弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一月および罰金一、〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。
     原審および当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴趣意は弁護人川原悟名義の控訴趣意書記載と同じであるから、これを引
用する。
 職権をもつて調査するに、原判決は罪となるべき事実として原判示の如き賦物故
買の事実を認定し、次にこれに対する証拠の標目として原判示の証拠を挙示した後
「前科」という標題のもとに、(一)昭和三十三年七月七日会津若松簡易裁判所で
賍物運搬罪により懲役四月及び罰金千円に処せられ当時右刑の執行を終わる(二)
同三十六年四月十日会津若松簡易裁判所で賍物故買罪により懲役八月及び罰金千円
に処せられ当時右刑の執行を終わると判示し、これを証拠により認めた理由はなん
ら示していない。原判決が掲げた右二ケの前科とするもののうち、(二)について
は本件の犯罪日時が昭和三三年一二月二九日であることおよび法令の適用のところ
で刑法四五条後段(前示(二)の前科と併合罪)と判示しているところがらして、
同条にいう確定裁判を経た罪と表示すべきであつて、これを前科と表示したことは
誤りであると思われるので、この点はしばらくおき、(一)の前科が累<要旨>犯に
かかる前科であることは判文上明らかである。そこで、かような累犯加重の事由と
なる前科についてこれを認めた証拠を全く挙示していない原判決の理由の当
否について按ずるに、累犯加重の事由となる前科は、刑訴法三三五条一項にいわゆ
る罪となるべき事実ではないが、かかる前科の事実は、刑の法定加重の理由となる
事実であつて、実質において犯罪構成事実に準ずるものであるから、これを認定す
るには、証拠によらなければならないことはもちろん、これが証拠書類は刑訴法三
〇五条による適法な証拠調をなすことを要するものと解すべき趣旨(最高裁判所昭
和三二年(あ)第一〇二九号同三三年二月二六日大法廷決定、最高裁判所刑事判例
集一二巻二号三一六頁参照)にかんがみ、判決の理由においてこれを認定した証拠
の挙示を必要とするものと解するのを正当とする(これに反する最高裁判所昭和二
三年三月三〇日判決、同昭和二四年五月一八日判決はいずれも旧刑訴法の解釈に関
するものであつて、新刑訴法に関する前記最高裁判所大法廷の判例があらわれた今
日においては、もはや維持さるべきではない)。そうすると、原判決にはこの点に
おいて判決に理由を附さない違法があることになり、原判決は破棄を免れない。
 なお、原判決は、累犯にかかる前科として、右(一)の前科のみを掲げている
が、被告人に対する前科調書と電照のAの刑執行状況回答と題する書面によると、
被告人には、このほかにも、(1)昭和二四年七月八日福島地方裁判所若松支部で
強盗贈物運搬罪により懲役六年及び罰金五千円に処せられ(昭和二七年四月二八日
減刑令により懲役四年六月に減軽同二八年五月二六日仮出獄)、(2)昭和二九年
一一月一五日若松簡易裁判所で窃盗罪により懲役四月未決勾留日数中一五日算入に
処せられ、いずれも当時その刑の執行を受け終つたものであり、この(1)(2)
の前科も本件犯罪との関係では累犯加重の事由となることが明らかであり、この点
においてもこれを看過した原判決は違法たるを免れないが、この違法は結局におい
て判決に影響を及ぼさないので、この点は破棄の事由とはしない。
 次に、原判決は、法令の適用と題して、「刑法第二五六条第二項、第五六条第一
項、第五七条、第四五条後段(前示(二)の前科と併合罪)、第五〇条、第四七
条、第一〇条、第一四条、第一八条、罰金等臨時措置法第二条、第三条、刑事訴訟
法第一八一条第一項」と判示し、いわゆる法条を羅列しているにすぎない。ところ
で、この点につき、原判決には次の違法ないし不正確な点がある。
 (一) 前記のように、原判決は累犯にかかる前科を看過した結果、刑法五九条
の適用を遺脱している。
 (二) 罰金等臨時措置法二条、三条は刑法二五六条二項の直ぐ次に掲げるべき
であり、これを刑法一八条の次に掲げたのは順序配列を誤つている。
 (三) 前示(二)の前科と併合罪と説明を付して刑法四五条後段五〇条を掲げ
たほかに、刑法四七条一〇条一四条を適示しているが(前示(二)の前科という表
示は確定裁判を経た罪の意味に理解すべきであることは前段説明のとおり)、原判
決が罪となるべき事実として認めた事実は、昭和三三年一二月二九日の賦物故買の
事実が一ケあるのみである。原判決も刑法四五条前段は適用していないのであるか
ら、その点は一ケと考えたものとみられるが、これに同法四七条一〇条を適用し同
法一四条の制限内で併合加重をした原判決はいかなる意図のもとに出たものかを理
解することはできない。刑法四五条後段が「或罪ニ付キ確定裁判アリタルトキハ止
タ其罪ト其裁判確定前ニ犯シタル罪トヲ併合罪トス」と規定したのは、その前段が
「確定裁判ヲ経サル数罪ヲ併合罪トス」と規定したのを受けて、併合罪となるのは
確定裁判を経た罪とその裁判確定前に犯した罪とが併合罪となり、その後に犯した
罪とは併合罪にならない趣旨を規定したものであるから、かような場合には刑法五
〇条により未だ裁判を経ない罪だけが改めて審判され、確定裁判を経た罪について
更に審判するものではない。ただその場合に確定裁判前に犯した罪が数ケあつて同
