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平成28年7月20日判決言渡
平成27年(行ケ)第10185号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年7月4日
判決
原告株式会社シロク
訴訟代理人弁護士永島孝明
安國忠彦
朝吹英太
安友雄一郎
野中信宏
訴訟代理人弁理士若山俊輔
被告アップルインコーポレイテッド
被告AppleJapan合同会社
代表者代表社員アップルオペレーションズ
インターナショナル
2名訴訟代理人弁護士長沢幸男
矢倉千栄
蔵原慎一朗
2名訴訟代理人弁理士大塚康徳
2名訴訟復代理人弁理士大塚康弘
木村秀二
江嶋清仁
大戸隆広
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が無効2014-800005号事件について平成27年8月11日にし
た審決中,特許第3867226号の請求項1,2,4及び6に記載された発明に
ついての特許を無効とするとの部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審決に対する取消訴訟である。争点は,①訂正請求書の補正(特
許法134条の2第9項で準用する同法131条の2第1項)の可否,②訂正請求
(特許法134条2第1項ただし書)の適否,③新規性・進歩性判断(特許法29
条)の誤りの有無及び④先願発明との同一性(特許法29条の2)の有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「複数の指示部位で操作可能なタッチパネルシステム」とする発
明について,平成12年2月15日に特許出願(特願2000-36317号)を
し,平成18年10月20日,その設定登録(特許第3867226号,請求項の
数20)を受けた(本件特許)。(甲17)
被告が,平成26年1月9日に本件特許の請求項1,2,4及び6に係る発明に
ついての特許無効審判請求(無効2014-800005号)をしたところ(甲1
8),特許庁が平成27年1月21日付けで本件特許の上記各項に係る発明について
の特許を無効とするとの審決の予告をしたので(甲19),原告は,同年3月30日
付けで本件特許の請求項1,2,4及び6の訂正請求(本件訂正)と請求項1の従
属項である請求項3,5,7~9及び10を請求項1の記載を引用しない独立項に
訂正する訂正請求をした。(甲20,21)
これに対して特許庁が訂正拒絶理由を通知したことから(甲23),原告は,平成
27年6月11日付け手続補正書で,本件訂正に係る訂正請求書及び訂正明細書の
補正(本件補正)をした。(甲25)
特許庁は,平成27年8月11日,本件補正を却下し,また,本件訂正を認めず,
「平成27年3月30日付け訂正請求に係る,請求項3,5,7,8,9,10に
ついての訂正を認める。特許第3867226号の請求項1,2,4,6に記載さ
れた発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月20日,
原告に送達された。
2本件発明の要旨
設定登録時の本件特許の請求項1,2,4及び6に係る発明(以下,請求項の番
号に従って「本件発明1」のようにいい,本件発明1,本件発明2,本件発明4及
び本件発明6を併せて「本件発明」という。)の各特許請求の範囲の記載は,次のと
おりである。
(1)本件発明1
「情報処理装置と,該情報処理装置に接続され,複数の指示部位を有する指示体
による入力検出面へのタッチ動作を前記情報処理装置へ伝えるための,前記入力
検出面にタッチされる指示部位の指示位置を検出する位置検出手段を備えたタッ
チパネルとを有するタッチパネルシステムであって,該タッチパネルシステムは,
前記タッチパネルの入力検出面に同時に又は順にタッチされる指示部位の数を
カウントするカウント手段と,
前記位置検出手段により検出される複数の指示部位のうち最外端にある2個所
の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段と,
前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて,前記距離算出
手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化に応じて前
記情報処理装置が所定の動作を行うようにする制御手段と,
を具備することを特徴とする複数の指示部位で操作可能なタッチパネルシステ
ム。」
(2)本件発明2
「請求項1に記載のタッチパネルシステムであって,前記カウント手段は,該複
数の指示部位が隣接しているときは1つの指示部位がタッチされたものとして指
示部位の数をカウントすることを特徴とする複数の指示部位で操作可能なタッチ
パネルシステム。」
(3)本件発明4
「請求項1に記載のタッチパネルシステムであって,前記制御手段は,前記位置
検出手段により検出される複数の指示部位の指示位置のうち最初若しくは最後に
タッチされる指示位置を,指示部位の指示位置として前記情報処理装置が所定の
動作を行うようにすることを特徴とする複数の指示部位で操作可能なタッチパネ
ルシステム。」
(4)本件発明6
「請求項1に記載のタッチパネルシステムであって,前記情報処理装置の所定の
動作とは,指示部位の指示位置を最初にタッチした位置に静止しておく動作を含
むことを特徴とする複数の指示部位で操作可能なタッチパネルシステム。」
3審決の理由の要点
以下,本件の争点に関連する部分について摘示する。
(1)本件補正の可否及び本件訂正の適否について
審決は,請求の趣旨の要旨の変更に当たるとして本件補正を認めず,これを前提
に本件補正前の本件訂正の適否について検討した結果,本件訂正は,特許法134
条の2第1項ただし書各号に規定する事項を目的としていないとして,本件訂正も
認めなかった。
ア本件訂正の内容
本件訂正は,本件発明1の下記①の構成(訂正前構成)を(本件発明1を引用す
る本件発明2,本件発明4及び本件発明6も同様の訂正となる。),同②のとおりの
構成(本件訂正に対する関係では,「訂正後構成」と,本件補正に対する関係では,
「補正前構成」という。)に訂正するものである(削除された部分を<>で,付加
された部分を[]と下線で示す。)。
①訂正前構成
「前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて,前記距離算出
手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化に応じて前
記情報処理装置が所定の動作を行うようにする制御手段と,」
②訂正後構成(補正前構成)
「<前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて,>前記距離
算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化[,及び
前記カウント手段により前記一定の時間においてカウントされる指示部位の数又
は該数の過渡的な変化]に応じて[,特定の時間において算出される指示位置の間
の距離又は該距離の過渡的な変化,及び前記特定の時間においてカウントされる
指示部位の数又は該数の過渡的な変化に対応した所定の動作から選ばれる所定の
動作を,]前記情報処理装置が<所定の動作を>行うようにする制御手段と,」
イ本件補正の内容
本件補正は,訂正後構成を,下記③のとおりの構成(補正後構成)に補正するも
のである(削除された部分を<>と波下線で示す。)。
「前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な
変化,及び前記カウント手段により前記一定の時間においてカウントされる指示
部位の数<又は該数の過渡的な変化>に応じて,特定の時間において算出される
指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化,及び前記特定の時間においてカ
ウントされる指示部位の数<又は該数の過渡的な変化>に対応した所定の動作か
ら選ばれる所定の動作を,前記情報処理装置が行うようにする制御手段と,」
ウ本件補正の可否
①訂正事項の内容の一部を削除する補正は,その要旨を変更するものである。
②(指示部位の)「数」という文言により表される概念と,(指示部位の)「数の
過渡的な変化」とういう文言により表される概念とは相互に異なり,前者は後者
を内包していないから,本件補正によって本件発明の内容に実質的な変更が生じ
ないとはいえない。
③したがって,本件補正は,特許法134条の2第9項で準用する同法131
条の2第1項の規定に違反し,訂正後構成の補正は認められない。
エ本件訂正の適否
要件の組合せが,訂正前構成においては,①「指示部位の数」に加えて「指示位
置の間の距離」,又は,②「指示部位の数」に加えて「指示位置の間の距離の過渡的
な変化」という2つであったが,訂正後構成においては,①「指示位置の間の距離」
及び「指示部位の数」,②「指示位置の間の距離」及び「指示部位の数の過渡的な変
化」,③「指示位置の間の距離の過渡的な変化」及び「指示部位の数」,又は,④「指
示位置の間の距離の過渡的な変化」及び「指示部位の数の過渡的な変化」という4
つとなり,本件訂正は,「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただ
し書第1号),「誤記又は誤訳の訂正」(同項ただし書第2号)及び「明瞭でない記載
の釈明」(同項ただし書第3号)のいずれにも該当しない。
(2)新規性・進歩性判断及び先願発明との同一性について
ア証拠方法及び無効理由
甲1:国際公開第99/38149号
甲2:特開平7-230352号公報
甲3:特開平11-119911号公報
甲4:特開平9-146708号公報
甲5:特開2000-163031号公報
以下,甲1~甲5に記載の発明を,証拠番号に従い,それぞれ,「甲1発明」のよ
うにいう。
本件の争点に関連する無効理由(審決が無効と判断した無効理由)の要点は,下
表のとおりである。番号については,裁判所で付した。
番号対象発明主引用発明理由
1本件発明1甲1発明本件発明1は,甲1発明である。
2本件発明1は,甲1発明から容易に発明することができた。
3甲2発明本件発明1は,甲2発明から容易に発明することができた。
4本件発明2甲2発明本件発明2は,甲2発明から容易に発明することができた。
5本件発明2は,甲2発明と甲3発明から容易に発明することが
できた。
6本件発明4甲2発明本件発明4は,甲2発明と甲4発明から容易に発明することが
できた。
7本件発明6甲2発明本件発明6は,甲2発明と甲4発明から容易に発明することが
できた。
8本件発明4甲1発明本件発明4は,甲1発明と甲4発明から容易に発明することが
できた。
9本件発明6甲1発明本件発明6は,甲1発明と甲4発明から容易に発明することが
できた。
10本件発明1甲5発明本件発明1は,甲5発明と同一である。
イ引用発明の認定
(ア)甲1発明の認定
甲1には,次の甲1発明が記載されている。
「マルチタッチ表面装置は,
平らにした手4全体,指先,親指,手のひら,および他の導電性タッチデバイ
スのマルチタッチ表面2への近接を検出するマルチタッチ表面2に埋め込まれた
近接センサアレイと,
近接センサアレイの各近接センサからの読み出しを行う電子スキャンハードウ
ェア6と,
近接センサアレイ全体のスキャンによって未処理の近接画像を形成し,バック
グランドセンサオフセットをすべて取り除く校正モジュール8と,
手の表面の接触部が識別できるように前記オフセット修正された近接画像を分
割し,連続する画像によって移動するその接触部を追跡し識別する接触追跡及び
識別モジュール10と,
接触追跡及び識別モジュール10の手識別モジュール247によって評価され
ている手の割当てが,最終的な好適仮定である場合,さらに指の識別を検査し,
指のカウントのような識別統計を編集する処理を行い,
識別された接触部の経路から,手のコンフィグレーションを識別し,検出され
た手の動作に応答するソフトウェアアルゴリズムを含んでいるタイプ入力認識モ
ジュール12,指同期検出モジュール14,動き要素抽出モジュール16,ペン
グリップ検出モジュール17と,
コード動作認識器18とを備え,
指同期検出モジュール14は,指のサブセットの同時押圧またはリリースに対
して一つの手の指の動作を調べ,そのような同時の動作が検出されると,同期し
ているサブセットにおける指の組合せの識別は,コード動作認識器18に移され,
コード動作認識器18は,同期検出器14によって識別された同期された指
のサブセットと,動き要素抽出モジュール16で抽出された動作の方向及び速度
との両方に依存するコードタップまたは動作イベント,例えば,2本以上の指の
接触部から一番内側と一番外側の指の接触部を見つけ出し,一番内側と一番外側
の指の接触部間の距離の変化から計算した拡大縮小速度成分を生成し,これらイ
ベントはホスト通信インタフェース20に送られ,ホスト通信インタフェース2
0は,イベントをホストコンピュータシステムに送信し,
ホストコンピュータシステムは,両手と複数の指4がディスプレイスクリーン
上のグラフィックオブジェクトを操作できるようにビジュアルディスプレイ装置
24に出力する統合された手操作の入力装置のシステム。」
(イ)甲2発明の認定
甲2には,次の甲2発明が記載されている。
「同時複数ジェスチャ指示処理装置であって,
表面弾性波方式タッチプレートを用いた同時複数タッチ位置検出装置7と,液
晶ディスプレイを用いた表示装置8と,情報処理装置9とを有し,
同時複数タッチ位置検出装置7と表示装置9は一体化されており,同時複数タ
ッチ位置検出装置7は,情報処理装置9に対して,検出したタッチ位置の個数と
タッチ位置のX,Y座標を出力し,同時複数タッチ位置検出装置7から得られる,
同時にタッチされた複数のタッチ位置情報を受けた情報処理装置9のMPU91
が,メモリ92,94内に格納した情報処理プログラムに従って,同時複数ジェ
スチャ操作に対応した情報処理を行うものであり,情報処理装置9のMPU91
は,タッチ位置を検出した同時複数タッチ位置検出装置7から一定時間ごとに,
入力されたタッチ位置から,対象物の指定方法と,ジェスチャ操作の指示内容を
判定し,
対象物の指定方法には,1つ以上のタッチ位置が1つ以上の対象物の外郭内に
