弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告が昭和六三年六月二日付通告書をもってした原告に対する除名処分が無効
であることを確認する。
二 原告が被告の組合員であることを確認する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
第二 事案の概要
一 要旨
 被告は、原告が被告組合の多摩西部支部における会計処理に不正・横領があると
主張してその旨の文書を組合員に配付して被告組合を批判し続けたり、被告組合の
勧告を無視して警察署に告発行為をしたことが、被告組合の名誉を害し、統制を乱
したとして、原告を除名処分にした。本件は、原告が、組合員として当然の権利を
行使したもので除名事由がないと主張して、右処分の無効確認と組合員の地位確認
を求めた事案である。
二 本件紛争の経緯
 つぎの事実は、当事者間に争いがないか、または、末尾掲記の証拠によって認め
られる。
1 被告組合は、昭和二二年一月一五日東京土木建築労働組合として結成され(昭
和二三年東京土建一般労働組合と名称変更)、建設産業に従事する労働者の基本的
人権を守り、経済的、社会的、政治的地位の向上を主たる目的として、主として東
京都内に居住する建設産業労働者をもって組織された労働組合であり、現在三八支
部、約八万二〇〇〇人の組合員で構成されている。多摩西部支部(以下「本件支
部」という。)は、昭和四二年に結成され、一九分会、約二一〇〇名の組合員で構
成されている。
2 原告は、被告組合の設立当初からの組合員であり、本件支部結成時から支部執
行委員長を務め、昭和五七年四月に退任したが、昭和五九年二月頃から、本件支部
において少なくとも昭和五五年より本件支部書記次長A(以下「A」という。)、
同書記局員Bによって横領ないし背任の犯罪行為が行われていたと疑うべき十分な
根拠があるとして被告組合にその是正を求め、支部会計監査人に「おたくらで監査
できるのか。」と追及しはじめ、昭和六〇年四月一二日、被告組合の組合員に対し
その旨の疑いを記載した「仲間の皆さんに訴えます」と題する別紙文書(甲一号
証)を配付した。その際同時に配付された「資料説明」と題する文書には、「会計
報告のでたらめさについて」「なぜ組合費を値上げしなければならなかったのか」
「不正及び疑問点について」「組合民主主義について考える」「A氏の品性につい
て」等の項目で具体的な事実を指摘した(甲三号証)。
3 被告組合は、原告に対し、同年五月七日付の「勧告書」と題する書面をもっ
て、「昭和五九年三月二日以降、原告らによるデマ宣伝、本件支部に不正経理があ
るがごとき怪文書、会計監査・支部役員等に対する個別攻撃は反組合活動であり、
執行委員会の名において、これ以上組織に対する攻撃を引き続き行う場合は権利停
止及び除名処分を含む重大な決意で対応する。」旨を勧告した(乙五号証)。原告
は、同年五月二一日、被告組合の組合員に対し、別紙文書と同趣旨のそれぞれ「支
部執行委員の皆様へ」「幹部の皆さんへ訴えます」「覚え書き」と題する文書三通
を配付した(甲二号証の一ないし三)。さらに、原告は、昭和六二年一〇月、被告
組合に対し、別紙文書と同趣旨の「組合員の皆さん」と題する執行委員会宛の文書
を交付したが、それには「執行部に反省のない今、八王子地検に資料と共に告発文
を持って行くことを宣言する」とも記載されていた(乙七号証)。そして原告は、
同年一一月「公開質問状」「公開質問状を出すにあたって」と題する書面を被告組
合の本部・支部に送付したが、それには「中央執行委員会が本件支部の会計の不正
を調査しない場合には権力の介入もやむをえない」旨が記載されていた。これに対
し、被告組合は、同月二一日、原告に対し、本件支部の会計処理に問題がない旨を
答えると共に、警察への告訴を取り止めることを求める文書を交付したが、原告
は、昭和六三年四月、警視庁昭島警察署に対し、若干の資料を携えて本件支部の不
