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平成19年8月8日判決言渡
平成18年(行ケ)第10406号審決取消請求事件
平成19年6月18日口頭弁論終結
判決
原告ファリスバイオテックゲゼルシャフト
ミットベシュレンクテルハフツング
訴訟代理人弁護士窪田英一郎
同大西達夫
同柿内瑞絵
同乾裕介
同今井優仁
訴訟代理人弁理士藍原誠
同松川まり子
被告株式会社日本スキャンティボディ
訴訟代理人弁理士細田芳徳
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2004−80037号事件について平成18年5月2日にし
た審決を取り消す。
第2争いのない事実
1手続の経緯
原告は,発明の名称を「hPTH(1−37)配列由来のペプチド」とする
特許第3457004号(以下「本件特許」という。平成7年9月22日国際
出願優先権主張:1994年9月28日ドイツ連邦共和国平成15年8〔,〕,
月1日設定登録,登録時の請求項の数は10である)の特許権者である。。
被告は,平成16年4月30日,本件特許の請求項1及び請求項3ないし6
に係る発明についての特許を無効とすることについて審判を請求し,この請求
は無効2004−80037号事件以下本件審判というとして特許庁(「」。)
に係属した。
原告は,本件審判の審理の過程において,平成16年9月1日,本件特許に
係る明細書以下本件明細書というの特許請求の範囲の記載を訂正する(「」。)
請求以下訂正請求①というをしたが平成17年3月22日発送の無(「」。),
効理由通知以下無効理由通知というを受けた後同年5月11日改(「」。),,
めて本件明細書の特許請求の範囲の記載を訂正する請求(以下「訂正請求②」
といい訂正請求②に係る訂正を本件訂正というをし訂正請求①につ,「」。),
いては取り下げた。その後,原告は,同年11月29日発送の訂正拒絶理由通
知(以下「訂正拒絶理由通知」という)を受けた。。
特許庁は,審理の結果,平成18年5月2日,本件訂正を認めないとした上
で特許第3457004号の請求項1及び請求項3乃至6に係る発明につい,「
ての特許を無効とする」との審決(附加期間90日。以下「審決」という)。。
をした。
2特許請求の範囲
(1)本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3ないし7の各記載は次の,
とおりである以下これらの請求項に係る発明を項番に対応して本件発(,,「
明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。。)
「請求項1】【
生物活性を有するhPTH(1−37)を診断するための抗体又は抗体フラ
グメントを製造するための,以下の配列からなるべプチドの使用。
hPTH1−10
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−Asn−OH8910
hPTH1−9
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−OH89
hPTH1−8
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−OH8
hPTH1−7
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−OH
hPTH1−6
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−OH2
123456
hPTH1−5
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−OH」2
12345
「請求項3】【
請求項1又は2に記載の少なくとも1個のペプチドによる動物の免疫によっ
て得ることができる,抗体又は抗体フラグメント。
【請求項4】
以下の配列から選ばれるペプチドを認識してそれに結合する,請求項3に記
載の抗体又は抗体フラグメント。
hPTH1−10
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−Asn−OH8910
hPTH1−9
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−OH89
hPTH1−8
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−OH8
hPTH1−7
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−OH
hPTH1−6
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−OH2
123456
hPTH1−5
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−OH2
12345
【請求項5】
以下の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する抗体又
は抗体フラグメント。
hPTH1−10
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−Asn−OH8910
hPTH1−9
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−OH89
hPTH1−8
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−OH8
hPTH1−7
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−OH
hPTH1−6
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−OH2
123456
hPTH1−5
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−OH2
12345
【請求項6】
それ自体公知の免疫法を用いて請求項1又は2の少なくとも1つに記載の少
なくとも1個のペブチドにより免疫した動物から免疫グロブリンを含む分画
を回収し,請求項1又は2の少なくとも1つに記載の少なくとも1個のペプ
チドに対する抗体力価を有する分画を単離することにより得ることができ,
さらに別のアジュバンド及び/又は賦形剤を含むこともある,診断薬。
【請求項7】
以下の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する抗体又
は抗体フラグメントを含む,生物活性を有するヒト上皮小体ホルモン(hP
TH(1−37)を検出するための診断薬。)
hPTH1−10
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−Asn−OH8910
hPTH1−9
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−OH89
hPTH1−8
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−OH8
hPTH1−7
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−OH
hPTH1−6
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−OH2
123456
hPTH1−5
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−OH」2
12345
(2)本件訂正後の本件明細書の特許請求の範囲の請求項7の記載は次のとお,
りである(以下,この発明を「本件訂正発明」という。。)
「請求項7】【
