弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は参加人に対し、金一〇八万五一〇〇円及び内金八四万五一〇〇円に対
する昭和五八年一月一八日から、内金二四万円に対する昭和五九年二月二八日か
ら、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 参加人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用及び参加により生じた費用は、第一、二審ともこれを三分し、その二
を参加人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
三 この判決は、参加人勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 申立て
一 参加人
1 控訴人は、原判決添付目録(二)及び(三)記載の標章を同目録(七)・
(八)表示の態様で使用したマフラーを販売してはならない。
2 控訴人は参加人に対し、金五五〇万円及び内金三五〇万円に対する昭和五八年
一月一八日から、内金二〇〇万円に対する昭和五九年二月二八日から、各支払いず
みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 参加により生じた訴訟費用は控訴人の負担とする。
との判決並びに1、2項につき仮執行宣言を求める。
二 控訴人
1 参加人の請求をいずれも棄却する。
2 参加により生じた訴訟費用は参加人の負担とする。
との判決を求める。
第二 主張
次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これ
を引用する。
一 原判決事実第二請求原因から第五原告の認否と反論(原判決一四枚目表八行目
末尾)までのうち「原告」とあるのをすべて「脱退被控訴人」と、「被告」とある
のをすべて「控訴人」とそれぞれ改める。
二 原判決二枚目裏六行目の「有する」を「昭和四四年一二月前主【A】から譲り
受けて取得し、同四六年三月四日その移転登録を、同五四年一一月二九日その更新
登録を受けた」と、同三枚目表八行目の「現に」を「少なくとも昭和五五年ころか
ら」と各改め、同五枚目表八行目末尾の次に左のとおり加える。
「なお、丙標章については図形の類似を問題にしているのではなく、そのうち文字
の使用が本件商標権を侵害する旨主張するものである。そして、その図形と文字は
不可分一体の関係にはないから、右図形のみを商標的に使用する場合まで本件商標
の禁止権が及ぶと主張するものではない。」
三 同五枚目表一一行目の「五六年度」の次に「(昭和五五年暮から同五六年三月
ころまで)」を、同行の「五七年度」の次に「(昭和五六年暮れから同五七年三月
ころまで)」を、同一二行目の「万枚」の次に「、同五八年度(昭和五七年暮から
同五八年三月ころまで)二万枚」を各加え、同裏二、三行目の「七〇〇〇万」を
「一億一〇〇〇万」と、同三行目の「三五〇万」を「五五〇万」と、同四行目の
「がある」を「を負担するに至つた」と各改め、同五行目冒頭から同九行目末尾ま
でを次のとおり訂正する。
「五 参加人は、脱退被控訴人から、当審係属後である昭和五九年四月一七日本件
商標権を譲り受け、同年七月三〇日その移転登録を了した。
 又参加人は、右移転登録に伴い脱退被控訴人から、同年九月四日脱退被控訴人の
控訴人に対する前記一切の損害賠償請求権の譲渡を受けた。
 脱退被控訴人は、控訴人に対し、昭和五九年九月五日到達の文書により、右債権
譲渡をした旨通知した。
六 よつて、参加人は控訴人に対し、乙、丙各標章を付したマフラーの販売の差止
めと、損害金五五〇万円及び内金三五〇万円については不法行為後である昭和五八
年一月一八日(脱退被控訴人の本件訴状が控訴人に送達された日の翌日)から、内
金二〇〇万円については不法行為後である昭和五九年二月二八日(原判決言渡しの
日)から、各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め
る。」
四 同五枚目裏一一行目の「、二」を削り、同行末尾の次に「同二中販売の始期及
び現に販売しているとの点は争い、その余は認める。控訴人が後記のとおり本件マ
フラーを訴外株式会社コンセプトから仕入れて販売したのは昭和五六年夏ころ以降