正経理について捜査を求める告発手続をとった(乙四号証、証人A、原告本人)。
4 被告組合は、同年五月一五日の第四一回定期大会において、被告組合規約四〇
条に基づき原告を除名処分にする議案を提出し、そのとおりの承認がされた(以下
「本件除名処分」という。)。議案提出理由として、大要、「原告は、昭和五九年
二月頃から、本件支部の会計処理に不正・横領がある等と事実無根のことを文書に
して、不正常な手段で配付するなどした。これに対し、本件支部は、外部から監査
人も入れてそのような事実がないことを明らかにし、同年四月の定期大会でもこれ
を確認した。しかし、その後も原告は攻撃を加えてきたので、昭和六〇年五月の本
件支部執行委員会において、正規の機関で決着している、不当な行動に抗議する旨
を文書で伝えた。にもかかわらず、原告は、昭和六二年一一月被告組合の本部・支
部に対し、本件支部の財政問題を警察に告訴等の手段で持ち出す旨宣言した『公開
質問状』を出した。被告組合常任中央執行委員会は、告訴取り止めと、告訴に対し
断固たる態度でのぞむことを表明したが、昭和六三年四月、原告を代表とする若干
名で昭島警察に告訴をした。これらの行為は、事実を歪曲する手段によって、最悪
の反組合行為となるもので、組合の統制を乱し、組合の名誉を著しく傷つけるもの
である。よって、規約四〇条に基づく除名処分を行う。なお、議案提案にあたり、
被告組合の本部常駐役員が、同年五月六日、原告から弁明を聞いた。」と説明され
た(乙二号証、証人A、C)。同規約四〇条には、「組合員が規約に違反して統制
を乱し、組合の名誉を損じ、また、組合に損害を与えたときは中央執行委員会の議
をへて、除名、権利停止または勧告の処分を中央執行委員会または大会で決定す
る。これらの決定に不服のあるものは大会へ異議の申立をすることができる。」と
定められている(甲七号証)。
三 争点
1 本件除名処分に規約四〇条所定の統制違反、組合への名誉毀損の除名事由があ
るか。
2 本件除名処分の手続に弁明の機会を与えなかった違法があるか。
四 原告の主張
1 除名事由の不存在
(一) 原告が本件支部に経理上の不正の疑いがあると訴えてきたのには、つぎの
ような背景があった。すなわち、本件支部の組合費のうち、本部費の占める割合は
一六パーセント位であり、本件支部は財政的に高い自主性を持ち取扱金額も巨額で
ある。しかし、本件支部の執行委員会のメンバーの大半は専従ではなかったため、
毎月書記局のもとで作成される収支報告書について第一次資料まで遡って検討を加
えることはできなかった。結局、会計処理は書記局業務全般を指揮総括していたA
及びAの指揮のもとで金銭の管理・記帳等をしていたB書記局員に任されてきたの
が実情であった。両名は、昭和五二年頃には不倫な関係を疑われるほど馴れ合った
行動を繰り返すに至り、本件支部の会計処理につき相互に監視することが全く期待
することができない状況にあった。そして、具体的には以下の疑いがあった。
 第一は、本件支部の書記局の昭和五五年から六二年までの残業手当支給額が急増
しており、しかも支給実績額が予算額を常に上回っていた。原告が委員長をしてい
た当時と比べて約四倍にのぼり、他の支部に比べても異常に高く、残業に関する記
録を全くしないままに毎月A自身の判断で支給されていたことが明らかであり、こ
のことについての正当性について説明を受けたことがない。
 第二は、書記局員の給与は被告組合本部の定める書記局規定に基づき年齢給と勤
続給を加味して昇給することになっているが、年齢給については現実に誕生日を迎
えて満年齢に達した後、それ以降に当該年齢給を支給すべきであるにもかかわら
ず、本件支部では毎年一回六月一日を年齢給見直しの基準日とし、その時点では満
年齢に達していなくても、当該年度中に満年齢に達する見込である者に対しては一
年繰り上げて一年上の年齢給を支給していたが、この違法支給は是正されなければ
ならない。