時に審判すべき場合には、刑法四五条前段をも適用して併合罪加重を行なうべきで
あるが(最高裁判所昭和三三年(あ)第二二二六号同三四年二月九日第二小法廷決
定および最高裁判所昭和二四年(れ)第一四〇四号同二五年三月一五日大法廷判決
各参照)、本件のように一ケの罪にすぎない場合に前示の如く刑法四七条を適用し
て併合罪の加重をした原判決の意図は明確ではないが、もし既に確定裁判を経た罪
との関係で審判したものであるとすれば、重大な過誤をおかしたものであり、どの
罪を重しとして併合罪の加重をしたのかも明らかでなく、いずれにせよ原判決は法
令の解釈適用を誤つた結果判決に理由を附さないかもしくは理由にくいちがいがあ
るものと認めなければならない。
 (四) 原判決は主文第三項において被害者還付の言渡をしているが、法令の適
用のところでは、なんらその該当法条を示していない。この点は、主文自体からし
てその適用法条は明らかであるから、必ずしも理由不備の違法があるとまで断じな
くてもよいとも思われるが、この点においてもづさんのそしケを免れない(なお、
記録によれば、本件の銅条二巻(原審証第二、三号)はこれを被害者に還付すべき
理由が明白であるとは認め難い)。
 刑訴法三三五条一項に法令の適用を示すというのは、罪となるべき事実にいかな
る刑罰法条を適用して処断したかを明らかにすべきことを意味するものであり、し
たがつて、本来は実務において多く行なわれているように文章体をもつて説明すべ
きであり、ただその記載順序配列などから推してどの法令を適用して主文の判断を
するに至つたかがわかる場合には、法条の羅列も違法ではないと解してよいのであ
るが(最高裁判所昭和二八年(あ)第二七三三号同年一二月一五日第三小法廷判決
参照)、本件において以上に指摘したように、その記載順序配列においても不正確
であり、なかでも刑の加重事由となる法令の適用について解釈適用を誤り判決の理
由不備もしくは理由のくいちがいの違法があるものと認められ、かつ付随的裁判に
ついてではあるが主文掲記の被害者還付の言渡の根拠法条を遺脱するなどその論理
的思考過程においてづさんのそしりを免れずその結果いかなる順序方法によつて法
令を適用し主文の判断をするに至つたかを知ることができないような場合には、も
はやかかる法条の羅列によつては刑訴法三三五条一項所定の法令の適用を示したも
のということはできないものと解すべきである。原判決は、この点においても判決
に理由を附さないか、理由にくいちがいがある違法があり、破棄を免れない。
 よつて、刑訴法三九二条二項三九七条一項三七八条四号により原判決を破棄し、
控訴趣意(量刑不当)に対する判断を省略し、同法四〇〇条但書により当裁判所に
おいて更に次のとおり判決する。
 原判決中「前科」と題する部分を全部削り、これにかわり、次のものを加える。
 一、 累犯にかかる前科
 被告人は
 (一) 昭和二四年七月八日福島地方裁判所若松支部で強盗賍物運搬罪により懲
役六年及び罰金五千円に処せられ(同月二三日確定、昭和二七年四月二八日減刑令
により懲役四年六月に減軽、昭和二八年五月二六日仮出獄、昭和二九年一月七日刑
終了)
 (二) 昭和二九年一一月一五日若松簡易裁判所で窃盗罪により懲役四月未決勾
留日数中一五日算入に処せられ(同月三〇日確定昭和三〇年二月二七日刑終了)
 (三) 昭和三三年七月七日会津若松簡易裁判所で賍物運搬罪により懲役四月及
び罰金千円に処せられ(同月一五日確定昭和三三年一一月一二日刑終了)
 当時それぞれ右懲役刑の執行を受け終つたものて右は被告人に対する前科調書と
電照のAの刑執行状況回答と題する書面の記載によりこれを認める。
 一、 確定裁判を経た罪
 被告人は昭和三六年四月一〇日会津若松簡易裁判所で賦物故買罪により懲役八月
及び罰金千円に処せられ右裁判は同月二五日確定したものであつて、右は被告人に
対する前科調書とこの事件に関する判決謄本の記載によりこれを認める。
 原判決の確定した事実を法律に照らすと、被告人の原判示の所為は刑法二五六条
二項罰金等臨時措置法二条三条に当るところ、被告人には前記前科があるので刑法
五六条一項五七条五九条により懲役刑につき累犯の加重をし、なお前記確定裁判を
経た罪と本件とは同法四五条後段の併合罪であるから同法五〇条により未だ裁判を
経ない本件の罪について処断すべきであるところ、本件は前記確定裁判を経た罪の
前である昭和三三年一二月二九日に行なわれた古い犯行であつて右確定裁判を経た
罪の余罪であるところ、本件の起訴は右確定裁判を経た罪の刑の執行も終つた後の
昭和三九年五月六日に至り、ようやく行なわれたものであることその他被告人の現
在の家庭事情、年齢、生活状況等を総合考慮し、前述の刑期および金額の範囲内で
被告人を懲役一月および罰金一、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができな
いときは同法一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置
すべく、原審および当審における訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文を適
用しその全部を被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 斎藤寿郎 判事 小嶋弥作 判事 杉本正雄)
 (弁護人川原悟の控訴趣意は省略する。)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