であり、同社の親会社である訴外株式会社シヤボーハウス三矢が昭和五八年八月一
一日倒産して以来両会社とも業務を停止していることから、そのころ以降控訴人は
本件マフラーの仕入れ、販売を一切していない。」を加え、同六枚目表一行目の
「五は争う」を「六は争い、五は認める」と改める。
五 同七枚目表四行目の次に改行の上左のとおり加える。
「 更に後記(四1(一)ないし(三))のとおり重大な登録無効原因を有する本
件商標にあつては、その権利範囲すなわち禁止権の及ぶ領域は、一般の有効な商標
権についての類似範囲よりも格段に狭く、出願したとおりの構成と一字一画違わな
い完全に同一の構成を有する標章にのみ及ぶと考えるべきであるところ、乙、丙各
標章が右出願したとおりの構成と一字一画まで同一でないことは一見して明らかで
ある。」
六 同八枚目表二行目の「販売している」を「販売したものである」と、同裏八行
目の「七日」を「一七日」と各改め、同九枚目裏四行目の「販売している」の次に
「ほか昭和五三年ころから原判決添付目録(五)、(六)記載の形態で本件商標を
腕カバーに使用している」を加え、同七行目末尾の次に左のとおり付加する。
「更に訴外株式会社ポパイは、著作権者に無断でポパイの図柄や文字を使用してそ
の著作権を侵害しているのであるが、その本店所在地、目的、代表取締役ほか一名
の取締役が各々脱退被控訴人のそれらと同一であることに鑑みれば、同社は脱退被
控訴人の分身的存在であり、右著作権侵害行為は脱退被控訴人自身の侵害行為と同
視しうるものである。」
七 同一〇枚目表二行目の次に改行の上左のとおり加える。
「(三) かつて本件商標権者であつた【A】の業務を継いでいた長男が、キン
グ・フイーチヤーズ・シンジケート・デイヴイジヨン極東代表の【B】に会い、本
件商標を草とり用の腕カバーに使い著作権を侵害していて申し訳ないと謝つた際、
【B】が同人に対し、全くの厚意から、【A】に対してのみかつ腕カバーに関して
のみ本件商標の使用を黙認したことがあるが、その黙認を受けた者から商標権を譲
り受けた者が著作権者を訴えるとすれば、それは正に恩を仇で返すもので、著しく
信義則に反する。
(四) 参加人はポパイキヤラクターが有する顧客吸引力に只乗りする目的で脱退
被控訴人から本件商標権を譲り受けた。したがつて、【A】、脱退被控訴人、参加
人は、著作権者に先回りしてポパイキヤラクターの著名性を自己の商業活動に利用
したもので、不正競争の典型といえる。いうならば参加人は、商標法上も、不正競
争防止法上も、著作権法上も是認されない行為を目的として本件商標権を譲り受け
たものであつて、その態度は著しく悪質である。」
八 同一〇枚目表三行目末尾の次に「から本件商標権及び債権の譲渡を受けた参加
人」を、同一一枚裏一〇行目の「二条」の次に「一項」を、同一二枚目裏四行目の
「しかし、」の次に「仮に本件商標権の行使が右著作権と抵触するとしても、」を
各加え、同一三枚目裏一二、一三行目の「六年足らず」を「あと約四年(昭和六四
年六月七日まで)」と改め、同末行の次に改行の上左のとおり付加する。
「(五) 著作権者らは、昭和五一年ころまで本件商標の指定商品にポパイ漫画を
商標として使用したことなく、最近右使用をするに至つた。これは、右著作権の保
護期間が前記のとおり昭和六四年六月七日に満了するため、今後不正競争防止法の
保護を得る目的で、従来からの経緯から本件商標権を侵害することを十分知つた
上、本件商標の指定商品に「POPEYE」の文字を統一使用したものである。」
九 同一四枚目表一行目の「(四)」を「(五)」と改め、同五行目の次に改行の
上左のとおり付加し、同六行目の「4」を「5」と改める。
「4 控訴人は、ポパイ漫画の著作権が昭和四年一月一七日に取得された旨主張す
るのであるが、著作権者も当然商標登録出願できるのにもかかわらず、本件商標が
出願された昭和三三年六月二六日までの約二九年間、出願する権利を行使せず、本
件商標が出願公告された後も何らの異議申立てをせず、さらに前記【B】が昭和三
五年ころ本件商標登録の存在を了知したのにもかかわらず、著作権者は最近まで商
標権者に対し商標の使用差止めを求める等の何ら積極的な行動をとつていない。こ
のような場合、失効の原則により権利の効力は失われ、控訴人が本訴において、参
加人の商標権の行使につき著作権に基づく権利濫用の主張をすることは許されない
というべきである。」
第三 証拠(省略)
       理   由