 第三は、本件支部の事務手数料すなわち健保事務、団体生命(共済)事務、労災
事務、その他事務(許可申請事務、火災共済事務、税金対策相談事務等)の手数料
収入は、昭和五六、五七年度がほぼ横這いであるのに、原告が会計の不正の疑いを
昭和五九年二月頃から指摘したのちの昭和五八年会計年度以降に急激に増加してい
るが、その原因が見当たらないことである。そうすると、昭和五六、五七年度の事
務手数料収入が会計帳簿に正しく計上されていなかったのではないかと疑うのも当
然である。Aが、昭和五八、五九年度の収支計算書で、突然従来の会計処理の方式
を変更し、一般会計の収入欄の事務手数料に計上すべきものの一部を一般会計に計
上せずに建設資金等の科目に計上し、表面上事務手数料収入の急増が目立たないよ
うな操作をしていたこと及び、昭和五九年二月から昭和六三年までの間、会計帳
簿・領収書控え等の第一次資料を原告に閲覧させなかったことからも、Aに不正が
行われたことを推測させる理由がある。
 第四に、「その他分会」の会費が支部の決算報告に記載されていない問題があ
る。本件支部の組合員はいずれかの分会に所属するのであるが、なんらかの理由で
分会に所属することのできない組合員が通称「その他分会組合員」といわれてお
り、「その他分会組合員」は、通常の分会員としての活動を全くしていないが、組
合員の義務として毎月組合費を平等に徴収されている。これら「その他分会」の分
会費は、組合員から直接本件支部の書記局に支払われているが、本件支部の収支計
算書には全く計上されておらず、その結果を「その他分会」の組合員に報告もして
いない。
 このほかにも、ブロック活動費の還元問題がある。本件支部では昭和五七年頃か
らブロック活動費なる予算上の支出項目を設け、全組合員につき一人あたり月額一
〇〇円の活動助成金を各ブロックに支給することにし、そのとおり予算が執行され
たとの報告がされていた。しかし、「その他分会」の組合員はブロックに所属しな
いのであるから、「その他分会」の組合員についてはブロック活動費は支給される
べきではない。しかるに収支計算書では、全組合員を対象としてブロック活動費が
支給されたものとなっていたが、昭和五九年九月Aは「その他分会」の組合員につ
いてはブロック活動費を現実には支給していなかったとして追加支給した。したが
って、Aにはそれまでのブロック活動費を横領したものとの疑いがあった。
(二) 同年三月七日の本件支部執行委員会において、原告と同じ疑問を持った本
件支部玉川北分会分会長のD執行委員(以下「D」という。)が質問したが、会計
面の責任者であるAは回答せず、その後も疑問点に答えなかった。そればかりか、
本件支部は、会計上の不正を指摘する原告らを排除するため、Dの組合費徴収手続
のミスに乗じて、一方的にこれを横領と決めつけたうえ、除名処分の実施を通告し
てきた。また、原告と志を同じくする西多摩支部組合員E(以下「E」という。)
が、その頃、本件支部大会の代議員に訴える文書と資料を配付したところ、被告組
合はこれを反組合活動である等と称して、原告らの正当な批判活動を封じようとし
た。
(三) 昭和六〇年二月二二日に開かれた玉川北分会の総会において、原告は本件
支部大会代議員に、Dは分会長にそれぞれ選出されたが、原告の活動を恐れた本件
支部書記局は、同年二月二六日に一部のものが集って分会総会を開いたと称して強
引に前記分会決議を覆してしまった。そこで心ある分会員が同年三月二八日再度分
会総会を開こうとしたところ、本件支部書記局員はDが総会に出席することをピケ
を張って阻止した。あまつさえ、本件支部は、同年六月頃玉川北分会を組織改編
し、右分会と玉川南分会を併合したうえ、原告やDほか二〇名を「その他分会」に
組み入れて支部代議員となる機会を奪ってしまった。それゆえに原告の批判活動も
次第にエスカレートせざるをえなかったという側面がある。
(四) このような状況に至って原告は、昭和六三年四月、Aらに横領ないし背任