あるか否かを判定し,1つ以上のタッチ位置が1つ以上の対象物の外郭内にあれ
ば,外郭内指定と判定する外郭内指定,あるいは全タッチ位置が単一の対象物の
外郭上にあるか否かを判定し,全タッチ位置が単一の対象物の外郭上にあれば,
指定方法を外郭上指定と判定する外郭上指定等があり,
親指と人差指で図形E,Fの外郭内を指示した後,各タッチ位置を伸縮変形移
動することにより,図形E,Fを図形E’,F’の位置に個別移動することができ,
伸縮移動の判定は,前の時間のタッチ位置e(Xe,Ye),f(Xf,Yf)と今回のタ
ッチ位置e’(Xe’,Ye’),f’(Xf’,Yf’)とを比較したときに,対応するタッチ位
置間におけるX座標の差分x1(「Xe’-Xe」)とx2(「Xf’-Xf」)及びY座標の
差分y1(「Ye’-Ye」)とy2(「Yf’-Yf」)(符号を考慮する)の比がどのタッ
チ位置についても同じであり,かつ,x1とx2の符号が逆であるか,y1とy
2の符号が逆であるときに,伸縮変形であると判定,すなわち,y1/x1=y2/x2
であり(x1=x2=0のときはこの条件は考慮しない),かつ,x1×x2が負または
y1×y2が負であるとき,伸縮変形であるとし,
変形量(伸縮比)は,移動前の図形E,F上のタッチ位置をe(Xe,Ye),f(Xf,
Yf)とし,これらの点が,移動後にe’(Xe’,Ye’),f’(Xf’,Yf’)の位置に来
たとすると,(Xf’-Xe’)/(Xf-Xe)として求まり,その位置は,移動前の図形E上
のタッチ位置eが,移動後のタッチ位置e’に来るということから決まり,
MPU91は,移動後の位置に図形E’,F’を表示するためのデータをインタ
ーフェース部96に送り,インターフェース部96は,映像信号を生成して,表
示装置8に送り,
表示装置8は,映像信号に従って表示する同時複数ジェスチャ指示処理装置。」
(ウ)甲3発明の認定
甲3には,次の甲3発明が記載されている。
「平面状表示領域を有する表示手段と,平面状に形成され,表示領域上に配置さ
れ,操作位置を表す出力を導出する透光性タッチスイッチと,タッチスイッチの
出力に応答し,タッチスイッチにおける1または複数の同時に操作された位置の
相互に分断されたグループの操作数を検出する操作数検出手段と,タッチスイッ
チの出力に応答し,タッチスイッチにおける1または複数の同時に操作された位
置の相互に分断されたグループに含まれる接触した行方向または列方向の電極の
数を検出し,その検出した電極の数に対応した圧力を表す出力を導出する圧力信
号導出手段と,タッチスイッチの出力に応答し,操作位置の移動操作方向を検出
する操作方向検出手段と,タッチスイッチの出力に応答し,タッチスイッチの操
作速度を検出してレベル弁別する操作速度弁別手段と,操作数検出手段と,圧力
信号導出手段と,操作方向検出手段と,操作速度検出手段との各出力に応答し,
被制御装置に,操作数,操作圧力,移動操作方向および移動速度のうちの複数の
各組合せに対応した動作を行わせる制御手段とを含むスイッチ装置において,
前記操作数検出手段は,タッチスイッチにおいて検出された接触点の座標に基
づいて,隣接する接触点同士を同じ個別のグループとして接触点をグループ化し
て分類し,グループ化によって生じたグループの数を計数し,これを指の数,す
なわち操作数とするものであるスイッチ装置。」
(エ)甲4発明の認定
甲4には,次の甲4発明が記載されている。
「タッチパネル32が張り付けられている表示画面に例えばダブル・タップによ
りオープンさせられるアイコン36があり,
アイコン36の枠内に例えば操作者の人さし指34を押しつけると,タッチパ
ネル32からは,アイコン36内の人さし指34の置かれている位置を表す座標
データが第1のタップ位置として記憶され,
人さし指34をタッチパネル32のアイコン36に押しつけたままで,所定時
間内に例えば中指40でタッチパネル32の別の位置をタップすると,人さし指
34と中指40とを結ぶ線の中点の位置の座標データが出力され,該座標データ
を第2のタップ位置として記憶し,
記憶した第2のタップ位置が,第1のタップ位置からの所定の範囲内に収まっ
ているかどうかを比較し,第2のタップ位置が所定範囲内にあれば第1のタップ
位置でダブル・タップが発生したと判断するタッチパネルのタッチ入力方法。」
(オ)甲5発明の認定
本件特許出願後に公開された甲5には,次の甲5発明が記載されている。
「表示部60に透明なタッチパネル等を重ねて構成され,ユーザーが地図画像の
拡大,縮小,回転,スクロール等の操作を入力するために,地図画像が表示され
た表示部上で行った指の移動履歴を検出する指動作検出部10と,指動作検出部
10で得られた検出データが入力され,前記検出データ,所与のプログラム等基
づいて地図画像を生成する処理を行う処理部20を有する電子ブックであって,
タッチパネルへの2点目の接触があった場合,地図画像が表示されている場合
には地図操作の処理を行い,2点目の接触が無かった場合には,接触点が移動し
ているか否かを検出し,移動している場合には,接触面積及び接触圧力によって
指示入力されている処理内容を判断し,
ツールバーのアイコンへの接触があった場合には各種アイコン処理が行われ,
『検索用タグ』や『本の厚み』や『しおり』や『しおり挿入用矢印』等の各種
入力マークへの接触であった場合には入力マーク操作処理が行われ,
ユーザーが例えば左手の指で『南インド』のタグを,右手の指で『宿泊』のタ
グを同時にタッチした場合には,1回の操作でダイレクトに『南インドの宿泊』
の情報が掲載された先頭ページが表示されるような論理積条件での検索操作が行
われ,
地図操作の処理においては,2点間の距離の変化を演算し,2点間の距離が拡
大している場合には,拡大距離に応じた拡大処理を行い,2点間の距離が縮小し
ている場合には,縮小距離に応じた縮小処理を行い,
例えば,ユーザーが指250で検索用タグの『地図』220の欄をタッチする
と,画面内に,『インド』の全体地図260が表示され,『ボンベイ』付近の情報
を得たい場合には,に示すように親指と人差し指を近づけた状態で画面上『ボン
ベイ』のあたりに親指と人差し指をおいて,親指と人差し指を遠ざける方向に動
かす動作(地図の拡大ジェスチャー)を行うと,親指と人差し指の移動履歴に応
じて拡大された地図画像が表示,即ち,親指と人差し指の離れる度合いが大きい
程,縮尺が小さくより詳細な地図が表示され,地図を縮小したい場合には,最初
に親指と人差し指を離した状態で画面上に表示された地図の上におき,親指と人
差し指が近づく方向に動かす動作(地図の縮小ジェスチャー)を行うと,親指と
人差し指の移動履歴に応じて縮小された地図画像が表示されるように構成されて
いる電子ブック。」
ウ一致点・相違点の認定
審決は,無効理由1~無効理由10に関して,下表の第1欄の各発明がそれぞれ
第2欄~第4欄の引用発明に対して,下表のとおり,相違点がないか又は相違点1
~相違点6があると認定した(相違点2’,相違点7~相違点9は,本件の争点とは
関係しない。また,審決中では,相違点2’も「相違点2」と表記されている。)。
第1欄第2欄第3欄第4欄
甲1発明甲2発明甲5発明
本件発明1相違点はない。
(無効理由1・2)
相違点1
(無効理由3)
相違点はない。
(無効理由10)
本件発明2
相違点2’
相違点1
相違点2
(無効理由4・5)
相違点7
本件発明4
相違点5
(無効理由8)
相違点1
相違点3
(無効理由6)
相違点8
本件発明6
相違点6
(無効理由9)
相違点1
相違点4
(無効理由7)
相違点9
【相違点1】本件発明1(又は,本件発明2,本件発明4及び本件発明6のう
ち本件発明1の構成を引用する部分)は,「前記位置検出手段により検出される複数
の指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出する
距離算出手段」,及び「前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加え
て,前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な
変化に応じて前記情報処理装置が所定の動作を行う制御手段」を具備するのに対し,
甲2発明は,「前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて,前記
位置検出手段により検出される複数の指示部位のうち最外端にある2個所の指示部
位の指示位置に関連する値,又は該指示位置に関連する値の過渡的な変化に応じて
前記情報処理装置が所定の動作を行うようにする制御手段」は具備するものの,上
記のような距離算出手段及び制御手段を具備していない点。
【相違点2】本件発明2は,「前記カウント手段は,該複数の指示部位が隣接し
ているときは1つの指示部位がタッチされたものとして指示部位の数をカウントす
る」構成を有するのに対し,甲2発明のカウント手段は,そのような構成を有する
ものではない点。
【相違点3】本件発明4は,「前記制御手段は,前記位置検出手段により検出さ
れる複数の指示部位の指示位置のうち最初若しくは最後にタッチされる指示位置を,
指示部位の指示位置として前記情報処理装置が所定の動作を行うようにする」構成
を有するのに対し,甲2発明は,そのような制御手段を有するものではない点。
【相違点4】本件発明6は,「前記情報処理装置の所定の動作とは,指示部位の
指示位置を最初にタッチした位置に静止しておく動作を含む」構成を有するのに対
し,甲2発明は,所定の動作が,そのような動作を含むものではない点。
【相違点5】本件発明4は,「前記制御手段は,前記位置検出手段により検出さ
れる複数の指示部位の指示位置のうち最初若しくは最後にタッチされる指示位置を,
指示部位の指示位置として前記情報処理装置が所定の動作を行うようにする」構成
を有するのに対し,甲1発明は,そのような制御手段を有するものではない点。
【相違点6】本件発明6は,「前記情報処理装置の所定の動作とは,指示部位の
指示位置を最初にタッチした位置に静止しておく動作を含む」構成を有するのに対
し,甲1発明は,所定の動作が,そのような動作を含むものではない点。
エ対比及び相違点の判断
(ア)無効理由1について(本件発明1の新規性の有無)
甲1発明と本件発明1とを対比すると,相違点はない。
なお,争点に関する審決の説示部分は,次のとおり。
「甲1発明の『コード動作認識器18は,同期検出器14によって識別された同期された指
のサブセットと,動き要素抽出モジュール16で抽出された動作の方向及び速度との両方に
依存するコードタップまたは動作イベント,例えば,2本以上の指の接触部から一番内側と
一番外側の指の接触部を見つけ出し,一番内側と一番外側の指の接触部間の距離の変化から
計算した拡大縮小速度成分を生成し,これらイベントはホスト通信インタフェース20に送
られ,ホスト通信インタフェース20は,イベントをホストコンピュータシステムに送信し,
ホストコンピュータシステムは,両手と複数の指4がディスプレイスクリーン上のグラフィ
ックオブジェクトを操作できるようにビジュアルディスプレイ装置24に出力する」もので
あり,『ホストコンピュータシステム』が,『両手と複数の指4がディスプレイスクリーン上
のグラフィックオブジェクトを操作できるようにビジュアルディスプレイ装置24に出力す
る』ための制御手段を有することは明らかであり,当該制御手段が,本件発明1の『前記カ
ウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて,前記距離算出手段により算出され
る指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化に応じて前記情報処理装置が所定の動作を
行うようにする制御手段』に相当する。
なお,甲1発明が本件発明1の『前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に
加えて,前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化
に応じて前記情報処理装置が所定の動作を行うようにする制御手段』に相当する構成を有し
ていることについては,被請求人(原告)も争っていない…。」
(イ)無効理由2について(本件発明1の進歩性の有無)
本件発明1に包含されている具体的態様が甲1に記載されているとまではいえな
いものの,甲1発明から当業者が容易に想到し得た具体的態様について考えると,
本件発明1は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと
いえる。
(ウ)無効理由3について(相違点1の判断)
マルチタッチパネルシステムにおいて,位置検出手段により検出される2個所の
指示部位の指示位置の間の距離を算出し,算出される指示位置の間の距離又は該距
離の過渡的な変化に応じて所定の動作を行うことは,本件特許の出願前周知の技術
である(甲1の58頁4~10行目,73頁2~12行目,甲14の【0015】
~【0017】【0046】参照)。甲2には,タッチ位置が相互の位置関係を伸縮
変形するか否かをタッチ位置相互の距離が変わるかどうかで判定することが示され
ており(【0210】),甲2発明において,上記周知技術を適用し,相違点1に係る
構成を具備するようにすることは,当業者が容易になし得る。また,その作用効果
も,甲2発明に上記周知技術を適用したものから,当業者であれば予想できる範囲
内のものである。
したがって,本件発明1は,甲2発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発
明をすることができる。
(エ)無効理由4について(相違点1及び相違点2の判断)
①上記(ウ)のとおり,相違点1は容易想到である。
②マルチタッチパネルにおいて,指の接触位置を検出するために信号の減衰を
利用する場合に,2本の指が接触(隣接)してタッチパネルにタッチされた際,信
号の減衰領域が分離せずに重畳し,1つの減衰領域が形成されてしまい,その結果
として,タッチパネルシステムが1本の指としてカウントするものとなることは明
らかである(甲2の【0039】参照)。そうすると,甲2発明の「カウント手段」
は,相違点2に係る構成を有するものといえ,相違点2は,実質的な相違点ではな
い。
