない。
イ本願発明について
これに対し,本願発明では,揚液ポンプは,一方に大気圧を,他の一
方に減圧された「空気室」を配することによって大気圧の圧力エネルギ
ーを取り込むことができるようにした上で,ポンプを作動させながら間
欠的に(1秒間隔位の時間内に,ピストンポンプのように)液体を圧送
するものであり,圧送時(揚液時)にあっては,上部タンクの水面でタ
ンク内の空気圧を押し上げるので,その時にパスカルの法則・フックの
法則が働いて,「空気室」(タンク内の気体部)の空気の圧縮(収縮)
が起こって応力が発生し,圧送の休止期にあっては,降水菅の中の水柱
が自然落下(重力の作用で)するので「空気室」の空気は膨脹する。
このように本願発明では,ポンプを作動させながら間欠的に液体を圧
送することにより,空気室の空気の圧縮・膨脹のサイクルを繰り返して
エネルギーを発生させ,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互
作用を利用してエネルギーを発生させ」ている。
ウ一致点の認定の誤り
以上のとおり,引用発明は,「パスカルの法則とフックの法則と重力
の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」ではなく,本
願発明と別個の発明であるから,審決の一致点の認定は誤りである。
(2)取消事由2(相違点の看過)
本願発明と引用発明には,以下の相違点があるにもかかわらず,審決は
これらを看過した。
ア本願発明では,揚液ポンプで直接液体を圧送(送入)し,空気を減圧
する真空ポンプは存在せず,空気を減圧するのに動力(エネルギー)を
必要としないのに対し,引用発明では,真空ポンプで空気を媒体として
液体を吸引(送入)し,真空ポンプで吸引しなければ空気を減圧するこ
とができず,減圧するのに動力(エネルギー)を必要とする。
イ本願発明は,大気圧を利用してエネルギーを得て,揚液ポンプ自体の
動力を減少させることができるのに対し,引用発明は,大気圧を利用し
てエネルギーを得ることはできず,真空ポンプの動力を減少させること
はできない。
ウ本願発明は,ポンプを作動させながら液体を間欠的に送入(圧送)す
ることができるのに対し,引用発明の真空ポンプは,ポンプを停止させ
なければ,液体を間欠的に送入することができない。
エ本願発明では,液体が循環するのに対し,引用発明では,真空ポンプ
を1回毎に停止させ,基本的に液体を上の方へ揚げるだけで循環しな
い。
(3)取消事由3(相違点についての容易想到性の判断の誤り)
審決は,相違点について,「本願発明のように,「タンク」の「液体
部」に連通する「降液管」の「排液口が浸漬する貯液槽を設けその液面は
大気中に開放されている。その貯液槽より吸液管間欠的に液体を送入する
揚液ポンプ揚液管を通じて液体を循環させ」るようにした揚液装置は,原
査定で例示した特開平1−224478号公報及び特開平2−19662
号公報に記載されているように本件出願の出願前周知の技術手段であ
る。」(審決書5頁16行∼21行),「そして,引用文献記載の発明に
上記本件出願の出願前周知の技術手段を適用することにより,本願発明を
得る程度のことは,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を持
つ者が容易に想到することができたものと認められる。」(同5頁22行
∼25行)と判断している。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
ア周知技術の認定の誤り
審決が周知例として挙げる特開平1−224478号公報(甲3)及
び特開平2−19662号公報(甲4)に係る各発明の出願人は,いず
れも原告であり,上記各発明と本願発明とは出願人が同一人であるか
ら,特許法29条の2ただし書が適用され,甲3及び甲4は周知例とし
ての適格を欠く。したがって,甲3及び甲4記載の技術手段は,本件出
願前に周知の技術手段であるとはいえない。
イ容易想到性の判断の誤り
(ア)本願発明は,前記(1)及び(2)のとおり引用発明とは全くメカニズ
ムが異なる別個の発明であって,引用発明が備えず,かつ,本件出願
前に周知ではなかった「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換し
てエネルギーを取り出す」という技術手段を備えている。
そして,本願発明の「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換し
てエネルギーを取り出す」という技術分野は,本件出願当時,存在し
なかった。
(イ)以上のとおり,審決の周知技術の認定に誤りがあること,本願発
