弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一、被告は原告に対し、金一万三八二六円および別紙(二)賃金明細表記載1ない
し5、7ないし192の各選定者に対する同表未払賃金(認定額)欄記載の各金員
ならびに右各金員に対する昭和四〇年二月一一日から支払済みまで年五分の割合に
よる金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
四、この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者双方の申立
(原告)
 「被告は原告に対し、別紙(二)賃金明細表未払賃金(原告主張額)欄記載の各
金員ならびに右各金員に対する昭和四〇年二月一一日から支払済みまで年五分の割
合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行
の宣言。
(被告)
 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。
第二 当事者双方の主張
(原告の請求原因)
一、被告(以下「会社」ともいう。)は、航空運送事業を目的とする国際的航空会
社であり、世界各地に支店を設け、日本においては東京都千代田区<以下略>に営
業所を設け、羽田空港を使用し、また渋谷にもスタツフハウス(職員宿泊所)を設
けて事業を行つている。
 原告および別紙(一)選定者目録記載の選定者(以下「原告」らともいう。)
は、被告会社の従業員であり、ノースウエスト航空会社日本支社従業員労働組合
(以下「組合」という。)の組合員である。
二、被告は、
(イ) 昭和三九年一二月一日午後八時、空港旅客課および整備課(ただしメカニ
ツク職員を除く。)所属の選定者(別紙(二)賃金明細表記載1ないし23、3
8、62ないし101、116ないし119の者)に対し、
(ロ) 同月五日午前六時、倉庫、機内食、貨物の各課所属の選定者(同表記載2
4ないし37、39ないし61、120ないし140の者)に対し、
(ハ) 同月六日午前八時四五分、営業所(当時は千代田区<以下略>)所属の選
定者(同表記載141ないし176の者)に対し、
(ニ) 同日午前一〇時一〇分、スタツフハウス所属の選定者(同表記載177な
いし192の者)に対し、
(ホ) 同月一六日午後四時三〇分、整備課のメカニツク所属の選定者(同表記載
102ないし115の者)に対し、
それぞれ無期限ロツクアウトを宣言し(以下これらを「本件ロツクアウト」ともい
う。)、昭和四〇年一月六日組合と会社間において成立した協定により同月七日解
除するまで右ロツクアウトを継続した。
三、原告らは、本件ロツクアウトの期間中会社に対し就労を申し入れ、現実に債務
の本旨に従つた労務の提供をしたにもかかわらず、会社はその受領を不当に拒否
し、その間の賃金の支払をしない。すなわち
(一) 組合は、昭和三九年一二月一日午後五時から午前九時まで空港内貨物課倉
庫前において組合員全員参加のもとに四時間の決起集会を行つたが、原告ら参加組
合員は、集会終了後直ちに職場に戻つて平常の勤務につくべく就労の申入れをした
にもかかわらず、会社は、前記(イ)のロツクアウトを継続し、組合員が腕章を着
用していることを理由に就労を拒否し、就労しても賃金の支払をしない旨を通告し
た。
(二) 組合は、同年一二月四日午後三時から同月六日午前八時まで、メカニツク
職員一四名を除く全職員について四一時間の時限ストライキを実施したが、原告ら
参加組合員は、予定どおり右時限ストを終了した後直ちに会社に対し就労を申し入
れ、爾来ストライキなどの行動に出たことはないのにかかわらず、会社は、前記
(ロ)のロツクアウトを継続して原告らの就労申入れを拒否した。
(三) 会社は、組合の右四一時間時限ストライキ終了後原告ら組合員が就労を申
し入れているにもかかわらず、前記(ハ)(ニ)(ホ)の各ロツクアウトを新たに
開始し、原告らの就労を拒否したものであつて、そのうち(ハ)(ニ)のロツクア
ウトは、原告らが腕章を着用していることを唯一の理由として行なわれたものであ
つた。
四、被告会社においては、原告らに対する賃金を毎月一〇日に前月一日から月末ま
での一ケ月分を支払う定めになつている。原告らが本件ロツクアウトによつて賃金
カツトの対象とされた労働時間は、別紙(二)賃金明細表の賃金カツト時間(原告
主張)欄記載のとおりであり、原告らの一ケ月賃金(基本月給)額は同表の一ケ月
賃金欄記載の各金額である。被告がロツクアウトによりカツトした原告らの賃金額
は、組合と会社間に昭和三八年一〇月一日締結された労働協約一七条D項によつて
算出される各人の基準時給(スタツフハウス従業員については基本月給に二〇八分
の一を乗じ、その他の従業員については基本月給に一七三・三分の一を乗じたも
の。)に前記カツト時間を乗じた積であつて、同表未払賃金(原告主張額)欄記載
の各金額である。
五、よつて、原告は被告に対し、被告の責に帰すべき事由による労務給付義務の履
行不能として、原告らが本件ロツクアウトにより就労を拒否された全期間の賃金で
ある別紙(二)賃金明細表の末払賃金(原告主張額)欄記載の各金員およびこれら
に対する弁済期後の昭和四〇年二月一一から支払済みまで民法所定年五分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する被告の答弁)
 請求原因一、二の事実は認める。
 同三の事業中、(一)の決起集会(ただし組合員が決起集会に参加するために現
実に職務を離脱したのは午後四時頃からである。)および(二)の四一時間ストラ
イキの事実は認めるが、その余はすべて争う。
 同四の事実中、被告会社の賃金支払方法および原告らの一ケ月賃金額(基本月
