弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件特別抗告を棄却する。
         理    由
 本件特別抗告の理由は、末尾添附の書面記載のとおりである。
 特別抗告の理由第一点について。
 所論は原決定の理由(一)において示された判断が憲法第一三条に違反するとい
うのであるが、その実質は、結局において第一審裁判官が専門医の診断書に示され
た意見を採用しないでなした措置を批難する単なる訴訟法違反の主張に帰し、特別
抗告適法の理由とならない。のみならず、被告人Aに対する収賄被告事件の記録に
ついて見ると、被告人は右事件の第一回公判以来第五回公判まで毎公判に出頭し、
多くの証人尋問の際には、弁護人と共に、かつ自らも、屡々適切な反対尋問をなし、
殊に第二回公判においては、自筆の詳細な弁明書を裁判所に提出しており、同被告
人は昭和三〇年五月三〇日の第六回公判において初めて欠席し、その公判に出頭し
た弁護人は医師B作成の診断書を裁判所に提出して、被告人不出頭の理由を述べて
公判期日の変更を求め、裁判官は之を許容して公判期日を変更し、次回期日を同年
六月六日と指定告知したうえ、同裁判官において特に慎重を期し、右医師に対し被
告人の病状等につき、照会をなして回答を求めたところ、「現在病状よりすれば出
頭に差したる支障はないものと思はれます」等の回答に接し、同年六月六日第七回
公判を開廷し、同公判においては、被告人も出頭し、裁判官及び弁護人の質問に対
しては、多くの事実関係を陳述し、最終陳述の機会には、趣旨明瞭な陳述をしてい
るばかりでなく、再び詳細な弁明書さえも提出しているのであつて、之等公判廷に
おける諸般の事情その他事案の内容、本件審理の経過等に徴すれば、被告人には所
論のように当時、公判廷において防禦能力を有しなかつたものと認めることもでき
ないのである。
 従つて、第一審裁判官において、前示の如き措置に出でたことを目して、不公平
な裁判をするおそれのあるものとは認められないから、右と同趣旨に出でた原決定
の判断は相当である。
 同第二点について。
 所論は、原決定の理由(二)において示された判断が憲法一三条に違反するとい
うのであるが、その実質は、第一審裁判所がその第七回公判において弁護人に弁論
準備の機会を与えないで結審したとして、その措置を非難するに帰着し、特別抗告
適法の理由とならない。のみならず、第一審における審理の経過に徴すれば、第七
回公判までには、弁護人において弁論の準備をなし得たはずであり、もし、その準
備が弁護人において、できなかつたものとするならば、それは弁護人の責に帰すべ
きものといわなければならない。
 同第三点について。
 所論は原決定の理由(三)において示された判断が憲法一四条一項及び同三一条
に違反するというのであるが、所論は独自の見地に立ち、原決定の認定した事実と
は全く異なる、之と相容れない事実を前提として違憲を主張するものであるから、
右違憲の主張はその前提を欠き、特別抗告適法の理由とならない。なお、所論の点
について原決定の示した判断は相当である。
 よつて刑訴四三四条、四二六条一項により裁判官全員一致の意見で主文のとおり
決定する。
  昭和三一年六月二二日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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