③したがって,本件発明2は,甲2発明及び周知技術に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができる。
(オ)無効理由5について(相違点1及び相違点2の判断)
①前記(ウ)のとおり,相違点1は容易想到である。
②上記(エ)のとおり,相違点2は実質的な相違点ではない。さらに,甲3発明の
操作数検出手段は,2本の指が隣接してタッチスイッチに接触された際,1つのグ
ループが形成され,その結果として1本の指としてカウントすることが明らかであ
るところ,甲2発明と甲3発明は,タッチパネルに接触した指の数をカウントする
ものであるから,甲3発明の操作数検出手段が甲2発明においても有用であること
も明らかである。そうすると,甲2発明において,指の数の「カウント手段」に,
甲3発明の操作数検出手段を採用することにより,相違点2に係る本件発明2の構
成を具備するようにすることは,当業者が容易になし得る。
③したがって,本件発明2は,甲2発明及び甲3発明に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができる。
(カ)無効理由6について(相違点1及び相違点3の判断)
①前記(ウ)のとおり,相違点1は容易想到である。
②甲4発明は,人差し指34をタッチパネル32のアイコン36に押し付けた
まま,中指40でタッチパネル32の別の位置をタップし,人差し指34の置かれ
ている位置を表す第1のタップ位置と第2のタップ位置が所定範囲内であればダブ
ル・タップと認識し,第1のタップ位置にあるアイコン36をオープンするもので
あるから,相違点3に係る本件発明4の構成を示している。そして,甲2発明と甲
4発明は,共に,タッチパネルを複数の指でタッチ操作することにより,情報処理
装置に所定の動作を行うシステムに関するものであるから,甲2発明の同時複数ジ
ェスチャ指示処理装置に,上記甲4発明が示すタッチ入力方法を適用することは,
当業者であれば容易に想到し得る。
③したがって,本件発明4は,甲2発明,甲4発明及び周知技術に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができた。
(キ)無効理由7について(相違点1及び相違点4の判断)
①前記(ウ)のとおり,相違点1は容易想到である。
②甲4発明は,人差し指34をタッチパネル32のアイコン36に押し付けた
まま,中指40でタッチパネル32の別の位置をタップし,人さし指34の置かれ
ている位置を表す第1のタップ位置と第2のタップ位置が所定範囲内であればダブ
ル・タップと認識し,第1のタップ位置にあるアイコン36をオープンするもので
あるから,相違点4に係る本件発明6の構成を示している。そして,甲2発明と甲
4発明は,共に,タッチパネルを複数の指でタッチ操作することにより,情報処理
装置に所定の動作を行うシステムに関するものであるから,甲2発明の同時複数ジ
ェスチャ指示処理装置に,上記甲4発明が示すタッチ入力方法を適用することは,
当業者であれば容易に想到し得る。
③したがって,本件発明6は,甲2発明,甲4発明及び周知技術に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができた。
(ク)無効理由8について(相違点5の判断)
甲4発明は,人差し指34をタッチパネル32のアイコン36に押し付けたまま,
中指40でタッチパネル32の別の位置をタップし,人差し指34の置かれている
位置を表す第1のタップ位置と第2のタップ位置が所定範囲内であればダブル・タ
ップと認識し,第1のタップ位置にあるアイコン36をオープンするものであるか
ら,相違点5に係る本件発明4の構成を示している。そして,甲1発明と甲4発明
は,共に,タッチパネルを複数の指でタッチ操作することにより,情報処理装置に
所定の動作を行うシステムに関するものであるから,甲1発明の統合された手操作
の入力装置のシステムに,上記甲4発明が示すタッチ入力方法を適用することは,
当業者であれば容易に想到し得る。
したがって,本件発明4は,甲1発明及び甲4発明に基づいて,当業者が容易に
発明をすることができた。
(ケ)無効理由9について(相違点6の判断)
甲4発明は,人差し指34をタッチパネル32のアイコン36に押し付けたまま,
中指40でタッチパネル32の別の位置をタップし,人差し指34の置かれている
位置を表す第1のタップ位置と第2のタップ位置が所定範囲内であればダブル・タ
ップと認識し,第1のタップ位置にあるアイコン36をオープンするものであるか
ら,相違点6に係る本件発明6の構成を示している。そして,甲1発明と甲4発明
は,共に,タッチパネルを複数の指でタッチ操作することにより,情報処理装置に
所定の動作を行うシステムに関するものであるから,甲1発明の統合された手操作
の入力装置のシステムに,上記甲4発明が示すタッチ入力方法を適用することは,
当業者であれば容易に想到し得る。
したがって,本件発明6は,甲1発明,甲4発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
(コ)無効理由10について(本件発明1と本件発明5の同一性)
本件発明1と甲5発明は,相違点がなく,同一である。また,本件発明の発明者
は,甲5発明の発明者と同一ではなく,本件特許出願時にその出願人が甲5発明に
係る特許出願の出願人と同一でもない。
なお,争点に関連する審決の説示部分は,次のとおり。
「甲5発明は,『タッチパネルへの2点目の接触があった場合,地図画像が表示されている場
合には地図操作の処理を行い,2点目の接触が無かった場合には,接触点が移動しているか
否かを検出し,移動している場合には,接触面積及び接触圧力によって指示入力されている
処理内容を判断し,ツールバーのアイコンへの接触があった場合には各種アイコン処理が行
われ,「検索用タグ」や「本の厚み」や「しおり」や「しおり挿入用矢印」等の各種入力マー
クへの接触であった場合には入力マーク操作処理が行われ』るから,当該検出手段は,本件
発明1の『前記タッチパネルの入力検出面に同時に又は順にタッチされる指示部位の数をカ
ウントするカウント手段』に相当する構成を有することは明らかである。
なお,甲5発明が本件発明1の『前記タッチパネルの入力検出面に同時に又は順にタッチ
される指示部位の数をカウントするカウント手段』に相当する手段を有することについても,
被請求人(原告)も争っていない…。」
「甲5発明の『電子ブック』は,複数の指で操作可能であるから,本件発明1の『複数の指
示部位で操作可能なタッチパネルシステム』に相当するといえる。
なお,甲5発明と本件発明1が『複数の指示部位で操作可能なタッチパネルシステム』の
点で一致することについても,被請求人(原告)は争っていない…。」
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本件補正の可否に関する判断の誤り)
審決は,本件補正が,訂正請求書に係る請求の趣旨の要旨を変更するものと判断
し,これを却下した。
ここに,特許法134条の2第9項で準用する特許法131条の2第1項におい
て,訂正請求書の補正が訂正請求書に係る請求の趣旨の要旨の変更になるか否かは,
補正前の訂正事項と補正後の訂正事項とを対比し,訂正を求める範囲が補正によっ
て実質的に拡張又は変更されるかどうかの観点から判断されるべきである。
本件補正は,「指示部位の数の過渡的な変化」との訂正を含む本件訂正に係る各訂
正事項につき,これを,「指示部位の数の過渡的な変化」を除く訂正にとどめるとす
る趣旨のものであって,減縮的変更に該当するから,訂正を求める範囲が拡張又は
変更されたものではなく,要旨の変更には該当しない。
そうすると,本件補正の却下決定は,違法である。
2取消事由2(本件訂正の適否に関する判断の誤り)
審決は,本件訂正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではないと判断し,
本件訂正を認めなかった。
ここで,特許法134条の2第1項ただし書において,訂正が特許請求の範囲の
減縮を目的とするものであるか否かは,訂正前後の発明の要旨を対比し,特許請求
の範囲が実質的に拡張又は変更されるかどうかの観点から判断されるべきである。
本件訂正は,制御手段のカウント手段によりカウントされる指示部位の数又はそ
の数の過渡的な変化を,「一定の時間」にカウントされるものに限定したものである。
そうすると,訂正前構成においては,指示部位の数又はその数の過渡的な変化が「一
定の時間」にカウントされるかどうかにかかわらない態様を包含するものであった
のに対し,訂正後構成においては,その一部を実施態様とすることになり,実質的
に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。なお,数の変化は数の存在を
前提としており,「指定部位の数の過渡的な変化に応じて」は「指示部位の数に応じ
て」の実施態様に包含されるものであるから,「指示部位の数の過渡的な変化」を加
える訂正は,カウントされる対象の拡張ではなく,限定である。
そうすると,本件訂正を認めなかった審決の判断には,誤りがある。
3取消事由3(無効理由に対する判断の誤り)
(1)取消事由3-1(本件発明の認定の誤り)
―無効理由1~10の認定判断に対し―
前記1及び2のとおり,本件補正及び本件訂正は,いずれも適法であるから,本
件補正に係る本件訂正を考慮しない審決の本件発明の認定には,誤りがある。
(2)取消事由3-2(本件発明1と甲1発明の相違点認定の誤り)
―無効理由1,2,8及び9の認定判断に対し―
原告は,審決の甲1発明の認定と,本件発明1と甲1発明との間に相違点がない
とする審決の認定を争う。両発明は,次の点で相違する。
ア本件補正及び本件訂正に基づくもの
前記1及び2のとおり,本件補正及び本件訂正は,いずれも適法であるところ,
甲1には,本件補正に係る本件訂正に係る構成の記載はないから,同構成は,本件
発明1と甲1発明との相違点となる。
イ甲1発明の認定誤りに基づくもの
(ア)ホストコンピューターシステムの動作
審決は,甲1発明のホストコンピュータシステムが有する,「両手と複数の指4が
ディスプレイスクリーン上のグラフィックオブジェクトを操作できるようにビジュ
アルディスプレイ装置24に出力する」ための制御手段が,本件発明1の「前記カ
ウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて,前記距離算出手段により
算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化に応じて前記情報処理装
置が所定の動作を行うようにする制御手段」に相当すると認定した。
しかしながら,甲1のグラフィックオブジェクトとは,手や指によるディスプレ
イスクリーン上での操作を補助又は誘導するために画面上に表示されるアイコンな
どをいうものであるが(甲1に対応する公表特許公報である特表2002-501
271号〔甲16〕の【0003】【0004】参照),甲1には,甲1発明のホス
トコンピュータが,このグラフィックオブジェクトをビジュアルディスプレイ装置
24に出力する動作が記載されているものの(18頁27~30行目,甲16の【0
111】),この動作がいかなるものに応じるようにするか,いかなるものから選ば
れるかについては,何らの記載もない。
そうすると,甲1のホストコンピュータがグラフィックオブジェクトを操作する
制御手段であるとはいえない。
したがって,審決の上記認定には,誤りがあり,この点は,相違点を構成する。
(被告の反論に対し)
グラフィックオブジェクトが指によって操作されるということは,そのグラフィ
ックオブジェクトは,その操作の前段階において,既にビジュアルディスプレイ装
置に出力されていたこととなる。すなわち,そのグラフィックオブジェクトのビジ
ュアルディスプレイ装置への出力は,指による操作とは別異の手段によって行われ
たていたことになる。したがって,グラフィックオブジェクトが指によって操作さ
れることをもって,ホストコンピュータシステムが,グラフィックオブジェクトを
操作する制御手段であると根拠付けることはできない。
(イ)距離の算出等
甲1発明の目的は,異なる手のコンフィギュレーションを通じて,様々な手操作
入力の種類を識別することであり(甲1の8頁「発明の要約」第1~2段落,甲1
6の【0023】【0024】),手のコンフィギュレーションによる識別は,手の形
状による識別であって,指の数や指の間の距離が異なる場合であっても同一に分類
され得るものである(甲1の5頁第3段落1文,11頁第2段落,18頁第3段落,
24頁最終段落~25頁第1段落,30頁第1段落,甲16の【0014】【003
8】【0109】【0131】【0153】)。また,甲1発明において,距離の変化か
ら拡大縮小速度成分を計算するのは,手のコンフィギュレーションを識別する情報
を得るために行われるものにすぎず,計算された速度が同じであっても,識別され
たコンフィギュレーションが異なれば異なる動作が行われる(甲1の12頁第2段
落,甲16の【0040】)。さらに,甲1発明において,指カウントの識別統計を
編集するのも,手のコンフィギュレーションを識別する情報を得るために行われる
ものにすぎず,指カウントの数が同じであっても,識別されたコンフィギュレーシ
ョンが異なれば異なる動作が行われる(甲1の43頁第2段落,第3段落,甲16
の【0221】【0222】)。しかも,コード動作識別装置によって識別された各手
のコードは,各コードを識別するための数や距離などの入力事象とは独立して,こ
れとは無関係に所定の動作に対応付けられている(甲1の72頁19~27行目,
甲16の【0319】~【0322】参照)。そうすると,甲1発明は,本件発明1
のように,カウントされる指示部位の数や,指示位置の間の距離又は該距離の過渡
的な変化に応じて所定の動作を行うものではない。
したがって,審決の上記認定には,誤りがあり,この点は,相違点を構成する。
ウ小括
以上から,本件発明1と甲1発明とは,次の点で相違し,審決には,相違点看過
の誤りがある。
【相違点A’】本件発明1のタッチパネルシステムは,「前記距離算出手段によ
り一定の時間において算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化,
及び前記カウント手段により前記一定の時間においてカウントされる指示部位の数