給)が原告主張のとおりであることは認める。原告らの賃金カツトの対象とされた
労働時間は、別紙(二)賃金明細表賃金カツト時間(被告認否)欄記載のとおりで
ある。また、昭和三八年一〇月一日会社と組合間に締結された労働協約の一七条D
項の基準時給についての定めが原告主張のとおりであることは認めるが、本件の場
合に右協約条項を適用する基準時給の計算方法は争う。被告会社においては、不就
労一時間につき控除すべき賃金額の算定方法については、労働協約または就業規則
上何らの規定もなく、当該従業員が不就労のあつた月に就労すべく予定された時間
数でその従業員の基本月給を除した額を基本時給として算定する慣行があつたので
あるから、本件においても右慣行によるべきである。
(被告の主張)
 本件ロツクアウトは、以下に主張するとおり、組合の違法な争議行為に対抗する
ため計画的運航を確保する緊急の措置として実施された正当なものであるから、こ
れによつて原告ら組合員の就労を拒否した結果履行不能を生じたとしても、債務者
である原告らの責に帰すべき事由によるものであつて、被告の責に帰すべき事由に
よるものではない。
(一) 会社と組合との間には昭和三八年一〇月一日に締結された有効期間を昭和
三九年一二月一五日までとする労働協約(以下「本件協約」ともいう。)が存在し
たが、その三五条において、協約の有効期間中は労使ともに一切の争議行為を行わ
ない旨の絶対的平和義務を明確に規定していた。しかるに、組合は、右協約の有効
期間中である昭和三九年八月一八日に、協約締結当時既に考慮されていた業務の繁
忙を理由として、アメリカ軍関係チヤーター機増便のための繁忙手当の支給を、同
年一〇月五日にはオリンピツク繁忙手当の支給をそれぞれ要求し、その間同月三日
には東京都地方労働委員会(以下「都労委」という。)および東京都知事に対し、
「同年一〇月一四日以降事件の解決に至るまでの間、組合員が従事する日本支社内
の全職場において、あらゆる形の争議行為を実施する。」との労調法三七条による
争議予告を行い、さらに同年一一月八日には同年一二月一日からの賃上げ、期末手
当などの要求を提出し、同年一一月一六日に右要求にもとづき再び都労委および都
知事に対し同趣旨の争議予告を行い、その後原告主張のとおりの争議行為を行つた
ほか、同年一二月二日には組合三役である原告(旅客)、a(整備)、b(営業)
の無期限指名ストライキを通告し、同月二六日まで実施した。しかも、組合は、同
年一二月一日の決起集会については同日の午後四時四〇分頃、同月四日からの時限
ストライキについては同日午後二時四五分頃いずれも実施の直前になつて被告に通
告した。これら一連の争議行為は、本件協約の絶対的平和義務条項に違反し、仮に
右三五条が相対的平和義務を規定した趣旨であるとしてもこれに違反し、いずれに
しても違法なものである。
(二) 組合の争議行為は、次のとおりその手段方法が違法である。
(1) 組合は、決起集会を行つた昭和三九年一二月一日夜、整備課に所属するエ
アスターターの車を格納庫から勝手に搬出して隠匿し、このため同夜の第八便の航
空機の発進が約一時間半遅れた。また、同夜航空機に飲食物を運搬する車輛の鍵穴
に土やマツチ棒がつめ込まれたため右車輛の運転が不可能になつたが、これも組合
員によつて行なわれたものと考えられる。
(2) 同年一二月四日夜、ロツクアウト中の旅客課カウンター附近において、一
〇〇名以上の組合員が大挙してデモを行い、ラウドスピーカーを使つてアジ演説を
し、航空機の乗降客が通行する階段を塞いだ。
(3) 同年一二月四日午後六時四〇分頃と翌五日午後一時二〇分頃の二度にわた
り、多数の組合員が空港内のデイスパツチ事務室前廊下に集合して坐り込み、同事
務室の板壁、扉を乱打して事務室内の業務を妨害し、さらに同事務室に強いて入室
しようとし、会社側職員が扉を押さえてこれを阻止したにもかかわらず実力で扉を
押し開き同事務室内に乱入した。
(4) 被告は、前記(2)のような争議行為の態様に鑑み、搭乗客の安全と便宜
を確保するため、同年一二月五日午後五時羽田プリンスホテル内ロビーにおいて第
六便の乗客七二名のチエツクイン業務を開始したところ、午後五時三〇分頃から鉢
巻、腕章を着用した組合員約六〇名がロビーに入り、会社側職員の電話の利用を妨
げたり、チエツクインをするために設けた机の周囲に集つて歌を唱い、手を叩き、
会社側職員をからかつたりおびやかしたりしたのみならず、乗客をもおびやかし、
人垣で乗客がチエツクインを受けることを阻止したりピケツトをもつて乗客の手荷
物の運搬を妨害したりした。
(5) 同年一二月六日、空港ランプにおいて、多数の組合員が就業中のメカニツ
ク従業員の車を取り囲んでそのうち一名の従業員にストライキ参加を強要し、同人
を強制的に連れ去つた。
(6) その他組合員は、争議中に会社所有自動車を勝手に乗り廻わし、或はこれ
を占拠して会社の信用を妨害し、パークしている飛行機の周囲でピケを張るなどの
行為を行つた。
(三) 被告は、右のように平和義務条項をもつた労働協約の有効期間中に組合が
争議行為に出ることを全く予想しておらず、直前に争議通告を受けたため業務の運
営に甚しい混乱を来たし、しかも正当な争議行為の範囲を逸脱した違法な手段方法
による争議行為によつて最も重要な飛行の安全すら確保できない可能性があつた。
本件ロツクアウトは、このような事態を防止し、争議行為に入るおそれのない従業
員だけによつて計画的運航を確保し、事業を防衛する必要上やむなく実施されたも
のである。そして、被告は、ロツクアウト実施後も機会あるごとに、組合に対し相
互に争議状態を解消して一定期間休戦し、平穏裡に団体交渉を進め紛争の解決を図
るよう提案したが、組合は頑としてこれに応ぜず、組合が必要と考える場合いつで
