弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差戻す。
         理    由
 検察官小保方佐市の上告趣意は末尾添付のとおりである。
 職権を以つて調査するに、原判決は、いわゆるラムネ弾は爆発可能の分量である
一五瓦以上のカーバイトの投入されたラムネ瓶に、十分な水量を注入した後、その
球栓が栓座に接着して密栓された瞬間において、理化学上の意義における爆発物と
なると解するのが相当であり、球栓が栓座に接着せず瓶が密桂とならない限りは、
いまだ右の意義における爆発物とはいい得ない、と判示し、これを前提として、「
本件ラムネ弾は、ラムネ瓶内のカーバイトの分量は一七・三瓦乃至二〇瓦で一応爆
発すべき分量であつたが、そのラムネ瓶は中央部辺で壊われて上部と底部の二個の
破片となり、その瓶の破損状況、パツキンの附著状況からみて、パツキンの不完全
なため球栓が栓座に接着せず完全な密閉がなされていないため、水の注入により発
生したアセチレンガスは、瓶中から外部に飛散して爆発現象を惹起していないこと
が明らかであるから」、本件ラムネ弾はいまだ理化学上の意義における爆発物です
らなく、ひいて爆発物取締罰則にいわゆる爆発物にも該当しない、と認定、判示し
ている。
 しかし、原判決のいう理化学上の意義における爆発物の意味は兎も角として、い
わゆるラムネ弾が右罰則にいう爆発物に当るとするためには、いまだ水が注入され
ておらずカ―バイトだけをラムネ瓶に入れただけで足りることは、既に当裁判所判
例(昭和三三年(あ)第一八三七号、同三四年六月四日第一小法廷判決、刑集一三
巻六号八八四頁以下参照)の示すところである。従つて原判決は、この点に関し右
と異なる法律見解に立脚するものであることが明らかであつて、前記罰則にいわゆ
る爆発物の意義について、その解釈適用を誤つた違法があるといわねばならない。
また、原判決の前記判示は、本件ラムネ弾のパツキンの不完全が被告人がこれを投
てきする以前から既に存在していたとの認定を前提としているのみならず、原判決
は前記のように、本件ラムネ弾の不爆発の原因は、専ら右パツキンの不完全なため
球栓が栓座に接着せずそのため瓶の密閉がなされなかつたことにあると認定し、こ
れらの点の証拠として、鑑定人Aの鑑定書と警察技官Bの物品検査報告書の各記載
を掲記しているけれども、右鑑定書中には「ラムネ瓶は写真第一図の如く稍中央に
て破砕され、瓶の内部に汚白色の粉末が附着し、又瓶の頸部のラムネ玉にも同様に
汚白色の粉末が附着している。又ゴムパツキンは玉の密着に不良なる位置にあり、
一部が瓶頭部にはみ出している。……本件ラムネ瓶はセロフアン紙の汚白色粉末も
瓶中に入つていたカーバイトに基くものとしては爆発すべき分量なるも、その瓶の
破損状況からしてパツキンの不完全に依るものか否かは不明なるも、完全な密閉が
なされずアセチレンは瓶中より飛散し不発に終つたものと思考する。もし爆発せる
ものなれば実験五及六に於けるが如く破片は多数を生じ且つ飛散するものなればな
り。」と記載され、また右物品検査報告書中には「本ラムネ瓶の口にはめてあるゴ
ム輪が一部外れているが、本瓶を投入する時より外れていたとすれば瓦斯は洩れて
爆発しない。その場合は投てきによる破損であろう。」と記載されているだけであ
つて、これらの記載のみによつては、本件パツキンの不全が被告人がこれを投てき
する以前から既に存在していた事実及び本件ラムネ弾の不爆発の原因が、専ら、右
パツキンの完全なため球栓が栓座に接着せずそのため瓶の密閉がなされなかつたこ
とにあるとの事実を認定することは到底困難であ、原判決は、この点においても証
拠によらないで事実を認定した違法があるか理由不備の違法があると断ぜざるを得
ない。
 従つて、検察官の上告趣意に対し判断を示すまでもなく原判決の右の違法はこれ
を破棄しなければ著しく正義に反するとめる。
 よつて刑訴四一一条一号、四一三条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり
判決する。
 検察官 高橋一郎公判出席。
  昭和三四年一二月二二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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