に応じて,特定の時間において算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的
な変化,及び前記特定の時間においてカウントされる指示部位の数に対応した所定
の動作から選ばれる所定の動作を,前記情報処理装置が行うようにする制御手段」
を具備するものであるのに対して,甲1発明のタッチパネルシステムは,ホストコ
ンピュータシステムが,両手と複数の指4がディスプレイスクリーン上のグラフィ
ックオブジェクトを操作できるようにビジュアルディスプレイ装置24に出力する
という動作を行うものにすぎず,そのような制御手段を具備しない点。
(3)取消事由3-3(本件発明1と甲1発明の相違点の判断の誤り)
―無効理由2,8及び9の認定判断に対し―
審決は,本件発明1が,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができ
たと判断する。
しかしながら,甲1発明は,本件発明1とは異なる制御手段を用いるものであり,
上記(2)の相違点A’の構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって,審決の容易想到性の判断には,誤りがある。
(4)取消事由3-4(本件発明1と甲2発明との相違点の認定の誤り)
―無効理由3~7の認定判断に対し―
原告は,審決の甲2発明の認定を争うが,本件発明1と甲2発明とが,少なくと
も審決の認定する相違点1の点で相違することは争わない。両発明は,次の点でも
相違する。
アカウント手段
審決は,甲2発明の「タッチ位置」が本件発明1の「指示位置」に相当すること
を前提として,本件発明1のタッチパネルシステムと甲2発明の同時複数ジェスチ
ャ指示処理装置が,いずれも,「前記タッチパネルの入力検出面に同時に又は順にタ
ッチされる指示部位の数をカウントするカウント手段」を具備する点で一致すると
認定する。
しかしながら,本件発明の「指示部位」とは,複数の指示部位を有する指示体に
ついてのものであり,「指示位置」とは異なるものであるから,「指示部位」と「指
示体」とが一致するとは限らない(本件発明2参照)。また,甲2の「(パネル1を
タッチする)物体」(【0038】【0039】)が,本件発明1の「指示部位」に相
当するとしても,甲2発明は,その「物体」の数をカウントするものではない。
そうすると,審決の上記一致点の認定は誤りであり,本件発明1と甲2発明とは,
次の点で相違する。
【相違点B】本件発明1のタッチパネルシステムは,「前記タッチパネルの入力
検出面に同時に又は順にタッチされる指示部位の数をカウントするカウント手段」
を具備し,ここにいう「指示部位」は,「複数の指示部位を有する指示体」について
のものであるのに対して,甲2発明の同時複数タッチ位置検出装置7は,タッチさ
れる位置の個数を検出する手段を具備するにすぎず,そのようなカウント手段を具
備しない点。
イ制御手段
審決は,甲2発明と本件発明1とが,カウント手段によりカウントされる指示部
位の数に応じて情報処理装置が所定の動作を行う制御手段を具備する点において一
致することを前提に,甲2発明が,本件発明1の制御手段を有するとの認定をする。
しかしながら,上記アのとおり,甲2発明の同時複数ジェスチャ指示処理装置は,
本件発明1のカウント手段を有しないから,上記制御手段も有しないことになる。
そうすると,審決の上記認定は誤りであり,本件発明1と甲2発明とは,次の点
で相違する。
【相違点C】本件発明1のタッチパネルシステムは,「前記カウント手段により
カウントされる指示部位の数…に応じて前記情報処理装置が所定の動作を行うよう
にする制御手段」を具備するのに対して,甲2発明の同時複数タッチ位置検出装置
7は,そのような手段を具備しない点。
ウ小括
以上から,審決には,相違点看過の誤りがある。
(5)取消事由3-5(本件発明1と甲2発明との相違点の判断の誤り)
―無効理由3~7の認定判断に対し―
審決は,本件発明1が,甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができ
たと判断する。
しかしながら,甲2発明は,本件発明1のようにタッチされるものが,複数の指
示部位を有する指示体における指示部位であるか否かを区別しない技術思想に立脚
しているから,上記(4)の相違点B及び相違点Cの構成は,いずれも,当業者が容易
に想到し得たものではない。
したがって,審決の相違点の判断には,誤りがある。
(6)取消事由3-6(本件発明1と甲5発明との相違点の認定の誤り)
―無効理由10の認定判断に対し―
原告は,審決の甲5発明の認定を争わないが,本件発明1と甲5発明との間に相
違点がないとする審決の認定を争う。両発明は,次の点で相違する。
アカウント手段
審決は,甲5発明の「タッチパネルへの2点目の接触」があったことにより処理
が行われることから,本件発明1のタッチパネルシステムと甲5発明の電子ブック
が,いずれも,「前記タッチパネルの入力検出面に同時に又は順にタッチされる指示
部位の数をカウントするカウント手段」を具備する点で一致すると認定する。
しかしながら,本件発明の「指示部位」とは,複数の指示部位を有する指示体に
ついてのものであるところ,甲5発明は,タッチパネルへの2点の接触のみを問題
とするものであり,この2つの接触点が複数の指示部位を有する指示体によって接
触された指示部位であることは特定されていない。甲5の「手が有する2本の指」
(【0075】【0156】)が,本件発明1の「指示部位」に相当するとしても,甲
5発明は,その指示部位の数をカウントするものではない(【0156】~【016
4】)。
そうすると,審決の上記一致点の認定は誤りであり,本件発明1と甲5発明とは,
次の点で相違する。
【相違点D】本件発明1のタッチパネルシステムは,「前記タッチパネルの入力
検出面に同時に又は順にタッチされる指示部位の数をカウントするカウント手段」
を具備するのに対して,甲5発明はそのような手段を具備しない点。
イ制御手段
審決は,甲5発明と本件発明1とが,カウント手段によりカウントされる指示部
位の数に応じて情報処理装置が所定の動作を行う制御手段を具備する点において一
致することを前提に,甲5発明が,本件発明1の制御手段を有するとの認定をする。
しかしながら,上記アのとおり,甲5発明の電子ブックは,本件発明1のカウン
ト手段を有しないから,上記制御手段も有しないことになる。
そうすると,審決の上記認定は誤りであり,本件発明1と甲5発明とは,次の点
で相違する。
【相違点E】本件発明1のタッチパネルシステムは,「前記カウント手段により
カウントされる指示部位の数…に応じて前記情報処理装置が所定の動作を行うよう
にする制御手段」を具備するのに対して,甲5発明はそのような手段を具備しない
点。
ウ小括
以上から,本件発明1と甲5発明とが同一であるとした審決の認定には,誤りが
ある。
(7)取消事由3-7(本件発明2と甲2発明との相違点の判断の誤り)
―無効理由4・5の認定判断に対し―
原告は,審決の甲3発明の認定と,本件発明2と甲2発明とが相違点2の点で相
違することは争わないが,甲2発明のカウント手段が相違点2の構成を有するので
相違点2が実質的な相違点とは認められないとする審決の判断を争う。相違点2は,
実質的な相違点であり,かつ,その構成は,当業者が容易に想到できるものではな
い。
ア無効理由4の認定判断に対して
甲2発明は,押圧のレベル(Z座標)に応じて,複数の候補位置からタッチ位置
を選択することによって個々のタッチ位置を判定するものであるが,当該選択に当
たって指標として用いられる特徴量は,タッチ場所における接触面積に依存する(【0
013】【0039】【0045】【0048】【0049】【0052】)。そうすると,
甲2発明は,Z座標によって,選択されるタッチ位置の個数が変わるものであるか
ら,仮に,2本の指が接触(隣接)してタッチパネルにタッチされ,信号の減衰領
域が分離せずに重畳し,1つの減衰領域が形成されてしまった場合であっても,2
本の指の接触面積に相当する値が検出されるから,甲2発明のタッチパネルシステ
ムは,2つのタッチ位置として検出することとなり,審決が認定するように,1本
の指としてカウントされるものではない。一方,2つのタッチ位置の減衰量が同一
であってZ座標に差異が生じない場合には,4つのタッチ位置が検出されることに
なる。
そうすると,甲2発明のカウント手段は,相違点2の構成を有するものではなく,
相違点2は,実質的な相違点である。
イ無効理由5の認定判断に対して
審決は,甲3発明の操作数検出手段がする接触点のグループ化によれば,2本の
指が隣接してタッチスイッチに接触された際に1本の指としてカウントされるとの
認定を前提に,甲3発明の操作数検出手段が甲2発明においても有用であると判断
する。
しかしながら,甲3発明において行う接触点のグループ化は,接触する指の本数
の判定を行うことを目的とするものである一方(甲3の【0055】),甲2発明は,
タッチ位置を検出することを目的とするものであって,タッチする指の本数の判定
を行うことを目的とするものではないから(甲2の【0010】【0011】【00
12】),甲2発明に甲3発明の操作数検出手段を採用する動機付けはない。かえっ
て,甲2発明において,甲3発明の接触点のグループ化を行うならば,甲2発明の
目的であるタッチ位置の検出の精度が低下するから,当業者が,甲2発明に甲3発
明の操作数検出手段を採用して相違点2に係る本件発明2の構成とすることは,容
易ではない。
ウ小括
以上のとおり,審決の相違点2の判断には,誤りがある。
(8)取消事由3-8(本件発明4と甲1発明との相違点の判断の誤り)
―無効理由8の認定判断に対し―
原告は,審決の甲4発明の認定と,本件発明4と甲1発明とが相違点5の点で相
違することは争わないが,相違点5が容易想到であるとする審決の判断を争う。
審決は,甲1発明の統合された手操作の入力装置のシステムに,甲4発明のタッ
チ入力方法を適用することは,当業者であれば容易に想到し得ると判断する。
しかしながら,甲1発明は,異なる手のコンフィギュレーションを通じて様々な
手操作入力の種類を識別するシステム及び方法を提供することを目的とするところ,
手のコンフィギュレーションの同定は,タッチの全体像を考慮した方が正確に行う
ことができると考えられる。ところが,甲4発明に基づいて,最初又は最後にタッ
チされる位置を指示位置として決定することは,タッチの識別の精度を低下させる
ものであるばかりか,手のコンフィギュレーションの同定により識別された手操作
入力の種類とは無関係に出力を行うことになるため,甲1発明の目的に相反すると
もいえる。また,甲1発明において,後記に被告が主張するような,最初の指示位
置によって動作の対象を指定し,最初の指示位置とその後の指示位置との関係によ
って動作の種類を指定するとの動機付けはない。
そうすると,甲1発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用して相違点5に係る本
件発明4の構成とすることは,当業者において容易に想到できない。
したがって,審決の相違点5の判断には,誤りがある。
(9)取消事由3-9(本件発明4と甲2発明との相違点の判断の誤り)
―無効理由6の認定判断に対し―
原告は,審決の甲4発明の認定と,本件発明4と甲2発明とが相違点3の点で相
違することは争わないが,相違点3が容易想到であるとする審決の判断を争う。
審決は,甲2発明の同時複数ジェスチャ指示処理装置に,甲4発明のタッチ入力
方法を適用することは,当業者であれば容易に想到し得ると判断する。
しかしながら,甲2発明は,図形の平行移動,回転移動,伸縮変形の指示を行う
ための装置に関する発明であるから(甲2の【0186】【0193】),甲4発明に
基づいて,最初にタッチされる位置を指示位置として動作を行うようにしたならば,
平行移動,回転移動,伸縮変形の指示が行われたにもかかわらず,それに対応する
平行移動,回転移動,伸縮変形ができないことになり,甲2発明の発明の効果が損
なわれることになる。また,甲2発明において,後記に被告が主張するような,最
初の指示位置によって動作の対象を指定し,最初の指示位置とその後の指示位置と
の関係によって動作の種類を指定するとの動機付けはない。
そうすると,甲2発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用して相違点3に係る本
件発明4の構成とすることは,当業者において容易に想到できない。
したがって,審決の相違点3の判断には,誤りがある。
(10)取消事由3-10(本件発明6と甲1発明との相違点の判断の誤り)
―無効理由9の認定判断に対し―
原告は,審決の甲4発明の認定と,本件発明6と甲1発明とが,相違点6の点で
相違することは争わないが,相違点6が容易想到であるとする審決の判断を争う。
審決は,甲1発明の統合された手操作の入力装置のシステムに,甲4発明のタッ
チ入力方法を適用することは,当業者であれば容易に想到し得ると判断する。
しかしながら,上記(8)のとおり,甲1発明は,異なる手のコンフィギュレーショ
ンを通じて様々な手操作入力の種類を識別するシステム及び方法を提供することを
目的とするところ,手のコンフィギュレーションの同定は,タッチの全体像を考慮
した方が正確に行うことができると考えられる。ところが,甲4発明に基づいて,
指示位置を最初にタッチした位置に静止しておくことは,タッチの識別の精度を低
下させるものであるばかりか,手のコンフィギュレーションの同定により識別され
た手操作入力の種類とは無関係に出力を行うことになるため,甲1発明の目的に相
反するともいえる。また,甲1発明において,後記に被告が主張するような,最初
の指示位置によって動作の対象を指定し,最初の指示位置とその後の指示位置との
関係によって動作の種類を指定するとの動機付けはない。
そうすると,甲1発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用して相違点6に係る本
件発明6の構成とすることは,当業者において容易に想到できない。
したがって,審決の相違点6の判断には,誤りがある。
(11)取消事由3-11(本件発明6と甲2発明との相違点の判断の誤り)
―無効理由7の認定判断に対し―
原告は,審決の甲4発明の認定と,本件発明6と甲2発明とが相違点4の点で相