の疑いがあると考えて告発のため警視庁昭島警察署に相談に赴いたが、全く正当な
行動である。不正な犯罪者を処罰して貰う目的をもって相談に行ったとしても、国
民としての当然の権利行使である。組合政策や組合執行部に関する組合員の言論・
批判活動は、民主的な組合を維持するために不可欠の活動である。かりに組合が大
会等で決定した事項であっても、その一事でもってその後の批判活動がすべて許さ
れないとするのは妥当ではない。まして、組合書記局に会計上不正不当の疑いがあ
るときにこれを批判して追及しようとすることは組合員の権利であり義務である。
原告の行動は組合を真に愛するものとして称揚されこそすれ、断じて除名事由に値
するものではない。
2 除名処分手続の違法、無効
(一) 被告組合が原告を除名処分にした第四一回定期大会は昭和六三年五月一五
日から一七日までの三日間にわたって行われたが、その間のいつ除名議案が上程さ
れるのか原告には一切知らされなかった。
(二) 除名処分という不利益処分をするにあたって、議決権者の面前で被処分者
に処分理由を告知し、弁明の機会を与えることは、たとえ組合規約が不備なために
明文を欠く場合であっても、条理上当然の要請である。また、被告組合の従前の先
例も被処分者に弁解の機会を与える手続をしてきた。原告は、同月六日本件支部か
ら呼出を受けたものの、被告組合は、原告の発言を積極的に遮り、告訴・告発の意
思の放棄を一方的に迫るのみであった。
 したがって、本件除名処分は、原告の弁明の機会を奪ったうえでされたものであ
るから、違法・無効である。
五 被告の主張
1 被告組合に対する名誉毀損
(一) 本件支部では、Aが書記長を補佐して会計処理体制を機能させており、会
計処理は、規定に準拠して適正に処理されてきている。毎月、四役会議、常任執行
委員会、執行委員会でチェック・点検され、その内容は、支部の財政部会、分会の
諸会議等で報告、点検されてきている。年度末には、会計監査が行われ、第一次資
料にまで当たって会計処理の適正さが吟味され、引き続き行われる支部大会では、
その年度の会計処理が、分散会、分科会、総会で検討されるのであって、本件支部
も同じ体制をとっている。
(二) ところが、原告は、昭和五九年二月頃、本件支部の会計処理に不正がある
などとしてその会計監査に干渉したり、三月頃からはEらと計り、不正があるかの
ような内容を記載した文書を本件支部内で配付した。原告が本件支部の財政に不正
があるとする時期は、すべて原告が執行委員長時代のことであり、原告にとっては
不正ではないことが明らかであり、昭和五八年度の会計処理については外部の監査
人も入れて誤りのないことが確認され、昭和五九年四月の本件支部第一九回大会で
承認されて決定された。しかし原告は、Eを巻き込み、監査人、役員に対して半分
脅しを加えて本件支部を混乱に陥れようとしてきた。被告組合は、予算の作成・決
算を機関として承認していて、これまで会計処理結果が問題となったことはないか
ら、他支部のEから会計資料を要求されても見せるわけにはいかなかった。
(三) しかるに、原告は、昭和六〇年四月一二日、「多摩西部支部を明るくする
ための有志」代表と称して、支部財政に不正が行われている可能性があるとの結論
に達しました、支部執行委員会が組合民主主義を平然と踏みにじり事実と異なる経
過を押しつけた等と記載した別紙文書(甲一号証)を第二〇回支部大会代議員に郵
送して配付した。その際に一緒に配付された「資料説明」と題する文書(甲三号
証)にも、あたかも被告組合の会計・運営に不正が存在するかのような表現を用い
て、事実に反することをさまざま書きたて、また、本件支部で献身的に活動してい
る専従役員のA、B書記局員に対しても、平気で嘘をつく、わがままいっぱいの勤
務ぶりである等と記載して中傷誹謗し、組合組織への不信をあおった。その直前
に、Dが組合費を横領・着服したことを理由に本件支部定期大会において同人を被
告組合本部に除名申請することが決定されたが、原告は、支部の決定が、財政問題