以下の配列から選ばれるペブチドを特異的に認識してそれに結合する抗体又
は抗体フラグメントを含む,生物活性を有するヒト上皮小体ホルモン(hP
TH(1−37)を検出するための診断薬であって,)
hPTH1−10
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−Asn−OH8910
hPTH1−9
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−His−OH89
hPTH1−8
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−Met−OH8
hPTH1−7
1234567
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−Leu2
−OH
hPTH1−6
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−Gln−OH2
123456
hPTH1−5
NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile−OH2
12345
該抗体又は抗体フラグメントは,hPTHのN−末端の最初のアミノ酸に結
合し,2個のアミノ酸,即ち,hPTHのアミノ酸配列の1番目のセリンと
2番目のバリンが欠失すると親和性の実質的な消失が生じる,診断薬」。
3審決の理由
別紙審決書写しのとおりである要するに下記(1)の理由により本件訂正。,,
発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件訂正は,
特許法134条の2第5項において読み替えて準用する同法126条5項の規
定に違反する訂正事項を含むものであって,これを認めることはできず,下記
(2)の理由により本件発明1及び3ないし6に係る特許は同法29条2項の,,
規定に違反してされたものであって,同法123条1項2号により無効とすべ
きである,というものである。すなわち,
(1)本件明細書の発明の詳細な説明の欄には本件訂正発明の構成のうちh,,「
PTHのN−末端の最初のアミノ酸に結合し,2個のアミノ酸,即ち,hP
THのアミノ酸配列の1番目のセリンと2番目のバリンが欠失すると親和性
の実質的な消失が生じる該抗体又は抗体フラグメントが実質的に開示さ」「」
れているとはいえず,また,このような抗体を取得することにつき,当業者
がその実施できる程度に明確かつ十分に記載されているともいえないから,
本件訂正発明は,特許法36条4項(本件特許は平成7年9月22日に出願
したとみなされるから,審決にいう上記規定は,平成14年法律第24号に
よる改正前の規定をいうものと解される。以下,本判決における上記規定に
ついても同様である及び同法36条6項1号に規定する要件を満たしてい。)
ない。
(2)本件発明1及び3ないし6は本件特許の優先日前に頒布された刊行物で,
ある下記引用例及び甲4ないし甲8文献に記載された各発明(以下,引用例
に記載された発明を「引用例発明」といい,甲4文献ないし甲8文献に記載
された各発明を,書証番号に対応して「甲4発明」などという)に基づい,。
て当業者が容易に発明をすることができたものである。
ア引用例
「EuropeanJournalofPharmaceuti
calSciencesvol.2,No.1/2(1994)p1
54(右上欄(甲1))」
イ甲4文献
Journalofimmunoassay131199「,(),
2,p1−13(甲4)」
ウ甲5文献
「AdvancesinProteinDesignInte
rnationalWorkshop1988;GBFMonog
raphs,Vol.12(甲5,」)
エ甲6文献
「AdvancesinExperimentalMedici
neandBiology208,1986p315−327」
(甲6)
オ甲7文献
「Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.85,p
p.5409−5413(1988(甲7))」
カ甲8文献
「免疫学−基礎から臨床へ−株式会社メディカル・サイエンス・イン
ターナショナル発行29∼32頁1986年(甲8)」
審決が上記結論を導くに当たり認定した本件発明1と引用例発明との一致
点・相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「hPTH(1−37)を診断するための抗体を製造するためのhPT
H1−10ペプチドの使用」である点。。
(相違点(a))
診断対象となるhPTH(1−37)について,本件発明1が「生物活
性を有する」と特定しているのに対して,引用例発明が「生理的循環型」
としている点。
(相違点(b))
引用例発明では「hPTH1−10」により得られたポリクローナル抗
体を血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントであるhPTH(1−
37)を免疫学的に検出するための候補の一つとすることが記載されてい
るだけである点。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は訂正の適否についての判断を誤った違法取消事由1引用例の頒,(),
布日についての認定を誤った違法取消事由2引用例発明の認定を誤った違(),
法取消事由3本件発明1と引用例発明との相違点の判断を誤った違法取(),(
),()消事由4本件発明3ないし6についての認定判断を誤った違法取消事由5
があるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)
審決は,本件訂正発明について,当業者が理解,実施できるものではないか
ら,特許法36条4項及び同法36条6項1号に規定する要件を満たしていな
いとし,本件訂正を認めなかった。しかし,本件訂正発明は,当業者が実施で
,(,きると理解されるから本件訂正は認められるというべきである甲32の1
2したがって審決は判断の前提となる本件特許の特許請求の範囲の請求)。,,
項1及び3ないし6の記載の認定を誤ったものというべきである。
2取消事由2(引用例の頒布日についての認定の誤り)
審決は,エルゼビア・ジャパン株式会社作成に係る「出版証明書」と題する
書面(甲2)並びに国立国会図書館による「6.9.26」との押印がなされ
ている引用例の表紙(甲3)及びかかる押印が受領印であること示す国立国会
図書館所蔵図書館資料に関する証明書(甲13)などを根拠として,引用例が
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である旨認定した。
しかし,以下のとおり,引用例が頒布されたのは本件特許の優先日と同日で
あって,引用例が頒布された時期と本件特許の優先日の先後関係は明らかでな
いから,審決の上記認定には誤りがある。
(1)特許法29条1項3号にいう頒布とは刊行物が一般公衆により閲覧「」,
可能な状態で配布されることをいう。
甲2には引用例が1994年9月12日に・・・発行されたとの記,,「」
載があるが発行が具体的にいかなる行為を指すのかは不明であり甲2,「」,
は,引用例が本件特許の優先日前に頒布された刊行物であることを示すこと
にはならないというべきである。
(2)審決は「国会図書館へ受け入れたことにより,不特定の者が見得る状態,
におかれたとすることが社会通念上妥当なことであるといえるから,甲第1
号証(判決注,引用例)は国会図書館受け入れ日に頒布された刊行物という
ことができる(審決書16頁23行∼25行)と認定判断した。」
しかし,図書館においては,刊行物が受け入れられてから一般公衆に閲覧
可能な状態になるまでには,整理番号の付与,目録の作成,ラベルの添付等
の作業が行われ,相当程度の日数及び時間を要するのが通常である。
国立国会図書館関西館長作成に係る平成18年8月11日付の「照会事項
