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平成30年8月8日宣告
平成30年第187号,第295号
関税法違反,消費税法違反,地方税法違反被告事件
主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
理由
【犯罪事実】
被告人は,大韓民国から日本に金地金を輸入するに当たり,日本入国に伴う税関検
査において税関職員に金地金を輸入する事実を秘してその申告をしないまま同検査場
を通過して税関長の許可を受けずに金地金を輸入すると共に,当該金地金に対する消
費税及び地方消費税を免れようと考え,別表「共犯者」欄記載の者らと共謀の上,同
欄記載の者のうち★印を付した者が,別表「隠匿携行した金地金」欄記載の金地金を隠
匿携行して,別表「搭乗日」欄記載の各日に,大韓民国所在のA1国際空港で別表「搭
乗便」欄記載の航空便に搭乗し,別表「到着日時」欄記載の各日時に福岡市所在のB
1空港に到着し,別表「犯行日時」欄記載の各日時に,同空港内C1税関B1空港税
関支署の入国旅具検査場で,それぞれ,日本入国に伴う税関検査を受けるに際し,同
支署職員に対し,金地金を輸入する事実を秘し,その申告をしないまま同検査場を通
過し,もって税関長の許可を受けないで各金地金を輸入すると共に,不正の行為によ
り保税地域から引き取られる課税貨物である前記各金地金(それぞれの課税価格合計
額は別表「課税価格合計額」欄記載のとおり)に対する消費税(それぞれの税額は別
表「消費税額」欄記載のとおり。)及び地方消費税(それぞれの税額は別表「地方消費
税額」欄記載のとおり。)を免れた。
【量刑の理由】
1執行猶予付きの懲役刑に処した点について
本件各犯行の全体像は必ずしも明確ではないが,日本国内と海外の多数の共犯者が
細かく役割を分担して大量の金地金を継続的に日本に密輸入することを繰り返す組織
的犯行の一環であることは明らかで,同種事案の中でも悪質性の高さが際立っている。
密輸入に係る金地金は合計120個(重量合計約120kg)と大量で,免れた税金
は4500万円近くに上る。
被告人は,別表大番号1の犯行においては実行犯が密輸入した金地金を受け取って
共犯者D1と共に買取り業者に持ち込む役割を,別表大番号2の犯行においては他の
共犯者に指示して密輸により日本国内に持ち込まれた金地金を実行犯から回収させる
などの役割をそれぞれ担い,月額約50万円程度の報酬を得ていた。特に大番号2の
犯行における被告人の地位は,実際に金塊の密輸,運搬,売却等に携わる共犯者に比
して一段階上位にあったと評価できる。組織性の高い本件各犯行において相応に重要
な役割を担い,それを生業としていた点で,被告人の刑事責任は軽視できない。
他方,被告人は組織の中枢にあって犯行を主体的に企図する地位にはなく,いずれ
の犯行時においても,より上位の共犯者の指示に従って与えられた役割を果たした面
が強い。また,犯行によってもたらされる利益を直接享受し得る立場にあったわけで
はなく,被告人が得た利得も,犯行グループ全体が本件各犯行により得た利益に比べ
れば僅かといってよい。被告人は罪を認めて反省の態度を示し,今後はこのような犯
行には一切かかわらない旨述べている。取調べに際しては,韓国にいる首謀者の名も
明かして捜査に協力した。被告人には日本での犯罪歴はない。検察官は,被告人に対
して,懲役6年及び罰金1000万円に処すべきであるというが,前記のような被告
人の地位や役割,得た利益等からすると,被告人を懲役刑の実刑に処するのは躊躇さ
れるし,懲役刑の言渡しに加えて本件のような犯行が経済的に割に合わないことを感
銘させるための制裁を別途科す必要があるとも考えられない。被告人については,主
文の懲役刑を量定した上,その刑の執行を猶予するのが相当である。
2金地金の没収を言い渡さなかった点について
検察官は,被告人らが密輸入した金地金の一部(別表大番号2小番号①ないし③の
犯行に係るもの,以下「本件金地金」という。)について没収するよう求めるが,本件
金地金を没収するには,それらが「犯人以外の者に属しない物」(刑法19条2項)に
該当することが合理的な疑いを容れないまでに証明されていなければならないところ,
本件に係る全証拠を見渡しても,本件金地金の入手経過は判然とせず,それらが犯人
以外の者に属しない物であると認定することはできない。
検察官は,本件各犯行は,被告人の属する密輸組織が,香港で用意した金地金を韓
国経由で日本に密輸入して消費税等の支払いを免れ,日本国内で消費税等の相当額を
上乗せした価格で換金し,その現金で金地金を買い付けて再び金地金を用意し,これ
を再び密輸入に供することを繰り返すという循環構造を有しているのであり,本件金
地金も,当該密輸組織が組織的に循環型の金地金密輸入事案を繰り返す中で密輸入に
供されたものであって,当該密輸組織によって経済的に支配されていたと認められる
ため,本件金地金の所有権は当該密輸組織の最上位者又はその他の密輸組織構成員に
属するものと認められる旨主張する。確かに,本件各犯行が検察官の主張するような
構造を有している抽象的な可能性は否定できないが,本件金地金がいつ,どこで,ど
のような権利関係に基づいて当該密輸組織の支配下に移ったかを確定できる証拠は全
くない上,本件金地金が日本に密輸入された後のことについても,それが日本国内の
会社に売却され,特定の者がその代金を引き出したことまでは判明しているものの,
その後,その売却代金が誰の手に渡りどのように使われたかは立証されていない。こ
のような断片的な事実しか明らかになっていない本件では,各犯行が組織的に繰り返
されていたことなどの事情を考慮しても,本件金地金の所有権が当該密輸組織の最上
位者又はその他の密輸組織構成員に属し,それ以外の者には一切属さないと断定する
のは無理がある。
また,検察官は,本件金地金につき,刑事事件における第三者所有物の没収手続に
関する応急措置法に基づく公告を実施したが,第三者所有物の没収手続への参加を申
し出た者はおらず,このことは共犯者以外の所有者が存在しないことを示している旨
主張するが,前記の公告は検察庁の掲示場に14日間掲示すると共に官報に掲載する
というものである一方,本件金地金は日本国外から持ち込まれたもので,その所有者
が海外にいる可能性があることからすれば,第三者所有物の没収手続への参加を申し
出た者がいないからといって,共犯者以外の所有者がいないことが明らかになったと
は到底いえない。
その他,検察官の主張するところを検討しても,本件金地金が犯人以外の者に属し
ない物であるとは認定できないから,本件金地金については没収できない。
(検察官の求刑は懲役6年及び罰金1000万円,別表大番号2小番号①ないし③の犯行に係る金
地金36個の没収,弁護人の科刑意見は懲役3年,執行猶予5年)
平成30年8月8日
福岡地方裁判所第1刑事部
裁判官丸田顕

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