弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原判決中,別紙処分目録1及び2記載の各処分に係
る請求に関する部分を破棄する。
2前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻
す。
3上告人らのその余の上告を棄却する。
4前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人丸山隆寛の上告受理申立て理由第1について
1本件は,上告人らが,相続財産中の土地について租税特別措置法(平成11
年法律第9号による改正前のもの。以下「措置法」という。)69条の3所定の小
規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用があるものとして相続
税の申告をしたところ,被上告人から,同特例の適用は認められないとして相続税
の更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けたので,その取消しを求める事案であ
る。
2措置法69条の3第1項は,個人が相続により取得した財産のうちに,当該
相続の開始の直前において,当該相続に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一
にしていた当該被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の
上に存する権利をいう。以下同じ。)で大蔵省令で定める建物又は構築物の敷地の
用に供されているもの(以下「居住用宅地等」という。)がある場合には,当該相
続により財産を取得した者に係るすべてのこれらの宅地等の200㎡までの部分の
うち,当該個人が取得をした宅地等で政令で定めるもの(以下「小規模宅地等」と
いう。)については,相続税法11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべ
き価額は,当該小規模宅地等の価額に一定の割合を乗じて計算した金額とする旨規
定している(以下,これによる相続税の課税価格の計算の特例を「本件特例」とい
う。)。
そして,措置法69条の3第1項によれば,上記一定の割合は,当該居住用宅地
等が「特定居住用宅地等」に該当する場合には100分の20であり(同項1
号),これに該当しない場合には100分の50であるところ(同項2号),「特
定居住用宅地等」とは,被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で,当該相続
により当該宅地等を取得した個人のうちに,当該被相続人の配偶者又は一定の要件
を満たす当該被相続人の親族がいる場合の当該宅地等をいうものと規定されている
(同条2項2号)。
3原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)当事者及び土地の所有関係等
ア上告人らは,昭和51年7月12日,A,B夫婦と養子縁組をした夫婦であ
り,Bの共同相続人である。
イ昭和63年2月6日,Aが死亡し,Bは,相続により,第1審判決別紙物件
目録1及び2記載の各土地(以下,順に「甲土地」,「乙土地」といい,併せて
「本件土地」という。)並びに甲土地上の建物である上記目録3記載の建物(以下
「甲建物」という。)を取得した。
上告人X(以下「上告人X」という。)は,昭和57年4月14日,乙土地上11
に上記目録4記載の建物(以下「乙建物」という。)を新築した。
ウ平成9年3月ころ,Bは,Aの弟の妻で上告人Xの実母であるCと共に甲1
建物に居住し,上告人らは,乙建物に居住していた。
(2)本件仮換地の指定等
ア本件土地は,福岡都市計画事業筥崎土地区画整理事業(以下「本件事業」と
いう。)の施行地区内にあるところ,その施行者である福岡市は,Bに対し,土地
区画整理法に基づき,平成9年3月18日付けで,①本件土地の仮換地を福岡市
a区bc丁目d街区の土地523㎡(以下「本件仮換地」という。)に指定するこ
と,②仮換地指定の効力発生の日である同月19日から本件土地を使用収益する
ことができないこと,③別に定めて通知する日まで本件仮換地を使用収益するこ
とができないことなどを通知した。
イB及び上告人Xは,平成9年6月4日付けで,福岡市との間で,同年121
月30日までに本件土地に存する物件のすべてを本件事業の支障にならないように
移転又は除去することなどを内容とする物件移転等補償契約を締結した。
ウBは,上記アの仮換地指定通知に伴い,平成9年11月7日付けで福岡市に
対し仮設住宅等使用願を提出し,同月18日ころ,甲建物から仮設住宅にCと共に
転居し,上告人らも同じころ乙建物から仮設住宅(Bの転居先の隣室)に転居し
た。
エ甲建物及び乙建物は,平成9年12月18日ころ,取り壊され,本件土地は
更地となった。
オBは,平成10年10月18日死亡し,本件土地は,上告人Xが相続し1
た。
カ福岡市は,上告人Xに対し,土地区画整理法に基づき,平成12年3月21
7日付けで,本件仮換地について使用収益を開始することができる日を同年4月1
日と定める旨通知した。
キ上告人らは,平成12年5月21日,建築請負業者との間で,本件仮換地上
に第1審判決別紙物件目録5記載の建物(以下「本件ビル」という。)を新築する
ための工事請負契約を締結した。
ク本件ビルの新築工事は,平成12年6月5日に着工され,上告人らは,同1
3年3月20日,本件ビルの引渡しを受け,同月27日,本件ビルに入居した。
(3)課税の経過等
ア上告人らは,法定申告期限内である平成11年8月11日,本件土地につき
