弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人株式会社A(以下「被告会社」という。)に関する弁護人石川達紘ほかの
上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであっ
て,本件に適切でないか,実質は事実誤認の主張であり,その余は,事実誤認の主
張であり,被告人B(以下「被告人」という。)に関する同弁護人ほかの上告趣意
は,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法4
05条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み,職権で判断する。
1本件犯罪事実の要旨は,「被告会社は,埼玉県朝霞市内に本店を置き,自動
車の設計,製作及び販売等を目的とする資本金3億円の株式会社であり,被告人
は,被告会社の代表取締役として,その業務全般を統括していたものであるが,被
告人は,被告会社の社長付として被告会社の決算業務や法人税の確定申告業務等を
統括していたC及び被告会社の総務経理部社員Dらと共謀の上,被告会社の業務に
関し,法人税を免れようと企て,架空の直接材料費を計上するなどの方法により所
得を秘匿した上,平成9年11月1日から平成12年10月31日までの3事業年
度における被告会社の法人税について,虚偽の法人税確定申告書をそれぞれ提出
し,合計10億円余りの法人税を免れた」というものである。
2所論は,Cは,被告会社の正式な役職ではない「社長付」の肩書を有してい
たにすぎず,被告会社から報酬を受けることも日常的に出社することもなかったと
して,法人税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)164条1項に規定
する「その他の従業者」には当たらない旨,Cは被告会社の資産を領得しており,
Dら経理担当者に指示した不正経理はその隠蔽工作であるとして,Cの不正経理の
指示は同項にいう「業務に関して」行われたものとはいえない旨主張する。
しかしながら,原判決の認定によれば,Cは,被告会社の代表取締役である被告
人から実質的には経理担当の取締役に相当する権限を与えられ,被告人の依頼を受
けて被告会社の決算・確定申告の業務等を統括していたのであるから,所論指摘の
事情にかかわらず,同法164条1項にいう「その他の従業者」に当たるというべ
きである。また,Cの上記指示は,本件法人税ほ脱に係るものであって,被告会社
の決算・確定申告の業務等を統括する過程で被告会社の業務として行われたのであ
るから,同項にいう「業務に関して」行われたものというべきであり,所論指摘の
ようにCが秘匿した所得について自ら領得する意図を有していたとしても,そのよ
うな行為者の意図は,「業務に関して」の要件に何ら影響を及ぼすものではないと
解するのが相当である(最高裁昭和26年(れ)第1452号同32年11月27
日大法廷判決・刑集11巻12号3113頁参照)。これと同旨の原判断は相当で
ある。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官横田尤孝裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
金築誠志裁判官白木勇)

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