一 原判決理由中一ないし五(理由冒頭から原判決二五枚目裏七行目末尾まで)に
おいて説示するところは、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、当裁判所の判
断と同一であるからこれを引用する。
1 原判決理由一ないし五中「被告」とあるのをすべて「控訴人」と改める。
2 原判決一五枚目表二行目の「原告」を「脱退被控訴人」と、「有している」を
「取得した」と各改め、同三行目末尾の次に「。ただし、始期及び現に販売してい
るとの点を除く。」を、同六行目の「)」の次に「、同五(本件商標権と損害賠償
請求権を参加人に譲渡したこと)」を各加え、同七行目の「原告」を「参加人」と
改める。
3 同一六枚目裏二行目の「呼称」を「称呼」と改め、同一七枚目裏一二行目の
「一致する」の次に「結果、右を総合すれば乙丙各標章は本件商標に類似する」を
加え、同行末尾の次に改行の上左のとおり付加する。
「 控訴人は、登録無効原因を有する本件商標にあつてはその権利範囲は一般の類
似範囲より格段に狭く解すべき旨主張するが、後(五1)に判断するのと同じ理由
により、商標登録を無効とする審判が確定する前に無効原因の存在を理由として禁
止権の及ぶ範囲を格段に狭く完全同一の場合に限定すべきものではないと解すべき
である。けだし、商標の登録手続に関し審査主義を採用して権利の法的安定を図つ
ている以上、無効審判手続によることなく審査の内容について適否を判定し、結果
としていつたん付与された権利の範囲を制限的に解するのでは、制度の趣旨を没却
することとなるからである。したがつて、控訴人の右主張は採用できない。」
4 同一八枚目表末行の「当該著作権に及ばない」を「制限される」と改め、同行
末尾の「著作権」から同裏一行目の「として」までを削り、同七行目末尾「及」か
ら同八行目末尾までを「、第八号証の二、第五七、第六六号証及び原審における脱
退被控訴人代表者の供述並びに弁論の全趣旨によると、」と改め、同一九枚目表九
行目の「(別紙目録(四)記載のもの)」を削り、同一〇行目の「その後」の前に
「原判決添付目録(四)記載のもの。」を加える。
5 同二〇枚目表二行目の「同社は、」の次に「一九四三年(昭和一八年)一二月
三一日親会社である訴外ザ・ハースト・コーポレーシヨンに対して右著作権の独占
的利用権を許諾し、ザ・ハースト・コーポレーシヨン(ライセンサー)の一部門で
あるキング・フイーチヤーズ・シンジケート・デイヴイジヨンは、」を加え、同五
行目冒頭から同六行目末尾までを「被服及び身回り品雑貨の卸販売業を営む控訴人
は、同年夏ころから昭和五七年一二月中旬までの間コンセプト社(ライセンシー)
が右許諾に基づいて製造した本件マフラーを仕入れて各小売店へ販売した。」と改
める。
6 同二〇枚目裏一行目の「は」を削り、同二一枚目表末行の「ライセンサー」を
「ライセンシー」と改め、同裏七行目の「名前は」の次に「、たとえそれが直ちに
キヤラクターの姿態を思い浮かべるような名前であるとしても、」を加え、同八行
目の「のであるから」を「と解されるから」と改める。
7 同二三枚目表七行目冒頭から同二四枚目表末行の末尾までを次のとおり改め
る。
「 次に丙標章中「POPEYE」の文字部分についてみると、右ポパイの名称自
体に著作物性のないことは前述のとおりであるけれども、前示フアンシフル・キヤ
ラクターの名称が、その姿態(図形)を要部としそれに付随し一体として説明的に
結合したものでそれが漫画の人物などの名称である場合にまで、文字部分のみが商
標権の侵害に当たるとすることは、本来著作物としての保護を受ける図形に名称を
付加した一事をもつて全体として著作権の効力を主張しえない結果を招来すること
になり、著しく妥当を欠く。したがつて、このような場合には、右文字部分を付加
したことは商標権の侵害にはならないものと解するのを相当とするところ、丙標章
における「POPEYE」の文字は、右図形に付随し、それと一体をなして説明的
に結合した名称と認められるから、丙標章は全体として、本件商標権に対する侵害
とはならず、したがつて商標権に基づく禁止権ないし損害賠償請求権の行使を受け
ないものというべきである。
5 ところで、登録商標が著作権と抵触する場合に、商標法二九条に基づき商標権
の効力を否定できるのは、当該著作権者又は著作権者から複製許諾を受けた者に限
