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平成12年(行ケ)第375号 審決取消請求事件(平成14年1月 日口頭弁論
終結)
          判         決
       原      告   ジェトロニクス・オリベッティ株式会社
       訴訟代理人弁護士   鈴 木   修
       同          深 井 俊 至
       同    弁理士   田 中 英 夫
       訴訟復代理人弁護士  小 林 邦 聡
       被      告   株式会社テレシステムズ
       訴訟代理人弁護士   内 田   修
       同          内 田 敏 彦
          主         文
      特許庁が平成8年審判第18188号事件について平成12年8月1
8日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は、名称を「自動ボウリングスコア装置」とする特許第1776216
号発明(平成元年7月26日出願、平成5年7月28日設定登録、以下、この特許
を「本件特許」といい、本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者
である。
   原告(平成11年10月27日商号変更前の旧商号は「日本オリベッティ株
式会社」)は、平成8年10月25日に被告を被請求人として本件特許につき無効
審判の請求をし、特許庁は、同請求を平成8年審判第18188号事件として審理
した上、平成9年9月30日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決
(以下「第1次審決」という。)をしたが、東京高等裁判所平成9年(行ケ)第2
95号審決取消請求事件について同裁判所が平成11年2月17日言い渡した判決
(以下「第1次判決」という。)により第1次審決が取り消され、第1次判決は確
定した。そこで、特許庁は、同審判請求につき再度審理したところ、被告は、平成
12年1月19日に本件特許に係る明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明
の記載を訂正する旨の訂正請求(以下、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」と
いい、本件訂正後の明細書を「訂正明細書」という。)をした。特許庁は、同審判
請求につき更に審理した結果、平成12年8月18日、「訂正を認める。本件審判
の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月6日に原告に送
達された。
 2 特許請求の範囲の記載
  (1) 本件訂正前の明細書の特許請求の範囲の記載
    各レーン毎に設けられたコンソールと、各コンソールに接続され、各コン
ソールとの間でデータ伝送を行うホストコンピュータと、投球後のピンの残留状態
を検出する残留ピン検出手段と、を備え、前記コンソールは、前記残留ピン検出手
段の検出結果からスコアを計数するスコア計数手段と、該スコア計数手段の計数結
果を表示する表示器と、前記残留ピン検出手段の検出結果に応じて前記表示器に所
定期間だけ別の遊戯を表示する遊戯表示手段と、該遊戯表示手段により表示された
遊戯の遊戯結果をプレミアムデータとして記憶するプレミアムデータ記憶手段と、
を備え、前記ホストコンピュータは、投球者に対するプレミアムサービスを提供す
るために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミ
アムデータを所定のタイミングに読み出して集計する手段を備えることを特徴とす
る、自動ボウリングスコア装置。
  (2) 訂正明細書の特許請求の範囲の記載(下線部が訂正個所である。以下、同
特許請求の範囲に記載された発明を「本件訂正発明」という。)
    各レーン毎に設けられたコンソールと、各コンソールに接続され、各コン
ソールとの間でデータ伝送を行うホストコンピュータと、投球後のピンの残留状態
を検出する残留ピン検出手段と、を備え、前記コンソールは、前記残留ピン検出手
段の検出結果からスコアを計数するスコア計数手段と、該スコア計数手段の計数結
果を表示する表示器と、前記残留ピン検出結果(注、「前記残留ピン検出手段」の
誤記であることにつき当事者間に争いがない。)の検出結果に応じて前記表示器に
所定期間だけ別の遊戯を表示する遊戯表示手段と、該遊戯表示手段により表示され
た遊戯の遊戯結果をプレミアムデータとして自動的に投球者毎に記憶するプレミア
ムデータ記憶手段と、を備え、前記ホストコンピュータは、投球者に対するプレミ
アムサービスを提供するために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各
コンソール毎のプレミアムデータを所定のタイミングに読み出して集計する手段を
備えることを特徴とする、自動ボウリングスコア装置。
 3 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、①本件訂正は、特許請求の範囲の
減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質
上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、さらに、<ア>本件訂正発明は、
昭和60年9月エーエムエフ株式会社発行の「アキュシステム」と題するシステム
概説書(甲第2号証、以下「引用例1」という。)、特開昭58-149782号
公報(甲第3号証、以下「引用例2」という。)、昭和63年4月発行の社団法人
日本ボウリング場協会機関紙「望リング」はる号(甲第4号証、以下「引用例3」
という。)及び特開昭63-21081号公報(甲第5号証、以下「引用例4」と
いう。)にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものではなく、<イ>訂正明細書の特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとす
る発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることに適合しないものでもない
ので、特許出願の際独立して特許を受けることができないものには該当しないか
ら、本件訂正は、特許法134条2項及び同条5項で準用する同法126条2~4
項の規定(注、「平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項及び
同条5項において準用する同改正前の同法126条2~4項の規定」と解され
る。)に適合するとして、本件訂正を認め、②本件訂正発明が、引用例1~4並び
に昭和62年4月3日発行の日刊工業新聞及び同日発行の日経産業新聞にそれぞれ
記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではな
く、訂正明細書の特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳
細な説明に記載されたものであることに適合しないものでもないから、無効審判請
求人(注、原告)の主張及び証拠方法によっては、本件訂正発明の特許を無効とす
ることはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決の理由中、本件訂正が、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載
の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は
変更するものではないこと(審決謄本3頁17行目~36行目)、引用例1の記載
を摘記した部分及び引用例1に記載された発明(以下「引用例発明」という。)の
各認定(同4頁3行目~6頁24行目)、引用例2~4の各記載をそれぞれ摘記し
た部分の認定(同6頁25行目~7頁34行目)、本件訂正発明と引用例発明との
一致点及び相違点の各認定(同7頁36行目~8頁18行目)は認める。
   審決は、本件訂正の許否の判断において、引用例1及び引用例2に記載され
た技術事項を誤認し、本件訂正発明と引用例発明との相違点についての判断を誤る
(取消事由1)とともに、訂正明細書の特許請求の範囲の記載が、特許を受けよう
とする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることに適合しないものでは
ないとして、明細書の記載不備を誤って判断した(取消事由2)結果、本件訂正発
明につき、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであると誤認して
本件訂正を認めたものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(相違点についての判断の誤り)
  (1) 審決は、本件訂正発明と引用例発明との相違点である「訂正発明(注、本
件訂正発明)では、『(コンソールは)前記残留ピン検出手段の検出結果に応じて
前記表示器に所定期間だけ別の遊戯を表示する遊戯表示手段と、該遊戯表示手段に
より表示された遊戯の遊戯結果をプレミアムデータとして自動的に投球者毎に記憶
するプレミアムデータ記憶手段と、を備え、前記ホストコンピュータは、投球者に
対するプレミアムサービスを提供するために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶
されている各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタイミングに読み出して集
計する手段を備える』のに対し、引用発明(注、引用例発明)では、このような構
成は有していない点」(審決謄本8頁10行目~17行目)につき、①引用例1に
「レッドピンサービス企画」が可能なことが記載されていることを認めながら、
「レッドピンサービスは、『ボーリング場従業員にレッドピンが1番ピンの位置に
あることの確認を得た上で投球を行い、その結果ストライクであったことの確認を
得てタオルなどの景品を受け取る』サービスであり、残留ピンに応じて別の遊戯を
行うものではなく、また、サービスを提供するためにデータを記憶しておき、後に
これを読み出して集計するものでもないから、『残留ピンの検出結果に応じて別の
遊戯を表示する遊戯表示手段』、コンソール内の『遊戯結果をプレミアムデータと
して自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデータ記憶手段』及びホストコンピュ
ータ内の『投球者に対するプレミアムサービスを提供するために前記プレミアムデ
ータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタイミ
ングに読み出して集計する手段』は不要であり、これらの手段については記載され
ていないし、示唆されてもいない」(同頁22行目~33行目)とし、②さらに、
引用例2に「ストライクまたはスペアがでたときに、複数桁の表示部に数字を所定
時間乱数表示させる(訂正発明の別の遊戯を表示するに相当)制御回路、表示部の
各桁の数字が予め設定された所定の数で停止されたとき(訂正発明の遊戯結果に応
じてに相当)回転灯等を作動する手段について記載されている」(同頁34行目~
38行目)ことを認めながら、「投球者に対するサービスは、その場で回転灯等を
作動することだけであるから、サービスを提供するためにデータを記憶しておき、
後にこれを読み出して集計する必要性はなく、コンソール内の『遊戯結果をプレミ
アムデータとして自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデータ記憶手段』及びホ
ストコンピュータ内の『投球者に対するプレミアムサービスを提供するために前記
プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを
所定のタイミングに読み出して集計する手段』については記載されていないし、示
唆されてもいない」(同8頁38行目~9頁6行目)とした上で、③「引用発明
に、引用例2に記載された、ストライクまたはスペアがでたときに別の遊戯を表示
する遊戯手段に関する技術を適用したとしても、訂正発明の構成要件である、コン
ソール内の『遊戯結果をプレミアムデータとして自動的に投球者毎に記憶するプレ
ミアムデータ記憶手段』及びホストコンピュータ内の『投球者に対するプレミアム
サービスを提供するために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コン
ソール毎のプレミアムデータを所定のタイミングに読み出して集計する手段』を想
到することが、当業者にとって容易ということはできない」(同9頁18行目~2
6行目)と判断した。
    しかしながら、以下のとおり、上記①及び②の各認定はいずれも誤りであ
るから、これらの認定を前提とした③の判断も誤りである。
  (2) 引用例1記載の技術事項について
    「ボーリング場従業員にレッドピンが1番ピンの位置にあることの確認を
得た上で投球を行い、その結果ストライクであったことの確認を得てタオルなどの
景品を受け取る」ことがレッドピンサービスの一態様であることは認めるが、レッ
ドピンサービスは、そのように景品をその場で受け取る態様に限られるものではな
い。
    すなわち、昭和55年5月10日日本ボウリング振興協議会発行の「ID
EA ボウリング場/営業促進のためのアイデア集」(甲第10号証、以下単に
「アイデア集」という。)には、「カラーピン・ストライクチャレンジ」につき、
「セットされるピンの中にカラーピンを入れ、これが規定の位置にきたときにスト
ライクを出すと、プレゼントをあげるという企画である」(84頁17行目~19
行目)とし、そのプレゼント品につき、「コーラやゲーム券や記念品など粗品の
類」(85頁24行目~25行目)、「カラーピンが3本(3色)の場合・・・①
番ピンと②番ピンと③番ピンにカラーピンが並んだとき(コーラ5ダース)」(同
頁13行目~16行目)、「カラーピン・プレゼント用の予算を設定し、その中で
対処していく方法もある」(同頁27行目~28行目)との各記載があり、さら
に、「カラーピンボウリング」につき、「従来からレッドピンボウリング(セット