を追及されたAの逆恨みによる報復の一面が強いときめつけ、別紙文書にもそのこ
とを記載していた。
(四) 原告は、同年五月二一日には、被告組合の全支部にわたって「支部執行委
員の皆様へ」「幹部の皆さんへ訴えます」「覚え書き」と題する文書三通(甲二号
証の一ないし三)を配付し、原告が代議員になれなかったこと及び分会の役員決定
過程に重大な組合民主主義の破壊があること等を記載して被告組合を中傷誹謗し
た。
(五) 原告の以上の行為は、被告組合及び組合専従者の名誉を毀損するものであ
る。
2 統制違反
(一) 本件支部は、原告の前記1(一)ないし(三)の名誉毀損行為を被告組合
に対する攻撃であるととらえ、原告に対し、執行委員の連名の昭和六〇年五月七日
付の「勧告書」と題する書面をもって、組織に対する攻撃を引き続きした場合は権
利停止ならびに除名処分を含む重大な決意で対処する旨を勧告した。原告はこれを
無視して、本件支部以外の被告組合各支部に甲二号証の前記文書を配付した。さら
に、原告は、昭和六二年一〇月、Dと連名で「今、多摩西部はAの独裁で好き勝手
が行われている。」等と記載した「組合員の皆さん」と題する文書(乙七号証)を
配付し、本件支部の会計処理の不正について検察庁に告発すると宣言し、支部執行
部の役員等の財産を差し押さえると威した。
(二) そして原告は、同年一一月二日に至り、被告組合本部執行部に対し、「公
開質問状」と題する文書(甲六号証の一)及び「公開質問状を出すにあたって」と
題する文書(甲六号証の二)を提出し、本件支部における組合民主主義の不存在と
不正財政の存在を掲げて、組合攻撃の意図を露骨にし、また、同年一一月二三日に
は刑事告訴を行うと宣言した。被告組合は、原告の行動が組合の統一と団結に対す
る攻撃であると同時に被告組合の社会的信用を傷つける反組合的行為になるとし
て、直ちに告訴を取り止めるよう指導したが、結局原告は、これに反して、昭和六
三年四月、昭島警察署に告発手続をとった。
3 除名処分
(一) 被告組合は、昭和六二年一一月の中央常任執行委員会でEも出席のうえ、
原告のいう「会計上の不正」について討議し、原告の公開質問状に対する回答を行
い、説明ずみとなった。その後、原告からそれ以上の問題提起、あるいは問題を明
らかにする資料の提出もなかった。
(二) 被告組合は、原告を除名するにあたり、昭和六三年五月六日、原告に弁明
の機会を与えた。原告は、右弁明の機会において、告訴・告発を取り下げない態度
を明確にしたうえ、自分の主張を繰り返した。
(三) 原告は、同月一五日からの定期大会の日程・場所を承知していたにもかか
わらず、これに出席・発言をした事実がない。
第三 争点に対する判断
一 本件除名処分の除名事由の存否について
1 被告組合が本件除名処分をするに至るまでの経過についてみると、証拠(甲
八、一〇、一二、五〇、五一号証、乙八ないし一〇、一四、四四、四六号証、証人
A、C、原告本人)によれば、前記「本件紛争の経緯」に関して、つぎの事実を認
めることができる。
(一) 原告は、昭和五七年四月心ならずも本件支部執行委員長に再任されなかっ
たが、それはAによる画策によると考えていたところ、昭和五九年二月頃、本件支
部玉川北分会のD、Fらから、本件支部の書記の給与が一年繰り上げて支給されて
いること、税金相談料その他の事務手数料のすべてが必ずしも支部会計に計上され
ていないこと、書記の残業手当が不正に支払われていること等の疑問を持ち込ま
れ、Eの調査資料をもあわせて、Aに経理上の不正があるとの疑いを強くした。原
告、D、Eが支部監査人、財政部長あるいはAに対してこのような観点から疑問点
を質問したため、役員・組合員の間に戸惑いが生じた。
(二) 本件支部は、同年三月七日にも、執行委員会において、Dから右の問題に
ついて質問を受けたので、この問題に対応するための調査委員会を執行委員長、副
執行委員長、書記長、書記次長の四役を構成員として設置することを決め、調査委
