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平成24年1月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ネ)第10024号著作権確認等請求控訴事件
原審・大阪地方裁判所平成17年(ワ)第2641号
口頭弁論終結日平成23年11月10日
判決
控訴人兼被控訴人セプロ株式会社
(以下「1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士安倉孝弘
市村直也
被控訴人兼控訴人JFEスチール株式会社
(以下「1審被告スチール」という。)
同訴訟代理人弁護士森本紘章
西尾亮平
松戸大介
同訴訟復代理人弁護士山岸哲平
被控訴人兼控訴人JFE物流株式会社
(以下「1審被告物流」という。)
同訴訟代理人弁護士大藤潔夫
太田尚成
主文
11審被告らの控訴に基づき,
(1)原判決中,1審被告ら敗訴部分を取り消す。
(2)前項の部分に係る1審原告の請求を棄却する。
21審原告の控訴を棄却する。
3訴訟費用は,1,2審とも,1審原告の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
11審原告
(1)原判決中,1審原告敗訴部分を取り消す。
(2)1審被告らは,1審原告に対し,連帯して,15億円及び1審被告スチー
ルについては,うち5億円に対する平成17年4月12日から,うち5億円に対す
る平成18年3月16日から,うち5億円に対する平成21年11月19日から,
1審被告物流については,うち10億円に対する平成19年3月17日から,うち
5億円に対する平成21年11月19日から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
(3)訴訟費用は,1,2審とも,1審被告らの負担とする。
(4)仮執行宣言
21審被告ら
(1)原判決中,1審被告ら敗訴部分を取り消す。
(2)前項の部分に係る1審原告の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,1,2審とも,1審原告の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,1審原告において,1審被告スチールが使用している「混銑車自動
停留ブレーキ及び連結解放装置」(以下「本件装置」という。)に組み込まれた別
紙プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)の複製物
について,1審原告が湯浅通信機工業株式会社(以下「湯浅通信機」という。)か
ら当該プログラムの著作権を譲渡されるなどして本件プログラムの著作権を取得し
たところ,1審被告スチールが本件装置を使用するに当たり,1審被告らとの間で,
相当額の本件プログラムの使用料を支払う旨の合意があった,仮に合意がなかった
としても,1審被告スチールは本件プログラムの使用により不当に利得していると
して,これを争う1審被告らに対し,①本件プログラムの著作権が1審原告に帰属
することの確認,②本件プログラムの使用料支払契約(1審被告らに対する主位的
請求及び1審被告スチールに対する予備的請求1)ないし不当利得(1審被告スチ
ールに対する予備的請求2)に基づき,連帯して,使用料ないし不当利得相当額1
5億円の支払(平成11年1月1日から平成16年12月31日まで6年間分合計
18億円のうちの10億円及び平成17年1月1日から平成20年12月31日ま
での4年間分合計12億円のうちの5億円の一部請求。なお,遅延損害金は,1審
被告スチールについては,平成11年1月1日から平成16年12月31日までの
6年間分18億円のうち5億円につき訴状送達の日の翌日である平成17年4月1
2日から,うち5億円につき平成18年4月13日付け請求の趣旨変更申立書送達
の日の翌日である同年3月16日から,平成17年1月1日から平成20年12月
31日までの4年間分12億円のうち5億円につき平成21年9月3日付け請求の
趣旨変更申立書送達の日の翌日である同年11月19日から,1審被告物流につい
ては平成11年1月1日から平成16年12月31日までの6年間分18億円のう
ち10億円につき平成19年3月16日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日
である同月17日から,平成17年1月1日から平成20年12月31日までの4
年間分12億円のうち5億円につき平成21年9月3日付け請求の趣旨変更申立書
送達の日の翌日である同年11月19日から各支払済みまで年5分の割合)を求め
る事案である。
原判決は,本件装置における車両の連結・解放・ブレーキ操作の方法・装置は,
特許を取得する程度に新規なものであったことから,これに対応する本件プログラ
ムも新規な内容のものであるということができ,しかも,本件プログラムは,その
分量も多く,選択配列の幅が十分にある中から選択配列されたものということがで
きるから,その表現には全体として作成者の個性が表れているものと推認すること
ができるところ,本件プログラムの著作権は,著作権者である湯浅通信機から1審
原告に遅くとも平成11年ころまでには譲渡されたものと認められるとして,上記
①の本件プログラムの著作権に係る確認請求を認容した。
しかし,②の本件プログラムの著作権に係る金銭請求については,本件プログラ
ムの使用料支払契約に係る合意が成立したとは認められず,また,1審被告スチー
ルは適法に複製された本件プログラムの複製物を本件装置において使用しているに
すぎない以上,1審原告には何らの損失が生じたものということはできないから,
不当利得も成立しないとして,これを棄却した。
1審原告及び1審被告らは,原判決を不服として,それぞれ控訴に及んだ。
2前提となる事実
(1)当事者等
ア1審原告
1審原告は,旧商号が平井電機株式会社であり,平成6年4月1日,現在の商号
に商号変更した株式会社である。
イ1審被告スチール
1審被告スチールは,旧商号が川崎製鉄株式会社であり,平成15年4月1日,
現在の商号に商号変更した株式会社である。
本件装置の購入等については,1審被告スチール水島製鉄所工程部運輸管理課
(当時の名称。以下「運管課」という。)が担当した。Aは,当時,運管課の掛員
であった。
ウ1審被告物流
1審被告物流は,旧商号エヌケーケー物流株式会社が,平成16年4月1日,川
鉄物流株式会社(平成6年7月1日の商号変更前の旧商号は川鉄運輸株式会社)を
吸収合併すると同時に,現在の商号に商号変更した株式会社である。1審被告物流
は,1審被告スチールの関連会社である。
本件装置の購入等については,昭和53年5月1日に発足した1審被告物流水島
支店第2業務部鉄道課(当時の名称。以下「鉄道課」という。)が担当した。鉄道
課は,昭和62年9月,第2業務部運転整備課となり,平成4年7月,第2業務部
運転業務課となった(丙45,47~49)。
昭和59年ころから昭和61年ころ当時,1審被告物流水島支店の支店長はB,
次長はC,第2業務部長は,昭和58年4月1日から昭和60年3月末日まではD
で,昭和60年4月1日から昭和62年3月末日まではC次長が兼務し,副部長
はE,鉄道課長はF,鉄道課鉄道係長はGであった(甲208,233,丙17
0)。
エJFE電制株式会社
JFE電制株式会社(以下「JFE電制」という。)は,昭和48年にJFEス
チールの電気部門が独立して設立された会社で,旧商号が川鉄電気設備工事株式会
社であり,昭和62年1月1日,川鉄電設株式会社に商号変更し,平成16年4月
1日,現在の商号に商号変更した(甲4の1・2,丙50)。
オ湯浅通信機
湯浅通信機は,昭和38年11月に設立され,平成10年8月28日,破産宣告
を受けた会社である。
設立当時の代表取締役はHであり,Hの息子であるI(現在の名前は湯浅敏由。
以下「I専務」という。)は,昭和46年4月に湯浅通信機に入社し,昭和56年
ころ専務取締役に就任し,昭和60年ないし61年当時は,実質的に代表取締役と
しての業務を行っており,昭和63年4月に名目上も代表取締役に就任した。なお,
昭和60年ないし61年当時は常務取締役であったJが平成7年4月に代表取締
役に就任し,平成8年11月,Hが代表取締役に就任した。
K,L満及びMは,昭和59年ないし62年ころ当時,湯浅通信機の従業員で
あった。(甲210,211,233,丙90)
(2)本件装置
ア1審被告スチールは,その西日本製鉄所倉敷(旧川崎製鉄株式会社水島製鉄
所)において,溶融状態の銑鉄を高炉出銑口で積み込み,所要の場所まで運搬する
ための貨車(それ自体は駆動力を備えていないもので,「台車」「TC車」「トピ
ードカー」ともいう。)及びこれを牽引するディーゼル機関車(「動力車」「DH
L車」ともいう。)を使用し,溶銑運搬の作業を行っている。
イ前記の機関車及び貨車には,昭和61年3月から,「混銑車自動停留ブレー
キ及び連結解放装置」ないし「トレックス-PB装置(TrainRemoteElectric
wavecontrolSystemParkingBrake/列車遠隔電磁波制御方式停留制動装置)」
(本件装置)が採用されている。本件装置は,無線遠隔指令によって任意の貨車の
ブレーキの緊締・緩解及び機関車と貨車,貨車相互の連結・解放を行うとともに,
貨車の突放(逸走)等の緊急時にブレーキが自動的に作動するシステムである。
ウ本件装置の代金として,JFE電制から,1審原告に対し,昭和61年3月
31日に8038万2627円,同年5月2日に7009万4200円,同年6月
5日に5979万9200円の合計2億1027万6027円が支払われた。
(3)本件プログラムの複製
ア湯浅通信機の従業員であるMは,同社の発意に基づき,遅くとも昭和60
年4月ころから本件プログラムを職務上作成した(ただし,完成の有無・作成期間
については争いがある。)。
イ1審原告は,本件プログラムの複製物(本件プログラムが著作物性を認めら
れるものであるか否かはともかく,本件プログラムが書き込まれた部品であるロ
ム)を作成し,本件装置が被告スチールに納入される前に本件装置に設置した。
ウ1審被告スチールは,昭和60年5月ころから本件装置の実験機の,同年1
1月ころからは本件装置の本番機の納入を順次受け,そのころから本件プログラム
を使用している。
(4)特許出願等
ア本件装置の主要部分に係る発明は,昭和61年8月4日,出願人を1審被告
スチール,1審被告物流,JFE電制及び1審原告とし,発明の名称を「車両の連
結並びに解放方法及び装置」として特許出願され,平成5年11月26日,特許権
の設定登録がされた(特許第1804586号)。
イ本件装置のうち電気制御装置に係る発明は,昭和61年11月12日,出願
人を1審被告スチール,1審被告物流,JFE電制及び1審原告とし,考案の名称
を「低速車両の自己発電による電気制御装置」として実用新案登録出願がされ,平
成6年10月21日,実用新案権の設定の登録がされた(登録第2036129
号)。
3本件訴訟の争点
(1)1審原告提出の文書の形式的及び実質的証拠力の有無・程度(争点1)
(2)本件プログラムの著作権に係る確認請求の当否(争点2)
ア本件プログラムの著作物性
イ本件プログラムの著作権の帰すう
ウ1審被告らに対する対抗要件の要否
エ1審原告の著作権の主張と信義則違反の成否
(3)本件プログラムの著作権に係る金銭請求の当否(争点3)
ア使用料支払契約の成否(1審被告らに対する主位的請求・1審被告スチール
に対する予備的請求1・1審被告物流に対する予備的請求)
イ不当利得の成否(1審被告スチールに対する予備的請求2)
ウ使用料ないし不当利得の額
エ使用料請求権の消滅時効の成否
オ使用料請求に係る信義則違反の成否
第3当事者の主張
1争点1(1審原告提出の文書の形式的及び実質的証拠力の有無・程度)につ
いて
(1)文書全般について
〔1審被告らの主張〕
ア1審原告は,本件装置の開発経緯,1審原告と1審被告らとの間の本件プロ
グラムに係る使用料支払契約の存在を立証するために各種文書を提出するが,その
うち,少なくとも以下の各文書(甲8,20,39,41,42,45,46,5
0,52,53,56,57,60,63,67~69,73,74,76の1~
3,77~80,84~86,88,90,95,115,116,119~12
3,192の2,195,198,212~215,229,249,251~2
53,258の1・2,260~263,266,283の1・2,286の1~
7,315)については,1審原告により偽造・変造されたものであって,その形
式的証拠力が否定されるか,およそ信用性に欠けるものであって,その実質的証拠
力が否定されるというほかない。
例えば,甲122は,このような書面を平成3年当時に1審原告が作成し,1審
被告物流に提出したことを裏付けるような証拠は全く存在せず,逆に,他の客観的
な事実関係に照らして全く信用できないものであることは明らかであり,その余の
上記各文書についても,いずれも偽造・変造されたものであることは明らかである。
イ原判決は,1審原告提出の文書中,議事録について,その量や外観,記載内
容等の客観的事情から,これを後に偽造ないし変造することは到底不可能であると
するが,1審被告らは,これらの文書の全てについて,1審原告が一から偽造した
ものと主張するわけではない。これらの中には,実際に存在した正しい内容の文書
に,偽造印影を付加顕出して体裁を整え,それらしく装ったもの,もともと存在し
ていた文書に基づいて,一部虚偽の内容の記載を付加してもっともらしい文書とし
て再生,変造されるに至ったものが相当数混在していると主張しているものである。
ウ1審原告は,原審及び控訴審を通じて,その提出に係る文書の不備について
1審被告らから指摘される都度,新たな文書を次々と提出した。
例えば,1審原告は,控訴審に至り,原審において写しとして提出していた甲5
0,52,57及び84と同一内容の文書(原本)として,甲260ないし263
を提出するが,1審原告は,「旧工場」「旧倉庫」「旧社屋」等の不明確な場所に
おいて,元社員の個別ホルダーにおいて私的文書として管理されていた上記文書を
発見したなどと説明する。
しかしながら,1審原告は,原審において,関係資料を必死に探索していたとい
うのに,これを提出していなかったのであるから,控訴審において,突然,かつ,
偶然,立証上必要な書類が発見されるとは到底解し難い。
また,議事録のコピーを大量に保管していた1審原告において,将来のクレーム
防止のために1審被告物流に懇願して獲得した大事な書類が杜撰に保管されていた
ものと解することもできない。
同様に,控訴審に至って提出された甲252について,湯浅通信機及び1審原告
において稼働した故人の遺族から資料の提供を受けたとする発見の経緯もまた,不
自然であるというほかない。
エ1審原告は,要するに,既に提出した文書について1審被告らから弾劾を受
ける都度,1審原告にとって必要な証拠が偶然発見されたなどとして,新たな文書
の提出を繰り返しているのであって,1審原告提出に係る各文書は,全体的に信用
性を欠くものである。
オ以上のように,1審原告が提出する文書の多くは偽造・変造されたもの等で
あり,少なくともその内容において信用性に欠けるものであるが,特に議事録は,
以下に述べるとおり,不合理な点・事実と矛盾する点が数多く存在するものである
から,事後的に作成された偽造・変造文書である。
〔1審原告の主張〕
1審被告らは,1審原告が提出する議事録等を偽造であるなどと主張するが,1
審原告において,これだけ多量の議事録等を偽造することは不可能である。
例えば,議事録は,原判決が指摘するとおり,その量,外見,作成に関与してい
る者の人数,記述内容の複雑さ等からみて,到底これを偽造・変造できるようなも
のではないし,その内容は,偽造しようとする者が作出するはずのない記述がほと
んどを占めているものである。
また,1審原告は,本件訴訟提起前の交渉において,1審原告が保有する議事録
等を全部提供し,これを1審被告らの保管している書面と突き合わせることによっ
て早期解決を図ろうとしたのであって,突合せのために,わざわざ偽造・変造した
書類を提供するはずがない。1審被告らは,1審原告があたかも1審被告らにおい
て議事録等を保有していないことを周到に確認した上で議事録等を開示したかのよ
うに主張するが,事実経緯を無視した不当な主張である。1審原告は,本件訴訟の
提起前の交渉段階から現時点まで,1審被告らが議事録に対応する書類を真実保有
していないと考えたことはない。実際,1審被告らは,その主張する書類保管ルー
ルによるならば保管しているはずのない書類につき,自己に有利な記載があるもの
のみを文書として提出しているものである。
なお,1審被告らは,議事録が原本ではなく写しとして提出されていることにつ
いてるる主張するが,1審原告と1審被告らとは,1審原告が関与した船用自動ラ
ックの作動不良について協議した際,議事録の改変が問題となったため,昭和59
年3月7日の協議において本件装置の開発に関する議事録の作成ルールを取り決め
(甲8),1審原告は,これに従って協議の都度議事録を作成して1審被告らに提
出したが,1審被告らは,当該ルールを無視し,1審原告が提出した議事録に確認
印を押印したもののコピーを1審原告に返還していたのであり,本件訴訟に提出し
た議事録のほとんどが写しである原因は1審被告らにある。
また,議事録は,担当者が作成した文案について,1審原告代表者が添削したも
のを事務員が手書き又はワープロで清書したものであり,作成責任者は同代表者と
なる。筆跡等からすると,筆記に関与したと推測される者は7名(原告代表者を含
む。),ワープロによる作成に関与したと推測される者は18名であり,従業員の
定着率が低い1審原告において,約20年前の文書について具体的な担当者を特定
することは不可能である。関与者を明らかにすると,1審被告らによる接触の危険
性もあり,1審原告は,議事録を筆記した者,ワープロ打ちした者の氏名等を開示
しないこととしたにすぎない。
(2)議事録について
〔1審被告らの主張〕
ア1審原告から文書として提出された,本件装置に関する1審被告らとの協議
に関する会議記録等(議事録,打合覚,業務連絡表等。甲7ないし69,123。
以下,総称して「本件議事録」という。)には,作成日とされる当時のワープロで
は出力不可能な文字等が用いられているものであり,後日作成された可能性が高い
ものである。なお,甲123のみは,原本が文書として提出されているが,甲12
3に押印されている1審被告らの関係者の印影はいずれも偽造されたものというべ
きである。
例えば,1審原告が昭和60年8月当時使用していたリコー製ワープロでは,ひ
と筆書きの「り」の字体は打ち出すことはできないものであり,ふた筆書きの字体
が採用されていたものである(以下,「り」の字体について記載するときは,ふた
筆書きの字体について述べる場合であっても,ひと筆書きの字体を用いる。)。当
該字体は,昭和63年6月以降に発売された富士通製ワープロでなければ打ち出す
ことはできないから,同字体が出力されている議事録は,昭和63年6月以降に作
成されたものである。
「総」の文字も,つくり上部が部首の「ハ」の字体で打ち出されるものであり,
つくり上部の「八」の2画目が異なる字体(部首の「几」に類似する字体)である
「総」の文字は打ち出すことはできなかった(以下,便宜,「総」の字体を用い
る。)。1審原告は,部首コード,仮名コードで入力すれば,上記各文字も出力可
能であると弁解するが,リコー製リポート5600シリーズに登載されている明朝
系フォントは1種類だけであるし,リコー製ワープロをOEM生産していた日立製
作所において部首入力機能が採用されたのは,昭和62年4月以降である。通常の
入力において手間のかかる部首コード入力は使用しない。
また,半角の漢字も使用されているが,1審原告が使用したとするリコー製ワー
プロ「リポート350G」は,昭和60年当時,半角の漢字を作成し,印刷する機
能を有しなかった。N倍角文字,スーパーアウトラインフォント機能等も当時のワ
ープロには存在しない機能である。
1審原告が昭和60年当時使用していた熱転写式プリンター(TP2600#5
06370)は,24×24ドットで12ポイントと10.5ポイントの文字の印
字が可能だったが,40×40ドットでの印刷機能を有しないものである。
また,やはり1審原告が使用していたとする「リポート5600」では作成でき
ない罫線や中括弧,中抜き矢印も記載されている(甲68)。
1審被告物流がワールドパルBW-450(昭和62年発売。日立製作所が設計
製造販売。なお,同社はリコーにワープロをOEM供給していた。)とワイヤドッ
ト式プリンターPW10M1(昭和60年発売)により,甲号証の議事録や見積書
と同一の書体の文書を作成することができるか再現試験を行ったところ,当該試験
により作成された文書(以下,総称して「再現文書」という。)においては,甲5
0とは異なり,①ひらがなの「り」はひと筆書きではなく,ふた筆書きとなり,②
1ページ以内に収まらず,③上部に広い余白が生じた。
1審原告は,意図的に半角文字を混入させているなどとして,1審被告物流の再
現テストは信用できないと主張するが,当該テストにおいては意図的な手法を用い
てはいないのみならず,ワープロ本体が異なっても上位機種であれば印刷品位は同
じであるし,解像度が同じプリンターであれば,熱転写式でもドットインパクト式
でも同じ印刷結果になる。
また,1審原告は,オートシートフィーダがあれば余白を調整できると主張する
が,1審原告がオートシートフィーダを利用したという証拠はないし,ワープロ本
体によってプリンターは制御されるので,プリンターにより紙送りを変更すること
はできない。
なお,1審原告は,昭和60年3月11日にワープロのデモ機の貸与を受けたと
主張するが,当該デモ機の製造銘板は「FD5600#504828」であり(甲
192の2),これは,昭和60年(1985年)4月に製作された828台目と
いう趣旨であるから(乙17),同年3月に使用することは不可能であった。
イ本件議事録には,成果還元金についての記載があるが,成果還元制度は,作
業を請け負った業者の自主的努力による作業効率の上昇あるいは当該業者の投資に
より1審被告スチールに利益が発生した場合に,その利益の一部を還元するもので
あるところ,本件装置を購入した1審被告スチール自身の投資による成果は還元の
対象とはならない。
ウ本件議事録には,「知的財産部」という記載がある(甲20,67)が,当
時,1審被告スチールには知的財産部はなかった。
エまた,甲20の議事録には,1審被告スチールの「企画部技術総括室」とい
う記載があるが,1審被告スチールに企画部技術総括室が設けられたのは昭和61
年4月であって,甲20の作成日である昭和60年1月当時の名称は,「管理部技
術総括室」であった。
オ1審原告の主張を前提とすると,甲46及び63の議事録は,提出用,返却
用及び保管用として3部作成されているはずであるが,確認印の位置・数・作成部
数などに関して不自然な点がある。
カ昭和60年ころのトナーの性能からすると,印刷された書面の文字が前ペー
ジの裏面に写るはずであるが,本件議事録にはそのような状態のものは存在しない。
キ甲8の議事録中のG,Nの日付印は,印影の大きさが直径13mmである
が,従前使用されていた12mmの印から13mmの印に変更されたのは昭和62
年9月以降であるから,昭和59年3月7日の協議の議事録である甲8に,13m
mの印影が存在することは時期的に整合するものではない。また,日付欄の上下の
間隔は真正な印影では4mmであるところ,6mmであり,字体も異なっている。
ク甲123の議事録中のOの印影の課名欄は「管理」となっているが,Oは
当時,管理部契約課長であったから,「管理」の印を使用することはあり得ない。
ケ1審被告の鉄道課の受付印が押印された議事録があるが,当時,受付印があ
ったのは管理部契約課のみである。契約課は,1審被告物流が1審被告スチールか
ら請け負った作業につき,業務委託契約を締結して他の業者に継続的に実施させる
事務を管掌していたので,たまたま受付印を使用していたにすぎない。当時使用さ
れていない鉄道課の受付印による印影が顕出されることはあり得ない。
コ1審被告物流の従業員で,昭和60年当時,鉄道課に所属していたPが保
管していた文書には,湯浅通信機やJFE電制からの報告・連絡書面であっても鉄
道課受領印は一切押印されていないし,1審原告の受領印もない。丙99及び11
1の議事録記載の会議には,1審原告代表者も出席しているが,その議事録は甲号
証として提出されていない。
サ甲69の議事録について,1審被告物流の鉄道課は,昭和62年9月に運転
整備課に名称変更されたにもかかわらず,同議事録には「鉄道課」という記載があ
る。なお,真正な見積書である丙13ないし16には,宛先として正しく「運転整
備課」と記載されている。
シ甲68の議事録には,同日同時刻に1審原告における会議に出席していた
Gが出席していることになっており,事実(丙151)に反するものである。
ス以上のほか,本件議事録について,甲123を除き,1審原告は原本を所持
しておらず,写しを提出しているが,1審原告が主張する厳格な議事録ルールが定
められていたとすれば,1審原告は原本を所持していたはずである。1審原告は,
1審被告らが厳格な議事録ルールに違反し,1審原告に原本ではなく写しを返却し
たなどと主張するが,重要な契約書等ではなく,長期間にわたる本件装置開発過程
において作成された全ての議事録について,担当者全員が全葉に押捺するなどとい
う煩瑣なルールを遵守したというにもかかわらず,1審被告らがあえて原本の返還
という点のみについてルール違反をするとは解し難いものである。そもそも,ルー
ル制定の契機とされる船用自動ラックの作動不良が問題となったのは,ルール制定
日とされる昭和59年3月7日以降である同年11月である。
しかも,1審原告は,本件議事録の作成者を明らかにしない。また,全葉に押印
している点,議事録として内容が異様に詳しい点など,その内容,表現,形式及び
量の点で不合理かつ不自然である。
さらに,1審原告は,本件訴訟提起前の事前交渉において,1審被告らが本件装
置の開発に係る議事録等を保存していないことを周到に確認した上で,本件議事録
を開示した。これは,1審被告らが保存する資料との照合により,偽造等の事実が
判明することを1審原告がおそれていたからにほかならない。
セ小括
以上からすると,本件議事録は,偽造・変造されたものであるか,あるいは信用
性に欠けるものであるというほかない。
〔1審原告の主張〕
ア文書作成に使用したワープロの機種等について
1審被告らは,本件議事録のワープロの印字について,①「り」「総」の字体が
当時のワープロでは印字できないものであった,②印字の仕上がりが当時不可能で
あった40×40ドットの印刷によるものである,③1審被告物流の再現テストに
よると,同様の余白を有する文書は作成できなかったなどとして,これらはいずれ
も後日作成したものであるなどと主張する。
しかしながら,①については,甲50等の議事録中の「り」の文字は,外字登録
機能で作成していたものであり,甲78等の議事録中の「総」の字体の違いは,部
首コード入力か,平仮名,片仮名コード入力かの違いによるものである。
②については,1審原告は,一時期インクジェット式プリンターも使用していた
こともあったが,昭和60年3月当時,極めて解像度の高い仕上がりの熱転写式プ
リンターを使用しており,当該プリンターで出力された文字は,解像度が極めて高
い40×40ドット以上のドット式プリンターにより出力された文字と同等の質を
有していた。
③については,リコーが昭和59年にデモ機として提供したワープロ機とプリン
ターにオートシートフィーダを装着すれば同様の余白を出力することは可能である。
あるいは,ワープロのB4サイズの画面に,A4サイズの範囲においてできる限り
広く入力した上でA4サイズにより出力するか,B4用紙で出力してA4サイズに
切断した可能性も高く,いずれかの方法によれば甲50その他の議事録と同じ書
式・余白・印字の範囲での議事録の作成は可能であった。他方,1審被告物流によ
る再現文書は,ワープロ本体及びプリンターの機種が異なるし,意図的に全角文字
及び半角文字を混在させている。甲50等を作成した当時,1審原告が水島事務機
からリポート5600及びそのインクジェットプリンターのデモ機を借り受けて使
用していたことは,水島事務機の常務取締役として営業部門の責任者であったQ
の業務日誌(甲249,250)の記載からも明らかである。
イ鉄道課受付印について
1審被告物流は,本件議事録の鉄道課受付印は偽造であると主張するが,1審被
告らが真正な文書として提出する丙39の6及び丙40の2には,それぞれ1審被
告物流の契約課受付印,管理課受付印の印影があるから,当時,鉄道課にも受付印
があったはずであって,鉄道課のみ受付印がなかったという主張は失当である。湯
浅通信機のLが保管していた文書(甲212,213)にも鉄道課受付印が押印
されており,甲50の議事録中の鉄道課受付印と一致する。
ウ甲68の議事録について
1審被告物流は,甲68の議事録は丙151の記載と矛盾するものであるなどと
主張するが,むしろ丙151が事後に変造されたものである。1審原告の会社事務
所に「シュミレーション機器」を設置したことはないから,1審原告で「自動ブレ
ーキソフト変更後シュミレーション」をすることはできないし,1審原告の会社事
務所で会議をしたのは,昭和60年6月25日の1回のみである。会社事務所で会
議が開催されるのに,1審原告代表者が出席していないのも不自然である。
エ小括
以上からすると,1審被告らが指摘する本件議事録の疑問点は,いずれも邪推に
すぎず,これらの成立の真正及び信用性は十分認められるものである。
(3)決裁書について
〔1審被告らの主張〕
1審原告は,1審被告物流作成とされる甲119ないし121の各文書(以下,
総称して,「本件決裁書」という。)を使用料支払契約成立の根拠とするが,次の
とおり,不合理な点・事実と矛盾する点があるから,上記各文書はいずれも1審被
告物流が作成した文書ではないし,記載内容の信用性もない。
ア甲119の決裁書について
(ア)1審被告物流が1審被告スチールに取引口座を有しないとの記載があるが,
1審被告物流は1審被告スチールのグループにおける基幹子会社であって,取引口
座を有している(乙4,5,丙162,163)。
(イ)F,G,E,C,B,R,S及びAの印影は真正な印影と相違している。ま
た,Sは,昭和60年10月ころまで「運管」(運輸管理課)の表示のある印を使
用していたので,甲119のような「運」の表示の印で決裁することはない。
(ウ)作成日とされている昭和60年8月ころに予算が許可ないし認可された旨
の記載があるが,1審被告スチールにおける本件装置購入のための予算認可は同年
9月30日に本社決裁がされたものである。