るものではないと解するのが相当である。けだし、右の場合には一般的に専用権が
制限されると解するのが条文に忠実であるところ、右法条に相対的な効力しか認め
ないと、専用権が制限されるのに禁止権や損害賠償請求権だけが存在することとな
つて不合理であるからである。右のように解したところで、先行著作権を援用し得
ない第三者に対しては、著作権法又は不正競争防止法による救済(差止請求権及び
損害賠償請求権の行使)に委ねれば足りることであるから、商標権者に不利益を生
ずる筋合いはない。したがつて、本件においては、漫画ポパイのキヤラクターのラ
イセンサーであるザ・ハースト・コーポレーシヨンから許諾されているライセンシ
ーはコンセプト社であり、控訴人は同社の製造にかかる商品を買い受けた者で、直
接著作権者から複製許諾を受けた者ではないけれども、本件商標権の効力を否定し
うると解すべきである。」
8 同二四枚目裏二行目の「原告は」を「控訴人が」と、同四行目の「基づき差止
請求権を有する」を「対する侵害行為となる」と、同二五枚目表一行目の「禁止
権」を「商標権」と、それぞれ改め、同裏七行目の次に改行の上左のとおり付加す
る。
「3 そのほか控訴人は、脱退被控訴人が昭和五三年ころから原判決添付目録
(五)、(六)記載の形態で本件商標を腕カバーに使用して、キング・フイーチヤ
ーズの著作権を侵害している旨主張する。そして、前記争いのない事実と成立に争
いのない甲第七、八号証、第三〇号証、乙第七四、七五号証、当審証人【B】の証
言、原審における脱退被控訴人代表者の供述によれば、本件商標権のもと権利者
(原始商標権者)である【A】は、昭和二八年ころからポパイの図柄と文字を組み
合わせた商標をつけた腕カバー(農家が農作業の際腕に着用する保護カバー)を製
造販売していたが、そのころすでにポパイの人物図形及び文字につき登録されてい
た商標(昭和一四年四月二一日出願、同年八月三日広告、同一五年一月二三日登
録。登録番号第三二六二〇六号。
本件商標の連合商標)を昭和二九年九月に前主【C】から譲り受けた後昭和三〇年
三月に株式会社丸善商店を設立し会社として右事業を続け、同三四年六月に本件商
標の登録を受けていたところ、営業が不振となつたことから、昭和四四年一二月こ
ろ本件商標、連合商標ともこれを脱退被控訴人に譲渡し、以後脱退被控訴人がポパ
イの図柄と文字を組み合せた商標付きの腕カバーを製造販売していること、昭和五
三年ころにおいては、販売した腕カバーの包装紙にはポパイの文字と頭部の図形
(原判決添付目録(五))、商品にはラベルと織りネームにポパイの文字(同目録
(六))を付した商標をつけていたこと、右ポパイの頭部の図形は、漫画の主人公
たるポパイの顔であることは直ちに認識できるが、本件商標、連合商標中の図形
(いずれも全身図で、顔面の描写は鮮明でない。)とは同一性の認められないこ
と、がそれぞれ認められる。
 ところで、商標の専用権(使用権)の範囲は、禁止権(差止請求権)の範囲とは
異なり、登録商標と同一性のあることを要することは、法文上明らかであるから、
脱退被控訴人の腕カバー包装紙における商標の使用は、ポパイ漫画の著作権を侵害
している疑いのあるものである。
 もつとも、前掲乙第七四号証、当審証人【B】の証言により真正に成立したもの
と認められる乙第四一号証及び同証言、原審における脱退被控訴人代表者の供述に
よれば、【A】は、昭和三五年ころ、ポパイ漫画のライセンサーたるザ・ハース
ト・コーポレーシヨンのキング・フイーチヤーズ・シンジケート・デイヴイジヨン
極東代表者(ソール・リプレゼンタテイブ)【B】から、腕カバーについてはポパ
イの図柄を商標として使用することを黙認する旨複製の許諾を受けたことが認めら
れる(しかし、だからといつて脱退被控訴人が当然に自己のために右許諾を援用で
きるものではない。)。
 更に控訴人は、訴外株式会社ポパイがポパイの図柄を無断使用して著作権を侵害
しているのは、脱退被控訴人自身の行為と同視しうると主張する。そして、原本の
存在及び成立に争いのない乙第三〇、第三一、第三八号証によれば、株式会社ポパ
イは、
脱退被控訴人と本店所在地、目的、代表取締役ほか一名の取締役が共通であるとこ
ろ、昭和四五年八月一日発行の大阪市職業別電話番号簿に、ポパイの文字とともに
漫画ポパイの全身姿態と認識できる図柄入りの広告を掲載していることが認めら
れ、右はポパイ漫画の著作権を侵害している疑いのあるものである。