回答と題する書面甲36によれば国立国会図書館では収集資料()」(),,
は,一般的に,受入日の翌々日の午前9時30分から一般の閲覧に供される
,()から引用例が国立国会図書館に受け入れられた日が平成6年1994年
9月26日であるとすれば,引用例が一般の閲覧に供された日は,その翌々
日である同年9月28日であって,本件特許の優先日と同日であるというこ
とになる。
以上のとおり,甲3及び13により,国立国会図書館における引用例の受
(),入日が平成6年1994年9月26日であることが認められたとしても
引用例が本件特許の優先日前に頒布された刊行物であることを示すことには
ならないというべきである。
,,(3)パリ条約4条によれば同盟国の第1国にした最初の出願をもとにして
後に同盟国の第2国へ出願した場合でも,第2国への出願は,一定の条件の
下で,第1国において最初に出願した日に出願を行ったものと同様の効果が
与えられるものの,同条約は,第2国における出願に対して,第1国におい
て最初に出願した日の特定の時間に出願を行ったものと同様の効果を与える
とまでは規定していない。
したがって,本件特許については,平成6年(1994年)9月28日に
本邦において出願されたと同様の効果が与えられるが,同日における引用例
の頒布時刻と本件特許について本邦における出願されたと同様の効果が与え
られる時刻との先後関係は不明といわざるを得ない。
無効主張の根拠となる刊行物が特許出願前に頒布されたことは,無効主張
する者が立証責任を負うところ,被告(請求人)は,引用例が本件特許の優
先日前に頒布された刊行物であることを立証していない。
3取消事由3(引用例発明の認定の誤り)
審決は引用例の記載がhPTH1−37中の1−5部位付近にエピ,,「()
トープが存在する可能性,そして,hPTH1−10によりウサギを免疫する
ことにより得られたポリクローナル抗体が,当該hPTH(1−37)中にお
ける1−5部位付近のエピトープを認識する可能性を強く教示する審決書1」(
7頁27行∼31行)などと認定し,本件発明1及び3ないし6は,引用例発
明及び甲4発明ないし甲8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたと判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記引用例発明の認定には誤りがある。
,「」(1)引用例には血清K−KはhPTH1−5の配列に優位的に結合する13
,,との記載があるがエピトープマッピングの条件・結果が詳らかでないから
,,,当業者は当該配列がエピトープであると判断することはあり得ずむしろ
引用例の記載は,エピトープが1−5部位付近に存在しない可能性を示唆す
るものといえる。
アエピトープマッピングとは,抗原(ペプチド)中のエピトープを発見す
るために行う実験であり,対象となるペプチドを構成する4∼6個以上か
らなるアミノ酸の配列を数種類用意して基板に固定し,各アミノ酸の配列
に抗体を接触させ,どのアミノ酸の配列が反応したかを検討することによ
り,当該ペプチド中のエピトープの箇所を推定するものである。
一般に,使用されたアミノ酸の配列を構成するアミノ酸の個数がA個で
あるという情報と,抗体が配列X−Yに優位的に結合したとの情報がある
だけで,その他の情報が詳らかではない場合,エピトープマッピングの結
果については,下記①又は②のいずれかの解釈が可能である。
①エピトープマッピングに使用したアミノ酸の配列の中に,X位ないし
Y位のアミノ酸からなる配列が存在し,抗体がかかるアミノ酸の配列に
のみ優位的に結合したという結果(以下「解釈①」という。。)
②X位ないしY位のアミノ酸をそれぞれ先頭に有する複数のアミノ酸の
配列に優位的に結合したという結果(以下「解釈②」という。。)
イ引用例の「hPTH1−37全体に相当するように配列を重なり合わせ
たペプチド9−10アミノ酸残基を合成したとの記載からはエピ()。」,
トープマッピングに使用されたアミノ酸の配列は9ないし10個であっ
て,1−5部位の5個のアミノ酸からなる配列は使用されていないという
ことができる。
そうすると,引用例におけるエピトープマッピングの結果は,エピトー
プマッピングに1−5部位の5個のアミノ酸からなる配列が供され,その
配列に血清K−Kが優位的に結合したというもの(解釈①)ではなく,13
9ないし10個のアミノ酸から構成されるアミノ酸の配列に抗体が結合し
たというもの(解釈②)であると結論付けられる。
したがって,引用例の「血清K−KはhPTH1−5の配列に優位的13
に結合する」との記載は,エピトープマッピングにおいて,hPTH(1
−37)の1−5部位のアミノ酸をそれぞれ先頭に有するアミノ酸の配列
が供され,これらの配列に血清K−Kが優位的に結合したという結果に13
基づくものと考えざるを得ない。
そして,引用例を善解し,エピトープマッピングが可能な限り詳細な条
件設定のもとで行われたという仮定(アミノ酸の配列が一つずつずれるよ
うなものであったという仮定)に立つと,引用例の「血清K−KはhP13
TH1−5の配列に優位的に結合する」との結論は,血清K−Kが,L13
ine1ないし5のアミノ酸の配列とは反応したものの,Line6以降
(「」のアミノ酸の配列とは反応しなかったという結果以下引用例推定結果
という)に基づくものと考えられる。。
しかし,引用例推定結果からは,hPTH(1−37)中のエピトープ
が1−13部位のアミノ酸の配列のいずれかに存在するということしか導
き出せない。
のみならず,引用例推定結果は,むしろ,hPTH(1−37)中のエ
ピトープが1−5部位付近には存在しない可能性を示唆している。
エピトープは4∼6個のアミノ酸配列からなるが甲8仮に5個の,(),
アミノ酸からなる場合について考察することとし,1−5部位がエピトー
プであると仮定すると,3個以下のアミノ酸からなる配列は血清等の抗体
に反応しないから,Line1ないし2のアミノ酸の配列とは反応し,L
ine3以降のアミノ酸の配列とは反応しないとの結論が得られることに
なる。しかし,このような結論は,引用例推定結果と矛盾する。
一方,4−8部位がエピトープであると仮定すると,Line1ないし
5のアミノ酸の配列とは反応し,Line6以降のアミノ酸の配列とは反
応しないとの結果が得られることになるが,かかる結論は引用例推定結果
と合致する。
(2)引用例は血清K−KについてhPTH1−5の配列に優位的に結合,「13
する」とする一方,血清K−Kについては「残基9−14に選択的に結合46
する血清K及びKについては残基28−36に結合するなどとh」,「」,89
PTH(1−37)の特定の部位に結合した旨記載し,表現を使い分けてい
る。このように,引用例は,hPTH(1−37)の特定の部位に結合する
「」「」,ニュアンスを有する選択に結合するあるいは結合するなどの表現と
「優位的に結合する」という表現を使い分けているから,他の血清とは異な
り,血清K−KがhPTHの特定部位に結合することまでは,引用例には13
記載されていないというべきである。
4取消事由4(相違点の判断の誤り)
審決は,以下のとおり,本件発明1と引用例発明との相違点(a),(b)に関
する判断を誤った。
(1)相違点(a)について実質的な相違はないとした判断の誤り
審決は診断対象について本件発明1が生物活性を有するhPTH1,,「(
)」,「()」−37であるのに対し引用例発明が生理的循環型hPTH1−37
である点を形式的な相違点(a)として認定したものの両者は診断対象と,「,
なるhPTH(1−37)が相違するものではなく,この点は実質的な相違
点とはいえない(審決書18頁34行∼35行)と判断した。。」
しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。
ア確かに,本件発明1と引用例発明とは,hPTH(1−37)の検出を
試みる発明であるという限りにおいては,相違はない。しかし,本件特許
の優先日当時,1,2位のアミノ酸を欠き生物活性を失っているhPTH
