弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人大橋光雄、同辻畑泰輔の上告理由第一点について。
 被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の範囲内に属すると認められ
る場合であつても、それが被用者の職務権限内において適法になされたものではな
く、かつ、その相手方が右の事情を知つていたか、または少なくとも重大な過失に
よりこれを知らなかつたものであるときには、使用者は、右取引行為にもとづく相
手方の損害につき、民法七一五条所定の賠償責任を負うものでないことは、所論の
とおり、当裁判所の判例(昭和三九年(オ)第一一〇三号同四二年一一月二日第一
小法廷判決、民集二一巻九号二二七八頁)とするところである。しかしながら、原
審は、本件について右と同旨の見解に立つたうえ、本件売買契約の締結が上告人の
被用者である訴外D(原判決中Eとあるのは、Dの誤記と認める。以下同じ。)の
職務権限内において適法になされたものでないことを被上告人が知らなかつたもの
であり、かつ、これを知らなかつたことにつき被上告人側に重大な過失はなかつた
と判断して、上告人は、右売買契約にもとづく被上告人の損害につき、民法七一五
条所定の賠償責任を負うべきことを肯定したものであつて、何ら右判例に反する判
断をしたものでないことは、原判文に徴して、明らかである。したがつて、原判決
に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原判決を正解せず、または、独自の見
解に立つて、原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について。
 被上告人と訴外Dとの間の本件売買契約締結の経緯に関する原審認定の事実関係
は、原判決挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけではない。そ
して、右事実関係のもとにおいては、右売買契約の締結が訴外Dの職務権限内にお
いて適法になされたものでないことを被上告人が知らなかつた点につき、被上告人
側に重大な過失はなかつたとした原審の判断は、正当として是認することができる。
原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定を
非難するか、または、独自の見解に立つて原判決の違法をいうものにすぎず、採用
することができない。
 同第三点について。
 本件損害賠償の金額に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判
決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけ
ではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証
拠の取捨判断および事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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