弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
一被告法務大臣が昭和六〇年一一月二二日付けで原告に対してした出入国管理及び難民
認定法四九条一項に基づく原告の異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
二被告東京入国管理局主任審査官が昭和六〇年一一月二六日付けで原告に対してした退
去強制令書発付処分を取り消す。
三訴訟費用は被告らの負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一原告
主文同旨
二被告ら
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一請求原因
1本件の各処分に至る経緯
(一)原告は、イラン政府発行の旅券を取得し、昭和五六年八月一三日、出入国管理令
(昭和五六年法律八六号により出入国管理及び難民認定法に改正。以下「法」という)。

条一項一六号、特定の在留資格及び在留期間を定める省令(昭和五六年法務省令五四号出
入国管理及び難民認定法施行規則(以下「規則」という)により廃止)一項三号に該。。

する在留資格(規則二条三号に該当する在留資格に同に。以下「在留資格四−一−一六−
三」という)により本邦への上陸を許可された。。
(二)原告は、昭和六〇年八月一五日在留期間更新の許可申請をしたところ、被告法務
大臣は、同年一〇月八日、右申請を不許可とする旨の処分(以下「本件更新不許可処分」
という)をし、この旨原告に通知した。。
(三)原告は、東京入局管理局入国審査官により、同月二四日、法二四条四号ロ(不法
残留)に該当すると認定され、これに対し、同日、口頭審理の請求をしたところ、同局特
別審理官は、同年一一月六日、右認定は誤りがない旨の判定をした。
(四)原告は、同日、被告法務大臣に法四九条一項に基づく異議の申出をしたが、被告
、、(「」。)法務大臣は同月二二日右異議の申出は理由がない旨の裁決以下本件裁決という
をした。
(五)被告東京入国管理局主任審査官は、同月二六日、原告に対し退去強制令書を発付
(以下「本件退令発付処分」という)した。。
2本件裁決及び本件退令発付処分の違法性
(一)原告とAとの婚姻関係の存在
(1)原告は、昭和五九年初め、日本人Aと知り合い、両名は、同年一一月ころから同
棲し、夫婦と同様の生活をしていた。
(2)原告とAは、昭和六〇年一一月八日、法律上の婚姻をするために婚姻届を渋谷区
役所に提出した。
(3)右婚姻届は、同年一二月一二日に正式に受理された。
(4)よつて、原告は、本件裁決時には、Aと婚姻関係が成立していたこととなり、法
四条一項一六号、規則二条一号に該当する在留資格を有している。
(二)原告がイラン難民であること
(1)原告は、昭和五五年ころ、イランにおける反政府組織であるムジヤヘデインに加
入し、その活動をしていた。
(2)原告は、イランにおいてイラクとの戦争が激しくなつてきたため、前記のとおり
昭和五六年八月、当時婚姻していた日本人Bの本国である本邦に上陸したが、その直後、
イラン政府軍は、原告がムジヤヘデインに所属していることをつきとめ、原告の家宅捜索
を行つた。
(3)現在、イランでは反政府組織のムジヤヘデインに所属していることがわかれば捕
えられ、直ちに処刑されてしまうという状況にある。
(4)よつて、原告は、難民の地位に関する条約一条A(2「特定の社会的集団の構)

員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある」者に該当する難民であ
る。
(三)長女Cとの面接権の侵害
原告には、Bとの間に生まれた現在四歳になる長女Cがおり、イランに強制送還されると
同人との面接権を喪失することになる。
(四)原告は、過去一三回にわたり在留期間更新の許可がされているが、その間一回も
在留期間を徒過した後にその更新の申請をしたことはない。
(五)以上のとおりであるところ、本件裁決は、まず、右(一)の事実を看過したもの
であつて、法四条一項一六号、規則二条一号に違反し、両性の自由な合意に基づいてなさ
れる婚姻及び婚姻生活を保障する憲法二四条及び一三条に違反し、次に、右(二)の事実
を看過したものであつて、難民の地位に関する条約の精神に反し、また、右(三)の事実
を考慮しないものであつて、憲法一三条に違反し、更に、右(四)の事実を不当に無視し
ている。
本件裁決は、右各事実を正当に評価しなかつたため、原告に対し法五〇条一項三号の在留
特別許可(以下「在特許可」という)を与えなかつた点において裁量権の行使を誤つた。