が体内に存在することは認識されていなかった。したがって,引用例発明
は,hPTH(1−37)を検出するに際し,生物活性を有するhPTH
を,1,2位のアミノ酸を欠き生物活性を失っているhPTHから区別す
るという発想がなく,hPTH(1−37)のみを検出することはできな
い発明である。
,,,なお被告の主張によれば引用例におけるエピトープマッピングでは
程度の差はあれ,Line1ないしLine5に相当するアミノ酸配列,
すなわち,hPTH(1−9,hPTH(2−10,hPTH(3−1))
1,hPTH(4−12,及びhPTH(5−13)に対し,有意な反))
応が見られる後記第43(2)アここでhPTH3−11hP(,)。,(),
TH(4−12)及びhPTH(5−13)は1,2位のアミノ酸を欠く
ものであるから,当業者は,引用例の血清K−Kは,当然,1,2位の13
アミノ酸を備えるhPTH(1−9)及びhPTH(2−10)に反応す
るのみならず,1,2位のアミノ酸を欠くhPTH(3−11)等にも反
応する性質を有するものであると認識することになる。
イこれに対し,本件発明1は,hPTH(1−37)を,生物活性の有無
のメルクマールとなる1,2位のアミノ酸を認識することにより,生物活
性を有するhPTHを,1,2位のアミノ酸を欠き生物活性を失っている
hPTHから区別して診断するものである。
本件明細書(甲31)の特許請求の範囲の請求項1の「生物活性を有す
るhPTH(1−37)を診断するための抗体・・・」との記載,及び発
明の詳細な説明のhPTH1−37・・・は・・・生物活性を完全に「()
有しているしかしながら・・・最初の2アミノ酸・・・が無いと活性が。,
完全に失われる(5頁18行∼22行)との記載は,本件発明1により。」
製造される抗体が,生物活性を有するhPTH(1−37)を,1,2位
のアミノ酸を欠き生物活性を喪失しているhPTHから区別して診断する
ものであることを示すものであるこのような性質は引用例の血清K−。,1
Kには備わっていない。3
ウこのように,本件発明1と引用例発明とは,生物活性を有するhPTH
のみを診断するか否かという点において,決定的な相違がある。
前記3のとおり,引用例の記載は,エピトープが1−5部位付近には存
在しない可能性を示している以上,血清K−Kは,本件発明1により製13
造される抗体とは異なり,1,2位のアミノ酸を欠き生物活性を有しない
hPTHにも結合してしまう可能性を有するから,1位,2位のアミノ酸
を欠き生物活性を失っているhPTHと区別して,生物活性を有するhP
TH(1−37)を診断することができない可能性が高い。ちなみに,本
件特許の対応米国特許について,カリフォルニア南部地区米国地方裁判所
はその特許に記載された抗体とは異なり要約判決注引用例に記,「,(,)
,。」載された抗体はN末端を有するペプチドのみに結合するものではない
と認定判断している(甲23,4頁19行∼21行。)
なお,本件発明1により製造される抗体と引用例においてエピトープマ
。,ッピングに供されたとされる血清K−Kは異なるものであるすなわち13
,()「,本件発明1により製造される抗体は本件明細書甲31の免疫の後
免疫グロブリン分画を免疫した動物から単離することができ・・・本発明,
は,このように得られた抗体にも関する(9頁15行∼17行)との記。」
載に示されるように精製された抗体であるのに対し引用例の血清K−,,1
,。,Kは精製された抗体ではなく種々の抗体の混合体であるこのことは3
審決も前提としているほか審決書23頁12行∼26行本件特許の対(),
応米国特許に係る侵害訴訟の控訴審判決(乙3)において,引用例の筆頭
著者であり本件発明の発明者の一人でもあるメゲルライン博士がクレ,,「
ームされた抗体は・・・K抗血清から単離されたと証言したことが認定2」
され「学会要旨(判決注,引用例)に開示されたK抗体はクレームされ,2
た抗体であり・・・K−K血清からクレームされた抗体が単離されたこ,13
。」,。とには議論の余地はないと判断されていることからも明らかである
そしてメゲルライン博士は引用例記載の血清Kは甲12の図1に示,,,2
すとおり,1,2位のアミノ酸を欠失しているhPTH(4−12)にも
結合する旨述べ(甲37,また,精製された血清KがhPTH(3−3)2
7)やhPTH(4−37)を検出しないことが,甲12の図2(なお,
甲12の図2に示されている抗体が本件発明1により製造される抗体であ
,〔〕。)()。ることは被告も認めるところである甲39旨述べている甲38
(2)相違点(b)についての容易想到性判断の誤り
審決は本件発明1と引用例発明との相違点(b)について検討し本件発,,「
明1は,甲第1号証(判決注,引用例)及び甲第4乃至8号証に記載された
発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(審決。」
書20頁5行∼6行)と判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記判断及びその前提となった認定は誤り
である。
ア甲4文献について
審決は,甲4文献が「ペプチドhPTH(1−37)の抗原エピトープ
の一つが1−5部位付近に存在する審決書19頁10行∼11行こと」()
を示唆している旨認定したが,上記認定には,誤りがある。
甲4文献の本文中には,hPTH(1−6)がエピトープであるとは記
載されていないし図2においてもピン1hPTH1−6はマ,,(()),
ークされておらず,エピトープであるとは記載されていない。仮に,甲4
の記載から,hPTH(1−6)が何らかの結合特性を有すると判断され
ても,甲4文献で行われたエピトープマッピングでは,バックグラウンド
を差し引く作業を行っておらず,信頼性に乏しい。
イ1位と2位のアミノ酸について
審決はhPTHのN末端の1位と2位のアミノ酸は生物活性を維持す,「
る上で必須であることが知られているのだから,引用例に接した当業者で
あれば,生理的循環型hPTH(1−37)として,それが本来有してい
る筈の生物活性を有するものを検出しようとする筈であり,そのために,
上記二部位アッセイ用の抗体の一つとしては,むしろ必ずhPTH1−1
0による免疫で得られたポリクローナル抗体を選択するということができ
る(審決書19頁16行∼21行)と認定判断したが,上記認定には誤。」
りがある。
前記(1)アのとおり12位のアミノ酸を欠き生物活性を失っているh,,
PTHが体内に存在することは,本件特許の優先日当時,当業者には知ら
れていなかったのであり,生物活性を有するhPTHを,生物活性を失っ
ているhPTHから区別しようとする動機付けはなかったというべきであ
る。
ウhPTH1−5ないしhPTH1−9について
審決はhPTH1−10よりもN末端側の短いペプチドhPTH断片,「
を用いても,同様の抗体が得られる可能性があることは十分に予測できる
ことである。したがって,hPTH1−5という配列を認識する抗体を得
る目的で,ペプチドhPTH1−10に代えて,ペプチドhPTH1−1
0よりもN末端側の短いペプチドhPTH1−5乃至hPTH1−9を用
いてみようとすること自体に格別の困難性は見出せない(審決書19頁。」
29∼35行)と認定判断したが,上記認定判断には誤りがある。
そもそも,当業者が引用例に接したとしても,hPTH(1−5)とい
う配列を認識する抗体を得ようとする発想は生じない以上,hPTH(1
−10)はもちろん,それよりN末端側に短いペプチドを使用することの
動機付けはない。
エ組合せについて
審決は,本件発明1が,引用例発明に甲4発明ないし甲8発明を組み合
わせることにより,容易に発明できると判断した。
しかし,以下のとおり,引用例発明に甲4発明ないし甲8発明を組み合
わせることは困難であるから,審決の上記判断は誤りである。
(ア)引用例は,hPTH(1−5)の配列に優位的に結合するとされる
血清K−K等の抗体について言及している。これに対して,前記アの13
