弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中三五〇日を本刑に算入する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意(上告趣意補充書による趣意を含む。)第一点、第二点、
第八点、第九点、弁護人植松功の上告趣意(上告趣意補充書による趣意)第三、第
四について
 所論のうち、憲法三条違反、判例違反をいう点は、原審における所論指摘の公判
期日において公判手続が更新されていることが当該公判調書の記載により明らかで
あるから、前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも
刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 被告人本人の上告趣意第四点、弁護人植松功の上告趣意第一点(上告趣意補充書
による趣意第一を含む。)について
 所論のうち、憲法三八条三項違反をいう点は、原判決の引用する第一審判決挙示
の自白以外の証拠により自白が補強されていることは明らかであるから、前提を欠
き、その余の点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上
告理由にあたらない。
 被告人本人の上告趣意第三点、第七点について
 所論のうち、憲法三一条違反、判例違反をいう点は、原判決の主文によれば、原
判決が被告人に不利益に刑を変更しているものでないことが明らかであるから、前
提を欠き、その余の点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五
条の上告理由にあたらない。
 同第六点について
 所論は、憲法三一条違反をいう点もあるが、実質は単なる法令違反、量刑不当の
主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 同第一〇点について
 所論のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は第一審公判廷での被告人の
供述を第二審において証拠として採用することができない旨を判示しているもので
はないから、前提を欠き、その余の点は、違憲をいう点を含めて実質は単なる法令
違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 同第一一点について
 所論のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切で
なく、その余の点は、単なる法令違反事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴法四
〇五条の上告理由にあたらない。
 同第五点、第一二点、第一三点、弁護人植松功の上告趣意補充書による趣意第二
について
 所論は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条
の上告理由にあたらない。
 弁護人植松功の上告趣意第二点について
 所論は、憲法三六条違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実
誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 同第三点について
 所論は、要するに、刑法二四三条に規定する同法二四〇条の未遂とは強盗が人を
殺そうとしてこれを遂げなかつた所為をいうのであるから、原判決がAに対する傷
害の結果につき被告人の過失を認定したのみで、何らの理由も示さず故意犯である
強盗殺人未遂罪の成立を認めたのは、右法条の解釈を誤り、その結果、当裁判所昭
和二三年(れ)第二四九号同年六月一二日第二小法廷判決、同三一年(あ)第四二
〇三号同三二年八月一日第一小法廷判決と相反する判断をしたものである、という
のである。
 よつて検討するのに、刑法二四〇条後段、二四三条に定める強盗殺人未遂の罪は
強盗犯人が強盗の機会に人を殺害しようとして遂げなかつた場合に成立するもので
あることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和三一年(あ)第四二
〇三号同三二年八月一日第一小法廷判決・刑集一一巻八号二〇六五頁。なお、大審
院大正一一年(れ)第一二五三号同年一二月二二日判決・刑集一巻一二号八一五頁、
同昭和四年(れ)第三八二号同年五月一六日判決・刑集八巻五号二五一頁参照)、
これによれば、Aに対する傷害の結果について強盗殺人未遂罪が成立するとするに
は被告人に殺意があることを要することは、所論指摘のとおりである。
 しかしながら、犯罪の故意があるとするには、罪となるべき事実の認識を必要と
するものであるが、犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必
ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において
一致することをもつて足りるものと解すべきである(大審院昭和六年(れ)第六〇
七号同年七月八日判決・刑集一〇巻七号三一二頁、最高裁昭和二四年(れ)第三〇
三〇号同二五年七月一一日第三小法廷判決・刑集四巻七号一二六一頁参照)から、
人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上、犯人の認識しなかつた人に対してその
結果が発生した場合にも、右の結果について殺人の故意があるものというべきであ
る。
 これを本件についてみると、原判決の認定するところによれば、被告人は、警ら
中の巡査Bからけん銃を強取しようと決意して同巡査を追尾し、東京都新宿区ab
丁目c番d号先附近の歩道上に至つた際、たまたま周囲に人影が見えなくなつたと
みて、同巡査を殺害するかも知れないことを認識し、かつ、あえてこれを認容し、
建設用びよう打銃を改造しびよう一本を装てんした手製装薬銃一丁を構えて同巡査
の背後約一メートルに接近し、同巡査の右肩部附近をねらい、ハンマーで右手製装
薬銃の撃針後部をたたいて右びようを発射させたが、同巡査に右側胸部貫通銃創を
負わせたにとどまり、かつ、同巡査のけん銃を強取することができず、更に、同巡
査の身体を貫通した右びようをたまたま同巡査の約三〇メートル右前方の道路反対
側の歩道上を通行中のAの背部に命中させ、同人に腹部貫通銃創を負わせた、とい
うのである。これによると、被告人が人を殺害する意思のもとに手製装薬銃を発射
して殺害行為に出た結果、被告人の意図した巡査Bに右側胸部貫通銃創を負わせた
が殺害するに至らなかつたのであるから、同巡査に対する殺人未遂罪が成立し、同
時に、被告人の予期しなかつた通行人Aに対し腹部貫通銃創の結果が発生し、かつ、
右殺害行為とAの傷害の結果との間に因果関係が認められるから、同人に対する殺
人未遂罪もまた成立し(大審院昭和八年(れ)第八三一号同年八月三〇日判決・刑
集一二巻一六号一四四五頁参照)、しかも、被告人の右殺人未遂の所為は同巡査に
対する強盗の手段として行われたものであるから、強盗との結合犯として、被告人
のBに対する所為についてはもちろんのこと、Aに対する所為についても強盗殺人
未遂罪が成立するというべきである。したがつて、原判決が右各所為につき刑法二
四〇条後段、二四三条を適用した点に誤りはない。
 もつとも、原判決が、被告人のBに対する故意の点については少なくとも未必的
殺意が認められるが、被告人のAに対する故意の点については未必的殺意はもちろ
ん暴行の未必的故意も認められない旨を判示していることは、所論の指摘するとお
りであるが、右は、行為の実行にあたり、被告人が現に認識しあるいは認識しなか
つた内容を明らかにしたにすぎないものとみるべきである。また、原判決は、Aに
対する傷害について被告人の過失を認定し、過失致死傷が認められる限り、強盗の
機会における死傷として刑法二四〇条の適用があるものと解する旨を判示している
が、右は強盗殺人未遂罪の解釈についての判断を示したものとは考えられない。原
判決は、Aに対する傷害の結果について強盗殺人未遂罪が成立することの説明とし
て、Bにつき殺害の未必的故意を認め、同人に対する強盗殺人未遂罪が成立するか
らAに対する傷害の結果についても強盗殺人未遂罪が成立するというにとどまり、
十分な理由を示していないうらみがあるが、その判文に照らせば、結局、Aに対す
る傷害の結果について前述の趣旨における殺意の成立を認めているのであつて、強
盗殺人未遂罪の成立について過失で足りるとの判断を示したものとはみられない。
 以上のとおりであつて、原判決が当裁判所の判例と相反する判断をしたものでな
いから、論旨は理由のないことが明らかである。なお、所論引用の当裁判所昭和二
三年(れ)第二四九号同年六月一二日第二小法廷判決は事案を異にし本件に適切で
ないので、右判例違反をいう点は刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 よつて、同法四〇八条、一八一条一項但書、刑法二一条により、裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
  昭和五三年七月二八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    環       昌   一
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    服   部   高   顯

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