特定居住用宅地等に関する本件特例(措置法69条の3第1項1号)の適用がある
ものとして,上告人Xにつき,課税価格を5984万7000円,納付すべき税1
額を338万9900円,上告人X(以下「上告人X」という。)につき,課税22
価格を5455万円,納付すべき税額を308万9200円と計算した相続税の申
告書を被上告人に提出した。
イ被上告人は,上告人らに対し,本件土地ないし本件仮換地につき本件特例の
適用は認められないとして,平成12年6月30日付けで,上告人Xにつき,課1
税価格を8309万9000円,納付すべき税額を694万9700円,上告人X
につき,課税価格を5455万円,納付すべき税額を456万2200円とする2
1相続税の各更正(以下「本件各更正処分」という。)をするとともに,上告人X
につき過少申告加算税額を36万3000円,上告人Xにつき過少申告加算税額2
を14万7000円とする過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各賦課決定処
分」という。)をした。
4原審は,上記事実関係の下において,本件土地につき本件特例の適用は認め
られず,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分はいずれも適法であると判断し
た。その理由の要旨は,次のとおりである。
本件特例の適用に当たっては,相続開始の直前において当該土地を被相続人等が
現に居住の用に供していたか,あるいは,少なくとも相続開始時に当該土地におい
て現実に居住用建物の建築工事が着工され,当該土地が居住用建物の敷地として使
用されることが外形的,客観的に明らかになっている状態にあることが必要と解す
べきである。
これを本件についてみると,相続開始の直前において本件土地及び本件仮換地が
更地の状態であったことは明らかであって,いずれの土地についても居住用建物の
敷地としての使用が外形的に認められないから,これを居住用宅地等として扱うこ
とはできず,本件特例の適用は認められない。
5しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである(なお,本件においては,甲土地の面積だけで200㎡を超えてい
るので,本件特例の適用の有無は,甲土地について検討すれば足りる。)。
前記事実関係によれば,確かに,甲土地及び本件仮換地は,相続開始時におい
て,いずれも更地であり,居住用建物の敷地として現実に使用されている状況には
なかったものといわざるを得ない。
しかしながら,前記事実関係によれば,Bは,従前,甲土地を現実に居住の用に
供していたのであるが,福岡市の施行する本件事業のため,甲土地を含む本件土地
につき仮換地の指定がされ,本件土地及び本件仮換地の使用収益が共に禁止された
ことにより(土地区画整理法99条参照),仮設住宅への転居及び甲建物の取壊し
を余儀なくされ,その後,本件仮換地についての使用収益開始日が定められないた
め本件仮換地に建物を建築することも不可能な状況のまま,同人が死亡し,相続が
開始したというのである。
以上のとおり,相続開始の直前においては本件土地は更地となり,本件仮換地も
いまだ居住の用に供されてはいなかったものであるが,それは公共事業である本件
事業における仮換地指定により両土地の使用収益が共に禁止された結果,やむを得
ずそのような状況に立たされたためであるから,相続開始ないし相続税申告の時点
において,B又は上告人らが本件仮換地を居住の用に供する予定がなかったと認め
るに足りる特段の事情のない限り,甲土地は,措置法69条の3にいう「相続の開
始の直前において・・・居住の用に供されていた宅地」に当たると解するのが相当
である。そして,本件においては,B及び上告人らは,仮換地指定通知に伴って仮
設住宅に転居しており,また,上告人らは,相続開始後とはいえ,本件仮換地の使
用収益が可能となると,本件仮換地上に本件ビルを建築してこれに入居したもので
あって,上記の特段の事情は認めることができない。したがって,甲土地について
本件特例が適用されるものというべきである。
6以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決のうち別紙処分目録1及び2記載の各処分に
係る請求に関する部分は破棄を免れない。そして,同請求に関し,甲土地が措置法
69条の3第1項1号の「特定居住用宅地等」に該当するか否か,上告人らの納付
すべき税額等について審理判断させるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻
すこととする。
なお,本件各更正処分のうち上告人らの各申告額を超えない部分に関する上告に
ついては,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却す
ることとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官上田豊三裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官田原睦夫)
処分目録
1被上告人が,上告人Xに対し,平成12年6月30日付けでした同10年1
10月18日相続開始に係る相続税の更正のうち納付すべき税額338万9900
円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定
2被上告人が,上告人Xに対し,平成12年6月30日付けでした同10年2
10月18日相続開始に係る相続税の更正のうち納付すべき税額308万9200
円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