されるピンの中にレッドピンを1本入れ、これが①番ピンのところに来た場合、そ
れを倒すと賞品がもらえる)というのがあるが、これをもう少し複雑にして面白さ
を倍加させたもの」(101頁21行目~24行目)とし、そのプレゼント品につ
き「ポイント券」(同頁25行目)との記載があって、200ポイントから500
0ポイントまでのポイントの与え方の例(102頁の表の1~5)が記載されてい
る。
    レッドピンサービスは、当初は、レッドピンが1番ピンの位置に来たとき
にストライクであった場合には景品を与えるという単純な形態であったが、その
後、アイデア集(甲第10号証)に、上記「カラーピン・ストライクチャレンジ」
や「カラーピンボウリング」として記載されている多種多様な内容を有するサービ
スとなったものであり、これらのサービスが全体としてレッドピンサービスを構成
していたものである。このことは、アイデア集の「カラーピンボウリング」の項目
に「賞の与え方の例」として、「①番ピンにカラーピンが来た時にストライクを出
せばコーラを進呈する」とのオーソドックスな内容のレッドピンサービスが、他の
内容のサービスと同列に記載されている(102頁)ことからも明らかであり、ア
イデア集の発行が昭和55年であることから見て、本件特許出願当時は、当業者
は、レッドピンサービスを、これらの多種多様な内容のサービスとして理解してい
たものである。
    そして、景品が上記記載に係るコーラ5ダースであるような場合、常識的
に見て、これを直ちにレーンで受け取るのではなく、後にボウリング場のカウンタ
ー等で受け取ると考えるの自然であり、また、ポイント券である場合には、何らか
の方法で各プレイヤーのポイントが記憶され、それが後に読み出されるものである
ことが容易に理解される。さらに、ゲーム券を景品にすることや「カラーピン・プ
レゼント用の予算を設定」する場合も存在することから、1ゲーム分の代金を無料
にするというサービスもあり得るものと理解することができる。
    すなわち、レッドピンサービスの態様としては、何らかの方法でサービス
を提供するためのデータを記憶しておき、後にこれを読み出す必要のあるものも存
在するのであり、これを、タオルなどの景品をその場で受け取る場合のように「サ
ービスを提供するためにデータを記憶しておき、後にこれを読み出して集計するも
のでもない」と限定した上で、引用例1(甲第2号証)につき、「コンソール内の
『遊戯結果をプレミアムデータとして自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデー
タ記憶手段』及びホストコンピュータ内の『投球者に対するプレミアムサービスを
提供するために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎の
プレミアムデータを所定のタイミングに読み出して集計する手段』は不要であり、
これらの手段については記載されていないし、示唆されてもいない」とした審決の
判断は誤りである。
  (3) 引用例2記載の技術事項について
    引用例2(甲第3号証)には、審決が認定した「ストライクまたはスペア
がでたときに、複数桁の表示部に数字を所定時間乱数表示させる(訂正発明(注、
本件訂正発明)の別の遊戯を表示するに相当)制御回路、表示部の各桁の数字が予
め設定された所定の数で停止されたとき(訂正発明の遊戯結果に応じてに相当)回
転灯等を作動する手段」だけでなく、「回転灯8等が作動されるので、倒れたピン
の本数に基づく得点を競う従来のボーリングゲームの機能に加え、回転灯8を点灯
させた回数も新たな得点として競うことができる」(3頁左上欄16行目~右上欄
2行目)ことが記載されているところ、回転灯の点灯回数を得点として競う以上、
回転灯の点灯回数等のデータを記憶することは、ボウリングゲームにおける得点を
記憶することと同様に必要であることが自明であり、したがって、引用例2には、
回転灯の点灯回数等のデータを記憶することの開示又は示唆があるというべきであ
る。
    そして、第1次判決(甲第11号証)が「本件発明における『プレミアム
サービス』とは、前示のとおり、ボーリング場から遊技者である投球者に対して行
われる無償の提供行為一般と解するのが相当であるから・・・回転灯の点灯・・・
により、競技者が互いに点数を競うことができること自体が、プレミアムサービス
に該当するものというべきであり」(21頁12行目~18行目)と認定するとお
り、競技者が回転灯の点灯回数等を得点として競うこと自体がプレミアムサービス
であるから、上記のとおり記憶される、回転灯の点灯回数等のデータがプレミアム
データに当たることは明白である。
    したがって、引用例2に記載された投球者に対するサービスが「その場で
回転灯等を作動することだけであるから、サービスを提供するためにデータを記憶
しておき、後にこれを読み出して集計する必要性はなく」とした上で、引用例2に
つき、「コンソール内の『遊戯結果をプレミアムデータとして自動的に投球者毎に
記憶するプレミアムデータ記憶手段』及びホストコンピュータ内の『投球者に対す
るプレミアムサービスを提供するために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶され
ている各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタイミングに読み出して集計す
る手段』については記載されていないし、示唆されてもいない」とした審決の判断
は誤りであるとともに、第1次判決の拘束力に反して、その認定と異なる認定をし
たものであるから、行政事件訴訟法33条1項の規定に違反するものである。
  (4) 上記のとおり、投球者に対するプレミアムサービスを提供するために、プ
レミアムデータを記憶し、これを後で読み出すことは引用例1、2に記載されてお
り、かつ、引用例1には、コンピュータシステムを使用して残留ピンを検出するこ
とや、ゲーム数等のデータを自動で記録することが開示されている。
    そうすると、プレミアムサービスを提供するに当たり、「自動的に投球者
毎に」プレミアムデータを記憶するようなことは単なる設計的事項にすぎず、引用
例1、2に記載された事項に基づき、引用例発明に、本件訂正発明との相違点に係
る構成を採用することは、当業者において容易にし得ることである。
 2 取消事由2(訂正明細書の記載不備についての判断の誤り)
   訂正明細書(甲第13号証の2)の特許請求の範囲には「ホストコンピュー
タは、投球者に対するプレミアムサービスを提供するために前記プレミアムデータ
記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタイミング
に読み出して集計する手段を備える」との記載がある。そして、訂正明細書中に
は、「集計」につき特に定義をした記載はなく、その意義は本来の意味に従って理
解されるべきところ、「集計」とは「数を寄せ集めて合計すること」(広辞苑)と
されているから、上記特許請求の範囲の「ホストコンピュータは・・・プレミアム
データを・・・集計する」という記載は、「ホストコンピュータがプレミアムデー
タを集めて合計する」ことを意味すると解するほかはない。
   ところが、この点につき、訂正明細書の発明の詳細な説明には、「競技が終