明の「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換してエネルギーを取
り出す」という技術分野は本件出願当時存在しなかったことなどに照
らすならば,当業者において本願発明を容易に想到することはできな
かったものであるから,これが容易想到であるとした審決の判断は誤
りである。
2被告の反論
(1)取消事由1及び2に対し
ア引用発明は,本願発明と同様に「パスカルの法則とフックの法則と重
力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」であるとし
た審決の認定に誤りはない。
(ア)引用発明における「パスカルの法則」の利用
「パスカルの法則」(「パスカルの原理」)とは,「密閉された容
器内で静止した流体の一部に圧力が加えられると,その圧力は強さを
変えることなく流体のすべての点に伝えられること。」をいう。引用
発明において,「水14」の表面に作用する大気圧が,「水1
4」,「導管16」内の水及び「タンク12」内の「液体21」のす
べての点に伝えられている以上,引用発明もパスカルの原理を利用し
ている。
(イ)引用発明における「フックの法則」の利用
「フックの法則」とは,「物体に力を加えて変形を起こすとき,弾
性限度内においては,変形の大きさは加えた力に比例すること。」を
いう。引用発明において,「真空ポンプ18」の作動時に「タンク1
2」内の「液体21」の上方に残る空気が圧縮され,「タンク12」
内の「液体21」の上方が「空気室」を形成し,そこが「空気ばね」
となって,変形を起こしている以上,引用発明もフックの法則を利用
している。
(ウ)引用発明における「重力」の利用
引用発明は,「タンク12」内の「液体21」を,「排出管2
0」,「バルブ装置24」及び「導管30」を介して落下させてお
り,この液体の落下は,重力の作用で起こるから,引用発明において
も重力を利用している。
(エ)相互作用の利用によるエネルギーの発生
上記(ア)ないし(ウ)に加えて,①引用発明では,「真空ポンプ1
8」を運転することによって「水14」内の水を「タンク12」内へ
汲み揚げている以上,「真空ポンプ18」は「揚液のためのポンプ」
であること,②引用発明においては,「真空ポンプ18」を運転した
り,停止したりして「タンク12」の「液体12」の上方の空気を間
欠的に排出することができ,当然に「タンク12」内に液体を間欠的
に送入することができること,③引用発明においては,「真空ポンプ
18」が停止した後に,「バルブ24,31」を開くと,「タンク1
2」内の圧力は大気圧より低い圧力から大気圧まで上昇し,その後
に「真空ポンプ18」を作動させると,「タンク12」内の圧力は大
気圧より小さくなって「タンク12」内に水が汲み揚げられる結
果,「タンク12」内の「液体21」の水位は当然に上昇し,それに
伴い,「タンク12」内に残る空気が圧縮され,これを繰り返すこと
により,「タンク12」内の圧力は変動を繰り返し,その際に,「タ
ンク12」内の液面は上下動すること,④引用発明において,「バル
ブ24,31」を開くと,大気圧が上から押し入ってくる」というこ
とは,大気圧を利用していることに他ならないこと,⑤引用発明にお
いて,「水14」の表面に大気圧を作用させて,「導管16」及び「
タンク12」内に水を汲み揚げている以上,「真空ポンプ18」の動
力を減少することができること,⑥引用発明も,大気圧を利用して,
最終的には「ローヘッドタービン」を作動させることにより,エネル
ギーを発生させることができることに照らすならば,引用文献に,パ
スカルの法則・フックの法則・重力の相互作用について明記されてい
なくとも,引用文献に接した当業者であれば,引用発明がパスカルの
法則・フックの法則・重力の相互作用を利用してエネルギ−を発生さ
せていることを理解できる。
イ以上のとおり,引用発明は,本願発明と同様に「パスカルの法則とフ
ックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装
置」であって,審決がした本願発明と引用発明の一致点の認定に誤りは
なく,原告主張の相違点の看過もない。
(2)取消事由3に対し
相違点に係る本願発明の構成(「タンク」の「液体部」に連通する「降
液管」の「排液口が浸漬する貯液槽を設けその液面は大気中に開放されて
いる。その貯液槽より吸液管間欠的に液体を送入する揚液ポンプ揚液管を
通じて液体を循環させる」ようにした揚液装置)は,本件出願前に周知で
あり,審決の周知技術の認定に誤りはない。そして,当業者であれば,引