(エ)本件プログラムが「予想をはるかに越える大掛かりなソフト開発に成る」
との記述があるが,当時の関係者にはそのような認識はなかった。
(オ)表題に「開放」の記載があるが「解放」が正しい。単なる変換ミスとはい
えない。
(カ)書式が1審被告スチールにおける当時の決裁文書のものとは異なる。
(キ)1つの文書において,1審被告スチールと1審被告物流の2つの会社に決
裁を求めている点で,別々に決裁を求める通常の方式とは異なるものである。
(ク)「Aさん」(通常は「As」ないし「A掛員」と記載),「当支店B支店
長他幹部皆様方」(通常は「当支店長」又は「当支店幹部一同」と記載)との記載
は不自然である。
(ケ)Aの職印は乙3のAの職印とは異なり,真正の職印によるものではない。
(コ)「本装置は当支店が企画部に売り込み」という表現があるが,1審被告物
流の鉄道課がその監督部課である1審被告スチールの運管課を飛ばして,直接1審
被告スチールの企画部に売り込むことは許されない。本件装置は,1審被告物流が
企画して1審被告スチールに提案したものではなく,1審被告スチールの要請・要
望に基づいて1審被告らが共同して行ったものである。「貴課と共に予算申請を行
い」という表現も,1審被告物流の鉄道課が1審被告スチールの運管課とともに,
1審被告スチールの企画課に予算申請をすることはあり得ないから,不自然である。
イ甲120の決裁書について
(ア)「本社知的財産部」の記載があるが,1審被告スチールに知的財産部が発
足したのは,甲120の作成日とされる昭和62年1月13日より後である平成2
年1月である。昭和62年当時は「特許部」であったことは「共同出願に関する覚
書」(甲112)からも明らかである。
(イ)複数回予算申請が禁じられている旨の記載があるが,実際には予算変更申
請により不足予算の充足が可能である。
(ウ)成果還元制度に関する記載があるが,先に述べたとおり,同制度は,1審
被告スチール自身の投資による成果は還元の対象とはならない。
(エ)作業単価の見直しは,業務部外注管理課の専権事項であり,その作業の業
者や監督部課以外の部署の者が参加する場で検討される事項ではない。
(オ)本件装置は1審被告スチールの運管課が自らのニーズにより購入を意図し,
認可を得たものであり,1審被告スチールの製鋼部が要求元で予算執行の所管課を
運管課としたという記載は誤りである。
(カ)1審被告スチールでは,予算取得部署がその執行権限を有するのに,担当
部署である運管課をさしおいて,子会社である1審被告物流の要請により1審被告
スチールの他の部署が決裁することはない。
(キ)ソフト費用に関する認識が誤っているのみならず,本件装置のメリットに
ついて過大評価している。また,運管課にソフト制作のための予算がないとか,ソ
フト使用料を支払う必要があるという認識はなかったし,リプレイス時に同じ業者
から同じものを購入するとの言質を与えたに等しい発言をすることはない。技術総
括室においても1審原告と交渉をしたことはない。
(ク)B,C,E,F及びGの印影は真正な印影と相違している。
ウ本件決裁書について
(ア)昭和60年ないし62年当時,1審被告物流の水島支店では,4台の富士
通製オアシス100シリーズのワープロが使用されていたが,専ら帳票や定型的な
資料等の作成に使用され,一般文書の作成には使用されていない。富士通製パソコ
ン(FACOM9450Ⅱ)が鉄道課にも設置されていたが,簡単な文書作成機能
しかなく,本件決裁書のような複雑な文書の作成は不可能であったし,従業員が私
物を持ち込むこともなかった。また,Gは昭和63年10月以降になってワープ
ロを操作できるようになり,Fも昭和61年秋以降に練習を始めたので,昭和60
年ないし62年当時にワープロで文書を作成することはできなかった。
(イ)本件決裁書には,1審被告物流が1審被告スチールの依頼により本件装置
の購入のための購買代行をする旨の記載があるが,1審被告スチールの購買代行と
は,1審被告スチールが子会社の購買を代行するものであり,子会社が1審被告ス
チールの購買を代行するものではない。
(ウ)本件決裁書は,1審被告物流の鉄道課から1審被告スチールの運管課に宛
てた書面のようであるが,1審被告スチールにおいて原本を見た者がいない上に,
1審原告は入手先を具体的に明らかにしない。
(エ)報告書なのに決裁を依頼する記載もあるが,報告書に決裁文書を兼用する
ような書式・表現は,1審被告物流の関係者は使用しない。
エ小括
以上からすると,本件決裁書は,偽造・変造されたものであるか,あるいは信用
性に欠けるものであるというほかない。
〔1審原告の主張〕
ア1審被告らは,使用料支払契約成立の根拠である1審被告物流作成に係る本
件決裁書の成立の真正,信用性を争うが,次のとおり,同主張は理由がない。
(ア)1審被告らは,甲119の決裁書に「開放」の字が使用されている点が不
自然であると主張するが,昭和60年当時は本件装置について使用される名称が
様々であったため,1審被告物流のN作業長らの指示により統一することとなり,
その後「解放」を使用することとされたにすぎない。
(イ)1審被告らは,甲119の書式は1審被告らの当時の決裁文書の書式とは
異なると主張するが,当時,1審被告らには定まった書式はなかった。
(ウ)1審被告らは,甲119の決裁方法について,子会社である1審被告物流
の支店長から親会社である1審被告スチールの担当者に決裁依頼が回されること,
運管課のAについて,「Aさん」と記載することは不自然であると主張するが,い
ずれも不自然であるとまでいうことはできない。
(エ)1審被告らは,当時,1審被告スチールには知的財産部がなかったにもか
かわらず,甲120の決裁書に「知的財産部」の記載があると主張するが,「知的
財産部」の記載は,議事録(甲20)にもあり,1審原告は同議事録について1審
被告物流の確認を受けているが,担当者から訂正指示はなかったし,組織名につい
て俗称ないし通称が使用されることもある。昭和60年は,米国の知的財産保護強
化政策が打ち出された年であり,マスコミにおいても「知的財産」という言葉を耳
にすることも少なくなかったから,1審被告らがことさらに「知的財産部門」等の
用語を用いることも,1審原告においてそれを「知的財産部」と聞き間違えるとい
ったことも十分あり得るものである。
(オ)本件決裁書には,1審被告らの関係者でなければ知り得ない1審被告スチ
ールの社内規定に関する記載があるから,到底偽造できるものではない。
(カ)1審被告らは,本件決裁書の各人の印影が偽造であると主張するが,Eは,
昭和62年4月半ばころから同年5月初めころまで,旧印と新印とを並行して使用
していたことがあり,Eが当時使用していた印鑑の印影(甲202)と甲119な
いし121のE印の印影は一致するし,E自身,甲119ないし121の文書は
閲読の上押印した記憶があると説明している。
イ以上からすると,1審被告らが指摘する本件決裁書の疑問点は,いずれも邪
推にすぎず,これらの成立の真正,信用性は十分認められるものである。
(4)契約書及び見積書について
〔1審被告らの主張〕
ア契約書の提出の経緯について
1審原告が提出した本件議事録等の文書のほとんどは偽造されたものであるから,
プログラムについての湯浅通信機から1審原告への譲渡に係る契約書(甲74,1
15,214,252)も,1審原告とワールドシステム開発との間の契約書(甲
116)も,また,湯浅通信機作成名義の見積書(甲234,288)も,その形
式的証拠力自体,否定されるべきである。
しかも,1審原告は,原審において提出した第1次契約書(甲214。甲74は
その写し),第2次契約書(甲115)の作成経緯について,1審原告代表者の陳
述書(甲228)において詳細に説明しているが,控訴審において提出された契約
書(甲252。以下「第3次契約書」という。)の存在については全く言及してい
ない。このように,これらの契約書の作成経過は明らかに不自然である。
イ収入印紙について
1審原告が本件プログラムの著作権の承継に係る文書として提出した各契約書に
は,平成5年以降に使用開始された収入印紙が貼用されているもの(甲74,11
5,116)があるのみならず,本来,6万円の印紙を貼るべきところ,4000
円しか貼付していないもの(甲214)もある。1審原告は,平成5年の税務調査
において不貼付を指摘されたなどと説明するが,1審被告物流の水島支店は,平成
5年に広島国税局から税務調査を受けていない。税務調査は,昭和59年,61年,
63年,平成2年,9年に実施され,平成2年より後は大阪国税局が行うことにな
っていた。本件装置の売買に関し調査が入ったとしても,昭和61年又は63年の
調査において既に指摘されていたはずである。
また,印紙税の徴収権の消滅時効は5年又は7年であるから,昭和60年ないし
61年の文書について,平成5年に税務署が貼付漏れを指摘して是正を求めること
はない。契約書の信用性と収入印紙の貼付の有無とは無関係であるから,履行済み
の契約書に関し,消滅時効経過後においても印紙を貼付したり,双方の代表者によ
って割印するように弁護士が助言をするはずもない。
ウ湯浅通信機の代表者印及び会社印の印影について
(ア)1審原告と湯浅通信機との間の第1次ないし第3次契約書(甲214,7
4,115,252)に顕出された1審原告及び湯浅通信機の代表者印の印影には,
不審点が存在する。
昭和60年ないし61年の誓約書(丙42,43)における湯浅通信機の各代表
者印の各印影は,昭和52年11月29日付けの根抵当権設定契約証書の写し(丙
88の2)の印影と一致するから,少なくとも昭和52年から61年にかけて,湯
浅通信機は上記の印影の印鑑のみを使用していたものということができる。1審原
告と湯浅通信機との間の第1次,第2次契約書(甲214,74,115)及び1
審原告が提出する他の同時期に作成されたとする文書(甲220,221)の湯浅
通信機の代表者印の印影はこれとは異なっているし,これらの印影は,平成4年又
は5年に作成された契約書(丙89の2~4)の湯浅通信機の代表者印の印影とも
異なっている。
(イ)I専務は,原審における証人尋問において,1審原告が文書として提出す
る上記各契約書の作成自体を否定するほか,本件プログラムの著作権について,そ
の譲渡契約などを口頭でも行なったことはなく,著作権の存在自体も意識していな
かったと明言している。また,I専務は,昭和60年代において,湯浅通信機には
2種類の代表者印があった事実を否定しているのみならず,湯浅通信機から1審被
告物流に提出された前掲誓約書(丙43)における湯浅通信機の代表者印の印影が
真正なものであると述べているところ,特に,湯浅通信機から1審原告への著作権
の譲渡に係る直接証拠ともいうべき第1次契約書(甲214)上の湯浅通信機の印
影は,前掲丙43及び88の2に顕出されている湯浅通信機の真正な印影とは明ら
かに異なるものである。
(ウ)湯浅通信機の真正な会社印(ゴム印)には,欠損があるはずだが,前記各
契約書の印影には,欠損がみられないから,真正な印影とは明らかに異なるもので
ある。
エ契約書作成に使用したワープロの機種について
(ア)「り」及び「総」の字体
1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書(甲214,その写しである甲7
4)の「り」「総」の文字は,前記のとおり,リコー製ワープロでは打ち出すこと
ができず,昭和63年6月以降発売の富士通製のワープロであれば打ち出し可能な
ものである。
したがって,1審原告と湯浅通信機との間の契約書は,1審原告が湯浅通信機と
の契約があったとされる時期に使用していたリコー製ワープロ350G,5600
シリーズによって作成されたものではないから,昭和60ないし61年に作成され
たものではなく,後日,より高性能の富士通製ワープロで作成されたものである。
(イ)スーパーアウトラインフォント機能及びN×N倍角
1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書(前掲)及び1審原告とワールドシ
ステム開発との間の契約書(甲116)には,いずれも24×24ドットを上回る
解像度のフォントの印字,N倍角文字,スーパーアウトラインフォント機能等,昭
和60年ないし61年当時には,どのワープロにもなかった機能が用いられている
から,後日に作成された可能性が高い。
オ1審被告物流の担当者の確認印
1審原告と湯浅通信機との間の契約書(甲217)の確認のために押印されたF,
G印は,議事録の偽造印と同じ印影であるから,同様に偽造によるものである。
1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書の写し(甲74)のF印及びG印は,
貼付されている収入印紙からすれば平成5年以降に押印されたものであるが,平成
5年当時,Fは鉄道課に所属していない。
カ鉄道課受付印
貼付されている収入印紙からすれば平成5年以降に作成されたことになる1審原
告と湯浅通信機との間の第1次契約書の写し(甲74)には,鉄道課受付印が押印
されているが,1審被告物流の鉄道課は昭和62年9月に運転整備課に名称変更さ
れている。
キ不審な見積書の存在
1審原告は,湯浅通信機に対して約6000万円を支払った証拠として,湯浅通
信機作成に係る見積書(甲234,288)を提出する。
しかしながら,甲234は偽造文書であるところ,甲288も,その押捺された
会社印の印影,その書式,ワープロ文字の形などの点において,甲234と同一で
あるから,同様に偽造文書であるというほかないし,個別の記載内容についても,
不審な点が多数みられるものである。
しかも,I専務は,いずれの見積書も作成したことはなく,約6000万円の支
払を受けたことはないと明言している。
クワールドシステム開発の関与の事実の不存在
1審原告は,原審において,ワールドシステム開発の関与が重要な争点となって
いたにもかかわらず,支払総額や明細等の文書を提出しなかった。1審原告代表者
は,原審における代表者尋問において,ワールドシステム開発の領収書は破棄され
ているなどと説明していた。金銭の授受を直接立証する領収書や請求書等の重要書
類が保存されていなかったにもかかわらず,甲286の1ないし7の報告書のよう
な周辺的な文書のみが保存されており,しかも,それが当審の平成22年7月21
日の第5回弁論準備手続期日において突然証拠申出されたこと自体,当該文書が偽
造であることを推認させるものである。
ケ小括
以上からすると,前記契約書及び見積書も,偽造・変造されたものであるか,あ
るいは信用性に欠けるものであるというほかない。
〔1審原告の主張〕
ア収入印紙について
1審原告と湯浅通信機とは,昭和60年11月15日,第1次契約書(甲21
4)を作成し,双方で保管していたが,1審被告物流が1審原告と湯浅通信機との
間の契約書の提出を強く求めたため,相談の上,取引金額等に関する箇所を削除し
た第2次契約書(甲115)を昭和61年3月3日に作成した。1審原告は,同月
16日ないし17日ころ,同契約書の写しを1審被告物流の鉄道課に持ち込み,同
月19日付けの鉄道課受付印,F,Gの確認印が押印されたものの写し(甲74の
1ページ目を甲217に差し替えたもの)を受領して保管していた。
1審被告らは,甲115及び116の各契約書に貼付された収入印紙について,
平成5年以降に発行された収入印紙が貼付されていることを問題にするが,これは,
1審被告物流の水島支店が平成5年8月ころから広島国税局による税務調査を受け,
1審原告も,倉敷税務署から反面調査を受けた際,1審原告と湯浅通信機,ワール
ドシステム開発との間の各契約書(甲115,116)及びその他の書類について
収入印紙を貼付していないことを指摘されたため,同年11月中旬ころ,必要な額
の収入印紙を購入して貼付したからにすぎない。1審原告は,当時の顧問弁護士の
助言により,同年11月下旬ころ,1審原告と湯浅通信機との間の第2次契約書
(甲115)に貼付された収入印紙に1審原告と湯浅通信機の代表者印の割印をし,
湯浅通信機保管分にも同様の処理をしてもらうなどの対応をした。また,1審原告
とワールドシステム開発との間の契約書(甲116)についても,1審原告保管分
の契約書に貼付された収入印紙に,1審原告の代表者印のみを押印していたが,平
成6年1月か2月ころ,ワールドシステム開発のW則正と面談し,代表者印の割
印を得た。1審原告がJFE電制あてに提出していた注文請書(甲215)につい
ても同様の処理を依頼したものである。
イ湯浅通信機の代表者印等の印影について
1審被告らは,1審原告と湯浅通信機との間の各契約書における湯浅通信機の会
社印及び代表者印の各印影は偽造されたものであると主張するが,甲74及び11
5の会社印及び代表者印と湯浅通信機作成の他の文書(甲218)の会社印及び代
表者印の各印影は一致するし,湯浅通信機は,当時,代表者印を数個有していた。
したがって,上記契約書における湯浅通信機の会社印及び代表者印は真正な印鑑
である。
ウ契約書作成に使用したワープロの機種について
(ア)「り」及び「総」の字体
1審被告らは,1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書(甲214。甲74
はその写し)の「り」及び「総」の文字は,昭和63年6月以降発売の富士通製ワ
ープロでなければ打ち出し不可能なので,後日作成されたものであると主張する。
しかしながら,1審原告において,「り」の字体は,外字登録機能により作成し
て登録し,出力していたし,「総」の字体は,部首コード入力,仮名コード入力と
入力方法を使い分けるといずれの字体も出力可能であるから,後日作成したもので
はない。
なお,1審被告らが指摘する中括弧,中抜矢印等も,リコー製ワープロにより作
成可能である。
(イ)スーパーアウトラインフォント機能及びN×N倍角
1審被告らは,1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書の写し(甲74),
第2次契約書(甲115),1審原告とワールドシステム開発との間の契約書(甲
116)には,スーパーアウトラインフォント機能及びN×N倍角が用いられ,こ
れらの機能は平成2年6月以降のものであるから,上記各契約書はいずれも同月こ
ろ以降に作成されたものであると主張する。
しかしながら,1審原告は,昭和60年当時,1審原告と湯浅通信機との間の契
約書(甲74,115)のような重要な書類等の表紙は印刷業者に依頼し,これを
コピーして使用していたものである。
1審原告とワールドシステム開発との契約書(甲116)は,ワールドシステム
開発において作成したものであるし,昭和59年に富士通から発売されたワープロ
であるオアシス100GⅡ又はオアシス100GSにレーザープリンターを組み合
わせれば,平成2年以前であっても作成は可能である。
エ各文書の提出の経緯について
本件装置の開発から長期間が経過していること,1審原告の懸命な探索活動にも
かかわらず,一部文書の発見が遅れたこと,Kの遺族から資料の提供を受けたこ
となどはいずれも事実であって,1審原告は各文書を提出する際,その経緯につい
て具体的に明らかにしている。
オ小括
以上からすると,1審被告らが指摘する契約書及び見積書の疑問点も,いずれも
邪推にすぎず,これらの成立の真正,信用性は十分認められるものである。
(5)その他の文書について
〔1審被告らの主張〕
1審原告提出の各文書には,前記(1)ないし(4)における指摘を含めてまとめると,
概略,以下の不審点を指摘することができる。
ア当該文書の作成日とされる時期には存在しなかった部署名(知的財産部,企
画部技術総括室,運転整備課等)が記載されているもの(甲20,50,67,6
9,95,120)
イ印影や筆跡が真正なものとは異なるもの(甲8,20,39,46,50,
56,57,63,67~69,74,76の1~3,78,84,86,95,
115,119~121,195,212,213,252,253,258の1,
261~263)
ウ1審原告の主張や他の証拠の内容と齟齬するもの,作成時期が不自然である
もの,客観的事実と反する記載があるもの,提出の経緯が不自然であるもの等(甲
5,8,41,50,56,57,63,67~69,73,76の1~3,79,
80,88,90,95,115,116,119~121,123,192の2,
195,198,214,229,249,251~253,258の1・2,2
60~263,266,283の1・2,286の1~7)
エ「り」等の文字,解像度等の点で,当時のワープロでは作成不可能と思われ
るもの(甲50,57,60,63,67,68,76の1~3,77~80,8
4~86,115,195,214,251,252,260~263,283の
1・2)
オ使用開始前の収入印紙が貼付されていたり,印紙額が異なるなど,収入印紙
について不自然な点がみられるもの(甲74,115,116,214,215,
266)
〔1審原告の主張〕
1審原告が提出した文書は,いずれも偽造・変造等によるものではなく,その成
立の真正が認められ,信用性も高いものである。
1審原告が提出するそのほかの各文書についての1審被告らの主張も,同様に根
拠のない非難にすぎず,各文書の成立の真正,信用性はいずれも十分認められるも
のである。
(6)著作権シールについて
〔1審被告らの主張〕
1審原告は,本件装置の開発当時から本件プログラムに対する著作権の成立を前
提としていた根拠として,いわゆる著作権シールをCPU基盤に貼付していたなど
と主張するが,その撮影時期は客観的事実(後記T回答)に反し,虚偽のもので
あることは明白である。
〔1審原告の主張〕
甲73の写真は,昭和61年1月20日に納入された旨を表示する著作権シール
の写真であるが,基盤の撮影自体は平成3年以降にされたものである。当該基盤は,
平成3年以後に1審原告の工場に修理のために戻されたところ,修理の際,一旦著
作権シールは除去されたが,修理終了後,最初の納入年月日を記載したシールを基
盤に貼付した上,改めてコーティングを施すのが通常の作業手順である。甲73の
写真は,修理品に新たな著作権シールを貼付した後,コーティングを施す前にCP
U基盤を撮影したものであるところ,1審原告は,これを最初の納入時の写真と取
り違え,原審において文書として提出してしまったにすぎない。
この点について,原判決は,著作権シール(甲73,198)の撮影時期に疑問
があることから,昭和61年2月14日の会議において「ロムに「著作権法により
ソフトの無断使用及びコピーを禁じます」との1審原告の社名が入ったシールが貼
り付けてあるが,以前より話のあった著作権の件でそうしてあるのか!」との発言
が記載されている議事録(甲63)の成立の真正を疑問視する。
しかしながら,原判決の根拠となるロット番号表示ルールに関する回答(1審被
告スチール訴訟代理人が行った弁護士照会に対する株式会社ルネサステクノロジ知
的財産権統括部のT作成の2通の回答書。乙20,23。以下,総称して「T回
答」という。)は内容虚偽のものであることなどからすると,昭和61年当時,1
審原告がROMに著作権シールを貼付していた事実を否定することはできない。
しかも,原判決は,T回答に基づいて,甲198の写真につき,昭和63年の第
44週以降に撮影されたものであるとするが,同回答は内容虚偽のものであり,信
用性に乏しい。
(7)文書の提出が時機に後れた攻撃防御方法の提出に該当するか否かについて
〔1審被告らの主張〕
ア原告は,本件プログラムの創作性を立証するために,当審の平成23年4月
19日の第8回弁論準備手続期日において,ソースコード(甲289~292)を
提出するが,これは,時機に後れた不適法なものであって,却下されるべきである。
すなわち,1審被告らは,原審の平成17年7月11日の第2回口頭弁論期日に
おいて,1審原告に対し,ソースコードの提出を求めたところ,同期日において,
1審原告は,当初のプログラムと修正後のソースコードを提出する旨陳述していた
から,1審原告が,真実,湯浅通信機及びワールドシステム開発からソースコード
を取得していたのであれば,速やかに提出することが可能であったはずであって,
控訴審の段階に至って提出することは,明らかに時機に後れたものであるというほ
かない。
しかも,1審原告は,一部について,ROMから逆アセンブルしてソースコード
らしきものを作成したことを認めているのであるから,上記ソースコードは,1審
原告が作成したものである可能性があるし,甲289及び290は,湯浅通信機の
作成したプログラムの最終版とされるものであるから,1審原告が著作権の確認を
求めている本件プログラムのソースコードですらない。また,甲291及び292
が現に稼働している本件装置に格納されている本件プログラムである証拠もない。
イ以上からすると,甲289ないし292,さらに,甲294(甲291及び
292に基づく特徴表)については,民訴法157条により却下されるべきである。
なお,同様に,その余の主張立証(甲315)についても,時機に後れた攻撃防
御方法の提出であるというべきである。
〔1審原告の主張〕
争う。
2争点2(本件プログラムの著作権に係る確認請求の当否)について
(1)本件プログラムの著作物性について
〔1審原告の主張〕
ア1審原告は,本件プログラムの開発を湯浅通信機に担当させた。湯浅通信機
は,当初,ベーシックを用いてプログラムを開発していたが,本件装置の実験機開
発段階において,ベーシックでは処理速度等の理由により本件装置を的確に稼働さ
せることができないことが判明した。そのため,本番機用のプログラムについては,
アセンブリ言語を用いて作成し直すことになった。
イ本件プログラムの開発は,搬送コイルによる電磁波通信における信号の制御,
TC車における自己の車番を自動的に認識させる手法の開発等の点で困難を極めた。
製鉄所内には高圧電線や電波による様々なノイズが存在するため,これらのノイ
ズの影響を回避することが本件プログラムの開発における重要課題であり,湯浅通
信機は,何度も実験を重ねては,その都度通信の制御に係るプログラムを書き換え
て,送信されたデータの認識方法や動作の順番変更,タイミング調整等の変更を繰
り返したが,不具合は解消されなかった。
また,本件プログラムの最大の特徴は,DHL車にTC車が複数両一挙に連結さ
れた場合,何両のTC車が連結されたのかはDHL車にあらかじめ示されておらず,
かつ,各TC車の連結操作番号も決められていない状態から,DHL車の最寄り側
から順次整然と連結操作番号が決定される点にある。そのため,TC車のプログラ
ムにおいて,DHL車との連結完了を確認後,DHL車からの問合せに対して自己
の車番を自動的に認識した上でDHL車に報告するとともに自車のメモリに記憶す
るという動作を行わせる必要があるところ,この点のプログラミング及びそれに対
応するシステム構築が,本件装置の開発における最も困難な問題であった。特に,
実験機段階では2両のTC車の接続にすぎなかったが,本番機ではこれが6両に増
加するため,プログラミングの困難さは飛躍的に増大したものである。
湯浅通信機は,昭和60年4月ころから同年9月ころまでの間,1審原告ととも
に試行錯誤を重ねてプログラムの改良に努力したが,完成には至らなかった。甲2
89(DHL車用)及び290(TC車用)は,湯浅通信機が撤退時までに作成し
ていた未完成のプログラム(以下,1審原告の主張する,この段階におけるプログ
ラムを,便宜,「当初プログラム」という。)のソースコードである。
ウ1審原告は,湯浅通信機の撤退後,ワールドシステム開発という名称の技術
者集団に対し,当初プログラムを改良し,本件プログラムとして完成させることを
依頼した。ワールドシステム開発の技術者4名は,1審原告の指揮監督により,そ
の従業員に準じる立場で当初プログラムの改良に取り組み,遅くとも昭和61年3
月ころまでにはこれを完成させた。甲291(DHL車用。作成日昭和62年1月
ころ。なお,1審原告は,当初,証拠説明書において,作成日は昭和60年11月
30日であるとしていたが,後に訂正した。)及び292(TC車用。作成日平成
元年3月ころ)が,ワールドシステム開発が完成させた本件プログラムのソースコ
ードであるところ,当初プログラムは,ロードされるメモリ上のアドレス(番地)
が絶対的に定まったオブジェクト・プログラムを生成するアブソリュート・アセン
ブラを用いて作成されたものであるのに対し,本件プログラムでは,任意のアドレ
ス(番地)にロード可能な形式のオブジェクト・プログラムを生成するリロケータ
ブル・アセンブラを用いて作成されたものである。
本件プログラムは,車両の連結数や信号のやり取りの秒数制限等につきカウンタ
ー機能を採用しているものの,その他には多くの命令機能を有している。本件プロ
グラムは,搬送コイル方式を採用するなど,昭和60年当時としては画期的であっ
た本件装置を円滑に作動させることを目的として,新規に開発,作成されたプログ
ラムであるから,作成者によって表現が異なるものである。本件プログラムは,ジ
ャンプテーブルが少ないが,ジャンプテーブルの多少によってプログラムの独創性
の有無や程度を判断することはできない。
なお,1審被告らは,ワールドシステム開発の関与の事実はないなどと主張する
が,1審原告は,本件プログラムの開発当時,技術者に対する1審被告らの過剰な
干渉を避ける目的でワールドシステム開発の関与自体を1審被告らに秘匿していた。
エ本件プログラムの主要な特徴は,①DHL車にTC車が複数両一挙に連結さ
れた場合,当初は,何両のTC車が連結されたのかはDHL車にあらかじめ示され
ておらず,かつ各TC車の連結操作番号も決められていない状態から,DHL車の
最寄り側から順次整然と連結操作番号が決定される点,②連結解放時に,必ずしも
連結解放されるTC車の連結解放装置が作動するわけではなく,対向するTC車の
連結解放装置が作動することにより連結解放が行われる場合もあり,その選択・判
断は本件プログラムが行う点である。
本件装置は,任意のTC車を選択してその連結器を解放させたり,パーキングブ
レーキを緊締・緩解させる前提として,DHL車に連結されている各TC車に固有
の識別符号(連結操作番号)を付す方法を採用しているところ,本件プログラムに
よる処理は,以下のとおりとなる。
(ア)走行中のDHL車が新たなTC車に接近すると,当該TC車はDHL車の
発するML命令に対応して自己の車番を「00」として応答する。
(イ)接近してきたDHL車から発せられた通信キャリア(搬送波)を検出した
新たなTC車は,そのキャリアがいずれの方向から発せられたものであるかを確認
して,自車がDHL車から見て「F」側(前方)に位置するのか,それとも反対側
の「R」側(後方)に位置するのかを自ら判断し,自車のメモリに記憶する。
(ウ)新たなTC車がDHL車に連結されると,DHL車のプログラムは「MF
命令」と称する命令(連結器のピンが降りることにより確実に連結が完了したかど