 控訴人は、右事実関係から、脱退被控訴人の本件商標権に基づく権利行使は権利
の濫用であると主張する。
 しかしながら、脱退被控訴人が漫画ポパイの著作権侵害行為をしていることにな
るとしても、本件において脱退被控訴人が、行使せんとする権利は控訴人が著作権
の及ばない乙標章を使用したマフラーを販売することにより本件商標権が侵害され
たことに基づく差止請求権ないし損害賠償請求権であつて、著作権に対する前記侵
害行為と行使せんとする右権利の取得との間には信義則の有無を論じなければなら
ないような密接な関係は認められないし、右権利行使を許したところで、その結果
が反社会性を帯びるものでもない。そして、仮に右の場合権利の濫用として脱退被
控訴人の権利行使が許されないとすれば、必然的に漫画ポパイの著作権者から脱退
被控訴人に対する著作権侵害に基づく権利の行使も許されないこととならざるをえ
ず、かくては権利の実現が広い範囲において果たされない結果を招き、その結果の
妥当でないことは明らかである。
 次に控訴人は、腕カバーに本件商標を使用することを黙認したのに著作権者を訴
えるのは信義に反する旨主張するが、その主張によつても、黙認した相手は【A】
であつて、脱退被控訴人でも参加人でもないから、右主張は理由がない。
 又、控訴人は、参加人がポパイキヤラクターの顧客吸引力に只乗りする目的で本
件商標権を譲り受けたもので不正競争の典型であり著しく悪質である旨主張する。
 しかし、右事実関係を認めるに足る証拠がないばかりでなく、「只乗り」なる概
念が不明確であつて、これを「対価を払わずに他人の業績を巧みに利用する」との
趣旨だとすれば、それは常に必ずしも違法行為となるとは限らないであろうし、成
立に争いのない乙第一七号証、前掲乙第四一号証、当審証人【B】の証言、原審に
おける脱退被控訴人代表者の供述によれば、ポパイ漫画のライセンサーであるザ・
ハースト・コーポレーシヨンがわが国においてポパイキヤラクターの商品化事業に
乗り出したのは昭和三五年ころ以降であつて、【C】が連合商標の出願をした昭和
一四年四月二一日当時にはポパイキヤラクターを登録商標とすることから保護すべ
き法的利益の対象となるものは何ら存在しなかつたこと、ザ・ハースト・コーポレ
ーシヨン極東代表者の【B】は脱退被控訴人に対し、昭和五五年六月二日ころ代理
人たる西村輝男弁護士を通じて本件商標権を買い取りたい旨申し入れるまで、何ら
の申入れをしたこともないことが認められることからすれば、控訴人の右主張も採
用し難いものである。
 したがつて、控訴人の権利濫用の主張はいずれも理由がない。」
二 以上説示のとおりであつて、控訴人は、乙標章を原判決添付目録(七)、
(八)の態様で使用したマフラーを販売することにより脱退被控訴人の本件商標権
を侵害したということができる。
 ところで、成立に争いのない丙第一六号証の一、二、第一七号証、前掲乙第五七
号証及び当審証人【B】の証言によれば、コンセプト社は、親会社である訴外株式
会社シヤポーハウス三矢が昭和五八年八月一一日不渡手形を出して倒産したことに
伴い同月二二日同様に倒産し、その結果控訴人はその後乙丙標章のついたマフラー
を仕入れることができず、したがつて昭和五八年夏以降は本件マフラーを販売して
いないことが認められる。
 してみると、参加人において、控訴人が本件マフラーの販売を現に継続している
ことを前提とする主張をするのみで、右認定による事実関係(倒産による仕入れの
中止)の存在にもかかわらず将来本件商標権が控訴人により侵害される蓋然性があ
ることにつき主張立証をしない以上、参加人の控訴人に対するマフラー販売差止請
求は失当というほかない。
三 控訴人が本件マフラーをコンセプト社から仕入れて各小売店に販売することを
始めたのは、さきに認定したとおり昭和五六年夏ころ以降であるから、参加人の主
張中控訴人が昭和五六年度(昭和五五年暮から昭和五六年三月ころまで)に本件マ
フラーを販売したとの点は理由のないことが明らかである。
 しかし、控訴人が昭和五六年夏ころから同五七年暮までの間乙標章を原判決添付
目録(七)、(八)の態様で使用したマフラーを販売したことは控訴人の認めると
ころであるから、右が本件商標権の侵害に当たることはさきに説示したとおりであ
り、右侵害行為が不法行為法上の違法行為であることはいうまでもなく、右違法行
為は過失によつてなされたものと推定される(商標法三九条、特許法一〇三条)。