も争議行為を実施するとの挑戦的態度を固守し続けたので、被告は本件ロツクアウ
トを継続せざるを得なかつたのである。
(被告の主張に対する原告の答弁および主張)
一、被告主張(一)の事実中、組合が昭和三九年八月一八日、同年一〇月五日、同
年一一月八日に被告主張のような要求(ただし、組合の要求した賃上げ実施時期は
同年一二月一六日である。)を提出し、同年一〇月三日、および同年一一月一六日
に被告主張のとおり争議予告を行つたこと、被告主張のとおり組合三役の無期限指
名ストライキを通告実施したことは認めるがその余はすべて争う。
 繁忙手当の要求は、もともと本件協約に定めのない事項であつて、右協約締結当
時予想されなかつた事情、すなわち昭和三九年三月以降の定期便およびアメリカ軍
関係チヤーター機の便数増加ならびにオリンピツク東京大会に伴う増便による激し
い労働強化に対応して提出されたものであり、また、組合は、本件協約の失効後の
事態にそなえて同年一一月七日臨時大会を開き次期協約案について討議した結果、
賃上げ、期末手当および平和義務条項の廃止を主要内容とする要求を決定し、スト
権を確立したうえ、上記のとおり同月八日に会社に対して右要求を提出したのであ
る。
 本件協約三五条は、これ以前に存在した第一次協約に絶対的平和義務を規定して
いたので、右協約の失効後約一年間改訂闘争を続けた結果勝ち取つた条項で、いわ
ゆる相対的平和義務を定めたものにほかならない。仮に右条項が、無期限に一切の
争議行為を行わないとの絶対的平和義務を規定したものとすれば、かかる合意は憲
法二八条に違反して無効である。
二、同(二)の(1)ないし(6)の事実は、会社が昭和三九年一二月五日羽田プ
リンスホテル内ロビーにおいてチエツクイン業務を行つたことのみ認め、その余は
すべて否認する。(3)については、組合員であるc、d、eらが、デイスパツチ
事務所において四一時間の時限ストライキ中業務を行つていたので、同年一二月四
日組合員一〇数名が闘争経過を報告し、ストライキ参加を説得する目的でデイスパ
ツチ事務所に赴き、代表者数名が秩序正しく説得を行つていたとき、会社側がこれ
を室外に追い出し、翌五日は事務所内側から鍵をかけて組合員の入室を阻止し、組
合活動を妨害したものである。また、(4)については、会社が右時限ストライキ
中に国際航空輸送協定に違反して通常の通関をせずに荷物を搭載することに対して
組合員が抗議したに過ぎない。
三、(一) 同(三)の事実はすべて争う。組合は、昭和三九年一一月一六日以降
会社との間に上記要求事項について数次に亘つて団体交渉を行つたが会社側の態度
は、従業員にスペシヤルボーナスとして一律一万円を支払うが、これは恩恵的なも
のであり組合要求の繁忙手当として支払うものではないといい、次期協約案につい
ては、協約期間中争議行為を行わない旨の条項を入れることが必須条件であると
し、まだ賃上げ、期末手当については回答を示さず、組合の要求は全面的に無視さ
れた。しかも会社は、上記のとおり同年一二月一日の決起集会および同年同月四日
から六日までの四一時間スト終了後原告ら組合員が就労を申し入れているのに腕章
着用を理由としてこれを拒否し、他方では、本件ロツクアウトの期間中代置労働者
により繰業を継続するため、海外から出入国管理令に違反して呼び寄せた労務者を
就労せしめて業務を続行し、また、非組合員に対しては同年一二月二二日に年末手
当を支給しながら、組合に対しては、団体交渉の席上協約問題全般について妥結す
るまでは年末手当を支給しない、腕章をはずすまでロツクアウトは解除しないなど
と発言した。このように、本件ロツクアウトは、会社の存立をおびやかされる危険
性が毫も存在しないのにかかわらず、組合に対し次期労働協約案に絶対的平和義務
条項を入れさせる目的で強行された挑戦的、攻撃的な違法のものである。
(二) 被告の行う定期航空運送事業は、労調法八条所定の公益事業に該当する
が、被告は、同法三七条による争議予告手続を全くとることなく突如として本件ロ
ツクアウトを行ない、昭和三九年一二月一八日と二二日の二度に亘つて都労委から
労調法違反の疑があるので善処されたい旨の通告を受けたにもかかわらず、依然と
してこれを継続したものであつて、この点においても違法性を有するロツクアウト
である。
四、前記(イ)のロツクアウトは、単なる宣言にとどまり、組合員が職場に復帰し
た昭和三九年一二月一日午後九時以降会社はその就労を黙認したばかりでなく、業
務上の指示さえ与え、平常どおり勤務が行なわれたものであり、会社は就労の効果
を受領していたのであるから、会社には真に就労拒否の意思がなかつたとみるべき
である。しかもロツクアウトには事実上の閉出しを伴わなければならないから、前
記(イ)のロツクアウトについては、同月一日午後九時から組合が四一時間の時限
ストライキに入つた同月四日午後三時までの間は成立していなかつたものである。
(原告の主張に対する被告の反論)
一、会社が組合と昭和三九年一一月一六日以降数次に亘つて団体交渉を行つたこ
と、会社がロツクアウトの期間中海外より派遣をうけた自社の従業員と管理職員お
よび非組合員をもつて繰業を継続したことおよび会社が同年一二月二二日非組合員
に年末手当を支給したことは認めるが、その余はすべて争う。
二、(一) 被告が本件ロツクアウト実施について労調法三七条による争議予告手
続をとらなかつたこと、被告が昭和三九年一二月一八日と二八日に都労委から原告
主張のような通告を受けたことは認めるが、被告の事業が同法八条所定の公益事業
に該当することは否認する。すなわち、被告の取扱う航空便の利用客の大半は外国
人であつて、一般国民が日々の生活を営むために社会通念上必要不可欠と考えられ
る事業にあたらないし、被告は、航空法四条所定の法人であるため同法一〇条一項