用発明に,上記周知の揚液装置の技術手段を適用して,本願発明を容易に
想到することができたから,これと同旨の審決の容易想到性の判断に誤り
はない。
(3)予備的主張
仮に,原告が主張するとおり審決認定の引用発明及び周知技術に基づい
て当業者が本願発明を容易に想到することができたものではないとして
も,審決が周知事項の例示として挙げた甲3,4に記載されている事項(
ただし,審決において周知事項として挙げた技術とは異なる。)を引用例
として,これに審決認定の引用文献(甲2)記載の発明を適用することに
より,当業者が本願発明を容易に想到することができたものであるから,
審決の結論に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1及び2(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について
原告は,審決には,引用発明を「パスカルの法則とフックの法則と重力の
相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」であるとした認定に
誤りがあるので,本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定を誤った
と主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)本願発明について
本願発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書(甲1)によれ
ば,本件発明における「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用
を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」は,次のような機序で作動
することが記載されていると認められる。すなわち,
アまず,揚液装置内に液体(水)を充満させる。ただし,タンク(1)
内は満杯とせずに,タンク(1)内に液体部(2)と気体部(3)とを
形成させる。なお,貯液槽(8)の液面(4´)は大気中に開放されて
いる。
イ次に,降液管バルブ(5´)を開放してタンク(1)内の水を自然落
下させ,タンク(1)内の気体部(3)の圧力を低下させて大気圧以下
の一定の負圧にすると同時に,揚液ポンプ(10)を間欠的に作動させ
て貯液槽(8)の水をタンク(1)内に送入する。一方,自然落下した
水は貯液槽(8)に溜りそこから揚液ポンプ(10),揚液管(11)
を通りタンク(1)に入り降液管(5),水車(6),貯液槽(8)と
循環する。
ウ上記イのように水を循環させる間において,「大気圧以下の負圧に減
圧された気体部(3)」は「空気室」として機能し,揚水ポンプ(1
0)によって送り込まれた水は「空気室」の圧力を増加させ,「空気
室」を圧縮(収縮)させてエネルギーを吸い上げ,降液管(5)の水柱
の重さによる自然落下の流量によって「空気室」の圧力を減少させ,「
空気室」を膨張させてエネルギーを放出する。このような「空気室」の
圧力変動(圧縮,膨脹)による弾性力によりタンク(1)内の水面(液
面(4))を上下動させ,貯液槽(8)の液面(4´)に作用する大気
圧と共に,パスカルの法則により,揚水ポンプ(10)の送水時に揚水
ポンプの動力を減少させる。揚水ポンプの休止期(吸込期)には逆止弁
である降液管バルブ(5´)によってエネルギーの逆流を防止するた
め,揚水ポンプ(10)の動力は損失しない。揚水ポンプ(10)の送
水量と降液管(5)の落下流量を一定にすると「空気室」の圧力は一定
の範囲内で微少の圧力変動を繰り返す。
そして,降水管(5)を自然落下した水柱のうち,「空気室」を膨脹
させてその圧力を低下させた水柱分を差し引いた残りの水柱分が降水
管(5)下部の水車(6)発電機を回転させてエネルギーを外部に取り
出すことができる。
以上のとおり,本願発明における「パスカルの法則とフックの法則と重
力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる」との意義は,上記ウの
ように,「空気室」(タンク(1)内の気体部(3))の圧力変動による
弾性力及び水柱(タンク(1)内の液体部の水)の自然落下の相互作用を
利用して,エネルギーを発生させることをいうものと理解される。
(2)引用発明について
ア引用文献(甲2)の記載
引用文献には,次のような記載がある。
(ア)「1,発明の分野本発明は,液体を第一レベルからより高い第
二レベルに汲み揚げる装置,とりわけ,汲み揚げられる液体の表面に
大気の圧力を利用する装置に関する。」(1頁右下欄5行∼9行)