とおり,甲4文献は,hPTHに結合する抗体について言及しているに
とどまり,hPTH(1−6)など,hPTHのN末端側方向の部位で
あるという点においてhPTH(1−5)と共通する配列に,抗体が結
合したことについては何ら言及はない。したがって,引用例発明と甲4
発明とを組み合わせることは容易ではない。
(イ)引用例は,hPTH(1−37)中の特定の配列に結合する抗体を
生成することについて言及している。これに対して,甲5文献及び甲6
文献は,1位と2位のアミノ酸を欠くhPTHが生物活性を喪失してい
る旨言及しているにとどまり,抗体の生成については何ら言及はない。
したがって,引用例発明と,甲5発明及び甲6発明とを組み合わせるこ
とは容易ではない。
(ウ)引用例は,hPTHのいずれかの配列に結合する抗体について言及
している。これに対して,甲7文献は,MAPにより9個程度のペプチ
ドで動物を免疫して抗体が得られる旨,甲8文献は,エピトープがおよ
そ4ないし6個のアミノ酸からなる旨,それぞれ言及しているにとどま
り,hPTH及びそれに結合する抗体については何ら言及はない。した
がって,引用例発明と,甲7発明及び甲8発明とを組み合わせることは
容易ではない。
オ効果について
審決は本件発明1が引用例発明と比較して格別の効果を奏するもの,「,
ともいえない(審決書20頁3行∼4行)と認定判断したが,上記認定。」
には誤りがある。
,,()前記(1)のとおり本件発明1は生物活性を有するhPTH1−37
のみを検出し得るという効果を有するのに対し,引用例発明は,生物活性
を有するhPTH(1−37)のみを検出し得るという効果を有しない。
したがって,本件発明1は引用例発明と比較して格別の効果を奏するとい
うべきである。
5取消事由5(本件発明3ないし6についての認定判断の誤り)
審決は,本件発明3ないし6も,本件発明1と同様の理由により進歩性を欠
,,,。く旨認定判断したが同認定判断は前記4と同様の理由により誤りである
第4取消事由に係る被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について
審決及び訂正拒絶理由通知(甲35)における認定判断は適切であり,審決
が本件訂正を認めなかったことに誤りはない。原告は,上記認定判断が違法で
あることについて,何ら具体的な主張をしていない。
2取消事由2(引用例の頒布日についての認定の誤り)について
引用例が本件特許の優先日前に頒布された刊行物であることは,以下のとお
り,証拠によって十分裏付けられている。
(1)引用例甲1には発行の年月日の記載はないがエルゼビアジャパン株(),
式会社(引用例の発行元であるElsevierScience社の日本
法人)が,平成6年(1994年)9月12日に発行された旨を証明してい
る甲2甲2にいう発行とは引用例の発行年月日の意味であるとこ()。「」,
ろ,当該日に頒布されたと推定すべきである。
(2)刊行物は図書館等に受け入られたときは一般公衆の閲覧が可能であっ,,
たか否かを問わず頒布されたというべきであるところ最高裁判所昭和,「」(
38年1月29日判決・昭和36年(オ)第1180号〔審決取消判決集昭
和38−39年19頁〕参照,引用例は,平成6年(1994年)9月2。)
6日国立国会図書館に受け入れられているから甲13本件特許の優先,(),
日(1994年9月28日)の時点において,既に頒布された刊行物となっ
ていたことになる。
また,刊行物に発行時期が記載されていない場合について,外国刊行物で
国内受入れの時期が判明しているときは,その受入れの時期から発行国から
国内受入れまでに要する通常の期間さかのぼった時期に,頒布されたものと
推定すべきところ,本件においては,引用例は,国立国会図書館の受入日で
ある平成6年(1994年)9月26日から,発行国から国内受入れまでに
要する通常の期間さかのぼった時期に,頒布されたものと推定されるという
べきである。したがって,引用例の頒布日が同年9月28日である旨の原告
主張は失当である。
(3)パリ条約における優先権の効果とは第1国出願と第2国出願との間に行,
われた行為によって不利な取扱いを受けない,すなわち第1国出願をした時
と同等の効果を第2国出願に与えるというものであり,第1国出願の日時を
基準に判断されるものである(乙2。)
そうすると,仮に原告が主張するように,引用例が,国立国会図書館にお
いて,平成6年(1994年)9月28日午前9時30分から一般公衆の閲
覧に供されたものだとしても,その時刻は,本件特許の優先権主張の根拠と
なる第1国出願がなされたドイツ連邦共和国では午前2時30分であり(時
差7時間〔夏時間,特許出願が行われているはずがない。上記第1国出願〕)
がなされた時点において,引用例は,既に国立国会図書館において一般公衆
の閲覧に供されていたというべきである。
(4)引用例が本件特許の優先日前に頒布された刊行物であることは以下の証,
拠からも明らかである。
ア本件特許の対応米国特許に係る侵害訴訟の控訴審判決乙3では学(),「
会要旨(判決注,引用例)はEuropeanJournalof
PharmaceuticalSciencesにおいてパブリッシュ
され,科学者,業界関連の会議の出席者,大学および図書館を含む購読者
,。,宛に1994年9月12日に発送されたことは両者に争いが無いまた
1994年9月16日に,少なくとも1つの図書館−BritishL
ibraryDocumentSupplyCentre−が,そ
の学会要旨のオリジナルコピーを受領し,当該コピーはこの日からpub
licuseに対して利用可能だったはずであることも両者に争いがな
。」(〔〕)。い7頁12行∼14行訳文4頁18行∼23行と認定されている
,,イ本件特許の対応欧州特許に係る異議事件では引用例を先行技術として
当該特許の有効性が争われたが,欧州特許庁決定(乙4)では,特許が取
。,()り消されたそして上記異議事件において提出された宣誓書乙5∼8
によれば,引用例は,平成6年(1994年)9月12日に配布名簿先に
郵送され乙6同年9月14日乙8又は16日乙7に受領され(),()()
たことが認められるというべきである。
3取消事由3(引用例発明の認定の誤り)について
(1)引用例の記載について
引用例(甲1)には「抗原決定基が以下のように見出された:(1)血清K,
−KはhPTH1−5の配列に優位的に結合する」と記載されており,抗13
原決定基とはエピトープのことであるから乙9hPTH1−5がエピト(),
ープであると結論付けていることは明白である。
したがって,そもそも原告が主張するように,仮説を立てて検証する余地
はない。
(2)原告の主張に対し
ア原告は抗体は配列X−Yに優位的に結合したという仮想事例につい,「」
て,解釈①及び解釈②が可能であるとした上,本件では解釈①は妥当しな
い旨主張する。
しかし,原告主張の解釈②は誤りであり,抗体は配列中のX−Y部位を
抗原決定基(エピトープ)と認識して,X−Y部位に優位的に結合したと
解釈する(以下「解釈③」という)のが正当である。すなわち「抗体は。,
配列X−Yに優位的に結合した」という場合,X−Y部位領域の全体に対
して抗体が優位的に結合することを意味し,解釈②のように,X位ないし
Y位のアミノ酸をそれぞれ先頭に有するペプチドに結合する,といった概
念を導入する余地はない。
原告は,エピトープマッピングにおける反応の結果について,定性的に
「反応なし「反応あり」としているが,実際には,抗体の結合性は定量」,
的に示される。そして,抗体の結合量はペプチドにより異なり,その度合
いからエピトープの部位が決定されるのである。
合成ペプチドを用いたELISA法によるエピトープマッピングでは,
アミノ酸残基を重複させながら1∼数残基ずつずらして合成した種々のペ
プチドを等モル量ずつ別々のマイクロウエルプレート(ELISAプレー
ト)のウエルに固相化し,それぞれのウエルに等量の抗体を加え,さらに
標識した抗ウサギイムノグロブリン抗体を加えた後,洗浄し,その後基質