員会においてG常任執行委員等から事情聴取をしたところ、会計の不正を名目にし
てAを役員から降ろす目的の行動であるとの判断に至り、同月一七日の執行委員会
においてその旨が報告され、承認された。その間にも、Eは、支部執行委員に対
し、「常任委員各位」と題する文書(乙六号証)を配布して前記疑問を数字を挙げ
て指摘し、これに答えることを要求した。
(三) 本件支部は、原告らの疑問提起を機会に、新たに外部監査人を入れて会計
監査をすることにし、同年四月八日、昭和五八年度の収支について、税理士による
監査を実施したうえ、決算報告書に基づき、昭和五九年四月二二日、二三日の本件
支部大会で承認されたが、原告、D、F等から経理に関する質問は出されず、その
後の執行委員会においても問題にされなかった。
(四) Dは、その後も玉川北分会分会長として執務してきたが、同年九月一日付
で組合からの脱退手続をしたことになっている組合員からその後組合費五ヶ月分を
受領しておきながらこれを支部に収めていなかった。たまたま昭和六〇年二月その
組合員が労災事故を起こして本件支部に保険金の請求をしてきたことから、同月二
七日これが本件支部に発覚した。そこで本件支部は、Dから事情を尋ねたが、正当
な理由の説明がなかったため、受領金を横領したものと判断し、同年三月二日、臨
時執行委員会を開き、当該組合員には在籍扱いとして保険金を立替払することを決
め、Dに対しては役職を辞任して組合の損害を賠償することを求めた。Dは、横領
の意思はなかったとし、本件支部の対応は弾圧であると反論したので、本件支部
は、同月二七日の執行委員会で、Dの執行委員及び分会長等の権限を停止すること
を決定した。
(五) このような経過で、原告は、別紙文書(甲一号証)及び「資料説明」(甲
三号証)を本件支部大会代議員に郵送配付し、以後、本件支部の会計処理に不正・
横領がある旨の一連の抗議行動を再開した。
2 原告は、本件支部の会計処理につきA、B書記局員に横領、背任の疑いがあっ
た旨を具体的事実に即して主張するので判断する。
(一) 残業手当支給額が急増していることの疑惑をいう点についてみるに、本件
支部の書記局の残業手当は、昭和五五年度九一万一〇〇〇円、五六年度一四七万八
二九五円、五七年度五一〇万四二五〇円、五八年度六二六万五二五〇円、五九年度
七〇三万二一〇〇円と急増し、六〇年度六五八万七六〇〇円、六一年度六九八万四
三〇〇円、六二年度六二二万七八〇〇円とほぼ安定した額が支給されているが、被
告組合では全支部が残業手当の請求について自主申告制度をとり、早朝のビラ撒
き、事務所及び夜間組合員宅での会議、資料作りのための休日出勤等で残業が少な
くなく、本件支部で特にこれが多かったことが認められる(甲二四ないし二八号
証、乙一〇、一一号証、証人A、C)のであって、そのうち昭和六〇年度までの残
業手当につきAらに勝手気ままな不正支出等の疑いがあると断定するに足りる根拠
は本件全証拠によっても認められない。
(二) 年齢給の支給につき年齢の算定方法の不正をいう点についてみるに、被告
組合には書記局員の賃金を定めた書記局規定があり、基準賃金を構成する年齢給が
定められ、各支部ともこれに依拠して支給しているが、満年齢によるか数え年齢に
よるかを含めてその基準は各支部の実情に応じて決められており、被告組合本部で
この取扱いを統一するに至っていないところ、本件支部では昭和五五年度当時から
毎年基準時を六月一日としその年度中に誕生日を迎える予定の組合員に対しては一
年上の年齢給を支給していたが、本部からこの取扱いが不正であると指摘されたこ
とはなく、当時他にも同じ取扱いをしていた支部がいくつかあったことが認められ
る(乙二五号証、証人C)。しかし、この取扱によって、Aらに横領、背任の疑い
があると推認すべき証拠はない。
(三) 昭和五六年度、五七年度の事務手数料収入の経理上の不正をいう点につい
てみるに、本件支部の事務手数料は健康保険事務手数料、団体生命(共済)事務手