(イ)「2,従来技術液体を第一の低いレベルから第二のより高いレ
ベルに汲み揚げるための数多くの電動ポンプが考案されてきている。
これらの従来技術は通常大量の電気エネルギーを消費する。電気エネ
ルギーの消費を少なくするために,汲み揚げられる液体の表面に作用
する大気の圧力を利用する,例えば通常の水リフトポンプのような,
さまざまの装置が考案されてきた。通常の水リフトポンプは10∼1
5フィート(3,048m−4,572m)以上高いところへ揚水す
る能力はない。通常の電気力によるポンプの揚水能力と大気による水
リフトポンプの低エネルギー消費を組み合せることのできるポンプは
従来存在しない。」(1頁右下欄10行∼2頁左上欄3行)
(ウ)「3,実施例・・・図面を詳細に見ると,符号10は液体を大気
の圧力を利用して低いレベルから高いレベルに揚水する装置の全体を
示している。第1図に見られるように,気密の真空充填タンク12(
本明細書においてはVFTと呼称する)は水のごとき液体14の上方
に配置されている。導管16は水14の中から上方へ延び,タンク1
2の低い部分内で開いている。示された方向においてのみ流れを許容
するチェックバルブ17は,導管16の一部で,これはVFT12の
すぐ下に位置する。タンク12と水14の間の垂直距離は装置10が
達成すべき利用目的により変更することができるが,実用上の限界は
20∼25フィート(6,096m−7,62m)である。周囲温度
及び圧力条件を含めた様々な要素が高さを決定し更にトリチェリの原
理により制約が生ずる。20∼25フィート(6,096m−7,6
2m)の範囲は適当な容積のVFTとその排出量を可能にする。更に
単に部分的な真空あるいは極端に低い空気圧力が必要とされる。ロー
タリータイプあるいはリングタイプの真空ポンプ18がタンク12の
頂部に備えつけられ,これはタンク12の内部と連通する。排出管2
0がVFT12の底部から下方へ延びている。自動的に作動するバル
ブ装置24は排出管20に取付けられ,それの作動は以下に詳しく記
述される。」(2頁左上欄7行∼右上欄20行)
(エ)「導管30はバルブ24から下の方向へ延び以下の如き使用に供
される。
(1)ローヘッドタービンにより電気を発生させるため。・・・
更に,この装置はVFT12の頂部に連結する急速開放圧力均等化
バルブ31を含む。水位調節器32,例えばフロートのようなものが
・・・操作に使用される。自動連続調節器36は,バルブ17を含む
前述の様々なバルブを作動させ,あるいは作動を停止させるために使
用する。」(2頁左下欄1行∼19行)
(オ)「作動にあたって,自動連続調節器36が作動される。最初の始
動はVFT12がからであって,バルブ24及び17が閉じ,バルブ
31が閉じた状態において説明する。真空ポンプ18が始動しバルブ
17が開き,あるいはもしVFTの中から空気を吸い込むチェックバ
ルブ11が自動的に開いた場合は,VFT12の中の圧力が低下し導
管16の中の水14が上方へ向ってタンク12の中へ吸い込まれる。
VFT12の中の水位が上昇するにつれて,VFT内に残る空気の圧
縮があり,真空ポンプ18の効率を増大させる。圧縮動作により真空
ポンプは多量の空気を除去することができる。自動水位調節器32は
タンク12内に配置され,真空ポンプ18と電気的に連結している。
水位調節器32はタンク12内の液体21が所定のレベルに下降する
と真空ポンプ18を始動し,液体21が規定されたレベルに上昇する
と真空ポンプ18を停止させる。VFT12の充填中はバルブ24は
閉じられる。必要な水位に達し,ポンプ18が停止すると,同時に自
動連続調節器36がバルブ24及び31を開き(バルブ17は閉じた
まま),VFTから液体が排出される。その所要時間は充填する所要
時間と同じかそれより短いことが望ましい。・・・一旦水が排出され
ると,バルブ24及び31は閉じ,真空ポンプ18が始動し,バルブ
17が開き,行程が反復される。この装置の利点は大気の圧力のエネ
ルギーに加えて真空ポンプ18の利点を採用し,大量の水を揚水空気
により上昇させる経済的なシステムを提供するところにある。」(2
頁左下欄20行∼3頁左上欄12行)
イ引用発明の内容
上記アの認定事実及び図面(甲1)によれば,引用文献記載の揚液装
置は,以下のとおりの機序によって作動することが記載されていると認
められる。すなわち,
(ア)まず,最初の始動は真空充填タンク12(VFT12)が「か
ら」であって,バルブ24,17及び31が閉じた状態である。すな
わち,VFT12を気密(密封状態)にする。なお,VFT12に連
通する導管16(バルブ17はその一部)の下方の吸い込み口が浸漬