了すると、競技者による終了キーの操作によりコンソール内のデータがフロントの
ホストコンピュータ20に送信される。フロントではゲーム数カウンタGCの内容
から無料ゲーム数カウンタMCの内容を差し引いた分のゲーム数について料金が請
求されることとなり・・・ボウリングゲーム料金を安くするサービスを顧客に与え
ることができる。第5図Cは以上のホストコンピュータ20での動作を示してい
る」(6頁20行目~26行目)との記載があるのみである。すなわち、この実施
例で、「各コンソール毎のプレミアムデータ」に当たるのは、各コンソールごとの
無料とされたゲームの数であるが、その数を合計することは、各コンソール側のコ
ンピュータの無料ゲーム数カウンタMCが行っており、決してホストコンピュータ
が行っているものではない。訂正明細書の第5図Cの記載によっても、このことに
変わりはない。
   この点につき、審決は、「ホストコンピュータは・・・ゲーム数カウンタG
Cの内容から無料ゲーム数カウンタMCの内容を差し引く計算を行っており、プレ
ミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを読み
出して集計している。ここにおいて、集計とは・・・『無料とされたゲームの数を
集計』するのではなく、『コンソール内のゲーム数カウンタGCのデータ及び無料
ゲーム数カウンタMCのデータ(プレミアムデータ)を受信して集め、ゲーム数カ
ウンタGCの内容から無料ゲーム数カウンタMCの内容を差し引く計算を行う』こ
とを意味している」(審決謄本11頁21行目~30行目)、「特許請求の範囲の
『各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタイミングに読み出して集計する』
との記載は、上記発明の詳細な説明の記載及び第5図Cを参照すれば、ホストコン
ピュータが各コンソール毎のゲーム数カウンタのデータ及びプレミアムデータを所
定のタイミングに読み出して集計することを意味していると理解できるので、本件
特許発明に係る明細書の特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発
明の詳細な説明に記載されたものであることに適合しないとすることはできない」
(同頁31行目~37行目)と判断した。
   しかしながら、特定のコンソールにおける、現在何ゲーム行ったかを示すデ
ータである「ゲーム数カウンタGCのデータ」と、現在までの無料ゲーム数を示す
データそのものである「無料ゲーム数カウンタMCのデータ」を受信して、前者か
ら後者を差し引くことは、プレミアムデータを読み出して集計することには当たら
ない。集計するとは同種のデータが複数あることを前提とするが、特定のコンソー
ルにおいて、「ゲーム数カウンタGCのデータ」も、「無料ゲーム数カウンタMC
のデータ」も一つしか存在しないからである。
   したがって、審決が、「特許請求の範囲の『各コンソール毎のプレミアムデ
ータを所定のタイミングに読み出して集計する』との記載は・・・ホストコンピュ
ータが各コンソール毎のゲーム数カウンタのデータ及びプレミアムデータを所定の
タイミングに読み出して集計することを意味していると理解できる」としたことは
明らかに誤りであり、これを前提として「明細書の特許請求の範囲の記載が、特許
を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることに適合しな
いとすることはできない」とした判断も誤りである。
第4 被告の反論
   審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 引用例1記載の技術事項について
    原告は、レッドピンサービスについて、景品をその場で受け取る態様に限
られるものではない旨主張するが、審決は、景品をその場で受け取る態様に限定し
ているわけではなく、ボウリングゲームの終了後に景品を受け取ることも審決の認
定したレッドピンサービスに包含されることは明らかである。ただし、その場合で
あっても、本件特許出願の当時は、レッドピンサービスにおける投球は、ボウリン
グ場従業員の確認下で行われ、レッドピンサービスでストライクが出た旨のボウリ
ング従業員のメモ書きがボウリング場のフロント係に手渡され、これによって該当
者に景品の提供がなされるものものであったから、審決が、「レッドピンサービス
は・・・サービスを提供するためにデータを記憶しておき、後にこれを読み出して
集計するものでもないから・・・コンソール内の『遊戯結果をプレミアムデータと
して自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデータ記憶手段』及びホストコンピュ
ータ内の『投球者に対するプレミアムサービスを提供するために前記プレミアムデ
ータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタイミ
ングに読み出して集計する手段』は不要であり、これらの手段については記載され
ていないし、示唆されてもいない」(同頁22行目~33行目)としたことに誤り
はない。
    また、原告は、アイデア集(甲第10号証)の「カラーピン・ストライク
チャレンジ」(84頁16行目~86頁3行目)、「カラーピンボウリング」(1
01頁20行目~103頁8行目)の各記載に基づいて、レッドピンサービスは多
種多様である旨、及びレッドピンサービスの態様として、何らかの方法でサービス
を提供するためのデータを記憶しておき、後にこれを読み出す必要のあるものも存
在する旨主張する。
    しかしながら、アイデア集に、「カラーピンボウリング」につき、「従来
からレッドピンボウリング(セットされるピンの中にレッドピンを1本入れ、これ
が①番ピンのところに来た場合、それを倒すと賞品がもらえる)と言うのがある
が、これをもう少し複雑にして面白さを倍加させたもの。各レーンに3色のカラー
ピンを入れ、次頁のような状態の時にコーラや小物、あるいはポイント券(ポイン
ト券が問題となる地域では他の賞品)をプレゼントする」(101頁21行目~末
行)と記載されているとおり、カラーピンがレッドピン1本だけの場合であって、
かつ、それが1番ピンの位置にきたときだけが「レッドピンサービス」と呼ばれる
サービスであり、それ以外の「カラーピン・ストライクチャレンジ」や「カラーピ
ンボウリング」は、「レッドピンサービス」に改良・変形を加えたものであり、
「レッドピンサービス」そのものではなく、その名称自体も「レッドピンサービ
ス」ではない。
  (2) 引用例2記載の技術事項について
    原告は、引用例2につき、「コンソール内の『遊戯結果をプレミアムデー
タとして自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデータ記憶手段』及びホストコン
ピュータ内の『投球者に対するプレミアムサービスを提供するために前記プレミア
ムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタ
イミングに読み出して集計する手段』については記載されていないし、示唆されて
もいない」とした審決の判断は誤りである旨主張するが、以下のとおり、審決の上
記判断に誤りはない。