数料、労災保険事務手数料、税金申告手続相談料、指名参加許可手続手数料、新規
許可手続手数料、更新許可手続手数料および労災奨励金であるところ、その収入額
は決算上、昭和五五年度七八五万七二五一円、五六年度一一四九万一二八七円、五
七年度一一九九万三三六六円、五八年度一八七七万一四四〇円、五九年度一七一二
万二〇九七円と推移し、五八年度に急増したことが窺われるが、手数料収入が組合
員数、組合費滞納状況、保険加入率等によって大きく左右されるとはいえ、右の急
増原因は必ずしも具体的計数的には明らかではないものの、本件支部の手数料収入
については分会毎に収入の度に領収証、入金伝票、振替伝票が各書記により作成さ
れ、これに基づいて作成される収支報告書が四役会議、分会執行委員会等に毎月配
布され、討議されてきて、これまで昭和五八年度までの手数料収入について不正・
横領等の問題とされたことはなかったことが認められる(甲二四ないし二六号証、
乙一〇、一一、二二ないし二四号証、証人C、A)。原告本人のこの点に関する供
述は、具体的証拠に基づかない憶測にすぎないというほかなく、他に、事務手数料
収入の経理上の不正を認めるに足りる証拠はない。
(四) 「その他分会」の会費、ブロック活動費の不正経理をいう点についてみる
に、本件支部には、昭和五九年当時地域別に構成された一九の分会があって、地域
別に六ブロックに分けられ、その他に、その分会から理由があって離れた「その他
分会」と称される直属の組合員がおり、これら全組合員から一律に五〇〇円の組合
費が徴収されていたが、「その他分会」の経理については執行委員会が管理し、B
書記局員が金銭出納帳を記載していたこと、各ブロックに昭和五七年六月から昭和
六〇年四月までの一時期にブロック活動費が支給されていたことがあり、昭和五九
年九月に「その他分会」の経理からも三〇万円が支出されたことが認められる(甲
二九、三〇、五〇号証、乙三六、四六号証、証人A、原告本人)。しかしながら、
本件全証拠によっても、右会費、ブロック活動費の不正経理を認めることはできな
い。
3 そこで、本件除名処分に至る経緯及び本件支部の会計処理についての以上の事
実関係のもとにおいて、原告が昭和五九年二月頃からとってきた不正会計処理の追
及のための文書配付、警察への告訴行動が被告組合規約四〇条の除名事由に当たる
かどうかについて判断する。
(一) 労働組合が団結権を確保し、組合本来の目的を達成するためには、組合は
その組合員に対し統制権を行使することが不可欠であり、また、組合員は組合の規
約、組合機関の決定に従って行動することが必要である。他方、組合の民主主義的
運営を確保するためには、組合員に組合のすべての問題について言論、批判の自由
が保障されなければならない。これらの点に照すと、組合員のいかなる行動が団結
権の確保に必要であるかは、組合の自主的判断に委ねられるべきであって、組合で
定められた手続を経て決定された組合の意思に反し、その実現を妨げる組合員の行
為は、組合の意思が社会通念上容認できないものでない限り、統制権の対象となる
ものということができる。被告組合規約には、組合員は組合のすべての問題に参与
する権利を有すること(三条)、組合員の小数意見は尊重されるが小数は多数に従
うこと(四条)、組合員は組合の役員の行動をすべての会議で批判することができ
ること(八条)、組合員は機関の決定に従うこと(九条)が定められていることが
認められるが(甲七号証)、右の趣旨でこれらを理解するのが相当である。
(二) 原告が本件訴訟で本件支部の経理の不正として主張している事実は、昭和
五九年二月頃から原告らによって追及され、同年三月一二日Eによって支部執行委
員に文書で具体的に明示されたところであるが、指摘された事実は本件支部の運営
について極めて重大な影響を与える事柄であり、支部役員とりわけ要職にあるA書
記次長に組合経理上の横領・背任があるとの指摘は、組合員に保障された組合役員