する液体14(水14)の液面は,大気中に開放されている。
(イ)次に,真空ポンプ18が始動(VFT12内の空気の除去による
減圧を開始)し,VFT12の中の圧力が低下(膨脹)し,かつ,バ
ルブ17が開くと,水14の液面に大気圧が作用することにより導管
16の中の水が上方へ向ってVFT12の中へ吸い込まれる(この吸
い込まれた水が液体21である。)。VFT12の中の水位が上昇す
ることにより,VFT12内に残る空気は圧縮される。この圧縮動作
により真空ポンプは空気の容積を減少させることができる。
(ウ)VFT12内の液体21の水位が規定されたレベルに上昇する
と,真空ポンプ18が停止し,それと同時にバルブ24及び31を開
くと,VFT12から排出された液体21がバルブ24を経て導管3
0から下方に流れ落ち,ローヘッドタービンを駆動させ電気を発生さ
せること等に利用される。この時バルブ17は閉じたままであるの
で,液体21の排出によりVFT12内の水位は低下する。VFT1
2の中の圧力はバルブ24及び31が開かれて大気が入り込み上昇す
る。
(エ)液体21が排出されタンク12内の水位が所定以下になると,バ
ルブ24及び31は閉じ,バルブ17が開かれ,真空ポンプ18が始
動し,上記②以下の動作が反復される。
(3)本願発明と引用発明との一致点
ア前記(1)及び(2)の認定事実を総合すれば,引用文献記載の揚液装置
の「タンク12」,「液体21」,「排出管20」,「液体21の液
面」,「ローヘッドタービン」,「液体14」及び「導管16」が,本
願発明の「タンク(1)」,「液体部(2)」,「降液管(5)」,「
液面(4)」,「水車(6)」,「貯液槽(8)」及び「揚液管(1
1)」にそれぞれ相当するものと認められる。
そして,前記(2)の認定事実によれば,引用文献記載の揚液装置の真空
ポンプ18が始動し,VFT12の中へ液体14(水14)の水が吸い
込まれると,VFT12内には,吸い込まれた水(液体21)の液体部
とその上部に残る空気の気体部を形成し,その気体部は減圧されている
から,引用文献記載の揚液装置においても,「タンク内に液体部と減圧
された気体部とを形成」することが認められる。
そうすると,本願発明と引用発明とは,「タンク内に液体部と減圧さ
れた気体部とを形成し一端がタンク外より液体部に連通する降液管を設
け,その降液管の他方を垂直方向にタンク内の液体部の液面以下に延設
し,その液面以下の降液管の延設部に水車を設けている。貯液槽より間
欠的に液体を送入する揚液のためのポンプ揚液管を通じて液体を移動さ
せ・・・る揚液装置。」である点で一致するものと解される。
イ引用発明は,以下のとおり,「パスカルの法則とフックの法則と重力
の相互作用を利用してエネルギーを発生させ」ているものと認められ
る。
パスカルの原理は,「密閉した静止流体は,その一部に受けた圧力
を,増減なくすべての部分に伝達するというもの」(広辞苑第5版21
39頁)である。ところで,前記(2)イのとおり,引用文献記載の揚水装
置では,VFT12(タンク12),導管16内の水及び空気は,密閉
された空間内にあることから,パスカルの原理における静水流体である
といえる。そして,VFT12の圧力の低下によって導管16内の水1
4が上方に吸い上げられ,導管16内の一部に受けた圧力は他の導管の
すべての部分に伝わることから,引用発明は,パスカルの原理を利用し
ていると解される。
フックの法則は,「物体の歪はある範囲(比例限界)内で応力に比例
するというもの」(広辞苑第5版2343頁)である。ところで,前記(
2)イのとおり,引用文献記載の揚水装置では,「真空ポンプ18」の作
動時において,「VFT12内の空気は,液体21の水位の上昇ととも
に「空気室」の容積の変動及び圧力変動が生じ,これにより応力が発生
しているといえるから,引用発明は,フックの法則を広い意味におい
て「利用」していると解して差し支えない。
重力は,「地球上の物体に下向きに働いて重さの原因になる力。地球
との間に働く万有引力と,地球自転による遠心力との合力」(広辞苑第
5版1270頁)である。ところで,前記(2)イのとおり,引用文献記載
の揚水装置では,バルブ24,31を開くことにより,タンク12(V
FT12)内から,重力の作用により,排出された水の下方に流れ落ち
るので,引用発明が重力を利用していると解される。
そして,引用文献記載の揚液装置においては,パスカルの原理の利用
・フックの法則の利用・重力を利用し,タンク12(VFT12)から
排出された液体21がバルブ24を経て導管30から下方に流れ落ち,
ローヘッドタービンを駆動させ電気(電気エネルギー)を発生させてい