    すなわち、本件訂正発明と引用例発明との相違点に照らし、引用例2(甲
第3号証)に記載又は示唆されているかどうかが問題となる「プレミアムデータ」
は「別の遊戯の遊戯結果」でなければならないし、また、「プレミアムサービス」
は当該「プレミアムデータ」に応じて提供されるもの、したがって、「別の遊戯の
遊戯結果」に応じて提供されるものでなければならない。そして、引用例2記載の
発明において、プレミアムサービスの提供行為の原因となる「別の遊戯の遊戯結
果」であるプレミアムデータとは、「デジタル表示部・・・の各桁の数字が予め設
定された所定の数で停止」(特許請求の範囲)すること、すなわち、「当り」を示
すデータにほかならない。ところが、引用例2記載の発明において、この「当り」
を示すデータの発生を原因として競技者に提供されるものは、各種表示手段を作動
させること、すなわち、表示ランプの点滅、回転灯の点滅及び効果音の出力だけで
ある。なぜなら、「別の遊戯の遊戯結果」である「当り」を示すデータの発生に応
じて提供されるものはそれだけであり、これらの各種表示手段の作動があれば、
「当り」を示すデータの発生を原因とするプレミアムサービスの提供行為は完結
し、なお提供未了のサービスは残存しないからである。
    原告は、引用例2に記載された「回転灯8を点灯させた回数も新たな得点
として競うことができる」(3頁右上欄1行目~2行目)こと自体がプレミアムサ
ービスである旨主張するが、表示手段の作動回数により競技者が互いに点数を競う
こと自体は、「別の遊戯の遊戯結果」である「当り」を示すデータの発生に応じて
提供されるプレミアムサービスということはできない。なぜならば、競技者がこの
ような表示手段の作動を新たな得点として競うということは、競技者が新たな得点
獲得ゲームを行うということにほかならないが、そのような新たなゲームは、「当
り」を示すデータが発生するかどうか不明の状態において成立進行し、仮に進行中
に一度も「当り」を示すデータが発生しなかったとしても、新たな得点獲得ゲーム
は引き分けに終わったというだけで、新たなゲームの成立進行自体がなかったとは
いえないからである。したがって、競技者が互いに点数を競うことは、「当り」を
示すデータの発生を原因として提供されるプレミアムサービスということができな
い。
    このことは、いい換えれば次のようにいうこともできる。すなわち、引用
例2に記載された「回転灯8を点灯させた回数も新たな得点として競うことができ
る」ことが、プレミアムサービスであると仮定した場合に、そのようなサービスを
提供したといえるためには、ボウリングゲームでストライク又はスペアが出たら、
別の遊戯を開始させ、回転灯等の表示装置が作動する機会を与えれば十分であっ
て、当該別の遊戯において、結果的に一度も「当たり」が出ず、回転灯等の表示装
置が作動しなかったとしても、上記「回転灯8を点灯させた回数も新たな得点とし
て競うことができる」プレミアムサービスを提供したことになる。そこで、引用例
2記載の発明において、そのようなプレミアムサービス提供の原因となるプレミア
ムデータが何であるかを検討するに、当該別の遊戯において「当り」を示すデータ
自体は、それがなくとも、上記「回転灯8を点灯させた回数も新たな得点として競
うことができる」プレミアムサービスを提供したことになるのであるから、プレミ
アムサービス提供の原因となるプレミアムデータではない。そうすると、ボウリン
グゲームでストライク又はスペアが出ると、これを検出した検出手段からの出力デ
ータが引用例2記載の装置に入力されて自動的に別の遊戯が開始され、回転灯等が
作動する機会が1回生ずるところ、そのような回転灯等の表示装置が作動する機会
が1回生ずれば、それだけで、競技者は、ボウリングゲームのほかに、「回転灯8
を点灯させた回数も新たな得点として競う」ことができるといい得るから、結局、
上記「回転灯8を点灯させた回数も新たな得点として競うことができる」プレミア
ムサービス提供の原因となるプレミアムデータは、ストライク又はスペアが出たこ
とを示す検出手段からの出力データがこれに当たるというほかはない。ところが、
ストライク又はスペアが出たことを示す検出手段からの出力データは、本来の遊戯
であるボウリングゲームの遊戯結果であって、「別の遊戯の遊戯結果」ではない。
したがって、「回転灯8を点灯させた回数も新たな得点として競うことができる」
ことは、「別の遊戯の遊戯結果」に基づいて提供されるプレミアムサービスに当た
らないことが明らかである。
    なお、原告は、引用例2記載の発明において、回転灯の点灯回数を得点と
して競う以上、回転灯の点灯回数等のデータを記憶することが必要であることが自
明であるとし、引用例2には、回転灯の点灯回数等のデータを記憶することの開示
又は示唆がある旨主張するが、「回転灯の点灯回数を得点として競う」ことから、
「回転灯の点灯回数等のデータがプレミアムデータとして記憶される」ことを導く
のは論理に飛躍がある。引用例2には、「回転灯の点灯回数等のデータがプレミア
ムデータとして記憶される」旨の記載はなく、このことは、引用例2の出願人が、
「回転灯の点灯回数を得点として競う」という新たな遊戯結果に基づいて何らかの
プレミアムサービスを提供することを考えていなかったことを示すものである。
    したがって、引用例2につき、「コンソール内の『遊戯結果をプレミアム
データとして自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデータ記憶手段』及びホスト
コンピュータ内の『投球者に対するプレミアムサービスを提供するために前記プレ
ミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを所定
のタイミングに読み出して集計する手段』については記載されていないし、示唆さ
れてもいない」とした審決の判断に誤りはない。
 2 取消事由2(訂正明細書の記載不備についての判断の誤り)について
   原告は、「ゲーム数カウンタGCのデータ」と「無料ゲーム数カウンタMC
のデータ」を受信して、前者から後者を差し引くことは、プレミアムデータを読み
出して集計することには当たらない旨主張するが、誤りである。
   すなわち、訂正明細書(甲第13号証の2)の特許請求の範囲に記載された
「プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータ
を・・・集計する」ことの技術的意義は、「プレミアムデータ」の意義のみによっ
て自動的に定まるものではなく、「集計」の意義をも検討して初めて定まるもので
ある。そして、昭和56年9月10日株式会社岩波書店発行の西尾実外2名著「岩
波国語辞典第3版」(乙第3号証)に、「集計」につき「数値で表せるデータを取
り集めて、数値の合計(などの計算)をすること」との語義が掲載されているよう
に、「集計」の語は、広義には、数値の合計などの計算をする意味にも用いられる
ものであるから、「プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎の
プレミアムデータを・・・集計する」とは、プレミアムデータ記憶手段が記憶して
いる各コンソール毎のプレミアムデータ、すなわち、1個のレーンでボウリングを