を加えて発色させ,その吸光度を測定することにより,各ペプチドへの抗
体の結合性を評価してエピトープの部位を決定する。例えば,9個のアミ
ノ酸からなり,アミノ酸の配列が一つずつずれていくLineを用いた場
合,1−5部位にエピトープが存在するときは,1−5部位をそのまま含
むLine1が最も吸光度が大きく,Line2,3,4,5の順で吸光
度が低下するLine67はバックグラウンドレベルであるとい(,,。)
う結果が得られる。N末端側のアミノ酸残基が一つずつ欠落していくこと
が,このような結果に影響していることは明らかである。一方,C末端側
は,Line1の6−9位のアミノ酸は,Line1ないし5のいずれに
,,も存在するところエピトープ部位であれば反応の低下は生じ得ないので
6−9位は反応に関与していないことがわかる。同様に,10−13位も
これらが存在することで反応が生じるとはいえないから,結局,6−13
位は反応に関与しない部分ということができる。エピトープは,一般に4
∼6アミノ酸残基からなるから,エピトープマッピングにより上記のよう
な結果が得られた場合,1−5部位の配列に抗体が優位的に結合すると判
断され,1−5部位がエピトープであると結論する(すなわち,解釈③)
というのが,当業者の常識である。
イ確かに,原告が主張するように,引用例では,9個又は10個のアミノ
酸からなる配列を使用してエピトープマッピングが行われており,1−5
位の5個のアミノ酸からなる配列が供され,その配列に血清K−Kが優13
位的に結合したというものではないと推論される。
しかし,血清K−Kが,Line1ないし5とは反応したものの,L13
()ine6以降のものとは反応しなかったという原告主張引用例推定結果
は解釈②この解釈が誤りであることは上記アで指摘したに基づく,(,。)
ものであるから,誤りというほかはない。
原告の主張は,引用例の「血清K−KはhPTH1−5の配列に優位13
的に結合する」との記載を「血清K−KはLine1−5に優位的に結13
合する」と読み替えるものにほかならないが,引用例にはそのような読み
,。,替えを支持する記載はないし文脈上もそれを許容するものはないまた
当業者の技術常識に照らしても,そのように解釈することはできない。
4取消事由4(相違点の判断の誤り)について
(1)相違点(a)の判断の誤りについて
ア本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には,単に「生物活性を有する
hPTH(1−37)を診断するための抗体・・・」と規定されているの
みであり,1,2位のアミノ酸を欠き生物活性を失っているhPTHから
区別して診断できる抗体である旨の規定はないから,生物活性を有するh
PTH(1−37)を検出することだけが要件であり,1,2位のアミノ
酸を欠いたhPTHから区別して検出することは要件とされていない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明には,体内に存在するものとして
は,hPTH(1−37)が体循環型のN−末端フラグメントであるとの
記載があるだけで,1,2位のアミノ酸を欠き生物活性を失っているhP
THが体内に存在するとの記載はなく,またそれを示すデータ等の記載も
ない。最初の2つのアミノ酸,すなわちセリン及びバリンがないと活性が
完全に失われることは言及されているが,このことは本件特許の優先日当
時公知であり技術常識であり甲56この点は原告も認めるとこ,,(,),
ろである。
したがって,診断対象について差異がないとした審決の認定判断に誤り
はない。
イ原告は,引用例発明の血清K−Kは,本件発明1により製造される抗13
体とは異なり,1,2位のアミノ酸を欠き生物活性を有しないhPTHに
も結合してしまう可能性を有するから,1位,2位のアミノ酸を欠き生物
活性を失っているhPTHと区別して,生物活性を有するhPTH(1−
37)を診断することができない可能性が高い旨主張する。
しかし,原告の上記の主張は,引用例の筆頭著者であり,本件発明の発
明者の一人であるメゲルライン博士の供述と矛盾している。本件特許の対
応米国特許に係る侵害訴訟の控訴審判決(乙3)によれば,メゲルライン
博士は「アッセイに用いられた抗体はK抗血清から単離された「クレ,」,2
ームされた抗体は当業者によく知られたアフィニティ精製法を用いてK抗2
血清から単離されたなどと証言しK抗体はクレームされた抗体と同じ」,2
であるとしているのである。
(2)相違点(b)に関する容易想到性判断の誤りについて
ア甲4文献について
甲4文献の著者の認識はどうであれ,図2のピン1では吸光度が上昇し
ており,hPTH(1−6)に結合する抗体が存在する可能性を否定し得
ない。しかも,ピン1は,甲4文献の著者がエピトープと認識しているピ
ン27−29と同程度の吸光度を示している。なお,原告は,バックグラ
ウンドを差し引く作業について問題にしているが,最も山の低いピンのあ
たりをバックグラウンドとし,この数値をグラフから一律に差し引けば足
りるのであって,この作業の有無は,抗体が結合するか否かの判断を左右
するものではない。
イ1位と2位のアミノ酸について
前記(1)アのとおり,原告の主張は失当である。
ウhPTH1−5ないしhPTH1−9について
引用例では,hPTH(1−10)を免疫原に用いて,hPTH(1−
5)を認識する抗体が現に得られていること,生物活性にhPTHの最初
の2つのアミノ酸を要すること,MAPにより10個よりも短いペプチド
から抗体が得られること,エピトープは通常アミノ酸5個の配列部分から
なることなどが公知であったことを考慮すれば,hPTH(1−10)よ
りも短く,かつ,1−5部位を含んだペプチド,すなわち,hPTH(1
−5)ないしhPTH(1−9)を用いることを試みることに格別の困難
性はない。
エ組合せについて
原告は,引用例と甲4文献ないし甲8文献を組み合わせることができな
いと主張するが,以下のとおり,いずれも理由がない。
(ア)hPTH(1−5)と共通する配列をもつhPTH(1−6)につ
いて,甲4文献の著者は特段の考察をしていないものの,引用例に接し
た当業者が,甲4文献の図2をみれば,引用例の推論が裏付けられると
認識できることは極めて論理的であるから,両者の組合わせは容易であ
る。
(イ)甲5文献及び甲6文献は,hPTHの生物活性には,1位と2位と
が必要であることを示唆するものであり,引用例に基づき,生物活性を
有するhPTHを検出できる抗体を調製するに際して,重要な情報を提
供するものであるから,当業者であれば,これらの引用例を当然に組み
合わせるものである。
(ウ)甲7文献及び甲8文献は,エピトープマッピングに関連した一般的
な技術常識を示す文献であり,これらの技術常識を組み合わせることに
特別の困難性はない。
オ効果について
本件発明1により製造される抗体は,引用例の血清K−Kと区別のつ13
かないものであるから,仮に原告主張の効果があるとすれば,引用例発明
も同じ効果を奏するはずである。
5取消事由5(本件発明3ないし6についての認定判断の誤り)について
本件発明3ないし6について原告が主張する取消事由5は,本件発明1につ
いて原告が主張する取消事由4と同様のものであるところ,上記のとおり,原
告主張の取消事由4は理由がないから,原告主張の取消事由5も理由がない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について
当裁判所は,本件明細書(甲10)の記載に照らし,その発明の詳細な説明
の欄に本件訂正発明の構成のうちhPTHのN−末端の最初のアミノ酸に,,「
結合し,2個のアミノ酸,即ち,hPTHのアミノ酸配列の1番目のセリンと
2番目のバリンが欠失すると親和性の実質的な消失が生じる」点及び「該抗体
又は抗体フラグメント」点が実質的に開示されているとはいえず,また,この
ような抗体を取得することにつき,当業者がその実施できる程度に明確かつ十