うかを確認するよう指示する命令)を発し,連結完了を確認する。
(エ)MF命令により連結完了が確認されると新たなTC車は車番付けを受け得
る状態となるので,DHL車は当該TC車に対して「NL命令」と称する命令(T
C車の車番付けを命ずる命令)とその車両番号を発信して,新たに連結されたTC
車に車番を付していく。複数のTC車が同時に連結された場合には,連結された車
両台数と同数回この作業を繰り返し,全てのTC車に車番を付していくことになる。
そして,NL命令の発信から0.2秒以内にどのTC車からも応答がないと,D
HL車は全てのTC車への車番付けが完了したものと判断し,車番付け作業を終了
する。当該部分のプログラムは,DHL車の最終リスト036C番地から0388
番地までの12命令(甲188の1DHLフロー3中列上部が相当する)及び03
8B番地から03AC番地までの16命令(同フロー3中列中央部が相当する)に
より記述されている。
(オ)前記(エ)のDHL車のプログラムの動作に対応して,TC車のプログラム
は,DHL車との連結完了を確認後,自らを車番付けに対応できる状態とし,DH
L車からのNL命令によって自車の車番を「F1」(DHL車のF側の1番目),
「R2」(DHL車のR側2番目)等と認識した上で,正常に車番が付されたこと
をDHL車に報告するとともに,その車番を自車のメモリに記憶する作業を自動的
に行う。
TC車が行う上記車番付け作業の動作に関するプログラミング及びそれに対応す
るシステム構築をどのように行うかが本件装置の開発において最も困難な点であり,
湯浅通信機による開発段階では,その最終段階のプログラム(甲289,290)
においても当該部分の不具合が残り,結局,本件装置を安定的に稼働させることが
できなかった。1審原告は,湯浅通信機がプログラム開発から撤退後,ワールドシ
ステム開発にその完成を依頼した。そして,本件プログラムの開発を引き継いだワ
ールドシステム開発は,様々な試行錯誤を重ねて,苦労の末,最終的に本件プログ
ラムを完成させたものである。
1審原告は,本件プログラムの核心部分である上記TC車における車番付け作業
に係るシステムの内容を自社のノウハウとして秘匿し,これを管理している。当該
部分の命令は,TC車の最終リスト(甲292)の0104番地から01F6番地
までに記述されているところ,上記ノウハウに係る非公知性及び秘密管理性を確保
する必要があるため,当該部分については開示しない。
本件装置は,当時,特許権を取得できるほどに新規で進歩性を有する画期的な技
術であった。全く新規な機能を有する本件装置を稼働させるための本件プログラム
を,他の既存のプログラムの表現を模倣することにより作成することができないの
は当然である。特に,上記中核部分であるTC車の車番付けを行わせる部分は,本
件プログラムが有する多数の機能のうち最重要部分を実現するもので,新規のアイ
デアに基づき全くのゼロから開発されたものである。当該部分を構成する各パート
は,それぞれ数十から百数十もの命令数により記述されている上,多数のサブルー
チンを用いた構成となっているから,このような複雑なプログラムにつき,その表
現(どのような命令をどのように組み合わせるか,どのような順序で命令を記述す
るか,どのようなサブルーチンを設けるか等)が1つ又は極めて限定された数しか
なかったり,だれが記述しても大同小異のものとなったりすることは到底あり得な
い。しかも,本件プログラムには,上記部分以外にも,他に多数の機能を実現する
ための部分が存在するのであり,それらが互いに有機的に組み合わされてひとまと
まりのプログラムとなっているのである。
したがって,本件プログラムは,本来そのソースコードの詳細な検討を行うまで
もなく,著作権の保護を受けるプログラムの著作物に該当することは明らかである。
オ当初プログラムは,本件装置の全てを安定的に稼働させる程度には至ってい
なかったものの,電子計算機を機能させて1つの結果を得ることができるように指
令を組み合わせたものであって,著作者である湯浅通信機の思想感情を創作的に表
現したものであるから,それ自体1個の独立したプログラムの著作物である。
そして,本件プログラムは,当初プログラムに依拠し,かつ,その表現上の本質
的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新た
に思想又は感情を創作的に表現することにより作成された,これに接する者が当初
プログラムの表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である
から,当初プログラムを原著作物とする2次的著作物に該当する。
本件装置のシステムの核心部に当たるTC車に自動的に車番付けをさせるプログ
ラム部分について,1審原告は,その内容をここで具体的に明らかにすることはで
きないが,ワールドシステム開発は,湯浅通信機が作成した当初プログラムを変
更・修正することにより,当初プログラムでは不可能であった機能を実現させたの
であるから,そのプログラムの変更行為に創作性が認められるのは当然である。
そして,単純に変更された部分のプログラムの分量だけで比較しても,上記変更
部分が含まれる本件プログラムの「LINKCAR」と名付けられたプログラム
部分は,当初プログラム(甲290)において01AA番地から0264番地まで
の78行で記述されているのに対し,本件プログラム(甲292)においては00
F7番地から0317番地までの271行(約3.5倍)の分量を費やして記述さ
れているのであるから,この部分についてワールドシステム開発のプログラム変更
行為に創作性があることを十分に推認することができる。
なお,甲291の一部は,平成10年ころに本件装置のリプレイスが検討された
際,1審原告が保有する本件プログラムのソースコードに欠落部分があったため,
当該部分のマシン語をROMから読み出して逆アセンブラする方法で解析し,作成
したものである。
カ以上からすると,本件プログラムに著作物性が認められることは明らかであ
る。
〔1審被告らの主張〕
ア1審原告は,本件プログラムの著作権者であることの確認を求めているので
あるから,その前提として,同プログラムの具体的な内容について特定して主張立
証する責任があることは明らかである。
しかしながら,1審原告は,機密保持を理由に,本件プログラムの最重要部分に
ついて主張立証しないのであるから,1審原告の当該確認請求はそのことのみをも
って棄却されるべきである。
イプログラムは表現の記号が限定され,言語体系も厳格であり,電子計算機を
経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組合せの選択が限定されるため,
特定の機能を果たすプログラムの記述は類似する傾向にある。特に,産業用プログ
ラムは,装置の仕様,システム,運転方案,使用環境等,プログラム作成者の知的
活動外の条件から経済性・合理性を追求して作成されるものであるから,非常識に
合理性を無視して作成しない限り,同一又は類似するものになりやすい。
したがって,産業用プログラムについて安易に著作物性を認めると,プログラム
が果たす機能やアイデアを保護・独占させる結果を招くおそれがあるため,プログ
ラムの著作物性は,プログラムの具体的記述を観察し,「選択を容れる余地があ
る」のみならず,現に著作権法による保護を与えるに足る積極的な創作的活動が加
えられたことを主張立証する必要がある。
ウ本件プログラムは,フローチャート(丙5)に基づいて作成されたZ80と
いう型式のCPU用のプログラムであるところ,1審原告が開示した部分でさえ,
単純なカウンター機能しか用いておらず,ジャンプテーブルも小さく,複雑なもの
ではないから,Z80のプログラミングに慣れた者が当該フローチャートに基づい
てプログラムを作成すれば,本件プログラムと同様のプログラムは十分作成可能で
ある。しかも,本件プログラムは,規模も小さく,その作成に多大な労力を要する
ようなものでもない。
仮に,甲291及び292を民訴法157条により却下し得ないとしても,本件
で確認の対象とされるプログラムは,「トレックス-PB装置(混銑車自動停留ブ
レーキ及び連結解放装置)のうち,ディーゼル機関車(DHL)及び貨車(TC
車)の各主制御装置に格納されたプログラム一式」であるから,それ自体では本件
装置を動かすことができない不完全なプログラムにすぎない甲291及び292に
基づいて,本件プログラムの著作物性を認定することはできない。
しかも,本件プログラムは,①CPUに行わせる動作が単純である,②当該動作
は1審被告らが定めた運転方案に決められている,③シーケンシャル型の産業用プ
ログラムで単純なカウンター機能しか用いておらず,ジャンプテーブルも小さく,
意図的に不必要なことをしない限り指令の組合せの表現方法も限られたものになる
にすぎず,到底,創作性を認めることができるものではない。1審原告も,1審被
告らから,当該プログラムは「ごくありふれた表現」を用いたものにすぎないと指
摘されながらも,創作性について具体的な主張をしない。
原判決は,プログラムの行う作業自体が複数あり,段階・順序を踏んでいること,
作業の方法が新規なものであること,ソースコードの行数が多いこと,フローチャ
ートの表現自体に新規性があること,フローチャートの分量が多いことなどを理由
として,本件プログラムの創作性を認めたが,これらはいずれもプログラムの創作
性を認める根拠となるものではない。
エ以上からすると,本件プログラムは,厳格なコンピュータープログラム体系
(文法)下にコンピューターを機能させて一定の効果を得る必然的な指令の組合せ
を超えると認められるような高度の創作性を有するものではなく,著作物性を認め
ることはできない。
(2)本件プログラムの著作権の帰すうについて
〔1審原告の主張〕
ア当初プログラムについて
(ア)湯浅通信機の従業員Mらは,同社の発意に基づき,同社の職務として,
昭和60年9月ころに当初プログラムを作成したところ,これを公表するとすれば
同社名義による公表が予定されていたものであるから,同社は,当初プログラムの
著作者であり,著作権者でもある(昭和60年6月14日法律第62号による改正
前の著作権法15条)。
1審原告は,湯浅通信機との間で,当初プログラムの著作権の譲渡に関し,昭和
60年2月25日付け,同年11月15日付け及び昭和61年3月3日付けの3通
の契約書(甲115,214,252)を締結した。これらの契約書には,いずれ
も湯浅通信機が1審原告に対して当初プログラムの著作権を譲渡する旨が明記され
ている。各契約書に押捺された湯浅通信機代表者の印影は全て同社の真正な印章に
より顕出されたものであって,これらはいずれもその契約年月日の記載の日に真正
に成立したものということができる。
そして,当初プログラムの著作権譲渡の効果は,1審原告が湯浅通信機に対して
著作権譲渡の対価を支払った後記昭和60年11月15日に発生したものと解すべ
きである。
(イ)1審原告は,湯浅通信機に対し,完成したプログラムの納入後に代金を一
括支払する予定であったが,I専務から,昭和60年1月中旬ころ,本件プログラ
ムの開発は当初予測していたよりも相当困難であり,完成までにはかなりの時間を
要するから,プログラム開発作業の人件費を2,3か月毎に支払ってほしいとの要
請を受けたため,本件プログラムの開発費として,開発作業を担当した湯浅通信機
の従業員の人件費等について,湯浅通信機から提出される日報に基づき,2,3か
月分ずつ支払うこととした。
1審原告は,湯浅通信機が本件プログラムの開発に携わった昭和59年5月から
昭和60年11月10日までの約1年6か月間において,同社が行った本件プログ
ラムの開発作業の対価及び当初プログラムの著作権譲渡の対価の合計額として,5
986万円を支払っている。
なお,値引き前の当初請求額6182万2074円の内訳は,以下のとおりであ
る(甲288)。
a実験機用ソフト設計開発・作成に関連する各事前調査等に要した人件費等
合計885万8969円
b実験機用ソフト設計開発・作成関連部門合計521万2000円
c本番機用ソフト設計開発・作成関連部門合計2396万8200円
d本番機用原型ソフトによる現地川鉄構内での実車確認テスト及びソフトが完
全に作動しない各種異常調査関係部門合計585万4405円
e各測定機器類レンタル料合計197万8500円
fソフトの動作説明書原稿作成費合計53万2000円
g本件原型ソフト関係の全てを譲渡する対価合計1150万円
イ本件プログラムについて
ワールドシステム開発の技術者4名は,1審原告の発意に基づき,その従業員に
準じる立場で,1審原告の職務として当初プログラムの修正・変更作業を行い,遅
くとも昭和61年3月ころまでに最終的に当初プログラムを原著作物とする2次的
著作物である本件プログラムを完成させた。1審原告は,その対価として,合計1
537万8000円を支払った。
したがって,1審原告は,2次的著作物としての本件プログラムの著作権を原始
取得したものである(著作権法15条2項)。
なお,1審原告は,本件プログラムの開発において,事前調査,テスト運転への
立会など,全ての過程に関与しており,その人件費は合計1611万6413円に
も及ぶものである。
ウ小括
以上からすると,1審原告は,湯浅通信機から当初プログラムの著作権を譲り受
けた上,ワールドシステム開発の技術者に1審原告の職務としてその修正・変更作
業を行わせ,本件プログラムを完成させたものである。
よって,本件プログラムは,当初プログラムの2次的著作物に該当するものであ
るから,本件プログラムの著作権及びその原著作物である当初プログラムの著作権
(著作権法28条)は,いずれも1審原告に帰属するものである。
仮に,本件プログラムが当初プログラムの複製物にすぎないとしても,当初プロ
グラムの著作権が1審原告に帰属するものである以上,結論に相違はない。
なお,1審被告らは,湯浅通信機から当初プログラムの著作権を譲渡されていな
いし,湯浅通信機,1審原告,1審被告ら,JFE電制において,本件プログラム
の著作権を準共有とする合意をしたこともない。1審被告らは,本件装置の本番機
納入直前に,1審原告が提出した納入仕様書によって,本件プログラムにZ80と
いうCPUを使用していることを知ったほどである。1審原告は,本件装置に関す
る知的財産について,全て1審被告らに取得されてしまう状況であったことから,
せめて本件プログラムの著作権は確保しようと考えていた。1審原告は,昭和61
年1月20日,本件装置のCPUに納入日を記載した著作権シールを貼付したが,
これは,1審原告がそのころから本件プログラムの著作権の帰属について意識して
いたことを裏付けるものである。
〔1審被告らの主張〕
ア本件プログラムについて
(ア)1審原告及び湯浅通信機は,昭和60年2月付けで,本件装置の技術に関
する発明考案等に係る工業所有権を出願する権利は,原則として1審被告物流に帰
属することを承認し,その承諾を得ることなく各社名義で出願しないこと,当該技
術に関する技術上の知識については堅く機密を保持すること,その他当該技術に関
し1審被告物流が不利になるような行為をしないこと,製作,工事及び技術協力を
他のメーカーに依頼する場合は1審被告物流の承認を得ること,当該誓約に違反し
た場合には一切の責任を負担することを内容とする誓約書を作成し,1審被告物流
に提出した。
湯浅通信機は,その上で,開発構想を策定し,引き続き動作実験を繰り返しなが
ら社内討議を重ねてシステム設計と機器設計を進め,Mが本件プログラムを職務
上作成するようになった。湯浅通信機では,昭和60年4月ころから,Kが担当
して機器の製作を行い,プログラムを組み込んで,同年5月中旬ころには実験機の
制御装置の納入を完了した。本件装置については,実機テスト等が行われたが,本
件プログラムの開発において問題となったのは,専ら製鉄所構内で不可避的に発生
する電磁波ノイズによる障害であって,本件プログラム自体の問題点が指摘される
ことはなかった。そのため,当該課題は,本件プログラムの修正・変更によってで
はなく,電波信号の電磁誘導コイルへの到達を阻害するノイズ対策として,電磁コ
イルのシールドを物理的に強化するというハードの改良により解決されたものであ
り,本件プログラムに対しては,ノイズ対策のための微修正等が加えられることは
あったが,1審原告が指摘するような,湯浅通信機による開発が頓挫し,ワールド
システム開発が6か月もの時間を掛けて修正するような事情は生じなかった。実際,
本件装置開発の全期間を通じて,湯浅通信機以外のプログラム開発業者が1審被告
スチールの水島製鉄所構内に入ったことはなく,また,1審被告ら及び湯浅通信機
のいずれの関係者も,1審原告からそのような業者の紹介を受けたこともない。
なお,1審原告は,1審被告らに対し,本件装置の開発費及び本件プログラムの
開発・制作費用の内訳,詳細を明らかにしたことはなかった。本件装置の開発に関
与したI専務,K,L,Mらは,開発期間中,これに専従していたわけではない。
本件プログラムの開発費(フローチャートの作成など付随する作業の費用も含
む。)としては,湯浅通信機に入社後2,3年程度しか経過していないMの約3
か月分の人件費相当額程度(約100万円)にすぎず,湯浅通信機は,5台の実験
機の製作代金として支払われた900万円の中に含めて,既に回収済みである。
(イ)1審原告は,本件プログラムの開発は困難なものであり,開発費として,
湯浅通信機に対して約6000万円を支払ったのみならず,ワールドシステム開発
に対する依頼を余儀なくされ,さらに数千万円単位の支払をしたなどと主張する。
しかしながら,実験機用の簡易ソフトなるものの存在及びその具体的な内容,ワ
ールドシステム開発が完成させたという本件プログラムの該当部分についての具体
的な主張立証は全くされていないし,ワールドシステム開発なるソフト開発グルー
プは,その存在自体認めることはできない。実際,昭和60年10月以降も,湯浅
通信機が本件プログラムを含めた本件装置の開発を継続し,メンテナンスも引き続
き担当していた。1審原告は,開発費に関する領収書や請求書は残存していないと
説明し,本件訴訟においても,原審では,文書として提出しておらず,控訴審に至
って,突如として,その一部を提出したが,写しにすぎない議事録等の関連資料や
記録については完璧に保存していることと比較すると,明らかに不自然である。
なお,1審原告は,本件プログラムの使用料に関し,1審被告らと交渉を開始し
た当初,複数の「ソフトハウス」の関与により,多額の費用を要したと強調してお
り,ワールドシステム開発1社のみが関与したとは説明していなかった。
(ウ)本件プログラムは,遅くとも昭和60年10月までに完成し,その後は利
便性向上のための改良が行われていたが,ワールドシステム開発の関与を必要とす
る事情をうかがわせる証拠はない。I専務,Lのいずれもワールドシステム開発の
メンバーに会ったことも,業務場所も,名称すら知らない。発注者であるはずの1
審原告の代表者でさえ,業務場所に関しては岡山の知人宅というだけで具体的な場
所を確認していない。携帯電話のなかった昭和60年ないし61年において,本件
プログラムの完成が急がれていた状況で,ワールドシステム開発からの連絡を待つ
しかないという開発状況は,関与形態として明らかに不合理である。特に,本件プ
ログラムの開発(不具合の解消)には,本件装置が稼働する現場を知り,テストに
立ち会うことなどが不可欠であるが,ワールドシステム開発について,このような
事実がないことに争いはない。1審原告は,ワールドシステム開発は現場に入るこ
とを求められれば受託しないと述べたなどと主張するが,明らかに不自然である。
しかも,1審被告らは,本件訴訟に至るまで,ワールドシステム開発の名称を全く
聞いたことがなかった。仮に,1審原告主張のとおり,湯浅通信機によるプログラ
ム制作が不可能となったとしても,1審原告が1審被告らに湯浅通信機の撤退・ワ
ールドシステム開発の参加を秘匿する理由は全くない。
イ本件プログラムの改変について
(ア)1審原告がワールドシステム開発において作成したと主張する甲291及
び292は,先に述べたとおり,極めて単純なプログラムであって,創作性を有す
るものではない。
(イ)「SOSUBルーチン」について加えられた改変も,CPUの仕様という
外的な要因により当然必要とされたもので,8080用ニーモニックをZ80用ニ
ーモニックに変えたのみであり,機械語のレベルでは命令の構成・記述の順序は全
く同一であるし,両ニーモニックの間には1対1の対応関係があり,その変換はだ
れが行っても同じものになる。
(ウ)1審原告は,ワールドシステム開発が開発したソースコードとして,甲2
91及び292を提出するが,これらのソースコードも湯浅通信機が作成(改訂)
したものである。
すなわち,甲291(作成日昭和60年11月30日)は,本件プログラムのD
HL車用のバージョン4のソースコードであるところ,湯浅通信機が開発した当初
プログラムのDHL車用原型ソフトのソースコードであるとして1審原告が提出し
た甲289はバージョン3であるが,その作成日は同年12月とされているから,
作成日に関し,明らかな矛盾がある。また,1審原告がワールドシステム開発に費
用を支払った証拠であるとする甲286の1ないし7の報告書には,本件プログラ
ムの修正(改訂)作業の開始日が同年10月25日とされているが,そうであるな
らば,1審原告が開発の困難性を強調する本件プログラムの改訂作業がわずか1か
月で終了しながら,ワールドシステム開発は,その後5か月間(昭和61年4月2
0日まで)にもわたって,合計1285万8000円もの費用を1審原告に請求し,
1審原告もその支払に応じたことになる。
しかし,その後の昭和61年11月20日の時点でも,本件プログラムはバージ
ョン3の段階に留まっており,バージョン4が存在しなかったことは明らかである。
湯浅通信機は,本件装置の稼働後も引き続き1審原告経由でメンテナンスを請け負
っており,同年12月21日ころ,DHL車用のプログラムのバージョン4を作成
したものである。
甲292についても,1審原告は,ワールドシステム開発が平成元年3月ころ作
成したものであるとするが,ワールドシステム開発が本件プログラムの修正(変
更)の業務に従事したとされる期間は,昭和60年10月から昭和61年4月まで
であるとする従前の説明と明らかに矛盾する。しかも,ワールドシステム開発は,
昭和61年4月に完了したという本件プログラムの修正(変更)後,1審原告との
接触は全くなく,そのため,平成5年に至って,1審原告が甲116に収入印紙を
貼付してワールドシステム開発の消印を得ようとした際も,接触の手掛りはわずか
に代表者Wの昭和60年当時の大阪の電話番号のみであったというのであるから,
ワールドシステム開発が本件プログラムを改訂した事実を認めることはできない。
ウ本件プログラムの著作権の帰属について
(ア)本件プログラムの作成当時(昭和60年ないし61年),プログラムにつ
いて著作権が成立し,法的保護が与えられるということは,一般的に理解されてい
なかった。
プログラムの法的保護については,昭和58年ころから昭和60年初めころまで,
これを著作権法の改正によって実現すべきと主張する文化庁とこれを新法(プログ
ラム保護法)の立法によってすべきと主張する通商産業省との間で,業界と日米両
国を巻き込んだ激しい論争があり,昭和60年3月に至り,両省庁の間で著作権法
の改正により対応することが合意され,同年4月11日に内閣より国会に法案が提
出され,同年6月7日に参議院本会議にて可決,成立したものである(昭和60年
6月14日法律第62号による改正著作権法。以下「改正後著作権法」という。)。
実際に,本件装置開発に関与した1審被告らにおいても,湯浅通信機においても,
プログラムの著作権という概念は特に意識していなかった。
改正後著作権法が施行されたのは昭和61年1月1日であるから,本件プログラ
ムの開発当時,その著作権の帰属が意識されなかったのはむしろ当然であるし,著
作権を譲り受けたと主張する1審原告すら,平成14年2月21日に至って登録を
行ったものであるから,1審原告も本件プログラムについて著作権が成立するとい
う意識を有していなかったというべきである。
したがって,本件プログラムに著作物性が認められるとしても,その著作権は,
特に意識されずに,本件装置の所有権とともに1審被告スチールに移転したとみる
のが自然であって,1審被告スチールに帰属している。
(イ)仮に,本件プログラムの著作権が意識されていたとすれば,その著作権は
湯浅通信機に帰属しているというべきである。
すなわち,本件プログラムは,前記のとおり,湯浅通信機のMが,同社の発意
に基づき,本件装置を制御するプログラムとして職務上作成したものである。そし
て,本件プログラムは,基本的に,湯浅通信機のみが,1審被告ら及び1審原告と
の間の共同開発業務として作成したものであって,ワールドシステム開発などと称
する実体不明のプログラム開発グループなどといった他の開発業者が関与した事実
はない。
そして,湯浅通信機は,当初プログラム及び本件プログラムの著作権を1審原告
に譲渡していないのであるから,1審原告が本件プログラムの著作権を有するもの
ではないことは明らかである。
1審原告は,本件プログラム開発の困難性を強調し,当初プログラムが不完全,
未完成であったからこそ,ワールドシステム開発に委託したと主張しているが,当
初プログラムが不完全,未完成であったならば,当初プログラムの複製物が本件プ
ログラムであるはずがないのであるから,1審原告の主張は矛盾したものというほ
かない。
仮に,本件プログラムが当初プログラムの2次的著作物であったとしても,ワー
ルドシステム開発が関与した事実自体,認めることはできないし,1審原告は湯浅
通信機から当初プログラムについて著作権法28条の権利を譲り受けていない(同
法61条2項)から,1審原告が主張する湯浅通信機との著作権譲渡契約だけでは
2次的著作物たる本件プログラムの著作権を取得しない。
したがって,本件プログラムの著作権が1審被告スチールに移転していないとす
れば,その著作権は湯浅通信機に帰属していることになる。
(ウ)1審原告は,本件プログラムが当初プログラムの2次著作物であるとして,
その著作権が1審原告に帰属すると主張するが,ワールドシステム開発と1審原告
との間には指揮監督関係がなく,業務従事性を認めることができないから,職務著
作に該当するものではない。
ワールドシステム開発は,業務従事場所の指定を拒否しており,しかも,1審原
告はその業務場所を具体的に把握していないのであるから,昭和60年当時の通信
技術では業務の指揮監督などそもそも不可能である。
したがって,1審原告が当初プログラムの改良によって本件プログムラムの著作
権を取得する前提がなく,著作権が1審原告に帰属しているという1審原告の主張
は失当である。
(エ)なお,仮に,湯浅通信機が1審原告に対して本件プログラムの著作権を譲
渡したとしても,本件装置に係る特許権及び実用新案権について,製作に関与した
1審被告ら,JFE電制及び1審原告の4社が共有し,その旨共同登録した取扱い
と同様,開発に関与したこれら5社(湯浅通信機,1審被告ら,JFE電制及び1
審原告)間で,著作権を準共有するとの了解が,昭和61年2月の納入直前の時期
において,黙示的に成立していたものと解すべきであるから,本件プログラムにつ
いて,1審原告に単独の著作権が認められる余地はないというべきである。
(3)1審被告らに対する対抗要件の要否について
〔1審被告らの主張〕
ア著作権を第三者に主張するためには,対抗要件としての登録が必要である
(著作権法77条1号)。
イ1審被告らは,1審原告が対抗要件を欠くことを主張できる法律上の利害関
係を有する第三者である。
すなわち,1審被告物流は,本件装置と一体となった本件プログラムを記憶した
記憶装置(複製物)を,本件プログラムを作成した湯浅通信機及び1審原告の完全
な承諾・了解の下に1審原告から引き渡しを受け,適法に取得しているから,その
関係は,不動産賃貸借における賃貸人から賃借人に対して賃貸借契約の終了を主張
する関係に類似するものであって,同様に,対抗要件が必要であると解すべきであ
る。
また,1審被告スチールは,本件プログラムの複製物の所有権を有しているから,
同所有権に基づき,第三者に使用料を支払うことなく自由に本件プログラムの複製
物を使用できる地位にある。
1審原告の請求は,使用料を支払う義務のない1審被告らに対して使用料の支払
を求めるものであるから,1審被告らは,1審原告が本件プログラムの複製物の使
用料を請求できる正当な権利者であるか否かについて確知する必要がある。1審被
告らが1審原告に使用料を支払った後,真実の権利者から不当利得返還請求等を受
けた場合,1審原告に対する不当利得返還請求といった迂遠な方法による解決を強
制される可能性があり,1審原告の支払能力によっては,1審被告らに経済的不公
平を甘受させる危険がある。不動産賃貸借における賃貸人は,所有権の移転ないし
賃貸人たる地位の移転について,賃借人の正当な利益(賃料の二重払回避)のため
に,登記を具備する必要があると解されている。本件においても,1審被告らの正
当な利益を保護するために,対抗要件が必要であると解すべきである。
ウしたがって,1審原告は,湯浅通信機から本件プログラムの著作権の譲渡を
受けたとしても,その旨の登録を具備していない以上,1審被告らにこれを対抗す
ることはできない。
〔1審原告の主張〕
著作権法77条の「第三者」とは,登録の欠缺を主張するにつき正当の利益を有
する者をいうのであり,単に著作権の帰属を争っていたり,著作物の複製物を使用
し,又は使用料の請求を受けたりしているだけの者がこれに当たらないことは明ら
かである。
したがって,1審被告らの対抗要件欠缺に係る主張は失当である。
(4)1審原告の著作権の主張と信義則違反の成否について
〔1審被告らの主張〕
1審原告は,当初プログラムの著作権を湯浅通信機から譲り受けていない。仮に,
湯浅通信機と1審原告との間の著作権譲渡契約が有効に成立していたとしても,契
約書には著作権法27条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないので,
同条の権利は湯浅通信機に留保されているものである(著作権法61条2項)。
したがって,1審原告が当初プログラムの改変行為により2次的著作物たる本件
プログラムの著作権を取得したとしても,それは湯浅通信機の著作権及び著作者人
格権を違法に侵害した結果によるものにすぎない。
違法な行為により権利を取得した者が第三者にその権利を主張することは,クリ
ーン・ハンズの原則に反し,許されない。
〔1審原告の主張〕
否認ないし争う。
湯浅通信機は,1審原告が,当初プログラムの不具合を解消する目的で,当初プ
ログラムに必要な修正を加えることにつき承諾していたものというべきである。1
審原告が湯浅通信機の著作権及び著作者人格権を違法に侵害したものではない。