楽しんでいるプレーヤー全員のプレミアムデータを取り集めて、数値の合計などの
計算をすることを意味していると解することができ、かつ、このように解すること
は、訂正明細書の実施例の記載とも符合する。
   したがって、審決が、「ホストコンピュータは・・・ゲーム数カウンタGC
の内容から無料ゲーム数カウンタMCの内容を差し引く計算を行っており、プレミ
アムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを読み出
して集計している」と判断したことに何らの誤りもない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 引用例1記載の技術事項について
    引用例1(甲第2号証)に、引用例発明の「アキュスコア」(本件訂正発
明の「コンソール」に相当する。)につき、「レッドピンサービス企画は可能」
(審決謄本6頁15行目)と記載されていること、また、「ボーリング場従業員に
レッドピンが1番ピンの位置にあることの確認を得た上で投球を行い、その結果ス
トライクであったことの確認を得てタオルなどの景品を受け取る」(同8頁22行
目~25行目)ことが少なくともレッドピンサービスの一態様であることは当事者
間に争いはない。
    そして、特定のピンの位置に他のピンと色が異なるピンがセットされたと
きに得たストライクが、そうでない場合のストライクと異なって評価されるなどと
いうことが本来のボウリングゲームのルールにないことは公知の事実であるし、上
記レッドピンサービスにおいても、ボウリングゲーム上は、そのストライクに対し
て与えられる得点は、レッドピンを含まなかったとした場合のストライクの得点と
同じであると解される。したがって、レッドピンサービスとして与えられる景品
は、ボウリングというゲーム自体の結果に対して与えられるもの(例えば、一定点
数以上の高得点でゲームを終了した場合にボウリング場側から景品が与えられるよ
うな場合)ではなく、ボウリングというゲーム自体とは別の要素を含んで成る別個
の遊戯的行為の結果に対してボウリング場側から無償で提供されるものということ
ができる。
    そうすると、引用例1に上記のとおり記載された「レッドピンサービス企
画」が、アイデア集(甲第10号証)に「カラーピン・ストライクチャレンジ」、
「カラーピンボウリング」として記載されている多種多様な内容を有するサービス
であり、何らかの方法でサービスを提供するためのデータを記憶しておき、後にこ
れを読み出す必要のあるものを含むか否か、すなわち、レッドピンサービスに関し
「コンソール内の『遊戯結果をプレミアムデータとして自動的に投球者毎に記憶す
るプレミアムデータ記憶手段』及びホストコンピュータ内の『投球者に対するプレ
ミアムサービスを提供するために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている
各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタイミングに読み出して集計する手
段』は不要であり」(審決謄本8頁28行目~32行目)とし、引用例1に「これ
らの手段については記載されていないし、示唆されてもいない」(同頁32行目~
33行目)とした審決の判断に誤りがないか否かにかかわらず、引用例1には、引
用例発明が、ボウリングというゲームとは別個の遊戯的行為の結果に対してボウリ
ング場側から無償の提供行為をするというサービスに対応するものであることが記
載されているということができる。
  (2) 引用例2記載の技術事項について
   ア 訂正明細書の特許請求の範囲には、本件訂正発明におけるプレミアムデ
ータないしプレミアムサービスについて、「前記コンソールは・・・別の遊戯を表
示する遊戯表示手段と、該遊戯表示手段により表示された遊戯の遊戯結果をプレミ
アムデータとして自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデータ記憶手段と、を備
え、前記ホストコンピュータは、投球者に対するプレミアムサービスを提供するた
めに前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアム
データを所定のタイミングに読み出して集計する」と規定しているが、プレミアム
サービスの具体的内容を限定した記載はない。
     そうすると、本件訂正発明におけるプレミアムサービスは、プレミアム
データをそのサービス提供のためのデータとするものであること、プレミアムデー
タは、遊戯表示手段により表示される本来のボウリングゲームとは別の遊戯の結果
であって、各コンソールの記憶手段に自動的に投球者ごとに記憶され、ホストコン
ピュータがこれを所定のタイミングで読み出して集計するものであることを要する
ものの、プレミアムサービスの具体的内容としては、有価物の交付やゲーム代金の
割引等の利得行為に限られず、ボウリング場から遊技者である投球者に対して行わ
れる何らかの無償の提供行為であれば足りるものと解することができる。
   イ 他方、引用例2(甲第3号証)の特許請求の範囲に「ストライク検出手
段(S2)またはスペア検出手段(S1、S3)の出力に基づいて複数桁のデジタ
ル表示部(11a、11b、11c、11d)に数字を所定時間乱数表示させる制
御回路(15)と、そのデジタル表示部(11a、11b、11c、11d)の各
桁の数字が予め設定された所定の数で停止されたとき作動される表示手段(8、1
0、14)とを設けたことを特徴とするボーリングゲーム装置。」(審決謄本6頁
27行目~32行目)との記載があることは当事者間に争いがない。また、その発
明の詳細な説明に「従って、このボーリングゲーム装置は遊戯者がストライクを獲
得した場合にはストライク検出手段S2からの出力信号に基づいて表示装置6のデ
ジタル表示部11a、11b、11c、11dの作動が開始され、所定時間後にそ
のデジタル表示部11a、11b、11c、11dが所定の確率ですべて『7』を
表示した状態で停止して回転灯8等が作動されるので、倒れたピンの本数に基づく
得点を競う従来のボーリングゲームの機能に加え、回転灯8を点灯させた回数も新
たな得点として競うことができる。」(同頁33行目~末行)との記載があること
も当事者間に争いがないほか、上記記載に先立って、「第1投目により10本のピ
ンがすべて倒れた場合にはピン設置装置の作動にともなってストライク検出手段S
2が制御回路15に検出信号を出力する。制御回路15はその信号に基づいて駆動
回路・・・に信号を出力し・・・デジタル表示部11a、11b、11c、11d
に0~9までの数字の中から乱数的に抽出された数字が所定周期で表示される。こ
の後、所定時間後にデジタル表示部11a、11b、11c、11dの少なくとも
1つが『7』以外の数字を表示した状態で停止した場合には、制御回路15はスト
ライク検出手段S2からの次の検出信号を待つ状態となる。一方、デジタル表示部
11a、11b、11c、11dがすべて『7』を表示した状態で停止した場合に
は、制御回路15はその状態を検知して駆動回路17,18,19に信号を出力
し、表示ランプ10が点滅されると同時に回転灯8が点灯され、さらにスピーカ1
4から効果音が出力される。そしてリセットスイッチ13を押圧すれば表示ランプ