五号により定期航空運送事業の免許を得ておらず、同法二条一八項にいう定期航空
運送事業ではないから、昭和三八年一〇月四日付労働事務次官通牒の趣旨によつて
も公益事業には該当しない。また昭和三七年七月一七日付で運輸省船員局長の発し
た海運業その他船員に関連する事業中の公益事業の指定において国際的な海上運送
事業が除外されていることと対比しても、被告会社のような国際的な運輸事業は公
益事業に該当しないことは明らかである。
(二) 仮に被告会社の事業が労調法八条の公益事業に該当するとしても、本件ロ
ツクアウトについては同法三七条の予告通知をする必要はない。すなわち、同法三
七条が争議予告義務を定めた趣旨は、公衆の日常生活上の不便を防止するためであ
るが、本件においては、前記組合の昭和三九年一一月一六日付都労委に対する争議
予告によつて、組合の通知した日から紛争解決にいたるまで会社の事業の運営が最
悪の場合は全面的に停止される可能性が既に公衆に了知されており、同法三七条の
趣旨は確保されているのであるから、組合の争議行為に従属し独立性のない本件ロ
ツクアウトについて予告通知の義務を負わすべきではない。
 さらに、本件のように協約上の絶対的平和義務に違反する争議行為の対抗手段と
して実施されたロツクアウトについてまで予告義務を負わせることは、被告自らも
また平和義務を無視することを強いる結果になるから、この点からしても予告通知
の必要はないというべきである。
(三) 仮に本件ロツクアウトが労調法三七条に違反するとしても、上述のとおり
同条の定める予告制度の趣旨はもつぱら公益の保護にあるのであるから、同条違反
のロツクアウトであるとの一事によつては対組合関係において違法性を帯びるもの
ではない。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一、当事者間に争いのない事実
(一) 被告は、航空運送事業を目的とする国際的航空会社であり、日本において
は東京都千代田区<以下略>に営業所を設け、羽田空港を使用し、また渋谷にもス
タツフハウス(職員宿泊所)を設けて事業を行つている。
 原告および別紙(一)選定者目録記載の選定者は、被告会社の従業員であり、ノ
ースウエスト航空会社日本支社従業員労働組合の組合員である。
(二) 被告は、
(イ) 昭和三九年一二月一日午後八時、空港旅客課および整備課(ただしメカニ
ツク職員を除く)所属の選定者(別紙(二)賃金明細表記載1ないし23、38、
62ないし101、116ないし119の者)に対し、
(ロ) 同月五日午前六時、倉庫、機内食、貨物の各課所属の選定者(同表記載2
4ないし37、39ないし61、120ないし140の者)に対し、
(ハ) 同月六日午前八時四五分、営業所(当時は千代田区<以下略>)所属の選
定者(同表記載141ないし176の者)に対し、
(ニ) 同日午前一〇時一〇分、スタツフハウス所属の選定者(同表記載177な
いし192の者)に対し、
(ホ) 同月一六日午後四時三〇分、整備課のメカニツク所属の選定者(同表記載
102ないし115の者)に対し、
それぞれ無期限ロツクアウトを宣言し、昭和四〇年一月六日組合と会社間において
成立した協定により同月七日解除するまで右ロツクアウトを継続した。
二、原告は、本件ロツクアウトの期間中、原告らは被告に対し、債務の本旨に従つ
た労務の提供をしたにもかかわらず、被告はその受領を拒否したと主張するので判
断する。
 成立に争いのない甲第一八号証、同第二一号証、同第二八号証、同第三〇号証、
同第三三号証、同第三七ないし第四一号証、同第四四号証、乙第二号証、原告本人
尋問の結果により成立を認める甲第一号証、証人f、同a、同g、同h、同i、同
j、同k、同lの各証言(ただし、証人j、同k、同lの各証言中後記信用しない
部分を除く)、原告本人尋問の結果および本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、次
の諸事実が認められる。
(一) 組合は、昭和三九年一〇月七日、当時組合と会社間に存在した労働協約三
七条の規定にもとづき、会社に対し同年一二月一五日の有効期限をもつて右協約を
終止し、新協約締結のための団体交渉を開始したい旨を通告し、同年一一月一六日
から会社との間で、昭和三九年度賃上げ(一律八〇〇〇円)、期末手当(同年冬期
一・五ケ月プラス二万円昭和四〇年夏期一ケ月プラス二万円)、グレード調整など
の要求事項について四回に亘つて団体交渉を続けていたが、新協約にいわゆる絶対
的平和義務条項を明記するか否かをめぐつて双方の議論が紛糾し、会社側において
同年一二月一日頃までに組合の要求に対する具体的な回答を提示すると述べていた
にもかかわらず、この約束が履行されないまま会社側の最高責任者である東洋支社
長mが旅行に出かけたことから、組合は、会社の態度に誠意が認められないとし
て、かねて同年一一月二八日頃の闘争委員会で予定したとおり、同年一二月一日午
後五時より午後九時までの四時間の決起集会を実施することを決め、当日事前に会
社に対してその旨を通告したうえ、空港内貨物課倉庫前において、一部メカニツク
所属の者を除く組合員全員参加のもとに右決起集会を行つた(右のうち決起集会の
事実は当事者間に争いがない。)。
 この集会が実際に開催された時間は午後六時項から八時頃までの約二時間であつ
たが、被告会社の勤務は三交替制になつていて、原則として午前八時から午後四時
までのデイ・シフト、午後四時から午後一〇時までのスウイング・シフト、午後一
〇時から午前八時までのナイト・シフトに分れており、スウイング・シフトに当つ
ている者については職場を離脱しなければならない関係上、有楽町<以下略>の営
業所あるいは渋谷のスタツフハウスに勤務する組合員が集会に参加するため空港と