るので,引用発明は,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作
用を利用してエネルギーを発生させ」ているものと解される。
ウ以上によれば,引用発明においても,VFT12内に残された空気
が「空気室」として機能し,その圧力変動による弾性力及びVFT12
内から排出される水が下方へ流れ落ちることによる相互作用を利用して
いることに照らすならば,引用発明においても,本願発明における「パ
スカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを
発生させる」構成を有しているものと解される。
以上によれば,審決がした本願発明と引用発明の一致点の認定に誤り
はない。
(4)原告の主張に対する判断
ア原告は,引用発明においては,大気圧の圧力エネルギーを利用でき
ず,真空ポンプの動力を減少させることはできないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用することができない。
(ア)前記のとおり,引用文献には,「・・・本発明は,・・・汲み揚
げられる液体の表面に大気の圧力を利用する装置に関する。」(前記(
2)ア(ア)),「3,実施例・・・符号10は液体を大気の圧力を利用
して低いレベルから高いレベルに揚水する装置の全体を示している。
・・・タンク12と水14の間の垂直距離は・・・実用上の限界は2
0∼25フィート(6,096m−7,62m)である。周囲温度及
び圧力条件を含めた様々な要素が高さを決定し更にトリチェリの原理
により制約が生ずる。20∼25フィート(6,096m−7,62
m)の範囲は適当な容積のVFTとその排出量を可能にする。更に単
に部分的な真空あるいは極端に低い空気圧力が必要とされる。」(同(
ウ)),「・・・この装置の利点は大気の圧力のエネルギーに加えて真
空ポンプ18の利点を採用し,大量の水を揚水空気により上昇させる
・・・」(同(オ))との記載がある。
上記記載と引用文献の揚水装置の作動機序(前記(2)イ)に照らすな
らば,引用文献の揚水装置は,真空ポンプの作用と共に大気圧の圧力
を利用して液体の揚水を行い,大気圧の圧力エネルギーをも利用する
ことにより真空ポンプの動力を減少させていることは明らかである。
そして,引用文献の揚水装置では,真空ポンプが停止すると同時
に「バルブ24,31」を開放させ,これによりタンク内に大気を取
り込むが,このことが大気圧の圧力エネルギーを利用することを不可
能とする根拠となるものとはいえない。
(イ)なお,「トリチェリの原理」により,理論的には,大気圧と平衡
する水柱を約10メートル(水銀柱約760ミリメートル)とするこ
とができるが,引用文献の揚水装置では,「周囲温度や圧力条件を含
めた様々な要素」により大気圧と平衡する水柱が減少することを考慮
し,タンク12と水14の間の垂直距離(水柱の高さの最大値に相
当)を実用可能な6.096m−7.62mの範囲にしたものと理解
することができる。したがって,引用文献の揚水装置においては,水
柱の高さが最大10メートルまで上昇しないとしても大気圧の圧力を
利用していないということはできない。
(ウ)以上のとおり,引用発明は真空ポンプの作用と共に大気圧の圧力
を利用して液体の揚水を行っており,このように大気圧の圧力とポン
プを併用して揚水をしている点で本願発明と引用発明は共通し,大気
圧の圧力エネルギーを利用して真空ポンプの動力を減少させているの
であるから,引用発明では大気圧の圧力エネルギーを利用することが
できないとの原告の主張は採用することができない。
イ原告は,引用発明では,ポンプの始動停止を繰り返さなければ,液体
を間欠的に送入することができないのに対し,本願発明では,ポンプを
作動させながら液体を間欠的に(液体を圧送するピストンポンプのよう
に)圧送(送入)する点において相違すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用することができない。
すなわち,本願発明の特許請求の範囲には「間欠」時間の間隔,「送
入」の態様を具体的に規定する記載はないから,引用発明の真空ポンプ
において,ポンプを始動停止させて間欠的に送入する構成を有する以
上,「液体を間欠的に送入する」という点で,本願発明の揚液ポンプと
引用発明の真空ポンプとの相違はない。
ウ原告は,引用発明では,真空ポンプが作動中は,タンク内の圧力は減
少中で,空気は膨張している状態にあり,圧縮は起こらず,真空ポンプ
が停止した後は,(バルブ24,31が開かれて)大気圧に開放された
タンク内の圧力が増加するだけで圧力変動(圧縮・膨張)を繰り返さな
いので,液面の上下動もありえず,フックの法則は利用できないなどと