違することは争わないが,相違点4が容易想到であるとする審決の判断を争う。
審決は,甲2発明の同時複数ジェスチャ指示処理装置に,甲4発明のタッチ入力
方法を適用することは,当業者であれば容易に想到し得ると判断する。
しかしながら,前記(9)のとおり,甲2発明は,図形の平行移動,回転移動,伸縮
変形の指示を行うための装置に関する発明であるから(甲2の【0186】【019
3】),甲4発明に基づいて,指示位置を最初にタッチした位置に静止しておいたな
らば,平行移動,回転移動,伸縮変形の指示が行われたにもかかわらず,それに対
応する平行移動,回転移動,伸縮変形ができないことになり,甲2発明の発明の効
果が損なわれることになる。また,甲2発明において,後記に被告が主張するよう
な,最初の指示位置によって動作の対象を指定し,最初の指示位置とその後の指示
位置との関係によって動作の種類を指定するようにするとの動機付けはない。
そうすると,甲2発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用して相違点4に係る本
件発明4の構成とすることは,当業者において容易に想到できない。
したがって,審決の相違点4の判断には,誤りがある。
第4被告の反論
1取消事由1(本件補正の可否に関する判断の誤り)に対して
原告は,本件補正が,訂正を求める範囲を拡張又は変更するものではないと主張
する。
しかしながら,本件補正によって,補正前構成においては,指示部位の数の過渡
的な変化を考慮する制御手段(A)であったのが,補正後構成においては,指示部
位の数の過渡的な変化を考慮しない制御手段(B)に変更されている。これは,複
数の訂正事項のうちの一部を削除するもの(例えば,「α」及び「β」という訂正事
項を,「α」又は「β」のいずれかとすること)ではなく,従来の訂正請求に代えて
新たな訂正請求を行うものであり,要旨の変更に該当する。
そうすると,本件補正の却下決定は,適法である。
2取消事由2(本件訂正の適否に関する判断の誤り)に対して
原告は,本件訂正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと主張する。
しかしながら,「数」という文言により表される概念と「数の過渡的な変化」とい
う文言により表される概念は相互に異なり,前者が後者を内包するものではないか
ら,訂正前構成の「指示部位の数に応じて,所定の動作を行う」実施態様は,訂正
後構成の「指示部位の数の過渡的な変化に応じて,所定の動作を行う」実施態様を
包含しない。この点は,「一定の時間において」という事項がそれぞれの要件に加わ
ったところで,何ら変わりはない。
そうすると,本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的としないから,本件訂正
を認めなかった審決の判断には,誤りはない。
3取消事由3(無効理由に対する判断の誤り)に対して
(1)取消事由3-1(本件発明の認定の誤り)に対して
前記1及び2のとおり,本件補正及び本件訂正は,いずれも違法であるから,本
件補正に係る本件訂正を考慮しない審決の本件発明の認定には,誤りはない。
(2)取消事由3-2(本件発明1と甲1発明の相違点認定の誤り)に対して
ア本件補正及び本件訂正に基づくもの
前記1及び2のとおり,本件補正及び本件訂正は,いずれも違法であるから,本
件補正に係る本件訂正に係る構成を考慮しない審決の相違点の認定には,誤りはな
い。
イ甲1発明の認定誤りに基づくもの
(ア)ホストコンピューターシステムの動作
原告は,甲1発明のホストコンピュータによりビジュアルディスプレイ装置24
に出力されているグラフィックオブジェクトの動作が,いかなるものに応じるよう
にするか,いかなるものから選ばれるかについて,甲1には何ら記載がないから,
甲1発明が,本件発明1の「前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数
に加えて,前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過
渡的な変化に応じて前記情報処理装置が所定の動作を行うようにする制御手段」を
有するものではないと主張する。
a禁反言
原告は,無効審判手続において,甲1発明が,本件発明1の上記制御手段を有す
ることを認めていたから(乙3の9頁17行~10頁15行目参照),原告が,本件
訴訟の段階でこれを覆すことは,禁反言の法理に基づき許されない。
b甲1の記載
仮に,上記aの自認を覆す主張が許されるとしても,次のとおり,甲1発明は,
本件発明1の上記制御手段を有するといえるから,原告の主張は,失当である。
甲1には,マウスカーソル,マウスポインタ,ウィンドウ及び前景オブジェクト,
すなわち,グラフィックオブジェクトが,指によって操作されることが記載されて
いる(72頁19~27行目)。そうすると,甲1発明において,ホストコンピュー
タシステムは,グラフィックオブジェクトをビジュアルディスプレイ装置に出力す
るという動作を,指による操作に応じて行っているといえる。
したがって,審決の一致点の認定には,誤りはない。
(原告の再反論に対し)
グラフィックオブジェクトが操作される場合,変化前のグラフィックオブジェク
トは,操作によって変化後のグラフィックオブジェクトに置き換わる。甲1には,
グラフィックオブジェクトが指によって操作されることが記載されているのである
から,甲1のホストコンピュータシステムは,何らかの手段でビジュアルディスプ
レイ装置に変化前のグラフィックオブジェクトを出力し,この変化前のグラフィッ
クオブジェクトに対する指による操作を受け付け,それに応じて変化後のグラフィ
ックオブジェクトをビジュアルディスプレイ装置に出力するという動作を当然に行
う。
(イ)距離の算出等
甲1には,指の数に加えて,指の間の距離の過渡的な変化に応じてホストコンピ
ュータシステムが所定の動作を行うようにすることが記載されている(57頁17
行~58頁11行目)。また,甲1には,「コード動作認識装置によって識別された
各手のコードは,各コードを識別するための数や距離などの入事象とは独立して,
これとは無関係に,所定の動作に対応付けられている。」との記載はなく,各コード
がそれぞれ独立して構成され得るとの記載があるだけであり,各コードと各コード
を識別するための数や距離などの入力事象とが独立しているものではない。
したがって,審決の一致点の認定には,誤りはない。
ウ小括
以上から,本件発明1と甲1発明とに相違点がないとした審決の認定には,誤り
はない。
(3)取消事由3-3(本件発明1と甲1発明の相違点の判断の誤り)に対して
原告は,相違点A’の構成は,当業者が容易に想到し得たものではないと主張す
る。
しかしながら,本件発明1と甲1発明との間には相違点がないから,本件発明1
が甲1発明に基づいて容易に想到できるとした審決の判断には,誤りはない。
(4)取消事由3-4(本件発明1と甲2発明との相違点の認定の誤り)に対し

アカウント手段
原告は,甲2発明が,本件発明1の「前記タッチパネルの入力検出面に同時に又
は順にタッチされる指示部位の数をカウントするカウント手段」を有しないと主張
する。
a禁反言
原告は,無効審判手続において,甲2発明が,本件発明1の上記カウント手段を
有することを認めていたから(乙3の15頁7~19行目参照),本件訴訟の段階で
これを覆して,上記カウント手段を有しないと主張することは,禁反言の法理に基
づき許されない。
b甲2の記載
仮に,原告が上記aの自認を覆す主張が許されるとしても,次のとおり,甲2発
明は,本件発明1の上記カウント手段を有するといえるから,原告の主張は,失当
である。
本件発明における「指示部位」及び「指示位置」は,請求項1の記載によれば,
「指示部位」とは「位置を指し示すために用いられる部位」を意味し,「指示位置」
とは「指示部位によって指し示される入力検出面の位置」を意味すると解される。
そうすると,甲2の記載(【0038】【0039】)によれば,甲2発明の「(パネ
ル1をタッチする)物体」及び「タッチ位置」は,それぞれ,本件発明1の「指示
部位」及び「指示位置」にそれぞれ対応する。甲2発明では,パネル1をタッチす
る物体が個別に識別される限り,タッチ位置の数は,パネル1をタッチする物体の
数に一致する。そのため,甲2発明において,タッチ位置の数をカウントすること
は,パネル1をタッチする物体の数をカウントすることにほかならない。なお,本
件発明が,タッチされる指示位置と指示部位とが数において完全に一致するとは限
らない態様を含むことがあり得るとしても,本件発明は,タッチされる指示位置と
指示部位が数において一致する態様を含まないわけでないから,この点は,本件発
明1と甲2発明とが相違することの根拠にはならない。
そうすると,甲2発明は,本件発明1の上記カウント手段を有するから,相違点
Bは存在しない。
イ制御手段
原告は,甲2発明が,本件発明1の制御手段を有しないと主張する。
a禁反言
原告は,無効審判手続において,甲2発明が,本件発明1の上記制御手段を有す
ることを認めていたから(乙3の15頁7~19行目参照),本件訴訟の段階でこれ
を覆して,上記制御手段を有しないと主張することは,禁反言の法理に基づき許さ
れない。
b甲2の記載
仮に,原告が上記aの自認を覆す主張が許されるとしても,上記アbのとおり,
甲2発明は,本件発明1のカウント手段を有するから,これを有しないことを前提
に制御手段を有しないとする原告の主張は失当であり,相違点Cは存在しない。
ウ小括
以上から,審決の相違点の認定には,誤りはない。
(5)取消事由3-5(本件発明1と甲2発明との相違点の判断の誤り)に対し

原告は,相違点B及び相違点Cの構成は,いずれも,当業者が容易に想到し得た
ものではないと主張する。
しかしながら,上記(4)のとおり,相違点B及び相違点Cのいずれも存しないから,
その容易想到性は問題となり得ない。
したがって,審決の相違点の判断には,誤りがない。
(6)取消事由3-6(本件発明1と甲5発明との相違点の認定の誤り)に対し

アカウント手段
原告は,甲5発明が,本件発明1の「前記タッチパネルの入力検出面に同時に又
は順にタッチされる指示部位の数をカウントするカウント手段」を有しないと主張
する。
a禁反言
原告は,無効審判手続において,甲5発明が,本件発明1の上記カウント手段を
有することを認めていたから(乙3の19頁4~16行目参照),本件訴訟の段階で
これを覆して,上記カウント手段を有しないと主張することは,禁反言の法理に基
づき許されない。
b甲5の記載
仮に,原告が上記aの自認を覆す主張が許されるとしても,次のとおり,甲5発
明は,本件発明1の上記カウント手段を有するといえるから,原告の主張は,失当
である。
甲5には,甲5発明の2つの接触点は,手が有する2本の指によるものであると
の記載があり(【0075】【0156】),甲5発明の「2本の指を有する手」は,
本件発明1の「複数の指示部位を有する指示体」に相当する。
そうすると,甲2発明は,本件発明1の上記カウント手段を有するから,相違点
Dは存在しない。
イ制御手段
原告は,甲5発明が,本件発明1の制御手段を有しないと主張する。
a禁反言
原告は,無効審判手続において,甲5発明が,本件発明1の上記制御手段を有す
ることを認めていたから(乙3の15頁7~19行目参照),本件訴訟の段階でこれ
を覆して,上記制御手段を有しないと主張することは,禁反言の法理に基づき許さ
れない。
b甲5の記載
仮に,原告が上記aの自認を覆す主張が許されるとしても,上記アbのとおり,
甲5発明は,本件発明1のカウント手段を有するから,これを有しないことを前提
に制御手段を有しないとする原告の主張は失当であり,相違点Eは存在しない。
ウ小括
以上から,審決の相違点の認定には,誤りはない。
(7)取消事由3-7(本件発明2と甲2発明との相違点の判断の誤り)―
無効理由4・5の認定判断に対し―
原告は,相違点2は,実質的な相違点であり,かつ,その構成は,当業者が容易
に想到できるものではないと主張する。
ア無効理由4の認定判断に対して
甲2発明では,押圧のレベル(Z座標)に応じて,複数の候補位置からタッチ位
置の選択が行われるものの,Z座標の値が変わったとしても,選択されるタッチ位
置の個数が変わることはない(【0022】【0023】【0044】【0048】【0
049】【0051】【0052】【図1】~【図3】)。甲2発明は,接触面積が2本
の指の接触面積に相当する場合でも,減衰領域はX軸及びY軸とも1箇所だけにな
るから,検出されるタッチ位置も1つだけとなるのであり,原告が主張するように,
1つの減衰領域を2つのタッチ位置として検出するものではない。
したがって,原告の主張には根拠がなく,相違点2は,実質的な相違点ではない。
イ無効理由5の認定判断に対して
甲3発明は,指の数を判定するために,接触点のグループの数を計数する(甲3
の【0056】)。また,甲2発明は,タッチ位置の数を計数することも目的とする
(甲2の【0205】)と記載されている。したがって,甲2発明と甲3発明は,タ
ッチ位置(接触点のグループ)の数を計数するものであるという点で共通するから,
甲2発明に甲3発明の操作数検出手段を適用する動機付けはある。しかも,甲2発
明においてタッチ位置が隣接していることをもってグループ化を行う場合には,ま
ず,タッチ位置を検出し,その後,隣接しているタッチ位置をグループ化すること
になるから,タッチ位置のグループ化は,その前に行われるタッチ位置の検出の精
度に何ら影響を与えるものではない。
したがって,審決が本件発明2が甲2発明及び甲3発明に基づいて容易に発明で
きるとする審決の判断には,誤りはない。
ウ小括
以上のとおり,審決の相違点2の判断には,誤りはない。
(8)取消事由3-8(本件発明4と甲1発明との相違点の判断の誤り)に
対して
原告は,甲1発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用することは,甲1発明の目
的に反するから,甲1発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用して相違点5に係る
本件発明4の構成とすることは,当業者において容易に想到できないと主張する。
しかしながら,甲1発明と甲4発明は,共に,タッチパネルを複数の指でタッチ