に対する批判の自由の範囲にある。しかし、原告の右の言動については、その後の
支部執行委員会で採り上げられて討議され、同年四月二二日、二三日に開かれた支
部大会で昭和五八年度の支部会計処理が異議なく承認されたことによって、組合の
機関として、支部会計に指摘されたような疑惑がないことが確認されたものとみる
ことができる。本件支部の経理の不正の有無を明確にしないことは、組合員の組合
役員ひいては組合に対する不信を募らせる恐れがあるから、組合としてこの問題に
決着をつけ、これ以上詮議を加えないとする意思が決定されたものというべきであ
る。確かに、本件支部の事務手数料収入が決算書上は昭和五八年度に急増したこと
に関し、原告指摘のような疑いを抱く余地がないではないが、現に原始帳簿によっ
て確認することができない時期に至っては、もはや推測の域を出ない。まして会計
の不正があったと指摘する時期は、原告が支部執行委員長の地位にあって内実を十
分把握していたものと考えるのが自然であるにもかかわらず、これまでなんら問題
にされてこなかった以上、支部大会の意思は、この問題に対し従前の経理に不正が
なかったとの結論を正当として内部批判に決着をつけたものとみるのが相当であ
る。
(三) ところが原告は、その一年後に、今度はDの横領問題を加え、再び本件訴
訟で本件支部の経理の不正として主張している行為について、昭和六〇年四月一二
日に配布された別紙文書(甲一号証)及び「資料説明」(甲三号証)によって余す
ことなく具体的に摘示したため、被告組合から、原告の行動は組合に対する攻撃で
あるから以後は統制権を行使する旨を警告された。右警告が社会通念上容認されな
いものとは認められないにもかかわらず、原告は、同年五月にも同趣旨の文書(甲
二号証の一ないし三)を組合員に配布し、昭和六二年一〇、一一月には文書をもっ
て捜査機関に告発する旨宣言するに至り、被告組合常任執行委員会の制止・警告を
受け入れずに、昭和六三年四月、警察に対して本件支部の経理の不正の捜査を求め
たのであって、これらの行動は、被告組合が自主的に判断して決定した原告指摘の
経理問題を、被告組合の意思に反して、確たる証拠がないにもかかわらず、捜査機
関に調査を求めることにより組合の自主性を失うものであり、組合の規約に反して
統制を乱し、組合の信用、名誉を失墜させるものであるというべきである。
(五) 以上によれば、原告には組合規約四〇条の統制事由が認められ、その行為
の態様、結果、影響等に照すと、被告組合がこれを除名事由に該当するとした判断
に違法があるとはいえない。
二 除名手続の適法性について
1 本件除名手続について、証拠(乙一、三号証、証人C、原告本人)によりつぎ
の事実が認められる。
(一) 本件除名処分は、本件支部第四一回定期大会期間中の昭和六三年五月一五
日の期日で決定されたが、その大会前の同年四月三〇日、被告組合は、原告に対
し、原告が警察署に組合の内部問題を告訴した行為が除名処分の対象になるから、
弁明があれば、同年五月六日に被告組合本部に出席するよう伝えたところ、同日、
原告は被告組合常任執行委員会の常駐役員八名の面前で、自己の行為が正当である
こと、告訴告発は取り下げないことを表明した。
(二) 被告組合は、原告に対し、第四一回定期大会の日程・場所を予め通知した
が、原告は、大会期間中これに出席しなかった。そこで、被告組合は昭和六三年六
月二日、原告に対して本件除名処分を通告し、次期大会に異議を申立てることがで
きることを説示した。
2 以上によれば、本件除名処分につき、原告には弁明の機会が与えられたものと
いうことができ、他に本件除名処分に違法、無効とすべき手続上の瑕疵はない。
三 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 遠藤賢治)
別紙文書省略

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