3争点3(本件プログラムの著作権に係る金銭請求の当否)について
(1)使用料支払契約の成否(1審被告らに対する主位的請求・1審被告スチー
ルに対する予備的請求1・1審被告物流に対する予備的請求)について
〔1審原告の主張〕
ア使用料支払契約の成立経緯について
(ア)本件装置の開発は,当初,予算の上限を定めない方針で開始されたところ,
1審被告らの要求に応じるうちに本件プログラムは当初の予想よりも大規模なもの
となり,昭和60年6月には,本件装置の開発について1審被告らが計上している
予算額では本件プログラムの開発費が不足することが明らかとなった。
そこで,1審被告らは,同年8月19日,本件装置の購入に関し,以下の内容で
1審被告ら内部の決裁手続を行った(甲119)。
a本件装置の購入は,1審原告がJFE電制に納入し,JFE電制から1審被
告スチールに納入するという商流で行う。
b本件装置は1審被告スチールの予算で購入するが,1審被告物流が価格交
渉・納入スケジュール等の交渉を代行する。
c本件装置のソフトが予想を上回る大規模なものとなり,期限までに見積書を
提出させることが無理な状況である上,プログラム開発費が予算額を超えるため,
1審原告にはソフトに関する諸費用(本件プログラムの開発費等)を除外した見積
書を提出させる。
d見積書から除外させたソフトに関する諸費用については,プログラム使用料
を(代替措置にて)支払うという方法によることで1審原告を納得させる。
eその上で,約5年ないし7年後に予定される制御装置のリプレイス時にソフ
トに関する費用の問題の根本的解決を図ることにする。
(イ)1審被告らは,このような内部決裁に基づいて,昭和60年8月27日,
1審原告に対し,プログラム制作費を一括で支払うことができないことから,本件
プログラム開発の対価の支払につき,以下の方法(本件5項目の代替措置)により
支払うことを提案した。なお,1審被告らは,この方法は,関係各部署において調
整済みであるが,1審原告がこれに応じない場合は,本件装置の開発費全体の支払
が大幅に遅れることになると説明した。
a1審原告と1審被告スチールとが外注契約を締結した上で,1審被告スチー
ルから1審原告に対し,1審被告物流の下請として,本件装置の常駐体制によるメ
ンテナンス業務を発注する。
b上記aの外注契約を締結すれば,1審被告スチールから成果還元金の支給を
受けることができる。
c本件装置の故障品のメンテナンスにつき,JFE電制を経由して全て1審原
告に発注する。
d1審被告物流の起重機部門からも1審原告に対し相当額の発注をするよう配
慮する。
e予定している1審被告物流の省力化のための設備投資の際,1審原告に相当
額の発注をする。
(ウ)1審原告は,本件5項目の代替措置によってどの程度の使用料を回収でき
るか不明であり,不満ではあったものの,開発費全体の支払が遅れることを危惧し,
上記方法により相当額がクリアできるまでは我慢するという趣旨の回答をした。
(エ)1審被告物流は,昭和62年1月13日,本件プログラム開発の対価につ
き,本件5項目の代替措置を用いることに対する1審被告スチールの理解を得るた
め,以下の報告を行い,改めて1審被告ら内部において承認決裁された。
a本件装置は,1審被告スチールの設備投資物件であり,要求元は1審被告ス
チール製鋼部であったが,予算執行の所管課を1審被告物流の監督部課である運管
課とした。
b本件装置は,運管課が1審被告物流に購買代行依頼を行ったが,その対価支
払を1審被告物流が1審原告に使用料を支払う方法で行うことにつき,すでに運管
課の承認決裁がある。
c1審被告物流は,1審被告スチールから支払われる成果還元金又は作請単価
見直し分の金額から使用料を支払うことになるので,実質的には1審被告スチール
が使用料を支払うことになる。
d本件5項目の代替措置によるソフト使用料の支払という異例の処理を長期間
続けるのは好ましくないので,5ないし7年後に予定される本件装置の制御部分の
リプレイス時に,ソフトの対価に関する問題を根本的に解決すべきである。
(オ)本件プログラム開発の対価につき使用料支払の形式をとり,その履行につ
き本件5項目の代替措置を講じる方法によるという内容の使用料支払契約は,1審
被告ら内部の決裁手続により意思決定がされ,これに基づき1審被告らから1審原
告に提案され,1審原告が最終的にこれに応諾したことによって成立し,1審被告
ら内部における事後的な再確認もされている。
イ使用料支払契約の内容について
(ア)前記使用料支払契約は,開発協議の場においてされた口頭の合意であり,
その具体的内容及び法律構成は双方が内容を承認した上で作成した本件議事録等に
記載されているところ,a本件装置が1審被告スチールの予算で購入されること,
b1審被告物流が価格交渉,納入スケジュール等の交渉を代行していること,c
本件5項目の代替措置実施のために1審原告と1審被告スチールとの間で直接の外
注契約の締結が予定されていること(実際には,1審被告らの都合により,1審被
告物流との間で締結することになった。),d本件5項目の代替措置は1審被告
物流の下請の形式で1審被告物流から講じられること,e使用料支払契約の内容
は1審被告物流において発案し,その後1審被告ら内部における事前及び事後の決
裁を得たものであること等の事情からすると,その内容については,1審原告と1
審被告スチールとの本件装置の購買業務を自ら担当し,1審被告スチールの代理人
でもある1審被告物流との間で,1審原告が1審被告スチールに本件プログラムの
使用を許諾し,その対価として1審被告らがそれぞれ1審原告に相当額の使用料支
払義務を負う旨を約定した上で,その履行については本件5項目の代替措置による
ものであり,同措置により使用料に相当する経済的利益が現実に供与されている限
り使用料を請求しないが,同措置が履行されなくなった場合には,1審被告らは,
1審原告に対し,相当額の使用料を支払うという合意をしたものと解するのが最も
合理的かつ自然な解釈である。
したがって,1審原告は,主位的主張として,昭和60年8月27日,1審被告
スチールの代理人であった1審被告物流との間で,本件プログラムの業務上の使用
について,上記合意が成立した旨(1審被告らに対する主位的請求に係る使用料支
払契約。以下「本件使用料支払契約1」という。)を主張するものである。
なお,上記合意が成立した昭和60年8月時点では,1審原告は,次々に生じる
トラブルの対応に追われており,本件プログラム完成のめどが立っていなかったの
であるから,到底,本件プログラムの具体的な使用料額を確定できるような状況で
はなかったものである。もっとも,当時,1審被告らの取引先には,本件装置のよ
うな無線通信設備を得意とする業者はほとんど存在せず,当該分野の業務は1審原
告の強みとなっていたから,1審原告が1審被告らから受注した他の通信システム
の受注における粗利率は約100ないし150%であった。したがって,本件プロ
グラムの開発費としては,原価額9135万円に100%強の粗利を付加した約2
億円前後の請求となったものと思われる。
(イ)仮に,本件使用料支払契約1の成立が認められなかったとしても,1審原
告は,昭和61年3月ころ,1審被告スチールの代理人であった1審被告物流との
間で,又は直接1審被告スチールとの間で,1審被告スチールの本件プログラムの
使用につき,1審被告スチールは1審原告に対し,相当額の使用料を支払うとの合
意をしたもの(1審被告スチールに対する予備的請求1に係る使用料支払契約。以
下「本件使用料支払契約2」という。)というべきである。
また,1審原告は,昭和60年8月27日,1審被告物流との間で,1審被告ス
チールの本件プログラムの使用について,その使用料は本件5項目の代替措置を履
行することによって弁済することとし,同措置が履行されなくなった場合には,1
審被告物流が相当額の使用料を支払うことを合意したもの(1審被告物流に対する
予備的請求に係る第三者のためにする契約。以下「本件第三者のためにする契約」
といい,本件使用料支払契約1,同2と合わせて「本件使用料支払契約」とい
う。)というべきである。
1審原告は,昭和61年3月から同年6月までの間,本件プログラムの複製を含
む本件装置を1審被告スチールに納入し,1審被告スチールは,上記納入を受ける
ことにより,受益の意思表示をした。
(ウ)以上のとおり,1審原告は,本件使用料支払契約(本件使用料支払契約1
及び2,本件第三者のためにする契約)に基づいて,本件プログラムの使用料を1
審被告らに対して請求する。
なお,本件使用料支払契約は,1審被告らが,1審原告に対し,①本件プログラ
ムの開発・制作の対価につき,開発費ではなく,本件プログラムの使用料の形式で
支払うこと,②本件プログラムの使用料は,金銭ではなく,本件5項目の代替措置
を講じる方法で行う旨の提案をし,1審原告がこれを承諾したことにより成立した
契約である。
したがって,使用料支払合意の成立が認められれば,商行為の有償性(商法51
2条)により,1審原告は当然に相当額の使用料の支払を請求することができるも
のであるから,上記②の合意が成立したこと及びその履行の事実は,むしろ1審被
告らが主張立証すべき事項である。
ウ本件5項目の代替措置の履行について
1審被告物流は,本件使用料支払契約に沿って,平成元年9月1日,1審原告と
の間で作業外注基本契約書を取り交わし,設備投資物件の納入業者を1審原告に変
更するなどして本件5項目の代替措置の履行に努めたため,平成6年ころまで,1
審原告に対するメンテナンス業務,設備工事,物品の購入等の下請業務の取引発注
額は急増していた。同措置の履行としての下請業務の飛躍的増大は,その請負代金
に別途プログラム使用料が加算されたわけではないが,他の下請業者との間で受注
競争をしていた1審原告にとってはそれ自体が大きな利益であったため,1審被告
らが同措置の履行を行っていた期間,1審原告は1審被告らに対して本件プログラ
ムの使用料の支払を請求しなかった。もっとも,同措置の実施について契約書が作
成されていないため,その確実な履行に不安を抱いた1審原告は,平成3年ころか
ら1審被告らに対して,未精算の本件プログラムの開発費に係る問題につき抜本的
な解決を図ってほしい旨を再三にわたり申し入れていた。
しかしながら,1審被告らは,平成7年ころから急激に発注額を減少させ,平成
10年以降は,その取引額は本件装置の納入時ないし上記作業外注基本契約書を取
り交わす以前の水準まで低下しており,本件5項目の代替措置は,遅くとも平成1
0年12月末までには履行されなくなったものというべきである。
エ小括
以上からすると,1審原告は,本件使用料支払契約に基づき,1審被告らに対し,
本件プログラムの著作権に係る使用料を請求することができるというべきである。
なお,1審原告は,1審原告が本件プログラムの著作権を有することを前提とし
て,本件使用料支払契約が成立したと主張するものであって,1審原告が著作権を
有すると認められない場合についてもなお,1審被告らとの間に使用料支払に係る
合意が成立したとまで主張するものではない。
〔1審被告らの主張〕
ア本件使用料支払契約の成立経緯について
(ア)1審被告スチールは,1審被告物流やJFE電制に対し,使用料支払契約
締結について代理権を与えたことはない。本件装置は,1審原告からJFE電制,
1審被告物流へと順次納入されたものであり,1審被告スチールと1審原告との間
に直接の契約関係はなく,本件プログラムの使用料支払契約だけをわざわざ1審被
告スチールと1審原告との間で締結する理由はない。
1審原告も認めるとおり,1審原告は,1審被告スチールとの取引に必要な取引
口座の登録をしておらず,1審被告スチールの取引の相手方になることはできない。
1審被告物流は,1審被告スチールの物流を担う基幹的子会社であり,1審被告
スチールに物品を納入することが可能であるが,1審被告スチールの「購買代行制
度」は,1審被告スチールが購買交渉力の弱い子会社に代わって購買を行うための
制度であって,1審被告物流が1審被告スチールのために購買を代行することはあ
り得ない。
また,F及びGは,本件5項目の代替措置を定めたり,本件使用料支払契約を
締結する権限を有してはいなかったものである。
(イ)1審原告は,本件プログラムを開発する際,多額の費用を要したことを前
提として,本件使用料支払契約が成立したと主張するものであるが,本件プログラ
ムの開発に要した費用は,湯浅通信機におけるプログラム作成担当者であったM
の人件費である約100万円程度にすぎず,ワールドシステム開発なる実態不明の
グループの関与も認められないから,1審原告の主張は,その前提自体が誤りであ
る。
1審原告は,1審被告らに対し,本件装置の開発において,1審原告の受注額だ
けでも3億円をかなり超える金額になる見通しであるなどと説明したと主張するが,
真実,1審原告が1審被告らに対してそのような説明をしたのであれば,1審被告
らは,1審原告に対し,その内訳資料の提出を求めたはずである。その上で,本件
装置の開発費が1審被告らの定めた予算額を大幅に超えるような事態に至ったこと
が確認されれば,その超過額(1審原告の主張によれば,9000万円程度)を確
定した上で,増加した開発費を支出してでも本件装置の開発を継続するか否かにつ
いて検討し,継続する場合の支払方法について別途協議したはずである。
しかしながら,1審原告も自認するとおり,1審原告は,本件訴訟に至るまで,
開発費の超過額について1審被告らに明らかにしていないのであるから,1審原告
が主張する開発費(湯浅通信機関係約5986万円,ワールドシステム開発関係1
537万8000円,1審原告自身の1537万8000円)は,虚偽のものであ
るというほかない。
(ウ)1審原告は,昭和61年3月から同年6月まで,本件プログラムの複製を
含む本件装置を1審被告スチールに納入し,1審被告スチールは,昭和61年3月
ころから,本件プログラムを使用していることについて,当事者間に争いはない。
1審被告スチールの使用は,1審原告からJFE電制,1審被告物流を経て1審
被告スチールに納入された,著作権ないし本件プログラムの使用に係る必要な権利,
権限を何らの留保なく譲渡された,本件プログラム入りのロムを含む本件装置の適
法な取得に基づくものである。いずれにしても,当該使用は,適法な権原に基づい
てされているものであり,著作権の使用料なるものを支払わなければならないよう
なものではないことは明らかである。
しかも,本件装置は,あくまでも1審被告らの生産設備の一部を構成する,特殊
かつ特定された汎用性を有しないものであり,本件プログラムは本件装置を動かす
ための従たるものにすぎない。本件装置のハード本体自身の対価が,開発費に適正
な利益を加えた形の代金支払で処理されているにもかかわらず,本件プログラムの
場合だけ,これと異なる不合理かつ異常な代価を決定して支払うことはあり得ない。
(エ)1審原告は,本件装置の全代金として支払われた合計2億1027万60
27円の支払経緯について,偽造・変造された文書(甲29,30,57,60,
81,84,86)に基づいて,見積書や請求書には,「本件プログラム開発の対
価」や「ソフト制作の対価等」「CPU装置のソフトに関する諸費用及びソフト書
き込み部品(ロム)代金」が除外されていたなどと主張するが,そもそも1審原告
が多額の費用を負担し,湯浅通信機やワールドシステム開発から本件プログラムの
著作権を譲り受けたとの事実は存在しないから,1審原告の主張は失当である。
イ本件使用料支払契約の内容について
(ア)1審原告が主張する「相当額」を支払う旨の使用料支払契約は,およそ契
約が成立するために不可欠な要素を満たしていない。
本件プログラムについて,使用料支払契約(使用許諾契約)の成立を主張するの
であれば,プログラムの使用許諾に対して支払うべき対価の内容が具体的に主張さ
れなければならないことは当然である。1審原告は,1審被告スチールが本件装置
を使用することにより得た利益の25%について請求するのであるから,当該金額
について使用料支払合意の内容とされていなければならないはずであって,単に
「相当額」と合意したにすぎないのであれば,契約の要素が確定していないものと
いうほかない。
なお,商法512条は,有償契約の要素の欠如を補充する規定ではないし,本件
に関しては,「他人のために行為をしたとき」との要件を充足するものではないか
ら,適用の余地はない。
(イ)1審原告は,本件プログラムの開発が難航したことを契機として,本件装
置とは別途に開発費を使用料として支払う旨の合意に至ったと主張するが,先に述
べたとおり,本件プログラムの開発費は人件費約100万円程度にすぎないこと,
昭和60年6月ないし7月の段階において実機テストの不具合の原因は電磁波ノイ
ズと確定されており,ソフト面に問題はなく,本件プログラムの制作費が予算を大
幅に超えたという経緯は存在しないこと,ワールドシステム開発が本件プログラム
の開発に携わった事実がないこと,湯浅通信機,ワールドシステム開発に対する1
審原告の支出についての領収書及び請求書が原審において提出されなかったこと
(なお,1審原告は時間の経過により処分したと主張するが,本件議事録,用済み
の電話連絡票や借用証等は存在していることと矛盾するのみならず,控訴審に至っ
てワールドシステム開発によるとされる日報書や湯浅通信機の見積書等が提出され
た経緯は明らかに不自然である。),1審原告の開発費約1500万円はそのほと
んどが人件費であるところ,プログラム制作に関与した従業員はおらず,代表者の
休日時間外などの不自然な集計がされ,プログラム制作以外の作業との区別もされ
ていないなど,算出の根拠に合理性がないことなどからすると,開発が難航した事
実自体,認めることができない。
(ウ)あるプログラムによる制御下で稼働する装置全体を購入した場合,装置全
体からプログラムのみを分離して使用の対価を別途支払うというのは極めて特異な
契約である。特に,プログラムに関する権利が不確実であった昭和60年代におい
ては,プログラムに著作権が発生すること自体,一般に周知されておらず,当事者
双方においてもこのような認識はなかったものである。
仮に,1審原告主張のとおりプログラムの開発費が確定しなかったとしても,そ
の確定を待って「制作費」を一括又は分割の後払にすれば足りるものであり,「制
作費」を「使用料」に変更してプログラムを使用する限り金銭を支払う旨の合意を
する理由はない。汎用性のない本件プログラムは,制作依頼者以外からの対価は見
込めないのであるから,1審原告の主張する本件プログラム「使用料」の実質は
「制作費」にすぎないところ,既に本件装置の費用に含まれて支払済みである。
(エ)しかも,プログラム使用料を決定する時点においては当該プログラムがど
の程度の利益を生むのか不明である以上,これを使用料の基準とすることはない。
特に巨大な設備を持つ1審被告スチールの場合,本件プログラムの使用により生じ
た利益を抽出することは困難である。仮に,使用による利益に基づいて使用料を算
定するのであれば,利益額をどのようにして把握するかを含め,後日の争いを回避
するために,利益の算出方法を詳細かつ明確に決定しておく必要があるから,あら
かじめ何らの算出方法も定めずに使用料の支払を約することなどあり得ない。
1審被告スチールとしては,使用料を利益により算定する場合,自社の収益構造
等の企業機密を開示しなければ具体的な金額が決定できないのであるから,利益額
を基準とすることは通常は行わない。制作者側からしても,利益が出なければ制作
コストすら回収できないリスクが常に生じるのであるから,やはり使用料相当額の
算定方法として合理的ではない。
(オ)そもそも,1審原告主張のように,本件装置を使用する限り毎年億単位の
金銭を支払うという高額かつ長期にわたる重要な合意が成立したというのであれば,
役員の決裁・合意書の作成が必須であるが,そのような事実はない。本件議事録等
がおよそ信用性に欠けるものであることは,先に争点1について述べたとおりであ
る。昭和61年に1審被告スチールが本件装置の使用を開始した後,平成14年ま
で,1審原告は一度も使用料の請求をしていない。1審原告は,平成15年2月5
日付けの電子メール(甲135の2)において,当初請求していなかった使用料を
請求する理由として4点を挙げているが,使用料支払合意に関する指摘はない。
(カ)1審原告と1審被告物流との間において,本件プログラムの使用料を本件
装置のその余の部分と切り離して処理することについて合意が成立したという事実
自体存在しないから,同様の趣旨を前提とする本件第三者のためにする契約の成立
もまた,認められないことは明らかである。
ウ本件5項目の代替措置の履行について
(ア)本件5項目の代替措置は,そもそも合意の内容が極めて不明確であり,企
業取引の現場においてこのような不明確な合意が成立することはあり得ない。
1審原告は,平成11年ころから,1審被告らに対し,発注高の減少等について
のクレームを開始したが,1審被告物流に対しては,担当者の態度等を批判するの
みであって,同措置の履行が滞っていることを端的に指摘しなかったし,平成14
年5月13日の協議までの間,1審被告らに対し,本件プログラムの著作権を有し
ていることを主張したり,その使用料を請求することもなかった。その間に作成さ
れた文書(甲125~128)にさえ,1審原告の主張によれば既に本件5項目の
代替措置に係る重大な不履行状態が発生していたにもかかわらず,同措置に関する
合意のことも,使用料の支払のことも全く記載されていない。発注高の減少を契機
として,使用料支払の問題が発生した旨の電子メール(甲135の2)すら存在す
るものである。1審原告は,平成14年に至るまで,同措置について言及しておら
ず,1審被告物流による「当社との取引実績に対する既得権があるように勘違いし
ているのではないか」との質問に対し,「既得権があるとは決して思いません」と
回答しているのであって,真実,このような措置について合意がされていたのであ
るならば,既得権として当該合意が存在する旨回答したはずである。
仮に,1審原告が主張するような本件使用料支払契約,本件5項目の代替措置に
関する合意が本件装置の開発時点から真に成立していたのであれば,事前交渉にお
ける1審原告の交渉態度は明らかに不自然である。
したがって,このような合意の成立を認めることはできないから,その履行・不
履行を論じる余地はない。
(イ)原判決は,取引量の増加から,「利益供与の約束」を認定したが,その根
拠となった文書(甲101~103)は,原資料が提出されたものではなく,信用
性に欠けるものであるし,本件5項目の代替措置との関連性も不明である。仮に1
審被告物流と1審原告との間に取引量の増加があったとしても,1審原告に対する
特別の利益供与ではなく,1審被告物流の全体的な設備投資の絶対量の増加や本件
装置の納入等により1審原告の実績が認められたことの結果であって,取引量の増
加は利益供与の約束を推認させるものではない。しかも,1審被告物流と1審原告
との間に何らかの「利益供与の約束」があったとしても,合意の内容自体について
まで推認できるものではなく,同措置との同一性も明らかではない。
(ウ)1審原告の主張する本件5項目の代替措置のうち,①及び②は,1審被告
スチールとの間で直接外注契約を締結できることが前提となるところ,1審被告ス
チールに取引先口座を有しない1審原告には不可能であって,このような合意が1
審被告らとの間に成立する余地はない。③ないし⑤についても,これらの条件を充
足したか否かを判断する客観的な基準(明示的な発注,取引量,金額等の提示な
ど)が全く存在しない内容であり,およそ企業取引の現場でこのような条項が設定
されることはあり得ない。1審原告は,同措置の不履行について,いかなる基準に
基づいて主張しているのか自体,不明である。さらに,同措置は,本件プログラム
の巨額な使用料に相当する出捐を,当該プログラムの使用による受益者たる1審被
告スチールではなく,1審被告物流が行う内容になっているところ,これに見合う
ような1審被告スチールからの1審被告物流への補償的な給付などは一切存在しな
いから,1審被告スチールのみ一方的に利益を取得し,1審被告物流は逆に一方的
に損失を被るだけということになるが,このような行為は,法的には別個独立の会
社である1審被告らの企業活動の上で到底なし得ないことは明らかである。
(エ)1審原告は,平成14年ころ,本件プログラムの著作権に着目し,本件プ
ログラムに係る著作権登録を経由した上で,本件使用料支払契約について主張する
ようになったにすぎない。
そもそも,本件使用料支払契約において,本件プログラムの使用・利用の対価の
内容については,1審原告が主張立証すべきである。仮に,未特定の「使用の対
価」を支払う旨の合意が成立したと解するとしても,本件5項目の代替措置におい
て,1審原告がどの程度の利益を得るかについて,1審原告が具体的に主張立証す
べきである。
1審原告は,使用料支払に係る合意が認められれば,商行為の有償性(商法51
2条)により,当然に1審原告には相当額の使用料を請求する権利が認められるな
どと主張するが,独自の見解にすぎない。
(オ)1審原告は,本件5項目の代替措置が定められたことを前提に,一部,そ
の履行がされたかのように主張しているが,先に述べたとおり,1審原告と1審被
告物流との取引量が昭和60年前半から増大したとしても,それは当時の経済情勢
と1審被告物流の事業の拡大に1審原告が適応したこととが相まって生じた現象で
あり,本件5項目の代替措置に関する合意が存在したからではない。そのため,バ
ブル経済の崩壊により,平成10年ころからは取引量が減少した。
本件装置に必要な日常的なメンテナンス業務を1審原告に委託したのは,納入業
者である1審原告が他の業者より本件装置に詳しく,作業遂行能力もあると判断さ
れたからにすぎず,利益供与の目的で,およそ必要のない業務を作出してまで発注
するなどということはあり得ない。しかも,1審原告に対し,発注した業務の対価
を支払ったにすぎないのであるから,本件プログラムの使用料相当額を支払ったこ
とにはならない。1審原告は,下請業務を通常の取引で行ない,通常の利益を得た
にすぎない。
以上からすると,1審原告と1審被告物流との間には,法的な拘束力を有するよ
うな「利益供与の約束」の事実も,その「一時期」の「履行」の事実も,到底認める
ことはできないというべきであって,本件5項目の代替措置が履行されたというこ
とはない。
(2)不当利得の成否(1審被告スチールに対する予備的請求2)について
〔1審原告の主張〕
ア仮に,本件使用料支払契約の成立が認められなかったとしても,1審被告ス
チールは,正当な理由なく,かつ,対価の支払なしに本件プログラムの使用料に相
当する額の利得をし,1審原告は同額の損失を被ったものである。また,1審被告
スチールは,1審原告から本件プログラムの複製の提供を受けた際,その対価が精
算されておらず,将来にわたって,少なくとも本件プログラムの使用料の支払又は
本件5項目の代替措置の履行が必要であるが,遅くとも平成10年12月末当時に
は同措置の履行が全く行われない状態になっていたことを十分認識していたのであ
って,平成11年1月1日以降,相当額の対価を支払うことなく本件プログラムを
業務上使用し,使用料相当額の利得を得た。
1審被告スチールの上記不当利得と,1審原告の損失(逸失利益)との間に因果
関係があるのは明らかであるから,不当利得返還請求権の目的である公平の実現の
ためには,1審被告スチールに対して,その利得の返還を命じる必要がある。
イ以上からすると,仮に本件使用料支払契約の成立が認められなかったとして
も,1審被告スチールは,1審原告に対し,平成11年1月1日以降の本件プログ
ラムの使用について,使用料相当額を不当利得として返還する義務があるものとい
うべきである。
〔1審被告スチールの主張〕
ア1審被告スチールは,本件プログラムの複製物を含む本件装置を所有権又は
その他の使用権原に基づき使用することができるのであるから,本件装置の使用に
よって得る利益はその権原に基づくものである。
すなわち,1審被告スチールは,本件プログラムの複製物の所有権を,以下のい
ずれかに基づいて取得しているものということができるから,1審被告スチールの
利得は法律上の原因を有するものである。
(ア)昭和61年2月末ころの売買による1審被告物流からの承継取得
(イ)1審被告物流との本件装置の売買による即時取得
(ウ)昭和61年ころからの占有による遅くとも平成9年までに完成した短期取
得時効(1審被告スチールは,1審原告に対し,原審の平成17年9月2日の第1
回弁論準備手続期日において,上記時効を援用する旨の意思表示をした。)
(エ)昭和61年ころからの占有による遅くとも平成19年までに完成した長期
取得時効(1審被告スチールは,1審原告に対し,原審の平成20年3月25日の
第6回口頭弁論期日において,上記時効を援用する旨の意思表示をした。)
(オ)本件プログラムの複製物は本件装置に格納され,その従物に該当するから,
1審被告スチールは,主物である本件装置の所有権を取得したことにより,従物た
る本件プログラムの複製物の所有権も取得した。
(カ)1審原告は,本件プログラムの著作権を取得していないが,仮に,1審原
告が本件プログラムの著作権を取得したとしても,湯浅通信機,1審原告,1審被
告ら及びJFE電制において共有とする旨の合意がされているから,1審被告スチ
ールは,本件プログラムの共有者としての使用権原を有する。
イ1審被告スチールは,複製物の所有者として本件プログラムを自由に使用で
きる以上,著作権侵害となるものではなく,同被告が本件プログラムの使用料を支
払わずに使用したとしても,1審原告に損失があるということはできない。
また,著作権は無体物に対する財産権であるから,1審被告スチールの本件プロ
グラムの使用によっても,1審原告の著作権の行使に影響を及ぼすものではない。
1審原告は,本件プログラムについて,第三者と使用許諾契約を締結し,使用料を
得ることができるから,利益を得る機会を失っておらず,損失を被っているともい
えない。
ウ民法703条の「利益」とは,他人の財産又は労務によって生じたものであ
る必要があるところ,1審被告スチールは,本件プログラムの複製物の所有権を取
得し,その対価(本件装置全体で約2億9000万円)を支払済みであるから,他
人の財産によって得る利得はない。
エ以上からすると,1審原告の不当利得に係る主張は失当である。
(3)使用料ないし不当利得の額について
〔1審原告の主張〕
ア使用料算定方式
1審原告と1審被告らとの間で締結された本件使用料支払契約は,本件プログラ
ム開発の対価として相当額の使用料を本件5項目の代替措置により支払う(同措置
が講じられなくなったときは,使用料を請求できる。)という契約であるから,同
措置の履行がされなくなった平成11年1月以降,1審被告らは相当額の使用料を
支払うべき義務を負うものである。
当事者間において相当額の使用料を支払う合意をした場合において,使用後に相
当額に当たる金額の合意ができないときは,裁判所がその具体的な金額を決するほ