操作することにより,情報処理装置に所定の動作を行うシステムに関するものであ
るから,甲1発明に,甲4発明のタッチ入力方法を組み合わせる動機付けはある。
甲4発明の「人さし指34をタッチパネル32のアイコン36に押しつけたまま,
中指40でタッチパネル32の別の位置をタップし,人さし指34の置かれている
位置を表す第1のタップ位置と第2のタップ位置が所定範囲内であればダブル・タ
ップと認識し,第1のタップ位置にあるアイコン36をオープンする」との構成は,
最初の指示位置によって動作の対象を指定し,最初の指示位置とその後の指示位置
との関係によって動作の種類を指定するというものである。この構成を甲1発明に
適用すると,最初の指示位置によって手操作入力の対象が指定され,最初の指示位
置とその後の指示位置との関係を与える手のコンフィギュレーションを通じて,手
操作入力の種類が識別されることになる。このように,甲4発明の構成を甲1発明
に適用しても,甲1発明の目的に反することはない。
したがって,本件発明4が甲1発明及び甲4発明に基づいて容易に発明できると
する審決の判断には,誤りはない。
(9)取消事由3-9(本件発明4と甲2発明との相違点の判断の誤り)に
対して
原告は,甲2発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用することは,甲2発明の発
明の効果を損なうか,甲2発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用して相違点3に
係る本件発明4の構成とすることは,当業者において容易に想到できないと主張す
る。
しかしながら,上記(8)のとおり,甲4発明は,最初の指示位置によって動作の対
象を指定し,最初の指示位置とその後の指示位置との関係によって動作の種類を指
定するというものである。この構成を甲2発明に適用すると,最初の指示位置によ
って動作の対象が指定され,最初の指示位置とその後の指示位置との関係によって
平行移動,回転移動,伸縮変形が行われることになる。このように,甲4発明の構
成を甲2発明に適用しても,甲2発明の発明の効果が損なわれることはない。
したがって,本件発明4が,甲2発明,甲4発明及び周知技術に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであるとする審決の判断には,誤りはない。
(10)取消事由3-10(本件発明6と甲1発明との相違点の判断の誤り)
に対して
原告は,甲1発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用することは,甲1発明の目
的に反するから,甲1発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用して相違点6に係る
本件発明6の構成とすることは,当業者において容易に想到できないと主張する。
しかしながら,甲1発明と甲4発明は,共に,タッチパネルを複数の指でタッチ
操作することにより,情報処理装置に所定の動作を行うシステムに関するものであ
るから,甲1発明には,甲4発明のタッチ入力方法を組み合わせる動機付けがある。
上記(8)のとおり,甲4発明は,最初の指示位置によって動作の対象を指定し,最
初の指示位置とその後の指示位置との関係によって動作の種類を指定するというも
のである。この構成を甲1発明に適用すると,最初の指示位置によって手操作入力
の対象が指定され,最初の指示位置とその後の指示位置との関係を与える手のコン
フィギュレーションを通じて,手操作入力の種類が識別されることになる。このよ
うに,甲4発明の構成を甲1発明に適用しても,甲1発明の目的に反することはな
い。
したがって,本件発明6が,甲1発明,甲4発明及び周知技術に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであるとする審決の判断には,誤りはない。
(11)取消事由3-11(本件発明6と甲2発明との相違点の判断の誤り)
に対して
原告は,甲2発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用することは,甲2発明の目
的に反するから,甲2発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用して相違点6に係る
本件発明6の構成とすることは,当業者において容易に想到できないと主張する。
しかしながら,上記(8)のとおり,甲4発明は,最初の指示位置によって動作の対
象を指定し,最初の指示位置とその後の指示位置との関係によって動作の種類を指
定するというものである。この構成を甲2発明に適用しても,甲2発明の発明の効
果が損なわれることはない。
したがって,本件発明6が甲2発明及び甲4発明に基づいて容易に発明できると
する審決の判断には,誤りはない。
第5当裁判所の判断
1認定事実
(1)本件発明について
本件訂正前の明細書及び図面(本件明細書,甲17)の記載によれば,本件発明
は,次のとおりのものと認められる。
ア技術分野
本件発明は,コンピュータ等の情報処理装置へ指示体を用いて入力を行うことが
可能なタッチパネルを用いたシステムに関し,特に,指示体として複数の指等によ
り種々の入力操作が可能なタッチパネルシステムに関する。(【0001】)
イ課題及び課題解決手段
従来のタッチパネルでは,アイコンが小さな場合にアイコンのタッチを判別しに
くい,クリック操作とドラッグ操作との判別がしにくい,アイコンのドラッグ・ア
ンド・ドロップ操作によりファイル等を移動する場合に目的のところにファイルを
ドロップしづらい,ダブルクリック操作の判別が困難である,右クリック操作やス
クロール操作等が実現できない,などの問題があり,タッチパネル一体型表示装置
は,銀行のATM端末等,一定の操作しか行わない特定の用途に限った環境で利用
されることが多かった。(【0009】~【0011】)
本件発明は,上記の実情にかんがみ,タッチパネルの入力検出面にタッチされる
指や位置指示具の数(指なら本数)をカウントし,複数の指が同時に又は順にタッ
チされた場合に,その指と指の間の距離,太さ,更にはそれらの過渡的な変化量に
対応して,マウスポインタの操作,キー入力操作,表示関係の操作等を行うように
し,より直感的な操作が可能なタッチパネルシステムを提供しようとするものであ
る。(【0012】)
この目的を達成するために,本件発明は,前記第2,2の構成をとった。
ウ実施形態
本件発明では,光遮断方式の光学式座標検出方式のタッチパネルを用いるが,精
度をあまり必要としないのであれば,感圧抵抗被膜型タッチパネルを用いることも
可能である。(【0027】)
本件発明では,指示位置座標と,1次元CCDで受光した光量から,①光量が0
の領域がある個所の数をカウントし,光量が0の領域が複数あった場合にその間の
距離を計算した距離情報か,又は,②光量が0の領域の幅(指示体の太さの情報)
の情報(光量が0の領域が複数あった場合には,それらをまとめて1つの指示体と
する。)を用いる。(【0033】)
図7は,光量が0の領域が3個所(35,36,37)ある場合である。この状
態で距離情報を得るには,最外端にある2個所の光量が0の領域の中心点座標を座
標計算方法によって求め,さらに,その中心点間の距離38を算出し,これを3つ
の位置指示具が存在する場合の距離情報とする。(【0035】)
光量が0の領域の数をカウントする場合は,各1次元CCDからのカウント数の
うち,数が多い方を採用することで,入力された位置指示具の正確な数をカウント
することができる。(【0037】)
指示体の太さの算出方法は,図10のとおり,光量が0の領域の最外端同士の端
から端をとり,その幅41を位置指示具の太さとして検出する。指示体の指示位置
座標も,例えば幅41の真中の中心位置の座標とする。(【0040】)
図11は,タッチパネルの入力検出面に2本の指を揃えて同時にタッチし(T1),
そのまま1つの指をスライドさせて動かした場合である。2本の指を揃えてタッチ
した場合の光量が0の領域間の幅(指示体の太さ)は,幅45内に収まり,この幅
をあらかじめ認知して決定しておけば,この段階で2本の指を揃えて同時にタッチ
したことを認識することができる。2本の指のうちの一方の指をスライド移動させ
ると(T2),指示体の太さが徐々に増えていく。このときの太さの過渡的な変化量
は,一定の時間48の間に増えた太さ47である。(【0041】)
図12は,2本の指で順にタッチパネルの入力検出面をタッチした場合である。
1本の指でタッチした後(T1),2本目の指を離れた場所にタッチした時(T2)
の太さの過渡的な変化量は,一定の時間48の間に増えた太さ49である。変化量
49が所定の変化量以上であれば指が1本から2本となったと判断し,変化量が所
定の変化量以下であれば指をスライドさせたと判断する。(【0042】)
位置指示具に対応する光量が0の領域の距離の過渡的変化においても,太さの過
渡的変化と同様の処理で判断可能である。(【0044】)
図13(a)は,アイコン等のボタンを操作する場合である。指50でアイコン51
をタッチすると,アイコン51が左クリックされたと判断し,APIをコールして
マウスポインタを操作する。本件発明によれば,複数の指での操作が可能であるた
め,例えば,ボタンが指よりも小さい場合,図13(b)に示すように,2本の指で小
さいボタン52を挟むことで,左クリックされたと判断してマウスポインタを操作
すれば,指でボタンを隠すことがなくなり,より直感的な操作が可能となる。(【0
046】【0047】)
図16は,アイコンのドラッグ・アンド・ドロップ操作の場合である。例えば,
まず人差し指でアイコン59をタッチし,次に,中指を人差し指から少し離れた場
所にタッチする(図16(a))。そして,中指を人差し指とそろえるように寄せ,人
差し指と中指でアイコン59を挟むようにする(図16(b))。このとき,光量が0
の領域は,始めは2個所にあるが,その領域間の距離はゆっくりとした過渡的な変
化量で減っていき1個所になる。この情報を基に,デバイスドライバは,アイコン
を挟んだと判断し,左クリックを押したままの状態として,APIをコールしてマ
ウスポインタを操作する。次に,2本の指を揃えた状態で入力検出面にタッチした
まま移動させると,ドラッグ操作と判断してアイコン59をドラッグさせる(図1
6(c))。そして,所望の位置で中指を入力検出面から離すことでドロップ操作と判
断する(図16(d))。ドロップ操作は,人差し指と中指を再度離す操作としてもよ
く,単に,2本の指を所望の位置でタッチパネルから離す操作としてもよい。(【0
054】)
指示位置座標は,最初にタッチした位置に静止しておくことが望ましい。人差し
指でアイコン52をタッチした場合,デバイスドライバが検知する光量が0の領域
は1個所であり,その中心を指示位置座標としておく。次に,人差し指はそのまま
の状態で中指を人差し指にそろえてタッチする(図14(a))。このとき,光量が0
の領域の太さが,あるいは,領域間の距離の過渡的変化から,指をそろえてタッチ
したと判断し,この場合の指示位置座標は,人差し指のタッチした場所,すなわち,
アイコン52の位置のまま固定しておく。その後,中指をスライドさせると(図1
4(b)),光量が0の領域の太さの変化が,あるいは,領域間の距離の変化が緩やか
に増加するため,その過渡的な変化量から指をスライドさせたと判断する。このと
き,座標点はアイコンの位置のまま固定しておき,ダブルクリック操作としてAP
Iをコールしてマウスポインタを操作する。こうすることで,アイコンに対しては
同じ場所でダブルクリックをしたことになる。指示位置座標を静止しておくのは,
最初にタッチした位置ではなく,最後にタッチした位置で静止しておくことも可能
である。すなわち,人差し指でアイコンの近傍をタッチし,次に中指でアイコンを
タッチするという動作でも構わない。(【0050】)
本件発明のタッチパネルシステムによれば,入力される位置指示具の数をカウン
トし,複数の場合はその距離・太さ,更には過渡的変化量に応じて,所定の動作を
行うようにすることができるため,指示体として複数の指により種々の入力操作が
可能なタッチパネルシステムが実現でき,より直感的な操作が可能となるという効
果を奏する。(【0063】)
(2)甲2発明について
甲2の記載によれば,甲2発明は,次のとおりのものと認められる。
ア産業上の利用分野
甲2発明は,指や掌やペンなどを用いてタッチされた位置を検出するタッチ位置
検出装置に関し,特に,同時に複数のタッチが行われたときに,個々のタッチ位置
を検出することができるタッチ位置検出装置及びこれを用いたタッチ指示処理装置
に関する。(【0001】)
イ課題
従来のデジタル方式のタッチパネルは,耐久性に問題があるほか,同時にタッチ
された複数のタッチ位置を移動させて,指示し,その指示に応じた処理を行うもの
ではない。(【0009】)
甲2発明の目的は,指や掌やペンなどにより,順次又は同時に行われる複数のタ
ッチの位置を検出し,当該タッチ位置に応じた処理を行え,又は,順次又は同時に
行われる複数のタッチ位置の移動を検出し,この移動指示に従って表示装置上に表
示された表示対象物を移動させて表示することができるとともに,耐久性のあるタ
ッチ指示処理装置を提供することである。(【0010】~【0012】)
ウ構成
①甲2発明の同時複数ジェスチャ指示処理装置は,CADにおいて,表示され
ている2次元または3次元の図形を平行移動,回転移動,伸縮変形する場合に,平
行移動,回転移動,伸縮変形の指示を行うことができる。(【0193】)
②甲2発明の同時複数ジェスチャ指示処理装置は,[1]表面弾性波方式タッチプ
レートを用いた同時複数タッチ位置検出装置7と,液晶ディスプレイを用いた表示
装置8と,情報処理装置9とを有し,[2]同時複数タッチ位置検出装置7と表示装置
9は一体化されており,[3]同時複数タッチ位置検出装置7は,情報処理装置9に対
して,検出したタッチ位置の個数とタッチ位置のX,Y座標を出力し,同時複数タ
ッチ位置検出装置7から得られる,同時にタッチされた複数のタッチ位置情報を受
けた情報処理装置9のMPU91が,メモリ92,94内に格納した情報処理プロ
グラムに従って,同時複数ジェスチャ操作に対応した情報処理を行うものであり,
情報処理装置9のMPU91は,タッチ位置を検出した同時複数タッチ位置検出装