 したがつて、控訴人は脱退被控訴人に対し、右不法行為によつて脱退被控訴人の
受けた後記損害(侵害行為が認められれば損害の発生は推定される。)を賠償すべ
き義務を負担するに至つたのであり、参加人が脱退被控訴人から右債権の譲渡を受
けたことは前示のとおりである。
四 そこで脱退被控訴人の受けた損害額について検討する。
1 原審における脱退被控訴人代表者の供述中には、控訴人の本件マフラーの販売
数量について、昭和五六年度(同年秋冬分)が約一万五〇〇〇枚、同五七年度(同
年秋冬分)が約二万枚であるとする部分があるが、これは、控訴人がコンセプト社
から著作物の複製につき許諾を受けた枚数のことであるとの誤つた事実関係を前提
としているので採用できない。
 前掲甲第四号証の四、五、乙第五七号証によれば、昭和五六年夏から同年末にか
けて控訴人がコンセプト社より仕入れて小売店に販売した乙標章の付されたマフラ
ーは一万五六五〇枚(小売単価一八〇〇円)であり、昭和五七年夏から同年末にか
けて同様仕入れ販売したマフラーは四〇〇〇枚(小売単価二〇〇〇円)であること
が認められるが、右数量をこえて控訴人が乙標章の付されたマフラーを販売したこ
とを認めるに足る証拠はない。
2 原審における脱退被控訴人代表者の供述及びこれにより真正に成立したものと
認められる甲第一九号証並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められ
る乙第二一号証によれば、脱退被控訴人は参加人に対し、昭和五七年五月三一日か
ら同五八年五月三〇日までの間本件商標権につき通常使用権を許諾し、その対価と
して参加人は三〇〇万円を支払う旨約していること、右代価は、参加人から、マフ
ラーの販売数量が年間三万三〇〇〇枚、小売販売単価が一八〇〇円なので、使用料
率を五パーセントとしてほしい、との申入れがあつて算出されたものであること、
脱退被控訴人は、訴外株式会社テスコノに対し、昭和四七年ころ、販売価額の一パ
ーセントの使用料の約定で本件商標権の通常使用権を許諾していること、をそれぞ
れ認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
 右によると、脱退被控訴人が第三者に本件商標を貸与した際通常受けるべき使用
料率は、その平均値が小売販売価額の三パーセントであると認められる。
3 そうすると、商標法三八条二項により脱退被控訴人が控訴人に対して請求しう
る金銭(使用料)相当の損害金は、昭和五六年暮から昭和五七年三月ころまでに小
売された分(昭和五六年夏ころから同年末ころまでに卸売された分)が一万五六五
〇枚に単価一八〇〇円を乗じた額に対する三パーセントの使用料に当たる八四万五
一〇〇円であり、昭和五七年暮から昭和五八年三月ころまでに小売された分(昭和
五六年夏ころから同年末ころまでに卸売された分)が四〇〇〇枚に単価二〇〇〇円
を乗じた額に対する三パーセントの使用料に当たる二四万円であつて、その合計は
一〇八万五一〇〇円となる。
五 以上のとおりであつて、参加人の控訴人に対する本訴請求は、損害金一〇八万
五一〇〇円及びこれに対する不法行為の後であり参加人において請求するところの
内金八四万五一〇〇円については昭和五八年一月一八日から、内金二四万円につい
ては昭和五九年二月二八日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損
害金の支払を求める限度で正当と認めてこれを認容すべきであるが、その余はすべ
て失当としてこれを棄却すべきである。
 よつて、参加人の当審における参加と脱退被控訴人の脱退により訴訟手続の承継
が行われる関係になると解すべきであることと、原判決が結論において当裁判所の
判断と異なることから、原判決を参加人と控訴人との間において変更することと
し、訴訟費用及び参加により生じた費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九四
条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 村上明雄 堀口武彦 小澤義彦)

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すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