、、。法なものでありしたがつてこれに基づいてされた本件退令発付処分もまた違法である
二請求原因に対する認否
1請求原因1の各事実は認める。
2同2について
(一)(1)のうち、
原告と日本人であるAが昭和五九年初めに知り合い、その後同居したことは認めるが、そ
の余の事実は不知(2)及び(3)の各事実は認める(4)のうち、本件裁決時に原。。

とAとの婚姻が成立していたこととなることは認めるが、その余の主張は争う。
(二)(1)の事実は不知(2)のうち、原告がその主張の月、日本人のBと婚姻関。

、。()。()にあつて本邦に上陸したことは認めるがその余の事実は不知3の事実は不知4
は争う。
(三)のうち、原告に長女Cがいることは認めるが、主張は争う。
(四)の事実は認める。
(五)は争う。
三被告の主張
1本件更新不許可処分に至る事情
(一)原告は、米国の大学に留学中の昭和五五年二月ころ日本人Bと知り合い、同年五
月末同地のイスラム教の教会で結婚式を挙げ、同年六月ころ大学を中退し、Bを伴つてイ
ランの両親のもとに帰国し、同年七月七日、同地でBとの婚姻の届をした。
(二)Bは、妊娠による体調不良等もあつて、昭和五六年六月四日、日本に帰国してい
たところ、原告は、Bを追つて来日し、請求原因1(一)のとおり、同年八月一三日、在
留資格四−一−一六−三及び在留期間九〇日の上陸許可を付与されて本邦に上陸した。そ
の後Bは、同年九月一二日長女Cを出産した。
(三)その後、原告は、二回在留期間更新の申請をし、被告法務大臣は、いずれも右在
留資格でこれを許可したが、昭和五七年八月ころから、原告とBは別居するようになつた
ので、被告法務大臣は、婚姻関係は破綻しているものと判断し、同年一一月一五日の在留
期間更新の申請に対しては、出国準備期間と許可証に明示して三月の在留期間の更新を許
可した。
()、、、(「」。)四しかし原告は昭和五八年二月一四日東京入国管理局以下同局という
において難民認定申請を行つたため、右難民認定申請中であることを考慮し、被告法務大
臣は、都合七回の在留期間更新の申請についてこれを許可した。
(五)原告は、昭和五八年一月ころから日本人Dと同棲を始め、同年二月二五日には同
局における事情聴取の際、係官に対しBと離婚後はDと結婚する旨言明していた。また、
原告は、同年五月ころBを相手方として離婚調停を申し立てた。原告は、昭和五九年三月
ころにはDとの同棲を解消し、
同年六月ころから前記Aと肉体関係を持つようになつていた。
(六)同年一〇月四日被告法務大臣が原告の前記難民認定申請について難民と認定しな
い旨決定し、これに対し、原告は異議の申出をしなかつた。しかし、Bとの離婚調停が係
属中であつたので、被告法務大臣は、以後三回の在留期間更新の申請についてこれを許可
した。
(七)ところが、原告が昭和六〇年八月一五日にした在留期間更新の申請は、Bに対す
る離婚判決についての再審提訴中を理由とするものであつたので、被告法務大臣は、在留
期間更新を適当と認めるに足りる相当な理由はないと判断して、本件更新不許可処分をし
たものである。
2本件裁決の適法性
(一)原告は、本件更新不許可処分により、法二四条四号ロの規定による不法残留者と
なつたことは明らかであるから、右法条該当性を肯認した本件裁決は、適法である。
(二)在特許可について
在特許可を与えるか否かの判断は、被告法務大臣の自由裁量に属するものであり、当該外
国人の個人的事情のみならず、国際情勢、外交政策等の客観的事情を総合考慮したうえ、
その責任において決定されるべき恩恵的措置であつて、その裁量の範囲も極めて広い。し
たがつて、当該裁量が違法とされるのは、裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があつた場
合に限られるものであるところ、原告の主張は、以下(三)ないし(五)に述べるとおり
失当であつて、本件裁決における被告法務大臣の在特許可を与えないとした判断には、裁
量権の範囲の逸脱又はその濫用はない。
(三)原告とAとの婚姻関係について
原告とAとの婚姻については、原告が本件更新不許可処分を受け、収容されて後で、しか
も、同局特別審理官の判定が行われた後になつて、婚姻届が提出されたものである。原告
の収容後も、Aは、当初は同局係官に対し原告との婚姻意思がないことを明らかにしてい
