弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人細谷芳郎の上告理由第一点について。
 論旨は、要するに、上告会社と被上告人B1との間に、昭和四一年二月一八日、
貸主を上告会社、借主を被上告人B1、連帯保証人を被上告人B2ほか一名として
成立した原判示の準消費貸借契約について、原判決は、右準消費貸借の目的となつ
た債務の額、すなわち、右契約成立時において被上告人B1が上告会社に対して負
担していた従前の消費貸借契約に基づく債務の額は、原判決別紙目録第一(貸借関
係)表記載の1、3、4および6の消費貸借債務(以下「本件旧債務」という。)
の未払元利金のみがこれにあたるとし、その金額を算定するにあたり、甲二号証の
一ないし四一(いずれも上告会社作成の被上告人B1あての領収証)と当事者間に
争いのない弁済関係とを総合して、本件旧債務のうち上告会社においてすでに弁済
を受けた金額を原判決別紙目録第二(弁済関係)表記載のとおりに認定したが、右
甲二号各証のうち同号証の二および同号証の三五は、いずれも本件旧債務に対する
弁済金について作成された領収証ではなく、旧債務以外の貸借関係の弁済金につい
て作成されたものであることが明らかであるのに、漫然とこれらの書証に表示され
た日時にその金額が本件旧債務に対して弁済されたものと認定したのは、審理不尽、
理由不備の違法をおかしたものであるというにある。
 よつて検討するに、右の点につき原判決の挙示する証拠関係を彼此対照すれば、
原審は、前記目録第二表記載の弁済日時、金額のうち、甲二号証の二によつて昭和
四〇年二月一一日に一万円が弁済された事実を、また、甲二号証の三五によつて同
年一二月二五日に一万二七〇〇円が弁済された事実を認定したことが認められる。
 ところで、記録に徴すると、上告会社は、昭和四一年九月一九日付準備書面をも
つて、甲二号各証のうち同号証の二および同号証の三五を除くその余の書証につい
てはいずれも本件旧債務を含む上告会社主張の貸金に対する弁済金の領収証である
ことを認め、右二通の領収証についてのみは、右貸金外の昭和三九年一二月二八日
貸付にかかる元本五万五三〇〇円の貸金に対して支払われた弁済金の領収証である
旨主張して、第一審以来、その書証の証拠力を争つてきたことが認められる。そこ
で、まず甲二号証の二についてみると、同証は、上告会社が被上告人B1から一万
円を領収した旨の昭和四〇年二月一一日付領収証であるが、その表面には、「但回
収金、残金三五、三〇〇円」と記載されている。しかるに、原審の確定するところ
によれば、本件旧債務のうち昭和四〇年二月一一日現在において存在する債務は前
記1の債務、すなわち昭和四〇年一月二五日貸付にかかる一〇万円の口のみであり、
二月一一日以前に右債務額から減少すべき金額としては、貸付の日に利息として天
引を受けた六〇〇〇円があるにすぎないから、右一万円の弁済によつてその債務残
額が三万五三〇〇円となることはありえないのである。しかも、1の債務の弁済期
は同年二月二三日であり、また、弁済期限までの利息の天引を受けた者がその期限
到来前に元本を弁済することも、特段の事情のないかぎり、にわかに首肯できない
ことであり、同号証をもつて右旧債務に対する弁済金の領収証であると認めること
には強い疑念を抱かざるをえない。つぎに、同号証の三五についてみると、同証は、
上告会社が被上告人B1から一万二七〇〇円を領収した旨の昭和四〇年一二月二五
日付領収証である(なお、右領収証の日付について、上告会社は、会社の帳簿上は
領収年月日が昭和四〇年一月二五日と記載されている旨主張している)が、その表
面には、「回収金一〇、〇〇〇、利息二七〇〇、返済期日二月二五日」と記載され
ている。しかるに、原審の認定した前記四口の本件旧債務の中には弁済期を二月二
五日とする債務は存在しないのである。のみならず、前顕甲二号証の一ないし四一
を通覧すると、同号各証は作成日付順に枝番号が付されているのであるが、同号証
の一、二および三五が縦書の領収証であるのに対し、同号証の三以下のその余の同
号各証はいずれも横書で、領収金額をアラビア数字で記入するものであるなどその
様式を全く異にするのに、縦書様式の甲二号証の三五が忽然と横書様式によるその
余の領収証の間で作成発行されたことになり、特段の事情の存することが窺われな
いではないのである。いま、右のような各書証における記載、態様などの特異性と
上告会社の主張に符合する上告会社代表者本人の供述とを合わせるならば、甲二号
証の二および同号証の三五の領収証による弁済金が本件旧債務以外の債務の弁済と
して支払われ、充当されたものである旨の上告会社の主張はにわかに排斥しがたい
ものがあるのであるから、かかる強い疑念のある書証を旧債務に対する弁済の事実
を認定する資料に供するについては、特段の説明を要するものといわざるをえない。
 しかるに、原判決は、右各証の採証の事情についてはなんらの説明を加えること
なく、これらを唯一の証拠として、旧債務につき前示各金額の弁済があつた事実を
認定しているのであつて、その事実認定には、採証法則違背があるか、または審理
不尽、理由不備の違法があるものというべきである。よつて、同旨をいう論旨は理
由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。
 つぎに、職権をもつて調査するに、原判決は、その認定にかかる右弁済金につい
ては、当事者がこれに充当すべき債務を指定したと認められる証拠がないとして法
定充当の規定を適用するにあたり、利息の天引額を斟酌して本件旧債務の各弁済期
の翌日現在における各債務の元本額を算出したうえ、その後における各債務の弁済
充当の順序につき、約定遅延損害金の割合、弁済期の先後を基準として、弁済金は
順次、1の債務、6の債務に充当し、最後に3および4の債務の遅延損害金に充当
すべき旨を説示し、右説示に従い、1の債務の遅延損害金、元本に、その完済後、
6の債務の遅延損害金、元本に、その完済後、3および4の債務の各遅延損害金に
充当する計算をし、その結果、上告会社と被上告人B1との間に前示準消費貸借の
成立した昭和四一年二月一八日現在においては、結局、3・4の債務の元本二三万
七一九八円および遅延損害金一万三一三一円が存在した旨の判断を示している。
 しかし、民法四九一条一項によれば、数個の債務について元本のほかに費用およ
び利息(遅延損害金を含む。)を支払うべき場合において、その債務の全部を消滅
させるに足りない給付をしたときは、費用、利息、元本の順序によりこれを充当す
べきであるが、同条二項により、それら数個の債務の費用相互間、利息相互間、元
本相互間における充当の方法について同法四八九条が準用される結果、数個の債務
についての費用、利息は各債務の元本より先に充当されるべきものとなるのである
(大審院大正二年(オ)第五六〇号同四年二月一七日判決、民録二一輯一一五頁、
最高裁判所第二小法廷昭和二七年(オ)第七〇〇号同二九年七月一六日判決、民集
八巻七号一三五〇頁参照)。してみれば、前叙のようにこれと異なる方法によつて
法定充当の計算をした原判決には、民法四九一条の解釈、適用を誤つた違法があり、
右の誤りは判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中上告人敗
訴の部分はこの点においても破棄を免れない。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条を適用して右破棄
部分につき本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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