10、回転灯8、スピーカー14の作動が停止され、制御回路15はストライク検
出手段S2からの次の検出信号を待つ状態となる。」(甲第3号証2頁右下欄4行
目~3頁左上欄9行目)との記載、さらに、上記争いのない記載の後に、「この発
明は前記実施例の他に次に示す態様でも実施可能である。すなわち・・・前記実施
例の構成に加えて・・・判別手段S3が第2投目であることを検知するとともに残
りピン検出手段S1が残りピンを検知しなかったとき、制御回路15がデジタル表
示部11a、11b、11c、11d及び表示ランプ9を作動させるようにする。
このようにすれば、遊戯者がスペアを獲得した場合にもデジタル表示部11a、1
1b、11c、11dを作動させ、所定の確率で回転灯8等を作動させることがで
きるので、回転灯8を点灯させた回数も新たな得点として競うことができる」(3
頁右上欄3行目~左下欄1行目)との記載がある。
     これらの記載によれば、引用例2には、ストライク又はスペアが出たと
きに、複数桁の表示部に数字を所定時間乱数表示させる制御回路、表示部の各桁の
数字が予め設定された所定の数で停止したときに、回転灯、表示ランプ等の表示手
段を作動する手段(表示部の各桁の数字が停止したときに上記所定の数でなかった
ときは、上記表示手段は作動しない。)を備えるとともに、上記回転灯等の各表示
手段を作動させたことに得点を付し、各遊戯者が表示手段の作動をさせた回数に従
って獲得した得点を競う、本来のボウリングゲームとは別個のゲームを、本来のボ
ウリングゲームと並行してすることのできるボウリングゲーム装置の発明が記載さ
れているものと認められる。そして、引用例2記載の装置が、このように複数回に
わたって獲得し得る得点を競う本来のボウリングゲームとは別個のゲームを本来の
ボウリングゲームと並行して進行させるものである以上、各遊戯者が、ストライク
又はスペアを出して、複数桁の表示部に数字を所定時間乱数表示させた各回ごとの
得点(回転灯等の表示手段の作動に至らず、したがって、得点が0点である場合も
含む。)を、そのゲームのデータとして、遊戯者(投球者)ごとに自動的に記憶す
る記憶手段、及びゲーム終了時点でそのデータを読み出し、集計する手段を備える
ことは、当業者において当然に想到するところであり、かつ、引用例2記載の発明
において、それを困難とする事由も見当たらない。
     そうとすれば、引用例2には、明示の記載はないものの、上記のような
データの記憶手段及びデータの読出し、集計手段を備えることが示唆されているも
のというべきである。
   ウ ところで、上記のとおり、本件訂正発明におけるプレミアムサービス
は、ボウリング場から遊技者である投球者に対して行われる何らかの無償の提供行
為であれば足りるものであるから、引用例2に記載された「回転灯8を点灯させた
回数も新たな得点として競うことができる」こと、すなわち、本来のボウリングゲ
ームとは別個の得点を競うゲームをすることができるということ自体も、本件訂正
発明におけるプレミアムサービスに当たり得るものと解することができる。
     そして、引用例2記載の発明において、各遊戯者が、ストライク又はス
ペアを出し、複数桁の表示部に数字を所定時間乱数表示させたときに、当該数字が
所定の数で停止し、回転灯等の表示手段の作動をさせることに成功するか(得点を
獲得できるか)、これに失敗するかを試みること自体が、遊戯表示手段により表示
される本来のボウリングゲームとは別の遊戯であることは明らかであり、また、上
記本来のボウリングゲームとは別個の得点を競うゲームが、回転灯等の表示手段の
作動をさせ、又はその作動をさせるに至らなかった結果に従った各回ごとの得点
(0点の場合を含む。)をデータとするものであること(したがって、当該データ
は「プレミアムデータ」ということができる。)、引用例2に、当該データを、遊
戯者(投球者)ごとに、自動的に記憶する記憶手段、及びゲーム終了時点でそのデ
ータを読み出し、集計する手段を備えることが示唆されていることは上記のとおり
である。
     すなわち、引用例2には、プレミアムデータをそのサービス提供のため
のデータとするプレミアムサービスについて、当該プレミアムデータは、遊戯表示
手段により表示される本来のボウリングゲームとは別の遊戯の結果であって、記憶
手段に自動的に投球者ごとに記憶され、これを所定のタイミングで読み出して集計
するものであることが記載又は示唆されているということができる。
     そうとすれば、上記のとおり、引用例1に、ボウリングというゲームと
は別個の遊戯的行為の結果に対してボウリング場側から無償の提供行為をするとい
うサービスに対応するものであることも記載されている引用例発明に、当該無償の
提供行為に代えて、引用例2に記載又は示唆された上記の技術事項を適用すること
は、当業者において容易にし得たものというべきであり、また、その際、記憶手段
を各コンソールに、データの読出し、集計手段をホストコンピュータにそれぞれ設
けるようなことは、当業者において適宜選択し得る設計的事項というべきである。
     したがって、本件訂正発明は、引用例発明と引用例2に記載又は示唆さ
れた技術事項とに基づいて当業者において容易に発明をし得たものといわざるを得
ない。
   エ 被告は、「回転灯の点灯回数を得点として競う」ことから、「回転灯の
点灯回数等のデータがプレミアムデータとして記憶される」ことを導くのは論理に
飛躍があるとか、引用例2には「回転灯の点灯回数等のデータがプレミアムデータ
として記憶される」旨の記載はなく、このことは、引用例2の出願人が、「回転灯
の点灯回数を得点として競う」という新たな遊戯結果に基づいて何らかのプレミア
ムサービスを提供することを考えていなかったことを示すものであると主張する。
しかしながら、引用例2に、明示の記載はないものの、回転灯等の表示手段の作動
をさせ、又はその作動をさせるに至らなかった結果に従った各回ごとの得点をデー
タとして、遊戯者(投球者)ごとに、自動的に記憶する記憶手段、及びゲーム終了
時点でそのデータを読み出し、集計する手段を備えることが示唆されていることは
上記のとおりである。また、上記のとおり、引用例2の装置において、プレミアム
サービスに当たるものは、「回転灯の点灯回数を得点として競う」ことができるこ
と自体であって、「回転灯の点灯回数を得点として競う」という新たな遊戯結果に
基づいて提供されるものではない。したがって、被告の上記主張はいずれも採用す
ることができない。
     また、被告は、引用例2に記載又は示唆されているかどうかが問題とな
る「プレミアムサービス」は、「プレミアムデータ」(別の遊戯の遊戯結果)に応
じて提供されるものであるとか、プレミアムデータがプレミアムサービスの提供行
為の原因となるとした上で、引用例2記載の発明において、プレミアムデータと
は、「デジタル表示部の各桁の数字が予め設定された所定の数で停止」すること、
すなわち、「当り」を示すデータにほかならないが、この「当り」を示すデータの
発生を原因として競技者に提供されるものは、表示手段を作動させることであり、
表示手段の作動があれば、「当り」を示すデータの発生を原因とするプレミアムサ
ービスの提供行為は完結し、なお提供未了のサービスは残存しない旨主張する。し
かしながら、上記訂正明細書記載の特許請求の範囲には、プレミアムデータとプレ