、、、たものでありその後しばらくして弁護士立会いのうえ結婚が放免の手段ではないこと
きちんと扶養すること、暴力をふるわないこと、女性とのトラブルを家庭に持ち込まぬこ
との四条件をつけて婚姻を承諾するに至つたものであるが、このようなことは社会通念上
到底考えられないことである。その他、原告とAの年齢差(一九歳)や同棲に至つた経緯
などの事実を総合的に判断すれば、原告とAの婚姻は、少なくとも原告において、
原告が本邦在留許可を得るために行つた仮装のものであることが明らかであり、原告の主
張はその前提を欠き失当である。
仮にそうでなくても、原告とAの婚姻は、原告が退去強制事由に該当する者として収容さ
れた後に手続がされたものであり、その後退去強制されるという事態になるということは
十分予測しえたはずであるから、原告の退去強制により、相当期間の離別等の不利益を被
ることがあるとしても、それはやむを得ないことである。
仮に原告とAが婚姻生活を真実望むのであれば、Aには現在わが国において同居のうえ扶
養しなければならない近親者はいないのであるから、Aが原告の本国であるイランに行つ
て一諸に生活することも可能であり、また、原告が将来再入国したり、Aがイランへ渡航
することも必ずしも不可能ではないのであるから、原告とAとが永久的に離別を強いられ
るわけではない。
なお、外国人が日本人と結婚したからといつて、当然本邦に在留が認められるものではな
く、右外国人に対して在留を認めないからといつて、そのことが憲法一三条、二四条に違
反するものではなく、また、法四条一項一六号、規則二条一号に違反するものでもない。
(四)原告がイラン難民であるとの主張について
原告は、前記のとおり難民認定の申請をし、これが認められなかつたことについて異議の
申出を行つていない。原告が本邦に入国したのは、前記のとおりBと同居するためであつ
、。、、てイランにおいて迫害を受けるおそれがあつたためではないまた入国後においても
原告は、本邦において迫害の原因となるようなイラン政府に対する反政府活動などを行つ
たという事実は認められない。更に、原告の母と弟は、何らの制約もなくイラン政府より
正規の旅券の発給を受けて昭和六〇年六月二七日にイランから本邦に入国して再びイラン
に帰国しているのである。
右事実によれば、原告の主張は理由がないことは明らかである。
(五)長女Cとの面接権について
Cは、現在Bの監護のもとにあつて、原告と没交渉であること、原告とBの離婚の経緯、
原告がCの養育費を全く負担していないことなどからして、原告にCとの面接権が容認さ
れる状況にないことは明らかである。
3本件退令発付処分の適法性
右2のとおり、本件裁決は適法であるから、これに基づいてされた本件退令発付処分は適
法である。
四被告の主張に対する認否
1被告の主張1について
(一)(二)の各事実は認める。、
(三)のうち、原告のその後二回の在留期間更新の申請に対し、被告法務大臣が右在留
資格でこれを許可したこと、昭和五七年八月ころから原告とBが別居するようになつたこ
と、同年一一月一五日の在留期間更新の申請に対し三月の在留期間更新の許可がされたこ
とは認め、その余は争う。
(四)の事実は認める。
(五)のうち、原告が昭和五八年二月二五日に当局における事情聴取の際、係官に対し
Bと離婚後はDと結婚する旨言明していたとの事実は否認し、その余の各事実は認める。
(六)の事実は認める。
(七)のうち、本件更新不許可処分がされたことは認める。
2被告の主張2のうち(三)ないし(五)は争う。、
なお、難民不認定の決定に対し原告が異議の申出をしなかつたのは、原告が当時病に伏し
ており、全快してから異議を申し出ようとしていたところ、手続を十分理解していなかつ
たため、異議申出期間を経過してしまつたことによるのである。
第三証拠(省略)
○理由
一請求原因1の各事実(昭和五六年八月一三日原告が在留資格四−一−一六−三で本邦
への上陸を許されたこと、昭和六〇年一〇月八日本件更新不許可処分が同年一一月二二日
本件裁決が、同月二六日本件退令発付処分がそれぞれされたこと等)は、当事者間に争い
がない。
二そこで、本件裁決が、原告に対し在特許可を与えなかつた点に裁量権の範囲の逸脱又
はその濫用があつたかどうかについて判断する。
1本件更新不許可処分に至るまでの事情
被告の主張1(本件更新不許可処分に至る事情)の各事実中(一(二)の各事実(B、)、