の間を往復する時間を見込んで五時から九時までの四時間と定めたものであつた。
 参加組合員は、右集会において、組合員相互の団結、連帯を強化し、あわせて会
社側の態度に抗議する趣旨で全員腕章を着用して就労することを決議し、予定どお
り決起集会が終了した後直ちにそれぞれの職場に復帰し、赤地に白く組合名と「団
結」または「要求貫徹」などの文字を染め抜いた腕章を着用して平常の勤務につこ
うとした。すなわち、整備課は、飛行機の点検整備および修理、作業車その他地上
施設の整備修理、貨物および機内食の積み降ろし、汚物処理などをその職務内容と
するが、同課に所属する組合員で勤務に当つていた者は、集会終了後直ちに作業服
に着替えたうえ空港ランプへ出て就労を申し入れ、また、旅客課は、空港における
乗客の出発と到着に関する事務(塔乗券の発行、出人国のための必要書類や荷物の
重量の検査、税関および出入国管理手続の処理、乗降客の誘導など。)の取扱をそ
の職務の内容としていたが、同課に所属する組合員で勤務に当つていた者も集会終
了後直ちに職場へ赴いて就労を申し入れた。ところが、その時会社は、既に前記
(イ)のとおり右両職場についてロツクアウトを宣言し、その旨を記載した掲示の
紙片を張り出すとともにタイムカードを引き揚げており、就労に赴いた組合員が全
員前記のような形態の腕章を着用していたところから、会社側管理職員は腕章を着
用して就労しても賃金を支払わない旨を口頭で通告した。もつとも、会社側は敢え
て実力をもつて組合員を排除するまでの態度には出なかつたため、組合員は職場に
入つて事実上労務に従事し、たまたま仕事が忙しいときには管理職員の方でも就労
している組合員に対して業務上の指示を与えたりしたこともあつたが、後記四一時
間ストライキの後は職場の出入口は完全に施錠されて組合員の立入りは不可能とな
り、その状態は昭和四〇年一月七日にロツクアウトが解除されるまで続いた。
 なお、右ロツクアウトが行なわれた旅客課、整備課以外の職場では、組合員は、
決起集会終了後、腕章を着用してはいたけれども何ら業務妨害行為に出ることなく
作業につき、その就労の過程において労働契約上要求される誠実義務ないし善良な
管理者の注意義務に違反するような所業が行なわれた事実はなかつた。
(二) 同年一二月四日の第五回団体交渉において、会社は組合の要求に対する最
初の具体的回答を提示したが、その内容は、賃上げ一律一、二七五円、期末手当昭
和三九年冬一・二五ケ月、昭和四〇年夏〇・七五ケ月という組合側要求をはるかに
下回るもので、組合は右回答に強い不満をいだき、同月一日か二日の闘争委員会に
おいて意思統一したところに従つて、整備課のメカニツク議員を除く全組合員につ
いて同月四日午後三時から同月六日午前八時まで四一時間の時限ストライキを行う
ことを決定し、会社に対して直前にその旨を通告したうえこれを実施した(右のう
ち時限ストの事実は当事者間に争いがない。)。そして、組合は、予定どおり同月
六日午前八時をもつて時限ストライキを終了し、参加組合員で勤務に当つていた者
は、前同様全員腕章を着用したままではあつたけれども直ちに各自の職場に赴いて
平穏に就労を申し入れた。ところが、会社は、当時既に倉庫(航空機部品の補給、
旅客の必要品の管理保管などを業務内容とする。)、機内食、貨物の各課について
は前記(ロ)のロツクアウトを行つていて、それらの職場の出入口は完全に施錠さ
れており、組合員は立入りを阻止され就労することができず、この状態は右ロツク
アウトが解除されるまで継続した。
(三) 時限ストライキが終了した一二月六日は日曜日で、日活会館ビル内の営業
所(航空券の発売および予約を取扱う。)は表シヤツターを降ろしていたので午前
中勤務の組合員四名が同日午前八時頃腕章を着用して裏口から出勤したところ、会
社側は、腕章を着用したままの就労は認めないとの態度を示し、組合員がなおも組
合の方針に従つて腕章着用のまま勤務につこうとすると、組合員を室外に退去させ
て扉に施錠するとともにロツクアウトの告示を張り出し、前記(ハ)のロツクアウ
トを開始した。そして、会社は同日以降表シヤツターを開けなかつたので、翌七日
出勤した組合員は全員営業所内に立入ることができず、その場にいる管理職員に就
労を申し入れても拒否され、このような状態は右ロツクアウトが解除されるまで続
いた。
(四) スタツフハウス(被告会社従業員の宿泊施設)においても、同所勤務の組
合員は、時限ストライキの終了する一二月六日午前八時前頃スタツフハウスの門前
に集合し、ストライキ終了と同時に就労を申し入れた。ところが、右組合員全員が
腕章を着用していたので、会社側の責任者nから腕章を取つて就労するよう、もし
取らないのならば退去してほしい旨要求があり、組合員がこれに応じなかつたとこ
ろ前記(二)のロツクアウトを行い、組合員の就労を拒否するにいたり、この状態
は右ロツクアウトが解除されるまで続いた。
(五) メカニツク所属の組合員は、前記決起集会および時限ストライキには参加
しなかつたものの同年一二月八日以降同月一五日までは全員休暇を申し出て会社の
承認を受け勤務についていなかつた。そして、休暇明けの同月一六日午前中、組合
員のうちd、oの両名が腕章を着用して出勤したところ、外国人従業員の一人
(p)から腕章を着用することは許されないと職場への立入りを拒否され、間もな
く会社は前記(ホ)のロツクアウトを行い、爾来ロツクアウト解除にいたるまで組
合員の就労申入れを拒否した。
(六) 会社は、同年一二月二日、組合に対し文書をもつて腕章等を取りはずすよ
う要求し、その後の団体交渉の席上または組合役員との折衝の機会あるごとに組合
側から就労させるよう要求しても、腕章を着用している限り就労は認められないと