かないが,その際,当事者が当該財産の使用につき得た利益額に準拠して具体的な
金額を定めるのは当然のことである。著作権等の知的財産権の使用に係る財産的価
値は,開発・作成したコストで推量することはできないから,1審被告らにおいて,
本件プログラム開発の対価につき,使用料支払の形式を選択した以上,たとえその
使用料の額が本件プログラムの開発費を上回る額となったとしても,後になってそ
れを不当であるということができないことは明らかである。
イ1審被告スチールの利益と使用料ないし不当利得の額
1審被告らの各担当者は,本件装置の本番機稼働後である昭和61年8月1日か
ら4か月間の実績データを共同分析した結果,本件装置の導入による月間平均総メ
リット算出額は9180万円であり,以後のオペレーターの運用上達に伴う効率の
向上により,そのメリット額は約13ないし16%増加することが確実であるとの
認識を示していた。そこで,昭和63年以降の月間メリット額は,少なくとも91
80万円の14%増に当たる1億0465万円となる。
したがって,1審被告スチールは,本件装置を導入することにより,少なくとも
年12億円を利得したが,このうち本件プログラムの寄与に係る部分は,少なくと
もその50パーセントの年6億円であり,本件プログラムの使用料は,その2分の
1に当たる年3億円とするのが相当である。そうすると,平成11年1月1日から
平成19年12月31日までの9年間における本件プログラムの使用料相当額は合
計27億円となる。
よって,1審被告らは,1審原告に対し,平成11年1月1日から平成20年1
2月31日までの間の1審被告スチールによる本件プログラムの使用について,本
件使用料支払契約(本件使用料支払契約1は1審被告ら,本件使用料支払契約2は
1審被告スチール,本件第三者のためにする契約は1審被告物流について)ないし
不当利得(1審被告スチールについて)に基づき,使用料ないし不当利得の返還と
して,合計30億円を支払う義務があるところ(連帯債務),1審原告は,1審被
告らに対し,そのうち15億円を請求するものである。
〔1審被告らの主張〕
ア本件使用料支払契約自体,その成立が認められないのであるから,これに基
づく使用料の請求自体,認められるものではない。
1審被告スチールに対する不当利得に係る請求についても,同様である。
イ1審被告スチールの水島製鉄所において,溶銑運搬作業の安全性と効率が向
上したのは,溶銑管理システム全体についての総合的な合理化対策を実施した効果
によるものであり,本件装置の導入は当該対策のごく一部であって,その寄与は極
めて小さい。1審原告が使用料(利得額)を裏付ける資料として提出する文書は,
いずれもその成立の真正自体が認められないものであり,年額3億円という莫大な
使用料を裏付ける証拠は,存在しない。
ウプログラムの使用料支払契約を締結する目的は,プログラム制作に要した合
理的な費用・制作者が求める合理的な利益につき,複製物を使用する第三者から回
収するためであるから,使用料相当額は最大でも制作費に合理的な利益を加えた額
を超えないものである。利益を基準に対価を決するのは,企業が当該知的財産権を
実施し,第三者に複製物を頒布すること等による収入があらかじめ想定し得る場合
であって,本件のように特定の企業が製品の納入を受け,自社で使用する場合には,
このような対価決定方法を採用することはない。一般的には,当該製品の購入代価
の支払の問題であるにすぎない。
プログラムの使用料について,使用する企業の収益あるいは損失によって決定さ
れるとすれば,巨額な使用料を負担する危険性がある一方で,予想された収益を上
げ得なかった場合には,支払を免れるという不合理な結果が生じるおそれがあるか
ら,このような合意がされるはずがない。
本件プログラムの使用料を仮に観念するならば,それは制作者である1審原告が
そのリース代金相当額として合理的に請求し得る金額にすぎず,開発費に合理的な
利益を上乗せした数額となることは明らかである。本件プログラムの開発・制作費
は,湯浅通信機における人件費相当額100万円程度であったのであるから,これ
に湯浅通信機自体の適正利益を加え,更に1審原告自身の適正利益を上乗せしても,
一括代金額としてせいぜい数百万円程度が相当であることは明白である。
したがって,この程度の開発費及び適正利益は,下請である湯浅通信機のみなら
ず,元請である1審原告においても,実験機,更には本番機の納入代金の中に含め
て既に支払済みであるというほかない。年3億円の使用料の請求は,荒唐無稽な根
拠のないものというほかない。
(4)使用料請求権の消滅時効の成否について
〔1審被告物流の主張〕
ア本件使用料支払契約に基づいて,仮に1審原告の1審被告物流に対する使用
料請求権が存在するとしても,当該請求権については,1審原告の請求の趣旨変更
申立書の1審被告物流に対する送達の日である平成19年3月16日から2年前の
日である平成17年3月17日以前の使用料に係る部分は,民法173条1号の2
年の短期消滅時効により,消滅していると解すべきである。
また,1審原告が主張する本件使用料支払契約は,1審原告,1審被告物流のい
ずれにとってもそれぞれの事業としてする行為ないしその事業のためにする行為で
あることは明らかであり,商行為に該当する(会社法5条)。上記契約によって発
生したとされる1審原告の使用料請求権は,商行為によって生じた債権であるから,
5年の消滅時効(商法522条)の適用があるところ,上記送達の日から5年前の
日である平成14年3月17日以前の使用料に係る部分は,商事消滅時効が成立し
ている。
イ1審被告物流は,1審原告に対し,原審の平成19年7月9日の第15回弁
論準備手続期日において,前記各時効を援用する旨の意思表示をした。
なお,1審原告は,1審被告らとの本件プログラムの使用料精算の交渉経緯から,
権利行使が取引通念上不可能又は著しく困難であったので,消滅時効は進行しない
と主張するが,法律上の障害ではないから,失当である。
また,1審原告は,1審被告らは信義則上,消滅時効の援用は許されないとも主
張するが,長期間を経過した後に突如使用料請求をされた本件については,1審被
告らの法的安定の保護の要請,証拠保全の困難性の救済の要請,1審原告が時効中
断の措置をとることが法的に極めて容易な立場にあったことなどからすると,1審
被告らの時効の援用が信義則違反となるものではない。
ウ1審原告は,1審被告スチールに対する裁判上の請求が1審被告物流につい
ての時効中断事由となるとも主張するが,1審被告らに対する使用料請求権の相互
関係について,当事者間に連帯債務とする合意があったことを主張立証していない
から,当該請求権は,当初1審原告が主張していたとおり,不真正連帯債務と解す
べきであって,時効中断の効力は1審被告物流には及ばない。
〔1審被告スチールの主張〕
ア1審原告の1審被告スチールに対する使用料請求権は,本件プログラムの複
製物を使用する都度発生するのであり,その弁済期は,本件プログラムの複製物の
使用日ごとに到来する。
使用料請求権は,民法173条1号の短期消滅時効にかかるので,本件訴訟が提
起された平成17年3月22日より2年前である平成15年3月22日より前に発
生した1審原告の1審被告スチールに対する使用料請求権は消滅時効が完成してい
る。
また,1審原告も1審被告スチールも株式会社であるから,本件訴訟が提起され
た平成17年3月22日より5年前である平成12年3月22日より前に発生した
1審原告の1審被告スチールに対する使用料請求権は,商事消滅時効が完成してい
る。
イ1審被告スチールは,1審原告に対し,原審の平成19年7月9日の第15
回弁論準備手続期日において,前記各時効を援用する旨の意思表示をした。
なお,1審原告は,1審被告らとの本件プログラムの使用料精算の交渉経緯から,
権利行使が取引通念上不可能又は著しく困難であったので,消滅時効は進行しない
と主張するが,法律上の障害ではないから,失当である。
また,1審原告は,1審被告らは信義則上,消滅時効の援用は許されないとも主
張するが,長期間を経過した後に突如使用料請求をされた本件については,1審被
告らの法的安定の保護の要請,証拠保全の困難性の救済の要請,1審原告が時効中
断の措置をとることが法的に極めて容易な立場にあったことなどからすると,1審
被告らの時効の援用が信義則違反となるものではない。
〔1審原告の主張〕
ア本件の使用料請求権は,民法713条1号が定める「生産者又は商人が売却
した産物又は商品の代価」には該当せず,これらに準ずべき性質のものでもないこ
とは明らかである。
イ1審原告が主張する平成11年1月1日から平成16年12月31日までの
間に発生した使用料請求権については,以下の事情からすると,少なくとも平成1
6年12月21日までは,1審被告らに対する行使が取引社会の通念上,不可能又
は著しく困難な状況にあり,その行使に障害があったというべきであるから,同日
まで消滅時効は進行しない。したがって,1審被告らに対する本件訴訟の提起に係
る裁判上の請求の日において,消滅時効は完成していない。
また,このような経緯,事情に照らせば,1審被告らの消滅時効に関する主張は,
著しく信義則に反し,許されない。
(ア)1審原告は,昭和60年8月27日,1審被告らとの間で,本件プログラ
ムの使用料の精算につき,その支払に代わって本件5項目の代替措置を講じる旨の
合意をしたから,その代替措置が基本的に履行されない状況にならない限り,1審
被告らに対して使用料を請求することはできなかった。
(イ)本件5項目の代替措置は,本件装置の納入後,数年間は順調に履行されて
いたが,平成8年ころまでに徐々に履行が不十分となり,平成10年ころにはほと
んど履行されない状況となった。
(ウ)1審原告は,平成8年ころから,1審被告ら,特に1審被告物流に対し,
本件5項目の代替措置の履行をしばしば申し入れたが,応じられなかった。
(エ)平成13年4月,1審原告と1審被告らとの間で,本件装置の更新に関す
る協議が開始され,1審原告は,本件プログラムの使用料の精算に関する件を協議
の対象として持ち出し,平成16年12月21日まで,1審被告らとの間で,断続
的に協議・交渉を重ねたが,1審被告物流から,1審被告物流及びその関係会社と
1審原告との取引関係を打ち切る旨を通告されたことから,やむなく本訴訴訟を提
起した。
ウ1審被告スチールに対する使用料請求権の裁判上の請求(平成17年3月2
2日付けの本訴提起及び平成18年4月13日付けの請求の趣旨変更申立書の送
達)は,これと連帯債務である1審被告物流に対する使用料請求権の消滅時効の中
断事由に該当するものというべきである。
(5)使用料請求に係る信義則違反の成否について
〔1審被告スチールの主張〕
ア自ら違法な行為を行った上で権利を取得した1審原告が第三者に対してその
権利主張を行うことはクリーン・ハンズの原則に反して許されないことは,先に争
点2について述べたとおりである。
イ1審被告スチールは,遅くとも昭和61年ころには,本件プログラムの複製
物の使用を開始している。他方,1審原告が,1審被告らに対して,本件プログラ
ムの使用料の請求を最初にしたのは,平成15年になってからである。1審原告は,
1審被告らに対する本件プログラムの複製物の使用料請求権を昭和61年ころに行
使することができたところ,権利行使可能時期から20年近く経過しても一切権利
行使しなかった。1審被告スチールは,本件プログラムの使用開始後,17年間に
わたり本件プログラムの使用を継続し,その間1審被告らは使用料の支払を請求さ
れなかったから,1審被告らの使用料の支払を請求されないという信頼は保護に値
する。
したがって,1審原告が,1審被告らに対し,本件プログラムの使用料を請求す
ることは,権利失効の原則に反し,信義則違反であるというべきであって,許され
ない。
〔1審原告の主張〕
争う。1審原告の主張がクリーン・ハンズの原則に違反するという主張は,その
前提において誤りである。権利失効の原則に反するという点については,その交渉
経緯に照らし,理由がない。
第4当裁判所の判断
1当裁判所は,1審原告の本件請求のうち,本件プログラムの著作権に係る確
認請求については,本件プログラムに著作物性があると認めるに足りる証拠がなく,
したがって,その余の点について判断するまでもなく,理由がなく,また,本件プ
ログラムの著作権に係る金銭請求については,原告が本件プログラムの著作権を有
すると認められない以上,その余の点について判断するまでもなく,理由がないと
判断するものである。以下,その理由を分説する。
2本件プログラムの著作物性の有無に係る証拠の採否について
(1)当審における文書の提出が時機に後れた攻撃防御方法の提出に該当するか
否かについて
ア1審原告は,当審の平成23年4月19日の第8回弁論準備手続期日におい
て,本件プログラムのソースコード等として,甲289ないし292及び294を
提出したため,1審被告らは,これらは時機に後れた攻撃防御方法の提出であり,
民訴法157条により却下されるべきであると主張する。
イ原審において,本件プログラム全体のソースコードは文書として提出されて
おらず,原判決は,特許を取得する程度に新規なものであった本件装置に対応する
本件プログラムも新規な内容のものであるということができ,しかも,同プログラ
ムは,その分量も多く,選択配列の幅が十分にある中から選択配列されたものとい
うことができるから,その表現には全体として作成者の個性が表れているものと推
認することができることなどから,一部分のソースコード(甲117の1・2,丙
62)及びフローチャート(甲188の1~甲190の2,丙5,6)に基づいて,
本件プログラムの著作物性を認めている。
ウ1審原告は,当審の平成22年5月10日の第4回弁論準備手続期日におけ
る受命裁判官の求釈明により,本件プログラム全体のソースコードを文書として提
出するか否かについて検討し,同年7月5日付けで,甲289及び290の副本を
1審被告らに直送し,1審被告スチールは同月6日付けで,1審被告物流は同月7
日付けで,それぞれ受領書を1審原告に対しファックス送信している。また,1審
原告は,同年10月1日付けで,甲291,292及び294の副本を1審被告ら
に直送し,1審被告らは,同月4日付けで,それぞれ受領書を1審原告に対しファ
ックス送信している。
エ本件プログラムの著作物性の審理において,同プログラム全体のソースコー
ドが開示されなければ,同プログラムの内容を確定することは困難である。
したがって,本来であれば,原審において,本件プログラム全体のソースコード
が開示されることが望ましいものであったことは明らかである。
しかしながら,原判決は,前記のとおり,本件プログラム全体のソースコードが
開示されていないことを前提に,本件プログラムの著作物性を認めており,甲28
9ないし292及び294は,当審における受命裁判官の求釈明を契機として提出
されたものであって,1審被告らは,平成22年10月4日までにはこれらの副本
の直送を受け,内容について検討することが可能であったところ,当審の平成23
年11月10日の第2回口頭弁論期日において弁論終結がされるまで,審理が継続
していたのであるから,上記各文書の提出により,訴訟の完結が遅延したものとい
うことはできない。
オ以上からすると,甲289ないし292及び294については,時機に後れ
た攻撃防御方法の提出として,これを却下することはできない。
なお,1審被告らは,その余の立証(甲315)についても,時機に後れた攻撃
防御方法の提出であると主張するが,同様に,これについても却下することはでき
ない。
(2)本件プログラムの著作物性を立証するために提出された文書の形式的証拠
力の有無について
アソースコード及びフローチャートについて
本件訴訟において,文書として提出されているソースコード(甲117の1・2,
289~291)及びフローチャート(甲188の1~190の2)については,
弁論の全趣旨により,その成立(写しについては,原本の存在を含む。)を認める
ことができる。また,ソースコード(丙62)及びフローチャート(丙5,6)に
ついては,原本の存在を含め,その成立に争いはない。甲294(甲291及び2
92に基づく特徴表)についても,同様である。
イその他の文書について
甲5,71,72及び110の1については,原本の存在を含め,その成立に争
いはない。
丙9,145及び147ないし149については,弁論の全趣旨により,その成
立(写しについては,原本の存在を含む。)を認めることができる。
3本件プログラムの著作物性の有無について
(1)本件プログラムの概要
ア本件プログラムは,DHL車の部分とTC車の部分とに分かれており,本件
訴訟において文書として提出されているソースコードは,DHL車の部分について
は,甲117の1,289,291及び丙62であり,TC車の部分については,
甲117の2,290及び292である。
イ本件において文書として提出されている本件プログラムのフローチャートは,
DHL車の部分については,甲188の1(昭和60年9月12日作成),甲18
9の1及び丙5(昭和61年12月21日作成),甲190の1(昭和62年11
月20日作成)であり,TC車の部分については,甲188の2(昭和60年9月
12日作成),甲189の2及び丙6(昭和61年12月21日作成),甲190
の2(昭和62年11月20日作成)である。昭和61年12月21日作成版では,
本件プログラムのフローチャートのDHL車の部分は,1ページ当たりのチャート
の箱の数が70以上で,合計10ページある(甲189の1,丙5)。同TC車の
部分も,1ページ当たりのチャートの箱の数が70以上で,合計8ページある(甲
189の2,丙6)。
ウ本件装置は,次のとおりのものであって,本件プログラムは,その一部の作
業(下線を引いた部分)を行わせるものである(甲5,71,72,110の1,
弁論の全趣旨)。
(ア)DHL車とTC車の動き
①DHL車は,複数のTC車を牽引して高炉付近に向かい,出銑作業を行うT
C車を指定された停止位置において停止させる。出銑作業を行うTC車にブレーキ
がかけられ,DHL車とTC車との連結が解除される。連結が解除されたTC車に
おいて出銑作業が開始され,他方,DHL車は他のTC車とともに移動して別の高
炉に向かう。
②出銑作業が終了すると,迎えに来たDHL車が,出銑作業を終えたTC車に
近づき,DHL車にTC車が連結され,TC車のブレーキが解放されて,DHL車
はTC車を牽引して走行移動する。
(イ)連結のときの手順
①オペレーターがDHL車を無線で操作してTC車に近づける。
②TC車が自動落下方式によりDHL車に連結される。
③DHL車と各TC車は通信が可能となるので,各TC車に通信可能を示す緑
のランプが点灯する(緑のランプは,④の番号決定後一旦消灯し,⑤のブレーキ解
放時に再び点灯する。丙9)。
④DHL車は,その連結状態において,各TC車に対し,任意の連結操作番号
を電磁信号として与え,これらの各番号は各TC車において記憶される(その番号
決定に要する時間はTC車1両あたり約1.4秒である。)。TC車がDHL車の
一方側(リア側)に接近・連結した場合,各TC車がどのような順で並んでいても,
各TC車の固有の車輌番号には関係なく,常にDHL車リア側の最寄りより順に連
結操作番号がDHL車及び各TC車のCPUにおいて決定,記憶される。また,D
HL車リア側とは逆側(フロント側)に各TC車の固有の車輌番号が異なる順で連
結されても,やはり同様にDHL車フロント側の最寄りより順に連結操作番号がD
HL車及び各TC車のCPUにおいて決定,記憶される。
⑤TC車のブレーキを自動制御装置により解放する。
⑥ブレーキの解放動作中は,各TC車にブレーキ解放動作中であることを示す
赤のランプが点灯し,ブレーキ解放動作が完了すると,緑と赤のランプが点滅する。
これらの一連の動作に要する時間は約14秒である。
(ウ)連結解放のときの手順
①オペレーターが,各TC車に緑のランプが点灯中であること(通信可能状態
にあること)を確認の上,無線により,連結操作番号を用いて解放するTC車の指
示をDHL車の無線受信装置に送信する。
②解放指示がされた連結操作番号は,DHL車の無線受信装置から,電磁信号
として搬送コイルを介して,DHL車の直後に連結されているTC車に送信され,
後続のTC車にも順次転送される。
③各TC車において,各TC車が所有する連結操作番号と照合される。
④照合の結果,解放指示された連結操作番号を持つTC車は,緑のランプを点
滅させて,選択されたTC車であることをオペレーターに示す。
⑤解放指示された連結操作番号を有するTC車につきブレーキを締める動作が
行われ,ブレーキ作動中は赤のランプが点灯し,動作が完了するとブレーキを締め
たTC車の緑と赤のランプが同時に点滅する。
⑥当該TC車に隣接する他のTC車との間の連結が解放される。
⑦当該TC車の連結操作番号自体は,連結が解放されて,TC車同士が離れる
ことにより車両間の搬送コイルが離間し,信号が中断することにより解除される。
⑧DHL車も,上記TC車の連結操作番号を消去し,TC車の数を更新する。
(エ)DHL車がTC車を牽引走行時の手順
①DHL車は,各TC車に対し,所定の電磁信号を常時送受信させ,各TC車
の電磁信号の送受信状態を制御装置により継続して監視する。
②送受信信号の中断の有無により,連結器の途中解放・破損などによるDHL
車からのTC車の突放といった連結異常を検知する(応答なし5回で搬送異常とす
る。丙8)。
③TC車からの確認信号の返送がなく,信号が中断したときは,DHL車は,
返送されてこない連結操作番号を有するTC車が離脱したと判断して,警笛を鳴ら
し(赤のランプも点灯する。丙9),当該TC車のブレーキを自動制御装置により
作動させて当該TC車を約3秒で停止させる。
④TC車は,DHL車からの確認信号を受信したとき,自分の連結操作番号の
場合は返送し,自分のものではない連結操作番号の場合は,後続のTC車に転送す
る。TC車は,確認信号を一定時間以上受信しないときは,自分の連結操作番号の
記憶を消去し,ブレーキをかける。
(オ)異常時
線路上に停留されているTC車が独走を始めた場合,本件プログラムのTC車の
部分において,ブレーキを更に強く締める操作の指令を行い,緑と赤のランプを点
滅させつつ,ブレーキを更に締めて,約1,2秒でTC車を停止させる(赤のラン
プはブレーキ増締・停止後10秒で消灯する。丙9)。
(カ)搭載装置
①搬送コイル
DHL車と各TC車のフロント側とリア側のそれぞれに搬送コイルが搭載されて
いる。搬送コイルは,銅線を巻線にしたコイルを信号の送受端子として用いるもの
で,一方のコイルに信号電流を流して励磁すると,対向する他方のコイルに電磁誘
導によって発生する誘導電流により非接触の方法で通信を行う電磁信号送受信装置
である。通信速度は,ノイズに対処するために調節され(本件プログラムのうちT
C車部分では「7EH」というパラメーターを使用),ブレーキを解放する信号を
出した後7秒以内にTC車が停車することを確認する(本件プログラムのうちTC
車部分では,3つのパラメーターをかけて7×166×255=296310回繰
り返している。)。
②ブレーキ機構
DHL車と各TC車のフロント側にはブレーキモーターによるブレーキ機構が搭
載されている。
③連結解放装置
DHL車と各TC車のリア側には,連結解放シリンダーによる連結解放装置が搭
載されている。連結の解放は,連結解放用のパワーシリンダーにより連結器解放レ
バーが引き上げられることにより行われるが,連結解放装置は,各TC車の一方
(リア側)にしか搭載されていないため,必ずしも連結解放されるTC車の連結解
放装置が作動するわけではなく,対向するTC車の連結解放装置が作動することに
より連結解放が行われる場合もあり,その選択・判断は本件プログラムが行う。
(キ)本件装置及び本件プログラムの特徴
①従来技術
従来の車両の連結解放の方法としては,車両の連結順に各車両に固有の電圧値を
所有させ,解放の際,被解放車両の電圧値と合致する指令電圧を指令信号として与
えることにより,隣接する車両の連結を解放するもの(特公昭56-42505号
公報),車両の連結順に一定規制の変調を行い,各車両に固有の被変調波信号を所
有させ,解放に際して被解放車両の被変調波信号と同調する信号を指令信号として
与えることにより連結を解放するもの(特公昭56-42506号公報)があった。
②従来技術の問題点
従来技術においては,各車両に固有の符号を与える指定線,操作用機器への電源
などの接続・切離しを自動化する必要があり,連結器の連結解放操作に別途圧力空
気を用いるなど,比較的簡素化されている製鉄所用車両には高価とならざるを得な
いという問題があった。
また,指定線,操作機器への電源,これらの各線における接点の保守,維持のた
めに,環境の悪い場所における使用による制約があった。すなわち,ジョイントコ
ンセントや給電リング等による接触型の信号送受信装置を用いた場合,空気中の水
分,粉塵,ガス等により接触部に錆が発生したり,接続・切離し時,振動などによ
りスパークし,接触面を荒らすので,伝達性能が著しく低下し,これを防止するた
めのガイド・シールドを設けるとコストがかかるという問題があった。
さらに,連結器の解放指令を無線送信器によって送信し,無線指令により連結器
の解放を行うと,指令のための入力線である指令線を省略して装置が経済的となる
が,各車両に無線の受信器を必要とするので,搭載機器が高価とならざるを得ない
という問題があった。
③本件装置の特徴
本件装置は,各車両に付与する車両固有の符号・連結解放信号等を非接触方式で
与え,車両固有の符号や連結解放信号等の送受信を全て牽引車両に搭載した制御機
器・無線によって行うことにより,環境が悪い場所においても安価で車両の連結・
解放を行うことができる点に特徴を有するものであり,前記第2の2(4)アのとお
り,出願人を1審被告スチールら,JFE電制,1審原告とし,発明の名称を「車
両の連結並びに解放方法及び装置」として特許出願され,平成5年11月26日,
特許権の設定登録(特許第1804586号)がされたものである。
④本件プログラムの特徴
本件プログラムは,本件装置の一部の作業を行わせるのもので,これにより本件
装置の特徴である操作を可能にするものであるが,特に,DHL車にTC車が複数
両一挙に連結された場合に,当初は,何両のTC車が連結されたのかはDHL車に
あらかじめ示されておらず,かつ各TC車の連結操作番号も決められていない状態
から,DHL車の最寄り側から順次整然と連結操作番号が決定される点(前記ウ
(イ)④の点)が重要な特徴の1つである。また,連結解放時に,必ずしも連結解放
されるTC車の連結解放装置が作動するわけではなく,対向するTC車の連結解放
装置が作動することにより連結解放が行われる場合もあり,その選択・判断は本件
プログラムが行う点(前記(カ)③)も重要な特徴の1つである。
(2)本件プログラムのソースコード
ア1審原告は,本件プログラムが,①DHL車にTC車が複数両一挙に連結さ
れた場合に,当初は何両のTC車が連結されたのかはDHL車にあらかじめ示され
ておらず,かつ各TC車の連結操作番号も決められていない状態から,DHL車の
最寄り側から順次整然と連結操作番号が決定されるという点についてのDHL車側
のプログラム(以下「DHL車側プログラム」という。)及びTC車側のプログラ
ム(以下「TC車側プログラム」という。)を含み,これらのプログラムが「DH
L車とそれに連結されるTC車との間で電磁信号による通信を行うことにより各T
C車に固有の識別符号(車番ないし連結操作番号)を与え,その識別符号を用いて
連結された複数車両のうち任意の箇所で連結解放を行い,任意のTC車のパーキン
グブレーキを緊締・緩解させるという本件装置の新規な機能を実現するものである
と主張しているが,DHC車をTC車に連結した後に各TC車に車番付けを行う処
理を含む甲291及び292のプログラムのうち,以下の部分を特定した上で,こ
の部分について創作性が認められる旨を主張する趣旨に解される。
(ア)DHL車側プログラムのうち,「NL」「NL1」の処理(TC車の車番
付けを命ずる命令に関する処理を行うための部分・甲291の8頁ないし12頁
(0286番地~0427番地)
(イ)TC車側プログラムのうち,「LINK」の処理(TC車側における車番
が付くまでの処理)を行うための部分・甲292の4頁ないし9頁(00F7番地
~0317番地)
イ1審被告らは,甲291及び292は,本件訴訟の対象となる本件プログラ
ムとの同一性は不明であると主張するのに対し,1審原告は,本件プログラムは遅
くとも昭和61年3月に完成したと主張していたが,甲291及び292の提出後
は,これらは同年12月に改良後の本件プログラムのソースコードであり,本件訴
訟において確認の対象として主張するに至った。
この点について,湯浅通信機により開発された当初プログラムを用いたシステム
において,突放ヒヤリ(丙145),電源破壊不具合(丙147),不連結時TC
流動発生ブレーキ閉が作用しない(丙148,149)等の異常が発生したところ,
このうち,「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない」という異常に対して,
ソフトの改訂(つまりプログラムの変更)を含む対策が講じられたものとされてい
る(丙148,149)。
すなわち,昭和61年12月8日の協議において,「不連結防止」のために「D
HL停車後」の「ブレーキ一斉開放」と「車両番号メモリー(DHL,TC通
信)」の両処理の順序を入れ換えること,「流動時G,Rランプ消灯」のために,
流動処理後に消灯すること等が協議されており(丙148),翌日の午後に,「不
連結防止用変更ソフト」によるテストが実施されている(丙149)。当該テスト
結果(プログラムの変更前後の制御のタイミングを示す信号図)によると,制御の
タイミングがプログラムの変更によって大幅に異なったことが明らかにされている。
そして,「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない」という異常について
は,当該プログラムの変更により改善したものであり,その後,新たな問題が発生
する等により同程度の変更がされたことをうかがわせる証拠は存しない。
そうすると,本件プログラムは,同月9日にテストが実施された変更後のプログ
ラムをもって,完成したものと推認されるところである。
実際,本件プログラムに係る昭和60年9月12日作成のフローチャート(甲1
88の1・2,丙5。DHL車用のものとTC車用のもの。以下,それぞれ「変更
前DHLフローチャート」「変更前TCフローチャート」という。)と,昭和61
年12月21日作成のフローチャート(甲189の1・2,丙6。以下,同様に
「変更後DHLフローチャート」「変更後TCフローチャート」という。)をそれ
ぞれ比較すると,①変更前DHCフローチャートと変更後DHCフローチャートと