の婚姻と本邦上陸の経緯等(三)のうち、原告が本邦に上陸後二回の在留期間更新の)、

請に対し、被告法務大臣が右在留資格でこれを許可したこと、昭和五七年八月ころから原
告とBが別居するようになつたこと、及び、同年一一月一五日申請の在留期間更新の申請
に対し三月の在留期間の更新が許可されたこと(四)の事実(昭和五八年二月一四日の、

民認定申請とその後の在留期間更新許可(五)のうち、原告が、同年一月ころからD)、

同棲を始め、同年五月ころBを相手方として離婚調停を申し立て、昭和五九年三月ころに
はDとの同棲を解消し、
同年六月ころからAと肉体関係を持つようになつていたこと(六)の事実(同年一〇月、

日の難民不認定決定とその後の在留期間更新許可)は、いずれも当事者間に争いがない。
2原告とAとの関係
(一)請求原因2(一(原告とAとの婚姻関係の存在)の各事実中(1)のうち、)、

告と日本人であるAが昭和五九年初め知り合い、その後同居したこと(2(3)の各、)、

実(昭和六〇年一一月八日婚姻届提出、同年一二月一二日その受理(4)のうち、本)、

裁決時に原告とAとの婚姻が成立していたことになることは、いずれも当事者間に争いが
なく、この争いのない事実並びに前記一及び右1の争いのない事実に、成立に争いのない
甲第二、第八号証、乙第四、第五、第七、第一〇号証、原本の存在及び成立に争いのない
、、乙第一五号証証人Aの証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を合せ考えれば
以下の事実が認められる。すなわち、
原告は、高田馬場等で英語を教えたりして生計を立てていたところ、昭和五九年二月ころ
から、Aの子であるEが米国に留学することになつたため同人に英語を教えていたが、E
の留学後A自身にも英語を教えることになり、やがてAのマンシヨンでも教えたりするう
ち、同年六月ころからAと原告との間に男女関係ができ、同年一一月ころからAのマンシ
ヨンで同棲することになつた。そして、その後Bとの離婚調停が不調となり、Bから提訴
された離婚請求を認容する判決が昭和五九年一一月一六日にあつたが、同判決が公示送達
によるものであつたので、原告は、応訴する機会を奪われたとして再審請求をしていたと
ころ(なお、昭和六〇年九月五日に同請求を取り下げた、同年八月一五日にした在留。)