の態度で終始し、前記mが、同年一二月三一日の第一五回団体交渉の席上、組合員
は腹が減つて来れば自然赤い腕章を喰べることになる、との趣旨の発言をしたこと
もあつた。
 以上の事実が認められ、証人gの供述中一二月六日スタツフハウスの組合員中若
干名が鉢巻をつけて就労したのではないかとの疑を懐かしめるような部分は、同証
人のその余の供述並びに同所の会社側責任者nが組合員の就労を拒絶する理由とし
て、腕章を着用していることをあげ、鉢巻について何らふれていない事実に照らし
措信し難く、甲第三三号証、乙第一九号証も右認定の妨げとならず、さらに、証人
j、同k、同lの各証言中右認定に反する部分は前掲の各証拠に照らしてたやすく
信用し難く、他に右認定を覆し得る証拠はない。
 右認定の事実によると、原告ら組合員は、腕章を着用していた点を除けば、いず
れも本件ロツクアウト後各自の職場に赴き、就労の意思をもつて現実に就労の申入
れをなし、労務の提供を行つたものというべきである。しかして、右就労申入れの
際組合員が腕章を着用し、会社の取りはずし要求に応じなかつたとしても、腕章の
着用が、客観的にみて会社の業務の運営に実質的、具体的な支障を及ぼし、労働者
の労務給付義務と両立し得ないような特段の事情が認められない限り、腕章の着用
の一事をもつて右就労申入れが債務の本旨に従わない履行の提供となるものではな
いと解するを相当とする。本件において、整備(メカニツクを含む)、倉庫、機内
食、貨物の各課およびスタツフハウスは、その職務の性質上飛行機の一般乗客と直
接関係をもたない職場であつて、保安衛生や安全保持の見地からしても腕章の着用
が何らかの障害を惹起するものとは到底考えられないし、また、旅客課および営業
所は不特定多数の乗客と接触をもつ職場ではあるけれども、その従業員が前認定の
ような形態の腕章を着用していることのみによって、一般乗客が被告会社の運航す
る飛行機の安全性、確実性に対する信頼を喪失し、会社の営業を阻害するものと即
断することはできず(現に、上記のとおり会社の管理職員自ら一二月一日の決起集
会後腕章を着用したまま就労している組合員に対して業務上の指示を与えているく
らいであり、その後も従業員の腕章着用を理由として航空券の予約が取り消される
とかその他乗客から苦情が持ち込まれるなど会社の信用失墜を裏付けるような資料
はない。)、会社の組合員に対する腕章の取りはずし要求が、単に不体裁、不愉快
であることを理由とする使用者側の感情的な反撥という以上に上記特段の事情を認
めさせるに足りる的確な証拠は存在しない。
 そうすると、原告らは、いずれも本件ロツクアウトの期間中、被告に対し債務の
本旨に従つた労務の提供をしたにもかかわらず、被告はその受領を拒否したものと
認めるのを相当とする。
三、被告は、本件ロツクアウトは組合の違法争議行為に対抗して計画的運航を確保
するため緊急の措置として実施された正当なものであるから、これによって原告ら
の就労を拒否した結果履行不能を生じたとしても、債権者たる被告の責に帰すべか
らざる事由による履行不能として賃金支払義務を免責されるべきである、と主張す
るので判断する。
 労働者が使用者に対し、労働契約の本旨に従つた労務の提供をしたのにかかわら
ず、使用者がその受領を拒否した場合は、受領遅滞があればその期間の労務給付の
履行が客観的に不能となる労働契約の特殊性に鑑み、労務給付義務の履行不能にと
もなう危険負担の問題として民法五三六条の規定によって反対給付である賃金支払
義務の有無を決すべきものであり、債権者たる使用者は、右履行不能について帰責
事由がないと認められる場合に限り、同条一項の規定により賃金債務を免責される
ことになると解するを相当とする。しかして、同条にいう債権者の帰責事由とは、
一般には債権者の側におけるある容態(作為または不作為)が債務者の履行の実現
を妨げ、しかも債権者がその容態を避止しなかつたことが信義誠実の観念に反する
かもしくは社会的に非難される場合を指称するものというべきであつて、使用者の
労務受領拒否がロツクアウトにもとづく場合でも、基本的には右と理を異にする根
拠を見出し得ない。しかしながら、使用者は、労働者の有する団体行動(争議)権
と同質ないし同等の立場でロツクアウトを行う権利を法律上保障されているわけで
はないけれども、集団的労働関係における労働条件決定の手段としてロツクアウト
という対抗行為を行う余地を法的に承認する以上一定の要件を具備するロツクアウ
トが行なわれた事実は、前記の意味での使用者に帰責事由がないと認められる場合
に該当し、使用者はそのロツクアウト期間中の賃金支払義務を免責されると解すべ
きである。ところで、ロツクアウトに右のような法的効果を賦与する要件として
は、必ずしも市民法上の緊急避難またはこれに類する止むを得ない事由がある場合
に限らず、労働者の争議行為によつて蒙る使用者の損害(無益な賃金負担)が客観
的にみてその受認すべき限度をこえ、ロツクアウト(その開始および継続を含む)
に出なければならない具体的な危険性ないし緊急性が存在することをもつて必要か
つ十分であると解するのが相当である。
 そこで、被告が本件ロツクアウトの正当事由として主張するところが、上記の意
味で賃金債務を免責させるべき要件に該当するものであるか否かについて検討す
る。
(一) 被告は、組合の争議行為が労働協約の平和義務条項に違反することを理由
に本件ロツクアウトの正当性を主張する。
 組合が昭和三九年一二月一日午後五時から九時までの決起集会および同月四日午
後三時から同月六日午前八時までの時限ストライキを行つたことは上記のとおりで
あり、右一般組合員の争議行為とは別に、組合三役である原告(旅客)、a(整
備)、b(営業)の三名が同年一二月二日から無期限指名ストライキに入り、同月
二六日までこれを実施したことは当事者間に争いがないところである。