主張する。
しかし,原告の主張は,既に(3)イで述べたとおり採用することができ
ない。
すなわち,前記(2)イ認定の引用文献の揚水装置の作動機序に照らすな
らば,引用発明では,①真空ポンプ18の始動時には,密閉されたVF
T12内の空気の除去による減圧を開始するとともに,液体14(水1
4)の液面に大気圧が作用することにより導管16の中の水が上方へ向
ってVFT12の中へ吸い込まれ,その水位が上昇することにより,V
FT12内に残る空気は圧縮されること,すなわち,VFT12内の空
気(空気室)の減圧及び圧縮が生じること,②真空ポンプ18の停止時
には,バルブ24及び31が開かれて大気が入り込みタンク12内の空
気(空気室)の圧力は上昇するとともに,VFT12内からの液体21
の排出によりVFT12内の水位は低下すること,③上記①の真空ポン
プの始動及び上記②の停止の動作が反復されることが認められる。上記
①ないし③によれば,引用発明において,タンク12(VFT12)内
の空気(空気室)の圧力変動を繰り返していることが認められる。
したがって,引用発明においても,フックの法則について,広い意味
において「利用」していると解して差し支えない。
エ原告は,引用発明では,上部タンクを大気圧に開放して初めて液体が
落下し,液体の落下は上部タンク内の空気の圧力の低下の作用効果を奏
するものではないので,重力を利用しているとはいえないこと,圧力
は,位置エネルギーと運動エネルギーの等価で変換されるので(ベルヌ
ーイの定理),引用発明は,エネルギー効率が極めて悪いことなどを根
拠に,引用発明は,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用
を利用してエネルギーを発生させ」ていないと主張する。
しかし,引用発明でも重力を利用していること(前記(3)イ)は既に判
断したとおりであり,また,ベルヌーイの定理から直ちに引用発明のエ
ネルギー効率が極めて悪いということもできないから,原告の上記主張
は,その前提を欠き採用することができない。
オ原告は,引用発明では,真空ポンプで空気を媒体として液体を吸引(
送入)し,真空ポンプで吸引しなければ空気を減圧することができず,
減圧するのに動力(エネルギー)を必要とするのに対し,本願発明で
は,揚液ポンプで直接液体を圧送(送入)するので,空気を減圧する真
空ポンプは存在せず,空気を減圧するのに動力(エネルギー)を必要と
しない点で相違すると主張する。
しかし,本願発明では「揚液ポンプ」を用いているのに対し,引用発
明では「真空ポンプ」を用いていることは,後記のとおり,審決が相違
点として認定した上で,容易想到性の判断をしていることに照らすなら
ば,審決に上記相違点の看過があるとの原告の主張は採用することがで
きない。
カ原告は,引用発明は,大気圧を利用してエネルギーを得ることはでき
ず,真空ポンプの動力を減少させることはできない,真空ポンプを停止
させない限り,液体を間欠的に送入することができないのに対し,本願
発明は,大気圧を利用してエネルギーを得て,揚液ポンプ自体の動力を
減少させることができ,ポンプを作動させながら液体を間欠的に送入(
圧送)することができる点で相違すると主張する。
しかし,原告の主張は,前記ア及びイで述べたとおりの理由により,
採用することができない。
キ原告は,本願発明では,液体が循環するが,引用発明では,真空ポン
プを一回毎に停止させ,基本的に液体を上の方へ揚げるだけで循環しな
い点で相違すると主張する。
しかし,原告主張の相違点は,後記のとおり,審決が相違点として認
定しており,審決に上記相違点の看過があるとの原告の主張は採用する
ことができない。
(5)小括
以上のとおり,原告主張の取消事由1及び2は理由がない。
すなわち,本願発明と引用発明とは,『本願発明においては,「降液
管(5)」の「排液口(7)が浸漬する貯液槽(8)を設けその液面は大
気中に開放されている。貯液槽(8)より吸液管(9)間欠的に液体を送
入する揚液ポンプ(10)揚液管(11)を通じて液体を循環させて」い
るのに対して,引用発明においては,「導管16」の吸込口が浸漬する「
液体14」を設けその液面は大気中に開放されている,液体14より導管
16間欠的に液体を送入する真空ポンプ18を通じて液体を移動させてい
る点。』で相違するとした審決の相違点の認定に誤りはない。
なお,本願発明では「揚液ポンプ(10)揚液管(11)を通じて液体
を循環させて」いるのに対して,引用発明では「真空ポンプ18を通じて
液体を移動させて」いるとの構成の相違に基づいて,本願発明において
は,揚液ポンプ(10)により貯液槽(8)の液体をタンク1に圧送して