分に記載されているともいえないと判断する。したがって,これと同様の認定
判断をした審決に何ら違法はない(なお,原告は,審決の認定判断を争うと述
べるにとどまり,具体的な事由は何ら述べていない。以上のとおり,原告主。)
張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(引用例の頒布日についての認定の誤り)について
原告は,引用例が頒布されたのは本件特許の優先日と同日であって,引用例
が頒布された時期と本件特許の優先日の先後関係は明らかでないから,引用例
が本件特許の優先日前に頒布された刊行物であるとした審決の認定は誤りであ
る旨主張する。
しかし,証拠(甲1,2,3,13,36,乙2∼8)及び弁論の全趣旨に
よれば,引用例は,エルゼビア・サイエンス社によって,平成6年(1994
年9月12日にEuropeanJournalofPharma),「
ceuticalScienceVol.2No.1/2(Euro」「
peanCongressofPharmaceuticalSci
ences」の第2回会議の特集号)として,発行された雑誌に収載された論
文であり,上記雑誌は,同日,配布名簿に記載された科学者,上記会議の出席
者,大学及び図書館を含む購読者宛てに発送され,同年9月14日にはオラン
ダのグロニゲン大学図書館に,同年9月16日には英国のザ・ブリティッシュ
・ライブラリー・ドキュメント・サプライ・センタ−に,同年9月26日には
わが国の国立国会図書館に,それぞれ受領されたことが認められるから,引用
例は,本件特許の優先日(1994年9月28日)より前に,不特定の者が見
得る状態におかれていたといえる。
したがって,引用例が本件特許の優先日前に頒布された刊行物であるとした
審決の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(引用例発明の認定の誤り)について
原告は引用例の記載からhPTH1−37中の1−5部位付近にエ,,「()
ピトープが存在する可能性,そして,hPTH1−10によりウサギを免疫す
ることにより得られたポリクローナル抗体が,当該hPTH(1−37)中に
おける1−5部位付近のエピトープを認識する可能性を強く教示する審決書」(
17頁27行∼31行)との審決の認定が誤りであると主張する。
,,,。しかし以下のとおり審決の認定に誤りはなく原告の主張は失当である
(1)引用例の記載について
ア引用例甲1には全てのポリクローナルおよびモノクローナル抗体(),「
をエピトープマッピングにより特徴付けた。この目的のため,hPTH1
−37全体に相当するように配列を重なり合わせたペプチド(9−10ア
ミノ酸残基を合成した抗原決定基が以下のように見出された:(1)血清)。
K−KはhPTH1−5の配列に優位的に結合する(2)血清K−Kは1346,
残基9−14に選択的に結合する,(3)血清Kは残基24−30を認識す7
る,(4)血清KおよびKは残基28−36に結合する,(5)血清Kは残8910
基30−37を認識する(6)すべてのMabはhPTHフラグメント1。,
6−24を認識する(154頁右上欄22行∼30行〔訳文15行∼2。」
2行)との記載がある。〕
イ引用例の上記記載によれば,著者らは,エピトープマッピングの結果に
ついて考察した上,血清K−KがhPTH(1−5)の配列に優位的に13
結合するという結論に至りその旨記載したものであって抗原決定基が,,「
以下のように見出された」という記載に引き続いてなされていることから
すればhPTH1−5の配列に優位的に結合するという記載はhP,「」,
TH(1−37)のうち,1−5部位付近に抗原決定基(エピトープ)が
存在することを,著者らが認識したことを示すものと理解するのが相当で
ある。
(2)原告の主張について
アこれに対し,原告は,引用例の「hPTH1−5の配列に優位的に結合
するという記載についてエピトープマッピングにおいてhPTH1」,,(
−37)の1−5部位のアミノ酸をそれぞれ先頭に有する9又は10個の
13アミノ酸の配列からなるペプチドが供され,これらの配列に血清K−K
が優位的に結合したという結果に基づくものである旨主張する。
しかし引用例では血清K−K血清K血清K及びK血清K,,,,,46789
が結合等する抗原決定基エピトープにつき残基という表現が用10(),「」
,(),いられhPTH1−37中の一部分であることが示されているから
血清K−Kが結合する抗原決定基(エピトープ)についても,同様に,13
hPTH(1−37)中の一部分であると解するのが自然であって,こと
さらエピトープマッピングに供された特定のペプチドを意味すると解する
理由はない。
原告の上記主張はhPTH1−5の配列について①hPTHの1,「」,
位から始まるアミノ酸9個ないしは10個の配列からなるペプチド,②h
PTHの2位から始まるアミノ酸9個ないしは10個の配列からなるペプ
チド,③hPTHの3位から始まるアミノ酸9個ないしは10個の配列か
らなるペプチド,④hPTHの4位から始まるアミノ酸9個ないしは10
個の配列からなるペプチド,⑤hPTHの5位から始まるアミノ酸9個な
いしは10個の配列からなるペプチドをそれぞれ固相化した5つのLin
eを意味すると解釈するものであるが,本件記録を検討しても,上記①の
ペプチドを「hPTH1の配列」と称することを示す証拠は見い出すこと
ができず,原告の上記解釈には無理がある。
したがって,原告の主張は到底採用の限りでない。
イまた原告は引用例が優位的に結合する選択的に結合する結,,,「」,「」,「
」,,合するなどの表現を使い分けている点に照らすならば血清K−Kは13
他の血清とは異なり,hPTHの特定部位に結合することまでは記載され
ていない旨主張する。
確かに引用例では優位的に結合する選択的に結合する結合,,「」,「」,「
する「認識する」などの表現が用いられている。しかし,これらの表現」,
が,hPTH(1−37)中の特定の部位に対する抗血清の結合性に関す
る相違を意味するとしても,各抗血清が結合する部位を抗原決定基(エピ
トープ)と認識していることを否定する根拠とはいえない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
(3)小括
以上検討したところによれば引用例の記載がhPTH1−37中,,「()
の1−5部位付近にエピトープが存在する可能性,そして,hPTH1−1
0によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体が,当該
hPTH(1−37)中における1−5部位付近のエピトープを認識する可
能性を強く教示する」とした審決の認定は,正当としてこれを是認すること
ができ,原告主張の取消事由3は理由がない。
4取消事由4(相違点の判断の誤り)について
(1)相違点(a)の判断の誤りについて
原告は,本件発明1と引用例発明とは,生物活性を有するhPTHのみを
診断するか否かという点において,大きく相違する旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。
本件明細書の請求項1には生物活性を有するhPTH1−37を診,「()
断するためのと記載されているが生物活性を有することはhPTH」,「」「
1−37が本質的に有する性質であるから請求項1にはhPTH1()」,「(
)」,()−37が診断できることが規定されているにすぎずhPTH1−37
をhPTH3−37と区別して診断できることすなわちhPTH1()(,(
−37)を検出するが,hPTH(3−37)は検出しないこと)は,本件
発明1の要件として規定されていない。したがって,1,2位のアミノ酸を
欠失したhPTHを検出するものであるか否かは,本件発明1とは無関係の
事項というべきである。
また本件明細書の発明の詳細な説明にはhPTHのN−末端の最初の,,「
アミノ酸に結合し,2個のアミノ酸,即ち,hPTHのアミノ酸配列の1番
目のセリンと2番目のバリンが欠失すると親和性の実質的な消失が生じる」