の対比において,NL1という新たなサブルーチンが追加されているところ,変更
後DHCフローチャートの備考欄には,「86.11.25修正,86.12.2
0修正」と記載されていること,②変更前TCフローチャートと変更後TCフロー
チャートとの対比において,変更前においては「LINK」処理の中で「SCSU
B(ブレーキ開放)」を行った後に「NL」処理によって「LINK」処理が終端
しているのに対して,変更後においては,「LINK」処理の中で「NL1」とい
う処理が行われた後に「SCSUB(ブレーキ開放)」が行われ,その後「NL」
処理によらずに「LINK」処理が終端しているものであり,変更後TCフローチ
ャートの備考欄には,「86.12.20修正」と記載されている。すなわち,
「DHL停車後」の「ブレーキ一斉開放」と「車両番号メモリー(DHL,TC通
信)」の両処理の順序を入れ換える旨の変更が加えられたものということができる
ところ,これは,丙149の記載内容と整合する。
なお,昭和62年11月20日作成のフローチャート(甲190の1・2)にお
いては,上記①及び②の記載に関連する部分について機密保持のために開示されて
いないが,「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しないという異常」を防止す
るために,変更後のタイミングによってシステムを制御する必要があることからす
ると,非開示部分のフローチャートにおいては,変更後DHCフローチャート及び
変更後TCフローチャートの内容が維持されているものと推認される。
ウ1審原告が本件プログラムのソースコードとして提出した甲291及び29
2は,おおむね変更後DHCフローチャート(甲189の1)及び変更後TCフロ
ーチャート(甲189の2)と整合しているものということができる。
エ以上からすると,「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない」という
異常を防止するために,昭和62年12月,プログラムの変更が行われたところ,
甲291及び292のソースコードは,このプログラムの変更が反映されたもので
あるということができる。そして,当該プログラムに対し,タイミングの変更等の
修正が加えられた事情は証拠上うかがわれないから,本件装置は,当該変更後のプ
ログラムによって制御されているものと推認されるところである。
したがって,甲291及び292は,1審原告が著作権を有することの確認を求
めている本件プログラムのソースコードであると認めることができる。
なお,本件プログラムの完成時期は,上記各ソースコード提出前における1審原
告の当初主張とは異なるが,そのこと自体は,上記認定を左右するものではない。
(3)プログラムの著作物性の判断基準
ところで,プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができ
るようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2
条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,
コンピューターに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのよう
に組み合わせ,どのような表現順序とするかなどについて,著作権法により保護さ
れるべき作成者の個性が表れることになる。
したがって,プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,そ
の指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,
かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性
が表れていることを要するといわなければならない。
(4)本件プログラムの表現上の創作性
アDHL車側プログラム(甲291)について
DHL車側プログラムのうち,「NL」「NL1」の処理(TC車の車番付けを
命ずる命令に関する処理)を行うための部分(甲291の8頁~12頁(0286
番地~0427番地))に関する部分は,200行前後のうちプログラムの実行順
序に係る制御を行う命令(JP命令とCALL命令)の行数が50行前後,つまり
ステップ数で全体の4分の1前後が実行順序制御に係る命令に用いられている(甲
291,294)。
DHL車側プログラムには,ソースコード上では,「JP,・・・##」と示さ
れる,飛び先の番地が指定されず,結果として0000番地が指定された場合と同
様の動作を行うJP命令(CA0000)が含まれている(なお,甲291及び後
述する甲292においては,上述したもの以外のJP命令については飛び先となる
メモリのアドレス(番地)の値が具体的に示されており,甲289及び290と同
様に,ロードされるメモリ上のアドレス(番地)及びJP命令の飛び先となるアド
レスが絶対的に定まったものとされている。)。
これらの命令は,変更後DHCフローチャート(甲189の1)や変更前のソー
スコード(甲289)には含まれているものではないから,本件装置を動作させる
ための最低限の機能を実現するために必要不可欠なものであったか否かは不明であ
る。もっとも,昭和61年12月に「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しな
い」という異常への対処としてプログラムが変更されたことからすると,変更を行
ったプログラム作成者は,何らかの意図,たとえば,当該プログラムの変更による
変更後の制御のタイミングを維持すべきであること等に基づいて,ほかに選択肢が
あるにもかかわらず,あえて上記部分を挿入したままとしたものと推測されなくも
ない。
そうすると,DHL車側プログラムには,上記命令が存在することにより,創作
性が認められる余地がないわけではない。
もっとも,1審原告は,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,本
件プログラムは著作物性を有するなどと主張して,当初,本件プログラムのソース
コードを文書として提出せず,当審の平成22年5月10日の第4回弁論準備手続
期日における受命裁判官の求釈明により,本件プログラム全体のソースコードを文
書として提出するか否かについて検討し,DHL車側プログラムについては,ソー
スコードを提出したものの,本件プログラムのいかなる箇所にプログラム制作者の
個性が発揮されているのかについて具体的に主張立証しない。
したがって,DHL車側プログラムに挿入された上記命令がどのような機能を有
するものか,他に選択可能な挿入箇所や他に選択可能な命令が存在したか否かにつ
いてすら,不明であるというほかなく,当該命令部分の存在が,選択の幅がある中
から,プログラム制作者が選択したものであり,かつ,それがありふれた表現では
なく,プログラム制作者の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているもので
あることについて,これを認めるに足りる証拠はないというほかない。
以上からすると,DHL車側のプログラムには,表現上の創作性を認めることは
できない。
イTC車側プログラム(甲292)について
TC車側プログラムのうち,「LINK」の処理(TC車側における車番がつく
までの処理)を行うための部分(甲292の4頁~9頁(00F7番地~0317
番地))は,294行中88行がプログラムの実行順序に係る制御を行う命令であ
るとされている(甲294)ところ,当該部分の相当程度について,ソースコード
が開示されていない。
DHL車側プログラムとTC車側プログラムとは,各プログラムが機能すること
によって,本件装置を制御するものであるから,「不連結時TC流動発生ブレーキ
閉が作用しないという異常」を防止するために本件装置を制御するためには,両者
について同様の配慮が必要となると推測されることから,TC車側プログラムにも,
DHL車側プログラムと同様に,本件装置を動作させるための最低限の機能を実現
するために必要不可欠なものであったか否かは明らかではない命令が挿入されてい
る可能性は否定できない。
もっとも,仮に,このような命令が挿入されていたとしても,DHL車側プログ
ラムと同様に,当該命令部分の存在が,プログラム制作者の個性,すなわち表現上
の創作性が発揮されているものであることについて,これを認めるに足りる証拠は
ないというほかない。
したがって,TC車側プログラムにも,表現上の創作性を認めることはできない。
ウ1審原告の主張について
1審原告は,本件装置は,特許権を取得できるほどに新規で進歩性を有する画期
的な技術であり,新規な機能を有するものであるから,当該装置を稼働させるため
の本件プログラムも,他の既存のプログラムの表現を模倣することにより作成する
ことはできないところ,特に,中核部分であるTC車の車番付けを行わせる部分は,
本件プログラムが有する多数の機能のうち最重要部分を実現するもので,新規のア
イデアに基づき全くのゼロから開発されたものである,当該中核部分を構成する各
パートは,それぞれ数十から百数十もの命令数により記述されている上,多数のサ
ブルーチンを用いた構成となっているところ,このような複雑なプログラムにつき,
その表現が1つ又は極めて限定された数しかなかったり,だれが記述しても大同小
異のものとなったりすることは到底あり得ないし,他にも多数の機能を実現するた
めの部分が有機的に組み合わされてひとまとまりのプログラムとなっているのであ
るから,本件プログラムは,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,
著作権の保護を受けるプログラムの著作物に該当することは明らかであるなどと主
張する。
しかしながら,本件装置が新規性を有するからといって,当該装置を稼働させる
ためのプログラムが直ちに著作物性を有するということができないことは明らかで
ある。
また,先に述べたとおり,プログラムに著作物性があるというためには,プログ
ラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個
性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するのであるから,新規のア
イデアに基づきゼロから開発されたものであること,多くの命令数により記述され
ていることから,直ちに表現上の創作性を認めることはできない。本件プログラム
が多数の機能を実現するための部分が有機的に組み合わされているとしても,当該
プログラムに表現上の創作性があることについて具体的に主張立証されない以上,
当該プログラムにより実現される機能が多岐にわたることを意味するにすぎない。
さらに,1審原告は,TC車側プログラムのうち,SOSUBサブルーチン(0
72F~0792番地)のソースコードを例として,甲290及び292が機械語
レベルでほぼ同一の命令構成となっているにもかかわらず,ソースコードレベルで
の具体的表現が異なること,SOSUBルーチンの行う仕事は,①連結器のピンを
外すパワーシリンダを作動させる部分,②パワーシリンダが正常に作動したか否か
をチェックする部分,③パワーシリンダの作動状況及びそのチェックの結果を操作
者に知らせるため表示灯の点・消灯を行う部分の3つに大別できるところ,本件プ
ログラムの極めて小さな一部分であるSOSUBルーチンのソースコードにおける
具体的表現だけをみても,多数の選択肢の中から開発者の個性により選択された表
現が用いられているなどとも主張する。
しかしながら,甲290及び292におけるソースコードレベルでの具体的表現
の相違は,CPUの機種変更に応じて必然的に定まる変更に基づくものにすぎず,
創作性の基礎になり得るものではない。
また,上記①ないし③の機能を実現するそのほかの表現に係る選択肢が存在する
可能性があるからといって,直ちに本件プログラムにおけるSOSUBルーチンの
具体的表現について,創作性が認められるものでもない。1審原告が具体的に指摘
する各事項は,いずれも本件装置が要求する仕様や機能を単にプログラムとして実
現したものにすぎず,表現上の創作性を基礎付けるものではない。
1審原告の主張は採用できない。
(5)小括
以上からすると,本件プログラムには,著作物性を認めることができない。
4使用料支払の要否について
1審原告は,本件プログラムの著作権を有することを前提として,本件使用料支
払契約が成立したことを主張するものであり,1審原告が著作権を有しない場合に
ついても使用料支払に係る合意が成立したものと主張するものではない。
したがって,1審原告が本件プログラムの著作権を有するものと認めることがで
きない以上,1審原告の1審被告らに対する使用料支払に係る請求はその前提を欠
くものであって,失当といわざるを得ない。
また,そうである以上,1審原告の1審被告スチールに対する使用料相当額の不
当利得返還請求もその前提を欠くものであって,失当といわざるを得ない。
5以上によれば,1審原告の請求は,本件プログラムの著作権に係る確認請求
も,当該著作権に係る金銭請求も,いずれもその理由がないといわなければならな
い。なお,事案に鑑み,以下のとおり,付言する。
61審原告提出の文書の形式的及び実質的証拠力の有無・程度について
1審原告は,原審及び当審において,本件プログラムの著作物性及び本件使用料
支払契約の成立を立証するため多数の文書を提出しているが,その採否は,既に判
断を示したほか,以下のとおりである。
(1)議事録について
1審被告らは,本件議事録について,1審原告と1審被告らとの交渉経緯,提出
の経緯,形式・内容のいずれについても不自然であることなどから,これらの各文
書は偽造・変造されたものであるなどと主張するので,以下,上記各事項について
検討する。なお,以下に挙示する文書のうち,議事録以外の文書については,弁論
の全趣旨により,その成立(写しについては,原本の存在を含む。)を認めること
ができる。
ア本件プログラムの使用料請求に至る経緯について
(ア)1審原告と1審被告物流の水島支社とは,平成10年4月17日ころから,
1審原告が1審被告物流の水島製鉄所内において担当しているメンテナンス業務に
ついて協議を行っていたところ,同年7月17日,同支社のU支社長なども出席
して協議が行われた(弁論の全趣旨)。甲125(申し入れ及び協議内容記録)に
よると,この協議は,1審原告が1審被告物流の車両関係電装品のメンテナンス業
務から排除されるのではないかとの危惧を抱いたことから開始されたものであり,
1審原告代表者は,1審原告が派遣した従業員に対し,1審被告物流の従業員が
様々な難しい要求をすることにより,苦痛を受けた従業員が退職に追い込まれたこ
となどに対して抗議するなどしたことが認められる。同メモの追記として,1審被
告物流の水島支社V重役との面談記録が作成されており,これによれば,同重役
は,1審原告代表者に対し,1審原告は1審被告物流との間の取引実績に対する既
得権があるように勘違いしているのではないか,今までの面談の中で,1審原告の
仕事量が大幅に減少すると,何かアクションを起こすようないい方をしているが,
それが何を意味するかはっきり言ってはどうか,1審原告は本件装置についていろ
いろと問題があるなどというが,何のことだか分からないし,一度調べておくがそ
んなことで1審被告物流が1審原告に対して仕事量をある程度出さないといけない
とは決して思わない,そんな昔のことが1審被告物流にいつまでも通用すると思う
ことは大きな間違いであるなどと指摘し,1審原告代表者は,これに対し,1審原
告としては,既得権を有しているとは決して思っていない,本件装置に関するいろ
いろな事情もあり,1審原告が1審被告物流より仕事量を多くいただいているとい
う事情があるが,その点を無視され,発注量を激減されるのであれば,1審原告と
してはそれなりのことを考えるなどと述べたことが認められる。
(イ)また,甲126(申し入れ書)によると,1審原告は,平成10年10月
14日,1審被告物流の水島支社に対し,本件装置のCPUBOXのリプレイスを
提案するとともに,同BOX内に貼付された著作権シールを除去しないように求め
たことが認められる。甲127の1(書面送付案内書)及び甲128(面談記録)
によれば,その後,1審原告は,同支社に対し,受注金額の落込みに関する協議を
求める通知を発するなどしたことが認められるが,当該通知には本件5項目の代替
措置に関する記載はない。
(ウ)1審原告と1審被告物流とは,遅くとも平成14年4月10日ころから,
本件装置のCPUBOXのリプレイスに関し,協議を行っていたが(弁論の全趣
旨),甲129の1ないし5(議事録)には,その際,鉄道課から,リプレイス前
のプログラムについて,著作権の帰属ないし使用料支払の有無に関する質問がされ
たところ,1審原告代表者は,1審原告が著作権を有しているが,当初はメンテナ
ンスもしていたので使用料については請求していないと回答した旨の記載がある。
また,甲130の1及び2(契約締結願い)によると,1審原告は,同年5月20
日及び6月12日,1審被告物流の知的財産部等に対し,1審被告らなどとの間で
本件装置に関し様々な知的財産権を共有しているが,海外企業からの引き合いもあ
るから,実施契約を締結する必要があること,本件装置に関する全てのケースでハ
ード及びソフトは今後1審原告が納入すること,本件プログラムの使用料をDHL
車及びTC車1台当たりの金額として協議決定し,月額又は年額で支払うことなど
を求めたことが認められる。
1審原告と1審被告物流との間では,その後も本件プログラムの使用料について
の協議が継続していたところ(弁論の全趣旨),甲135の1及び2(1審原告と
1審被告スチールとの間の電子メール)によれば,1審原告は,本件プログラムの
使用料の支払を求める理由として,平成15年2月5日,①本件プログラムに係る
高額な開発費については,本件装置のメンテナンス業務について外注していたので,
その売上げから回収できていたこと,成果還元金が支払われるという説明を受けて
いたこと,補充部品について当初は全て納入していたこと,1審被告物流の役員か
ら今後の良い仕事の見通しに関する話があり,事実大変お世話になったことから,
今までは開発費を請求していなかったが,現在はそのような事情は存在していない,
②現在,プログラムの使用料が大きくクローズアップされているところ,税務調査
において使用料の請求をしていない理由について厳しく追及された,③プログラム
の更新に多額の費用が必要となったなどと回答したことが認められる。
なお,甲163(議事録)には,1審原告と1審被告らとの間の協議において,
本件5項目の代替措置が明確に言及されたのは,本件議事録等が開示された後の平
成15年11月21日における協議からである旨の記載がある。
(エ)以上の経緯ないし記載(なお,当該記載部分を採用し得ることは,後述す
るとおりである。)からすると,1審原告は,平成10年4月17日ころから断続
的に1審被告物流とメンテナンス業務の受注量減少や本件プログラムの更新等につ
いて交渉していたが,1審原告の主張する本件5項目の代替措置について明確に言
及したのは,約5年経過後である。1審原告は,使用料を請求していなかった理由
として,相当程度の業務を受注していたこと等を指摘しているが,平成15年2月
5日の電子メール(甲135の2)は,本件5項目の代替措置が講じられていたと
いうよりか,1審被告物流から業務を受注することができていたことなどからして,
1審原告の判断において本件プログラムの開発費の請求を控えていた趣旨と解され
るにとどまる。しかも,1審原告は,当初,既得権の存在を明確に否定し,使用料
請求を検討する契機として,税務調査における指摘等も理由としているのである。
仮に,本件5項目の代替措置について1審被告らとの間で,1審原告が主張する
ように,既に合意が成立していたというのであれば,上記の交渉開始時において端
的にこれを指摘すれば足りたはずであるし,本件装置に関する一切の納入等の独占
や本件プログラムの使用料支払に関する契約を締結するよう求める理由も存在しな
かったはずである。特に,前掲甲135の2においては,メンテナンス業務等の
「上記のすべてが現在では存在していません事が,今回ソフトの使用料を請求致す
動機のひとつになっている事も事実です。」と回答しているが,これは,本件5項
目の代替措置に関する合意が成立していたとの1審原告の主張と整合しない。また,
前掲甲125によれば,1審原告は,交渉開始当初から,「我社としても今後それ
なりの考えで事を進めないといけないと考えます。」と伝えていたこと,前掲甲1
27の1によれば,「このような状況が今後も続くようなら,弊社としても根本的
に色々な面で更なる対策を考えざるを得ない。貴支社長にももう少し時間をお取り
いただき,本音の話合いをしたい」との趣旨を伝えていたことが認められ,そのよ
うなやり取りからは,1審原告が,下請としての立場上,円満解決を目指すため,
交渉当初においては自らの権利について強調しないというような方針を採用してい
たとも解し難いところである。
特に,1審原告は,平成3年10月1日,1審被告物流のGなどと協議を行い,
本件5項目の代替措置に関する書面化を要求し,数年後に1審被告らの担当者の多
くが交代し,そのような合意については知らないといわれることを危惧していると
伝えた旨の記載がある議事録(甲123。1審被告物流の関係者の作成部分につい
ては,その成立に争いがある。)を文書として提出するほか,1審被告らに対し,
再三書面を作成するように要求していたと主張しているのであるから,平成10年
7月17日の協議におけるV重役の発言は,まさに1審原告が危惧したとおりの
事態が生じたことを意味するはずである。それにもかかわらず,1審原告が直ちに
本件5項目の代替措置に関する合意の存在を主張し,それまでの間に書面化を求め
ていた証拠であるという甲124(お願い事項)を改めて提示するなどの対応がさ
れていないことは,不自然であるというほかない。
したがって,本件プログラムの使用料請求に至る経緯における1審原告の言動は,
本件議事録の記載内容と整合しないものというほかはない。
イ本件議事録の開示に至る経緯について
(ア)甲139の議事録には,1審原告は,平成15年3月24日の協議におい
て,1審被告物流から,本件プログラムの著作権に係る費用は本件装置の購入代金
の中に含まれている,本件プログラムの著作権は湯浅通信機が有すると思われる,
1審原告が著作権を有することを証明できる証拠はあるのかと質問されたのに対し,
本件プログラムの著作権も含めて本件装置を販売したのではなく,ソフトに関する
費用は完全に別で取引した証拠となる各書面が確実に残っており,後日提示すると
回答した旨の記載がある。甲140の議事録には,1審原告は,同月28日の1審
被告物流との協議においても,「提示が必要な時期が来れば提示します」と回答し
た旨の記載がある。
(イ)また,甲146の議事録には,1審原告は,平成15年5月12日の1審
被告スチールとの協議において,1審原告にはソフト関係諸費用を含む金銭授受は
なかったことの記録が明確にある,1審被告スチールにも記録が残っているであろ
うから調査し,記録が残っていれば是非提示してもらって照合すれば,明確に解決
すると思うと述べたため,1審被告スチールは,1審原告が述べた記録が存在する
か調査し,後日回答すると返答した旨の記載がある。
甲148の1及び2(前同電子メール)によれば,1審被告スチールの西日本製
鉄所の担当者は,同月19日,1審原告に対し,ソフト使用料が別である旨の書類
が残っているということであるが,1審被告スチールの本社との間でそのようなや
り取りがされたのか否か等に関し,問合せをした。これに対し,1審原告は,1審
被告らの担当者と1審原告との3者間の協議録や1審原告が1審被告物流に提出し
た各種見積書等が存在する旨を回答したことが認められる。
(ウ)そして,甲150(前同電子メール)によれば,1審原告は,平成15年
7月2日,1審被告スチールの交渉担当者に対し,前回の協議において,次回の協
議において提出すると約束した議事録等については,懸命な努力によりそのほとん
どが発見されたが,一部未発見のものがあり,2週間程度をかけて再発見に努める
予定であるから,準備完了次第,次回の協議開催を依頼する,1審被告スチール担
当者から,1審被告スチールには協議記録が存在しない旨の電話連絡を受けた際,
その旨を記載した書面の提出は不要であると回答したが,代理人弁護士と相談した
ところ,書面による回答を求めることになったので,近日中に書面で連絡してほし
いとの通知をしたことが認められる。
(エ)甲152の議事録には,1審原告は,平成15年8月8日の1審被告スチ
ールとの協議において,「ソフトに関する費用をいただいていないという証明がで
きる見積書等,関係書類のコピー」を提示した。1審被告スチールは,関連会社を
含めて当時の議事録が全く残っていないので,1審原告が保存する議事録のコピー
を提示するよう求めたところ,1審原告は,現在準備中であり,近日中に持参する
と回答した旨の記載がある。
(オ)甲156ないし158(前同電子メール)によれば,1審原告は,平成1
5年8月25日,1審被告スチールの担当者に対し,同月14日付け書面において,
記録等が存在しない旨の回答を得たが,その後,1審被告らは,当時の担当者と面
談し,事情聴取をしたか否か,面談したのであれば,担当者は,当時,議事録のや
り取りを1審原告との間で行ったが,現在,1審被告物流には記録が存在していな
いと回答したのか,それとも,議事録のやり取り自体を行っていないと回答したの
か,1審原告の代理人弁護士から質問するよう依頼されたので回答してほしいこと,
残りの書類については,代理人弁護士が精査中であるので,同年9月8日の週ころ
に提出する予定であることを通知したこと,1審原告は,同月16日,上記質問の
回答が未了であるが,特に,議事録のやり取りに関する質問は重要であるから,メ
ールでも構わないので速やかに回答するよう求めたこと,1審被告スチールは,同
月24日,事情聴取は行った,やり取りに関する記録はなく,見積書は書類の保存
期間が10年のため存在していない,担当者は,議事録は受け取ったであろうが,
中身については記憶がないと述べている旨を回答したことが認められ,甲159の
2(提出書類確認書)によると,1審原告は,同月30日,1審被告スチールに対
し,本件議事録を開示したことが認められる。
(カ)以上の経緯ないし記載(なお,当該記載部分を採用し得ることは,後述す
るとおりである。)からすると,1審原告は,平成15年3月ころの協議において,
本件プログラムの使用料と本件装置の販売費用とは別であることを裏付ける書類の
存在を示唆し,更に,同年5月ころ,議事録の存在について示唆しているところで
ある。
しかしながら,1審原告は,同年8月に見積書を提示したものの,議事録につい
ては提示せず,1審被告物流の担当者が議事録の存在自体を否定しているのか等に
ついての回答を得た上で,同年9月30日に至り,ようやくこれを開示したもので
ある。
先に述べたとおり,1審原告と1審被告らとは,平成10年ころから本件プログ
ラムの更新に関して断続的に協議を行っており,特に平成15年ころからは,本件
プログラムの使用料に関し,双方の見解が対立した状態での議論が継続していたと
ころ,1審被告らは,当初から本件装置開発当時の資料が存在しない旨を指摘し,
1審原告に対して開示を求めていたものである。もちろん,関係書類の探索中,検
討中などの理由で開示が遅れること自体は不自然ではなく,交渉内容に係る資料を,
いつ,どの程度開示するかは各交渉主体の判断に委ねられるものではあるが,1審
原告は,1審被告らに対し,双方が保存しているであろう書類等と照合すれば,解
決を図ることができるなどと述べているのであるから,1審被告らに対し,関係書
類を保存しているか否かについて書面により回答するように求めるなど,関係資料
の探索を促すのであれば,それとは別に,1審原告が自ら保存している議事録や見
積書の一部を進んで開示するか,少なくとも1審原告が本件訴訟において強調する
厳格な議事録作成ルールの存在等,議事録に係る経緯を説明するなどしてもおかし
くなく,そのような1審被告らに対する資料の探索や記憶喚起の便宜を図ることが
されなかったことは,かえって,不自然であるということができる。先に指摘した
とおり,本件5項目の代替措置や厳格な議事録作成ルールなど,仮に,そのような
合意が当事者間でされていたのであれば,交渉の初期段階において,その旨の指摘
がされることが通常であって,本件議事録についても,その例外ではなく,厳格な
議事録作成ルールに基づいて作成された議事録を1審被告らが保存しているはずで
あることを端的に指摘すれば足りたのであって,議事録に関する担当者の認識に関
する事情聴取内容について回答を得た上で,ようやくこれを開示するということは,
1審被告らが指摘するとおり,本件議事録が偽造・変造されるなど,内容虚偽のも
のであるとの疑念を想起させる一事情といわざるを得ない。もちろん,1審被告物
流の担当者の認識については,1審原告の重大な関心事であることは明らかである
から,1審原告がこれを明らかにするよう求めること自体は当然であるが,その回
答を催促し,これに対する回答があるまで,1審原告が所持していた本件議事録を
先行的に開示しなかったことに合理的な理由は看て取れない。
そうすると,本件議事録が開示されるに至る経緯についても,1審被告ら指摘の
不自然さは否定できないというほかない。
ウ議事録作成ルールの有無について
(ア)本件議事録には,いずれも各葉に1審原告代表者のほか,鉄道課,N,F,
Gなど,当時の1審被告らの担当部署及び担当者名による印影がみられるところ
である。
1審原告は,この点について,1審原告が開発に関与したビレット輸送船用自動
ラックに生じた不具合の対応について,1審被告らから,議事録の2頁以降を差し
替えたのではないかとの指摘を受けたことから,昭和59年3月7日の協議(甲
8)において,1審原告が作成した議事録については,1部を1審原告が保存し,
1部を1審被告物流に提出後,1審被告物流の各担当者が各葉に確認印を押印した
上で1審原告に返還し,1審原告がこれを保管するとのルールが制定されたなどと
主張する。
これに対し,1審被告らは,上記自動ラックに係る不具合は,議事録作成ルール
が制定されたとされる当時,発生しておらず,全葉に確認印を押印するなどという
不合理なルールが策定されるはずがないなどと主張するところであるが,自動ラッ
クに係る不具合の発生時期についてはおくとしても,このような厳格なルールが制
定されたと1審原告が主張する時期以前の同年2月15日の協議に係る議事録(甲
7)にも,同月17日付けの鉄道課受領印が押印されているのみならず,全葉に各