置7から,一定時間ごとに入力されたタッチ位置から,対象物の指定方法と,ジェ
スチャ操作の指示内容を判定する。(【0216】~【0219】【0252】)
③タッチパネル1において,タッチ位置のX,Y座標の検出は,タッチパネル
1をタッチする物体(指,スタイラス)によってガラス15面を伝わる超音波エネ
ルギが吸収され,閾値レベルを越える受信振幅の減衰があったかどうかで決められ
る。そして,減衰のあった位置をX,Y軸上のタッチ位置とする。(【0038】【0
039】【0048】)
Z座標値については,音波の吸収度合が接触面積(指,あるいは他の柔軟な物質
では圧力の関数となる。)に比例することを利用して,減衰が確認された位置におけ
る,X,Y軸上の信号の減衰量(Pa,Pb)で決定される。信号の減衰量(Pa,Pb)
は,押圧を表すことになる。(【0045】【0049】)
④図1に示すタッチ位置Ta,Tbをそれぞれ通過する信号波W2xとW2yは,そ
のタッチ押圧Pa,Pbに応じ減衰する。図3に示すように,信号波の減衰している位
置及び減衰レベルから,X位置X1に押圧Pa,X位置X2に押圧Pbを,Y位置
Y1に押圧Pa,Y位置Y2に押圧Pbを検出したという信号({X1,Pa},{X2,
Pb},{Y1,Pa},{Y2,Pb}の組合せ)を受けた同時複数タッチ位置判定部24は,
X検出位置X1,X2,Y検出位置Y1,Y2とその押圧Pa,Pbの組合せ判定
により,タッチ位置Ta(X1,Y1)とタッチ位置Tb(X1,Y1)を検出する。こ
れは,可能な4つの候補位置から,X位置における押圧のレベル(Z座標)と等し
いY位置における押圧のレベルを有する組合せを見つけることである。これにより,
X位置におけるタッチ位置(タッチの中心位置)とY位置におけるタッチ位置との
対応付けが行え,タッチ位置(X,Y)を検出できる。(【0051】【0052】)
⑤甲2発明において,対象物の指定方法には,[1]1つ以上のタッチ位置が1つ
以上の対象物の外郭内にあるときに判定される外郭内指定,[2]全タッチ位置が単一
の対象物の外郭上にあるときに判定される外郭上指定,[3]全タッチ位置の内側に対
象物があるときに判定される範囲内指定がある。外郭内指定においては,伸縮変形
指示では各対象物を個別移動し,外郭上指定においては,伸縮変形指示では対象物
を伸縮変形し,範囲指定においては,伸縮変形指示では全対象物を伸縮変形する。
(【0191】【0194】【0196】~【0203】【図21】)
⑥甲2発明では,親指と人差指で図形E,Fの外郭内を指示した後,各タッチ
位置を伸縮変形移動することにより,図形E,Fを図形E’,F’の位置に個別移動
することができる。(【0234】)
伸縮移動の判定は,前の時間のタッチ位置e(Xe,Ye),f(Xf,Yf)と今回のタッ
チ位置e’(Xe’,Ye’),f’(Xf’,Yf’)とを比較したときに,対応するタッチ位置間
におけるX座標の差分x1(=Xe’-Xe)とx2(=Xf’-Xf)及びY座標の差分y1
(=Ye’-Ye)とy2(=Yf’-Yf)(符号を考慮する)の比がどのタッチ位置につい
ても同じであり,かつ,x1とx2の符号が逆であるか,y1とy2の符号が逆で
あるときに,伸縮変形であると判定,すなわち,y1/x1=y2/x2であり(x1=x2=
0のときはこの条件は考慮しない。),かつ,x1×x2が負又はy1×y2が負であるとき,
伸縮変形であるとする。(【0235】)
変形量(伸縮比)は,移動前の図形E,F上のタッチ位置をe(Xe,Ye),f(Xf,
Yf)とし,これらの点が,移動後にe’(Xe’,Ye’),f’(Xf’,Yf’)の位置に来たと
すると,(Xf’-Xe’)/(Xf-Xe)として求まり,その位置は,移動前の図形E上のタ
ッチ位置eが,移動後のタッチ位置e’に来るということから決まる。(【0252】)
⑦MPU91は,移動後の位置に図形E’,F’を表示するためのデータをイン
ターフェース部96に送り,インターフェース部96は,映像信号を生成して,表
示装置8に送り,表示装置8は,映像信号に従って表示する。(【0218】【025
2】)
(3)甲4発明について
甲4の記載によれば,甲4発明は,次のとおりのものと認められる。
ア技術分野
甲4発明は,パーソナル・コンピュータやファクトリー・オートメーション機器
等のディスプレイ上に配置されたタッチパネルの駆動方法及びタッチ入力方法に関
する。(【0001】)
イ課題
近年,アイコンの大きさが小さくなってきていること等から,タッチパネルを用
いた指での直接指示では操作が困難になっているほか,ダブル・タップを行うこと
も困難になっている。甲4発明は,パーソナル・コンピュータやファクトリー・オ
ートメーション機器等に搭載された高分解能ディスプレイ上に配置されたタッチパ
ネル上でダブル・タップの認識を容易にするタッチパネルの駆動方法及びタッチ入
力方法を提供することを目的とする。(【0010】~【0015】)
ウ構成
タッチパネル32が張り付けられている表示画面に,例えばダブル・タップによ
りオープンさせられるアイコン36があり,アイコン36の枠内に例えば操作者の
人さし指34を押しつけると(図1(a)),タッチパネル32からは,アイコン36
内の人さし指34の置かれている位置を表す座標データが第1のタップ位置として
記憶される。(【0021】【0025】~【0027】【0035】~【0037】)
人さし指34をタッチパネル32のアイコン36に押しつけたままで,所定時間
内に例えば中指40でタッチパネル32の別の位置をタップすると(図1(b)),人
さし指34と中指40とを結ぶ線の中点の位置(矢印42の先端の位置)の座標デ
ータが出力され,該座標データを第2のタップ位置として記憶する。(【0022】
【0026】~【0029】【0038】【0039】)
中指40による所定時間内のタップが終了して,タッチパネル32のアイコン3
6にだけ人差し指が34が置かれていると(図1(c)),アイコン36内の人差し指
34の置かれている位置(矢印44の先端の位置)を出力する。(【0023】)
記憶した第2のタップ位置が,第1のタップ位置からの所定の範囲内に収まって
いるかどうかを比較し,第2のタップ位置が所定範囲内にあれば第1のタップ位置
でダブル・タップが発生したと判断する。(【0040】)
エ効果
甲4発明によれば,従来のダブル・タップのやり方のように,目標の位置を1本
の指で短時間に2回押さえる必要がない,つまり,目標の位置から指を離さなくて
もよいので,正確かつ容易にダブル・タップを認識させることができるようになる。
さらに,甲4発明によれば,第2の指で他の場所をタップするわずかの時間の前
後における第1の指の位置情報を用いてダブル・タッピングの判断をするので,も
し,目標の位置に押しつけている第1の指が不安定に動いたとしても,従来の1本
指によるダブル・タップの不安定さに比較して,格段の向上が得られる。(【001
9】【0020】)
2取消事由1(本件補正の可否に関する判断の誤り)について
(1)検討
本件補正は,前記第2,3(1)イのとおり,補正前構成(訂正後構成)において,
制御手段が情報処理装置に行わせる所定の動作の選択候補を,次の
①特定の時間において算出される「指示位置の間の距離」と特定の時間におい
てカウントされる「指示部位の数」との組合せに対応した所定の動作
②特定の時間において算出される「指示位置の間の距離」と特定の時間におい
てカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」との組合せに対応した所定の動

③特定の時間において算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」と特
定の時間においてカウントされる「指示部位の数」との組合せに対応した所定の動

④特定の時間において算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」と「指
示部位の数の過渡的な変化」との組合せに対応した所定の動作
のいずれかとしていたものを,①③のいずれかとする補正後構成に補正するとと
もに,補正前構成(訂正後構成)において,制御手段が情報処理装置に行わせる所
定の動作の選択を,次の
①’距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離」及びカウント手段に
より一定の時間においてカウントされる「指示部位の数」
②’距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離」及びカウント手段に
より一定の時間においてカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」
③’距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」及び
カウント手段により一定の時間においてカウントされる「指示部位の数」
④’距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」及び
カウント手段により一定の時間においてカウントされる「指示部位の数の過渡的な
変化」
のいずれかに応じてするとしていたものを,①’③’のいずれかとする補正後構
成に補正するものである。
そうすると,補正後構成は,所定の動作が何に応じて選択されるか,及び,所定
の動作の選択候補を変更するものであり,審理対象が実質的に変更されているもの
であるから,訂正請求書の趣旨の要旨を変更するものであり,特許法134条の2
第9項で準用する同法131条の2第1項規定に違反するものである。
(2)原告の主張について
原告は,本件補正は,「指示部位の数の過渡的な変化」との訂正を含む本件訂正に
係る各訂正事項につき,これを,「指示部位の数の過渡的な変化」を除く訂正にとど
めるとする趣旨のものであって,減縮的変更に該当するから要旨の変更には該当し
ないと主張する。
しかしながら,特許法131条の2第1項は,審理遅延を防止するために,審理
対象の変動を禁止したものであるところ,補正前構成(訂正後構成)は,その全体
が一体として,制御手段が情報処理装置にさせる所定動作の選択のための条件を規
定するものであるから,これを規定する発明特定事項の要素が補正後構成において
減少していても,補正前構成(訂正後構成)の全体が変更されていることにほかな
らない。そうすると,審理対象は変動しており,本件補正は,要旨の変更に該当す
る。
原告の上記主張は,採用することができない。
(3)小括
以上のとおり,本件補正を却下した審決の判断には,誤りはなく,取消事由1は,
理由がない。
3取消事由2(本件訂正の適否に関する判断の誤り)について
(1)検討
本件訂正は,前記第2,3(1)アのとおり,訂正前構成において,制御手段が情報
処理装置に行わせる所定の動作の選択を,次の
①カウント手段によりカウントされる「指示部位の数」及び距離算出手段によ
り算出される「指示位置の間の距離」
②カウント手段によりカウントされる「指示部位の数」及び距離算出手段によ
り算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」
のいずれかに応じてするとしていたものを,次の
①カウント手段によりカウントされる「指示部位の数」及び距離算出手段によ
り算出される「指示位置の間の距離」
①’カウント手段によりカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」及び距
離算出手段により算出される「指示位置の間の距離」
②カウント手段によりカウントされる「指示部位の数」及び距離算出手段によ
り算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」
②’カウント手段によりカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」及び距
離算出手段により算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」
のいずれかに応じるとし,さらに,
Aカウント手段によりカウントされる指示部位の数又は該数の過渡的な変化は
「一定時間」においてカウントされるものにし,
B所定の動作は,「特定の時間において算出される指示位置の間の距離又は該距
離の過渡的な変化,及び前記特定の時間においてカウントされる指示部位の数又は
該数の過渡的な変化に対応した所定の動作」との組合せから選ばれるものとする
との訂正後構成に訂正するものである。
そうすると,本件訂正は,所定の動作が何に応じて選択されるかについて,訂正
前においては,上記①②の2つとしていたものを,訂正後においては,①①’②②’
の4つにするものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえな
い。
(2)原告の主張について
原告は,「指定部位の数の過渡的な変化」に係る実施態様は,「指示部位の数」に
係る実施態様にもともと包含されており,「指示部位の数の過渡的な変化」を加えて
も,カウントされる対象の更なる限定にすぎず,そうすると,本件訂正は,制御手
段のカウント手段によりカウントされる指示部位の数又はその数の過渡的な変化を
「一定の時間」にカウントされるものに限定したものであると主張する。
しかしながら,指示部位の数をカウントしても,直ちに当該数の過渡的な変化が
判明するわけではなく,数の過渡的な変化を知るためには,特定の時点において数
をカウントする構成に加えて,複数の時点の数を比較するという更なる追加の構成
を必要とするから,「指示部位の数」は,「指示部位の数の過渡的な変化」を含むも
のではない。そうすると,本件訂正は,「指示部位の数」に加えて「指示部位の数の
過渡的な変化」をも加えた態様を特許請求の範囲に含めるようにしたものである。
この付加された態様は,たとえ「一定の時間」という限定を付したとしても,訂正
前構成に付加された態様である点に変りはない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)小括
以上から,本件訂正を認めなかった審決の判断には,誤りはなく,取消事由2は,
理由がない。
4取消事由3-1(本件発明の認定の誤り)について
上記2,3のとおり,本件補正及び本件訂正は,いずれも適法にされたものでは