「該抗体又は抗体フラグメント」が実質的に開示されているともいえない。
そうすると,診断対象について,本件発明1と引用例発明とが実質的に相
違しないとした審決の判断に誤りはない(なお,原告も,本件発明1と引用
例発明とは,hPTH(1−37)の検出を試みる発明であるという限りに
おいては,相違はないことを認めている。。)
(2)相違点(b)に関する容易想到性の判断の誤りについて
ア甲4文献について
原告は,甲4文献が「ペプチドhPTH(1−37)の抗原エピトープ
の一つが1−5部位付近に存在する」ことを示唆している旨の審決の認定
は,誤りである旨主張する。
,,,しかし甲4文献の内容を検討するまでもなく引用例の記載によって
hPTH(1−37)のエピトープの一つが1−5部位付近に存在するこ
とは,十分示唆されているのであり,そうである以上,甲4文献の内容の
,。,解釈のいかんによって審決の結論が左右されることはないしたがって
仮に甲4文献の記載から認定される事項が審決のとおりであるか否かにか
かわらず,審決を取り消すべき事由とはならない。
イ1位と2位のアミノ酸について
原告は,1,2位のアミノ酸を欠き生物活性を失っているhPTHが体
内に存在するという事実は,本件特許の優先日当時,知られていなかった
から,生物活性を有するhPTHを,生物活性を失っているhPTHから
区別しようとする動機付けがなかった旨主張する。
しかし前記(1)のとおり本件発明1はhPTH1−37が診,,,「()」
断できることが規定されているにとどまりhPTH1−37をhP,「()
TH(3−37)と区別して診断できること」は要件とされていないので
あるから,hPTH(1−37)をhPTH(3−37)と区別して診断
する必要性は存在せず,本件発明1の進歩性の判断において,生物活性を
有するhPTHを,生物活性を失っているhPTHから区別しようとする
動機付けの有無を論ずる意味はない。
原告の主張は,その主張自体失当である。
ウhPTH1−5ないしhPTH1−9について
原告は,当業者が引用例に接したとしても,hPTH(1−5)という
配列を認識する抗体を得ようとする発想は生じない以上,hPTH(1−
10)はもちろん,それよりN末端側に短いペプチドを使用すること自体
に困難性がないとはいえない旨主張する。
しかし,hPTH(1−10)のペプチドを使用する場合について,本
件発明1の構成を想到することが容易であることは前記のとおりである。
また,甲7に記載されているように,9個のアミノ酸からなるペプチドを
用いて,MAPにより動物を免疫して抗体を得ることができることが知ら
れていること,甲8に記載のとおり,抗原決定基の領域が,ほぼ4∼6個
のアミノ酸の集合の大きさに相当することを考慮すれば,少なくとも,h
PTH(1−9)ペプチドの場合については,hPTHの1−5部位付近
の抗原決定基を認識する抗体が得られたhPTH(1−10)のペプチド
と同様に,hPTH(1−9)ペプチドを用いても,hPTHの1−5部
位を含み,かつ,9個のアミノ酸を有することから,同様の抗体が得られ
る可能性があることは十分に予測できるものと認められる。
エ組合せについて
原告は,引用例発明に甲4発明ないし甲8発明を組み合わせることは困
難である旨主張する。
審決は,hPTH(1−10)よりもN末端側の短いペプチドhPTH
断片を用いても,同様の抗体が得られる可能性があることを示すため,ペ
プチドを用いて抗体を産生する技術分野における一般的な知見を示すもの
として,甲7文献と甲8文献を挙げている。ところで,引用例も,甲7文
献及び甲8文献も,ペプチドを用いて抗体を産生する技術に関する文献で
あるから,引用例発明と甲7発明,甲8発明をを組み合わせることに特段
の困難性はないというべきである。そして,甲4文献ないし甲6文献を用
いるまでもなく,本件発明1は当業者が容易に想到できたものと認められ
る(なお,甲4文献ないし甲6文献はいずれもhPTHに結合する抗体に
関する文献であって,本件発明1や引用例発明と同一の技術分野に属する
技術を開示しているから,これらを引用例に組み合わせることが容易では
ないということはできない。。)
オ効果について
原告の主張は,本件発明1により製造される抗体が,1,2位のアミノ
酸を備え生物活性を有するhPTH(1−37)のみと反応し,これらの
アミノ酸を欠くhPTHとは反応しないものであることを前提とするもの
であるが,前記のとおり,本件発明1は,製造される抗体が,1,2位の
アミノ酸を欠くhPTHとは反応しないことを要件とするものではないか
ら,原告の主張はその前提において誤りがあり,失当というべきである。
なお,仮に,本件発明1が上記事項を要件とするものであったとしても,
,,,前記1のとおり12位を欠くhPTHとは反応しない抗体については
本件明細書の発明の詳細な説明に開示されていないから,本件発明1が原
告主張のとおりの効果を奏するものとは認められない。
(3)小括
以上検討したところによれば,審決における相違点(a),(b)の判断に誤
りはなく,原告主張の取消事由4は理由がない。
5取消事由5(本件発明3ないし6についての認定判断の誤り)について
本件発明3ないし6について原告が主張する取消事由5は,本件発明1につ
いて原告が主張する取消事由4と同様のものであるところ,原告主張の取消事
由4に理由がないことは上記のとおりであるから,原告主張の取消事由5も理
由がない。
6結語
(1)特許法181条2項に基づいて審決を取り消さなかった点について補足し
て述べる。
原告は,本訴を提起した上,平成18年11月28日及び同年12月5日
に,本件明細書を訂正する訂正審判をそれぞれ請求し(以下,平成18年1
1月28日に請求されたものを訂正審判①同年12月5日に請求された「」,
ものを「訂正審判②」という,特許法181条2項により審決を取り消す。)
旨の決定を求めた。
しかし,当裁判所は,以下の理由により,特許無効審判においてさらに審
理させることが相当であるとは認められないと判断した。すなわち,
ア訂正審判①における訂正の内容は,本件審判において原告が自ら取り下
げた訂正請求①における訂正内容と同一であって,無効理由通知において
これに対する審判官の見解が既に示されている上,その内容について検討
しても,請求項1を訂正するものではなく,請求項3,5及び6に「生物
活性を有するhPTH(1−37)を診断するための」という記載を追加
するというものであって,かかる記載は本件発明3ないし5に係る「抗体
又は抗体フラグメント」及び本件発明6に係る「診断薬」の使用目的を示
すにすぎない。
イ訂正審判②における訂正内容は,請求項1,4及び5の記載から「hP
12345
TH1−10NH−Ser−Val−Ser−Glu−Ile2
−Gln−Leu−Met−His−Asn−OH」という記載を678910
削除するほかは,訂正審判①の訂正内容と同一であるところ,審決におい
て既にhPTH1−5という配列を認識する抗体を得る目的でペプ,,「,
チドhPTH1−10に代えて,ペプチドhPTH1−10よりもN末端
側の短いペプチドhPTH1−5乃至hPTH1−9を用いてみようとす
。」()ること自体に格別の困難性は見出せない審決書19頁32行∼35行
との判断が示されている同判断に誤りがないことは前記4(2)ウのとおり(
である。。)
ウその他の点を総合考慮しても,本件特許の請求項1及び請求項3乃至6
に係る発明についての特許を無効にすることについて,特許無効審判にお
いてさらに審理させることが相当である事情は存在しない。
(2)以上のとおりであって原告主張の取消事由はいずれも理由がなく審決,,
に,これを取り消すべき誤りは認められない。その他,原告は縷々主張する
がいずれも理由がない。
,,,したがって原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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