ミアムサービスとの関係につき、「投球者に対するプレミアムサービスを提供する
ために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミア
ムデータを所定のタイミングに読み出して集計する」とあるだけで、プレミアムサ
ービスは、プレミアムデータ(別の遊戯の遊戯結果)に応じて提供されるとか、ま
して、プレミアムデータがプレミアムサービスの提供行為の原因となるとの記載は
なく、そのように限定することは誤りである。そして、上記のとおり、引用例2記
載の装置において、「別の遊戯」に当たるものは、「デジタル表示部の各桁の数字
が予め設定された所定の数で停止して、回転灯等の表示手段の作動をさせることに
成功するか(得点を獲得できるか)、失敗するかを試みること」であり、その結
果、すなわち、回転灯等の表示手段の作動をさせ、又はその作動をさせるに至らな
かった結果に従った得点(0点の場合を含む。)が、プレミアムサービスである本
来のボウリングゲームとは別個の得点を競うゲームの進行のための「プレミアムデ
ータ」に当たるものと解すべきであって、「当り」を示すデータ自体が「プレミア
ムデータ」に当たるものではないから、被告の上記主張を採用することもできな
い。
     さらに、被告は、新たな得点獲得ゲーム(上記本来のボウリングゲーム
とは別個の得点を競うゲーム)の進行中に一度も「当り」を示すデータが発生しな
かったとしても、新たな得点獲得ゲームの成立進行自体がなかったとはいえないか
ら、表示手段の作動回数により競技者が互いに点数を競うこと自体は、「別の遊戯
の遊戯結果」である「当り」を示すデータの発生に応じて提供されるプレミアムサ
ービスということはできないとか、「回転灯8を点灯させた回数も新たな得点とし
て競うことができる」ことが、プレミアムサービスであると仮定した場合に、その
ようなプレミアムサービス提供の原因となるプレミアムデータとしては、ストライ
ク又はスペアが出たことを示す検出手段からの出力データしかないが、当該出力デ
ータは本来の遊戯であるボウリングゲームの遊戯結果であって、「別の遊戯の遊戯
結果」ではないと主張するが、これらの主張も、プレミアムデータが「当り」を示
すデータであること、又は、プレミアムデータがプレミアムサービス提供の原因と
なることを前提とするものであるところ、これらの前提が誤りであることは上記の
とおりであるから、被告のこの主張を採用することもできない。
  (3) したがって、審決が、「引用例2には・・・投球者に対するサービスは、
その場で回転灯等を作動することだけであるから、サービスを提供するためにデー
タを記憶しておき、後にこれを読み出して集計する必要性はなく、コンソール内の
『遊戯結果をプレミアムデータとして自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデー
タ記憶手段』及びホストコンピュータ内の『投球者に対するプレミアムサービスを
提供するために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎の
プレミアムデータを所定のタイミングに読み出して集計する手段』については記載
されていないし、示唆されてもいない」(審決謄本8頁34行目~9頁6行目)と
した上で、「引用発明(注、引用例発明)に、引用例2に記載された、ストライク
またはスペアがでたときに別の遊戯を表示する遊戯手段に関する技術を適用したと
しても、訂正発明の構成要件である、コンソール内の『遊戯結果をプレミアムデー
タとして自動的に投球者毎に記憶するプレミアムデータ記憶手段』及びホストコン
ピュータ内の『投球者に対するプレミアムサービスを提供するために前記プレミア
ムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミアムデータを所定のタ
イミングに読み出して集計する手段』を想到することが、当業者にとって容易とい
うことはできない」(同9頁18行目~26行目)とした判断は誤りである。
    なお、原告は、審決の上記判断が、第1次判決の拘束力に反し、行政事件
訴訟法33条1項の規定に違反するとも主張する。しかしながら、第1次判決の正
本(甲第11号証、同判決添付の第1次審決を含む。)によれば、第1次判決は、
引用例1、2に投球者にプレミアムサービスを提供するという技術課題が存在しな
いので、引用例1に記載された自動ボウリングスコア装置に、引用例2に記載され
たストライク又はスペアが出たときに別の遊戯を表示する遊戯手段に関する技術を
適用しても、本件訂正前の明細書の特許請求の範囲に係る発明の構成要件であるコ
ンソール内の「遊戯結果をプレミアムデータとして記憶するプレミアムデータ記憶
手段」及びホストコンピュータ内の「投球者に対するプレミアムサービスを提供す
るために前記プレミアムデータ記憶手段に記憶されている各コンソール毎のプレミ
アムデータを所定のタイミングに読み出して集計する手段」を構成することは、当
業者といえども容易ではないとした第1次審決に対し、引用例1記載のレッドピン
サービスはプレミアムサービスの一形態であり、引用例2記載の回転灯の点灯回数
等により、競技者が互いに点数を競うことができること自体もプレミアムサービス
に該当するから、審決が、引用例1、2につき、「投球者にプレミアムサービスを
提供するという技術課題が存在しない」と認定したことは誤りであり、本件訂正前
の明細書の特許請求の範囲に係る発明についての上記進歩性の判断は、そのような
誤認に基づいてされたもので、審決の結論に影響を及ぼすべき重大な瑕疵があると
して、第1次審決を取り消したものである。したがって、第1次判決の拘束力は、
第1次審決を取り消す旨の結論(主文)を導くのに直接必要な認定判断、すなわ
ち、引用例1、2に、投球者にプレミアムサービスを提供するという技術課題が存
在しないことを理由に、本件訂正前の明細書の特許請求の範囲に係る発明の進歩性
を肯定することはできないとの認定判断について生ずるものであり、これとは異な
る理由で、本件訂正発明についての進歩性を肯定した審決の認定判断が、第1次判
決の拘束力に反するとはいえないから、原告の上記主張は採用することができな
い。
  (4) したがって、審決は、第1次判決の拘束力に反するとはいえないものの、
本件訂正発明の進歩性を認めた認定判断に誤りがあって、この誤りが本件訂正を認
めた審決の判断に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて、審決の結論に影響を
及ぼすものと認められる。
 2 以上によれば、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由が
ある。
   よって、原告の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴
訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官 篠   原   勝   美
    裁判官 石   原   直   樹
    裁判官   宮   坂   昌   利

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