担当者の確認印が押印されているものであって,これは議事録作成ルールの経緯に
係る1審原告の主張と明らかに矛盾するものである。
1審原告は,本件装置の開発に着手した当初から,1審被告らに対し,同様の確
認を求めていたところ,昭和59年3月7日の協議において,それまでの1審原告
の要求が受け入れられ,当該ルールが採用されたなどとも主張する。
しかしながら,仮に,1審原告主張のとおりの議事録作成ルールが存在したとい
うのであれば,甲8(昭和59年3月7日の議事録)ではなく,既に全葉に確認印
を押印するという異例の確認方法が採用されている甲7(同年2月15日の議事
録)において,当該ルールに関する記載がされるのが自然である。
しかも,甲8(前掲)の記載は,自動ラックのトラブルについて,協議記録の記
載を参考に,1審原告の責任が否定されたことを参考として,むしろ1審被告らか
ら当該ルールを提案したかのような内容とされているものであって,1審原告に上
記トラブルの責任を押し付けようとしたとされる1審被告らから,むしろ厳格な議
事録作成ルールを採用するように求めたかのような上記記載は,1審原告の主張と
は整合しないものである。
(イ)また,1審原告は,本件議事録について,原本ではなく,写ししか存在し
ない理由として,1審被告物流は,議事録作成ルールに反し,コピーしか返却しな
かったからであるなどと主張する。
しかしながら,本件議事録の中には,1審原告代表者が場合によっては本件装置
の開発から脱退すると述べたこと(甲39,46),Aに対し,議事録を確認する
ように求めたこと,後日のために,大切な事項はできる限り詳細に議事録に記載す
ることとしていると述べたこと,自動ラックの件で議事録は正確であるべきことは,
1審被告らも体験したはずであると述べたこと(甲46,50,61)など,1審
原告が1審被告らとそれなりの立場で交渉し,また,議事録の参照を求める記載が
みられるのみならず,1審被告物流の担当者も,自らこのようなルールの作成を提
案したものとされているほか,議事録をお互いに交わしているので,議事録はとて
も有力なものである,今までかなり厳格に協議録を検収し,残しているので,正式
見積書に追加項目を入れる必要はない,全ての会議の議事録を作成することは絶対
に必要である,非常に大切な会議内容であるからワープロ議事録を送ってほしいな
どと発言した旨の記載(甲48,50,60,61)もみられるところである。こ
のように,1審原告代表者は,結果として採用されなかった1審被告らに対する要
望に係る自らの発言についても本件議事録に多数記載しているのであるから,本件
議事録記載のとおり,議事録の重要性について1審被告らも同様の認識を有してい
たと1審原告が主張するのであれば,原本を返還するというルールが遵守されてい
ないことについて,1審原告が指摘した旨の記載が本件議事録に存しないことは,
不自然であるというほかない。当該ルールでは,1審被告物流には,1審原告に対
する「返却用」のほか,後日の照合に備えて保管用の正本も交付されることになっ
ていたというのであるから,1審原告において,1審被告物流が確認印を押印した
返却用の議事録をそのまま1審原告に返却すれば足りるので,当該ルールに違反し
てまで,あえてコピーした上で写しを返却する必要性がない旨を端的に1審被告物
流に指摘することが格別に困難であったとは解されない。
この点について,1審原告は,当審の平成23年4月19日の第8回弁論準備手
続期日において,「ご返却用」ではなく,「ご承認用」の朱印が押印された議事録
(甲261,262。記載内容は,甲52,57とそれぞれ同一である。)を文書
として提出した上で,甲256(陳述書)をもって,これは,鉄道課のC次長に
対し,鉄道課から報復を受けることを覚悟のもと,議事録に関するルールを遵守す
るよういわば直訴し,さらに,業務連絡票(甲258の1)を提出したところ,承
認を得られたものであるなどと説明する。
しかしながら,1審原告の「直訴」を受けて,2通の議事録について別途「承
認」の手続をするなどの対応を1審被告物流が行ったというのであれば,その後の
協議に係る議事録(甲60~69)において,1審被告物流から写しが返却される
という従前と同様の処理が繰り返されていることは不自然であるというほかない。
(ウ)1審原告は,平成3年10月1日における協議の議事録として,甲123
を提出するが,同証には,1審原告代表者が,1審被告物流のG及びOに対し,
「本日の会議は大切な会議なので正式に議事録を作成し,2部持参しますので,1
部に確認印を押印下さり,返却願えませんか!」と述べたところ,G及びOは,
「基本的には下請会社との協議ではその様な事を行った例はあまりないが,1審原
告がそう希望するのであれば結構である。後日,議事録を提出すれば,内容をチェ
ックし,正確であれば確認印を押印し,1部を返却する。」と回答した旨の記載が
ある。しかし,Gは,本件議事録作成当時,担当者として協議に参加していたの
であるから,仮に1審原告が主張する厳格な議事録ルールが存在していたならば,
Gが同席する協議であれば,議事録について上記記載のような提案をすることは
考え難いところであるし,下請会社との議事録のやり取りを否定した1審被告物流
の担当者に対し,1審原告代表者が議事録ルールに関する指摘をしていないのも不
自然である。しかも,当該議事録には,1審原告が各葉に対する押印を求めていな
いにもかかわらず,「管理O」の印が各葉に押印されている(ただし,Gの確認
印は表紙のみである。)ことも不自然であるというほかない。
(エ)したがって,本件議事録において,厳格な作成ルールが定められていたこ
と,1審被告物流が当該ルールに違反し,コピーのみを返却していたとの1審原告
の主張は,当該ルールの存在自体を認めることができないといわざるを得ないので
あって,その前提を欠くものというほかない。
エ本件議事録の記載内容について
(ア)「り」及び「総」のフォント並びに用紙の余白等について
a1審被告らは,昭和60年8月27日付けの1審原告作成の議事録(甲5
0)における「り」の字体は,1審原告が昭和60年8月当時使用していたリコー
製ワープロで打ち出すことはできず,昭和63年6月以降に発売された富士通製ワ
ープロでなければ作成できないことなどを,本件議事録が偽造・変造された根拠と
して主張する。
この点について,1審原告は,本件議事録を作成した当時に使用していたワープ
ロの機種について,原審において,当初リコー製リポート350Gであると説明し
たところ,1審被告らから,同ワープロには半角漢字の機能がないとの指摘を受け,
更に,昭和60年5月1日に発売されることが決定していたリポート5600シリ
ーズのデモ機を貸与されていたと主張していた。
b証拠(乙6,12,丙16,33の1~丙35)によれば,1審原告が平成
2年3月13日付で1審被告物流に提出した見積書(丙16)は,「リポート56
00G」で作成可能であり,このころ1審原告は「リポート5600」シリーズを
使用していたこと,リコーが販売していたワープロ「リポート5600G」は,日
立製作所が設計製造販売するワープロ「ワードパルBW-800」の外観に関する
製品仕様を一部変更してリコーブランドでOEM供給していたものであって,日立
製作所「ワードパルBW-800」とワープロとしての機能は同一であること,
「ワードパルBW-800」の後継機種として,同じ字体,印刷機能を持つ「ワー
ドパルBW-450」が現在も日立アプライアンス多賀家電本部に保管されている
ことが認められる。そして,当該保管に係るワープロにより甲号証の議事録や見積
書の再現試験を行ったところ(乙6,丙35),①甲50についてひらがなの
「り」の字体が違うこと,②証拠(甲194)によれば,リコーのワープロ「リポ
ート5600」シリーズは印字ドット数が24×24であることが認められるとこ
ろ,その再現文書(乙6,丙35。リポート5600Gと同一機能を有するワール
ドパルBW-450により作成されたもの。したがって,印字ドット数は24×2
4であると考えられる。)は,甲50よりも文字の印刷品位(ドット数)が劣るこ
と,③甲50については,行間隔の取り方が異なり,余白についても再現文書では
文章の部分が短くなりすぎる(余白部分が多くできてしまう)か,又は1ページ以
内に収まらず,上部の余白が広くなる点が異なってしまい,同様の書式で再現でき
ないことが認められる。さらに,上記①に関し,リコーのリポート5600シリー
ズのカタログ(乙16)によれば,同ワープロの「り」の字体は,ふた筆書きであ
って,ひと筆書きの「り」が記載されている甲50(議事録)のものとは異なり,
ふた筆書きの「り」が記載されている乙6,丙35(再現文書)のものに近いこと
が認められる。
そうすると,1審原告の主張に係るワープロで本件議事録を作成することができ
たかについては,疑問が残るというほかない。
この点について,1審原告は,昭和60年3月11日にデモ機の貸与を受けたと
主張するが,当該ワープロの製造銘板は「FD5600#504828」であり
(甲192の2),これは,昭和60年4月に製作された828台目という趣旨で
あると解されることからすると(乙17),当該デモ機の使用自体も認め難いもの
であって,これに反する文書(甲249,250)は採用できない。
c1審原告は,「り」及び「総」の文字について,外字登録機能で作成してい
た,仮名コードで入力していたなどと主張する。
しかしながら,確かに1審原告主張のとおりの方式で出力可能であったとしても,
その字体にこだわらなければ,「り」及び「総」のいずれも普通に入力できる文字
であって,それにもかかわらず,外字を作成してまで,当該字体をあえて用いる必
要があった理由について具体的に主張立証がなく,1審原告の主張には,相当程度
疑問が残るといわなければならない。
また,証拠(甲95,丙16)によれば,1審原告は,平成2年3月には,前掲
再現文書(乙6,丙35)の文字と同一(したがって,甲50とは異なる字体)の
「り」及び「総」を用いた見積書(丙16)を作成して1審被告物流に提出してい
ること,同年10月16日付けの表示のある同種の見積書(甲95)の「り」の文
字は,甲50のものと同一字体(したがって,乙6,丙16,35とは異なる字
体)であることが認められる。これらの成立年代が全て当該書面に表示されている
作成日付のとおりであるとすると,1審原告は,ある時には普通の「り」,ある時
には外字登録した「り」を使用し,また,ある時には手間のかかる部首コード入力
の「総」,ある時には普通の入力ないし仮名コード入力の「総」を使用していたこ
とになるが,そのような方法をとらなければならない合理的な理由も見いだせない。
d1審原告は,1審原告が使用していた熱転写式プリンターで出力された文字
は,解像度が極めて高い40×40ドット以上のドット式プリンターにより出力さ
れた文字と同等の質を有していたなどと主張するが,証拠(甲193,194,乙
9,12,16)によれば,リコーリポート5600シリーズの熱転写式プリンタ
ーも24×24ドット(24ドット)であり,カタログ(乙16)では印字例につ
いて「熱転写・ワイヤドットプリンタ」として両者を区別せず表示されていること,
甲50の「い」「り」「も」「な」「タ」の各文字は滑らかであり,リポート56
00シリーズないしこれと同等である丙16や1審被告らによる前掲再現文書(乙
6のほか,丙33の1及び2(これも再現文書である。)の文字(24ドット)と
はドット数が異なるのみならず,字体も異なることがそれぞれ認められる。したが
って,甲50の議事録の見積書の文字がリポート5600シリーズにより作成され
たものと認めることはできない。なお,前掲乙6によれば,「ワードパルBW-8
00」は(「リポート5600」シリーズも同様),パソコンとの差別化を図るた
め,フォントROMを持ったプリンターには接続できない製品仕様であり,どのよ
うなプリンターで印刷しても字体が異なることはないことが認められるから,1審
原告が使用していた熱転写式プリンターがリポート5600シリーズのものではな
かったとしても,上記結論は左右されるものではない。むしろ,乙9(貴社ワープ
ロ文書確認のお願いについて(ご回答))によれば,甲50の議事録は,富士通製
ワープロで作成可能であること,同ワープロで印刷する場合には,48ドット文字
の文字印刷機能を有する機種が必要であること,48ドット文字(48ドット熱転
写式プリンター)を初めて搭載した機種は発売時期が昭和63年6月であることが
認められる。もっとも,前掲乙9は,甲50が他社のワープロにより作成されてい
る可能性を否定していないが,昭和60年9月印刷のリポート5600シリーズの
カタログ(乙16)では,32×32ドットのインクジェット式プリンターさえ
「美人」「魅力たっぷりの高画質」と記載されており,高性能ビジネス用日本語ワ
ードプロセッサOASYS100GS(昭和59年5月発表。甲205)のレーザ
ー方式のものでも最大40×40ドットであることからすると,昭和60年当時,
48ドット文字という高品位のプリンターは希少であったものと推測されるところ
である。
したがって,甲50の文書の作成は昭和63年6月以降であると推認せざるを得
ない。
e1審原告代表者は,本件議事録の余白に関しては,B4の枠の画面を呼び出
して,そこにA4の枠を一杯に打ち込むという方法を1審原告の社員が採用してい
たなどと説明する(原審における1審原告代表者)ほか,これと同旨のリコーのワ
ープロインストラクターの陳述書を提出する(甲248)。
しかしながら,本件議事録のうち,ワープロにより作成されたものについて,全
て印刷されたB4用紙を裁断等して作成するという作業の負担を負ってまで,書式
や余白を調整する合理的な理由は存在するものではない。
(イ)中括弧,中抜き矢印等について
1審被告らは,昭和61年12月22日付けの1審原告作成の議事録(甲68)
には,1審原告が当時使用していたワープロ(リポート5600)では作成できな
い中抜き矢印や中括弧が記載されているなどと主張する。なお,中括弧については,
甲63についても同様である。
この点について,1審原告は,テンプレート定規を用いて記入した可能性がある,
プロット入力で作成した中括弧を保存し,必要に応じて読み出した,「通常ケイ
線」を半角単位で引いたり消したりすることが可能であるため,中抜き矢印と重な
らないようにすることは簡単であるなどと主張するが,1審原告主張の方法で作成
すること自体は可能であったとしても,リポート5600では,相当程度困難であ
り(甲246,乙49),それなりの時間を要してまでも,内容の正確性が最も要
求される協議の議事録においてあえて用いたとは解し難い。
(ウ)知的財産部及び企画部技術総括室の記載について
本件議事録には,1審被告スチールの「知的財産部」に係る記載がある(甲20,
67)が,1審被告スチールに知的財産部が発足したのは平成2年1月からである
ことからすると(乙11),本件議事録作成当時における名称である「特許部」と
の記載がされていないことは不自然といわざるを得ない。
1審原告は,「知的財産」という用語は当時から存在しており,1審被告らの担
当者がそのような用語を用いたことなどから誤記された可能性を指摘するものであ
るが,1審被告らの担当者が自ら担当部署の名称を誤るとは考え難いし,1審原告
も,本件プログラムの著作権について協議相手が確認した担当部署については,重
大な関心を抱いていたものと解されるところである。しかも,昭和60年当時,
「知的財産」という用語は一般に周知されるに至っておらず(乙53,54),1
審原告と1審被告らとの間の誓約書においても「工業所有権」なる用語が用いられ
ていることからすると,1審原告の主張を採用することはできない。
また,同様に,1審被告スチールに企画部技術総括室が発足したのは昭和61年
4月であり(乙11),昭和60年1月10日に作成されたとされる議事録(甲2
0)に,同室に係る記載があることも不自然である。
(エ)著作権に係る記載内容について
本件議事録には,プログラムに係る権利が著作権により保護されることを前提と
した記載が随所にみられるところである。
しかしながら,プログラムに係る権利については,1審被告らが主張するとおり,
通商産業省が従来の著作権や特許権等による保護ではなく,新規立法による保護を
主張し,著作権法による保護を主張する文化庁との間で見解が対立していたところ,
改正後著作権法により,プログラム著作権として保護されるものと定められたもの
である。
これに対し,本件議事録の記載によると,1審原告は,プログラムに係る権利の
保護が著作権によることが法律により定められる前に,本件プログラムの著作権に
ついて再三主張していたことになる。
例えば,昭和60年1月10日に作成したとされる議事録(甲20)には,1審
被告物流が,しきりに1審原告が主張する著作権について,「知的財産部」に問い
合わせたところ,工業所有権と著作権とは明らかに別であるが,システム発注時に
ソフト制作費を納入業者から請求され,支払うのであれば問題ではないとの見解で
あったと回答した旨が記載されている。しかし,仮に,真実,1審被告物流が本社
の知的財産に関する部署に問合せをしたならば,プログラムに係る権利の具体的保
護態様についていまだ確定していない状況において,著作権による保護を前提とす
るような回答がされるとは解し難いところである。
しかも,昭和61年2月14日に作成されたとされる議事録(甲63)には,1
審被告物流の担当者が「ロムに「著作権法によりソフトの無断使用及びコピーを禁
じます」と言う1審原告の社名が入ったシールが張りつけてあるが,以前より話の
あった著作権の件でそうしてあるのか!」と発言した旨の記載があるところ,後記
のとおり,著作権シールが貼付された状態を撮影した写真(甲73,198)につ
いては,いずれも,昭和61年1月当時に撮影されたものではないとすると,その
写真は何か別の目的のために意図的に撮影されたものではないかという疑念が生じ,
著作権シール・日付シールが昭和61年1月当時貼付されていたことに疑問が生じ
るのみならず,ひいては甲63の上記記載内容についても,実際に1審被告物流の
担当者がそのような発言をして,その旨が記載された議事録が1審被告物流の確認
を受けたものであるか否かにつき,疑問を挟まざるを得ない。
したがって,本件議事録中の著作権に関する記載は,不自然であるというほかは
ない。
(オ)湯浅通信機との契約に係る記載内容について
本件議事録には,後に詳述するとおり,1審原告の主張によれば,湯浅通信機と
契約書を作成していたはずであるにもかかわらず,外注先との話合いがほぼ完了し
ている,湯浅通信機とは近々書面で合意するなどと回答している旨の記載(甲50,
63),湯浅通信機ではどうにもならないので,現在他のソフトハウス2社を入れ
ている旨の記載(甲56。ただし,1審原告が依頼したとされるワールドシステム
開発の存在が秘匿されている。)があるなど,内容面においても1審原告の主張と
矛盾する点が存在する。
(カ)本件議事録の作成者について
1審原告は,1審被告らから本件議事録は偽造されたものであるなどとの主張を
受け,さらに,実際に清書したり,ワープロ入力を担当した者について,具体的な
氏名等を明らかにするよう求められたが,これを明らかにしていない。1審原告は,
その理由として,作成に関与した者が多数にわたるのみならず,既に退職した者も
いることや1審被告らによる接触の可能性などを挙げるが,1審被告らが実際の作
成を担当したとされる者に対して偽造・変造の有無について確認することはむしろ
当然であって,一部の者ですら開示に応じないことは,なお不合理であるというほ
かない。
オ小括
そのほか,1審被告らは本件議事録の不審な点についてるる指摘するが,以上に
おいて指摘した事情に加え,後に詳述するとおり,1審原告が提出する湯浅通信機
との間の契約書等についても,その作成の真正が認め難いことなどを併せ考慮する
と,本件議事録のうち,原本が提出されているものについて,その成立はともかく,
写ししか提出されていないものについては,これに対応する原本の存在を認めるこ
とはできず,当該写しそれ自体の成立を認め得るとしても,その信用性は極めて低
いものというほかなく,前記記載部分のほか,以下の認定に供する部分を除き,1
審原告の主張を裏付ける証拠としてこれを採用することはできないといわざるを得
ない。
また,これと同様に,プログラム制作費用については内容に含まない旨を明記し
た見積書(甲78,84)についても,採用することはできない。
(2)決裁書について
ア1審原告は,1審被告物流作成とされる本件決裁書(甲119~121)を
文書として提出し,本件使用料支払契約成立の根拠とする。
イしかしながら,1審被告物流が1審被告スチールに取引口座を有しないとの
記載は誤りであるところ(乙4,5,丙162,163),1審被告物流が,グル
ープ企業間における事項につき,決裁文書で誤記するとは解し難い。同様に,本件
装置については,昭和60年9月30日になって1審被告スチールにおいて本社決
裁されたところ(乙1,丙2),甲119において,それ以前の同年8月19日に
は既に認可済みであるかのような記載をするとも解し難い。
また,本件プログラムが「予想をはるかに越える大掛かりなソフト開発に成る」
との記載については,1審被告らが当時そのような事実を認識していたことを認め
るに足りる的確な証拠はない。本件議事録が採用できないことは先に述べたとおり
である。仮に,そのような大掛かりなソフト開発費について,プログラム使用料名
下に本件5項目の代替措置を講じることについて,本件決裁書において決裁を求め
るのであるならば,後に詳述するとおり,開発費の概算すら1審被告らが把握して
いないことは明らかに不自然である。
ウそのほか,発足前の「本社知的財産部」との記載があること,1つの文書に
おいて1審被告スチール,1審被告物流の2つの会社に決裁を求めている点など,
不自然な記載がみられること,1審原告は,本件決裁書の写しの入手先を明らかに
しないことなどからすると,これに対応する原本の存在を認めることはできず,当
該写しそれ自体の成立を認め得るとしても,その信用性は乏しいものというほかな
く,これらを1審原告の主張を裏付ける証拠として採用することができない。この
点に関する原審における証人Eの供述についても同様である。
(3)1審原告と湯浅通信機との間の契約書及び見積書について
1審原告は,湯浅通信機から当初プログラムの著作権について譲渡を受けたと主
張し,湯浅通信機との間の契約書(甲115,214,252)及び見積書(甲2
88)を提出するところ,1審被告らは,これらの各文書も偽造・変造されたもの
であるなどと主張するので,以下,検討する。
ア契約書について
(ア)各契約書の印影について
1審原告が文書として提出する1審原告と湯浅通信機との間の当初プログラムに
関する第1次ないし第3次契約書(甲115,214,252)には,いずれも湯
浅通信機が1審原告に対して当初プログラムの著作権を譲渡する旨が明記されてい
るところ,各契約書に押印された湯浅通信機の代表者印は,いずれも同一の印影で
あるものと認められる。
また,甲220(湯浅通信機と労働組合との間の昭和60年6月14日付け和解
協定書)に押印された湯浅通信機の代表者印とも同一の印影であると認められる。
Lは,同印影について,湯浅通信機の真正印の印影であると述べる(原審における
証人L)。
しかるところ,上記各文書の湯浅通信機の代表者印とされる印影と,1審被告ら
が湯浅通信機の真正な印影であると主張し,1審原告も真正な印影であると認める
丙43(誓約書)における湯浅通信機の印影とを比較すると,外周円と文字との間
隔が明らかに異なる(丙44,77)。しかも,その差異は,原判決が指摘する印
面への朱肉のつき方,押印の際の圧迫の力の程度等の違いによって生じる程度の微
差であるということはできず,また,当時,湯浅通信機に代表印が2つあったこと
を認めるに足りる証拠もない。反対に,I専務は,原審における証人尋問において,
むしろ代表印が複数存在することを否定しているところである。さらに,丙43の
印影と,弁論の全趣旨によって成立が認められ,1審被告らも湯浅通信機の真正な
印影であると主張する丙88の2(根抵当権設定契約証書)の印影とは同一である
と認められるところ,丙88の2における湯浅通信機の代表印の印影と,第1次な
いし第3次契約書における印影との比較においても,同様に,相違が認められる。
以上からすると,上記各契約書における各印影のうち,少なくとも湯浅通信機の
代表印の印影は,湯浅通信機の真正な印章によって顕出されたものと認めることは
できない。
(イ)各契約書の作成経緯について
1審原告と湯浅通信機との間の取引契約書は,当初プログラムの著作権の譲渡と
いう同一内容(細部については相違がある)の契約書であるにもかかわらず,3通
作成されたものとして,それぞれ提出されている。
1審原告は,原審において,前記各契約書の作成経緯について,1審原告と湯浅
通信機とは,昭和60年11月15日,第1次契約書(甲214)を作成し,双方
で保管していたが,1審被告物流が1審原告・湯浅通信機間の契約書の提出を強く
求めたため,相談の上,取引金額等に関する箇所を削除した第2次契約書(甲11
5)を昭和61年3月3日に作成し,1審原告は,同月16日ないし17日ころ,
同契約書の写しを1審被告物流の鉄道課に持ち込み,同月19日付けの鉄道課受付
印,F,Gの確認印が押印されたものの写し(甲74の1ページ目を甲217に差
し替えたもの)を受領して保管していたなどと主張していた。
しかし,1審原告は,当審においてに,さらに,作成日付としては最も古い昭和
60年2月25日付けの第3次契約書(甲252)を提出した。1審原告は,同契
約書について,湯浅通信機における本件装置の開発責任者であったK(平成20
年3月12日死亡)の遺族が,同年8月30日,1審原告を訪れ,Kの遺品の中
に湯浅通信機における資料が残されていたので,役立つものがあれば利用してほし
いとして段ボール1箱分の資料を持参したところ,その中から発見したと主張し,
これと同旨の1審原告代表者の陳述書(甲254)を提出した。
もとより,1審原告は,当審において甲252に関する上記主張をするまで,こ
のような契約書が存在する旨について主張していない。しかも,Kが保管してい
たという書類は,平成10年8月ころ,湯浅通信機が破産した際に持ち帰ったもの
のようであるが(甲277),これに関与したLは,平成18年10月10日,
自らが保管していたとする本件装置に関する資料を1審原告代表者に手渡している
(甲210)。また,Kは,平成9年7月から1審原告において制御技術部門の
担当課長として勤務していたところ,平成14年ないし15年ころに本件装置の新
規制作において心労を重ねていたからか,平成16年2月4日に脳梗塞を発症した
ということである(甲254)。そうすると,平成14年ころに本件装置の改良に
ついて苦労していたKが,自ら保管していた開発過程に関する記録を活用しなか
ったとは考えられないところ,1審原告及び1審被告らは,遅くとも平成10年こ
ろから1審原告が受注するメンテナンス業務等に関して協議を続けていたのである
から,1審原告において湯浅通信機における本件装置の開発責任者であるKが勤
務していたにもかかわらず,交渉において,Kが持ち帰っていたはずの当該資料
の利用が検討されなかったとは解し難い。しかも,1審原告及び1審被告らは,そ
の後,本件装置に関する関係者に対する事情聴取を行っていたのであるから(甲2
10),いかにKが平成16年ころから脳梗塞により重篤な状況であったにせよ
(甲210,254,原審における証人L),本件装置の開発に深く関与していた
Kが保管していた資料について,その死後,遺族が持参するまで,探索が行われ
なかったなどということは,不自然であるというほかない。
また,1審原告が主張する上記各契約書の作成経緯は,1審原告が提出する本件
議事録等の文書の記載内容とも整合しない。
例えば,昭和60年11月5日に作成されたとする1審原告と湯浅通信機との協
議記録(甲229)には,I専務が,「しきりに1審原告代表者が言及するソフト
の著作権という権利についてはよくわからないが,湯浅通信機としては著作権など
どうでもよく,要するに名より実を取りたい。今まで湯浅通信機が要した制作費用
全額を1審原告が支払えば権利の全てを譲渡する。8月に湯浅通信機より1審原告
に提出している契約書(案)は,以前より1審原告代表者が主張していた著作権を
全面的に譲渡することを含んだものであり,これを届けているものである。1審原
告も早急に検討し,早く締結すればいい。」と発言した旨が記載されているが,甲
252(第3次契約書)は,上記協議に先立つ同年2月25日付けの契約書であり,
改正後著作権法によりプログラムに係る法的権利が著作権として保護されるものと
定められる前の段階で,既に著作権の譲渡について明記されているのであるから,
上記協議記録と上記契約書の記載内容とは明らかに矛盾するものといわなければな
らない。
また,昭和60年5月13日に作成されたとする議事録(甲39),同年8月2
7日に作成されたとする議事録(甲50)には,湯浅通信機との契約の事実につい
て説明がされた形跡はなく,昭和61年2月14日に作成されたとする議事録(甲
63)には,Gから湯浅通信機との間の権利処理について質問された際,1審原
告代表者は,「近いうちに書面で明確にする」旨回答した旨が記載されている。1
審原告は,本件装置の開発当初から,1審被告らに対し,プログラムの著作権につ
いては1審原告が保有すると繰り返し述べていたと主張しているところ,湯浅通信
機がプログラムの開発を行っていたことは1審被告らも十分認識していたのである
から,1審原告と湯浅通信機との間の契約について,これを秘匿したり,虚偽の事
実を回答する必要性は乏しいものである。特に,甲39において,I専務は,プロ
グラムの開発は湯浅通信機が単独で行い,その権利は同社が保有することについて
1審原告を通じて1審被告らの了解を得ているから,権利を取得できた場合の処理
については1審原告と十分協議することにしているなどと述べたとされているほど
である。
さらに,1審原告は,本件プログラムの開発費が予想以上に高騰し,開発費を使
用料等の何らかの形で支払ってもらわなければ本件装置の開発から手を引くなどと
述べていながらも(甲46),I専務と相談して,当初は契約書作成の事実すら秘
匿したのみならず,金額を秘匿するために,取引金額等に関する箇所を削除した第
2次契約書(甲115)を作成したなどと主張する。しかし,1審被告らの担当者
を説得するためには,湯浅通信機における開発費ですら約6000万円にものぼる
ことを,契約書等の参考資料を提示するなどして説明するなどの対応を講じること
がむしろ自然であると解される。しかも,取引金額が明示されていない第3次契約
書(甲252)は既に存在していたのであるから,あえて取引金額を秘匿するため
に第2次契約書(甲115)を作成する必要があったとも解されない。