 しかしながら、前記決起集会および時限ストライキが予定どおり終了した後、本
件ロツクアウトの対象とされた原告ら組合員がそれぞれ債務の本旨に従つた労務の
提供をなしたものであることも既にみたとおりであり、右決起集会または時限スト
ライキの終了が単なる一時的な争議戦術の転換に過ぎず、ストライキがなお反覆累
行される具体的な危険性があつたことを認め得る確証は存在しない(証人jの証言
によつては未だ右事実を認めるに足りない。)。もつとも、組合が同年一一月一六
日都労委および都知事に対し、事件の解決にいたるまでの間、組合員が従事する被
告会社日本支社内の全職場において、あらゆる形の争議行為を実施するとの争議予
告を行つていたことは当事者間に争いがなく、前掲甲第一号証および証人hの証言
ならびに原告本人尋問の結果によると、就労申入れ当時組合の要求事項は未解決の
ままであつたことが認められるけれども、上記決起集会および時限ストライキが行
なわれた経過に照らせば、これらがあらかじめ計画されたいわゆる波状ストライキ
の一環としてなされたものとは到底認められないから、既に組合としてストライキ
態勢を解いている以上、前記争議予告の事実をもつてしては叙上認定を左右するに
足りない。
 また、組合三役の指名ストライキについては、原告本人尋問の結果によると、会
社と組合との間に専従休暇に関する協定がなく、団体交渉出席のためには会社から
合計三〇〇時間の有給休暇を保障されていたけれども、それ以外の闘争中の組合業
務あるいは関係官庁や支援団体との対外的な連絡業務などを処理する必要上、委員
長、副委員長、書記長の組合三役をこれに従事させるために指名ストライキを行つ
たのであつて、関連職場の機能を麻痺させるとか、会社に特別の損害を与えること
を目的としたわけではなく現実にもそのような結果を生じたものではなく、会社と
の団体交渉が膠着状態となつて闘争中の組合業務が少なくなつた同月二七日には指
名ストを解除していることが認められる。
 右認定のように、組合が既にストライキ態勢を解き、原告ら組合員が確実に就労
する意思をもつて就労を申し入れ、しかも、その就労が前段認定のように客観的に
債務の本旨に従つた労務の給付といえる状況のもとにおいては、最早被告のいう飛
行機の計画的運航を阻害する要因は解消したものと認められ、会社は少なくともこ
の段階において上記の意味における賃金債務の免責を受けるべきロツクアウトを行
う根拠を失つたものといわざるを得ないのであつて、この場合、組合のさきになし
た争議行為が平和義務(いわゆる絶対的平和義務または相対的平和義務のいずれに
せよ)に違反するものであつたか否かによつて右の結論を異にするものではないと
解するを相当とするから、被告の本主張は、その余の点について判断するまでもな
く採用することができない。
(二) 被告は、組合の争議手段の違法を理由に本件ロツクアウトの正当性を主張
する。
 まず被告の主張(1)については、証人kの証言により成立を認める乙第二一、
第二二号証、および同証人の証言によると、昭和三九年一二月一日夜エアスタータ
ーが一時紛失したこと、同月四日午後五時三〇分頃、貨物課所属の従業員であるq
が機内食運搬車の運転席に坐つていたことがあり、その後右運搬車の鍵穴に土やマ
ツチ棒がつめ込まれているのが発見された事実はこれを認めることができるけれど
も、本件の全証拠によつても、未だこれらが組合員の犯行であること、もしくは組
合が右のような企業施設の破壊活動を本件争議の闘争方針として採用していたこと
を確認することはできない。
 次に被告の主張(2)については、証人a、同lの各証言および原告本人尋問の
結果(いずれもその一部)を総合すると、前記時限ストライキ開始後の同年一二月
四日夕方、空港ビル内の旅客課カウンター前において、組合員数一〇名が参加して
約二時間に亘る集会を行い、委員長である原告が二階出国ロビーへ通ずる階段の中
央附近でラウドスピーカーを用いて団体交渉の経過報告とともにストライキ中の組
合員の団結を鼓舞する趣旨の演説をしたり、支援団体からの激励を受けたりし、そ
のため乗客の通行がある程度妨げられた事実が認められ、同(3)については、証
人i、同rの各証言および原告本人尋問の結果(いずれもその一部)を総合する
と、前記時限ストライキ開始当時デイスパツチ(運行管制)事務室にはcおよびd
の二名の組合員が勤務していたが、両名とも他の職場から同事務室に配転になつて
間がなく、周囲の大多数が組合に加入していなかつたこともあつて仕事を続けてい
たので、組合の職場委員であるsが昭和三九年一二月五日午後一時頃同事務室に赴
いて右組合員両名に対し時限ストライキに参加するよう説得していたところ、同事
務室の責任者である運航管制主任rから勤務時間中入室してはならないと退去を要
求されたこと、そこで、これに憤慨した組合員が大挙して同事務室に押しかけ、同
事務室入口においてrその他の管理職員との間に入室をめぐつて押問答を続け、そ
の間室内から締めようとしている扉を組合員らが押し開けようとして揉み合つたこ
ともあつたが、内部より施錠されて遂に入室できなかつたため、同事務室前廊下に
おいて約二時間半に亘り、抗議の意味で労働歌を高唱したり、同事務室の外壁や扉
を手で叩いたりしたこと、その間デイスパツチ事務室における航空機との通信連絡
業務が騒音のため中断されたこと、の諸事実が認められ、同(4)については、成
立に争いのない乙第一九号証、証人a、同lの各証言および原告本人尋問の結果
(いずれもその一部)を総合すると、会社が一二月五日午後五時羽田プリンスホテ
ル内ロビーにおいて第六便の乗客七二名のチエツクイン業務を開始したところ(こ
の事実は当事者間に争いがない)、腕章や鉢巻を着用した数十名の組合員がロビー