ないから,これらを考慮しなかった審決の認定には,誤りはない。
したがって,取消事由3-1は,理由がない。
以下,本件訂正前の本件発明を前提として検討するが,事案にかんがみ,以下,
①取消事由3-4(本件発明1と甲2発明との相違点の認定の誤り),②取消事由3
-5(本件発明1と甲2発明との相違点の判断の誤り),③取消事由3-7(本件発
明2と甲2発明との相違点の判断の誤り),④取消事由3-9(本件発明4と甲2発
明との相違点の判断の誤り)及び⑤取消事由3-11(本件発明6と甲2発明との
相違点の判断の誤り)について,まず,判断する。
5取消事由3-4((本件発明1と甲2発明との相違点の認定の誤り)について
(1)相違点の認定について
前記1(2)のとおり,甲2発明として審決が認定するところに誤りはなく,また,
原告は,本件発明1と甲2発明とが,相違点1の点で相違することは争っていない。
原告は,本件発明1と甲2発明とは,前記第3,3(4)アに記載の相違点B及び同
イに記載の相違点Cの点で相違すると主張するので,以下,検討する。
アカウント手段(相違点B)
原告は,甲2発明は,本件発明1の「指示部位」に相当する「(パネル1をタッチ
する)物体」の数をカウントするものではないから,甲2発明は,本件発明1のカ
ウント手段を有するものではないと主張する。
確かに,本件発明1は,指示位置と関係しない指示部位の数をカウントするもの
ではなく,本件発明1においてカウントされているのは,指示位置を示した指示部
位の数である。一方,前記1(2)のとおり,甲2発明の同時複数タッチ位置検出装置
7は,タッチ位置における音波信号の減衰量を利用して,複数同時にタッチされる
位置の個数を検出するものではあるが,その位置は,同時複数タッチ位置検出装置
7にタッチした指の位置である。したがって,甲2発明において,検出したタッチ
位置の個数とタッチした指の個数とは一致し,タッチされる位置の個数を検出する
ことと,タッチされる指示部位の数をカウントすることとは同義である。そうする
と,甲2発明において,タッチされる位置の個数を検出することと,本件発明1に
おいて,指示部位の数をカウントすることとは,実質的に異なるものではない。そ
うすると,本件発明1のカウント手段は,甲2発明の同時複数タッチ位置検出装置
7のうな態様のカウント手段を含むものといえる。なお,原告は,本件発明2にお
いては,「指示部位」と「指示位置」とが一致していないと指摘するが,これは,本
件発明2と甲2発明との相違点(相違点2)として構成されているところであり,
本件発明1と甲2発明とに相違点があることの根拠とはならない。
したがって,甲2発明の同時複数タッチ位置検出装置7は,本件発明1の指示部
位の数をカウントするカウント手段に相当するといえるから,甲2発明は,本件発
明1のカウント手段を有すると認められる。
以上のとおり,原告の上記主張は,採用することができない。
イ制御手段(相違点C)
原告は,甲2発明の同時複数ジェスチャ指示処理装置は,本件発明1のカウント
手段を有しないから,これを有することを前提にする本件発明1の制御手段も有し
ないと主張する。
しかしながら,上記アのとおり,甲2発明は,本件発明1の指示部位の数をカウ
ントするカウント手段を有するから,原告の上記主張は,採用することができない。
(2)小括
以上から,審決の相違点の認定には,誤りがない。
したがって,取消事由3-4は,理由がない。
6取消事由3-5(本件発明1と甲2発明との相違点の判断の誤り)について
原告は,審決の相違点1の判断そのものについては争っておらず,また,本件発
明1と甲2発明とが,相違点B及び相違点Cの点で相違するものでないことは,上
記5に認定のとおりである(いずれにせよ,審決の説示するところに照らして,審
決の相違点1の判断には,誤りはない。)。
以上によれば,本件発明1と甲2発明との相違点についての審決の判断には,誤
りはない。
したがって,取消事由3-5は,理由がない。
7取消事由3-7(本件発明2と甲2発明との相違点の判断の誤り)について
(1)相違点の2の実質的相違点性
前記第2,3(2)ウのとおり,相違点2は,「本件発明2は,『前記カウント手段は,
該複数の指示部位が隣接しているときは1つの指示部位がタッチされたものとして
指示部位の数をカウントする』構成を有するのに対し,甲2発明のカウント手段は,
そのような構成を有するものではない点。」というものであり,審決は,同エ(エ)の
とおり,甲2発明において,2本の指が接触(隣接)して1つの減衰領域が形成さ
れてしまえば,1本の指としてカウントされるから,相違点2は,実質的な相違点
ではないと判断する。
前記1(2)ウのとおり,甲2発明は,指の接触位置を検出するために信号の減衰量
に基づいて,接触位置のXY座標を検出するものであるから(【0038】【003
9】【0048】),複数の指が接触(隣接)してタッチパネルにタッチされた際に,
信号の減衰領域が分離していなければ1つの減衰領域しか形成されず,その結果と
して,1つの減衰領域に対応したXY座標が検出されることは自明である。そして,
前記5(1)アのとおり,甲2発明において,タッチされる位置の個数を検出すること
と,タッチされる指示部位の数をカウントすることとは同義であるから,上記の場
合には,タッチパネルが上記1つの減衰領域を1本の指としてカウントするといえ
る(なお,本件発明2の発明特定事項が,1つの指示部位により生じた1つの指示
位置と,複数の指示部位により生じた1つの指示位置との差異を判別することまで
規定しているとは認められない。)。
そうすると,甲2発明のカウント手段は,相違点2に係る本件発明2の構成を有
しているものであるから,相違点2は実質的なものではない。
(2)原告の主張に対して
原告は,1本の指の接触面積と2本の指の接触面積は異なるから,両者のZ座標
値は異なり,甲2発明においては,たとえ2本の指によりされた信号の減衰領域が
分離しないとしても,1本の指によるタッチ位置が検出されることにはならないと
主張する。
しかしながら,前記1(2)ウのとおり,Z座標値は,X軸上及びY軸上にそれぞれ
複数の座標値が検出された場合に,通常,あるタッチ位置においては1つのZ座標
値しかないことに基づき,どのX座標値が,どのY座標値との組合せであるかを,
Z座標値が共通することを利用して判定するためのものである(【0051】【00
52】)。甲2には,指の本数に応じた固有のZ座標値を事前に定めておくような記
載はなく,そうであれば,信号の減衰領域が分離せずに1つのX,Y座標値しか検
出されないならば,Z座標値の大小にかかわらず,1つのタッチ位置が検出される
ことは,甲2に記載されているに等しい事項である。
原告の上記主張は,採用することができない。
(3)小括
以上から,審決の相違点2の判断には,誤りはない。
したがって,取消事由3-7は,理由がない。
8取消事由3-9(本件発明4と甲2発明との相違点の判断の誤り)について
(1)相違点3について
原告は,審決の甲4発明の認定と,本件発明4と甲2発明とが,相違点3の点で
相違することは争っていない。
前記第2,3(2)ウのとおり,相違点3は,「本件発明4は,『前記制御手段は,前
記位置検出手段により検出される複数の指示部位の指示位置のうち最初若しくは最
後にタッチされる指示位置を,指示部位の指示位置として前記情報処理装置が所定
の動作を行うようにする』構成を有するのに対し,甲2発明は,そのような制御手
段を有するものではない点。」というものであり,審決は,同エ(カ)のとおり,甲2
発明の同時複数ジェスチャ指示処理装置に,上記甲4発明が示すタッチ入力方法を
適用することは,当業者であれば容易に想到し得ると判断する。
原告は,甲2発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用することは,甲2発明の効
果を損なうと主張するので,以下,検討する。
(2)検討
前記1(3)に認定によれば,甲4発明は,「位置検出手段により検出される複数の指
示部位の指示位置のうち最初にタッチされる指示位置を,指示部位の指示位置とし
て情報処理装置が所定の動作を行うようにする」構成を示している。
そして,甲2発明と甲4発明は,共に,タッチパネルを複数の指でタッチ操作す
ることにより,情報処理装置に所定の動作を行うシステムに関するものであり,技
術分野において共通するところ,甲2発明は,伸縮変形の操作のほかに,複数の指
示位置の間の距離を変えずに行う回転や平行移動の操作を含む発明であって,この
技術分野においては,操作を多様又は容易なものとすることは,当然に内在する技
術的な要求である。さらに,甲2発明と甲4発明は,複数の指示部位の指示位置の
間の距離の算定を基礎として所定の動作が行われる点で共通する。
そうすると,甲2発明において,上記内在する技術的要求に従って,甲4発明の
タッチ入力方法を追加的に加えることは,当業者であれば容易に想到できることで
ある。
(3)原告の主張について
原告は,甲2発明において,最初にタッチされる位置を指示位置として動作を行
うようにしたならば,伸縮変形等ができないことになると主張する。
しかしながら,上記主張は,相違点3について前提を誤認するものである。
すなわち,本件発明4は,「複数の指示部位の指示位置のうち最初…にタッチされ
る指示位置を,指示部位の指示位置として前記情報処理装置が所定の動作を行う」
と規定され,「所定の動作」は「前記所定の動作」とはされていないから,本件発明
1の「指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化に応じて前記情報処理装置が
所定の動作を行う」における「所定の動作」と異なってもよいものと認められる。
つまり,特許請求の範囲の記載上,本件発明4は,本件発明1において制御手段が
情報処理装置に行わせる「所定の動作」の条件を更に限定するものだけではなく,
本件発明1において制御手段が情報処理装置に行わせる「所定の動作」の種類を付
加した構成を含むものと解される。相違点3の判断は,この後者の場合をいうもの
であって,甲2発明において,最初にタッチされる位置を指示位置として動作を行
うようにする構成を付加しても,これと異なる「所定の動作」である対象物の伸縮
変形等ができなくなるものではない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(4)小括
以上から,審決の相違点3の判断には,誤りはない。
したがって,取消事由3-8は,理由がない。
9取消事由3-11(本件発明6と甲2発明との相違点の判断の誤り)につい

原告は,審決の甲4発明の認定と,本件発明6と甲2発明とが,相違点4の点で
相違することは争っていない。
前記第2,3(2)ウのとおり,相違点4は,「本件発明6は,『前記情報処理装置の
所定の動作とは,指示部位の指示位置を最初にタッチした位置に静止しておく動作
を含む』構成を有するのに対し,甲2発明は,所定の動作が,そのような動作を含
むものではない点。」というものであり,審決は,同エ(カ)のとおり,甲2発明の同
時複数ジェスチャ処理装置に,上記甲4発明が示すタッチ入力方法を適用すること
は,当業者であれば容易に想到し得ると判断する。
原告は,甲2発明に甲4発明のタッチ入力方法を適用することは,甲2発明の効
果が損なわれると主張する。
しかしながら,前記1(3)に認定の甲4発明の構成は,相違点4に係る本件発明6
の構成を示すとともに,「指示部位の指示位置を最初にタッチした位置に静止してお
く動作」という相違点4に係る本件発明6の構成をも示すから,相違点4が容易に
想到できるのであれば相違点4も容易に想到できることは,明らかである。
原告は,甲2発明において,指示位置を最初にタッチした位置に静止しておく動
作を行うようにしたならば,伸縮変形等ができないことになると主張する。
しかしながら,上記主張は,相違点4について前提を誤認するものである。
すなわち,本件発明6は,「前記情報処理装置の所定の動作とは,指示部位の指示
位置を最初にタッチした位置に静止しておく動作を含むことを特徴とする複数の指
示部位で操作可能なタッチパネルシステム。」と規定するところ,「前記情報処理装
置の所定の動作」における「前記」が,「所定の動作」にまでかかり,「前記『情報
処理装置の所定の動作』」と直ちには理解できない上,本件発明6が,実質的には本
件発明4を更に限定するものであることにかんがみると,本件発明6の「所定の動
作」は,本件発明1の「指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化に応じて前
記情報処理装置が所定の動作を行う」における「所定の動作」と異なってもよいも
のと認められる。つまり,特許請求の範囲の記載上,本件発明6は,制御手段が情
報処理装置に行わせる「所定の動作」の条件を更に限定するものだけではなく,本
件発明1において制御手段が情報処理装置に行わせる「所定の動作」の種類を付加
した構成を含むものと解される。相違点4の判断は,この後者の場合をいうもので
あって,甲2発明において,最初にタッチされる位置を指示位置として動作を行う
ようにする構成を付加しても,これと異なる「所定の動作」である対象物の伸縮変
形等ができなくなるものではない。
原告の上記主張は,採用することができない。
以上によれば,審決の相違点4の判断には,誤りはない。
したがって,取消事由3-11は,理由がない。
10まとめ
以上の次第であり,取消事由1,取消事由2及び取消事由3-1(本件発明につ
いて),取消事由3-4及び取消事由3-5(本件発明1について),取消事由3-
7(本件発明2について),取消事由3-9(本件発明4について)並びに取消事由
3-11(本件発明6)は,いずれも理由がないから,本件発明1,本件発明2,
本件発明4及び本件発明6に係る特許を無効とした審決の結論には,誤りがないこ
とになる。
したがって,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がない。
第6結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないから,これを棄却する。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
森岡礼子

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