移動させ,これによりタンク1の空気圧は加圧されて正圧になるのに対し
て,引用発明においては,真空ポンプ18によりタンク12内の空気を排
出して液体14の水を吸引して移動させ,これによりタンク12の空気圧
は減圧されて負圧になる点で相違していることも自明である。
2取消事由3(相違点についての容易想到性の判断の誤り)について
(1)容易想到性の有無について
上記の1(5)「小括」で述べた相違点を基礎として,審決に,原告主張に
係る容易想到性判断の誤りがあるか否かについて判断する。
審決が認定するとおり(審決書5頁16行∼21行),本件出願の当
時,『「タンク」の「液体部」に連通する「降液管」の「排液口が浸漬す
る貯液槽を設けその液面は大気中に開放されている。その貯液槽より吸液
管間欠的に液体を送入する揚液ポンプ揚液管を通じて液体を循環させ」る
ようにした揚液装置』は周知であったものと認められる(例えば,甲3,
4)。この周知の揚液装置において,「揚液ポンプにより貯液槽の液体を
タンクに圧送して移動させ,これによりタンクの空気圧は加圧されて正圧
となる」ようにする技術手段が用いられていることは自明であるから,こ
のような技術手段もまた周知であったものと認められる。
そして,前記認定のとおり,本願発明と引用発明は,審決認定のとおり
の一致点を有し,大気圧の圧力とポンプを併用して液体を揚水している点
で共通していることに照らすならば,当業者であれば,引用文献記載の揚
液装置に,上記周知の技術手段を適用して,真空ポンプに代えて揚液ポン
プを用い,相違点に係る本願発明の構成とすることは,格別困難なく,容
易に想到することができたものと認められる。
したがって,審決に容易想到性の判断を誤った違法はない。
(2)原告の主張に対する判断
ア原告は,審決が周知例として挙げる甲3(特開平1−224478号
公報),甲4(特開平2−19662号公報)に係る各発明の出願人
は,いずれも原告であり,上記各発明と本願発明とは出願人が同一人で
あるから,特許法29条の2ただし書が適用され,甲3及び甲4は周知
例としての適格を欠くので,甲3及び甲4記載の技術手段は,本件出願
前に周知の技術手段であるとはいえないと主張する。
しかし,甲3(平成1年9月7日公開)及び甲4(平成2年1月23
日公開)は,いずれも本件出願(出願日・平成5年12月6日)の前に
公開されており,本件出願は,甲3及び甲4に係る特許出願の「公開
後」にされたものであるから,本件において,後願が先願の「公開前」
である場合に一定の要件の下に先願の公知を擬制することを規定した特
許法29条の2の適用の余地はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ原告は,本願発明は,引用発明とは全くメカニズムが異なる別個の発明
であって,引用発明が備えず,かつ,本件出願前に周知ではなかった「大
気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換してエネルギーを取り出す」とい
う技術手段を備えていることなどに照らすならば,当業者において本願発
明を容易に想到することはできなかったと主張する。
しかし,先に認定したとおり,引用発明は,大気圧の圧力とポンプを併
用して液体を揚水している点で本願発明と共通し,大気圧をも利用して,
ローヘッドタービンを駆動させ電気エネルギーを発生させる発明であるこ
とに照らすならば,原告がいう「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変
換してエネルギーを取り出す」という技術思想を備えているといえるか
ら,原告の上記主張は採用することができない。
(3)小括
当業者が引用発明に周知の技術手段を適用して本願発明を容易に想到す
ることはできたとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は
理由がない。
3結論
原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,他にも審決の認定判
断の誤りについて縷々主張するが,いずれも審決を取り消すべき瑕疵に当た
らない。
よって,被告の予備的主張について判断するまでもなく,原告の本訴請求
は理由がない(なお,審判手続における公正の確保のための特許法の諸規
定,とりわけ審決に理由を付することを求めた趣旨等に照らして,本訴にお
いてした被告の予備的主張は,失当であることを付言する。)。以上のとお
りであるから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