間更新の申請については、同年一〇月八日本件更新不許可処分がなされた。原告は、同日
収容され、収容中には、Aも同局係官から事情を聴取されたが、Aは、収容直後の同月一
一日には原告との婚姻意思がないと言明していた。原告は、同月二四日同局入国審理官に
より不法残留と認定され、同年一一月六日に同局特別審理官の右認定に誤りがない旨の判
定がなされた。ところでAは、同年一〇月一八日ごろになつて、前記婚姻意思がない旨の
供述を翻し、四条件(結婚が放免の手段でないこと、きちんと扶養すること、暴力をふる
わないこと、
女性とのトラブルを家庭に持ち込まぬこと)を示して、これを原告が誓約、実行するなら
ばということで原告との婚姻意思を表明するようになり、また、原告もAが示した右提案
を受け入れ、同年一一月八日Aが原告との婚姻届を渋谷区役所に提出した。しかし、原告
の本国であるイランの大使館における婚姻要件の審査のため、右婚姻届は、直ちには受理
されず、同年一二月一二日に正式に受理され、右届出の時に原告とAとの婚姻が成立して
いたことになつた。その間の同年一一月二二日に本件裁決がされた。
以上のとおり認められる。
(二)そこで、まず、原告とAとの両名にそれぞれ真実の婚姻意思があるかどうかにつ
き判断する。
証人Aの証言によれば、Aは、本件更新不許可処分当時、離婚した前夫から仕送りを受け
る身であり独身で他に男性関係がなかつたが、昭和一六年生まれで当時四四歳であり、原
告がAより一九歳も年下の昭和三五年生まれで当時二五歳であつて、しかも、女性関係で
相当に問題があり、また暴力をふるうといつたAにとつて極めて不安な側面が存すること
などの点から当時の時点で原告と正式に婚姻することを必ずしも真剣に考えていたもので
、、、はなかつたこともつともAが当初同局係官に原告との婚姻意思がないと言明したのは
同局係官に対し自己のプライバシーを詮索されているかのように誤解して、反感と敵意を
抱き、必ずしも真実の意思を述べたものでなかつたこと、その後事態の深刻さを認識する
に及んで、原告に存する前記の不安かつ問題のある側面を除去できるような前記の四条件
の誓約、実行を提示したところ、これが原告に受け入れられたので、原告と正式に婚姻す
る意思を固めるに至つたことが認められ、前記(一)認定のとおり、原告とAと知り合つ
てから約一年半、男女関係が出来てから約一年の期間があつたことを考慮するならば、A
が原告との婚姻意思を表明し、婚姻届を提出したのが、婚姻を仮装するものであるとか、
専ら原告を強制送還から免れさせるための便宜的な意思によるものであるとかと断定する
ことは困難であり、その間に多少は原告が強制送還されることを避けたいとの便宜的な意
思が介在していないとはいえないが、そうであるとしても、これをもつて右婚姻意思が真
意に基づくものであることの障害となるものではないというべきである。
また、原告本人尋問の結果によれば、原告も、
、、()Aが婚姻に応じてくれる以上同人との婚姻を真に望んでいることが認められ前記一
、、、認定のとおり原告は女性関係で相当に問題があると認められるが本件全証拠によるも
、、当時A以外に女性関係があつたことを窺うに足りず右認定の原告の婚姻意思についても
Aの場合と同様その間に多少は強制送還を避けるためといつた便宜的な意思が含まれてい
ないとはいえないが、なお、右婚姻意思が真意に基づくものであることを否定することは
できないというべきである。
(三)以上のとおり、本件更新不許可処分の当時、原告とAとの婚姻意思は固まつては
いなかつたものであるが、本件裁決の時点では、既に原告とAとの真意に基づく婚姻意思
は実質的にも固まり、またこれが婚姻届の提出という形で外部にも表明され、しかもその
後の右届の受理により原告とAとの婚姻が成立していたことになつたものである。したが
つて、本件裁決は、右の事実を前提にしてされることを要するというべきである(もつと
も、右婚姻が成立したからといつて、原告は、法四条一項一六号、規則二条一号を根拠と
して、当然に本邦に在留できることになるわけでない。。)
3原告とイラン難民
(一)右1の争いのない事実に、前掲乙第四号証、証人Fの証言及び原告本人尋問の結
果を合せ考えれば、原告は、昭和五五年六月にBを伴つてイランに帰国した後、間もなく
友人を通してイランの反政府組織であるムジヤヘデインに所属するに至り、武器を運ぶ等
の活動をしていたこと、原告は、昭和五六年八月にBを追つて本邦に上陸したが、昭和五
八年ころからイランでは、ムジヤヘデイン等の反政府組織に対する取締りが強化され、そ
こに所属していたと思われる原告の知人の何名かが政府に処刑されるなどとの事態も生
じ、
また、イラン警察がイランの原告の両親の家を捜索したり、原告の父親、弟などが右警察
に原告の行方等につき事情聴取されたことが認められ、右各証拠に原本の存在及び成立に
争いのない甲第一一ないし第一六号証、第一九、第二〇号証、成立に争いのない甲第一八
号証並びに弁論の全趣旨によれば、現在イランでは、ムジヤヘデインに所属している者に
対する取締りは、弾圧ともいえる程度に達ており、なかには正式な裁判も経由せずに直ち
に処刑されてしまうことがあるとされていることが認められる。
(二)なお、
、、証人Fの証言及び原告本人尋問の結果によれば原告が本邦に滞在中の昭和五九年中には
原告の母親と弟がイランから本邦に入国し、無事帰国したこと、原告の右の弟とは別の弟