以上からすると,1審原告が提出する上記各契約書は,いずれも,その作成経緯,
発見の経緯などが不自然であるというほかない。
(ウ)収入印紙について
1審原告が当初プログラムの著作権の承継に係る文書として提出した第2次契約
書(甲115)には,平成5年以降に使用されている収入印紙が貼用されているほ
か,本来,6万円の印紙を貼るべきところ,4000円しか貼付していない第1次
契約書(甲214)もある。このように,各契約書に貼付された収入印紙について
は,不自然な点がみられる(丙36の1~6,76の1・2)。
この点について,1審原告は,平成5年の1審被告物流の税務調査に対する反面
調査において不貼付を指摘されたため,顧問弁護士の助言により,印紙を貼付した
上で関係者の割印を得たなどと主張する。
しかしながら,1審被告らは,税務調査の事実自体を否定するものであって(丙
79),1審被告らに対する税務調査とこれに関連する1審原告に対する反面調査
が行われたこと自体,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
しかも,印紙税の消滅時効期間(5年又は7年)からすると,税務署において貼
付漏れを指摘するか疑問であるのみならず,税務署の指導や顧問弁護士の助言を受
けたのにもかかわらず,印紙税額の誤りについて指摘や是正がされなかったことは
明らかに不自然である(乙15)。
これに反する収入印紙に関する1審原告の主張も,採用することができない。
(エ)ワープロの字体等について
第1次契約書(甲214)の作成日付である昭和60年11月15日及び第2次
契約書(甲115)の作成日付である昭和61年3月3日ころに1審原告が使用し
ていたワープロは,リポート5600シリーズ及びリコー350Gであるところ
(甲192の1・2),各契約書に印字されている「り」の字体(ひと筆書きのも
の)は,リポート5600を含むリコーのワープロをOEM製造していた日立製作
所の製造するワープロによっては作成することができないこと(乙6,11,12,
16),富士通の調査によると,富士通製のワープロについては,甲214の
「り」の字体は昭和63年6月以降の機種で作成可能であること(乙9,11),
甲115に使用されている文字フォントは,24×24ドットを上回る解像度のフ
ォントであるが,これらのフォントの印字,N倍角文字,スーパーアウトラインフ
ォント機能等は,昭和60年ないし61年当時のワープロには存在しなかった機能
であること(乙6,9,11,12,16)からすると,本件議事録と同様に,そ
の作成時期については,なお疑問が残るものである。
1審原告は,原審において,上記契約書の作成経緯について,前記(イ)のとおり
主張するにとどまり,原判決がその可能性を指摘する日付を遡らせて作成したこと
について,当審において明確に主張していない。また,1審原告は,「り」の字体
は,外字登録機能により作成して登録し,出力していたし,「総」の字体は,部首
コード入力,仮名コード入力と入力方法を使い分けるといずれの字体も出力可能で
ある,重要な書類等の表紙は印刷業者に依頼し,これをコピーして使用していたな
どと主張する。
しかしながら,「り」及び「総」の字体については,その主張が不自然であるこ
とは,先に指摘したとおりである。そのほか,1審原告が主張する各種方法につい
ては,そのような方法によればそのような出力が可能であるという余地が認められ
る程度にすぎず,当時,実際に当該方法が採用されていたかは不明であり,上記各
契約書は,当時,1審原告が使用していたワープロでは作成困難であった可能性が
高いというべきである。
また,契約書の表紙のみを外注する合理的理由も乏しく,このような主張は不自
然であるというほかない。
イ見積書について
1審原告が文書として提出する湯浅通信機名義の各見積書(甲234,288)
に押印された湯浅通信機の会社印は,いずれも同一の印影である認められる。
弁論の全趣旨によって成立が認められ,1審被告らも真正な印影であると主張す
る湯浅通信機の領収証(甲236の1・2)の印影と各見積書の印影とを比較する
と,外周線と各文字がそれぞれ一致しないものであり,特に,甲288の印影の各
文字は領収証の印影と比較して縦長であり,「会」の文字は明らかに異なるもので
ある(丙221の1・2)。そして,その差異は,印面への朱肉のつき方,押印の
際の圧迫の力の程度等の違いによって生じる程度の微差であるということはできな
い。I専務も,同見積書(甲288)の形式,内容のいずれも虚偽のものであり,
湯浅通信機が作成したものではないとする(丙205,222)。
以上からすると,上記見積書における湯浅通信機の会社印の印影は,湯浅通信機
の真正な印章によって顕出されたものと認めることはできない。
そして,同見積書は,当審において文書として提出されたものであるところ,1
審被告らは,原審から一貫して,本件プログラムの開発に多額の費用を要したこと
を否認し,湯浅通信機に対しても多額の開発費が支払われたものではないと主張し
ていたところ,1審原告は,原審におけるI専務の証人尋問の際,弾劾証拠として
湯浅通信機の請求書(甲235の1・2)及び領収証(甲236の1・2)を提出
しながらも,同見積書については,当審に至るまで文書として提出していない。し
かも,21万4250円(甲235の1,236の1)及び57万2000円(甲
235の2,236の2)という比較的少額の請求については,請求書及び領収証
が保存されているのに,1審原告が何としてでもその著作権を確保したかったプロ
グラムに関する領収証などが保存されていないのは,不自然であるというほかない。
また,本件プログラムの開発費がかさんだことを裏付けるために,1審原告が1
審被告らに対し,上記見積書を提示した形跡がないことは,1審原告と湯浅通信機
との各契約書について先に指摘したことと同様に,不自然であるというほかない。
この点について,1審原告は,1審被告らが本件プログラムの開発費に係る見積
書の提出を許さなかったなどと主張し,本件議事録には,1審原告代表者が,3社
もソフトハウスを使って完全なソフトにしようと努力し,ほぼめどが立っているが,
その費用は莫大なものであると説明したところ,見積書を至急提出させたらどうか
という意見が出たが,Fが,見積書を提出させた場合,支払をしなければならない
ということになるし,今後の取引等で,徐々に使用料のつもりで支払う以外は当面
考えていないなどとしてこれを制した旨の記載もある(甲63)。
しかしながら,本件議事録の記載を前提とすると,1審被告らの担当者は,本件
装置については事情により他社の競合見積書を取得できないから,1審原告の見積
りが適正か厳しくチェックする必要があると述べたとされているものであり(甲4
6,52),また,1審原告は,プログラムに係る法的権利は1審原告又は湯浅通
信機において確保するために,1審被告らからのプログラマーの派遣を拒絶したも
のとされているものである(甲39)。本件装置の開発を発注した1審被告らが,
本件プログラムの開発費に重大な関心を抱くことは当然であるところ,1審被告ら
によるプログラム開発に関する協力要請を1審原告が拒絶するなど,1審被告らと
しては,1審原告におけるプログラム開発の実情について必ずしも正確に把握して
いたものともいえない状況において,1審原告が一方的かつ抽象的に莫大であると
述べるのみで納得し,具体的な開発費の詳細について口頭での説明すら求めなかっ
たとは到底解し難いところである。
ウ小括
以上からすると,湯浅通信機との当初プログラムの取引に係る第1次ないし第3
次契約書(甲115,214,252)及び見積書(甲288)については,その
うち湯浅通信機作成部分についてはいずれもその成立の真正を認めることができず,
1審原告作成部分については,当該原本の成立は認められるとしても,その信用性
はいずれも乏しいものというほかなく,これらを1審原告の主張を裏付ける証拠と
して採用することはできない。
(4)1審原告とワールドシステム開発との間の契約書等について
1審原告は,ワールドシステム開発が当初プログラムの改良に関与したと主張し,
ワールドシステム開発との間の契約書,報告書,誓約書を提出するところ,1審被
告らは,これらの各文書も偽造・変造されたものであるなどと主張するので,以下,
本件プログラムの完成時期を踏まえ,検討する。
ア本件プログラムの完成時期について
(ア)1審原告は,当初プログラムの改良をワールドシステム開発に依頼し,遅
くとも昭和61年3月ころまでに最終的に当初プログラムを原著作物とする2次的
著作物である本件プログラムを完成させたと主張し,昭和60年10月1日付けソ
フトプログラム開発・製作及び修正契約書(甲116),同年11月から昭和61
年4月までの日報集計報告書(甲286の1~7),昭和61年4月25日付けの
誓約書(甲266)を文書として提出する。
しかしながら,1審原告は,当審において,1審原告が著作権を有することの確
認を求める本件プログラムのソースコードとして,昭和61年12月に改良し,完
成したと推認されるソースコード(甲291,292)を提出するところ,これは,
ワールドシステム開発が関与していたと1審原告が従前主張していた時点において
は,いまだに完成していなかったものである。
(イ)1審原告は,Xという者からの紹介でワールドシステム開発に依頼した,
連絡先については代表者であるWの大阪の電話番号しか知らない,ワールドシス
テム開発は,本件装置が稼働する予定の現場に立ち会う必要があるなら依頼を受け
ないなどと述べたため,製鉄所に来たことはなかった,プログラムの開発場所は主
として1審原告の旧工場跡の事務所で,岡山市内の知人宅において開発を行ってい
たこともあったようであるが,場所まではわからないなどと説明し(原審における
1審原告代表者),実際,誓約書(甲266)には,Xを通じて連絡が取れるよう
にする旨の記載があるが,1審原告の主張を前提とすると,約6000万円を投じ
たという湯浅通信機における当初プログラムの修正を迫られるという重大な状況に
おいて,取引実績もなく,素性や開発場所すら不明な技術者集団に対して当初プロ
グラムの改良を依頼し,その対価として,合計1537万8000円も支払ったこ
とになるが,このような経緯は明らかに不自然であるというほかない。
(ウ)1審原告は,本件装置を稼働させる現場におけるノイズなどの異常が原因
で,本件プログラムの開発は困難を極めたなどと主張しており,実際,現場におい
て実験機を用いた実験が繰り返された。1審原告が昭和61年12月19日に作成
したとする社内工数実績集計表(甲287)においても,昭和59年7月11日か
ら昭和61年2月22日までの間における「現場での各種事前調査及び各パターン
でのソフトによるテスト運転,並びに異常発生調査実施の部」において,合計12
27万9549円が計上されている。
そうすると,当初プログラムの改良においては,現場における作業が必要不可欠
であったと推認されるところ,従前の開発業者では解決困難な問題を解消するため
にプログラムの改良を依頼された業者が当該現場における作業を拒否するなどとは
およそ考え難いし,本件議事録において,複数のソフトハウスの存在について言及
している1審原告が現場における立会を拒否する業者に依頼をするとも考え難いと
ころである。また,上記1審原告に係る本件プログラムに関連する社内工数実績集
計表(甲287)において,開発費(総額1611万6413円)のうち,ワール
ドシステム開発のソフト制作立会い及びシュミレーション立会い費用(昭和60年
11月1日ないし昭和61年3月31日までの約5か月間)として,1審原告代表
者に関して,昼間の立会い及び打合せにつき,68.75時間(1時間当たり53
75円として36万9531円),深夜の立会い及び打合せにつき115.75時
間(1時間当たり7190円として83万2243円)の合計120万1774円
が計上されているが,ワールドシステム開発の作業場所自体を十分には把握してい
なかったという1審原告が,同開発との間で,これほど長期間の立会い及び打合せ
を行うことができたかはなはだ疑問であるというほかない。しかも,1審原告代表
者は,ワールドシステム開発は,誓約書(甲266)記載のとおり,1年間は若干
のトラブルに対応してくれたなどと説明するが(甲256),本件プログラム完成
後の昭和61年12月19日に作成したとされる社内工数実績集計表において,同
年4月1日以降,1審原告代表者がワールドシステム開発と協議,打合せをしたこ
とは記載されておらず,少なくともワールドシステム開発が同年12月における本
件プログラムの改良に関与したものとは認め難いといわざるを得ない。
(エ)さらに,1審原告は,プログラマーに対する過剰な干渉を避けるために,
1審被告らにはワールドシステム開発の関与を秘匿しており,1審被告らに対する
報告はMを通じて行った(丙8)などと主張するが,1審原告は,湯浅通信機で
はどうにもならないので,現在,他のソフトハウス2社を入れているとする昭和6
0年10月23日に作成されたとする議事録(甲56)を提出しているし,そのほ
か,本件プログラムの著作権については1審原告が保持すると再三主張していたな
どと主張するのであるから,1審原告自身が連絡すらままならず,開発場所も不明
確なワールドシステム開発が開発に関与していることを1審被告らに伝えたとして
も,1審被告らの過剰な干渉を招くおそれはないというべきである。実際,甲39
の議事録には,1審原告が1審被告らのプログラマー派遣要請を拒絶したとされて
いるものである。開発費の高騰を主張するのであれば,むしろ委託先への支払を要
した費用を明らかにすることが自然であることは,先に湯浅通信機に関して述べた
とおりである。
(オ)以上からすると,ワールドシステム開発に当初プログラムの改良を依頼し
たという経緯や関与形態に関する1審原告の説明は,不自然であるというほかない。
Lも,本件装置の開発に携わっていたにもかかわらず,ワールドシステム開発の
関与や湯浅通信機との引継ぎなどについて,当時,プログラム開発を引き継ぐ業者
がワールドシステム開発であることは知らされておらず,引継ぎはKが行ったも
のと思われるが,プログラム制作を担当していたMは,引継ぎの現場には立ち会
っていないなど,原審における証人尋問においてあいまいな供述をするにすぎない。
イソフトプログラム開発・製作及び修正契約書について
1審原告は,ワールドシステム開発の関与を裏付ける文書として,ソフトプログ
ラム開発・製作及び修正契約書(甲116)を提出する。
しかしながら,同契約書には,ワールドシステム開発の代表者ほか4名の署名押
印があるほか,代表者印が押印されているものの,ワールドシステム開発の住所及
び連絡先が記載されていない。また,同契約書には,平成5年以降に使用されてい
る収入印紙が貼用されている(丙36の1~6,76の1・2)。
この点について,1審原告は,湯浅通信機との間の契約書と同様に,平成5年の
1審被告物流の税務調査に対する反面調査において不貼付を指摘されたため,顧問
弁護士の助言により,印紙を貼付した上で関係者の割印を得たなどと主張する。
しかしながら,反面調査が行われたこと自体が不明であること,印紙税の消滅時
効期間からすると,税務署において貼付漏れを指摘するかが疑問であることは,先
に湯浅通信機との間の契約書について指摘したとおりである。
また,1審原告代表者は,ワールドシステム開発の代表者であるとされるWか
ら割印を取得した経緯について,Wの電話連絡先に連絡をしたが通じず,連絡が
取れなかったところ,平成6年7月ないし9月ころ,1審原告の取引先が外注を依
頼した会社にワールドシステム開発のメンバーを見つけてWの消息を聞き,他の
メンバーを通じるなどして当時横浜で仕事をしていたWと連絡を取り,横浜市内
でワールドシステム開発の代表者印の割印を得たなどと説明するが(甲219),
このような複雑な経緯を裏付ける証拠は存在しない。
そうすると,同契約書は,平成5年以降に作成された可能性を否定できず,その
信用性は乏しいものというほかない。
ウ小括
以上からすると,ワールドシステム開発との当初プログラムの取引に係る契約書,
報告書及び誓約書(甲116,286の1~7,266)についても,少なくとも
1審原告作成部分については当該原本の成立は認められるとしても,その信用性が
乏しいものというほかなく,これらを1審原告の主張を裏付ける証拠として採用す
ることはできない。
(5)その余の文書について
1審被告らは,以上の文書のほかにも,1審原告の提出する文書について,偽
造・変造されたものであるなどと主張して,その形式的及び実質的証拠力を争うが,
次の著作権シールに関する文書を除き,原本あるいは写しとしての形式証拠力を認
めることができ,かつ,その認定の限度で実質的証拠力も認められるので,1審被
告らの主張は採用しない。
(6)著作権シールについて
ア1審原告は,本件プログラムの著作権を有していることを示すために,本件
装置の納入時から,本件プログラムの複製物であるロムが格納されているCPUボ
ックスに,「著作権法によりソフトの無断使用及びコピーを固く禁じます。」など
と記載した1審原告の著作権を明示する及び日付を明記したシールを貼付していた
などとして,当該シールの写真を文書として提出する(甲73,198)。
イしかしながら,1審原告が当初提出した写真(甲73)については,1審被
告らから,当該写真に写っている水晶発振器は,その表示からして平成3年の第9
週以降に製造されたものであるから,甲73はそれ以後の写真であるとの指摘がさ
れたため,1審原告は,記録写真の数が多いので甲73は誤って提出したものであ
ると説明し,同様の写真である甲198を提出し,甲198は数多い記録写真の中
から昭和61年1月に撮影された真正なる写真を発見したものであると説明した。
これに対し,T回答(乙20,23)によると,上記各写真はいずれも1審原告が
説明する作成日付には存在しない部品が写っているものであり,その当時,著作権
シールが貼付されていたことを認めることはできない。
この点について,1審原告は,当該部品であるICチップの番号表記について文
書(甲237の1,238の3)を提出するとともに,1審被告らと取引関係があ
る会社によるT回答は信用性に乏しいなどと主張するが,同回答は,被写体たる
ICチップを製造したメーカーの事業を承継した会社が,当該ICチップの情報管
理を現在も行っているという立場でした回答であり,これを誤りとする根拠は見当
たらない。
しかも,1審原告は,甲73の写真は,平成3年以降撮影されたものであるが,
その撮影の際に,「61年1月20日」というシールを貼付して撮影したところ,
同写真を昭和61年1月撮影の写真と取り違えたと主張するが,この点について,
1審原告代表者の陳述書(甲199)によれば,「数多い記録写真の中から…発見
するに至った」と説明する一方で,原審における同代表者尋問においては,現在残
っている写真について,2枚以外にはわずかしか残っていないのではないかと思う,
ネガも残っていないなどと述べているものであって,わずかしか残存していない写
真を取り違えた経緯,どのようにして真正な撮影年月日を確認したのかについても
疑問が残る。1審原告は,メンテナンスの際に一旦シールを取り外すが,納入日を
明らかにするために,納入日を記載したシールを貼付したなどとも主張するが,1
審原告代表者の上記説明に照らすと,採用することはできない。
ウ以上からすると,著作権シールが昭和61年1月20日当時,本件装置に貼
付されていたものと認めることはできない。
7本件使用料支払契約の成否について
1審原告は,1審原告が本件プログラムの著作権を有することを前提に,1審被
告らとの間で本件使用料支払契約が成立したと主張するが,その主張が失当である
ことは前記説示のとおりであるが,本件においては,本件プログラムの著作物性の
有無はさておき,以下のとおり,1審原告主張の本件使用料支払契約に係る合意の
成立それ自体を認めることができないものである。
(1)本件使用料支払契約の締結に至る経緯
ア1審原告は,本件プログラムの開発費が多額(約9135万円)にも及んだ
ため,1審被告らから本件プログラムの開発費について支払を受けられないのであ
れば,使用料という形式での支払を求めたところ,1審被告らから本件5項目の代
替措置について提案され,仕方なく合意したなどと主張する。
本件プログラムの開発費については,前記6のとおり,湯浅通信機との間で当初
プログラムについて約6000万円での契約が成立したこと及びワールドシステム
開発による関与について原告が提出した各文書(甲115,116,214,25
2,286の1~7,288)については,その信用性が乏しいものというほかな
く,これらを1審原告の主張を裏付ける証拠として採用することはできず,これを
前提とする1審原告の人件費等に係る費用を含め,本件プログラムの開発費として
真実約9000万円が必要であったかは不明である。
また,1審原告が提出する昭和60年6月26日に作成されたとされる議事録
(甲46)には,本件プログラムの開発費の総額は不明であるが,1審原告の受注
額だけでも3億円をかなり超える金額になるのではないかとの見通しを述べている
が,本件プログラムの開発費に関する見積書などが1審被告らに提出された形跡は
ないことは,前記6のとおりである。
この点について,本件議事録には,1審被告らから1審原告に対し,プログラム
の開発費を除外した上で見積書を提出するように指示された旨の記載があるが(甲
39,46,51,52,57,60,63),1審原告がプログラムに係る開発
費が多額に及び,場合によっては本件装置の開発から手を引くなどと主張したこと
を受けて,1審被告らが本件5項目の代替措置を講じたのであるならば,見積書に
記載しないまでも,1審被告らとの協議において,1審原告から開発費に関する具
体的な説明がされてしかるべきであるが,そのようなことがされた形跡は,偽造・
変造のおそれが否定できない本件議事録にすら,記載されていない。
イ特に,本件議事録には,昭和60年6月26日の協議において,1審原告代
表者が,「専門家に聞くと,ソフト諸費用についてはソフト使用料として毎月又は
年間額で支払っていただく方法もあるとの事である。」と発言したものとされ(甲
46),さらに,同年8月27日の協議において,1審被告物流から一括してソフ
トの制作費を支払う状況にないことから,本件5項目の代替措置について提案があ
り,1審原告代表者も,「提案の5項目で具体的にどの位のソフト使用料が回収出
来るのかさっぱり具体性がないが…本日提案の5項目中で,かなりの金額がクリア
出来る期間については我慢をする事とする。」などと回答したとされている(甲5
0)。
しかしながら,甲46及び52の議事録に,1審原告の見積りが適正か厳しくチ
ェックする必要があると述べたと記載されている1審被告らの担当者が,先に述べ
たとおり,本件プログラムの開発費が予想外に高騰していることについて,1審原
告が一方的かつ抽象的に莫大であると説明するのみで了承し,開発費について口頭
における説明すら求めなかったとは到底解し難い。仮に1審原告が主張するとおり,
本件プログラムの開発が予想以上に難航し,開発費が高騰したとしても,1審被告
らとしては,その原因が1審原告及び湯浅通信機にあるのであれば,当然,開発費
の増加分は1審原告にその負担を求めることが通常であると推測される。実際,1
審原告は,議事録ルール制定の契機となったビレット輸送船自動ラックに生じた不
具合について,オイルレスメタルを選択したことに関する責任の所在等が問題とな
ったところ,1審原告の反対にもかかわらず,1審被告スチールがオイルレスメタ
ルを使用するように指定したことが原因であると1審原告が説明したが,1審被告
らは,これを1審原告の責任であるとして,1審原告が責任を負うように要求した
などと主張するものである。
そうすると,湯浅通信機では不具合に十分対応できなかったことが,本件プログ
ラムの開発費が高騰した要因として挙げられたのであれば,当然,同社に開発を委
託したこと自体が適切であったか否かを含めて検討されるべきものと推測される。
ウまた,1審原告は,本件プログラムの開発費について,使用料の支払という
形式で支払を受けることとし,当該支払に代えて本件5項目の代替措置が履行され
ていたところ,1審被告らは,5ないし7年後のリプレイス時においてプログラム
に関する費用については根本的な解決をするものとされていた(本件決裁書)と主
張する。
そうすると,1審被告らとしては,本件5項目の代替措置を講じる前提として,
本件プログラムの開発費の総額を確定した上で,使用料相当額を定め,少なくとも
これと見合う程度の本件5項目の代替措置を提供し,さらに,リプレイス時におい
て精算されるべき費用見込みを確定させる必要があるものということができる。本
件議事録には,1審被告物流担当者が本社の「知的財産部」に問い合わせたところ,
工業所有権と著作権とは明らかに別であるが,システム発注時にソフト制作費を納
入業者から請求されて支払うのであれば問題はないとの見解であったと述べていた
り(甲20),1審原告がソフトの法的権利云々について主張しているが,1審被
告物流がソフトの開発費を支払えばそのような権利については問題にならないと考
えていると述べている旨が記載されているのである(甲39,48)。そうすると,
本件議事録の記載によると,1審被告らは,開発費を支払わなければ1審原告との
間でプログラムに関する権利問題が生じる可能性があることを十分認識していたこ
とになるのであって,開発費の概算すら要求しなかったとは考え難い。本件議事録
及び本件決裁書には,本件プログラムの開発が難航していることにより,開発費の
総額が不明である旨の記載が散見されるが,少なくとも一定時期における開発費が
明らかにならなければ,使用料相当額を支払う旨の合意をすることは困難であるし,
1審被告らにおいて内部決裁を求めることすら不可能であると解される。
しかも,本件プログラムの使用料の支払を求めた平成10年以降の協議において
は,開発費の総額は確定していた(1審原告主張によると,約9000万円)とい
うのであるから,当該協議においてすら,当初から具体的な説明がされていないの
は不自然であるというほかない。
(2)本件装置の納入代金と1審原告主張の使用料額との対比について
ア本件プログラムは,本件装置の制御に係るプログラムであるところ,1審原
告は,本件装置全体の納入について受注し,合計2億1027万6027円の支払
を受けている。
イ前記金額について,1審原告は,1審被告らから不当に値引きされた金額で
あると主張するところであるが,仮にそうであったとしても,特にプログラムの著
作権の概念が明確化されていない時期において,製鉄所や工場等で稼働するシステ
ム全体を納入する際における通常の当事者の意思としては,当該システムを制御す
るプログラムについては,当該システムに従たる無体物であるとして,その著作権
あるいは包括的な実施権を含めて譲渡するものと解するのが相当であって,年度ご
とにシステムの使用者が得られる利益に基づいて使用料を算定するという方式は,
通常は採用されるものではないというべきである。
ウそうすると,本件プログラムの使用料として,本件装置により1審被告スチ
ールが得られる利得である年間6億円の2分の1に相当する3億円であるとする1
審原告の主張は,本件装置全体の納入価格を超える使用料を1審被告らが毎年継続
して支払うことを意味するのであるから,このような使用料について何らの契約書
も作成されることなく支払合意がされ,それを前提に本件5項目の代替措置に係る
合意が成立したとは到底解し難い。
(3)本件5項目の代替措置の内容について
ア1審原告の主張する本件5項目の代替措置は,本件プログラムの開発費を本
件プログラムの使用料として1審被告らが支払うべきところ,これを本件5項目の
代替措置により履行されるものというのである。
そうすると,先に述べたとおり,本件プログラムの開発費の総額がどの程度か,
使用料は年額どの程度として換算するか,代替措置によって1審原告が回収し得る
金額は年間どの程度かを検討した上でなければ,合意に至ること自体,困難である
と解される。
しかも,開発費を一時的に支払うことができないことを理由に,使用料の支払を
求め,さらにそれを代替措置による方式で支払うというのであるならば,開発費総
額と支払われる使用料額との権衡についても考慮する必要があるはずである。1審
原告は,本件プログラムの開発費として,1審被告らに粗利100パーセントを加
えた2億円前後を請求することになったものと思われると主張するのであるから,
仮に本件5項目の代替措置が履行されない場合に,年間3億円もの使用料の支払が
可能となるというのであれば,明らかに対価的権衡を欠くものといわざるを得ない。
それにもかかわらず,1審原告と1審被告らとの間で,このような検討がされた経
緯は何らうかがわれない。
イこの点について,1審原告は,他の下請業者との間で受注競争をしなくても
よいだけで1審原告にとってはメリットがあったなどと主張するが,1審被告らか
ら支払われる対価に開発費が上乗せされていたわけではないと1審原告も主張して
いるのであるから,これでは実質的に開発費の回収すら実現していなかったのであ
って,本件プログラムの開発に当たり,開発費の支払を強く求めていたという1審
原告の態度と矛盾するものというほかない。
ウ1審原告は,そのほか,本件5項目の代替措置は,平成10年12月末ころ
までは実際に講じられていたなどとも主張する。
しかしながら,本件装置は1審原告が納入したものであるから,メンテナンス等
についてはノウハウを有する1審原告に発注したとしても不自然ではない。
また,本件装置の開発に係る1審原告の貢献に考慮して,1審被告らが1審原告
を事実上優遇したとしても,やはり不自然ではない。もとより,1審原告が主張す
る内容の本件5項目の代替措置に係る合意が1審被告らとの間で成立していたとい
うのであれば,担当者レベルの口頭における合意ではなく,代表権限を有する者に
よる正式な契約書が作成されてしかるべきであることは,むしろ当然である。
エしたがって,1審原告の主張は,いずれも採用できない。
8結論
以上の次第であるから,原判決中,本件プログラムの著作権に係る確認請求を認
容した部分は,相当でなく,1審被告らの控訴に基づき,取り消されるべきもので
あり,また,本件プログラムの著作権に係る金銭請求を棄却した部分は,相当であ
って,1審原告の控訴は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光
(別紙)
プログラム目録
トレックス-PB装置(混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置)のうち,デ
ィーゼル機関車(DHL車)及び貨車(TC車)の各制御装置に格納されたプログ
ラム一式

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