に入つて来て、チエツクイン業務に従事している会社側管理職員に対し、このよう
な場所で通常の通関をせずに荷物を搭載することはIATA(国際航空運行協会の
協定)違反である旨を口々に激しく抗議し、そのためロビー内は騒然たる状態にな
つた事実はこれを認めることができる。
 右認定の事実によると、時限ストライキ実施の過程において組合員のとつた行動
の中にはやや行き過ぎと見られるものもないではないが、これらがいずれも時限ス
トライキの期間中にこれに付随して発生した出来事であることも明らかなところで
あり、右ストライキと無関係のものではなかつたのであるから、上記のとおり、組
合が予定どおり時限ストライキの終了後ストライキ態勢を解いて、原告ら組合員の
就労が確実に実現される情勢に立ち至つた以上、再び反覆される虞のない筈のもの
であり、会社がストライキ期間中に違法行為があつたことを理由に組合または組合
員に対して民事上、刑事上の責任を追及することは格別として、そのことの故にス
トライキ終了後もロツクアウトを実施(継続または開始)して労務の受領を拒否し
ても、上記債権者に帰責事由がない場合には当らないと認めるのを相当とする。
 次に、被告の主張(5)については、証人kの証言によつては未だその主張事実
を確認するに足りず、他に右主張事実を認め得る証拠はない。
 さらに、被告の主張(6)については、成立に争いのない甲第二〇号証の二、証
人kの証言により成立を認める甲第二〇号証の一および同証人の証言によると、被
告会社の整備課所属従業員であるtが昭和三九年一二月一日午後九時頃給水車を無
断運転した事実はこれを認めることができるけれども、右tの所為が、組合の統制
の下にその組織的活動の一環として行なわれたものであることを認め得る資料はな
にも存在しないのであるから、右認定の事実をもつてしては組合の争議行為自体が
その手段において違法性を帯びるものということはできない。
 そうすると被告の本主張は理由がなく、被告は原告らに対し本件ロツクアウトに
よりカツトした賃金の支払義務を免責されないものといわなければならない。
四、被告会社においては、原告らに対する賃金を毎月一〇日に前月一日から月末ま
での一ケ月分を支払う定めになつていること、および原告らの一ケ月賃金(基本月
給)額が別紙(二)賃金明細表の一ケ月賃金欄記載のとおりであることは当事者間
に争いがない。また、原告らの賃金カツトの対象とされた労働時間については、同
表賃金カツト時間(被告認否)欄記載の限度においては当事者間に争いがないが、
右の限度を超える原告主張時間を認めるべき証拠はない。
 ところで、原告は本件ロツクアウトによりカツトされた賃金額は労働協約一七条
D項によつて算出される各人の基準時給を基礎として算出すべきであると主張し、
被告は、従業員の不就労一時間当りの控除すべき賃金額の算出方法については、不
就労のあつた月に就労すべく予定された時間数でその従業員の基本月給を除した額
を基本時給とするとの慣行があると抗争するので検討する。
 成立に争いのない乙第二号証によると、組合と会社間に昭和三八年一〇月一日締
結された有効期間を昭和三九年一二月一五日までとする労働協約には、その一七条
D項に「超過勤務、夜勤手当および累積有給休暇に対する支払計算のため基本月給
に一七三・三分の一を乗じた積、またスタツフハウス従業員の場合二〇八分の一を
乗した積を基準時給と定める。」旨の規定があるが(この点は当事者間に争いがな
い。)、不就労の場合の賃金控除については明確な定めのないことが認められる。
しかしながら、成立に争いのない乙第四七号証の二により成立を認める同号証の一
によっては、未だ被告主張のような慣行の存在を肯認することができず、かえつ
て、原告本人尋問の結果により成立を認める甲第六四号証および右本人尋問の結果
によると、被告会社は、病気により有給欠勤を許可された者に対する欠勤期間の賃
金計算について、労働協約や就業規則上何らの規定がないにもかかわらず、本件協
約第一七条D項を準用して基本時給を算出する取扱いをしていることが認められ
る。そうすると、他に依拠すべき明確な基準がない以上、会社と各従業員との間に
おいて一時間当りの賃金額が問題となる場合、右協約条項によって算出される基準
時給によることが労働契約の内容とせられていたものと認めるのが相当である。し
かして、本件協約は、上記のとおり昭和三九年一二月一五日の経過とともに有効期
間の満了によつて失効しているけれども、これによつて右会社と各従業員間の労働
契約の内容が当然に変更されるわけではなく、継続的法律関係としての労働契約の
性質上なおその内容を持続するものと解すべきであるから、原告らのカツト賃金額
の算定に当つては、右一七条D項に則つて算出した基準時給を基礎とする計算方法
によるのが相当であり、右計算方法によれば、原告らが支払を受けるべき未払賃金
額が別紙(二)賃金明細表の未払賃金(認定額)欄記載のとおりであることは計算
上明らかである。
五、以上の次第で、原告の本訴請求は右認定の限度(弁済期後の昭和四〇年二月一
一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を含む。)では理由
があるからこれを認容すべきであるが、右認定の限度を超える部分は失当として棄
却を免れない。
 よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、仮執行の宣言につき同法一九
六条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 西山要 島田禮介 瀬戸正義)
(別紙(一)、(二)省略)

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