であるFも昭和六一年六月にイランから本邦に入国していることが認められるが、本件全
証拠によるも、ある者がムジヤヘデインに所属していると、その者だけでなく、その親、
兄弟等までもが特段の不利益を受けるものであるといつた事実を認めることはできず、そ
うである以上、右認定の事実は、前記(一)の認定を覆すに足りるものではない。
また、原告は、前記のとおり、昭和五八年二月に難民認定申請をし、これが昭和五九年一
、、、〇月に退けられたところ原告はこれに対し異議の申出をしなかつたものであるがまず
難民認定申請が退けられたからといつて、当然に原告が難民性を有しないということには
ならず(難民不認定決定が本件に関し拘束力を有しないことはいうまでもない、次に、。)
原告が難民不認定決定に対し異議の申出をしなかつたからといつて、当然に原告が自ら難
民性を有しないことを自認したものともいえないから、右難民認定に係る事情も、前記
(一)
の認定を覆すものではない。
更に、乙第一二号証中のBの供述中には、Bは夫であつた原告がムジヤヘデインに所属し
ていたことを知らなかつた旨の部分があるが、夫が反政府組織に所属していることを妻が
知らないということもあり得ないことではないと考えられるから、やはり右部分をもつて
前記(一)の認定を覆すに充分ではない。
しかして、他に前記(一)の認定を覆すに足りる証拠はない。
(三)以上のとおり、原告は、イランに帰国すれば、ムジヤヘデインに所属したことよ
り格別の不利益を受けるおそれが強く、場合によつては処刑される可能性もないではない
ということができるものであり、前掲乙第四、第五号証によれば、原告はこのことを同局
の事情聴取の際にも供述していたことが認められる。したがつて、本件裁決は、原告の右
事情を前提としてされることを要するというべきである。
4考察
原告の主張するところは、要するに、本件事実関係のもとにおいて、被告法務大臣が原告
に対し在特許可を与えなかつたことは違法であるというに尽きる。
ところで、在特許可を与えるか否かの判断は、被告法務大臣の自由裁量に属するものであ
つて、
当該外国人の個人的事情のみならず、国内事情、国際情勢、外交政策等の諸般の事情を総
合考慮のうえ、その責任において決定されるべきものであり、その裁量権の範囲が極めて
広汎であることは、被告らの指摘するとおりである。しかしながら、その裁量権は、もと
より無制限なものではなく、被告法務大臣の右判断が、社会通念に照らし著しく妥当性を
欠くときは、裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があつたものとして、違法となるのを免
れないというべきである。
右の見地に立つて考えるに、前記3で認定したところによると、原告はイランにおいて反
政府組織に所属したことのゆえに、同国に帰国すれば格別の不利益を受けるおそれが相当
に強く、生命にも危険が及びかねないものと認められるし、この事情を前提とすれば、前
記2で認定した原告とAとの真意に基づく婚姻意思の実現(しかも、それは正規の届出を
経た法律上の婚姻関係である)としての両名の平穏な婚姻生活を同国において送ること。
は、
不可能ないし極めて困難であると考えざるを得ない。そして、前記1によれば、原告は昭
和五六年八月以来本邦に在留を継続していること、前記2によると、未だ婚姻意思は固ま
つていなかつたとはいえ約一年間Aと同棲生活を続けていて、今後それを婚姻生活に改め
ることが予定されていることなどの事情が認められるところである。以上の諸事情を合せ
考えると、原告を本件退令発付処分によりイランに送還することは、原告に対し生命に危
険の及ぶ可能性を含む格別の不利益を与える蓋然性が相当に強いとともに、原告及びAか
ら平穏な婚姻生活を送る機会をも奪うものというべきであり、他方、原告を従来どおり本
邦に在留させたとしても、原告とAの現在の婚姻意思に変更をきたすなどといつた事情変
更のない限り、我が国の国益を具体的に損うとも考え難い。
そうすると、本件に現れた諸事情のもとでは、被告法務大臣が原告に対し在特許可を与え
なかつたことは、他に特段の事情につき立証のない本件では、社会通念に照らし著しく妥
当性を欠くものと評価するほかはない。
よつて、本件裁決は、原告に対し在特許可を与えなかつた点において、裁量権の範囲を逸
脱し又はその濫用があつたものとして、違法なものというべきであり、その取消しを免れ
ない。
三本件退令発付処分の適法性
右二4のとおり、本件裁決が違法であるから、
本件裁決に基づく本件退令発付処分もまた違法なものというべきであつて、その取消しを
免れない。
四よつて、原告の本訴請求は、いずれも理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担
について行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官鈴木康之太田幸夫塚本伊平)

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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応募方法
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